『Iターン』最終回 “サラリーマンの犬”ムロツヨシが見せた覚悟の集大成

 9月27日に『Iターン』(テレビ東京系)の第12話、最終話が放送された。あんなに緊迫していたヤクザの抗争は、組長同士の愛犬自慢という予想外のオチに収束されていく。

第12話あらすじ「犬の散歩があるからこの勝負は持ち越しや」

 撃たれて気を失っていた岩切猛(古田新太)が、地下室で意識を取り戻した。岩切は狛江光雄(ムロツヨシ)に手首を縛るガムテープを噛み切るよう指示し、2人は地下室を脱出。襲ってくる竜崎組の手下たちをなぎ倒していく岩切&狛江の元に、桜井勇一(毎熊克哉)、坊野洋平(阿部進之介)らが合流。岩切は彼らから拳銃を受け取り、追手を桜井らに任せて竜崎剣司(田中圭)の元に向かった。

 事務所では、青葉銀行支店長の瀬戸川達郎(手塚とおる)が痛めつけられている。青葉銀行が竜崎組に流すはずの融資が、関東の極道・藤堂(蟹江アサド)に回っていることを突き止めたのだ。藤堂に拳銃を向ける竜崎。そのとき、岩切と狛江が現れ、撃ち合った岩切と竜崎は両者とも腹に被弾。藤堂は倒れた竜崎から銃を奪い、「この街はもううちのシマだ!」と周囲を威嚇する。すると、狛江は岩切が落とした拳銃を手に取り、その銃口を藤堂に向けた。狛江は震えながら引き金を引くも、寸前で岩切が狛江の腕を上方へ上げたため、弾は天井に命中する。「お前の気持ちはようわかった。けど、あんな外道で手汚すんやない」と狛江を諭す岩切に藤堂は「友情ごっこか?」と笑い、狛江に向けて発砲した。岩切は狛江をかばって盾になるが、さらにその前に立ちはだかった竜崎が右肩に弾を受けた。血を流しながら竜崎は藤堂を殴り飛ばし、藤堂を一発で沈めた。

「てめえのタマ取んのは俺なんだよ。助けたわけじゃねえ!」と言う竜崎。岩切は「犬の散歩があるからこの勝負は次に持ち越しや」と一時休戦を呼びかけた。「そりゃ大事だな」と奥の部屋に入っていく竜崎。武器を持ち出してくるのでは? と岩切組の面々が緊迫していると、竜崎はトイプードルのかわいい子犬を抱え現れる。「コニーちゃんだ。俺も散歩に連れて行かなきゃならねえ」と竜崎。岩切と竜崎はどちらの犬がかわいいかで口論となり、慌てて狛江が仲裁。岩切らはその場を去り、ひとまず休戦となった。岩切はスナック「来夢来都」に狛江を連れていき、狛江と盃を交わしたお酒の瓶を叩き割って舎弟の縁を解消した。

 狛江が会社に戻ると上司の高峰博之(相島一之)が来ており、狛江にクビを宣告。そして、柳直樹(渡辺大知)と吉村美月(鈴木愛理)のクビも通告した。2人の処分に納得がいかない狛江は高峰を張り倒し、「俺の部下をクビにしやがったら、一生追い詰めてやんぞ!」と高峰に詰め寄った。その後、狛江は岩切組に顔を出し、桜井たちとの別れを惜しみつつ、事務所を後にした。

 後日、「本社営業部勤務を命ず」という辞令が出たと狛江に伝えられる。瀬戸川支店長と丸越百貨店販売促進部長・深町智博(木下隆之)が宣告社の副社長に働きかけ、狛江のクビは撤回されたのだ。

 柳と美月もクビがつながり、しかも2人は結婚するとのこと。狛江は2人を祝福した。そして、東京行きの飛行機に乗る狛江。その隣の席に座ったのは、なんと岩切である。「単身赴任じゃ! 東京でもシノギ見つけたろうと思うてな」と言う岩切に引き返すよう懇願する狛江だったが、逆にビンタされてしまう。出発を待つ2人は、息ぴったりに村下孝蔵の「初恋」を口ずさみ合った。

