『スターシップ・トゥルーパーズ』最新作で積年の到達を見せた荒牧伸志監督インタビュー

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 昆虫型エイリアン(バグ)と未来人類との全面戦争を描いたポール・バーホーベン監督のSF大作『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)が公開されて15年。『スターシップ・トゥルーパーズ2』(03)は基地に取り残された兵士たちの密室サスペンス、『スターシップ・トゥルーパーズ3』(08)は若者の愛国心をプロパガンダCMで煽る軍部を風刺コメディに仕立てるなど、1作ごとに趣向を変えた人気シリーズとなっている。そして第4弾となる最新作『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』には、日本の荒牧伸志監督が起用された。荒牧監督は『アップルシード』(04)、『エクスマキナ』(07)が世界マーケットで高評価を得た、フルCGアニメの第一人者。原作小説『宇宙の戦士』(ロバート・A・ハインライン/59年)ファンにとっては待望となる、パワードスーツ(強化服)に身を固めた地球連邦軍の兵士たちがバグの大群を相手に命知らずの戦いを挑む。とりわけ、地球へ帰還する後半はクライマックスの連続。『スター・ウォーズ』(77)以降のハリウッドSF映画の系譜に、『機動戦士ガンダム』(79)をはじめとする日本アニメのエッセンスをぶちまけたかのような怒濤の展開となっている。本作のために、新宿・歌舞伎町の一角にスタジオ「SOLA DIGITAL ARTS」を立ち上げた荒牧監督。原作小説『宇宙の戦士』との出会いによって人生が変わったという荒牧監督に、原作への想いと監督業との兼ね合い、セルアニメからCGアニメへ移行した経緯についても語ってもらった。 ――荒牧監督は高校時代にロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に出会って、人生が変わったそうですね。 荒牧伸志監督(以下、荒牧) そうです。いくつかあったターニングポイントのひとつだったことには間違いないですね。ボクの世代は中学のときに『宇宙戦艦ヤマト』(74)に出会い、それこそ中二病を患ったわけです(笑)。さらに高校で『スター・ウォーズ』、大学に入って『機動戦士ガンダム』。進学や就職を考える度に、そういった作品に遭遇したんです。『宇宙の戦士』に出会ったのは、『スター・ウォーズ』のちょっと前だったから高校2年の頃だったかなぁ。高校の帰りにいつも寄っていた書店に平積みされていたんです。何だろうと思ってパラパラめくってみると、スタジオぬえが手掛けたイラストが素晴らしかった。なけなしの小遣いで買いましたね。小説に書かれていたパワードスーツの概念も興味深かった。人間の身体能力を増強するスーツなんだけど、それを着る人間は自分の肉体もちゃんと鍛えなくてはいけない。そのための訓練は海兵隊のものと変わらない。軍隊的なイメージとSFの世界観がうまくハマっているところも新鮮に感じたんです。 ――ちなみに、進学前にそんな作品と出会ってしまって、大学受験は大丈夫だったんですか? 荒牧 夏休み中なんか、補習を受けると言っては映画館に1日中いて『スター・ウォーズ』を繰り返し観ていたんですけど、国立大学に入ることができたんです。試験がマークシート方式で、ボクはそういうのが得意だった(笑)。でも結局、大学は中退。上京してアニメ業界に進むことを親に告げると「もう、帰ってくるな!」と言われましたね。自分が子どもを育てる立ち場になって、親が怒った気持ちが分かるようになりました(苦笑)。 ――『アップルシード』『エクスマキナ』が海外で評価されたことで、『宇宙の戦士』を原作にした『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズの最新作を監督することに。感慨深いのでは?
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Acquisitions Inc.All rights reserved.
