
2015年に出版され、ラッパー自伝のクラシックとなった漢 a.k.a. GAMIの「ヒップホップ・ドリーム」(河出書房新社)。去る7月、同書が文庫化されたが、今回の目玉は増補された『ヒップホップ・ドリーム』の“その後”。晋平太とのビーフ、かつての所属レーベル〈LIBRA〉との法廷闘争、主宰する〈9SARI GROUP)のレーベルメイト・D.Oが大麻取締法違反等で逮捕された事件などなど、さまざまな“リアル・ヒップホップ事情”が赤裸々に語られている。
一方、漢の相棒としてMSCという新宿発のラップ・クルーを率いてきたTABOO1も初のマンガ『イルブロス』(彩図社)を6月に上梓。ドラッグやバイオレンスであふれたアンダーグラウンドな世界でグラフィティを描きながら生きる青年をコミカルに描いた。このマンガの特筆すべき点は、イリーガルな存在であるグラフィティ・ライターの日常に焦点を当てたことだろう。
これらの書籍を発表した2人が、お互いについてがっつり語り合う!
■ダントツで売れたラッパーの自伝
TABOO1 『ヒップホップ・ドリーム』が文庫本になったんだ?
漢 俺としては自分のヒップホップ哲学について語っただけで、あとは単純に面白い本になればいいなと思ってたんだよ。とはいえ、河出書房新社の人間から「ラッパーの自伝としてはダントツの売り上げです」と言われてるんで、その言葉は毎日噛み締めて生きてる(笑)。
TABOO1 よくよく考えると、『ヒップホップ・ドリーム」は普通に実名が出てくるし、内容的にかなり踏み込んでるよな。
漢 そこらへんは編集にうまいこと言いくるめられたのかも(笑)。俺、本当に本を読まないから、自伝ってこういうもんだと思ってたんだよ。でも、赤裸々だからこそ、いろんな人が興味を持ってくれたというのもあると思う。それに、この本を出したことでトラブルになったこともないし。レスポンスは概ねポジティブだね。
TABOO1 文庫版は単行本で出した後に起きたことも追加で書かれてるんだ。
漢 『ヒップホップ・ドリーム』を書いた段階では決着がついてなかったことを中心に追加してる。LIBRAとの裁判結果とか、『フリースタイルダンジョン』で晋平太とバトルしたときの真相とかね。俺としては単なる事後報告。そういえば、TABOO1も前にLIBRAから出したソロ・アルバム『LIFE STYLE MASTA』(2010年)の件で諸々“問い合わせ”してるらしいじゃん。次はそれをマンガに描けばいいんじゃない?
TABOO1 いやぁ、その話は描いてて楽しくなさそうだからな……。
漢 まぁ、楽しいことは大事だよな。『ヒップホップ・ドリーム』も基本的には楽しんで読んでもらいたいし。俺としては、読者はあの本から自分にとってプラスになることだけを吸収してもらえれば、うれしいね。
■違法なグラフィティ界の事情をマンガに描けた理由
漢 TABOO1がマンガを描いたというと、ヘッズ(ヒップホップ・ファン)の中には突拍子もなく感じる人もいるだろうけど、こいつはラップを始める前から絵を描いてた。だから俺からすれば、『イルブロス』はすごく自然な作品。
TABOO1 うん。俺は昔から絵を描くのが大好きだったから。グラフィティもその流れで始めたし。ただ、グラフィティはいつでもどこでも自由に描けるもんじゃない。だから、自分の表現方法としてマンガを描けるようになりたかった。でも完全に独学だったから、マンガを描くために必要な最低限の技法を習得するのにものすごく時間がかかってしまった。ようやく形になったって感じ。
漢 これってストーリーは編集の人の意見も入ってるの?
TABOO1 基本的には俺が考えてるけど、起承転結の作り方は結構アドバイスしてもらった。まとめ方というか。最初はもっといろんな小話があったんだよね。けど、それだと散漫になって読みづらいから、グラフィティ・ライターの“TAM”とラッパーの“KONG”の話にフォーカスを当てたほうがいいとか、そういうことを教えてもらった。
漢 グラフィティってみんな街で何気なく見てると思うけど、普通の人はどういう人間が描いてるかはほとんど知らないはず。『イルブロス』には、そのへんが描かれてるのが面白い。ちなみに、俺はグラフィティ界隈の事情はよく知らないけど、こういうのって描いちゃってもいいものなの?
TABOO1 まぁ、このマンガはフィクションだからね。具体的な名前も場所も出てこないし。
漢 だけど、オープニングとか超生々しいじゃん。セフレっぽい女が帰るまで寝たふりするのとか、完全にお前の日常だろ?