古田と田中の言葉を糧にしたムロの集大成

 このドラマは、サラリーマン・ムロの再生物語だった。上司やヤクザなど強い者の顔色を窺い続けていた彼も、全12話を通じ成長した。その集大成が、最終話だったのだ。

 キーポイントになったのは2つの言葉。まず、田中の元へ向かう際に古田が放った一言だ。

「ケンカも人生も一緒や。一歩引いたら負けぞ!」

 事実、ムロは蟹江に一歩も引かず、(古田が銃口を上へ逸らしたが)本当に引き金を引いている。

 渡辺と鈴木にクビを宣告した相島のことは張り倒し、「会社は関係ねえ。これは俺とお前との勝負だ」と啖呵を切った。10話で田中が言った「お前には“身内を売るくらいなら死ぬ”という覚悟がない」のセリフを思い出す。今のムロは大切な仲間(渡辺と鈴木)のため上司に立ち向かうし、大切な仲間(古田)を思ってヤクザ相手でも一歩も引かない男だ。

 ムロの成長を示す象徴的なシーンが、東京行きの機内で展開された。阿修羅市行きの新幹線で隣席だったビジネスマン(渋川清彦)が、今回も隣に座ってきた。第1話では肘掛けの取り合いにあっさり負けたムロが、今度は完全勝利を収めている。肘ケンカでさえ覚悟を持って臨むということ。ケンカも人生も、一歩引いたら負けなのだ。

 ムロと蟹江が対峙した場面はハイライトだった。あのとき、蟹江はムロにこんな言葉を吐いている。

「お前みたいなぬくぬくしたサラリーマンの犬に引き金引けんのか?」

 この一言、完全に地雷を踏んでいるのだ。監禁される毎熊を発見したのはチワワの昌三さんだった。蟹江の兄弟分・田中は、コニーという愛犬を何より大事にしていた。阿修羅市を2分するヤクザの抗争は、それぞれの組長が抗争より犬の散歩を優先するという形で終結している。犬をバカにする言葉は阿修羅市では禁句である。

田中「コニーちゃんだ。俺も散歩に行かなきゃならねえ」

古田「こりゃまたえらい、随分とかわい子ちゃんやな。けど、わしの昌三には負けるやろ」

田中「ふざけたことぬかしてんじゃねえよ。コニーちゃんのほうがどう見てもかわいいだろうがよ!」

古田「コニーちゃんもかわいいって言うとんがな! せやけど、比較したら昌三のほうが可愛いとちゃうんか! やるんかい、コラ!」

田中 「やろうじゃねえか!」

 撃たれて血だらけなのに、愛犬自慢に興じる両組長。こんなにイカつくても結局、犬には勝てないというオチ。なんなら、2人して一緒に散歩に行けばいい。田中はムロに「身内を売るくらいなら死ぬという覚悟」が大事だと説いた。彼が命を懸けて守っていたのは、このコニーちゃんだったのだ。

 途中、あまりにも展開に救いがなく、観ていてつらくなることさえあった『Iターン』。しかし、10話以降の怒涛のたたみ掛けで十分カタルシスを味合わせてくれた。きっちりの伏線回収でスッキリした上に、こんな愉快なエンドで締めくくるとは。モヤモヤのラストを迎えるドラマが多かった今クール、『Iターン』の残尿感のなさは際立っていたと思う。

 それにしても、聴くと悲しみとノスタルジーを喚起させる「初恋」だったのに、これからはクスッと笑える1曲になってしまわないかと不安である。そういう意味でも、傷跡を残すドラマだった。

(文=寺西ジャジューカ)

『Iターン』大物極道のようなすごみのムロツヨシ、迎え撃つ田中圭が史上最高のカッコ良さ!