荒牧 そう言ってもらえると確かに感慨深く思うんですが、現場に身を置く立ち場としてはただバタバタと仕事に追われているもので、感慨に耽っている余裕がないんです(苦笑)。監督という立ち場に就くと、「次は何をやるか」ということを常に考えていなくちゃならないわけです。もちろん、今抱えている仕事を成功させるというのが大前提です。そういう中で今度は『スターシップ・トゥルーパーズ』ができればサイコーだなと提案したところ、プロデューサー側も『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズを候補作のリストに入れていたんです。ラッキーでした。自分がやりたい企画は、誰彼かまわず言い続けることは大事だなと思いますよ(笑)。ただし、今回は新しいスタジオを立ち上げることになり、スタッフ集めから積極的に関わっていたため、あれこれと余計なことで悩む暇がなかった。逆にそれもよかったように思いますね。 ■スタジオぬえ版とは異なるパワードスーツ ――もしも若い頃に『スターシップ・トゥルーパーズ』を手掛けることになっていたら、「『宇宙の戦士』をいちばん理解しているのはオレだ」みたいな気持ちが強く働いたんじゃないでしょうか? 荒牧 以前の自分なら、「スタジオぬえの『宇宙の戦士』のイラストをそのままデザイン化しよう」などゴリゴリの考えになっていたと思います。でも今回、そういうのはなかったですね。監督作を何本かやらせてもらう中で、出会った人たちをうまくコーディネイトしながら面白いものを作ることを覚えたように思います。集まったスタッフの中から自分とは違うものが出てくることを「これはこれで面白いな」と感じるようになっていた。そのほうが仕事は広がります。ですから今回も最初からかっちりしたイメージに向かって突き進んだというより、いろんなスタッフから出てきたものに自分が少しずつ調味料を加えながら作っていった感じなんです。どんな仕上がりになるのか、自分も楽しみながらの作業だったように思いますね。 ――本作のオープニングのせりふ「医者にはわかるまい。これは武者ぶるいだ」は、『宇宙の戦士』の冒頭を思わせます。 荒牧 言葉遣いは現代風に脚本家のフリント・ディルがいじっていますけど、原作小説からの完全な引用です。今回、基本的にはポール・バーホーベン監督が作った第1作の世界観に則った形にしていますが、やっぱりどこかに原作ファンとしてのこだわりは残しておきたいという想いがあったんです。ちょうど、ソニー・ピクチャーズ側のプロデューサーから「冒頭シーンを『宇宙の戦士』っぽくできないか」とオファーが出ていたので、「ぜひやりましょう」と。原作者であるハインラインへのリスペクトを、改めて作品の中に刻もうということですね。予告編を見た人は『宇宙の戦士』だと気づいてくれているようです。「あれ、スタジオぬえのイラストとは違うな」と思ってもらっても構いませんし、もちろん第1作からのファンにも観てほしい。いろんな角度から楽しんでもらいたいですね。
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――荒牧監督といえば、メカデザインへのこだわりで有名。序盤から登場するパワードスーツですが、思ったよりもシンプルで驚きました。 荒牧 原作小説でもそうなんですが、パワードスーツは全兵士が着用しているもの。マスプロダクトっぽい感じにしたかったんです。あえて1着1着をヒーローっぽくしませんでした。軍隊みたいに見せたかったんです。その分、後半に登場するマローダー・マーク2はヒーローっぽい押し出し感を打ち出しています。『スターシップ・トゥルーパーズ3』のラストにもマローダーは登場していたので、今回は実写版に負けないものを考えました。メカデザインはゲーム業界でキャリアを積んだ臼井伸二さんにお願いしたんですが、それが良かったように思います。自分が直接手掛けると、どうしてもスタジオぬえのイメージから離れられなかったでしょうから。 ■鬼気迫るクライマックス、その製作内情は? ――モーションキャプチャーで撮影されたリアルなフルCGアニメを観ていると、実写とアニメの境界がなくなっているように感じます。 荒牧 どういう風に観ていただいてもいいと思います。キャプチャー技術はハード面もソフト面もずいぶん向上しています。でも実際の仕上げは、アニメーションのスーパーバイザーという担当者がいて、CG臭さが気になるシーンがあると物凄く細かくチェックを入れるんです。人の体の基本的な動きはキャプチャーで表現できるんですが、手首・指先・目線などの動きは後から付けています。「指の角度をあと5度下げてください」「ほんのちょっと戻してください」とスーパーバイザーの指示が非常に細かい(苦笑)。