“レペゼン新潟”ここにあり!? NGT48「青春時計」に見る、地方と東京のヒップホップ抗争史

 ラッパーブームといわれる昨今、アイドルがラップを、ラッパーがアイドルの楽曲を手掛けることは珍しくない。この連載では、アイドルファンで「社会人ラップ選手権」決勝進出経験を持つ、ラッパーのMC内郷丸が“ラッパー的観点”から毎月大量にリリースされるアイドルソングを定点観測。
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「青春時計」(アリオラジャパン)
 今回紹介するのはNGT48の「青春時計」(アリオラジャパン)である。NGT48。AKB48グループの妹分として、2015年8月に活動を開始した、新潟を拠点としたアイドルグループである。ローカルアイドルというのは今ではまったく珍しくなくなったが、その中でも新潟は、Negicco、RYUTistなど、すでに地元での人気も十分で、全国区で活動しているアイドルを輩出している地域だ。  ヒップホップには「地元」を意味する「フッド」、「◯◯の地域を代表する」「◯◯から来た」というような意味の「レペゼン」といった、自分の住む地域に関する用語が存在する。そしてMCたちは、自身のラップで地元を語ることも多い。しかし、そもそも日本語ラップは、最初は東京、主に渋谷などを中心とした文化だった。  やがて、そのカウンターとして地方からも著名なヒップホップのアーティストが誕生する。地方と東京の相互の関係性の中で、日本のラップは盛り上がりを見せてきたという歴史がある。その地方ラップの代表格が北海道で活動を続けていた、THA BLUE HERB(ザ・ブルーハーブ)。彼らのファーストアルバム『STILLING, STILL DREAMING』(STRAIGHT UP RECORDS)は、江戸時代アイヌ民族が幕府に起こしたシャクシャインの乱をもじった「SHOCK-SHINEの乱」という曲が収録されているなど、東京中心のヒップホップシーンに対する攻撃的なリリックがふんだんに盛り込まれ、彼らの登場によって地方のシーンにも注目が集まるようになった。  最近では、特定の地域からアーティストが続々登場し、注目されることも珍しくなくなった。ローカルアイドルもまた、全国放送のテレビ局も集中する東京で活動するアイドルに対するカウンターであるし、すでに有名なアイドルも多い新潟から、AKB48グループからとはいえアイドルがメジャーデビューするというのは、アイドルシーンが下火と言われるようになった中でも、新潟のアイドルシーンが依然として盛り上がっていると証拠だろう。  さて、そんな“レペゼン新潟”のNGT48。彼女たちと同じ日にお披露目された欅坂46は、瞬く間に「サイレントマジョリティー」(Sony Records)でメジャーデビュー。デビュー曲から大きく話題をかっさらい、その勢いは落ちることなく、先陣を切るAKB48を追い越す感すらある。17年3月までメジャーデビューを待たなければならなかったNGT48と比べると、テレビの出演も多く、すでに両グループには大きな差ができてしまっている。  欅坂46は、姉妹グループ乃木坂46とともに、どちらもその名に東京のド真ん中にある坂の名前を冠した、“レペゼン大東京”のグループ。対するNGT48には、ブルーハーブの如く東京のシーンに殴り込みをかけるような勢いはなかった。  デビュー直後から、東京ではなく新潟での活動に重きを置いてきたNGT48。現在の冠番組もローカル局がほとんど。地元の企業とのタイアップも多く、まさに地元に根を張った活動を続け、満を持してのメジャーデビューというわけである。  そんなNGT48のメジャーデビュー曲となる「青春時計」。その独自の路線が賛否両論を呼び起こしている。一体どんな楽曲なのだろうか。一度聞いてみてほしい。
