「俺とラブしてくれませんか?」醜悪な欲望が絡み合う『天国の恋』の情念

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『天国の恋』|東海テレビ
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。  中年女性店員が揉み合いの末、ジャニーズJr.高田翔が演じる万引き青年の股間をわしづかみにする――。そんなシーンから始まったのが、昼ドラ『天国の恋』(フジテレビ系)だ。  その“感触”に気づいて思わず手を離してしまい、万引き青年を逃してしまったのが、床嶋佳子演じる古書店の嫁・斎(いつき)。万引きされたのを知って「わざと逃したんじゃないか?」と叱りつける夫・郷治(ダンカン)との夫婦仲は冷えきっている。そんないら立ちと万引き青年に対する欲情を抱えながら、同世代の“アラフォー仲間”たちが若い男たちと交際しながら生き生きと生活していることを知り、真剣に「離婚」を考え始める斎。その夜、そんな彼女に「いいだろ? お前には俺っきゃいないんだから」と関係を迫る夫を、斎は拒むのだった。そして翌日、万引き青年は免許証の入ったカバンを取り戻に再び店にやってくる。が、その中に免許証がない。青年があきらめて店を出た後に古本の間に埋もれていた免許証を見つけ、それを口実に、青年のもとを訪れる斎。そこで青年は「俺、この前万引きしたとき奥さんにギュッとつかまれたもんで、あれから思い出すと切ないっス。胸が締め付けられたりモヤモヤしてきて……」と言うのだ。「ごめんなさい、思わず……」と謝る斎に、青年は続ける。「奥さん、俺と寝てくれませんか?」と。戸惑う斎に、青年は熱い眼差しを向けて迫る。 「俺とラブしてくれませんか?」   ここまでが、わずか30分の第1話に凝縮されていた。ツッコミどころは満載だが、いちいちツッコんでいたら、このジェットコースターのような展開に振り落とされてしまうこと必至。脚本は、『真珠夫人』や『牡丹と薔薇』などの中島丈博。近年でも『赤い糸の女』などで話題をさらったばかりだ。昼ドラの中島作品といえば、ドロドロとした恋愛模様、嫉妬、秘められた過去、憎悪が渦巻く過剰でエキセントリックな物語が特徴だ。そして大胆な濡れ場。しかも、今回はその相手役がジャニーズのアイドルである内博貴や高田翔。当然、これまで以上に主婦の妄想を刺激する。昼ドラ×中島丈博×ジャニーズ。まさに“最狂”の組み合わせだ。  2話以降はさらに、斎が少女時代のことも現在と交差して描かれる。それがまた怒涛の展開だ。まず、いきなり母親と死別。さらに、そのすぐ後には父親(石原良純)とも死別する。そのいずれもが、原因は自分にあると自分を責める斎。彼女を慰めるように、両親の“親友”で、海老原医院の医院長である邦英(石田純一)が姉弟揃って引き取ることになる。当然、邦英夫人やその子どもたちとの軋轢などを生み、それに苦しむ斎と弟の友也(亜蓮)。  ここまででも十分濃厚だが、まだまだ怒涛の展開は止まらない。  このドラマで最も強烈なキャラクターは、毬谷友子演じる海老原医院の婦長・徳美だ。毬谷は制作発表の場で「私は“妖怪、化け物エリア”を担当しております」と語ったように、化け物じみたメイクとキャラで登場。婦長は斎姉弟にダッサイ服を買ってきたりと、押しつけがましい愛情を注ぎ、彼女たちを困惑させていた。  そしてついに「これ以上隠しておくことなんてできない」と、自分が本当の母親だと告白する。その言葉通り、斎と友也の実の両親は、なんと医院長と婦長だったのだ。  「そんなのおかしいよ!」と納得がいかない友也に、「あっははははは!」と突然笑い出す婦長。 「急にこんなこと言われて友也ちゃんはびっくりするでしょうけど、でも斎ちゃん、あなたは違うわよね。あなたは女だし、もう大人だからだいたいのことは分かるわよね。私と医院長は愛し合って、その結果あなたたちが生まれたの。それで清水のご両親に預けたの。だから、あちらはただの養父母。本当の両親じゃないの。ただの育ての親なの」  なおも「そんなのデタラメだ!」と食い下がる友也に婦長は態度を急変、激昂する。友也が何も言えなくなると、またすぐ声色を変えて「一度でいいから母親らしく叱ってみたかった」と泣き出すのだ。  たったひとつのシーンで、ここまで感情がめまぐるしく変わっていく婦長。情緒不安定というより、そこにあるのは情念だけだ。  程なくして、育ての母、父に続いて弟の友也までも交通事故で亡くしてしまう斎。そんな暗い過去を背負って成長した斎を、夫の母(丘みつ子)は「“死神”みたいな女」と毛嫌いし、斎の娘の美亜(大出菜々子)に彼女の悪口を吹き込んでいる。「一生ナマ殺しにしてやる」と離婚を許さない夫に対し、斎は別離を決意。やむを得ず娘を置いて、再び医院長の家に舞い戻った。  そして、あの万引き青年と再会。「抱いて」と身を預けるのだった。  奇妙奇天烈、阿鼻叫喚。このドラマに出てくる人物は、例外なく欲望と感情むき出しだ。しかも、そのほとんどが醜悪だ。情念と情念がぶつかり合い、また情念が生まれる。そんな醜悪な情念はなぜか中毒性があって、目を背けたいのに目を離すことができない。中島作品は秘められた欲望をあぶり出し、それを過剰に見せつける。それを真っ昼間に見る背徳感とある種の肯定感は、何物にも代えがたい。同ドラマのプロデューサーが「昼ドラは大人のテーマパーク」と言う通り、その情念の波に溺れる快感は、抗うのが難しい昼ドラの耽美な快楽なのだ。  ちなみにこの作品のタイトルバックの演出は、なぜか石田純一である。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

この国では、世間さまに嫌われたら有罪――『リーガルハイ』の宣戦布告