そんなに細かく直しても……と思ったりもするんですが、仕上がった映像を確認すると、すごく自然になっているんです。キャプチャーの動きをそのまま取り込んでいるわけではなく、とても細かいアニメーション的作業も要していますね。 ――バグに乗っ取られた宇宙戦艦が地球へ突撃していく後半は、異様な盛り上がり。『スター・ウォーズ』や『エイリアン2』(86)といったハリウッドSF大作、『機動戦士ガンダム』をはじめとする日本の人気アニメのエッセンスを総結集させたような迫力です。 荒牧 そういう風に楽しんでもらえるのが、ボクとしては一番うれしい。極論すると、自分の好きなものしか作れないってことですね(笑)。後半はやりすぎだったかも知れません(苦笑)。正直なところ、製作中は大変なことになりました。宇宙戦艦が地球の大気圏を突破していくシーンは、海外の幾つかのプロダクションに発注していたんですが、ギリギリの段階になって「やっぱりできない」と言われてしまった。「おいおい!」ですよ。それでもう仕方ないんで、社内でやることになったんです。世界を1周して、自分たちのところに戻ってきてしまった(笑)。現場では、みんなブチ切れながら作業していました。自分たちの追い込まれた状況が、作品に反映されているかも知れません(笑)。 ■荒牧監督がCGに手を伸ばしたその理由 ――バグと人類の壮絶な戦いは、日本のアニメ業界がどうやってこれから生き残っていくのかということも連想させます。言葉を換えれば、アナログ的なものとデジタル的なものとのサバイバル戦争のようにも感じます。
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荒牧 なるほど。ボクはかれこれ30年ほどアニメの世界に身を置いています。今でこそ「アニメは日本の誇る人気コンテンツ」なんてもてはやされていますが、ボクがこの世界に入った頃は全然違いました。「いい年して、アニメを見て」と嘲笑されていた時代に、この業界に入ったわけです。これから自分はどうなるんだろうという不安を抱えながら仕事を始めました。それが、今でもこの仕事を続けることができている。それだけで充分に幸せなんです。本当はもっと後進のことも考えないといけないんでしょう。でも、ボクとしては「好きな絵を描いて、お金までもらえるなんて」という感謝の気持ちが今でもあるんですよ(笑)。これからのアニメはこうあるべきとか、大層なことはボクは考えていません。CGアニメを始めたのも、同世代のアニメ作家である河森正治さんや庵野秀明さんには同じ土俵では敵わないと思ったから。他のデザイナーたちより2~3年だけ早くCGアニメに着手しただけ。デジタルかアナログかという意識はなかったですね。ボクの場合はメカデザインを描くことが多かったので、メカは手で描くよりもCGを使ったほうが細かく描けるし、1度モデルを作れば、細かいメカを何十枚も描いてもらう苦労も省けるはず、というシンプルな考えからです。楽できる部分は楽しようと。ガンダムはメカだけどキャラクターでもあるから、あんまりカチッと描くと嫌がるファンもいるので、そういう場合は手描きでもいいと思うんです。要は観てくれる人を楽しませることができるかどうかの問題でしょうね。 ――日本のアニメは今後どうなると思いますか? 荒牧 日本のアニメ、特に手描きのアニメーションは作品の量も質も、それを支えるファンの熱意も世界で一番です。作り手の情熱が続いて、ファンが支えてくれれば、この状況は続くでしょう。ただし、その状況がいつまで続くのかはわかりません。その点、ボクはあまり心配していないんです。アナログだろうが、デジタルだろうが、きっと残るものは残るよ、という考え方ですね。 (取材・構成=長野辰次/撮影=市村岬) 『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』 製作総指揮/エド・ニューマイヤー、キャスパー・ヴァン・ディーン 原案/荒牧伸志、ジョセフ・チョウ、河田成人 脚本/フリント・ディル 監督/荒牧伸志 配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 7月21日(土)より新宿ピカデリーほか日本先行公開 <http://www.ssti.jp> ●あらまき・しんじ 1960年、福岡生まれ。メカニックデザイナーとしてアニメ界で頭角を現わす。大型パワードスーツが活躍するオリジナルビデオアニメ『メタルスキンパニックMADOX-01』(88)で監督デビュー。士郎正宗原作による『アップルシード』(04)はフル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャーを用い、海外でも話題に。続く『エクスマキナ』(07)は『男たちの挽歌』(86)のジョン・ウーがプロデュースを手掛け、世界マーケットに送り出された。松本零士の『宇宙海賊キャプテンハーロック』をフルCGアニメ化した『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』が現在製作進行中。