 冒頭からリズムに合わせてなんとなくしゃべっているだけのようなラップから始まる。韻を踏んでいるわけでもなく、何かを語りかけてくるようなラップに、いつの間にか音程がつき、気付くとどこか懐かしいメロディのサビにたどり着くという展開。サウンドも、アコースティックギターのコード弾きとシンプルなピアノのバッキングが中心で、まるでフォーク歌謡曲のようだ。  この「ラップ」と「フォーク」の組み合わせ。それは、これまでの秋元康がプロデュースするアイドルグループが試してきた楽曲の方向性のひとつの集大成なのではないかと僕は思う。  たとえば「ラップ」でいえば、おそらくAKB48の「ハイテンション」(キングレコード)、少し前であれば「Green Flash」(同)だろうか。「別れの日近づいたことくらい/わかってたはずになぜ辛い?」というラインでは、「くらい」と「辛い?」と語尾で韻を踏むだけでなく、「別れ」と「わかって」の文頭で韻を踏んでおり、作詞家としての秋元康の力量を感じさせる。
 一方、「フォーク」の要素。ラップに比べると、フォークは決して昨今の音楽シーンで大きくトレンドとなっているサウンドではないが、なぜだか秋元康プロデュースのアイドルグループは意識的に最近の楽曲にそれを取り込んでいるように思う。たとえば、「恋するフォーチュンクッキー」以降その傾向が如実に現れている。特に、NHK朝ドラ『あさが来た』の主題歌「365日の紙飛行機」の歌い出しは、往年の名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」と非常によく似ている。
 このあとに、フォークソング路線を完全に押し出した「翼はいらない」(キングレコード)をリリース。いずれにせよ、秋元康がフォークソング路線を取り入れることを模索していたことは間違いないだろう。  意識的に取り込んできた「ラップ」と「フォーク」の要素。フォークのような懐かしいメロディラインと言葉遣い、そしてそれに合わせたアコースティックなバッキング。このトラックにラップ然としすぎない女の子のラップを乗せることで、単なる「ラップを取り入れた曲」でも、単なる「フォーク路線」でもない楽曲が完成した。ここ数年の楽曲の変化は、この曲のためにあったのではないかとさえ思えるくらいだ。  NGT48がこれから、この「ラップ×フォーク」路線を延々と続けていくわけではないだろう。だが、このゆるさと懐かしさと若さが絶妙に折り重なった楽曲の魅力は、そのままNGT48の魅力のひとつになっていくのではないか。  一方、我々ラッパーには「ラップ×フォーク」と聞いて、思い起こさずにはいられないアーティストがいる。MOROHAである。最近ではCMのナレーションもしているので、聞いたことがある人も多いのではないだろうか。
 アコースティック・ギター一本のバッキングと、そこに乗せる暑苦しい叫びに近いラップだけで活動を続けてきた彼ら。ラップ担当のアフロは中島みゆきが大好きだそうで、彼らの楽曲のフォークのような質感は、そういった嗜好から来ているのかもしれない。また、アフロは先に紹介したブルーハーブにも大きな影響を受けている。  12年ごろは、ヒップホップアーティストとも共演していたのだが、現在ではロックバンドとの共演のほうが多く、日本語ラップシーンとは離れた存在。クラブでは「ギター?」と、ライブハウスでは「ラップ?」と言われてきた過去をMOROHAは辿ってきた。
 彼らもまた、地方の長野県で結成。しかし、ブルーハーブと同じように札幌に根を張るのではなく、東京へ飛び出すことを選んだ。NGT48はこれからどうなっていくのだろうか。新潟に根を張った活動を続けていくのか、それとも全国を意識した活動が増えていくのだろうか。どちらを選んでも、自分たちを信じ独自の楽曲を作りパフォーマンスし続けてきたMOROHAのように、力強く突き進んでいってほしい。 (文=MC内郷丸) Twitterアカウントは@bfffffffragile MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru
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モーニング娘。’17「BRAND NEW MORNING/ジェラシー ジェラシー」に見る、“ヒップホップ的マッチョイズム”