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『リーガルハイ』-フジテレビ
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「やられてなくてもやり返す! だれかれ構わず八つ当たりだッ!」  いきなり『半沢直樹』(TBS系)のラストショットと同じ表情で始まった『リーガルハイ』(フジテレビ系)の第2シリーズは、前作と同様に「お・も・て・な・し」をもじったり、ゲストの松平健の「無礼千万!」というセリフに『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)のBGMを乗せたりと、だれかれ構わずパロディの刃を振り回している。  勝つためには手段を選ばない弁護士・古美門(堺雅人)と、“正義”を貫こうとして事あるごとに対立するパートナーの黛(新垣結衣)を描いた『リーガルハイ』は、2012年4月に第1シリーズが放送され、今年4月のスペシャル版を経て、10月に新シリーズとして復活した。  「正義は少年ジャンプの中にしかないと思え!」などとエキセントリックな言動で古美門を演じるのは、半沢直樹役が記憶に新しい堺雅人。それまで静かで繊細な役が多かった堺から『半沢直樹』よりも先に、その過剰な演技を引き出したのは『リーガルハイ』だった。堺なら、どんなに過剰でエキセントリックに演じても、品が保たれることが、すでに前作で証明されていたのだ。  古美門から「朝ドラのヒロインか!」と罵倒される黛。彼女は今作でも「今どき朝ドラの主人公でも、もっと成長するぞ。これほど変わらないのは、キミと磯野家ぐらいのものだ」と揶揄されるが、黛はもちろん古美門を含め、このドラマの主要人物は基本的に成長しない。思えば「ヒロインが成長しない」ということが特徴だった『あまちゃん』(NHK)をも先取りしていたのだ。  これまで『リーガルハイ』では、離婚訴訟から日照権裁判、いじめ問題までさまざまな訴訟に対し、古美門は勝ち続けてきた。だが、今シリーズでは、いきなり敗戦を味わうことになる。  それが、保険金目当てで次々と交際相手を殺した連続保険金殺人容疑の「毒婦」安藤貴和(小雪)裁判だ。証拠も揃っている上、圧倒的な世論で「死刑」回避は困難な状況で、古美門は証拠の信用性の低さを突き、彼女を無罪に導こうとする。形勢は逆転したかに見えたが、安藤が突然自供を始めてしまったため敗訴。古美門は上告して、この敗戦をチャラにしようと決意する。今作では、ほかのさまざまな訴訟と並行して、この事件の裁判が連続ものとして描かれていくようだ。  安藤裁判の途中、古美門は「安藤貴和が犯した罪が仮にあるとするならば、ただひとつ」だと言い放った。 「それは世間に嫌われたことです。この国では世間さまに嫌われたら有罪なんです!」  この対世間、対世論は、今作の大きなテーマのひとつなのかもしれない。第2話では若くして会社を創設し、一流会社を次々と買収、“時代が生んだ天才”と謳われもてはやされた果てに、インサイダー取引で実刑を受け出所した鮎川光(佐藤隆太)が、自分を誹謗中傷したマスコミらを訴えると息巻く。それを知った古美門は、珍しく自ら鮎川に売り込みに行く。 「この国の報道のあり方は問題です。表現の自由などという戯言を盾に言いっぱなしで責任をとらず、いいときは持ち上げ、落ちるときは一斉に叩く。有名人を叩けば庶民が喜ぶと思っているんです。有名人もまた、ひとりの庶民であるはずなのに。マスコミだけではありません。いまや誰もかれもが批評家気取り。一般人だから何を言っても許されると思っている」  明らかに、どこかで聞いたことのあるような経歴の鮎川に対し、古美門はさらに続ける。 「フィクションの名のもとに、明らかにあなたをモデルにした人物を登場させ、笑いものにしているクソドラマやヘボ小説が山ほどある。どいつもこいつも、根こそぎ訴えようじゃありませんか!」  しかし、鮎川は古美門の弁護を拒否。自分自身で戦う本人訴訟を彼は選んだのだ。 そして古美門は自分が訴えようと提案したばかりの、パロディ漫画を描いて訴えられた「フィクション」側の弁護士として鮎川と対峙する。古美門にとって、世間が考えるような善悪は無関係。依頼人の善こそがすべてだ。   今作では新しく羽生(岡田将生)という「人たらし」の弁護士が新レギュラーとして加わった。彼は「お互いが譲り合って、みんながHappyになれる落としどころ」を探り、「双方がWin-Winになる道を見つけるために裁判がある」という考えの男だ。戦って傷を負うことを嫌い、「戦わない」ことを選ぼうとする。  古美門の正義は「金」である、と本人も高らかに宣言している。けれど、そうではないのかもしれない。古美門にとっての本当の正義とは、「戦うこと」それ自体ではないだろうか。  前作でも彼は、訴訟を取り下げようとした原告団の住民たちに「これがこの国のなれ合いという文化の根深さだ」と吐き捨て、「誇りある生き方を取り戻したいのなら、見たくない現実を見なければならない。深い傷を負う覚悟で、前に進まなければならない。戦うということは、そういうことだ!」と大演説で鼓舞していた。  戦うことでしか、何も生まれない。目の前の問題を見て見ぬふりをして先送りにしては、何も解決しない。それは今、「フィクション」を作ることに対する作り手としての心構えと心意気とが重なっているように見える。  鮎川と怒涛の攻防を繰り広げた古美門は、したたり落ちる汗も気にせず「もっとやろう」と不敵に笑った。 「勝つか負けるか、最後まで徹底的に戦うぞ!」  それは古美門の、いや『リーガルハイ』の世間に対する宣戦布告かのようだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

オードリー若林まさかの号泣!『日曜×芸人』で何が起きたのか?

