EXO・ベッキョン「Bungee」、BTS、BAPほか……Jazzy HiphopのK-Pop20曲を解説!

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。5月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲 ‖ 백현 (Baekhyun) - Bungee

 6月はEXO・ベッキョンのソロEPの2枚目『Delight』から「Bungee」を取りあげます。前作のEP『City Lights』もそうでしたが、1曲単位より是非アルバムで聴いていただきたい1枚です。

 今回はEP収録の「Bungee」や「R U Ridin'?」に感じる、Jazzy HiphopやChillHop、Lo-fi Hiphopについて解説します。紹介するのはどれも梅雨時にぴったりの楽曲なので、是非この時期に聞いてみてください。

 Jazzy Hiphopとは、一般的には2000年代初頭に日本ではやったJazzをサンプリングしたHiphopを中心に、そのムーブメントを取り巻く日本・海外のアーティストの楽曲のジャンルのことを指します。日本でしか使われないジャンル名の一つで、英語圏では「Jazz Rap」と呼称することのほうが多いです。ただ「Jazzy」に関してはJazzっぽい・Jazzの要素があるという意味でも使うので、検索したらDJ Mixなどは出てくると思います。

 では、JazzがHiphopに取り入れられるところから話していきますが、1985年にFusionバンドのCargoが出したJazz Rapがはしりと言われています。

 Fusionとは70年代半ばに発生した、Jazzに電子楽器を導入してロック・ラテンなどを融合させた派生ジャンルのことです。JazzというよりはFusionが前面に出ていて、あまり皆さんがイメージするJazzではないかもしれません。BPMもかなり速く、文字通りJazzにRapを乗せているという印象です。

■Cargo - Jazz Rap

 続いて88年にGang StarrというNYのコンビがリリースした「Words I Manifest」というデビュー曲です。JazzやFunk、Hiphopなど5曲ほどをサンプリングしていますが、曲が始まってすぐのベースのループがCharlie Parker & Miles Davisの「A Night in Tunisia」の冒頭です。サンプリングしている部分がベースの1ループだけなので、これもまだあまりJazzという感じはしないかもしれません。(サンプリングについてはこちらの記事「K-POP、サンプリングの元ネタを一挙解説」を参考にしてください)

■Gang Starr - Words I Manifest

■Miles Davis & Charlie Parker - A Night In Tunisia

 90年にはスパイク・リーが監督を務めた『Mo' Better Blues』という、Jazzを題材にした映画のサウンドトラックとしてGang Starrの「Jazz Thing」が使われます。これもThelonious MonkやLouis Armstrong、Duke Ellingtonの曲などたくさんのJazz楽曲をサンプリングしています。

■Gang Starr - Jazz Thing

Jazz Rap楽曲がプラチナディスクに

 88年から始動した「Native Tongues」はJungle Brothers、De La Soul、A Tribe Called QuestなどのHiphopグループを抱える集団ですが、たくさんのJazzをサンプリングしてJazz Rap楽曲をリリースしています。

 89年リリースのDe La Soulのデビューアルバム『3 Feet High and Rising』や、90年にリリースされたA Tribe Called Questのデビューアルバム『People's Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』、91年リリースの2ndアルバム『The Low End Theory』も評価が高く、最終的にはアメリカでゴールド(50万枚)やプラチナ(100万枚)ディスク認定を受けます。

 『3 Feet High and Rising』や『The Low End Theory』は史上最高のHiphopアルバムの一つと言われており、今までのハードコアやギャングスタスタイルなどの、"ワルい”ことがカッコいいというHiphopの価値観の幅を拡げる転換点になり、以降たくさんのアーティストに影響を与えてきました。

 是非アルバム1枚を通しで聴いていただきたいですが、その中からJazz Rapとわかりやすいものを一つ挙げます。

■A Tribe Called Quest - Jazz (We've Got) (91)

 サンプリングの説明をした回でも少し言及しましたが、既存の曲をサンプリングする場合、どうしても著作権の問題がつきまといます。

 正式に許可をもらうには費用がかさみ、うまく切り取ってループにすれば原曲の製作者にバレないかもしれない……そもそもサンプリング文化が始まった当初は、製作者から使用許諾を取らないといけないという意識さえなかったかもしれません。

 91年にBiz Markieというアメリカのラッパーがリリースした曲が、サンプリング問題で訴訟を受け敗訴するなど、これ以降も著作権を巡ってたくさんの訴訟が起こされています。このJazz Rapのムーブメントにも、もちろんそのような問題はあり、弁護士を立てて対応していたレーベルもあります。

 一方で92年、イギリスのHiphopグループUs3が、Blue Note Recordsという39年設立のJazz専門名門レコードレーベルに所属しているGrant Greenの「Sookie Sookie」をサンプリングした楽曲「Tukka Yoot's Riddim」をリリースしますが、Blue Note Recordsは訴訟せず、Us3と契約を結びレーベルの楽曲を自由に使えるようにします。HiphopがBlue Note及びJazzの歴史に関心を集めてくれる可能性があるという考えからの行動でしたが、その後リリースされたHerbie Hancockの「Cantaloupe Island」をサンプリングした「Cantaloop」はアメリカで大ヒットを記録し、Blue Note Records初のゴールドディスク認定を受けます。

 以降サンプリングによって楽曲が大量に使用されたJazzアーティストの中には、金銭的に大きな利益を得る人もいました。

■US3 - Cantaloop (Flip Fantasia) (93)

 また92年、ジャズトランペット奏者のMiles Davis死後に、HiphopプロデューサーのEasy Mo Beeとの共作アルバムがリリースされ、JazzとHiphopの融合が実現します。Jazzを引用し、時には訴えられる側であったHiphopが、圧倒的に歴史の長いJazz側から歩み寄られることになったのです。

■Miles Davis - The Doo Bop Song

 このあたりがJazz Rapの人気の最高潮と言われていますが、先述のGang Starrメンバー・GuruはJazz Rapの人気に好感を持っており、更にネクストレベルへと昇華したい思いからJazzのアーティストたちをスタジオに呼び新しいジャンルを作ろうと試みます。「Jazzmatazz」という彼のソロプロジェクトのシリーズはvol.4まであります。どれもとても良いアルバムですが、個人的には3枚目の『Vol. 3: Streetsoul』がとても好きです。

Apple
Spotify

■Guru Featuring Donald Byrd - Loungin' (Vol. 1、93)

■Guru Featuring Erykah Badu - Plenty (Vol.3、2000)

■Guru feat. Commom - State Of Clarity (Vol.4、07)

 その後も90年代はたくさんのJazz Rap楽曲がリリースされます。

■Digable Planets - Rebirth Of Slick (Cool Like Dat)(93)

■Nas - The World Is Yours (94)

■De La Soul feat. Guru - Patti Dooke (93)

■Souls Of Mischief - 93 'Til Infinity (93)

■Common - Resurrection (95)

■The Pharcyde - Runnin' (95)

■The Roots - Dynamite! (99)

 90年代後半からはよりJazzを前面に打ち出したJazz Rapがたくさんリリースされ、個人的にはこの辺りからをJazzy Hiphopと呼ぶイメージがあります。

■Youth Explosion - People Under The Stairs (00)

■The Sound Providers - Who Am I? (feat. Grap Luva) (01)

■Asheru & Blue Black - This Is Me (01)

■Nujabes Featuring Shing02 - Luv(sic) (01)

■Jazz Liberatorz - What's real(feat. Aloe Blacc) (03)

 上記に名前のあるNujabesは、2003年に『サムライチャンプルー』という日本のアニメのサウンド制作を担っており、アニメの力を借りて一気に世界中に名前が知れ渡ることとなります。当時は日本人トラックメイカーもかなりシーンに影響を及ぼしており、Five DeezやFat Jon、Pase Rockなど海外のアーティストを客演に呼んだり、Shin-skiやDJ Ryowなどたくさんのトラックメイカーが頭角を現すようになります。

■Nujabes - Battlecry

 03年にはBlue Note RecordsがDJのMadlibに楽曲使用許可を出し、『Shades Of Blue: Madlib Invades Blue Note(ブルーノート帝国への侵略)』という、新たな視点からBlue noteの再構築を試みたアルバムがリリースされます。こちらも1曲しか挙げませんが、是非アルバムを聴いて頂きたいです。
Apple
Spotify

■Madlib - Slim's Return (03)

 Madlibは翌年04年にラッパーのMF Doomとの共同プロジェクトをMadvillainと名付け、『Madvillainy』というアルバムを出します。いわゆるJazzy Hiphopのような楽曲もあれば、後のLo-fi Hiphop、Chillhopと呼ばれるような楽曲もあり、Lo-fi Hiphopの元祖と言われるアルバムとなります。

■Madvillain - Raid

■Madvillain - Bistro

 さて、ここでLo-Fi Hiphopについてですが、「Lo-Fi」とはLow-Fidelityの略を起源としており、2000年代以降のLo-Fi Hiphopとしての「Lo-Fi」はサウンドが不明瞭だったり古臭かったりするイメージを指します。レコードを再生する時のプツプツ音や、よれたビート、環境音などが特徴です。

 古いJazzやSoulをサンプリングする点は今まで説明したJazz RapやJazzy Hiphopと同じですが、そのトラックの上にラップやボーカルが乗ることは少なく、インスト楽曲が多いです。Chillhopとも言われるように、Chill(ゆったりした、落ち着いた、リラックスしている)の部分がJazzy Hiphopに比べて強調されており、Chill out(スローテンポで家でゆったり聞くような音楽ジャンル)や、Chill Wave(ノスタルジー感のあるメロウなレトロポップサウンド)などからChillの部分がきているともいわれています。

 この「Chill」がつくジャンルは大きなくくりで「ベッドルームミュージック」などとも言われており、文字通り寝室でゆったりしながら聞くイメージの音楽のことを指します。Nujabesや、先程名前を出したMadlibと共同プロジェクトを組んでアルバムをリリースしたJ DillaなどがLo-Fi Hiphopの先駆者といわれています。

Youtubeストリーミングチャンネルの注目どころ4つ

 13年、Youtubeで一般ユーザーがライブストリームをホストできるようになり、VaporwaveやChill Waveなどの細分化されたジャンルに特化したチャンネルができ、リスナーは24時間常に同じようなジャンルの楽曲をラジオ局のように聞けるようになります。

 17年には、Lo-Fi HiphopやChillhopとタグ付けされたダウンテンポの楽曲をかけるチャンネルが流行し、数百万人の登録者がいるようなチャンネルも出てきます。

 有名なものをいくつか挙げると、Chilled cowChillhop MusicRyan Celsiusなどがあり、現在進行系で配信が続いています。韓国でも、ここ2~3年インディーシーンでLo-Fi HiphopやChillhopのブームがあり、Mellowbeat Seekerのチャンネルでは韓国のインディーR&BやHip-hopが24時間聴けます。

 18年にはCozy(心地の良い)+K-Pop=KozyPopというプロジェクトが立ち上がり、Lo-Fi HiphopやChillhopの楽曲を集めたコンピレーションアルバム『Seoul Vibes』シリーズが始動し、つい先日『Seoul Vibes Pt.16』がリリースされ現在進行系で人気が続いています。こちらもYoutubeのチャンネルがあり、24時間韓国のR&BやHip-hopが聴けます。

Jazzy HiphopのK-Pop15曲

 それではいつも通りK-Popアイドルの楽曲でJazzy HiphopやLo-Fi Hiphopなものを挙げます。

 ちなみに「Jazzy」とくくるともっとたくさんありますが、Jazzy Hiphopだと「Hiphop」なのでビートがはっきりしていて上ネタ(ピアノやシンセなど)がループしているものをメインに、ラップが乗っているものだけと限定するとあまり数がないのでラップ・ボーカル問わず選んでいます。