『スターシップ・トゥルーパーズ』最新作で積年の到達を見せた荒牧伸志監督インタビュー

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 昆虫型エイリアン(バグ)と未来人類との全面戦争を描いたポール・バーホーベン監督のSF大作『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)が公開されて15年。『スターシップ・トゥルーパーズ2』(03)は基地に取り残された兵士たちの密室サスペンス、『スターシップ・トゥルーパーズ3』(08)は若者の愛国心をプロパガンダCMで煽る軍部を風刺コメディに仕立てるなど、1作ごとに趣向を変えた人気シリーズとなっている。そして第4弾となる最新作『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』には、日本の荒牧伸志監督が起用された。荒牧監督は『アップルシード』(04)、『エクスマキナ』(07)が世界マーケットで高評価を得た、フルCGアニメの第一人者。原作小説『宇宙の戦士』(ロバート・A・ハインライン/59年)ファンにとっては待望となる、パワードスーツ(強化服)に身を固めた地球連邦軍の兵士たちがバグの大群を相手に命知らずの戦いを挑む。とりわけ、地球へ帰還する後半はクライマックスの連続。『スター・ウォーズ』(77)以降のハリウッドSF映画の系譜に、『機動戦士ガンダム』(79)をはじめとする日本アニメのエッセンスをぶちまけたかのような怒濤の展開となっている。本作のために、新宿・歌舞伎町の一角にスタジオ「SOLA DIGITAL ARTS」を立ち上げた荒牧監督。原作小説『宇宙の戦士』との出会いによって人生が変わったという荒牧監督に、原作への想いと監督業との兼ね合い、セルアニメからCGアニメへ移行した経緯についても語ってもらった。 ――荒牧監督は高校時代にロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に出会って、人生が変わったそうですね。 荒牧伸志監督(以下、荒牧) そうです。いくつかあったターニングポイントのひとつだったことには間違いないですね。ボクの世代は中学のときに『宇宙戦艦ヤマト』(74)に出会い、それこそ中二病を患ったわけです(笑)。さらに高校で『スター・ウォーズ』、大学に入って『機動戦士ガンダム』。進学や就職を考える度に、そういった作品に遭遇したんです。『宇宙の戦士』に出会ったのは、『スター・ウォーズ』のちょっと前だったから高校2年の頃だったかなぁ。高校の帰りにいつも寄っていた書店に平積みされていたんです。何だろうと思ってパラパラめくってみると、スタジオぬえが手掛けたイラストが素晴らしかった。なけなしの小遣いで買いましたね。小説に書かれていたパワードスーツの概念も興味深かった。人間の身体能力を増強するスーツなんだけど、それを着る人間は自分の肉体もちゃんと鍛えなくてはいけない。そのための訓練は海兵隊のものと変わらない。軍隊的なイメージとSFの世界観がうまくハマっているところも新鮮に感じたんです。 ――ちなみに、進学前にそんな作品と出会ってしまって、大学受験は大丈夫だったんですか? 荒牧 夏休み中なんか、補習を受けると言っては映画館に1日中いて『スター・ウォーズ』を繰り返し観ていたんですけど、国立大学に入ることができたんです。試験がマークシート方式で、ボクはそういうのが得意だった(笑)。でも結局、大学は中退。上京してアニメ業界に進むことを親に告げると「もう、帰ってくるな!」と言われましたね。自分が子どもを育てる立ち場になって、親が怒った気持ちが分かるようになりました(苦笑)。 ――『アップルシード』『エクスマキナ』が海外で評価されたことで、『宇宙の戦士』を原作にした『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズの最新作を監督することに。感慨深いのでは?
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(c)2012 Sony Pictures Worldwide 
Acquisitions Inc.All rights reserved.