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テレビ朝日『日曜×芸人』
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。  オードリー若林正恭が号泣した。それも、周囲の共演者が「なんなの、これ?」と戸惑うような、唇を震わせながらのマジ泣きだった。若林といえば、感情を表に出すことが少ない、ひねくれた性格の持ち主として知られている。感動的なVTRを見ても薄笑いを浮かべてしまうような、そんなタイプの芸人だ。その若林がテレビで泣く、というのはなかなか想像ができない光景だ。  その“事件”は『日曜×芸人』(テレビ朝日系)で起こった。この日の企画は「だんだん減らそう 5連続チャレンジ! カロリーバイキング」。高級ホテルのビュッフェで一人ずつ料理の種類と量を選び、上限1000キロカロリー、下限100キロカロリーの範囲でだんだんカロリーを減らしていくゲーム。レギュラーの若林、バカリズム、山崎弘也とゲストのSHELLY、モデルの有村実樹の5人が連続で成功すれば、選んだ高級料理を全員で食べられるというルールだ。「前菜」「メイン」「デザート」の3回のチャンスが与えられ、そのすべてに失敗すると食べられない上に、食事代を自腹で支払わなければならない。  けれど、普通に考えて泣く要素はゼロである。  まず「前菜」。最初に挑戦したのが若林だった。1000キロカロリーを超えてはならず、できるだけ1000キロカロリーに近づけたほうが、2人目以降が有利になるという条件の中、若林は1690キロカロリーを出してしまう。いきなりの大失態。共演者に「ええー! ウソ!?」と軽く非難されながらも、もともとゲーム自体を楽しむ番組ではなく、出演者のやりとりを楽しむこの番組。いつものにこやかでユルい雰囲気そのままだった。オープニングの予告で泣いている姿が映されていたから、“ああ、ここからだんだんと追い詰められていったのかな”と想像できるが、そうと知らずに見れば、なんということない、ごく当たり前の見慣れたシーン。泣きだす雰囲気はみじんもなかった。  出題は「メイン」に移る。最初に選んだのはSHELLY。1000キロカロリーに近づけなければならないのに、出した数値は439。残り4人で439~100キロカロリーのわずかな間に収めなければならないという、成功には絶望的な状況になった。しかしこの後、山崎、有村、バカリズムは神がかった予想で次々とクリア。成否は、最後の若林の選択にかかることになってしまった。  そのプレッシャーに、若林は押しつぶされそうになっていた。  伏線はあった。まず、いきなり「前菜」で失敗したこと。そして、この同じ企画を行った前回の放送でも、若林は同じ状況で外しているのだ。その時の恐怖が蘇ってくる。 「テレ朝でこんな緊張するの『M-1(グランプリ)』以来だよぉ~」  224~100キロカロリーを選べば成功という状況の中、なかなか決められず行ったり来たりを繰り返す若林。そしてたっぷり時間をかけて決めた料理の結果は、無情にも75キロカロリー。失格だった。  「ウソ!?」「ここまでいい流れで来てたのに!」と責められる若林は、絶句して固まっている。失敗したため食べられず、それを代わりに彦摩呂が食べるというルール。その試食中もショックでリアクションができず、苦笑いを浮かべるだけの若林。それに気づき「リアクションまでが僕らの仕事よ」とイジり、笑いに変えるバカリズム。何も言い返せず、目に涙をためる若林は「すいやせん……」と声を振り絞った。そんな若林に共演者たちは戸惑っていた。  カメラのテープチェンジで収録が中断している間も、ショックの色を隠せない若林にバカリズムは「バラエティ番組!」と大笑い。もちろん、この番組はゲームで成功することが目的ではない。面白い番組にすることが目的だ。ゲームに失敗しても面白くなればいい。しかし、挑戦する前にバカリズムが言った「テレビ的にも、お願いしますよ」という言葉も、若林の頭に残っていたのだろう。ここで失敗しては、テレビ的な盛り上がりも損なわれてしまう。にもかかわらず失敗してしまった、と。しかも、失敗した時に面白いリアクションを返せなかったという思いもあっただろう。ついに若林の涙腺は決壊し、唇を震わせ号泣してしまったのだ。「テレビで初めて泣きました……」と。  「それが、ココ?」「今じゃないだろ!」と、共演者たちは驚愕と困惑の入り混じった爆笑。『M-1』でも泣かなかった若林は何かの感動VTRでもなんでもなく、バラエティ番組のお遊びのゲームでマジ泣きをしてしまったのだ。 「スタッフさんの思いとか考えたら……申し訳なくて……」 と涙ながらに語る若林に「こいつ、なんなんだよぉ!」とザキヤマは呆れていた。  YouTubeで配信された未公開映像の中で、泣いてしまった決定打について若林は「マジでSHELLYの顔が怖くて……」と明かした。確かに失敗した若林にSHELLYは鬼の形相で迫っていた。だが、ここからは完全に推測の域を出ないが、この証言はこの“事件”を笑いの範疇に収めるための半分は真実を含んだ“ウソ”ではないだろうか。もちろん、そうやって女性に責められたのも、若林にとっては大きな傷だっただろう。だが、それ以上に、それに対してうまく笑いで返せなかった自分に情けなさを感じていただろう。