 ラッパーブームといわれる昨今、アイドルがラップを、ラッパーがアイドルの楽曲を手掛けることは珍しくない。この連載では、アイドルファンで「社会人ラップ選手権」決勝進出経験を持つ、ラッパーのMC内郷丸が“ラッパー的観点”から毎月大量にリリースされるアイドルソングを定点観測。
モーニング娘。'17『BRAND NEW MORNING』(Morning Musume。'17[BRAND NEW MORNING])(Promotion Edit)
 今回の「現代アイドルソング学概論」は、今月発売されたアイドルソングを何曲かピックアップして紹介。楽曲を紹介するにあたり、少し遠回りになるが、別の話を挟むことにしよう。  先日、「ユリイカ」(青土社)の日本語ラップ特集を読み返していたのだが、ラッパーの般若がインタビューでとても興味深いことを言っていた。般若といえば、現在『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)でラスボスとして君臨している。チャレンジャーとの対戦のためにステージに上がるとき、彼はいつも上裸で鍛えられた身体を見せつけているが、そもそも彼がトレーニングを始めたのは、「ライブをやるにあたって身体がキツくなってきた」からだという。  海外のヒップホップアーティストでも筋骨隆々な人間が多く、特にギャングスタ系のヒップホップはマッチョイズムが強い。般若もまた、そういった文化に影響を受けたのではないかと思っていたのだが、単純にそういうわけではないようだ。般若は先のインタビューで「トレーニングができていない状態でライブをやれって言われたら、NO」とまで答えている。ヒップホップといえば、チャラチャラしてストイックさがないというイメージを持つ人もいるかもしれないが、そんなことはない。そもそも、ステージに立ってパフォーマンスするというのは、精神的にだけでなく、体力的にもかなりハードなはずである。  般若のパフォーマンスを意識した身体づくりは、“ヒップホップらしさ”と直接は関係ないかもしれないが、般若と同じように、ステージでのパフォーマンスを意識してトレーニングしなければいけないのは、アイドルとて同じ。ステージ上を縦横無尽に駆け回り、歌い踊り、ファンをロックしなければいけない。ラップは「歌がヘタでもできる」と思われ、アイドルは「ホンモノの歌手に比べたらヘタ」と思われ……奇しくも“多少ヘタでもできてしまう”と思われがちなジャンルでありながら、実際には歌手同様、あるいはそれ以上にしっかりとしたトレーニングやリハーサルが必要というところまで、アイドルとヒップホップは似通っていると言えるだろう。  そんなステージのパフォーマンスのためのレッスンが、とりわけストイックであることで有名なのがハロー!プロジェクトである。今月8日に「モーニング娘。’17」が両A面シングル「BRAND NEW MORNING/ジェラシー ジェラシー」(UP FRONT WORKS Z = MUSIC =)をリリース。  新メンバーの加入後も、彼女たちの代名詞ともなっているフォーメーションダンスは健在だ。「ジェラシー ジェラシー」ではラップにも挑戦し、また、初回限定盤には、なんともう19年も前のデビューシングル「モーニングコーヒー」をサンプリングした「モーニングみそ汁」を収録。公開されたMVは、キャンプを楽しむメンバーたちのカットが中心で、バキバキのダンスシーンはなし。A面シングルの楽曲2曲と比べると、これまでデビューから長らく幾多のメンバーの入れ替えを経て、ストイックなパフォーマンスグループに成長してきたグループの歴史を感じることができる。  2000年代前半、モーニング娘。が一度ブームを終え、テレビを賑わすグループアイドルがいなくなってから、その次を担ったのがAKB48であった。AKB48もまた、今月15日に「シュートサイン」(キングレコード)をリリースしている。現在テレビ朝日系で放送中のドラマ『豆腐プロレス』の主題歌であるこの曲は、4月に卒業公演を予定する小嶋陽菜が最後にセンターを務めることでも話題だ。
【MV】シュートサイン Short ver. / AKB48[公式]