荒牧 そう言ってもらえると確かに感慨深く思うんですが、現場に身を置く立ち場としてはただバタバタと仕事に追われているもので、感慨に耽っている余裕がないんです(苦笑)。監督という立ち場に就くと、「次は何をやるか」ということを常に考えていなくちゃならないわけです。もちろん、今抱えている仕事を成功させるというのが大前提です。そういう中で今度は『スターシップ・トゥルーパーズ』ができればサイコーだなと提案したところ、プロデューサー側も『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズを候補作のリストに入れていたんです。ラッキーでした。自分がやりたい企画は、誰彼かまわず言い続けることは大事だなと思いますよ(笑)。ただし、今回は新しいスタジオを立ち上げることになり、スタッフ集めから積極的に関わっていたため、あれこれと余計なことで悩む暇がなかった。逆にそれもよかったように思いますね。 ■スタジオぬえ版とは異なるパワードスーツ ――もしも若い頃に『スターシップ・トゥルーパーズ』を手掛けることになっていたら、「『宇宙の戦士』をいちばん理解しているのはオレだ」みたいな気持ちが強く働いたんじゃないでしょうか? 荒牧 以前の自分なら、「スタジオぬえの『宇宙の戦士』のイラストをそのままデザイン化しよう」などゴリゴリの考えになっていたと思います。でも今回、そういうのはなかったですね。監督作を何本かやらせてもらう中で、出会った人たちをうまくコーディネイトしながら面白いものを作ることを覚えたように思います。集まったスタッフの中から自分とは違うものが出てくることを「これはこれで面白いな」と感じるようになっていた。そのほうが仕事は広がります。ですから今回も最初からかっちりしたイメージに向かって突き進んだというより、いろんなスタッフから出てきたものに自分が少しずつ調味料を加えながら作っていった感じなんです。どんな仕上がりになるのか、自分も楽しみながらの作業だったように思いますね。 ――本作のオープニングのせりふ「医者にはわかるまい。これは武者ぶるいだ」は、『宇宙の戦士』の冒頭を思わせます。 荒牧 言葉遣いは現代風に脚本家のフリント・ディルがいじっていますけど、原作小説からの完全な引用です。今回、基本的にはポール・バーホーベン監督が作った第1作の世界観に則った形にしていますが、やっぱりどこかに原作ファンとしてのこだわりは残しておきたいという想いがあったんです。ちょうど、ソニー・ピクチャーズ側のプロデューサーから「冒頭シーンを『宇宙の戦士』っぽくできないか」とオファーが出ていたので、「ぜひやりましょう」と。原作者であるハインラインへのリスペクトを、改めて作品の中に刻もうということですね。予告編を見た人は『宇宙の戦士』だと気づいてくれているようです。「あれ、スタジオぬえのイラストとは違うな」と思ってもらっても構いませんし、もちろん第1作からのファンにも観てほしい。いろんな角度から楽しんでもらいたいですね。
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――荒牧監督といえば、メカデザインへのこだわりで有名。序盤から登場するパワードスーツですが、思ったよりもシンプルで驚きました。 荒牧 原作小説でもそうなんですが、パワードスーツは全兵士が着用しているもの。マスプロダクトっぽい感じにしたかったんです。あえて1着1着をヒーローっぽくしませんでした。軍隊みたいに見せたかったんです。その分、後半に登場するマローダー・マーク2はヒーローっぽい押し出し感を打ち出しています。『スターシップ・トゥルーパーズ3』のラストにもマローダーは登場していたので、今回は実写版に負けないものを考えました。メカデザインはゲーム業界でキャリアを積んだ臼井伸二さんにお願いしたんですが、それが良かったように思います。自分が直接手掛けると、どうしてもスタジオぬえのイメージから離れられなかったでしょうから。 ■鬼気迫るクライマックス、その製作内情は? ――モーションキャプチャーで撮影されたリアルなフルCGアニメを観ていると、実写とアニメの境界がなくなっているように感じます。 荒牧 どういう風に観ていただいてもいいと思います。キャプチャー技術はハード面もソフト面もずいぶん向上しています。でも実際の仕上げは、アニメーションのスーパーバイザーという担当者がいて、CG臭さが気になるシーンがあると物凄く細かくチェックを入れるんです。人の体の基本的な動きはキャプチャーで表現できるんですが、手首・指先・目線などの動きは後から付けています。「指の角度をあと5度下げてください」「ほんのちょっと戻してください」とスーパーバイザーの指示が非常に細かい(苦笑)。そんなに細かく直しても……と思ったりもするんですが、仕上がった映像を確認すると、すごく自然になっているんです。