そして最後に決定的だったのは、おそらく、みんなに責められている状況でモデルの有村がつぶやいた「かわいそう」の一言ではないか。芸人がイジられるのはあくまでも笑いのためだ。当然、この時も若林はショックで的確な返しができない代わりに「ただただ絶句する」という受けのリアクションを消去法の中で選択し、精一杯笑いに変えようとしていたはずだ。しかし、それを「かわいそう」に見られてしまった。それは芸人として最大の屈辱だ。  そんなさまざまな思いが交錯し、正面衝突した結果、彼の涙腺は決壊してしまったのではないだろうか。テレビで芸人が涙を見せるなんて、芸人失格なのかもしれない。けれど、その涙は芸人としての忸怩あふれる涙だったように見えた。  最後は「デザート」に挑戦。若林もなんとか成功し、4人目のバカリズムが失敗。SHELLYや山崎に責められるバカリズムは、番組の流れをくみ、若林の涙にカブせようと、泣く準備に入る。  しかし、それよりも早く、まったく関係のない若林がまた泣きだしてしまった。「本はといえば……僕が……」と。もはやどんな涙なのか、さっぱり理解不能だ。バカリズムは身をくねらせて爆笑しつつ、号泣する若林にツッコんだ。 「俺の(見せ場の)シーン、取るなよ! 俺の場面だろうが!」 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

『オールスター感謝祭』暴走の裏に垣間見える、たけしの“品性”

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「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「ガダルカナル・タカさんの父親の職業は?」 という問題に、会場は騒然となった。「ヤバい、ヤバい!」というガヤが飛び交う。  回答の選択肢には「銀行員」「公務員」「農業」、そしてひときわ異彩を放つ「アウトレイジ」の文字。当事者であるタカは、出題したビートたけしに向かって言い放った。 「なんて言っていいのかわからないけど、とにかくいいかげんにしろ! 本当なだけに、ツッコみにくいわ!」  こうしてたけしは『オールスター感謝祭』(TBS系)にいつものように“乱入”し、いつものように暴走していた。  同じ日の朝、たけしは放送100回を迎える『サワコの朝』(同)にスペシャルゲストとして出演。MCを務める阿川佐和子とは『TVタックル』(テレビ朝日系)で長年共演し、気心の知れた関係だけに、その日の夜暴走した人物とは別人のように饒舌だった。  トークの中で阿川が、フライデー事件やバイク事故がだいたい10年単位で起きていることを指摘すると、たけしはこう答えた。 「結局……イラつくんじゃないですかね。漫才で売れて、ラジオでも売れて、逆にイラつく。“この先どうするんだろう”と。頭の中では落ち込むことしか出てこなくて。イライラして“俺どうする、どうする?”って。……白紙に戻す意味もあった」  そして、バイク事故の原因のひとつが映画にあったことを明かす。自信作だった映画がまったく評価されず、自暴自棄になってしまったと。 「でも、いいバチだと思って。節目、節目でバチが当たる。(略)やりたいことを、浅草の原点に戻って、自分がいいと思ったことをやって、評価されようとされまいと、しょうがないじゃない。そっから自分が芸人生活始めたのに、ちょっと売れたからって、それを守って、もっと上に行こうって図々しいことになったんだって思って。あとは、野となれ山となれ」  と、自嘲気味に笑う。  『オールスター感謝祭』に“乱入”したたけしは、開口一番「今日、ペニーオークション、来てるんだって?」と、復帰した小森純をイジって笑いに変えた。現在のテレビにおける、がんじがらめのルール。『サワコの朝』でも「(規則が厳しいと)あらゆる悪いことを、頭を使ってやるようになる」と言っていたように、それを破るか破らないかの境界線上をたけしは軽やかに行き来する。東京オリンピック開催決定に絡めて、たけしが最初に出題したのは「金をひとつしか取っていないのは誰でしょう?」という問題。回答の選択肢に谷亮子、北島康介、吉田沙保里といった複数回金メダルを獲得したアスリートが並ぶ中、爆笑問題・田中裕二の名が。思わずタカが「メダルとタマは違うんだよ! 田中が取ったのはキンタマで……」とツッコむと、「バカヤロウ! 恥を知れ、恥を!」とたけし。さらに今度は「金をひとつも取っていないのは誰?」という問題。その正解は坂本ちゃん。たけしが「ホントは(選択肢を)美輪明宏さんにしようと思ったんだよ」と言うと、司会の今田耕司が「事実は誰も知らないですから。そこはファンタジーの世界ですから」と必死にフォローする。  そして唐突に、「たけし軍団30周年」だから、と軍団関連の問題へ。そこで、冒頭の問題が出される。さらに「元M崎県知事のH国原さんが実際に起こした事件は?」という問題。慌てる東国原を尻目に「自転車泥棒」「師匠の金を盗んだ」「のぞき部屋で個室の壁を乗り越え、踊り場で全裸で踊った」「観光バスを勝手に運転して、谷底に落ちた」と選択肢が次々と読み上げられる。答えは「全部正解」。憔悴した東国原に、たけしは「まだあるぞ。『オレのファンクラブの会長に手を付けた』」と追い打ちをかけた。  