 AKB48のブレイクのきっかけは、なんといっても総選挙であった。そしてその総選挙や、テレビ番組の出演、あるいは劇場公演や握手会といった現場で行われるイベントなど、さまざまな場所でのエピソードがメンバーたちのキャラを作り上げた。精神科医の斎藤環は、AKB48人気の要因を“キャラ消費”に見出している。  先の「ユリイカ」の日本語ラップ特集には、「キャラクターとしてのラッパー」という副題のついた論考が掲載されている。少し引用してみよう。「ラッパーにとって“キャラ立ち”が重要なのは間違いない」「“リアルなラッパー”に求められるのは、まず自分の人生を物語化し、自己を魅力的にキャラ立てしていく詩的な能力であり、描き出された“自分というキャラクター”を体現してみせるパフォーマーとしての能力である」など。最後に「ダメなラッパーは肉だ」という有名なパンチラインを引用し、ラッパーはただ肉のまま、ありのままを提示するだけでなく、自分自身を料理してキャラとなり、“現実と虚構の緊張関係に身を投じてこそ、リアル”になれるのだと論じている。まるでアイドルのセルフプロデュース能力を語っているかのような論調である。  モーニング娘。’17は、フォーメーションダンスに代表される「パフォーマンスに対するストイシズム」によって、AKB48は「リアルなキャラの演出」によって、それぞれその人気を獲得してきたといえるだろう。ステージの上、テレビの画面上で、ファンを魅了し続けるアイドルにとって、どちらもとても大切な要素である。  しかし、そのどちらもが、ラッパー、ヒップホップMCたちにも求められている。強面の筋肉隆々の男たちであろうと、可愛らしい衣装で踊る美少女であろうと、大切なことは同じなのだ。 (文=MC内郷丸) Twitterアカウントは@bfffffffragile MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru

現体制活動終了! “アイドルラップの先駆者”lyrical school「韻」で辿る彼女たちの足跡

 ラップブームといわれる昨今、アイドルがラップを、ラッパーがアイドルの楽曲を手掛けることは珍しくない。この連載では、アイドルファンで「社会人ラップ選手権」決勝進出経験を持つ、ラッパーのMC内郷丸が“ラッパー的観点”から毎月大量にリリースされるアイドルソングを定点観測。
現体制活動終了! アイドルラップの先駆者lyrical schoolの「韻」から見るラップ史の画像1
『date course』(T-Palette Records)
 2016年12月21日。日本のアイドルラップシーンを担うグループ、lyrical schoolが、2017年2月末のライブをもって現体制での活動を終了することを発表した。来る2月26日、この日を境に、立ち上げメンバーのami、ayaka、meiの3人は卒業してしまう。どうせならayakaさんと一度チェキを撮っておくべきだった……と、僕はいま後悔している。  いてもたってもいられない気持ちになり、今回の「現代アイドルソング学概論」は、直近でリリースされたアイドルソングではなく、lyrical schoolを扱うことにした。ただ、今回扱うのは、lyrical schoolの歌詞についてである。特にその中でも今回はラップとは切っても切れない関係にある「韻(ライム)」に注目したい。  まずそもそも「韻」とはなんだろうか。少し前に「彼氏が執拗に韻を踏んできます」というYahoo!知恵袋の投稿が話題になったが、意外と「韻を踏む」って何? と聞かれると、なんて答えればいいのか難しい。多くの場合、「母音が同じ言葉を使って、歌唱にリズム感を出すこと」と説明されている。簡単にlyrical schoolの歌詞から紹介しよう。
「P.S.」(YouTubeより)