キャプチャーの動きをそのまま取り込んでいるわけではなく、とても細かいアニメーション的作業も要していますね。 ――バグに乗っ取られた宇宙戦艦が地球へ突撃していく後半は、異様な盛り上がり。『スター・ウォーズ』や『エイリアン2』(86)といったハリウッドSF大作、『機動戦士ガンダム』をはじめとする日本の人気アニメのエッセンスを総結集させたような迫力です。 荒牧 そういう風に楽しんでもらえるのが、ボクとしては一番うれしい。極論すると、自分の好きなものしか作れないってことですね(笑)。後半はやりすぎだったかも知れません(苦笑)。正直なところ、製作中は大変なことになりました。宇宙戦艦が地球の大気圏を突破していくシーンは、海外の幾つかのプロダクションに発注していたんですが、ギリギリの段階になって「やっぱりできない」と言われてしまった。「おいおい!」ですよ。それでもう仕方ないんで、社内でやることになったんです。世界を1周して、自分たちのところに戻ってきてしまった(笑)。現場では、みんなブチ切れながら作業していました。自分たちの追い込まれた状況が、作品に反映されているかも知れません(笑)。 ■荒牧監督がCGに手を伸ばしたその理由 ――バグと人類の壮絶な戦いは、日本のアニメ業界がどうやってこれから生き残っていくのかということも連想させます。言葉を換えれば、アナログ的なものとデジタル的なものとのサバイバル戦争のようにも感じます。
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荒牧 なるほど。ボクはかれこれ30年ほどアニメの世界に身を置いています。今でこそ「アニメは日本の誇る人気コンテンツ」なんてもてはやされていますが、ボクがこの世界に入った頃は全然違いました。「いい年して、アニメを見て」と嘲笑されていた時代に、この業界に入ったわけです。これから自分はどうなるんだろうという不安を抱えながら仕事を始めました。それが、今でもこの仕事を続けることができている。それだけで充分に幸せなんです。本当はもっと後進のことも考えないといけないんでしょう。でも、ボクとしては「好きな絵を描いて、お金までもらえるなんて」という感謝の気持ちが今でもあるんですよ(笑)。これからのアニメはこうあるべきとか、大層なことはボクは考えていません。CGアニメを始めたのも、同世代のアニメ作家である河森正治さんや庵野秀明さんには同じ土俵では敵わないと思ったから。他のデザイナーたちより2~3年だけ早くCGアニメに着手しただけ。デジタルかアナログかという意識はなかったですね。ボクの場合はメカデザインを描くことが多かったので、メカは手で描くよりもCGを使ったほうが細かく描けるし、1度モデルを作れば、細かいメカを何十枚も描いてもらう苦労も省けるはず、というシンプルな考えからです。楽できる部分は楽しようと。ガンダムはメカだけどキャラクターでもあるから、あんまりカチッと描くと嫌がるファンもいるので、そういう場合は手描きでもいいと思うんです。要は観てくれる人を楽しませることができるかどうかの問題でしょうね。 ――日本のアニメは今後どうなると思いますか? 荒牧 日本のアニメ、特に手描きのアニメーションは作品の量も質も、それを支えるファンの熱意も世界で一番です。作り手の情熱が続いて、ファンが支えてくれれば、この状況は続くでしょう。ただし、その状況がいつまで続くのかはわかりません。その点、ボクはあまり心配していないんです。アナログだろうが、デジタルだろうが、きっと残るものは残るよ、という考え方ですね。 (取材・構成=長野辰次/撮影=市村岬) 『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』 製作総指揮/エド・ニューマイヤー、キャスパー・ヴァン・ディーン 原案/荒牧伸志、ジョセフ・チョウ、河田成人 脚本/フリント・ディル 監督/荒牧伸志 配給/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 7月21日(土)より新宿ピカデリーほか日本先行公開 <http://www.ssti.jp> ●あらまき・しんじ 1960年、福岡生まれ。メカニックデザイナーとしてアニメ界で頭角を現わす。大型パワードスーツが活躍するオリジナルビデオアニメ『メタルスキンパニックMADOX-01』(88)で監督デビュー。士郎正宗原作による『アップルシード』(04)はフル3DCG、トゥーンシェーディング、モーションキャプチャーを用い、海外でも話題に。続く『エクスマキナ』(07)は『男たちの挽歌』(86)のジョン・ウーがプロデュースを手掛け、世界マーケットに送り出された。松本零士の『宇宙海賊キャプテンハーロック』をフルCGアニメ化した『SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK』が現在製作進行中。