最後の問題は「お父さんが経営するストリップ劇場で踊っている実の姉に、スポットライトを当てていたのは誰でしょう?」。  父親の職業が「アウトレイジ」であることをバラされたタカが再びイジられると、軍団らがたけしに罵声を浴びせながら詰め寄り、大乱闘。そして、たけしはCM明け、何事もなかったように姿を消した。  『オールスター感謝祭』で、このたけしパートだけは、それまでと同じ番組とは思えないほど、完全に性質が違うものになる。このコーナーには、まったく別のルールが適用されているかのようだ。いや、そのルール自体をイジり倒して暴れているのだ。ルール上、タブーと言われているものを無理やりにでも引きずり出して笑いものにする。  生きていれば触れたくない過去、あるいは触れられない過去は誰にでもあるだろう。そんな腫れ物になってしまうようなタブーを徹底的に笑い飛ばし、笑い話に昇華させる。マヌケな過去に塗り替える。それこそが、たけしの“品性”だ。  『サワコの朝』で「今、生きてることに感謝すればいいんだって思うよ。生きてることがすべてですって」と、たけしは子どもたちにメッセージを寄せ、こう微笑んだ。 「いずれみんな死ぬけど、『生きてる間に、いかに生きるかだけ考えろ』って言う。そうすると、マヌケなことをしているヒマはないでしょ、と。言ってる私がマヌケなことをしてるのが、ちょっとツラいですね」 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

これが日本のアイドル!『SMAP×SMAP』の挑戦

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『SMAP×SMAP』フジテレビ
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「風邪をこじらせて歌うことができなかったんですが……。僕、25年間風邪が治らないんですけど、なんとかなりませんかね?」  7月31日に放送された『FNSうたの夏まつり2013』(フジテレビ系)では、数々の見せ場が用意されたSMAP。ほかのメンバーはそれぞれ、木村拓哉×斉藤和義のようにコラボレーションで登場したが、いつもの通りほとんど歌うことがなかった中居正広は、エンディングトークでそう言って笑わせた。  そして9月9日、『SMAP×SMAP』「前代未聞生放送ライブ シングル50曲40分間ノンストップSP」でも、中居はまだ“風邪”が治っていなかったのだろう。ほとんど歌うことはなかったが、得意のダンスで魅了した。  この企画は、SMAPのCDデビュー記念日がちょうど『SMAP×SMAP』放送日であることで実現。SMAPにとっても、デビュー25周年という節目に当たる年だ。四半世紀アイドルを続け、40歳を超えるメンバーもいながら、現役の第一線を走り続けているのは、まさに前代未聞。そんな前代未聞のアイドルが、やはり前代未聞の企画に挑んだのだ。  これまで発売したシングルCDの50曲すべてをノンストップで40分間歌い続ける、というライブ企画。それも生放送で。その間、もちろんCMも入らない。しかもSMAPはアイドルだ。激しいダンスもしながら歌わなければならない。その上、ずっとサビが続くから、誰かのソロパートで休める、なんてこともほとんどない。そんな過酷なライブを、SMAPの5人は実に楽しそうに歌い上げ、踊り切った。  1991年に発売された「Can't Stop!!-LOVING-」から始まり、2年ぶりに歌ったという大ヒット曲「世界に一つだけの花」などを経て、最新曲「Joy!!」で締められたライブ。その歌詞の遍歴は、そのまま少年から大人のアイドルに成長する過程を綴っているようだ。歌い終わって草彅剛は「あのね……『27時間テレビ』で100キロ走った時よりすごかった。コトイチだね。今年一番熱くなってる」と振り返った。稲垣吾郎は「“SMAP酔い”した」とつぶやいたが、まさに「無駄なことを 一緒にしようよ」という「SMAP酔い」の40分。ひたすら楽しく、アイドルの底力を見せつけられたライブだった。  実はそんな一場面が、今年の『27時間テレビ』にもあった。  番組の後半に差し掛かった2日目のお昼。今年のメインパーソナリティは森三中、友近、オアシズ、椿鬼奴といった女芸人が務めていたが、番組内では光浦靖子、大島美幸、鬼奴、友近の母と随所に中継をつないでいた。そんな母親たちに向けてのサプライズドッキリに一役買ったのがSMAPだ。彼らが突然登場し、「ビストロSMAP」で母親たちをお客さんとしてもてなすというもの。当然のように歓喜する母親たち。それを見て、母親たちよりも早く真っ先に号泣したのが、鬼奴だった。  鬼奴は女芸人の中にあっても、苦労人のひとり。おそらく彼女は目の前で歓喜する母親の姿を見て、本当の親孝行ができたと実感して、涙をこらえきれなかったのだろう。「どうした?」とアシスタント代行を務めていた今田耕司に問われた鬼奴は、言葉をつまらせながら答えた。 「だって……こんな華々しいことが……」  それに対して、まさかのもらい泣きをする今田。 「不思議な涙やったわ~」  みんなを喜ばせ、「不思議な涙」を誘発させる。これこそがアイドルの力ではないだろうか。  中居はもとより、SMAPは決して歌がうまいわけではない。ダンスだって超一流とは言いがたい。