 

 9月20日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第11話。ヤクザの事務所にカチコミに行く、サラリーマンのムロツヨシ。彼が体現したのは、堅気の食えなさ、狡猾さ、そして強さだ。

第11話あらすじ 金属バットを振り回すムロツヨシ

 狛江光雄(ムロツヨシ)は、妻の敦子(渡辺真起子)に電話し、「会社、クビになるかもしれない。でも、家族を不幸にすることはしないから」と伝え、行きつけのホルモン店に向かう。そこへ、狛江に呼ばれた刑事の城島豊(河原雅彦)がやって来た。狛江は「市民の味方である警察がヤクザと手下なんて、情けないですね」と挑発し「正義なんざ、なんの銭にもならんやろが!」という言葉を城島から引き出した。狛江は一部始終をひそかに録音しており、「これを世に出す」と城島にほのめかす。城島が罪をでっち上げて狛江を逮捕しようとしたとき、うしろの席に座っていた男が城島の首にプラスチック爆弾を巻きつけた。その正体は、戦争時だけ招集される元傭兵で、岩切組組員の坊野洋平(阿部進之介)だ。坊野に脅された城島は、竜崎剣司(田中圭)が関東の極道・藤堂(蟹江アサド)と手を組んで阿修羅町を手に入れようとしていること、その手引きをしているのは青葉銀行支店長・瀬戸川達郎(手塚とおる)であることを白状した。

 狛江と坊野は岩切組にこの情報を持ち帰り、岩切猛(古田新太)は翌日の竜崎組へのカチコミを宣言。狛江は金属バットを振り回して覚悟を見せ、カチコミへの参加を岩切に認めさせた。

 当日の朝、目を覚ますと枕元には岩切の姿が。岩切は狛江に「“自宅に酔いつぶれた岩切がいて、もうやってられない”と竜崎に泣きつけ」と命じた。数名の手下を狛江宅におびき寄せることで、竜崎の事務所を手薄にしようという作戦だ。指示通り、竜崎に面会した狛江は「自宅に岩切がいる」と泣きつくが、竜崎に「猿芝居するな」とあっさり見破られてしまう。そのタイミングで、城島から竜崎の携帯に「あの広告屋、岩切を裏切りよったで。今朝、警察に“岩切が自宅で寝てる”って通報があったわ」と連絡が入った。坊野の脅しによる城島からの虚偽報告を信じた竜崎は、数名の組員を狛江の自宅に向かわせた。

 その後、トイレに行くふりをして狛江は非常口から岩切を竜崎組の事務所に侵入させる。その先には日本刀を持った神野晃(般若)が待ち構えていたが、岩切は金属バットで神野を撃退。先に進んだ岩切は竜崎の座るデスクに拳銃を向けたが、そこに座っていたのは竜崎ではなく黒田啓二(田本清嵐)。呆気に取られる岩切に、組員の陰に隠れていた竜崎が発砲。岩切はその場に倒れ込んだ。そこに藤堂と瀬戸川支店長が現れる。早く岩切を撃つよう藤堂は竜崎をけしかけるが、竜崎は岩切と狛江を地下室に連れて行くよう組員に指示。竜崎は藤堂に「俺に命令するな」とすごんだ。一方、地下室に連れて行かれた岩切は「すまんのう、巻き込んで」と狛江に告げ、意識を失った。

 周りに振り回され続け、そのたびに情けない泣き顔になっていたムロが変わり始めている。

 岩切組の情報を要求してくる河原に対し「竜崎組長は情報をいくらで買ってくれるんですか?」と迫る不遜な態度が堂に入っている。首にプラスチック爆弾を巻きつけられた河原に「もう、この件に介入しないでください。……約束できますか?」と釘を刺す際の声のトーン、すごみは、まるで本物の大物極道のよう。ムロの顔つきがどんどん漢になってきているのだ。

 最もムロの強さを感じさせたのは、カチコミの作戦会議をする直前に「作戦よりも大事なことがある」とチワワの昌三さんの散歩を申し出た場面である。流されない意志の強さ。あそこは胆力を感じさせた。

 しかし、昌三さんの前だけでは本音がこぼれるムロ。

「白状してもいいですか? 僕ねえ、実は……すごく怖いんです。これで人生が終わるかもしれない」

 ムロの言葉を聞く昌三さんの顔は、迷える者の声を受け止める度量の大きさを漂わせている。頼もしいのだ。『Iターン』のTwitter公式アカウントは9月20日に昌三さんの画像をアップ。そのハッシュタグには「真のボス」と記されていた。なるほど。