“日焼けした白いスニーカーのキャンバス お揃いで買ったビーチサンダル”  13年9月にリリースされた1stアルバム『date course』(T-Palette Records)に収められた「P.S.」の一節だが、この歌詞の一行ごとの末尾の単語に注目してほしい。「キャンバス」と「サンダル」。それぞれの母音だけを抜き取ると、どれも「あ・ん・あ・う」だけで構成されている。これらの言葉が、区切りのいい場所に決まったタイミングで発音されるように歌詞を当てはめると、ただ言葉をリズムに合わせる以上のリズム感が生まれる、というのが「韻」である。  ただ、厳密に母音が同じでなくても、実際にラップをしてみるとリズム感が生まれる場合はかなり多いので、「母音が似たような言葉を使って、リズム感を出すこと」くらいに捉えていただければと思う。  それにしても、紹介した「P.S.」のリリックは素晴らしい。特に引用した一節は、このあと“2人の文字滲む一枚の短冊 固く結んだ ほどけないように”と続く。「キャンバス」「サンダル」「短冊」と韻を踏みながら、ひと夏の思い出の情景をさらっと描ききる。ラップの歌詞を読んでいると、韻を踏むことを優先させ文章として不自然になっていたり、歌詞中の物語がしっちゃかめっちゃかになっているようなものも多いが、こういう自然な韻を歌詞に忍ばせるのはかなり高度なことだと思う。  ほとんど病気のように、その単語を見つけると、「その言葉でどんな韻を踏めるか」を考えてしまう。先の「キャンバス」「サンダル」だったら、「淡白」「感覚」「腕白」……と、勝手に出てくるのがラッパーのさが。出てきた言葉を使って歌詞を書く。「何と何で韻を踏んでいるか」には、その詞の作者の作家性が如実に出ていると言っても過言ではない。  ここで、lyrical schoolの歌詞の特徴と比較するために、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)などに出ているような、バトルMCたちはどのような言葉で韻を踏んでいるか見てみよう。  たとえば、MCニガリとIcereyのバトル。一回で決着がつかず延長戦となったこの試合では、先攻のIcereyが“なっちまったぜ延長戦 延長の強さは川崎(Icereyの地元)の伝統芸”とラップ。「延長戦」と「伝統芸」で韻を踏んでいる。対するMCニガリは“延長戦から伝統芸 ネタ臭いライムマジで便所くせえ”とラップ。相手の踏んだ韻に対してさらに「便所くせえ」という言葉で韻を踏み返している。さらにIcerayは“俺はヒップホップ界のベートーベン”と、「ベートーベン」という言葉で韻を踏み返している。  MCニガリとT-Pablowの延長戦では、MCニガリが“目と目を合わせた結果 何ができるのか”とラップしたのに対し、T-Pablowが“合わせようか目と目 とってやるスキルのレントゲン 理想の扉ノックしても返答ねえ この日のために負けた戦極、罵倒、KOK”とラップ。相手の「目と目」という言葉から、「レントゲン」「返答ねえ」「KOK」という言葉を使って韻を踏んでいく。ちなみに「KOK」とは「King Of Kings」というMCバトルの大会の一つ。T-Pablowは実際にKOKの東日本予選で敗れており、彼だからこそ踏める韻に会場も大きいに盛り上がった。  ここまでで紹介したバトルMCが韻を踏むために使った言葉をざっと並べてみよう。「延長戦」「伝統芸」「便所くせえ」「ベートーベン」「目と目」「レントゲン」「返答ねえ」「KOK」。ざっと見ただけでも、相手を批判したり、自分を偉く見せたり(「ベートーベン」がその最たる例だ)するための言葉選びをしていることがわかる。また、MCバトルの大会の名前が出てくるのも、バトルMCならではの言葉選びだなと思う。ここまでの言葉はすべて母音が「え・え・お・え・え」に近いものだけを選んでいる。  ではこれらの言葉に近いもので、lyrical schoolが韻を踏むとどうなるか。最新アルバムのなかの一曲「マジックアワー」の歌詞を引用してみよう。
「マジックアワー」(YouTubeより)
“迷った目と目と手と手 自分勝手のデートは迷路です”  先のT-Pablowが使っていた「目と目」という言葉が入っているが、これに対して、デートでの男女の一瞬のすれ違いを描くために「手と手」「迷路です」といった言葉を使って韻を踏んでいる。相手をディスり、勝ち上がるためだけでなく、恋愛を描くために韻を踏むと、これだけ使う言葉が変わるのである。  別の曲を見てみよう。上記と似たような母音の言葉を使って韻を踏んでいる曲がある。うまくいかない恋路に悩む女の子の気持ちを歌った「ひとりぼっちのラビリンス」という曲の一節である。