■B.A.P - COFFEE SHOP (2013)

■Red Velvet 레드벨벳 - Be Natural (feat. SR14B TAEYONG (태용)) (2014)

■방탄소년단 (BTS) - Rain (2014)

■JONGHYUN 종현 - Love Belt (feat. YounHa) (2015)

■지코 (ZICO) - 너는 나 나는 너 (I Am You, You Are Me) (2016)

■정기고(Junggigo)X찬열(CHANYEOL) - Let Me Love You (2017)

■IU(아이유) _ Palette(팔레트) (Feat. G-DRAGON) (2017)

■문별 (Moonbyul) - 구차해 (2017)

■SUNMI - Black Pearl (2018)

■로꼬 (Loco), 화사 (마마무) - 주지마 (2018)

■Zion.T - 멋지게 인사하는 법(Hello Tutorial) (feat. 슬기 of Red Velvet) (2018)

■Brown Eyed Girls - 하늘 (2019)

■BANG YONGGUK (방용국) - ORANGE DRIVE (2019)

■태연 (Taeyeon) - 하하하 (LOL) (2019)
Apple
Spotify

■온앤오프(ONF) - Moscow Moscow (2019)

■CLC - Open the Window (2015)
Spotify

■백예린 (Yerin Baek) - Datoom (2019)

■BVNDIT (밴디트) - Children (2020)

■TXT (투모로우바이투게더) - 샴푸의 요정 (2020)

 昨今のたくさんの配信に疲れてしまった方は、何も考えずに流せるBGMに是非聞いてみてください。ちなみにここまで説明した欧米のJazz RapやJazzy Hiphopについては「WhoSampled」というサイトで曲名を入れると大体のものがどんな曲をサンプリングしたかが出てくるようになっています。曲の中で気になったフレーズがあったら是非探して原曲を聞いてみてください。JazzやSoulに対する苦手意識やハードルが下がると思います。

<落選したけど……紹介したい1曲>

■YUBIN(유빈) - yaya(넵넵) (ME TIME)

 先月のチョンハと同じような選曲になってしまいましたが……元Wonder Girlsのユビンの新曲です。Wonder Girlsが2017年に解散してからもユビンはJYPに残り何曲かリリースしていますが、2020年に独立し自身でrrr Entertainmentという事務所を設立します。

 今回は新事務所になってから初のリリースで、曲の歌詞にも「와 Free다 프리야 now #d-day 디데이 I'm done with that 이 날만 기다림 (ああ自由だわ now #d-day ディーデイ それはもういい この日を待ってた)」や「THX JYP but Free now 참 편했지 뭐 꿀 빨았지 뭐 건강한 유기농 집밥 내 입엔 msg가 (JYPありがと でも今はもう自由 気楽だったし幸せだった 健康なオーガニック家庭料理 私の口にはmsgが)」とJYPという大きい会社に所属していた気楽さや恩恵、社食で提供されるオーガニック料理を半ば揶揄する歌詞が出てきます。

 JYPは会社を離れるアーティストにもバックアップ等を惜しまないことで有名ですが、13年JYPに所属していた彼女らしい曲ではないかなと思います。

<近況>
エンターテイメントのコンテンツが全てネット上に集中したことにより、今までよりもずっと忙しい日々を送っています。休みの日はオンライン配信されるライブやDJ配信などをハシゴしているといつの間にか1日が終わっています。
毎年世界各地で行われているKCONが6月20日からオンラインで7日間行われるらしいのですが、私は一体どうなってしまうのでしょう……。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

K-Popアイドルいま注目のラップ人材、15曲! ソテジワアイドゥルからMCNDまで、韓国ラップ重要まとめ

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。4月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲 ‖ MCND - 떠(Spring)

 3月に「落選したけど、紹介したい1曲」枠で少し紹介した、TOP MEDIA所属5人組男性グループMCNDの「떠(Spring)」です。今年2月27日にデビューし、3月29日に「ICE AGE」の活動が終わりましたが、2週間もたたずに高速カムバックしました。リパッケージなら理解できる間隔ですが、シングルとして新たにこの曲をリリースし、即座に1カ月程度活動をするというのは前代未聞です。そもそも1月2日にフリーデビューということで、前述リンク先にある「TOP GANG」という曲をリリースし、2週間弱活動していたので、つまり1月からほぼ休みなしです。今これを書くためにスケジュールを整理していて途端に心配になってきました。ちなみにいま現在「떠(Spring)」は11バージョン動画が出ているので、是非Youtubeで検索して見てみて下さい。

 と、ここまで一息で説明しましたが、今回は何の特集かというと、「ラップ」についてです。今更ではありますが、よく知らない方も多いと思うのでラップのルーツや変遷について説明していきたいと思います。

 ちなみに「ラップ」と「Hiphop」は密接に結びついており、これからの説明は「Hiphopのルーツ」と言い換えることもできますが、HiphopはラップやDJ、ブレイクダンスなども含めた文化全般のことを指しているため、今回はラップに焦点を当てて解説していきます。

ラップのルーツとは?

 まず「ラップ(Rapping)」という単語ですが、元々は擬音語でトントン・コツコツのような物音を表します。音楽的な意味では60年代頃にアメリカ東海岸で誰かを説得したり楽しませたりする、ユニークで滑らかな話し方、言葉遊び的な意味でスラングとして使われだしたのが始まりで、そこから転じて「しゃべるような歌」という意味が広がりました。

 次はルーツについてですが、「Griot(グリオ)」と「Dozens(ダズンズ)」の2つがラップのルーツと言われています。ルーツなので、これがラップに直結するわけではありません。

 Griotは13世紀以降、西アフリカのコミュニティーで歴史家、語り手、賛美歌手、詩人、ミュージシャンとさまざまな役割を担ってきた人たちのことを言います。世代を越えたコミュニティーを維持していくために必要な情報を、楽器と共に独特のリズムと掛け声で言葉・歌に乗せてパフォーマンスすることで伝えていました。どこの国・地域でも昔は口承伝承というものがあったかと思いますが、その一つと言えるでしょう。

 Dozensは18世紀頃、アフリカ大陸から奴隷としてアメリカ大陸の主に東海岸に連れてこられたアフリカン・アメリカン(ここでアメリカンとつけるのが正しいかどうかはわかりません)が始めた遊びの一つで、観客がいる中1対1で互いの学力や見た目、経済状況、家族をけなす罵りの言葉を言い合い、一方が感情的になったり手を出すなど、言い返せなくなってしまったら負けというものです。

 当時は奴隷だったアフリカン・アメリカン同士のストレス発散に一役を買っていたと言われており、目的は罵倒や喧嘩をすることではなく、馬鹿にされても怒らない精神力の強さや言葉の表現力を競うことだったそうです。これが現在のフリースタイルラップバトルの原型と言われています。フリースタイルバトルと言えばイメージできる方が多いと思いますが、音楽がかかっていない状態でDozensに近いわかりやすいものを挙げます。

 更に、1960年代前半に盛んだった公民権運動でマルコムXやキング牧師などの演説があったこと、レゲエのToasting(トースティング、祝杯を上げること)という、ビートに合わせてしゃべったり語ったりする行為も、ラップの成り立ちに影響していると言われています。公民権運動を経て、70年代前半にThe Last PoetsやGil Scott-Heronなどはポエトリーリーディングのように音楽に詩を乗せるスタイルを取りました。

1979年、最初のラップ曲がBillboardでTop40入り

 サンプリングの説明をした際にも挙げたKool Herc。彼はジャマイカ出身ですが、親の仕事の関係でNYのサウスブロンクスに引っ越し、Hiphopのビートとなるブレイクビーツを生み出します。

 70年代NYで、はやりのディスコに行くお金のない若者たちは、街角(ブロック)で電柱から電気を拝借してDJ機材を設置し、無料のDJパーティー(ブロックパーティー)を始めます。そこでかかるブレイクビーツに、マイクを取って言葉を乗せる人たちが出てきました。恐らくここはDozensやレゲエのToastingの影響が大きいのではないかと思いますが、言い回しや拍子の取り方に段々と多様性が出てきて、韻を踏むようなことも行われ始めます。

 そうして最初のラップ曲と言われているThe Sugarhill Gangの「Rapper's Delight」が1979年にリリースされ、BillboardのTop40に入ります。

 ここまでが、ざっくりとHiphopの創始の部分となります。ちなみにNetflixの『Hiphop Evolution』というドキュメンタリーがこのあたりをわかりやすく説明しているので興味がある方は見てみて下さい。

 NYのサウスブロンクスから始まったHiphopは東海岸から西海岸に広がり、さらに南部にも波及していき、Jukeのルーツとして紹介したMiam BassやTrapなどにも影響していきます。またHiphopが国を越え浸透し、既存のジャンルとラップが融合しGrimeやReggaetonなどと言った新しいジャンルも生まれます。

 楽曲の雰囲気、歌詞の内容やラップのスタイル、 BPMは年代や地域によってさまざまですが、 80年代半ばから90年代初頭にかけては「Golden age Hiphop」とカテゴライズされるHiphop黄金期で、 BPM85~100ぐらいが主流でした。

 ラップのスタイルとしては下記のSnoop Dogg、Dr.Dre、2Pacなどの「ストレートフォワード」、CommonやLauryn Hillの「ルービックキューブ」、Lil Jonの「チャント」、Twistaの「シンコペートバウンス」などに分けられます。

■Eric B. & Rakim - Paid In Full (1987 NY)

■De La Soul - Me Myself And I (1989 NY)

■A Tribe Called Quest - Check The Rhime (1991 NY)

■Common - Take It EZ (1992 Chicago,Illinois)

■Snoop Dogg - Gin & Juice (1993 California)

■The Notorious B.I.G. - Big Poppa (1994 NY)

■2pac feat Dr.Dre - California Love (1995 California)

■Lauryn Hill - Doo-Wop (1998 NY)

■Lil Jon & The East Side Boyz - Get Low (2002 Atlanta,Georgia)

■Nelly - Hot In Herre (2002 Austin,Texas)

■Eminem - Without Me (2002 Detroit,Michigan)

■Ludacris ft. Shawnna - Stand Up (2003 Atlanta,Georgia)

■T.I. - Rubber Band Man (2003 Atlanta,Georgia)

■Twista - Slow Jamz (2004 Chicago,Illinois)

 HiphopがNYメインだった時期から東海岸、さらには南部に拡がっていく様子が、なんとなくわかりやすそうな曲を選んでみました。

東海岸・南部のHiphop〜現在の主流へ

 2000年代に入るとBPMが少し速くなりますが、アトランタを中心したサザンHiphopからTrapが派生した流れによりBPMは段々と落ち、トラックの音数も少なくなっていきます。

 下記に挙げたものはBPM60~70台です。ラップを聞くとわかるように、BPMが遅くなると1小節4拍(1、2、3、4)が時間的に長くなり余裕が生まれることで、4拍中に123、123、123、123と3連符を取れるようになります。昨今耳にするラップはこの、Trapのラップスタイルがかなり主流になってきていると思います。

■Gucci Mane - Wasted (2009 Atlanta,Georgia)

■Drake - Hotline Bling (2015 Toronto,Canada)

■Migos - Bad and Boujee (2016 Atlanta,Georgia)

 韓国での話に移りましょう。89年に発売された홍서범(ホン・ソボム)の김삿갓(キムサッカッ 金笠)が韓国で初めてのラップ曲と言われています。

 しかし当時韓国にはHiphopという概念自体がなかったため、発売してすぐに放送禁止曲となります。理由は「音程不安」。その後、90年代に入りDEUXやソテジワアイドゥル、ジヌションなどのアーティストを中心にHiphopの文化も含めたラップが浸透していきます。ソテジワアイドゥルのメンバー、ヤン・ヒョンソク(通称:ヤンサ)は言わずもがなYG Entertainmentの元社長です。