 そういえば、ムロは家族にも電話で弱気を吐き出していた。

「あのなあ、敦子。俺……会社クビになるかもしれない。でもなあ、信じてくれ。家族を不幸にするようなことはしない。アルバイトでもなんでもしてどうにかするよ」

 極道に揉まれ、覚悟することができた堅気のムロ。彼の成長と本音は、強さと弱さは表裏一体だと表している。サラリーマンは弱くもあり、強くもある。何しろ、岩切組と竜崎組が抗争するよう裏で絵を描いていたのは堅気の手塚なのだ。手塚はかつて「銀行も表の顔だけじゃない」と口にしていた。堅気の食えなさ、狡猾さ、したたかさ、そして強さを体現しているのがムロと手塚だ。

「皆さん。僕は明日、人生で最初で最後のカチコミに行きます。正直、今でも膝がブルブル震えています。でも、これはきっと武者震いに違いありません」(ムロ)

 人生で最初も何も、普通の人にカチコミの機会なんて訪れないだろうが、ムロは古田と2人で竜崎組にカチコんだ。

 迎え撃つ田中の頭がキレるのだ。ムロの猿芝居を見抜き、古田が乗り込んでくることを完全に予測。組長席にほかの者を座らせ、別の角度から古田を撃ち抜いて見せた。簡単に人を信用しない性分と洞察力、冷静な性格が田中の特徴だ。

 今夜放送の12話で、ついに最終回。どうやら田中は藤堂と手塚の真意に気づき、この2人とも対立するらしい。簡単に人を信用しない性分と洞察力、冷静な彼の性格が今夜も発揮されるということ。

 となると、「古田 vs 田中」の対立構造が一気に崩れ、予想外の結末に着地する可能性は十分だ。ドラマはすでに原作小説とは違う展開に進みかけており、行く末の予想が立てにくい状況にある。

 毎週、『Iターン』の放送が終わるや、田中圭ファンによる「カッコよかった!」という歓喜のツイートがSNSにあふれかえるのは恒例なのだが、11話の田中はカッコ良すぎた。“萌え”成分の高い演技をする機会が増えた田中。そう考えると「カッコいい!」のリアクションがここまで上がるのは、『Iターン』の竜崎役が初めてな気がする。

(文=寺西ジャジューカ)

『Iターン』長すぎた膠着がようやく大爆発! ”覚悟”と”誤植”で救世主になったムロツヨシ

 9月13日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第10話。これまでの2カ月強、ほとんどストーリーに進展のなかったこのドラマの溜めが一気に爆発した第10話だった。待たされ続けただけにカタルシスは大きいが、いくらなんでも膠着が長い!

第10話あらすじ 「覚悟って、もともとあるのではなく自分で作るものよ」

 岩切組に警察のガサ入れが入る。しかし、事務所から拳銃は見つからなかった。竜崎剣司(田中圭)は狛江光雄(ムロツヨシ)に「エス(スパイ)を続けてチャカの隠し場所を探れ」と命じる。狛江は抵抗したが「お前がスパイだとバラしてもいいのか?」と脅され、泣く泣くスパイを続けることに。

 宣告社の阿修羅支店でうなだれている狛江。心配した柳直樹(渡辺大知)と吉村美月(鈴木愛理)が話しかけると、狛江はいきなり頭を下げ、1カ月後の阿修羅支店閉鎖が決まった旨を発表した。

 その夜、スナック「来夢来都」を訪れた狛江を、ママの麗香(黒木瞳)が占った。狛江が引いたのは「戦車」のカード。これは「行動力」を意味している。

「うだうだ考えるより動いちゃえってこと! 覚悟ってさ、もともとあるんじゃなくて自分で作るものよ」(麗香)

 麗華の言葉で覚悟を決めた狛江は、岩切組の事務所に直行。桜井勇一(毎熊克哉)の救出に向かおうとする西尾誠次(塚原大助)に「僕も行きます。このままじゃ、堅気に戻れないです」と訴えた。チワワの昌三さんを抱えた狛江は、西尾たちの後を追った。