「ひとりぼっちのラビリンス」(YouTubeより)
“結局この距離は平行線 出口の見つからない迷路で 思い描く君との成功例 行きたかった素敵なデートへ” “ドラマみたいな恋はエンドレス 思い通りできない劣等生 の私はおとなしくベッドへ”  一つ目の引用は一番の歌詞、二つ目の引用は二番の歌詞だが、語尾の言葉「平行線」「迷路で」「成功例」「デートへ」「エンドレス」「劣等生」「ベッドへ」はすべて先に挙げたバトルMCたちが使った言葉のどれでも韻を踏める。形式的には母音が「え・え・お・え・え」に近い言葉で韻を踏むということで、lyrical schoolもバトルMCたちもやっていることは同じだが、ラップから描き出される情景はむしろ正反対というのが面白い。  ちなみに「ひとりぼっちのラビリンス」が収録されているのは先の「P.S.」同様『date course』で、アルバム全体を通して気分良く出かけ、恋をし、恋を悩み、また日常に戻っていくという感情の流れを見事に描いている。アイドルがラブソングを歌うというのはよくある話だが、一貫して「デート」にフォーカスしたシティボーイ、シティガール的な感性を表現していたというのは、lyrical schoolを混沌としたアイドルシーンにあってもも埋もれることなくここまでこれた一つの要因だったのではないだろうか。  そのクリエイティビティが話題となった「RUN and RUN」のMVのような視覚的表現だけでなく、韻を踏むための言葉選びという細部にもこだわった一貫した世界観を表現し続けてきたlyrical school。いままでも何度かメンバーの入れ替わりはあるにはあったが、それらを生み出してきた現体制は、2月26日で終了してしまう。これからのlyrical schoolもまた、いままでのような一貫した世界観を表現し続けるのか、それとも何かが大きく変わるのか。最後のライブと今後の活動に、注目だ。 (文=MC内郷丸) Twitterアカウントは@bfffffffragile MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru

アイドルラップの次なる本格派!? “ガチ”で“ドープ”な『E TICKET RAP SHOW』を聞け

 ラッパーブームといわれる昨今、アイドルがラップを、ラッパーがアイドルの楽曲を手掛けることは珍しくない。この連載では、アイドルファンで「社会人ラップ選手権」決勝進出経験を持つ、ラッパーのMC内郷丸が“ラッパー的観点”から毎月大量にリリースされるアイドルソングを定点観測。
「E TICKET PRODUCTION 1st mini ALBUM『E TICKET RAP SHOW』DIGEST TRAILER」(YouTubeより)
 アイドルに勝手にヒップホップ的要素を見出し紹介してきたこの連載。第3回にしてはじめて、やっと“アイドルラップ”を扱うことにした。今回の一枚は、『E TICKET RAP SHOW』(IDOL NEWSING)である。  アイドル×ラップといえば、現在は「lyrical school」と「ライムベリー」の二大巨頭が著名だ。lyrical schoolはメジャーデビュシングル「RUN AND RUN」(キングレコード)のMVが“スマホジャック縦型MV”として大きな話題を呼び、世界的な広告賞であるカンヌライオンズで銅賞を受賞するなど、大きな話題を呼んだ。その後も精力的に活動し、これからさらなるブレイクが期待されていただけに、昨年末のオリジナルメンバーのami、ayaka、meiの卒業発表は大きな衝撃であった。  一方、ライムベリーは現在盛り上がりを見せるMCバトルシーンに積極的に参加。一時は事実上解散かと思われたが、MC MIRIがラッパーがマイク1本で競う『戦極MC BATTLE』に参加するようになり、いまではMCバトルシーンのアイドル的存在にまでなっている。バトルで「リリスク(lyrical school)が嫌い」とラップし謝罪したり、日本のヒップホップシーンの女性ラッパーとして確固たる地位にいるCOMA-CHIの「B-Girlイズム」をカバーし、その後Twitter上でいざこざが起こったり、話題に事欠かない。  