よく欧米の歌手などと比較して「日本人はアイドルのヘタな歌で満足していておかしい。幼稚だ」などという言説や、それに対して「不完全な部分を愛するのがアイドルだ」という反論がある。だが、SMAPの前ではそんなことは全部どうでもよくなってしまう。歌がうまい/ヘタなんて関係ない。なぜなら、圧倒的なアイドルとしての表現力があるのだから。たとえば「Joy!!」を歌がめちゃくちゃうまい人が完璧に歌ったとしても、SMAPが歌う「Joy!!」にはかなわないだろう。中居ががなり声で「みんなで!」と叫び、「Joy!! Joy!!」と声を合わせ歌った時に押し寄せる多幸感に勝るものなんてないのだ。  毎日のようにテレビに出続けながらも、「40分生ライブ」なんていう革新的でワクワクする企画に挑み続けるSMAP。かつて「素敵な夢を見させておくれ」と歌った少年たちが、僕らに素敵な夢を見させてくれている。自分たちが最強のアイドルであることを、汗まみれで証明し続けているのだ。そして草彅は収録後に語った。「まだまだ全然走れる」と。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

宮藤官九郎の売名行為!?『あまちゃん』は震災をどう描いたのか

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『あまちゃん』公式サイトより
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。  『あまちゃん』(NHK総合)は、2008年から始まる東北を舞台にした長編ドラマである。だから、2011年に起きた東日本大震災を描くことになるのは、放送開始当初から話題になっていた。脚本を担当する宮藤官九郎は「(震災を)やらないのも嘘、それだけをやるのも嘘」(MSN産経ニュース)と語っていたし、放送開始前の今年3月11日に書かれたブログでは「『あまちゃん』は震災を描くドラマではありません。お茶の間の皆さんが愛着を持って見守って来たキャラクター達が、その時を経て何を感じ、どう変わるかは、ちゃんと描くことになると思います」と書いている。  その言葉どおり、『あまちゃん』における「震災」は数あるエピソードのひとつにすぎない。しかし、重要な分岐点のひとつであることも事実だ。果たして、『あまちゃん』は震災をどう描いたのか。  132話(8/31放送)では、3月12日に東京で開催される天野アキ(能年玲奈)念願のライブに向けたリハーサル風景が描かれていた。北三陸の人たちも楽しそうだ。「最近地震が多い」ということ以外、何も変わらない。アキのライブを見るため、ついに上京することになったユイ(橋本愛)はみんなに温かく見送られ、大吉(杉本哲太)と共に北三陸鉄道に乗り込んだ。物語上の母娘の確執や、春子(小泉今日子)と鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)と太巻(古田新太)のいざこざなど、整理すべき問題も片付けられていた。それは、そういった問題解決の理由や動機に「震災」を使いたくないという、作り手の意思の表れだろう。  そして、あの日がやってくる。  133話(9/2放送)は緊急地震速報で携帯電話が激しく振動するシーンから始まった。“みんな助かってくれ”。そう強く願いながら画面に見入ったのは、もちろんこれまで愛してきた登場人物たちへの思い入れもあるが、まだ脳裏にこびりついている僕たち自身の震災の記憶を呼び起こされたからだろう。  いつものように軽快なOP曲が流れだす。この明るいテーマ曲を流さない、という選択肢もあったかもしれない。むしろ、そのほうが演出としては定石だ。この状況に明るい曲はそぐわない、と感じる視聴者も多いだろう。だが、この日もいつもと同じだった。音楽を担当した大友良英は言う。 「最初から震災が来るというのを想定して作った曲。演出の井上剛さんはじめ、みんなが『これずっとかけ続けるから』って、最初からかなり強い意志でおっしゃっていて。何が起ころうと変わらない日常があるわけですし、聴こえ方が違うと思うんですよね。震災の時に限らずなんですけど、アキちゃんが笑ってる時、泣いている時、それぞれ聴こえてくるところが違う。今日は今日で違う聴こえ方がしてくると思うんですよね」(『スタジオパークからこんにちは』)  地震や津波の被害はジオラマによって表現された。ドラマ開始当初から何度となく登場し、観光協会長・菅原(吹越満)の道楽のように扱われてきたあのジオラマだ。そしてトンネルで急停止し、辛くも難を逃れた北鉄の車両から、外の状況を見ようと歩き出した大吉が気持ちを鼓舞して歌ったのもまた、小ネタとして何度も歌われた「ゴーストバスターズ」だ。  一方、東京では、被害状況を映すテレビ画面に見入りながら、気持ちが追いついていないアキたち。そこに豚汁を差し入れする安部(片桐はいり)に「なんか今は、まめぶ食べて文句言いたかった」「安部ちゃんといえば、まめぶだもんね! ドラえもんの、どら焼きみたいなもんたい!」とGMTのメンバーが言うと「まめぶはポケットには入りません!」と安部がちょっと的外れなツッコミを入れ、ようやくみんなに笑顔が戻る。  「ジオラマ」「ゴーストバスターズ」「まめぶ」。これまで小ネタでしかなかったものが、一転して大きな意味を持つ。