 街外れの倉庫にたどり着いた西尾たち。でも、この中のどこに桜井がいるかわからない。すると、昌三さんが嗅覚を頼りに桜井の居場所を突き止める。あとは突入して桜井を救い出すだけ。

 このとき、狛江は留置所にいる岩切猛(古田新太)のことがよぎった。桜井の身を案じる岩切が自白する前に、桜井の無事を岩切に伝える必要がある。狛江が思い付いたのは、翌日の新聞広告を修正して、岩切だけがわかるメッセージを掲載するという策だった。土沼印刷に急いだ狛江は「季節外れの桜が無事入荷しました! 1階 岩切生花店」という広告を作り、岩切に桜井の無事を伝えた。

 メッセージに気付いた岩切は自供せずに取り調べを乗り切り、留置所から釈放される。組長を出迎える岩切組の組員たち。ここで狛江は裏切ってしまったことを岩切に詫びようとするが、岩切は「何も言わんでええ。お前はわしの舎弟やないか」と一言。狛江がエスとして動いていたことを、岩切はお見通しだったのだ。岩切は「カチコミに行くぞ!」と舎弟たちに呼びかけ、全員で竜崎組の事務所に向かった。

 今回のテーマは「覚悟」だ。弱腰の姿勢ゆえ周囲に振り回され続けてきたムロが、いよいよ覚醒する。

 序盤のムロは情けない顔をしていた。古田が逮捕されたのに、まだスパイ行為を命じてくる田中にムロは質問する。

ムロ「なぜ、僕だけこんなひどい目に遭わなきゃいけないんでしょうか!?」

田中「お前には覚悟がねえからさ。身内を売るくらいなら死ぬっていう覚悟だ。そういう奴は骨の髄までしゃぶられるんだ」

 サラリーマンと極道、2足のわらじを履くムロ。サラリーマン稼業のほうも絶不調で、上司の高峰博之(相島一之)から阿修羅支店の閉鎖を言い渡された。その夜、ムロは黒木に占ってもらう。

「うだうだ考えるより動いちゃえってこと! 覚悟ってさ、もともとあるんじゃなくて自分で作るものよ」(黒木)

 ムロの周囲には覚悟を持つ者が大勢いる。竜崎組に捕らわれた毎熊は折檻を受けながら「オヤジの邪魔になるくらいだったら、死んだほうがマシじゃあ!」と言い放った。塚原は自身の命と引換えに毎熊を救い出そうと決意し、ムロに対しては「叔父貴には堅気に戻ってほしいです」と諭した。

 ムロもいよいよ覚悟を決めた。目つきと顔つきがあからさまに変わっている。

「僕も何かできることがしたいんです。このままじゃ堅気に戻れないです」(ムロ)

『Iターン』も今回が10話である。2カ月以上経過したが、今までほとんどストーリーは進まなかった。はっきり言って、つらそうなムロを見続けた記憶しかない。

 物語は、ここにきていきなり動きだす。わかりやすく言うと、伏線がドンドン回収されていったのだ。毎熊が大事にしていた折り鶴を懐に入れていたムロに昌三さんは近づき、折り鶴から毎熊の体臭を確認。嗅覚で毎熊の居場所を突き止めた。となれば、毎熊の無事を留置所の古田に伝えなければならない。警察は拳銃の隠し場所の自白を、毎熊解放との交換条件に提示しているからだ。ムロが思い付いたのは、新聞広告をわざと誤植して毎熊の無事を古田に伝えるという策だった。

 ムロがヤクザに付け込まれたきっかけは広告の誤植である。そして、今度は誤植でヤクザを窮地から救おうとしている。「ムロは広告屋」→「誤植の経験がある」→「毎朝、古田はくまなく新聞を読む」という伏線が10話で一気に回収された。(長い溜めだった……)

 阿修羅支店閉鎖を告げる際、ムロは今までの人生を部下に語った。

「僕は45年間、いろんなことを諦めてきた。一流の大学をあきらめ、一流の企業をあきらめ、この会社の出世もあきらめた。僕の人生、あきらめてばかりだ」(ムロ)

 しかし今回、ムロは諦めなかった。だからこそ、古田の奪還に成功したのだ。

 留置場から出てきた古田にムロは詫びようとする。

「何も言わんでええ。お前はわしの舎弟やないか」(古田)