■서태지와 아이들(ソテジワアイドゥル) - 난 알아요(ナン アラヨ 私は知ってます)

 94年にデビューしたDJ DOC、98年にデビューしたYG Entertainment所属の1TYMなどがHiphopアイドルの走りと呼べるでしょう。
■DJ DOC - 머피의 법칙(マーフィーの法則) 1995

■1TYM - Hot 뜨거(Hot 熱い) 2003

 現在、K-Popグループには必ずラップ担当という立ち位置がありますが、直接的な理由はわかりません。アイドルの走りでもあるソテジワアイドゥルなどがHiphop路線の楽曲をやっていたことが影響しているのでしょうか。

 90年代から00年代前半にかけての、韓国では第一世代のアイドルと位置付けられる人たちの中に、すでにラップ担当というものがありましたが、ボーカルができないダンス担当メンバーが仕方なくやるパート、という位置付けでした。ただ当時はラップに詳しい聞き手も少なく、スキルなどはそこまで重要視されませんでした。

 そんなYG Entertainmentでしたが、恐らく思惑外だと思うのですがBIGBANGやWinnerなどラップのうまいグループのデビューがあり、他事務所からもBlock Bなど、第一世代のような取ってつけたラップ担当ではなくスキルのある人間がきちんとラップを担当するケースも増えていきます。

K-Popアイドル、注目のラップ人材

 ということでここまで道のりが長かったわけですが、私好みなラップをする人を挙げていきます
■Block B (Zico、パッキョン)

■BTOB (イルン、ミニョク)

■AOA (ジミン)

■Monsta X (ジュホン)

■iKON (B.I、BOBBY)

■NCT127 (テヨン、マーク)

■VICTON (ハンセ)

■THE BOYZ (ソヌ)、(G)I-DLE (ソヨン)

■Stray Kids (バンチャン、チャンビン、ハン)

■D-Crunch (O.V、Dylan、チャニョン)

■ATEEZ (ホンジュン)

■TREI (チャンヒョン)

■WE IN THE ZONE (イスン)

■DKB (イチャン)

■MCND (Castle J、BIC、ウィン)

<落選したけど……紹介したい1曲>
■청하 (CHUNG HA) - Stay Tonight

 チョンハの新曲、Stay Tonightです。サウンドはディープハウス・ベースラインハウス、ダンスはヴォーギング・ワッキングなどが取り入れられ、スタイリングは南アジア意識などさまざまな要素が入り組んでいます。そして一人だからこそできるこの布陣……。最早チョンハ節を確立したと言っても過言ではないでしょう。

<近況>
普段は家と会社を行き来する生活しか送っていませんが、5月8日(金)19時~からTwitchにて、今度はJYP特集のDJをします。前回のSM特集では同時最高視聴数4600人だったようで、反響にびっくりしています。これから準備がんばりますのでお楽しみに!

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

NCT127から紐解くK-POPとBig beat/Digital Rockジャンル――The Prodigy・80KIDZほか18曲

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。3月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲 ‖ NCT127 엔시티 127 - 영웅 (英雄; Kick It)

 SM Entertainment所属、NCT127の「영웅(英雄; Kick It)」です。この曲の収録されているアルバム『Neo Zone』が本当に傑作で、収録曲を1曲ずつ紹介したいぐらいなのですが、今回はあまり馴染みがないであろう、同曲のメインとなっているジャンル「Big Beat」や「Digital Rock」について解説していきたいと思います。

 まずは「英雄」について少し解説します。曲の全体的な印象としては今回紹介するBig BeatやDigital Rock、はたまたNu MetalやRap Metal(日本ではMixture Rockと呼ばれる)ですが、ビートはTrapがメインになっているため完全にBig Beat、Digital Rockとは言えないかもしれません。また2:55~の8小節は以前紹介したJukeが取り入れられたりしていて、さまざまな要素がたくさん詰め込まれた1曲です。

 さて、Big beat/Digital Rockについてですが、厳密にいうとこの2つはまったく同じものではありません。先にDigital Rockについて説明すると、90年代に日本の音楽誌上で流行した用語で、一般的には「デジロック」などと言われます。Hip-hopの「ミドルスクール」と同様に、基本的には日本でしか使われない呼称です。先程挙げたMixture Rock(ミクスチャー)も同じような立ち位置で、日本では呼称があるけれど、それ以外では一般的ではない括りの一つです。

 なのでBig beatに括られるような曲はもちろん、Big beatには入らないようなもっとRock/Punk寄りの楽曲もデジロックに括られることもあります。個人的にはデジロックはロックがベースで、そこに電子音が入るものというイメージです。

■80KIDZ - Hide

Big beatとは?

 Big beatについては説明がかなり長くなりますが、簡潔に言うとヘビーで歪んだブレイクビーツにシンセやFunk、Soul、Jazz、Rockなどの楽曲をサンプリングしループしたものを使う、BPM100~140ぐらいのエレクトロニック・ミュージック……ですが、この説明でピンとくる方はあまりいないと思うので順を追って説明していきます。

 まずBig beatという単語についてですが、1989年イギリスのElectronicデュオ「Big Bang」のIain Williamsがロンドンの雑誌「Metropolitan」でのインタビューで、自分たちの楽曲スタイルを表現するのに「Big beat」というフレーズを使ったのが初めてと言われています。この曲がリリースされた際のインタビューですが、楽曲はABBAの「Voulez Vous」という曲をアラビック調に(今で言う)Remixしたものです。

■Big Bang - Voulez Vous

 90年代に入り、イギリスのレイヴ、クラブシーンではBritish Hip-hop、Chillout、Ambientなどのジャンルがはやっており、そこにTrip hopやBreakbeatなどのサブジャンルが登場しました。92年に、のちのThe Chemical BrothersとなるTom RowlandsとEd Simonsの2人はマンチェスターのNaked Under LeatherというクラブでDJを始め、彼らはHip-hopやTechno、Houseをプレイしていましたが、自分たちが持っているインストHip-hop(トラックだけでラップなどが乗っていないもの)をかけつくしてしまったため自分たちで作ることにします。

■The Dust Brothers - Chemical Beats (Extended Mix)

 この、ドラムがずーっと同じパターンでループされているのをブレイクビーツ(詳細は8月の記事)と呼びますが、そこにビキビキなシンセのサウンドを乗せたり、まさにタイトル通りChemicalな雰囲気の感じられる楽曲です。彼らは最初「The Dust Brothers」というユニット名で活動していましたが、アメリカに同名のグループがいたため、この楽曲の「Chemical」を取り、「The Chemical Brothers」という名前になります。

 一方で、90年に結成したThe Prodigyは80年代後半からイギリスで爆発的に広がったレイヴシーンから影響を受けていました。Acid HouseやTechnoといった音楽、エクスタシーなどのドラッグの流行により、若者が今までのナイトクラブになかった新しい音楽やパーティ経験を求めるようになると、倉庫や郊外の廃屋、屋外を利用して一回限りのイベントが行われるようになり、それは「Revolution Live」からの造語でRave(レイヴ)と呼ばれました。91年にリリースされたThe Prodigyのデビューシングル、「Charly」はレイヴ・アンセム(定番曲)と言われ、UK Single Chartでも3位になります。この曲もブレイクビーツとシンセの印象的な楽曲です。

■The Prodigy - Charly

 巨大化したレイヴはドラッグ汚染などがイギリス政府に問題視され、94年にはクリミナル・ジャスティス法(レイヴ禁止法とも呼ぶ)によりレイヴが非合法化されます。それをきっかけにレイヴは政府公認の大規模な商業イベントとアンダーグラウンドなクラブシーンへと二分化して行きます。

 レイヴカルチャーが彼らの考えるものとは乖離してきていることに幻滅し、94年にリリースされたアルバムはレイヴサウンドから距離を置いたブレイクビーツ、Hip-hopやAlternative Rockの融合したものとなります。

■The Prodigy - Poison

■The Prodigy - Voodoo People

 「Poison」はHip-Hop要素が強いながらもビキビキとしたシンセなどは顕在で、「Voodoo People」は私が以前紹介したサイケトランスの源流を感じます。

 95年にはブライトンのConcorde clubにて、のちのFatboy SlimとなるNorman CookとDamien Harrisが「The Big Beat Boutique」というクラブイベントを始めます。この名前が人気を博し、「Big beat」というフレーズが広まっていきます。今まで名前を挙げたThe Chemical Brothers、The Prodigy、Fatboy Slimはイギリス出身ですが、 イギリスだけではなくアメリカのチャートの上位にもランクインし、Junkie XL、The Crystal Method、Propellerheadsなどのフォロワーを生み、99年に公開された『The Matrix(マトリックス)』という映画のサウンドトラックとしてThe ProdigyやPropellerheadsの楽曲が採用され、そのサウンドトラックはプラチナディスク認定され商業的にも成功を収めます。

 『The Matrix: Music from the Motion Picture』に収録されている3曲がこちらです。

■The Prodigy - Mindfields

■Propellerheads - Spybreak!

■Lunatic Calm - Leave You Far Behind

 また、今までコラムで紹介してきたクラブミュージックは、日本に輸入されて取り込まれるのに少し時差があることが多いのですが、Big beat/Digital Rockに関してはそこまで差がなく、日本にも韓国にも取り入れられます。

日本と韓国にも及んだBig beat/Digital Rock

■HOTEI - BELIEVE ME, I'M A LIAR(98)

■SECHSKIES(젝스키스) - 학원별곡 (學園別曲)(97)

■NRG - Face(페이스)(99)

 2000年に入った頃にはもうムーブメント自体が衰退してしまい、あっという間に流行って廃れたというジャンルのイメージが強いですが、TechnoとRock、Metalなどを合わせた「手法」は今も残っており、たくさんのアーティストが影響を受けています。

 K-PopでBig beat楽曲と呼べるものはあまりないかもしれませんが、デジロック楽曲をいくつか挙げたいと思います。

■THE KOXX (칵스) - Oriental Girl (2011)

■Glen Check - Disco Elevator (2011)

■B.A.P - POWER (2014)

■비닐하우스 The VilnylHouse - Negative Love (2015)

■Dreamcatcher(드림캐쳐) - Scream (2020)

<落選したけど……紹介したい1曲>
■DONGKIZ - LUPIN

DONGYO Entertainment所属、5人組ボーイズグループDONGKIZ(ドンキッズ)の5回目のカムバックです。2019年4月のデビューですが、定期的にカムバしており、彼らしか所属アーティストがいない事務所なのに一体どうやってお金が回っているのか不思議なグループです。年始の記事でもさり気なく紹介しています。MVでも良かったのですが、音楽番組で手品を披露するという新しい試みをやっているので今回はあえてステージ動画を貼りました。

<近況>
この状況でイベントが出来ないので突然家からDJ配信をすることにしました。この記事の公開された次の日、4月4日(土)の20時~Twitchにて、SMエンタしばりでDJします。詳しくはTwitterをチェックしてください!