非日常の中にも日常は潜んでいる。それが、かけがえのない救いになったのだ。  北三陸の住民の安否は「みんな無事 御すんぱいねぐ(ご心配なく)」という祖母の夏(宮本信子)の短いメールでのみ伝えられた。そして、地震や津波の被害から奇跡的に逃れた北三陸鉄道が「1区間でも1往復でもいい。誰も乗らなくてもいい。運行を再開することが使命だ」と大吉たちの奮闘で震災からわずか5日後に運転を再開させたという、ほぼ実話を基にしたエピソードが挿入される。  しかし、震災後の北三陸の描写は、アキが北三陸に戻るまでの3話(134~136話)の間で、わずか5分足らずのこのシーンだけだった。これまで東京編でも頻繁に北三陸の人々の生活を描写してきたことを考えれば、異様なことだ。それは、東京といわゆる被災地の、あの「断絶」をあえて描かないことで、痛烈に表現していた。  北三陸鉄道を復旧したように、とにかく前へ進むしかないと踏ん張って生きようとする北三陸の人々に対し、東京では迷い立ち止まっている人々の様子が描かれる。  震災発生当初、娯楽は「自粛」を余儀なくされていた。 「娯楽に関わる多くの人が自分自身に問いかけました。ドラマや映画や歌がなくても人は十分生きていける。でも水や食べ物、電気や燃料がないと人は困る。生きられない――」(春子・語り)  鈴鹿はドラマの出演依頼に対し「もちろん出たい! だけど東北の方々に申し訳ない……」と後ろ向き。それに対し、社長の春子は言うのだ。 「東北の人間が『働け』って言ってるんです!」  一方、GMT5マネジャーの水口(松田龍平)が懇願し、プロデューサー太巻が「恩売るだけだぞ。お前に対する“売名行為”だ」と承諾して実現したアキとGMT5のテレビ収録。そこで「地元に帰ろう」を歌ったのを最後に、アキは北三陸へ帰ることを決意した。  人はドラマや映画や歌や笑いがなくても生きていける――そんなわけがない。震災後の東京の描写は、作り手のそんな強い意志を感じずにはいられない。震災後わずか2年で(もちろん、震災を描くのがメインではないという注釈がつくにせよ)国民的ドラマで震災が描かれたというのは、誰もが思い浮かべるような傑作が生まれていない阪神大震災後のドラマ・映画製作状況を鑑みれば、いかに異例で偉大なことか分かる。ちなみに阪神大震災を描いたドラマ・映画の中で、最も印象的なドラマのひとつである『その街のこども』(NHK総合)の演出は、『あまちゃん』のメイン演出であり、震災が起こった週を担当した井上剛だ。「朝ドラ」で震災を扱う。それは脚本家、演出家にとって、ある意味で「売名行為」なのかもしれない。  三陸に戻ったアキを迎えたのは、「地元」の人々の以前と変わらないとびきりの笑顔だった。そして「ふさぎこんでてもしゃあねえからな」と、家が流されたり、全壊したことなど、地震や津波の被害を笑いながら語る。かつて、「みんないろいろあって、最終的にここさ、帰ってくんの」と、自分たちの過去を笑い話にしていたように。そして夏は、アキが初めて北三陸に来た日と同じように、海女として海に潜っていた。「なして潜ってんだ?」と問うアキに、夏は以前と同じように答えた。「おもしれえがらに決まってんべ!」  アキは、袖が浜では一番被害ひどかったという海女カフェを訪れる。海女カフェは、アキが作った、このドラマにおける「娯楽」の象徴のような場所だ。 「決めた! 海女カフェ復活させっぺ!」その廃墟と化した惨状を見て、アキは宣言する。 「正直、分がんねかった……。オラにできること、やるべきことって、なんだべってずっと考えてた。(略)頑張ろうとか、ひとつになろうとか言われても息苦しいばっかりでピンとこねえ。んでも帰ってきたら、いろいろハッキリした。とりあえず人は元気だ。みんな笑ってる。それはいいことだ。食べる物もまあある。北鉄も走ってる。それもいいこと。んだ。東京さいたら、いいことが耳さ入ってこねえんだ。オラが作った海女カフェが流された。直すとしたらオラしかいねえべ! これぞまさにオラにできることだべ!」  アキは、壊れてしまった居場所を「逆回転」させ、再生させることを誓ったのだ。 「笑わないことが追悼ではない。だったら365日笑っちゃいけないはずだ。むしろ亡くなった人の分も笑ったり泣いたり喜んだり悲しんだりしながら生きるのが供養なんじゃないかなと思います」(宮藤官九郎ブログより)  何が起ころうと変わらない日常がある。その日常を変わらず、「普通」に生きることは、いまや困難を伴うことだ。しかし、その尊さと大切さを『あまちゃん』は「笑おうぜ」というメッセージに乗せて伝えている。「自粛」したってしょうがない。「不謹慎」だとか「売名行為」だとか批判を浴びたって、そんなことお構いなしに立ち向かった娯楽や笑いに、僕たちは希望を感じ救われてきたのだ。  海開きの日、震災後わずか4カ月でアキたち海女の実演が行われるということで、多くの取材陣や見物客が駆けつけた。 「アキちゃんとユイちゃんが揃う、滅多にないチャンスだもの。ただ指をくわえて見てるわけにはいかねえべ」と商魂たくましい菅原、大吉たちは「K3RKDNSP(北三陸を今度こそ何とかすっぺ)」と書かれたお揃いのシャツを見せつけながら不敵に笑う。 「よろしく頼む。だって“被・災・地”だもの」 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最高にサイテーな『徳井義実のチャックおろさせて~や』というエロの境地

