BL(ビーエル)とは「ボーイズラブ(Boys’ Love)」の略で男性同士の恋愛を軸とした物語ジャンルだ。作者も読者もほぼ100%女性で、サイゾーウーマンの女性読者なら一度は読んだことがある人も多いだろう。
あまり詳しくない人からすると、BLといえば、学園モノでイケメン同士の恋愛関係の物語を想像しがちだが、最近では単に男同士のロマンスというだけではなく、現実でも実現していないような、ゲイに寛容な社会を描く作品も目立ってきているという。そのような、性の多様性がさらに広がった将来の日本社会を先進的に描いているともいえるBLの、時代による変化や未来の可能性ついて、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(太田出版)『BL進化論[対話篇] ボーイズラブが生まれる場所』(宙出版)の著者でBL研究家の溝口彰子氏に聞いた。
■従来のBLとは違う「進化形BL」とは
1990年代、商業的にも大きく盛り上がりを見せたといわれるBL。しかし、当時は現代よりも同性愛者に対する偏見が強く、そうした社会を反映した作品が多かったと、溝口氏は分析する。
「90年代のBL作品の多くは、男性同士の恋愛やセックスを描きながらも、『俺はホモなんかじゃない。お前が好きなだけだ』とホモフォビア(同性愛嫌悪)的なセリフを言うキャラクターが登場していました。当時は今以上に同性愛者に対する偏見や差別も強かった時代ですが、BL作家や読者がそれを疑問視せず、BLの男性キャラを実際のゲイとは違うものと規定していたんですよね。しかし、それでもまだ現実社会やゲイ雑誌よりもBLの方が男性同性愛を明るく描くことが多かった」
当時は、今ではよく聞く性的マイノリティを指す「LGBT」といった言葉もなく、友達や家族など周囲の人たちにも打ち明けられず悩む当事者がほとんどだった。そのため、BL愛好家女性たちはゲイの現実を知らないまま、架空の美男キャラを描いたり読んだりしていた。それは、自分たちが女性であることで生じる家父長制からの抑圧をはじめとした、現実から逃避するためだったという。しかし、2000年代を迎えると、これまでとは違った新たな作風の作品が増えてきたそうだ。
「2000年代には、同性愛者である主人公たちの幸福を願う作家たちの想像力によって、まだ実現されていないゲイ・フレンドリーな人々や社会が描かれる作品群が出てきます。それらの作品の中では、同性愛者のセクシュアリティを否定、揶揄することが受け入れられない社会が到来しているのです」
性の多様性の実現とジェンダー格差の解消に向かうヒントを与えてくれるBL作品を、溝口氏は「進化形BL」と名付けた。実社会よりも性の多様性に寛容な社会、いわば進化を先取りした世界が描かれている、というわけだ。
「進化形BL」は、性の多様性に寛容な社会を描くだけでなく、当事者であるゲイが抑圧されずに自分らしく生きていくようなストーリー構成が特徴で、その代表作が溝口氏によれば、中村明日美子氏の漫画「同級生シリーズ」だという。
「舞台は男子校で、主人公は茶髪でチャラくて女の子にモテモテの草壁くんが、ふとしたきっかけで優等生の左条くんと仲良くなり、恋に落ちていくストーリー。この展開自体はよくあるのですが、自分の同性愛感情の気づきや、友達や両親にどうカミングアウトするのかなどが、丁寧に描写されていて、現実社会でも参考になるほどリアルなのです」
このシリーズは現在6冊発売されていて、主人公2人の恋愛だけでなく、中年男性と高校生のカップルも登場し、今の日本には表出し得ない性のあり方を受け入れる社会が描かれている。
さらに重要なのは、「進化形BL」の作者の多くが「この社会で同性愛者がより幸福に生きられるためにはどうすればいいのか」といった命題を特別に意識せず、自らと読者を楽しませるため、想像力を膨らませながら、娯楽作品として生み出している点にあると、溝口氏は指摘する。そのため、性の多様性を読者も楽しみながら理解できるのだ。
■同性愛者に対する偏見がなくなれば、BL文化は廃れる?
一昔前まで「禁断の愛」として扱われることが多かったBL。それゆえ、同性愛者に対する偏見がなくなった結果、タブー感が薄まり、魅力を失うということにはならないのだろうか。
「確かに同性愛が社会に受け入れられることで、タブーとしての描かれ方はされなくなるかもしれませんが、以前対談したBL好きで知られる作家の三浦しをんさんが言われたことが一番端的な説明で、私も同意します。つまり、『異性愛が一般的な日本社会で、男女の恋愛物語が描かれない時代はなかった』ということです。人間同士が一緒にいれば、何らかの軋轢、感情が生まれ、ドラマに発展します。それは社会状況が変化しても変わらないでしょう」
諸外国と比べて、日本においては同性愛者の人権をめぐる法的な整備などが遅れている。そんななか、有名俳優がラジオでBL好きを公言したことが話題になった。また、男性アイドル同士がキスをしてみせるなど、男性同士の親密さを女性ファンに向けて“演じる”ことも増えてきた。それに対して「BLという枠組みを利用している」との批判もあるだろう。しかし、このように社会においてBLを自然に受け入れる動きが広がり、幸福に生きるゲイ・キャラクター像が一般化することで、根強いホモフォビアが現実から払拭されるのだとしたら、「BL利用」も、偏見をなくすことに最終的にはつながるのではないか。
また、一方で美少年同士がイチャイチャするのを見るのが好きでも、中年のおじさん同士がチューするのは気持ち悪いと思う人もいるだろう。しかし、近年の商業BL作品では、「同級生」シリーズをはじめ、キャラクターの年齢層が幅広くなっている。中年男性間の恋愛関係を描き、多くの支持を集める作品もある。そのようなBLを読み、それが胸を打つような作品であれば、読者はゲイにも平等に幸せになる権利があるという当たり前のことを、あらためて楽しく理解できる。その「理解」は現実社会についての認識にも少なからず影響を与えるだろう。
BLが性の多様性を学ぶための必須バイブルになる日も近いかもしれない。
(福田晃広/清談社)