 エスをやめようとするムロに、田中は「バラしてもいいのか?」という脅しを入れた。でも、そんなの無駄だった。古田はとっくに気付いていたのだから。

 ラストシーンは岩切組全員の後ろ姿。少し遅れてムロが追いかけると、「叔父貴、どうぞ!」と言わんばかりに毎熊がムロを古田の隣に誘導する。「堅気に戻ってほしい」と言われたムロが覚悟を認められ、本当の意味で同じ組員と認められた。そういえば初回、阿修羅支店に転勤するムロの見送りに来る同僚は皆無だった。

 停滞していたストーリーは10話で一気に動き出した。長すぎた膠着の後のカタルシスは大きい。このドラマで、まさか感動するとは……。原作小説の内容を参考にすると、さらにここから大きな盛り上がりがあるはずだ。

(文=寺西ジャジューカ)

『Iターン』第9話、ムロツヨシと黒木瞳が体現する社畜と自営業の悲哀

 9月6日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第9話。今回、狛江光雄(ムロツヨシ)が体現したのは社畜のつらさ、麗香(黒木瞳)が表現したのはひとりで生きる者(自営業者)のつらさだったように思う。

第9話あらすじ 田中圭と黒木瞳の罠にはまるムロツヨシ

 岩切猛(古田新太)の強引な手段で、青葉銀行の広告をすべて受注することになった狛江。しかし、脅迫という非合法な手段で獲得した仕事なだけに、狛江は喜べずにいた。

 その後、狛江が岩切組に向かうと、岩切(古田新太)らは中国人との取引に向かう模様。狛江は罪悪感に苛まれながら竜崎組の竜崎剣司(田中圭)に電話し、今夜取引が行われると報告した。

 岩切組事務所で、内職の折り鶴を作りながら狛江が当番をしていると、スナック来夢来都のママ・麗香から「店で酔った客が暴れているからすぐ来てほしい」と連絡が入った。狛江と桜井勇一(毎熊克哉)は店に直行。到着すると、店内にはフリーランスを名乗る見覚えのない男がひとり立っていた。さらに振り返ると、竜崎組の神野晃(般若)が拳銃をこちらに向けている。呼び出しは竜崎組と麗華が結託した罠だったのだ。

 隙を見て桜井は神野に飛びつき、狛江を除く3人が揉み合いに。そんな中、拳銃が暴発し、フリーランスの男が腹部からおびただしい血を流して悶え出した。桜井は神野を足止めしながら、狛江に岩切へ連絡するよう指示。岩切が店に駆けつけると、そこに桜井はおらず、竜崎が岩切を待ち構えていた。竜崎は「桜井を返してほしければ、警察に中国人との取引について自供しろ」と迫る。岩切は店の外に待機していた刑事の城島豊(河原雅彦)に自首をした。

 翌日、宣告社の阿修羅支店で、上司の高峰博之(相島一之)と狛江らによるテレビ会議が行われる。そこで高峰は、阿修羅支店の社員らには残業代もボーナスも支払われないことを通告。狛江の部下・柳直樹(渡辺大知)と吉村美月(鈴木愛理)は絶望した。

 一方、竜崎組の事務所には外国人極道の姿が。この男は竜崎に「これでこの街は俺たち2人のものだ、兄弟」と言葉を掛けた。その頃、岩切は鉄格子の中で隅から隅まで新聞に目を通していた。

 今回描かれたのは働く者の悲哀だ。青葉銀行の広告受注が取れ、売上を大幅に伸ばした阿修羅支店の面々に対し、相島はボーナスを出さないと通告した。その理由は、本社の業績が芳しくないから。

 渡辺はこれに反抗する。

「本社の業績が悪いのは、部長たち、お偉いさんたちのせいでしょ!? その責任を末端の俺らに押し付けて、トカゲの尻尾切りですか!」

「サラリーマンって、どんなに理不尽でも我慢しなきゃいけないんですね」

 そもそもの話、阿修羅市のような場所に支店を出した本社の読みが甘すぎる。あんなに無気力だった渡辺もやる気を出して成長したというのに……。

ムロ「どうすることもできないんです……。これが社畜です、すみません」

 岩切組を1つの会社と捉えれば、極道なのに和気あいあいと内職に励む組員らは愛社精神にあふれている。久しぶりに鶴がうまく折れたと喜ぶ毎熊は特にだ。そんな毎熊が竜崎組に捕らえられた。古田は毎熊を救うため、警察に自首した。

