重信房子・獄中からの新著『革命の季節 パレスチナの戦場から』で明かす、若き日の珍道中

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『革命の季節 パレスチナの戦場から』
(幻冬舎)
 いわずと知れた元・日本赤軍の指導者・重信房子の新著『革命の季節 パレスチナの戦場から』(幻冬舎)が発売された。  本書は、各誌に掲載された文章を中心に加筆・再構成した回想録。そこで描かれるのは冒険小説さながらの事件と、驚くべきエエカゲンさだ。  物語は、学生運動から共産主義者同盟赤軍派に参加し国際部へと進んだ重信が、パレスチナの解放勢力による医師・看護師・技術者などのボランティアの募集を知り、国際根拠地を求めて旅立つところから始まる。  重信が日本を脱出したのは1971年。まだ海外旅行は夢のような存在だった頃のこと。ネットで格安海外航空券を入手できる現代とは違い、海外旅行=日本交通公社(現・JTB)が、ほぼ独占している事業だった。  公安警察にバレることなく秘密裏に出国しようにも、正規の手段しかない。意を決した重信が訪れたのは、新宿の日本交通公社の窓口! 世間的には「テロリスト」のレッテルを貼られることの多い彼女が、窓口で航空券を買っていたとは、けっこうシュールな光景だ。  この窓口でのやりとりも感動的だ。天が味方したのか、窓口の担当者が大学の後輩だったのだ。その協力によって、重信は羽田空港からパレスチナへと旅立っていった。旅立つ当日、羽田空港ビルの向かいにあった東急ホテルでコーヒーを飲みながら、遠山美枝子に「ふう、あなたが先に死ぬんだね……」と、別れの言葉を告げられたと、重信は回想する。  その後の連合赤軍事件のいきさつを知っていれば、このシーンは重い。  さて、国境を突破して飛翔した重信だが、その任務や心意気とは裏腹に、やっぱり情熱ばかりが先立ったゆえのテキトーさが満ちあふれている。公安警察の目をくらませるための奥平剛士との偽装結婚も、渡航前に早くもバレバレ。ベイルートでは時事通信社の特派員から「いやー、新聞にあなたたちのことが出ているんです」と取材を申し込まれる。肝心のPFLP(パレスチナ解放人民戦線)とのコンタクトも、ベイルートでPLO(パレスチナ解放機構)の事務所に行って「どこですか?」と尋ねるというありさま。まさに、珍道中である。  重信とは以前、東京拘置所で対面したことがある。その時の短い会話で「あの頃は若かったから」という言葉が耳に残った。本書でも同様のことが記されている。だが、その思想を支持するにせよ、しないにせよ、多くの人が重信にシンパシーを感じているのは、若い情熱だけで走り切ったゆえである。本書の冒頭には、幻冬舎社長の見城徹が文章を寄せているが、同年代の彼は「彼らに対する僕の後ろめたさはこの世界の中で自分が世俗的にのし上がるパラドックスの強烈なモチベーションとなった」と記している。  狭い島国の枠組みをヒョイと乗り越えて、世界を股にかけて戦い抜いた重信や日本赤軍のメンバーの壮大さを真似するのは難しい。だからこそ、彼らに憧れた者は、自分の根拠地を築き「革命」することを志す。その面で、彼らの活動は社会を確実に変えてきたといえる。  重信も登場する映画『赤軍‐PFLP 世界戦争宣言』の中に「武装闘争はスタンバイすることである」の一文が登場する。武装闘争だけではない。自分の目指すべき「革命」に、メシを食べているときにも、寝ている時にも、常にスタンバイしていることこそが、重要なのだ。そして、重信たちがスタンバイし続けることができたのは、本書の行間からも伝わってくる情熱ゆえである。  「社会を変える」のは、一時の高揚感や解放感に酔うことではなく、何かを掴もうとする情熱であることを本書は教えてくれる。選挙やデモで世の中が変わるという流行のスタイルに疑問を持っている人にとっては、座右の書になることを確約できる名著である。本書は、人生をいかに生きるか、重信を通して自身と対話するための本である。 (文=昼間たかし)