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

BTS、NCT、PRODUCE48ほか……K-POPのメジャージャンル「Moombahton」を知る21曲

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。2月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲‖KARD - RED MOON

 KARAがいることで有名なDSP Media所属、男女混合4人組グループ・KARDの新曲「RED MOON」です。Moombahtonについては、いつ特集しようかとずっと考えていたのですが、“Moombahtonと言えば”なグループが新曲をリリースしたので、このタイミングで取り挙げたいと思います。

 KARDのすごいところは、デビューから今まで3年間ずっとMoombahtonをタイトル曲として活動しているところです。こちらがデビュー曲ですが見事にMoombahtonです。

■K.A.R.D - Oh NaNa

 さて、先程からMoombahton、Moombahtonと言っているとおり、今月はMoombahtonについて解説したいと思います。ちなみにMoombahtonは日本語だと「ムーンバートン」(略してムンバなど)と呼ばれることが一般的ですが、実際の発音はカタカナで書くなら「ムーバトン」が一番近いそうです。

 年始のEDM特集にも、しれっとKARDの楽曲をMoombahtonとして挙げましたが、こちらもまたEDMという大きいくくりの中の一つのジャンルです。しかし今まで説明してきた、さまざまなジャンルが絡み合って段々と新たなジャンルが生まれるような流れとは違い、Moombahtonは成り立ちがとてもわかりやすいです。

 時は2009年、DJのDave Nadaは高校生のいとこが仲間内で集まり家の地下室で定期的にやっているラテン系のパーティーでDJをするよう頼まれます。そこではBachataやReggaetonがかかり盛り上がっており、Dave NadaがMoombahのAfrojack remix(本来はBPM138のもの)をBPM108まで落としてかけたところ、その場は狂ったように盛り上がったそうです。

■Silvio Ecomo & Chuckie - Moombah (Afrojack Remix)

 本来はDutch Houseジャンルの曲のBPMを落としたことでReggaetonのリズムになり、ラテン系のジャンルに慣れた人たちにも親しみやすいものとなったのでしょう。この流れからもわかるように、「Moombahton」とは、「Moombah」という曲名がジャンルの「Reggaeton」と合わさったものになります。ちなみに、この楽曲のBPMを落とすという手法は90年代後半、アメリカ南部のヒューストンにてDJ Screwが生み出したChopped & Screwedと呼ばれるRemixの手法で、昨年8月の記事で早回しについて少し説明しましたが、その逆ということになります。

BachataとReggaeton〜Moombahtonの世界的ヒット

 Moombahtonができる、まさにその場でかかっていたBachataとReggaetonについて少し説明します。

 Bachataは中南米のドミニカ共和国発祥のジャンルです。南米では音楽とダンスは切り離せない存在で、ダンスのジャンルが先行してでき、音楽のジャンルになっているものもあります。左右に2ステップを踏むのが基本の動きで、ほかのラテンジャンルに比べ腰を使う情熱的なダンスが特徴。曲は4拍子で4拍目にアクセントがありスローテンポでロマンチックなラブソングが多いです。

 Reggaetonは90年代後半、プエルトリコで流行っていたスペイン語のReggaeとプエルトリコの音楽(Salsa、Bomba、Plenaなど)がHiphopから影響を受け出来たものです。本来Raggaeはジャマイカの音楽であり英語が原則でスペイン語で歌われることはなかったのですが、スペイン語が公用語のパナマにパナマ運河の労働者としてジャマイカや英語圏のカリブ海の人たちが出稼ぎに行ったことを機に文化が混ざり、90年代前半頃からこのような楽曲が増えて行きます。

■Vico C - Bomba Para Afincar


 この曲は最初Hiphopっぽく始まりますが(0:20~)、5小節目(0:30~)からReggaetonっぽいビートになり、その後この2種類のビートを繰り返します。


 こちらは1997年のIvy Queenの『The Noise Live』という公演で、リズムはほぼReggaetonですが当時はまだその定義はなくRap&Reggaeと呼ばれています。段々とReggaetonが形作られていき、2004年N.O.R.E.の「Oye Mi Canto」のヒットで世間的な認知を受けます。

 その後「Oye Mi Canto」にも参加していたDaddy Yankeeの「Gasolina」が国際的にヒットし世界をReggaetonが席巻します。当時欧米圏のエンタメを必死に追っていた身としては、レゲエとは違うまた新たな南米音楽が出てきてあっという間に広がり、「日本でもはやってる!」というイメージでした。

 その後2010年2月にカナダはバンクーバーで行われた冬季オリンピックにてDave NadaがMoombahtonをプレイし、後を追うように既存楽曲のMoombahton Remixがリリースされ、どんどんとMoombahton楽曲が量産されていきます。Moombahtonのはやる少し前に同じようにブームがあったTrapやDubstepなどのクラブミュージックのジャンルも、既存楽曲をそのジャンルに落とし込みやすい傾向があったため、楽曲が量産され、瞬く間に広がったのかなと思います。

 早いうちからMoombahtonに目をつけていたプロデューサー、トラックメイカーのDiploとSkrillexは自分のツアーやラジオにDave Nadaを呼んだりDiploのレーベルMad DecentからMoombahtonのコンピレーションをDave Nadaにリリースさせたりします。クラブシーンとしては、13年頃にはもうMoombahtonは栄光を失ったと言われますが、15年にDiploの所属するダンスユニット・Major LazerとDJ Snake名義でリリースされた「Lean On」で世間一般的にMoombahtonが知られます。

■Major Lazer&DJ Snake - Lean On (feat. MØ) 


 この曲は当時、洋楽をかじっていた方なら知らない方はいないほどヒットした楽曲で、その後SkrillexがプロデュースしたJusin Bieberの「Sorry」もリリースされ、それぞれ今現在27億回、32億回再生されています。

 ちなみに17年にリリースされたLuis FonsiとDaddy Yankeeの「Despacito」はReggaetonですが、2010年代にYoutubeで最も再生された(およそ65億回)楽曲だそうです。

 ということで、いつも通りK-PopのMoombahton楽曲を挙げていきますが、今回はかなり数が多くなってしまいました。それだけK-Popの楽曲の中でMoombahtonがメジャーなジャンルということかなと思います。こうやって振り返ってみるとMamamooの「Egotistic」などは、もともとのジャンルの成り立ちを意識した楽曲とMVの作りになっているのを強く感じます。

■BTS (방탄소년단) - 피 땀 눈물 (Blood Sweat & Tears) 2016/05/02

■NCT 127 엔시티 127 - 소방차 (Fire Truck) 2016/07/07

■박재범 Jay Park - Me Like Yuh 2016/10/26

■CLC(씨엘씨) - 미유미유 (Meow Meow) 2017/01/17

■GOT7 - Never Ever 2017/03/13

■WINNER - REALLY REALLY 2017/04/04

■청하 (CHUNG HA) - Why Don’t You Know (Feat. 넉살 (Nucksal)) 2017/06/07

■UP10TION(업텐션) - Runner(시작해) 2017/06/29

■SUPER JUNIOR 슈퍼주니어 - Lo Siento 2018/04/12

■(여자)아이들((G)I-DLE) - LATATA 2018/05/02

■BLACKPINK - FOREVER YOUNG 2018/06/15

■NU'EST W(뉴이스트 W) - Dejavu 2018/06/25

■마마무(MAMAMOO) - 너나 해(Egotistic) 2018/07/16

■PRODUCE48 - Rumor 2018/08/18

■LOONA 이달의 소녀 - 열기
Sportify

■THE BOYZ(더보이즈) - No Air 2018/11/29

■SoRi (소리) - I'm Ready (FEAT. JAEHYUN) 2018/12/20

■EXID(이엑스아이디) - ME&YOU 2019/05/15

■GFRIEND(여자친구) - Fever(열대야) 2019/07/01

■MONSTA X 몬스타엑스 - FOLLOW 2019/10/28

■현아 (HyunA) - FLOWER SHOWER 2019/11/05

<落選したけど……紹介したい1曲>
■MCND - ICE AGE

 ついにデビューしました!TOP MEDIA所属5人組、Music Creates New Dream、MCNDです。上に挙げているUP10TIONの後輩です。この曲の歌詞は全てリーダーのCastle Jくんが書いており、サバイバル番組『Undernineteen』に出ていたマンネのWinくん(緑髪、2004生まれ)がめちゃくちゃラップがうまい……。先月、「TOP GANG」という曲でフリーデビュー済みだったのですが、今時ここまで正面からHiphopで攻めるグループもいないので頑張ってもらいたいです。若手の中ではStray kids、ATEEZの次にラップがうまいグループだと思います。
■MCND - TOP GANG

<近況>
一瞬行こうかと悩んだTwiceの東京ドーム公演が延期になり、今月4週目に予定されているStray kidsの大阪公演は何も知らせがなく……しかしJYPエンターテインメントがCOVID-19拡散防止のために5億ウォン寄付したとニュースになってたのでこういう時に株持ってて良かったな…と思う日々です。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

SF9「One Love」から紐解くK-POPとFrench House――Abba・DAFT PUNKにつながるEXO他17曲

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。1月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲‖SF9 - One Love

Apple Music
Sportify

 今回の活動でデビュー4年目にして音楽番組初1位を獲得した、FNC Entertainment所属の9人組ボーイズグループSF9。1位おめでとうございます。タイトル曲の「Good Guy」はとても良い4つ打ちですが、今月は今回リリースされたアルバム『First Collection』の収録曲「One Love」を紹介したいと思います。

 今回のキーワードは「French House」。French Houseといっても、すぐにどういうものなのか思い浮かばない方もいるかもしれませんが、先月の記事で2019年にリリースされたEDM楽曲として紹介したDONGKIZの「Fever」はFrench Houseと呼べるでしょう。

 これまでの記事で解説してきたジャンルと同じように、French Houseもさまざまなジャンルからの影響を受け、段々と形作られました。「House」とついているように「Funk House」「Funky House」などのジャンルと並行して、「Euro Disco」「Space Disco」「Deep House」などの影響を受け、90年代中盤に生まれた4つ打ちでBPMは110~130ぐらいまでのものを言います。

 時を追って説明していきますが、時は遡り70年代中盤にアメリカから始まったDiscoのブームは世界中に広がり、スウェーデンからはABBA、ドイツからはArabesque、Boney M.、Dschinghis Khan、フランスからはHot Blood、Cerroneなどヨーロッパの国単位でたくさんのアーティスト・グループが出てきました。それらがアメリカ・イギリスとは差別化され、70年代後半に「Euro Disco」というジャンルとして確立していきます。

■Abba - Dancing Queen

■Boney M. - Sunny

■Hot Blood - Soul Dracula

■Dschinghis Khan - Dschinghis Khan

 自国での担い手が増えると自然と幅も広がり、フランスでは派生ジャンルとして1977年頃~80年代前半にかけてSpace Discoと呼ばれる、サウンドもビジュアルも未来・宇宙的テーマを取り扱ったジャンルが流行します。映画『スターウォーズ』シリーズが77~83年にかけて公開されており、少なくともそこからの影響がなかったことはないでしょう。

■Space - Magic Fly

■Sheila &Black Devotion - Spacer

 Euro DiscoからSpace Discoが派生したように、80年代はItalo Discoが生まれ、80年代後半に作られるEuro Discoはスペインとギリシャ、ポーランドやロシアが生産のメインになっていきます。90年代に入ると、House、Acid Houseなどから影響を受け、Euro Discoのスタイルは段々と変わっていきます。

 そんなEuro Discoの最終形態がFrench Houseと言われており、もちろん少しはEuro DiscoやSpace Discoの影響を受けていますが、どちらかというと70、80年代のアメリカのダンスミュージック、P-Funk、Chicago HouseのJackin'(Jazz)的な部分を取り入れています。HouseやTechnoのリズムにそれらをはめ込み、そこにフィルター系のエフェクトを加えたもので、ファンキーなギターのサウンドと上ネタのシンセなどに特徴があります。

 90年代中盤に生まれた、今はFrench Houseと呼ばれるような楽曲をもともとは「Nu Disco」や「Disco House」、「New Disco」などと呼んでいました。「French House」の原型となる「French Touch」というフレーズが87年にパリで行われたクラブイベントに名付けられた説、96年に音楽雑誌のレビューで定義付けられた説など諸説ありますが、99年にMTV UKの特番において、フランスで起こっているこのようなジャンルの楽曲がリリースされる現象を「French house explosion」と呼び、そこからMTV経由で各国に伝わり、French Touchという現象が世界中に「French House」というジャンルとして伝わりメインストリーム化していきます。

 French Houseの代表的なアーティストは、私と同世代もしくは上の方なら知らない方はいないであろう、Daft Punkなどが挙げられます。今までの説明を踏まえ1stアルバムとしてリリースされた『Homework』に収録されている「Around the world」を聞くと、宇宙的な要素を感じさせるシンセの上ネタ、リズムとしての4つ打ちの要素、Funkっぽさのあるベースなど今まで説明したさまざまな要素が読み取れると思います。

 世界的にヒットしたFrench Houseを2つ紹介します。

■Cassius - 1999

■Stardust - Music Sounds Better With You

2010年代のFrench House

 また70~80年代のUS Disco、80年代のItalo DanceやFrench Houseから影響を受け、2000年代中盤頃に「Nu Disco」というジャンルが生まれます。混乱するかもしれませんが、先述の90年代に「French House」を「Nu Disco」と呼んでいた時のものとは全く別物で、オンラインで楽曲配信サービスをする「Juno」や「Beatport」がダンスミュージックをジャンル分けするのに使い出したのが、2000年に入ってからの「Nu Disco」です。02年に、音楽雑誌が「70年代ディスコ/ファンクに現代のテクノロジーと繊細な楽曲制作を適用した結果、誕生した音楽」として「Nu Disco」を評しました。

 具体的には90年代後半~2000年代のEuro Discoの楽曲を「Nu Disco」と命名し直すことでわかりやすくなっただけかなとは思いますが、90年代のリリース当時に「French House」と分類されていたものも、今では「Nu Disco」にくくられたりしているので、「French House」「Disco House」「Electro Disco」などを包括する位置付けになっているように思います。

 2010年代の「French House」「Disco House」などの楽曲をいくつか紹介します。

■Justice - D.A.N.C.E.

■Louis La Roche - Gimme Gimme

■Madeon - The City

 ということで細かくこれは「French House」、これは「Nu Disco」「Euro Disco」……と括るのが難しいですが、毎回恒例、ざっくりとそのジャンルに該当するK-Pop楽曲を挙げていきたいと思います。

f(x) - 시그널 (Signal) 2013/07/29

Apple Music
Sportify

9MUSES(나인뮤지스) _ Glue(글루) 2013/12/04

KARA(카라) - 맘마미아 (Mamma Mia) 2014/08/17

Wonder Girls - I Feel You 2015/08/02

SHINee 샤이니 - Married To The Music 2015/08/02

Brown Eyed Girls(브라운아이드걸스) - Wave 2015/11/5

Apple Music
Sportify

스누퍼(SNUPER) - 지켜줄게(Platonic Love) 2016/03/07

EXO 엑소 - Lucky One 2016/6/9

TopSecret(일급비밀) - She 2017/01/03

SUPER JUNIOR(슈퍼주니어) - Spin Up! 2017/11/6

Apple Music
Sportify

EXO-CBX - Vroom Vroom 2018/4/10

Apple Music
Sportify

키(Key) - Imagine 2018/11/26

Apple Music
Sportify

유빈(Yubin) - Thank U Soooo Much 2018/11/27

김동한 (KIM DONG HAN) - FOCUS 2019/5/1

우주소녀 (WJSN) - Boogie Up 2019/6/4

U-KNOW 유노윤호 - 불러 (Hit Me Up) (Feat. 기리보이)2019/06/07

YOUNGJAE(영재) - GRAVITY 2019/06/11

<落選したけど……紹介したい1曲>
ENOi - 사과 (Not Sorry)
Apple Music
Sportify

5月にも紹介したENOiがカムバしました! タイトル曲も良いのですが、アルバム1曲目のこちらがSF9の「Good guy」好きな人は絶対好きなDeep House楽曲なので、聴いてください。

<近況>
特に何の用事もなしにバンコクとホーチミンに10日間程いたので寒いのが辛いです。NCT Dreamを見たのですがヘチャンが30cmぐらいのところに来たのでヒッ! と言いながらのけぞりました。「Trigger the Fever」最高!

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

2019年のK-POPシーンを振り返る――日本語楽曲のクオリティが急上昇、EDMはジャンル定着

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。今回は2019年のK-POPを振り返ります。

 明けましておめでとうございます。年も明けたということで、今回は下記の3つのトピックスから2019年のK-Popシーンを振り返りたいと思います。

・K-Popの楽曲の方向性
・K-Popグループの日本での楽曲リリース、活動
・脱退、活動休止など

トピック1:K-Popの楽曲の方向性

 2019年はシティポップ楽曲が増加したこと、 また19年から突然というわけではないですが、年々EDMというジャンルの中での楽曲の幅の広がりを感じます。「EDM」というとフェスで騒ぐうるさい曲というイメージがあるかもしれませんが、Electro Dance Musicの略で、5月に紹介したBlackpinkの「Kill this love」はTrap、6月に紹介したDeep house7月に紹介したPsyche Trance10月に紹介した2stepなど全てがここに包括されるような大きいジャンルのくくりです。

 2010年頃も4つ打ち楽曲は多かったですが、BPM128前後でシンセの音が全面的に出ている、今でいうとElectro Houseとジャンル分けされるような楽曲がほとんどでした。当時の2NE1、BEAST、INFINITE、T-ARA、U-KISS、4MINUTE、KARAなどをイメージしてもらえばわかりやすいかと思います。

 その時と比べると新たに「EDM」という単語ができ定着してきたり、上記のジャンル以外にもFuture Bass、Tropical House、Moombahtonなどのジャンルが新しく生まれ、HouseやTechnoなどのジャンルも更に細分化しました。16年頃から現在も、Future Bassのはやりは依然として根強く残り、18年頃からDeep Houseの流れが来ていますが、一方でマイナーな事務所でも新しいジャンルの楽曲をリリースする状況も出てきているように感じます。今年は特にElectroやBig Room Houseなど一般的にEDMと思われる、フェスで聞くような派手な楽曲が例年に比べて多く感じました。あとはEuro Dance、Hard Style、Hardcoreあたりをやるアイドルが出てくれば、K-PopシーンでもうほとんどのEDMジャンルは網羅できるのではないでしょうか。

 ということで、楽曲にそのジャンルの要素があると思うEDMのサブジャンルを書きながら、19年にリリースされた順に楽曲を紹介していきます。

<French House、Nu Disco、2step>
네온펀치 (NeonPunch) - Tic Toc 2019.1.30

<Future Bass>
이달의 소녀 (LOONA) - Butterfly 2019.02.19

<Future House>
장동우(Jang Dong Woo) - Party Girl 2019.03.04

<Electro Swing>
DIA(다이아) - WOOWA(우와) 2019.03.19

<Melbourne Bounce>
MOMOLAND(모모랜드) - I'm So Hot 2019.03.20

<Electro、Future Bounce>
Stray Kids - MIROH 2019.03.25

<Moombahton>
KARD - Bomb Bomb(밤밤) 2019.03.27

<Tropical House、Future Bass>
IZ*ONE (아이즈원) - 비올레타 (Violeta) 2019.04.01

<Bass House>
NCT 127 - Superhuman 2019.05.24

<Garage House、Electro House>
공원소녀(GWSN) - RED-SUN(021)  2019.07.23

<Synth Pop>
디원스(D1CE) - 놀라워 2019.08.01

<Electro House、Progressive House>
TRCNG - MISSING 2019.08.04

<Big Room House>
EVERGLOW (에버글로우) - Adios 2019.08.19

<Deep House>
NU'EST - LOVE ME 2019.10.21

<Trap>
A.C.E (에이스) - 삐딱선 (SAVAGE)  2019.10.29

<Disco House、French House>
DONGKIZ - Fever 2019.11.06

 韓国語楽曲のリリースより真面目に追ってないこともあり、今回あらためて日本語楽曲を挙げてみたことで、はっきりと2018年とは状況が違うなと感じました。

 まずは日本オリジナル曲の作りが韓国語曲に近付いてきていること です。個人的な好みではありますが、 日本でリリースされる楽曲は韓国語楽曲を越えられることはないから別に聞かなくてもいいだろう、という位置付けでした。そうした固定概念を覆されたのが19年だったように思います。 ジャニーズやLDH関係でもK-Pop(韓国語楽曲) と同じ作曲家が起用されていますが、作曲家が同じにもかかわらずJ-PopとK- Popでは楽曲の構造やトラックの高中低音の配分、 ボーカルの押し出し方など、さまざまなところで違いが感じられます。それはプロデューサー(発注側) の考え方の差だと思っていたので、 その人たちの考え方が変わったのか、何があったのか。 外から見ているだけだとわからず、気になるところです。

 リリース順にいくつか挙げましたが、個人的には今までGOT7の日本語曲に期待したことは一度もなく、聞いては後悔を繰り返していたので、今回このような楽曲がリリースされたことに驚いているし素直にうれしいです。あとはやはりTwiceが「Fake & True」の一つ前の「Breakthrough」がリリースされたときから、おや……? 様子が違うぞ? と思っていたら、その後韓国でも日本でも良い楽曲しかリリースされず、こちらもビックリしました。

 以前に比べて、日本オリジナル曲をリリースするグループが増えたとも感じています。デビューの仕方も、既存韓国語曲の日本語バージョンもしくは日本語オリジナル曲をリリースするという2パターンから、The Boyzのように全く新しい韓国語楽曲で日本デビューするという今までないパターンも出てきました。THE BOYZのEPは6曲中5曲が韓国語で、日本語曲は1曲しかありません。ATEEZは既存韓国語曲の日本語バージョン2曲のうち1つをタイトル曲とし、それ以外は既存韓国語曲をRemixした9曲を収録したアルバムをリリースしました。そして同時に、『TREASURE EP.EXTRA : SHIFT THE MAP (Remixx!) 』として日本語バージョン2曲を除いたものを韓国でリリースするという、今までにない展開です。

 K-Popアイドルが日本語曲を出すことに対しては昔からさまざまな議論があり、どうしても楽曲のクオリティが下がってしまうように感じることから、私は別にいらないと思っていましたが、以前Zion.Tがインタビューで「日本で活動するときは、韓国とは区別して、日本人のように歌いたいなと思っている」と答えている文章を見て、そこに本人の意思があり制作の時間なども十分に取れるなら意味があるのかなと思いました(全ての楽曲の作詞作曲を自分たちでやっているStray kidsの日本デビューがずっと心配です)。

Red Velvet - SAPPY 2019.01.05

EXID(이엑스아이디) - トラブル (TROUBLE) 2019.01.23

NCT 127 - Wakey-Wakey 2019.03.18

SEVENTEEN - Happy Ending 2019.05.17

GOT7 - #SUMMERVIBES 2019.07.31

PENTAGON - HAPPINESS 2019.08.13

MONSTA X - Carry on 2019.08.21

TWICE - Fake & True 2019.10.17

THE BOYZ(더보이즈) - TATTOO 2019.11.06
 

ATEEZ - TREASURE EP.EXTRA : SHIFT THE MAP 2019.12.04

 このキーワードを見て「ああ……」とならない方はいないぐらい、脱退や活動休止の多い年でした。年始のバーニングサン事件に関連するBIGBANGのV.I.の脱退から始まり、さまざまな理由で色々なグループのメンバーが脱退したり活動休止したり……。