そんなアイドル×ラップのシーンに名を刻むことになるであろう新たな一枚が登場した。それが、E TICKET PRODUCTIONによる『E TICKET RAP SHOW』だ。  E TICKET PRODUCTIONとは、イラスト、執筆、作詞、作曲などマルチな活動を行う作家・桑島由一の音楽活動の際の名義で、2015年2月までライムベリーの楽曲プロデュースも彼の手によるもの。初期のライムベリーは、かなりオールドスクールな音作りが特徴。そんなアイドルラップシーンの重要人物による、アイドルラップがたくさん詰まったコンピレーションアルバムである今作。簡単にレビューしていこう。正直、めっちゃいい……! 「りんねラップ」& 「りんねラップ2」(feat.吉田凜音)
「りんねラップ」(YouTubeより)
 なんといってもこのコンピレーションの一番の注目は、吉田凜音。NONA REEVESの西寺郷太のプロデュースのもと音楽活動に取り組んでいた彼女だったが、今回のコンピレーションの一曲目「りんねラップ」が大きな話題を呼び、スペシャルユニットNATASHAにも参加。まだ高校生、しかも「りんねラップ」発表時はまだ中学生。2000年生まれのアイドルであるというから驚きだ。  MVには「808state」のパーカーを着て、みなとみらいを闊歩。楽曲ではかつて『関ジャニの仕分け∞』(テレビ朝日系)の企画「カラオケNo.1決定戦」に何度か出演していた経験からか「次私が仕分ける順番/お地蔵さん首振る瞬間」とラップしているなど、彼女のキャラクターがそのままリリック(歌詞)に反映されている。
「りんねラップ2」(YouTubeより)
「GOES ON(feat.ようなぴ)」  ニューウェイブ系アイドルグループ「ゆるめるモ!」から、ようなぴが参加。アニメ声でのラップが、いかにもアイドルラップらしい。「偏差値偏差値偏差値偏差値」と連呼する元ネタはなんと、アメリカの人気ラッパーMigosの「Versace」という曲の「ヴェルサーチ」というブランド名の連呼をそのまま真似たのだと本人がインタビューで答えている。
Migos「Versace」(YouTubeより)
 ちなみに、この「ヴェルサーチ」というブランド、この楽曲の影響なのか、やたら最近のラッパーのリリックに登場する。Tシャツ一枚で、僕が一枚にかける20倍近い値段だった。高けえ! 「AS ONE(feat.寺口夏花&山崎愛)」  かなりファンキーでオールドスクールなトラックに、アイドルの女の子のラップがのるという違和感が気持ちいい。「レペゼンお魚/山口愛(まな)だ」というラインは、ヒップホップであればよくありそうな自己紹介リリックの定番だが、妙に韻が固いのと、アイドルの女の子が「レペゼン」と口にするところが不自然でかわいい。  寺口夏花と山崎愛は「sora tob sakana」のメンバー。最近、アイドルファンの間で話題のグループである。 「FIRE LIAR(feat.椎名ぴかりん)」
「FIRE LIAR(feat.椎名ぴかりん)」(YouTubeより)
 ビッグビートに合わせてラップするのは、中二病モデルの椎名ぴかりん。タイトルの通り、炎上を恐れる内容の歌詞。彼女は“ファンサービスが過激すぎる”ということで、『ダウンタウンDX』(日本テレビ系)や『アウトデラックス』(フジテレビ系)といったテレビ番組でもネタにされる存在だ。  全体的にヒップホップのみならず、テクノなどからの引用も散りばめられた高いクオリティのトラックに、ラップするアイドルたち本人の経験や思いをしっかりと反映してつくられたリリック。“リアル”を大切にするアンダーグラウンドのヒップホップにも通じるような、“アイドルのリアル”が見えてくる。  いずれにせよアイドルラップ界の重要人物、E TICKET PRODUCTIONの新たな活動に、今後も目が離せない! (文=MC内郷丸) Twitterアカウントは@bfffffffragile MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru