7月13日、性犯罪を厳罰化する改正刑法が110年ぶりに施行された。それまで「強姦罪」の名称だったものが「強制性交等罪」に変更、被害者の告訴が必要な「親告罪」の規定が撤廃された。法律が変わることは大きな一歩のように思えるが、実際の現場ではどうなのだろうか? 『あさイチ』(NHK)の性暴力特集に出演した、NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMIの代表で弁護士の望月晶子さんに、性被害の現状について聞いた。
■ワンストップセンターは、警察に出向かなくても支援が受けられる
――先日、望月さんがNHKの『あさイチ』に出演された際、視聴者から「なぜ死ぬ気で逃げなかったんだ」「本気で逃げようと思えば逃げられるはず」といった性暴力の被害者を責めるような意見のメールも届いていました。なぜ、被害者が責められる傾向にあるのでしょうか?
望月晶子さん(以下、望月) 「必死で抵抗して貞操を守るもの」といった昔の考えがあるからだと思います。また、「狙われるのは若い女性だけ」「露出の多い格好をしているから狙われる」などと思われがちですが、実際、加害者は警察に訴えそうにない「おとなしい人」を狙っています。
――番組では、被害に遭ったら「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に問い合わせるようおっしゃっていましたが、どのような支援をしてもらえるのでしょうか? ワンストップセンターの存在自体を知っている人も、少ないように思いますが。
望月 ワンストップセンターができたのが最近のことなので、多くの人にはまだ知られていないと思います。内閣府のホームページをご覧になるとわかると思うのですが、ワンストップセンターは被害者が電話で問い合わせると、面談を受けられたり、必要な治療や情報を提供してもらえたりする場所です。警察に出向かなくても適切な治療を受けられるという支援を目指しています。各都道府県に1つは作ることを目標に、現在は全国に40近くあります。
――望月さんが代表をされているTSUBOMIでも、被害者の支援を行っていらっしゃいますね。
望月 性被害の電話相談を月曜から金曜の14~17時と、メール相談の返信を週2回行っています。相談を受け付けるのは心理の専門家というわけではありませんが、面談も行っています。公共機関に足を運ぶのが不安な方への付き添い支援もあります。
――付き添い支援というのは、警察や病院といった場所に一緒に行ってくれるということですよね? 被害者が勇気を出して警察へ行ったのに、たらい回しにされたという話も聞きます。
望月 例えば、埼玉で被害に遭った人が自宅のある東京の警察へ行くと、「被害に遭った埼玉の警察に行ってください」と言われます。また、ストーカー被害だと生活安全課ですが、強姦だと刑事課となるなど、担当が分かれており、最初の段階で、うまく被害に関する話ができていないと、たらい回しのようにされてしまうということはあります。そして、そのたびに同じことを話さないといけません。
――それが嫌で、あきらめてしまう人もいるそうですよね。
望月 弁護士がついていても、そのようなケースは多いです。先日の法改正により告訴をしなくても罪が認められるようにはなりましたが、加害者が友達の場合、周囲の人から「友達を犯罪者にするのか」などと言われてしまうことがあります。その結果、被害者が「私さえ黙っていれば事が収まる」と、告訴をしないケースも見てきました。
――今回の法改正について、望月さんはどのように受け止めていますか?
望月 基本的には、今までと変わっていないと感じています。というのも、激しい暴行の伴う事件しか犯罪が成立しないからです。同意がなくても、突然襲われたものや、激しい暴行のない性行為は罪にならない点でいうと、今までと変わっていません。
でも、今回の法改正には「3年後見直し」が入っているので、そこに向けて、暴行・脅迫要件についても改正されるよう頑張らねばいけないと思っています。
――最近では、フリージャーナリストの詩織さんが顔を出して被害を訴えました。この件を機に、今までは泣き寝入りしていたような人が声を上げやすくなったといった傾向はあるのでしょうか?
望月 上げやすくなりましたかね……? むしろ、頑張って届けを出して訴えたのに、潰されたという感じではないでしょうか。彼女のことが報道された後に、相談件数が増えたということも特にありませんでした。
――被害者の中には、それが性被害であることを知らず、加害者が顔見知りであると特に「単なる男女のいざこざ」と捉えてしまう人もいるようです。どうすれば、その行為が犯罪であると広められるでしょうか?
望月 義務教育の中で教えていくことだと思います。人の嫌がることをしてはいけないとか、自分が嫌なら性的なことはしなくていいといった、基本的な人権教育や性教育を行っていく必要があります。
10年ほど前の話ですが、韓国に行った際に視察した性暴力被害者支援団体は、教育活動も行っていました。例えば「普段下着で隠れているパーツに触るのはいけないこと。触られたら嫌と言っていいんだよ」といった教育をしているのですが、日本にはそういった教育ってほとんどないですよね。
――きちんとした性教育を義務教育の中に入れたがらない、お偉いさんも多そうです。
望月 東京でも石原慎太郎都知事のときは、そんな雰囲気でしたよね。だいぶ前の話ではありますが、ある県で高校生の妊娠が問題になっていたとき、性教育をきちんと行ったら、望まない妊娠が減ったというケースがありました。
子どもは何も知らない無防備な状態ですが、成長するに従って、性的なことに興味が出てきます。一方で、大人は「子どもが妊娠するなんてありえない!」と、子どもの性に対して目を向けたくないのだと思います。実際には、望まない妊娠という現実があります。現在は初めて性交する年齢も下がってきているので、現実と向き合って、避妊の仕方を教える等の現実的な対処をしていかなければならないのに、遅れているなと感じます。
――性被害に関する世間の意識を変えていくためには、どうすればいいでしょうか?
望月 そもそも、そのような被害があるということすら、あまり意識されていません。多くのマスコミは「強姦」ではなく「暴行」と書いて、生々しいことを伝えません。でも、警察に届けられているだけでも、年間1,200~1,500件の性犯罪が起こっています。事件が起きていることと、誰でもいつ被害に遭うかわからないということを、もう少し伝えていけたらと思います。
また、被害を受けた方の痛みが全くわかっていない人も多いと実感しています。それこそ、「減るもんじゃないんだから」といった昔の考え方を持っている人もいます。被害者がどれだけ大変なのかを、教育の中で伝えておきたいですよね。
(姫野ケイ)
望月晶子(もちづき・あきこ)
NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI代表。諏訪坂法律事務所所属弁護士。