 個人的に、物事や人の考えは常に変わるものと思っているので、本人の意思でグループを離れることやグループが解散になることは全然アリだと思う半面、大衆からの評価などが多分に影響してくる仕事の性質上難しいなと思うところもあります。

 年末に来日したLim Kimのインタビューで、「K-POPの女性ソロ歌手に対する画一的なイメージがあり、なぜ私をこう見るのだろうと思った」「以前の活動を通して私を好んでくださっていたファンの方や、私が積み重ねてきたキャリアというのは私の物ではなかった」(自分のやりたいことができていたわけではないという趣旨)と答えているのを見て、もちろん一般的にアイドルというのは演じることがメインで作詞や作曲ができなくても成り立つものですが、「音楽をやりたい」という意思のある人たちにはそれができる環境があればより良いと思います。

 実際にここ3〜4年は「自給自足アイドル」という固有名詞も出てきているように、制作を実現しているグループも数えられないほど出てきています。ですが一方では、アーティスト本人たちへの負担は昔に比べ計り知れないほど大きくなり、韓国の完璧主義の風潮が悪い方向に働き、心身ともに影響が出ている人たちも見受けられます。

 もう少しマクロ的な視点で見ると、個人的にはフットワークが軽く新しいことをやるのに向いている新陳代謝の良い国だと感じますが、何かを長く継続してやるという文化が日本に比べるとあまりなく(それが良いのか悪いのかはまた別の話)、短期間に根を詰めてやるのには支障がなくても、長く続けようとするとどうしても影響が出て、今のような状況になっているようにも感じます。社会としても日本と比べると突然何かが決定されるようなことが多いため、遠くのスケジュールなどを見越せず、中長期的なビジョンを持ちづらく、ほとんどの事務所は会社の規模が小さく体力が持たないという点もあると思います。どうしても世の中の動きが速いため、今アピールできないとチャンスを逃してしまうという焦燥感が強くなることもわかりますが、多様な価値観を重視し、さまざまな活動形態でアーティストとして活動していけるような未来が来て欲しいです。

 前述のLim Kimのインタビューにもあるように「アイドルだからこうなんでしょ」という固定観念が強く、そこから一歩でも道を踏み外すと強いバッシングを受け、日本に比べると流行に一辺倒で多様性に許容が少ない傾向を感じます。先程の日本活動の部分に関係しますが、その点、音楽ジャンルに関して日本はどんなものでも幅広く許容する土壌があり、韓国でやることが難しいようなものでも受け入れられる可能性があるかもしれないので、もちろん韓国で何でもできるのが一番だとは思いますが、せっかく日本で活動するなら、その部分を生かしたことができると良いのかなと思います。

12月分の紹介したい1曲‖Stray Kids - Gone Days

日本語含め8カ国語で字幕がついてるので是非字幕をオンにして見てみて下さい。韓国は日本以上に上下関係が厳しく上の人の言うことが絶対の世界なので、そんな背景を思いながらこの曲を聴いて泣きました。

<近況>
 皆さんにとって2019年はどんな年でしたか? 私は本厄でしたが実家の犬に腕を噛まれたりソファに足を強打して薬指が腫れたぐらいで、その代わりに申し込む公演全てのチケットが当たるという謎な年でした。

 そして冬っぽいなと思う曲を詰め込んだDJミックスを作ったので(一部のクリスマス曲はもう季節外れ感ありますが……)、是非聴いてください!

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

K-POPとアラビック音楽が面白い15曲! B.I.Gは「アラビア語バージョン」で人気拡大中

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。10月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲‖비아이지 (B.I.G) – ILLUSION

 GH Entertainment所属5人(6人?)グループ、B.I.Gのアラビック調の新曲です。メンバーの2人がアイドル再起プロジェクト番組『The Unit』への出演経験があり、これから日本で始まるアイドル発掘プロジェクト「G-EGG」にも再度出演予定とのことです。今回のリリースはシングルなのですが、同時にアラビア語バージョンも収録されており、なんとMVも別であります。

 そして驚くことにアラビア語バージョンの再生数が韓国語バージョンの倍近いことになっています。今までは日本語や英語、中国語、スペイン語バージョンの楽曲を用意するアイドルはたくさんいましたが、アラビア語バージョンをリリースしているのは彼らだけではないでしょうか。

 2019年年始に、彼らがラジオ番組「KBS World Radio Arabic」でアラビア語の楽曲をカバーし、アラブ圏での反応が良かったため定期的にアラビア語のカバー曲や自分たちの既存曲のアラビア語バージョンをリリースし、地道に活動し続けた結果、大統領官邸で開催されたサウジアラビア皇太子の訪韓公式昼食会にゲストとして呼ばれた唯一のアイドルグループとなりました。

 16年にUAEのアブダビにて『KCON』が開催されたものの、それ以降中東圏でのK-Popグループの公演は少なく、18年にドバイで『SMTOWN』、今年の7月にはSuper Junior、Stray Kidsがジェッダで、10月にはBTSが首都リヤドで公演を行い、B.I.Gも11月にアブダビにて単独公演・ファンミーティングを行いました。今年の9月末に、サウジアラビアへの観光目的でのビザ発給が解禁されたこともあり、中東圏も段々といろいろな面で開けてきたことを感じます。

 と、いうことで今月はいつもよりもぐっと幅を広げ中近東圏の音楽について解説したいと思いますが、語り始めたら到底足りないので基礎的で一般的な所をかいつまんで説明します。

中近東圏の独特の音階・リズムとは?

 まずは音階についてです。いま私たちが普段耳にしている一般的なポップスなどは、基本的に西洋音楽の枠の中で考えられたもので、全音階というド~シの1オクターブをピアノの鍵盤でいう12音階に分けて、ドから始めると長音階(メジャースケール)、ラから始めると短音階(マイナースケール)、そこからハ長調(C Major)、イ短調(A Minor)というような表し方をしています。

 一方で中東圏には「マカーム」という音階があり、アラブのマカーム、トルコのマカームというように地域によって複数存在していて、その種類は150、組み合わせで無数にあるとも言われています。例えば「マカーム・ヒジャーズカル」はドレ♭ミファソラ♭シの7音階、「マカーム・ナワサル」はドレミ♭ファ♯ソラ♭シの7音階です。マカームはシルクロードを越え、ウイグルでも「ムカーム」と呼ばれ、西はモロッコから東はウイグルまでがイスラーム文化圏の音楽システムを使っています。

 日本でもヨナ抜き音階や琉球音階という音階があるように、ヨナ抜き長音階であればドレミソラの5音、琉球音階はドレミファソシの6音と言われており、どれも実際に聞いてみると感覚でそれっぽいというのがわかると思うので、YouTubeなどで検索して実際に音を聞いてみて下さい。

 一方でリズムは「イーカー(iqa‘またはiqa‘at)」と総称されるさまざまなリズムパターンを使います。こちらもアユーブ、マクスーム、マルフールといったさまざまパターンがあります。またアラビア圏の音楽をアラビア音楽たらしめているのは、以上のマカームやイーカーを奏でる楽器が占める部分も大きく、西洋、アジア圏で使用する楽器の元になったものも多く、音色を聞くだけでアラビア音楽っぽいなというのが感覚でわかってもらえると思います。例えば「ウード」はリュートの元になった木製の撥弦楽器で、「ハンマーダルシマー」や「カーヌーン」、「サントゥール」はピアノの前身と言われています。マカームやイーカーについてはこのサイトが実際に音で聞けてとても参考になるので、英語ですが興味のある方は見てみて下さい。

関連曲:ポピュラー音楽に移行した中近東楽曲

 では、ここでB.I.GがKBS World Arabicで歌ったエジプトのAbuというミュージシャンの「3Daqat」という曲を聞いてみましょう。クラシックでわかりやすいものを選んだつもりですが、この曲はメロディはもちろんのこと、ドラムのダルブッカの音色、リズムがアラビアを感じさせる要素が強いと思います。

 歌謡に焦点をあてると、レコード産業が始まってからはエジプトが中心にアラビア圏を引っ張っていましたが、伝統音楽からポピュラー音楽へ移行するにつれレバノンがリードするようになります。またこれらエジプト、レバノンなどのポップスのことを「シャアビ(Chaabi,Shaabi)」と言い、それ以外にも発祥の場所などによって「ハリージ(Khaleegy)」「シャバービ(Shabbabi)」「アルジール(Al Jeel)」「ライ(Rai)」など細かいジャンルがあります。

 また、現在の中近東の広いエリアをオスマン帝国が支配していた時代、 セルビア人の軍楽隊が休憩時間に民謡を演奏していたものが、トルコの軍楽隊や移動民族“ロマ民族”のジプシー・ ミュージックと融合し「バルカンミュージック」となっていきます。 バルカンミュージックはそれ一括りがジャンルというよりは、変拍子にトランペットなどの管楽器やアコーディオンを使うことが特徴で、現代ではポップスやロック、 ハウスなどさまざまなジャンルに取り入れられています。
■SANDRA AFRIKA ft. COSTI - Devojka tvog druga

 近年は欧米圏のポップスのテイストも取り込み楽曲が欧米的になりつつも、マカームや使われる楽器の特殊さから西洋音楽とは聞いてすぐに違いがわかるような楽曲が多く、スラム教だと女性は肌を隠さなければならないのが一般的ですが、 政教分離の進んだトルコでは欧米圏におけるポップスのMVと見間違えるほど肌の露出が多いものもあります。この4人組女性グループのMVは色使いなどからDestiny' s Childの「Say My Name」を感じさせる作りです。
■Hepsi - Yalan

 B.I.GがカバーしたSaad Lamjarredというモロッコのポップシンガーの「LM3ALLEM」は15年リリースの楽曲で、使われている音色はクラブミュージックと変わりません。

 それでは、K-Popのアラビック要素のある楽曲をいくつか紹介したいと思います。

■티아라(T-ARA) - 하늘땅 별땅

 0:20~入るシンセ、Aメロの後ろで鳴っているシンセもアラビックです。

■f(x) (에프엑스) - 지그재그 (Zig Zag)
サビの上ネタがアラビックです。

■디홀릭 (D.Holic) - 쫄깃쫄깃 (Chewy)

イントロ部分で鳴っているホーンがアラビックです。少しバルカニックっぽくも聞こえます。

■Nop.K - Queen Cobra (Feat. Don Mills)

これは曲全体が完全にバルカニックです。

■UP10TION(업텐션) - Catch me!(여기여기 붙어라)

イントロ、ラップの入る0:51~のトラックの上ネタがアラビックです。

■4MINUTE(포미닛) - Canvas

サビの上ネタがアラビックです。

■OH MY GIRL(오마이걸) - WINDY DAY

サビ後のインストの部分がバルカニック(特にロマ、ジプシーミュージック)です。

■마마무(MAMAMOO) - 아재개그(AZE GAG)

2:23~、3:51~の間奏がアラビックです。

■이달의 소녀/최리 (LOONA/Choerry) - Love Cherry Motion

サビ後の1:28~、2:45~がバルカニックです。

■리얼걸프로젝트(Real Girls Project) - 핑퐁게임(PINGPONG GAME)

サビの直前0:48~、1:39~のそれぞれ4小節がアラビックです。

■EXO (엑소) - 다이아몬드 (Diamond)
トラックの音だけがアラビックなものが多かったですがこの曲はボーカルもトラックも楽器も全てがアラビックです。

■PENTAGON (펜타곤) - 재밌겠다 (Rap unit)
1:39~の上ネタ、2:30~のサビの上ネタがアラビックです。彼らのデビュー曲Gorillaもバルカニックですね。

■DIA(다이아) - WOOWA(우와)