古田「桜井はワシの子や。このまま見殺しにできるかい」

 岩切組には、上司と部下の間に理想的な縦関係がある。入る会社によって上司に憎しみを覚える場合もあれば、身を粉にして自らを捧げるケースもあるのだ。

 毎熊と般若が揉み合う中、発砲事件が起きた。そういえば、8話では青葉銀行支店長・瀬戸川達郎(手塚とおる)を脅すため、一芝居打った偽の発砲事件が起こっている。あれは、岩切組が全員一丸になってやり切ったミッションだ。

 働く者には、会社員もいるし個人事業主もいる。8話で田中は般若にこんな指示を出していた。

「死んでもいい兵隊をひとり用意しろ」

 今回、来夢来都にはひとりの見知らぬ男が待っていた。

毎熊「あんた、どこの身内?」

男「俺はどこの身内でもねえよ。フリーランスだよ」

 揉み合いの中で撃たれたのはこの男である。田中は始めから誰かひとりが撃たれると計算していた。その役割として、フリーランスの男が雇われたということ。

 黒木はクラブ「来夢来都」を営む自営業者である。彼女は岩切組を裏切った。四面楚歌のムロが黒木に裏切られたショックは大きい。でも、黒木は黒木で田中の要求を飲まないと店が立ち退きに遭うつらい立場にいた。

田中「あんたが岩切裏切るなんてな」

黒木「なんとでも言わんね。男だけが守るもの持ってると思ったら、大間違いよ」

 ムロはムロで、竜崎組のスパイとして古田に不義理をしている。働く者の悲哀は誰にだってある。ムロも黒木も自分を守るために人を裏切った。社畜もフリーランスも、どちらもつらい。

 今回、チワワの昌三さんの出番が多かった気がする。大きな目をウルウルさせる昌三さんはかわいい。自分の立場に絶望するムロと昌三さんは目の潤み方が同じなのに、両者から受ける印象はあまりにも違った。

(文=寺西ジャジューカ)

『Iターン』ヤクザらしくない古田新太の真っ当な訓示で、ムロツヨシが覚醒?

8月30日に放送された『Iターン』(テレビ東京系)の第8話。古田新太がムロツヨシに言い放った「もっと死ぬ気で人生生きたらんかい!」の檄は、ヤクザらしからぬ真っ当なメッセージではなかっただろうか。

 

第8話あらすじ 「だから、社畜は甘いんや!」

 スナック来夢来都のママ・麗香(黒木瞳)から酒に薬を盛られた狛江光雄(ムロツヨシ)は、岩切組の桜井勇一(毎熊克哉)と西尾誠次(塚原大助)に車へ乗せられ、埠頭に移送される。そこには、岩切猛(古田新太)と中国マフィアの陳が待ち受けていた。岩切は「体で金を返してもらう」と、海に落ちれば3分で凍え死ぬベーリング海峡行きのカニ漁船に乗るよう狛江に脅しをかけてきた。狛江は青葉銀行の仕事が取れたから、今よりもキックバックが増えると岩切を説得。狛江は開放された。しかし翌日、青葉銀行支店長の瀬戸川達郎(手塚とおる)が発注してきたのは、無料配布のポケットティッシュ広告だった。

 その後、青葉銀行との件がダメだったと岩切に報告した狛江は、再び拉致られてしまう。すると、その車中にはすでに縛られた瀬戸川支店長が乗せられていた。車が山奥に到着すると、その場所には人が入るくらいの大きな穴が2つ掘られていた。岩切はまず、「おどれ、スパイやろ? 裏切りもんが、ブチ殺したる!」と狛江に銃口を向ける。すると、狛江のうしろにいた西尾が「許してください!」と土下座。岩切が迫っていたのは狛江ではなく西尾で、命乞いも聞かずに岩切は発砲。西尾は即死した。