TABOO1 なんか勘違いしてるようだけど(笑)、主人公のTAMは俺自身じゃないよ。
漢 そうなんだ? 俺は普通にお前だと思って読んでたわ。俺から見たお前は、こういう感じ。セフレが帰った途端に起きて、「あの女……、片付けくらいしとけっつーの」ってセリフとか超お前っぽいし。あと、ウケるのはTABOO1のヒーロー願望がちょいちょい垣間見られること。TAMが女の子をかばって刺されるとか。お前との付き合いは相当長いけど、これまでのお前にヒーロー的な要素を感じたことは一度もない。
TABOO1 フィクションだから(笑)。全体的に自分が好きな映画やマンガの影響が出てると思う。7話目の「Looking for job and …」に関しては、ソロ・アルバム『LIFE STYLE MASTA』に入ってる曲「ILL BROS feat. MC漢」のPV(12年)からの流れもあるんだよ。
漢 あのPVのアニメはTABOO1が描いたもんな。確かに、4話目の「Behind the Shinjuku city」に出てくる警官もPVに出てた。『イルブロス』を読むと、あのPVの前後のストーリーもわかるってわけね。じゃあ極端な話、PVを作ってた当時の段階から今回のマンガのイメージが頭のどこかにあった?
TABOO1 そうね。ちなみに、TAMが刺されるシーンは、さっき漢が話したオープニングとつながってるんだよ。つまり、セフレにヒドい態度をとった因果応報っていうかさ。そのTAMがホレた女も実は……。
漢 あの流れは、新宿区ならではのボーイズ・トークって感じだった。
■漢に無断でILL BROSのフィギュアが作られた!?
漢 『イルブロス』は内容的に『ヒップホップ・ドリーム』とちょいちょい被ってるところもあるけど、これは便乗商法を狙ってるという認識でOKなのかな?
TABOO1 ……全然狙ってないから! 『イルブロス』はフィクションだけど、俺の自伝的要素もあるから、似た話が出てくるのは当然でしょ。でも、俺は漢みたいに赤裸々には描けないよ。KONGがテレビに出て活躍してるのをTAMが見てるシーンとかさ。文章だと生々しいというか、エモすぎちゃうというか。ああいうのはフィクションだから成立したと思う。
漢 確かにTABOO1のタッチで、いろんなことがかなりマイルドになってるよな。あのシーンは俺も読んで「こんなふうに感じてたんだ」と思ったし。それと、3話目の「wanna be a rapstar!」は懐かしかったね。TAMがラップにのめり込んでいくスピード感は、当時のTABOO1の雰囲気そのものだった。マンガの後半で「TAM」がアートの世界に興味を示していく流れとかも。
TABOO1 そうだね。漢がラップでがんばってるとき、俺はフィギュア作りの勉強してたから。工場に発注するんじゃくて、ゼロから自分で作るにはどうしたらいいか……みたいな試行錯誤をしてた。
漢 ラッパーとしてのTABOO1しか知らない人は、近年は全然活動してないように見えたかもしれないけど、実はこいつは音楽以外で自分の方向に進んでたってわけ。そういえば、何年か前にTABOO1の家に遊びに行ったとき、フィギュア作りの機材と格闘してたよな。で、せっかく遊びに来た俺への対応が、ものすごく雑だったのをよく覚えてる。「なんて意地悪なヤツなんだ」と思って……。
TABOO1 あぁ、あのときは確かにものすごく機嫌が悪かった。ヤフオクで機械を買ったら、不良品が届いたんだよ。普通に買うと30万円くらいするヤツが6万円で出品されてて、それでも高いけどフィギュア作りに必要なので落札したら、30キロくらいのヘンな鉛の塊が送られてきて……。漢が来たのは、まさにその鉛の塊を見て途方に暮れてたとき。「何やってんだ?」とか言われた覚えがある(笑)。とにかく、ここ数年はずっとそういう感じだった。基本的に部屋に閉じこもって、フィギュア作りとかマンガの作業とかをしてたね。髪もボサボサに伸びて、いろんなことが収拾つかなくなってた。
漢 本当に自分を見失ってるんじゃないかと思ったもん。俺らっていつも事後報告だよな。お互い、形になるまで言わないことが多い。あのときもTABOO1が何やってるか知らなかった。マンガの作業が済んでからは、いつもの坊主頭に戻って優しくなったけど(笑)。
TABOO1 最近の俺はほとんど職人だね。『イルブロス』の表紙は、覆面を被ったTAMとKONGだけど、あれは俺が昔から描いてる“ILL BROS”というキャラでもある。去年は手作りでILL BROSのフィギュアを400個作った。着色も一個ずつ全部自分でやってね。俺はおもちゃ作りとかマンガとかサブカルチャーが大好きだから、こっちの道で生きていきたいんだ。
漢 でも、せっかくこのマンガが出たから、俺とお前とのユニットであるILL BROS名義の曲を出さないと。制作がストップしてたものがあるから、今2人で取りかかってる最中だよな。遅くとも年内には出したい。
TABOO1 あと、俺は表紙に出てる“ILL DOG”のフィギュアを作る予定。
漢 しかし冷静に考えてみると、ILL BROSのKONGのモデルは俺だろ? 俺になんの断りもなく商売しやがって……。今後はちゃんと権利を主張していくからな!
TABOO1 別に“漢 a.k.a. GAMI”のキャラクターを作ってるわけじゃないから! KONGは俺の創作であって……。
漢 本当に巧妙なやり口だ(笑)。それはともかく、俺らはいつもこんな感じ。MSCを結成したのはもう20年近く前だけど、あの頃、こういう形でヒップホップを続けてるとは思ってもみなかったな。
※撮影/西村満