1:49~の上ネタがアラビックです。

■에이스 (A.C.E) - Do It Like Me

EXOのDiamonと同じくボーカルもトラックもアラビックです。

■AleXa (알렉사) - Bomb

1:39~のサビのシンセがアラビック、特にエレクトロ・シャアビ(Electro Chaabi)。先述のシャアビ(Chaabi)から発展したエレクトロミュージックで、マハラガーン(Mahraganat)とも言います。

<落選したけど……紹介したい1曲>
今月どうしてもどうしても1曲に絞れず……。あまりしゃべらないので2曲紹介させてください。
■PENOMECO (페노메코) X ELO (엘로) LOVE? Feat. GRAY(그레이)

気持ち良さでいうとこちらのが少し上……

■GOT7(갓세븐) - Thursday

多幸感で言うとこちらのが上……GOT7がこういうのをやり続ける限りJYPの犬はついて行きます。

<近況>
Stray Kidsを見にソウルに行き、嗚咽するほど泣きました。この記事が出る頃にはまた代々木第一体育館で彼らを見ているでしょう。
12/13(金)18:00~秋葉原mograにて久しぶりのLiarLiarを開催します。もしかしたら入場規制がかかるかもしれませんが良かったらどうぞ。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

SHINee・EXO・NCTの「SuperM」は楽曲もスゴい! K-POPの「Juke」に驚嘆のワケ

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。10月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

今月の1曲‖SuperM - I Can't Stand The Rain

 SHINeeのテミン、EXOのベッキョン、カイ、NCTのテヨン、テン、ルーカスからなるアベンジャーズ(?)グループ・SuperMのアルバム曲「I Can't Stand The Rain」です。SuperMの結成が発表された時から、グループの存在に賛否両論が飛び交い、リリース後にBillboardの8つのチャートで1位を獲ってもなお、プロモーションの仕方やチャートの妥当性などが毎日議論に挙げられている状態です。

 売り出し方やアメリカでの人気の是非などについては、いろいろな人が論じていますが、あまり音楽的な面で説明されているものを見ないのと、最近のSMからリリースされる楽曲にあまりピンと来ていなかった私が、久しぶりに面白いアルバムだなと思ったので今回は2曲目の「I Can't Stand The Rain」を紹介したいと思います。

 アルバム全曲、さまざまなジャンルを取り込んだ楽曲になっており、JoppingはTechno、2 Fastは2stepと説明し出したらキリがないのですが、「I Can't Stand The Rain」で特筆する部分はサビの「너 없이 난 아무것도 할 수 없어(の おぷし なん あむごっと はるす おぷそ)~I can't stand the rain」の部分です。ここのドラムの打ち方が「Juke」というジャンルで、この曲を聞いた時にびっくりしました。今回は、Jukeというジャンルについて紹介したいと思います。

関連曲‖Jukeのルーツを知る

 Jukeを語るにあたってルーツのChicago Houseの説明をする必要があるのですが、源流を辿るとそのジャンル名にもあるようにHouseに辿り着き、先月取り上げた2stepともルーツは同じであることがわかると思います。

 先月の記事通り、HouseはFrankie KnucklesがシカゴにあるWare Houseでかけた楽曲を「House Music」と呼ぶところから来ています。当初はディスコやサルソウルなどのフィリーソウルをプレイしていたので、NYのParadise Garageでかかる「Garage」とあまり違いはなかったのかもしれませんが、ドラムマシンやシンセサイザーを多用したエレクトロニックなトラックがHouseの特徴で、House musicの最初のヒット曲、1985年リリースのシカゴ出身J.M. Silkの作ったこの曲を聞くと何となくはわかるかもしれません。

■J.M. Silk - Music Is The Key

 先程の曲は現代で一般的に言う「House」というイメージからは少し離れているかもしれませんが、86年にリリースされたこの曲はなんとなくイメージと近くなるかと思います。

■STEVE "SILK" HURLEY - Jack Your Body

 この曲はシカゴで作られたChicago Houseですが、UKのシングルチャートで1位を獲得し世界的にHouseというジャンルの名前が知られていきます。Houseは制作のために使われるドラムマシンやシンセサイザーなどの機材が当時格安で出回っていたこともあり、DiscoやSoulのように沢山の楽器でセッションをして曲を作るという過程がなくても曲が作れることからたくさんの楽曲が作られ、そこからAcid House・Deep Houseなどのサブジャンル、Detroit Technoなどに派生していきます。

 その後Chicago HouseはHiphopをルーツにするBass Music「Miami Bass」と混ざり合い、1990年代前半頃、粗くてダーティな質感の「Ghetto House」というジャンルが生まれます。

 Miami Bassは、昨今よく使う「Bass Music」という大きな括りのクラブミュージックを表す語源となったジャンルで、ジャンル名に入っている通り発祥はアメリカのマイアミです。と言っても、代表的なアーティスト2 Live Crewは南カリフォルニア出身で、週末の度にマイアミに行ってライブをしていたそうですが、彼らが完全にマイアミに拠点を移しMiami Bass DJ’sというクルーを立ち上げたのがジャンル名の元となっています。マイアミのクラブでは、さまざまなジャンルの楽曲が低音重視でプレイされていたことや、2 Live Crewが踊りやすいようにビートを強調したトラックをRolandのTR-808というドラムマシンで作ったことなどもあり、低音が強調されたTR-808のドラムが入った楽曲がMiami Bassの特徴と言えるでしょう。また、とにかく下品な歌詞やジャケット、既存の曲や歌詞を無断で借用したり、何でもアリな風潮も特徴です。2 Live Crew以前の世界的に名前が知られたMiami Bassと言われた、TR-808のドラム音がわかりやすいMC ADEの楽曲と2 Live Crewの代表曲を紹介します。

■MC ADE - Bass Rock Express

■2 Live Crew - Me So Horny

 「Ghetto House」はBooty Houseとも言い、1992年頃に先述のMiami BassとChicago Houseが影響しあって誕生したジャンルです。「Ghetto」というアフリカン・アメリカンのスラングで貧困地域(転じて治安の悪いエリア)を表す単語が入っているように、Gangsta RapやMiami Bassなどの影響などもありHouse Musicに過激な歌詞が入った曲が登場するようになり、そのおかげでゲットーの男性たちがHouse Musicを聴いてもダサくないというような風潮になっていきます。

 この曲は耳で拾えるだけでも、かなり過激な歌詞がたくさん入っていることがわかると思います。

■DJ Funk - There's Some Hoes in This House

 Dance Maniaというレーベルが中心となりDJ Funk, DJ Deeon, Traxmen, DJ Milton, DJ Slugoなどがたくさんの曲をリリースしていくなか、94年リリースのこの曲で初めて「Ghetto House」というフレーズが出てきたそうです。どのジャンルもそうですが、黎明期から音楽ジャンルの名前が付いていることは少なく、ある程度時がたってから「あのムーブメントを括って、こういうジャンルと呼ぼう」となることが多いと感じます。

■DJ Funk - Follow(Getto House Mix)

 Dance Maniaの看板アーティストとして君臨したDJ Slugoが、後のインタビューで「Ghetto Houseはビッチのために作っていた。クラブで女とエロいダンスをするための音楽だ」と語っていたことからも、GhettoやBooty(お尻)などのキーワードがジャンル名に入るのも頷けます。

 90年代前半にGhetto Houseはフットワークと呼ばれる、足を高速で動かすダンスと共に発展し、その盛り上がりからGhetto HouseのBPMもどんどん速くなり、2000年頃になるとChicago JukeやJuke Houseという名前で「Juke」というジャンルが確立し、さらにそこからJukeのキックドラムがなくなり、「Footwork」という音楽ジャンルとして派生していきます。

 ダンスとしてのフットワークは見てもらうのが一番早いと思いますが、曲もFootworkという音楽ジャンルで有名なプロデューサーのものをたくさん使っており、感覚的にわかりやすいと思います。

 Jukeの特徴はリズムとダンス。BPM80、120、160を行き来します。一般的なHouse Musicなどは、120~130ぐらいで、1分間に120回首を振れると言ったらわかりやすいでしょうか。

 クラブミュージックのジャンルは、大体このぐらいのBPMとジャンルでざっくり決まっていることが多い中、Jukeは一定していません。というのも、ドラムがトラックのメインになっており、ハイハット・キック・スネア――どれを全面に出すか、どういう刻み方をするかで、人によって拍の取れ方が変わってくることも多いです。そこが逆にリズムに乗りづらく、ジャンルとして掴みづらい、難解という印象になることもわからなくもないです。

 こちらはダンスバトルの動画ですが、RP BooとTraxmanがDJをしていて、いろいろなJukeの曲が聴けます。なんとなくJukeに対してのイメージが掴めるかと思います。

 日本でもBooty Tuneなどのレーベルが、クラブシーンで活発にJuke/Footworkを広め、Traxmanのアルバムリリースに合わせて作られたドキュメンタリーもあるので興味がある方は見てみて下さい。

 2013年にはNHK BSでEXILEのTETSUYAが本場シカゴに乗り込み、Footworkバトルをするという番組も放送され、ダンスシーンでも注目されていきます。

関連曲‖K-PopにおけるJuke曲

 ビートが主体なこともあり、ポップスに取り入れるのは難しいため関連曲は少ないですが、最後に日本のシーンとK-PopでJukeを取り入れた楽曲を紹介します。

■Boogie Mann running through with Tavito Nanao - Future Running

■EVERGLOW - Bon Bon Chocolat

この曲は連載を始めた一番最初の5月の記事でも取り挙げましたが、ほんの一瞬、最後の3:33あたりにJukeのビートが聞こえます。

<落選したけど……紹介したい1曲>
■TWICE - Fake & True

先月メインで取り上げたTwiceですが、日本の楽曲が前作の「Breakthrough」あたりから、「日本語楽曲はダサい」という今までの固定概念は何だったのか、というほど正解を叩き出しており、韓国での楽曲も含め独走しています。

<近況>
私が熱を上げて追っている(いた)グループのメンバーがどんどん脱退していくんですがどういうことでしょうか…。ラウンちゃん…ファルくん…ミンくん…ウジニヒョン…みんなどこに行ったの…

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

pH-1 からTWICE、NCT127まで全14曲! K-POP、サンプリングの元ネタを一挙解説

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。7月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

いま聞くべき1曲‖pH-1 - You don't know my name

 元2PM、Jay parkが設立したH1GHR Music所属のラッパー、pH-1のアルバム曲です。2000年代のアメリカのHiphop、R&Bを追っていた人には聞いただけで一発でわかる、冒頭の「You don't know my name~round and round and round we go,will you ever know,will you ever know it? 」ですが、これはアメリカのシンガーソングライター・Alicia Keysの「You don't know my name」という曲のサビのフレーズで、1:09~を早回し(※)しています。

□元ネタ:Alicia Keys-You don't know my name

 ということで今回はK-Popにおけるサンプリングについて説明したいと思います。その前に、まずはサンプリングの歴史・経緯について説明します。

 まず、手法でいう「サンプリング」は元々は1940~1960年代にエクスペリメンタルミュージック(実験音楽)のミュージシャンによって開発されたもので、環境音やさまざまな物を使って出した音を録音し、テープを切り貼りして音のコラージュを作ったりするところから始まりました。70年代にターンテーブル(レコードプレイヤー)を2台使い、当時流行していたソウル・ファンク・ディスコなどの楽曲のドラムブレイク(歌がなくドラムとベースだけの部分)を、同じレコードのドラムブレイクにつなぎ、ブレイクの部分だけを繰り返したものがブレイクビーツと呼ばれ、Hiphopのビートとなっていきます。