 続いて、岩切は「ワシの舎弟に仕事やる言うてシカトしたそうじゃのう」と瀬戸川を責める。穴に落とされた瀬戸川は、命乞いしながら青葉銀行の広告をすべて狛江に回すことを約束。最後に岩切は狛江に「だから社畜は甘いんや! もっと死ぬ気で生きたらんかい!!」と言葉を掛けた。

 岩切組で目覚めた狛江は、みんなで食事をとった。すると、隣には死んだはずの西尾が。先ほどの銃殺は、瀬戸川を脅すために血のりを使って一芝居打ったものだったのだ。

 一方、竜崎剣司(田中圭)は青葉銀行の資金が岩切組に流れていると報告を受ける。竜崎は麗香に電話し協力を仰ぐも、麗香は「私はどっちにも加担しない」と拒否。すると、竜崎は駅前再開発で来夢来都に立ち退きをかけることをチラつかせ、「あの店をどうするかはアンタ次第だ」と、あらためて麗香に決断を迫った。

 最近、古田を慕い始めているムロ。黒木はそんなムロの認識を否定する。

ムロ「岩切組長は確かに怖い。怖いんですけど、ある意味人間的な感じがします」

黒木「人間的? 極道が!? ハァ~ッ。馬鹿言っちゃダメよ」

 その通り。今回のムロは極道の流儀の餌食になってヒィーヒィー言わされた。今どき蟹工船に乗せられそうになり、しかもムロの命は300万円っぽちに設定されたのだ。しかも、中国マフィアから「高すぎる!」と言われる始末……。

 さらに拉致られ、山奥に連れて行かれたムロ。「人間を埋める目安は赤土1メートル、黒土2メートル」という知りたくない情報を教示され、土葬寸前まで追い詰められた。

 恐怖のあまり、手塚は完全降伏。すべての広告をムロに回すことを約束し、青葉銀行の資金は岩切組に流れる形となった。思惑通り事を運んだ古田は、説き伏せるようにムロに言った。

「よう覚えよけ。適者生存。ワシらの世界は強い者が勝つんじゃのうて、勝った者が強いんや。だから社畜は甘いんや! もっと死ぬ気で人生生きたらんかい!!」

 古田の言っていること、実は至極真っ当だったりする。古田が訴えているのは「いつ死んでも後悔しないよう、人生を生きろ」ということ。何事にも逃げ腰で前を向けないムロを叱咤し、檄を飛ばす古田。当初はムロも恐怖するだけだったが、いつしか古田からの訓示によって変わっているのが面白い。例えば、刑事の城島豊(河原雅彦)から岩切組の情報を聞かれたとき、ムロはこう返した。

ムロ「陳という中国人と接触してまして」

河原「中国人? チャイニーズマフィアか」

ムロ「ああ……すごく凶暴な顔をしてて、ベーリング海峡の噺をしてました」

河原「ルートはベーリング海峡か。ロシアンマフィアも一枚噛んどるかいのう」

 そんな事実はない。ムロは単に蟹工船に乗せられそうになっただけ。なぜ、阿修羅市にとどまるローカルなヤクザが、国際的なコネクションを有しているというのか? 社畜とバカにされながら、密かに一筋縄ではいかない男に変貌していたムロ。図太くなり、そして人間的魅力が増している。全身会社人間の手塚とのコントラストはあまりにも鮮明だ。

 一方の田中は、再開発によるバーの立ち退きをチラつかせて黒木に協力を迫った。現在上映中の映画『劇場版 おっさんずラブ 〜LOVE or DEAD〜』にて、不動産会社勤務の春田創一(田中)は商店街再開発構想に関わっている。竜崎剣司(Iターン)と春田創一(おっさんずラブ)の立ち位置は真逆。あまりに対称的すぎて、逆に因縁を感じる。これは、果たして狙いなのだろうか?

『Iターン』での田中は、映画『仁義なき戦い』で小林旭が演じた武田明にどこか容姿が似ており、いい雰囲気を漂わせていると思う。

(文=寺西ジャジューカ)