 Hiphopの3大DJ、Kool HercによるDJプレイの2:45~がわかりやすいです。

 このような成り立ちから、Hiphopはサンプリング技術に基づいた最初のポピュラー音楽ジャンルなどと呼ばれています。Hiphopの楽曲全てがサンプリングをしているというわけではないですが、前述のAlicia Keysの「You don't know my name」にもサンプリング元があります。

□さらに元ネタ:The Main Ingredient - Let Me Prove My Love to You(1:46~)

※ レコードを再生するターンテーブルには再生速度が33回転と45回転の2種類があり、本来33回転で再生するものを意図的に45回転にしてかけるとピッチが高くなりBPMも速くなる。それを利用したサンプリングの手法の1つです。今はデジタルでどうにでもなるのでわざわざターンテーブルで律儀にこれをやっている人は少ないかもしれませんが……。

関連曲:K-Popにおけるサンプリング

 では、ようやくK-Popにおけるサンプリングについてです。
■god - 어머님께

 1999年リリースのgodのデビュー曲、JYPの社長パク・ジニョンが作詞作曲をしています。リリース当時は自身のみの作詞作曲としていましたが盗作疑惑をかけられ、後に2Pacの「Life goes on」をサンプリングしたものと明かされます。バックでかかっているカノンのようなシンセのメロディが「Life goes on」と一緒ですね。

□元ネタ:2Pac - Life Goes On

 先程と同じ流れですが「Life goes on」にもサンプル元があります。

□さらに元ネタ:O'Jays - Brandy(0:16~)

■헤이즈 (Heize) - And July (Feat. DEAN, DJ Friz)

 2016年リリース、シンガー兼ラッパーのHeizeの曲、客演のDeanが作詞作曲をメインでしています。こちらに関しては併せてこの曲も。

iKON - 솔직하게 (M.U.P)

 サンプリングするパーツは曲によってさまざまですが、この2曲に関してはドラムの部分をこの曲からサンプリングしています。

□元ネタ:The Honey Drippers - Impeach The President

 この曲のドラムは数え切れないほどたくさんの曲からサンプリングされており、Hiphop界隈ではImpeachのドラムといえばこれ! というぐらいです。

■블락비 바스타즈 (BLOCK B Bastarz) - That's right

今まではメロディとドラムがサンプリングされていましたがこちらは声ネタ。Block Bの派生ユニット、BastarzのThat's right、0:10の「It's yours」部分がこちらです。

□元ネタ:T La Rock & Jazzy Jay - It's Yours(0:28)

■아이오아이 (I.O.I) - Whatta Man (Good man)

Produce101で結成された期間限定グループI.O.Iの2曲目の活動曲です。こちらは曲名も同じこちら。

□元ネタ:Salt 'N' Pepa - Whatta Man

曲のアイデンティティとなるサビが全く同じなのでこれをサンプリングとするかカバーとするか難しい所ですが、曲まるまる同じわけではないのでサンプリングに留まるのでしょうか。

 さて、ここからはリズムマシンやPCの作曲ソフト等で扱うサンプル・ループ素材について少し取り上げます。プリセットのサンプルとして元々ソフトや楽器に入っているものもあれば追加で買うようなパターンもありますが、基本は作曲ソフト等を購入すれば誰でも使えるもので、わざわざ使用許可を取る必要はありません。

楽器のサンプル例

■NCT 127 - Regular(0:36)

■TWICE - FANCY(0:04)

 2曲の共通している音に気付くのが難しいかもしれませんが、表記の場所で聞こえる「Aaaah!」という声ネタです。Twiceのほうがわかりやすいと思います。

 次も冒頭のAlicia Keys世代の方には、なんか聞いたことあるな……? となるかもしれませんが、 この曲でも同じサンプルを使っています。

■Nelly - Dilemma ft. Kelly Rowland(0:24)

 これはRolandという楽器メーカーのシンセサイザーの拡張ボード(DANCE SR-JV80-06 Expansion Board)に入っている声サンプルです。サンプルはこちら

 同じパターンで、作曲ソフトのサンプルを使っている曲の紹介をいくつかしたいと思います。ちなみにこちらはサンプル元が何なのかは不明です……。

作曲ソフトのサンプル例:1

■JB(GOT7) - Sunrise

백현 (BAEKHYUN) - Ice Queen

この2曲はトラックの上ネタが同じで、JBの曲はイントロからその部分が聞こえるので分かりやすいと思います。

作曲ソフトのサンプル例:2

Sleepy - 잠겨(Fall in love)

■이달의 소녀 (LOOΠΔ) - ++

■피오 (P.O) - 소년처럼 (Comme des Garcons)

몬스타엑스 (MONSTA X) - Party Time

 これら4曲全て同じギターのサンプルが使われています。

 もちろん既存曲からのサンプリングの場合著作権などが絡んでくるため、上記パク・ジニョンの曲のように盗作騒動になったりもしますが、Crushの「Oasis」のようにリスナーが早とちりして騒いでしまうパターンもあります(Crushの「Oasis」はEric Bellingerの「Awkward」の盗作だという議論が浮上し、Eric Bellinger本人がそうは思わないと否定した経緯があります)。

 私のもとに、この曲とこの曲のフレーズが同じなんですけどそんなことありますか? と質問が来たこともあります。1970年代ぐらいから、そのような議論は絶えないですが、韓国のHiphopウェブマガジン「RHYTHMER」が2014年にサンプリングのことについて書いた記事があり、日本語訳もされているので興味がある方は読んでみて下さい。

<落選したけど……紹介したい1曲>
크나큰 (KNK) - SUNSET

 220ent所属の5人組グループKNKの新曲です。びっくりするぐらいめちゃくちゃテクノです。

<近況>
気付いたら家にWe in the zoneの同じCDがたくさんあって怖いです。
8/12(月・祝) 15時~渋谷AsiaというクラブでK-Popをかけるクラブイベント、Todak Todakを開催します!
ゲストも豪華で広い所でやるので是非たくさんの方に来ていただきたいです!詳細はTodak TodakのTwitterアカウントを御覧ください。電子チケットの販売はこちら

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica

 

Stray Kids「부작용(副作用)」、K-POPファンにはハードル高すぎな難解曲?[レビュー]

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。6月にリリースされた曲から[いま聞くべき曲]を紹介します!

いま聞くべき1曲‖Stray Kids-부작용(副作用)

 6月に取り上げる曲は、6月19日にスペシャルアルバムをリリースしたStray Kidsのタイトル曲「부작용(副作用)」です。まず、スペシャルアルバムって何なんだという話をすると、これはほぼ「リパッケージアルバム」と読み替えて問題ないと思います。K-POP界では、前回出したアルバムなどに新曲をいくつか追加したアルバムのことを「リパッケージアルバム」(リパケ)と言います。追加した曲を新たにタイトル曲と設定し、改めて音楽番組に出演するのですが、この手法だと全く新しいアルバムをイチから作らなくていいので、リリースまでの期間を短くできるというメリットがあり、さらに売り上げなども前回出したアルバムに合算されるらしいので数字を伸ばせるというメリットもありますが、しかしファンにとっては、うれしくもありつつ体力が持たないのでやめて欲しくもあるという、表裏一体のシステムです。

 今回、Stray Kidsがリリースしたのは、今まで出したアルバムにCD Onlyとして入っていた「Mixtape#1」~「Mixtape#4」と、新曲3曲を追加した『Clé 2 : Yellow Wood』というアルバムです。そこから「부작용(副作用)」を取り上げようと思ったのには理由があり、この曲のリリース直後に匿名でメッセージを送れるサービスで私のところに「スキズ史上最高にダサくないですか!?」というメッセージが来たからです。

 どのグループもリリース前のニュースサイト記事などに、タイトル曲はどんなジャンルの楽曲かの説明があり、今回は「サイケデリックトランスジャンルの楽曲」という説明でした。リリースされて、なるほど……となったのですが、やはりこのようなクラブミュージックジャンルの楽曲に慣れてない方には、「부작용(副作用)」は異質に聞こえるものだよなぁと思い、今回取り上げることにしました(しばらくしてからBillboardのインタビューで本人たちが楽曲のジャンルについて「サイケデリックトランス」と明言しています)。

 まずはサイケデリックトランスについてですが、サイケトランスはジャンルとしての「トランス」のサブジャンルで、ゴアトランスが源流とされています。今はサイケトランスのサブジャンルとしてゴアトランスが並べられることもあり、それ以外にもプログレッシブサイケやトライバルサイケなど沢山のサブジャンルに分かれます。曲としてはBPM135~150のものが多く、曲の雰囲気はうるさめなものから静かめなものまでさまざまです。

 K-POPはフレーズ毎に展開やジャンルが目まぐるしく変わる曲が多いですが、サイケトランスも曲の中で展開がかなり多く、「副作用」も2~3曲を切り貼りしたように曲の中での展開がとにかく多いのがわかります。Stray Kidsは基本的にメンバーの3人が曲を作っており、深読みかもしれませんが、どこまで見越した上で、このジャンルを選んだのかとても気になるところです。

関連曲(入門編)

 では、サイケトランスの中から、私が昔聞いていたお気に入りを2つ紹介します。これらで、サイケトランスがどんなイメージが掴めるかと思います。

■Electric Universe - The Prayer

■Hallucinogen - Trancespotter

関連曲‖ドロップの三連符に注目

 これら2つを聞いても、まだ「副作用」と繋がらない方も多いと思います。サイケトランスはドロップ(曲が盛り上がる所謂サビのような部分)に三連符を使うような楽曲も多く、「副作用」もそのような構成になっています。次の3曲は、そのドロップに注目してください。

■GRAViiTY - The Passenger

 曲調としては静かめでシンプルですが、わかりやすい三連符の例となります。(三連符は0:15~)

■deadmau5 - Right This Second

プログレッシブハウスやエレクトロニックで有名なdeadmau5も三連符の曲があり、聞けば段々と「副作用」に近づいてきているのを感じてもらえると思います。(三連符は2:43~)

■Savant - Penguins

 同じくエレクトロニックやEDMのトラックメイカーSavantのこの曲は音の厚さや雰囲気もかなり副作用に近いと思います。(三連符は0:45~)

 ハウス・テクノから昨今のEDMジャンルまで紹介しだすとキリがないぐらいこのような曲はあるのですが、上に挙げたものを聞いた後で「副作用」を聞くと、また違った印象になるかもしれません。ジャンル的に何曲も曲をつないだ1時間程度のMixがYoutubeやSoundcloudにたくさん上がっているので、気になる方は「ジャンル名 Mix」で検索すると似たような曲に出会えます。

 と、こういうことがわかった上で「副作用」を聞ければ存分に楽しめると思うのですが、Stray Kidsは随分ハードルの高いことをやってくるな……というのが今回の「副作用」を聞いての感想です。

<落選したけど……紹介したい1曲>
■(여자)아이들((G)I-DLE) - 'Uh-Oh' 

 Cube Entertainment所属、 7月31日に日本デビューの決まっている(G)I-DLE(ヨジャアイドゥル)の新曲です。この曲もStray Kidsの副作用のように参考にしているであろう90年代のHip-hop曲をたくさん挙げたくなる曲です。今までリリースしてきたタイトル曲の全てをリーダーでラッパーの ソヨンがメインで作詞作曲をしており、ラップもうまいし本当になんでもできる……。 

<近況>
韓国に行き7時間待機の上、Stray Kidsの音楽番組事前収録に入ったり、人生初のサイン会がWe In The Zoneだったりな日常を送っています。We in the zoneの日本初公演チケット、絶賛発売中なのでよろしくお願いします。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。K-POPを、楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力双方から紹介する視点で人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
mixcloud eelica