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『徳井義実のチャックおろさせて~や -夏の催し-』
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「テレビに活気が戻ってきたね!」  業界をざわつかせ、各方面からお叱りを受け、早くも伝説になったと思われた番組『徳井義実のチャックおろさせて~や』が、反省もそこそこに帰ってきた。  司会のチュートリアル徳井には「冠の名前つけていただいてうれしいけど、ちょっとイヤ」と言わしめ、レギュラー出演する吉本新喜劇のすっちーが、前回「興奮しすぎて翌日の新喜劇に遅刻」し、1カ月の謹慎処分となってしまったというほどの番組とは一体どんなものだったのか。  『徳井義実のチャックおろさせて~や』はBSスカパー!で無料放送されている番組で、2013年3月に「春の催し」として初めて放送された。司会は前述の通り、チュートリアル徳井。レギュラーには、徳井と共に吉本の「エロ三羽烏」として知られるランディーズ中川とすっちー。それに加え、レイザーラモンRGを配した盤石の態勢。そしてアシスタントには「事務所にだまされて連れてこられた」と疑われるほど、その場にそぐわない正統派アイドルの高部あい。  番組ではRGが、「スカパー!アダルト放送大賞 2013」に出演したAV女優たちに密着取材し、それがまさかの感動VTRに仕上がっていたりしたが、この日、出色だったのはなんといっても、ある芸人の究極のチャレンジ企画だろう。  それは「はじめてのアナル」。真正のアナルバージンの男性がアナル性感を初体験し、射精に至るまでのドキュメントを撮ろうという、もはやAVとなんの遜色もない企画だ。  挑戦者に選ばれたのは、「えんにち」のアイパー滝沢。「大きな栗の木の下で」の節で「大きな組の下っ端で、杯かわし、仲良く運び出す。大きな箱の白い……ホンホン♪」などと歌う極道ネタでおなじみの芸人だ。企画内容を知らされたアイパーは、移動中のロケ車の中で、なぜか母親に電話で報告するほど動揺していた。  そして、ついにアナル性感のカリスマと対面し、一糸まとわぬ姿で体を洗われるアイパー。スタジオの芸人たちからは「一体なんの映像なんだ!」と爆笑が起こる中、アイパーは動揺が続いているのか、逆にリラックスしすぎたのか、カメラの前で放尿までしてしまうのだった。  初めてのアナルにもかかわらず、アナル性感のカリスマならではの丁寧な指入れで、すぐに「先生、イカしてください」「おかしくしてほしいです」と口走るアナルポテンシャルを見せるアイパーは「もっと太いのを」求めるまでになる。しかし「芸人なのか男優なのか」という葛藤が頭の隅をかすめ、結局射精には至らなかった。しかしこの企画は、人間のある部分での“成長”を刻一刻と見せつける、下劣で上質なドキュメンタリーに仕上がっていた。  VTRを見終わった高部あいは、顔を赤らめながら言うのだ。 「死ぬまでに1回は挿れてみます……」  そんな「春の催し」から数カ月。『チャックおろさせて~や』はその過激さを物語るようにしれっとアシスタントを替えて、「夏の催し」(※8月10日深夜に再放送予定)として第2弾が放送された。  レイザーラモンRGの「純粋にセックスを求めている女性と出会えるのか?」を検証したテレクラロケは、前述の「はじめてのアナル」に勝るとも劣らないハイクオリティのエロドキュメンタリーだったが、さらにその印象をも吹き飛ばすようなものすごい企画が用意されていた。それが「ぽこ×たて」だ。  相反する「絶対に○○なもの」同士を戦わせて決着をつける、というどこかで聞いたことがある企画だが、前回の「絶対イカない女 vs 絶対にイカせる電マ」に続く新たな絶頂対決は「絶対にイカせる男 vs 絶対にイカない男」。「絶対にイカない男」として登場したのは「射精のタイミングを自由自在にコントロールできる」AV男優の沢井亮。沢井は「AV男優は、僕を含め99%が早漏の人なんですよ」と独自の理論を展開する。 「AVの撮影では、監督がキューを出して射精するわけですよね。AV男優になるためにはイメージトレーニングや呼吸法、そういうトレーニングを積み重ねて、いつどこでも射精が可能なイク特殊能力を身につけました」  フェラチオだったら100%イカないと豪語する沢井は、前哨戦として、人気ナンバー1のデリヘル嬢と対戦。フェラが得意のデリヘル嬢の口撃を90分受け続けても、最後までイクことはなかった。  その沢井をイカせる相手として選ばれたのは、男だった。新宿2丁目でコレステロールという店を営むタクヤは、ぽっちゃりしたヒゲ面のゲイで、「リピーターは多い。どんな遅漏の人でも絶対イカせている」と胸を張る。「のど輪締め」という、モノを喉の奥まで含んでぎゅっと締める尺八奥義で、沢井に挑戦を挑む。  ついに対面した、絶対にイカせる男と絶対にイカない男。  沢井はタクヤの丸々とした風貌を見て「勃たせることも無理だと思う」と笑いをこらえているが、タクヤは「女のアソコより気持ちいい」と微笑む。 「AV男優をプロでやっているので。タクヤさんは趣味ですよね?」と沢井が挑発すれば、タクヤは「本気でやってます! 仕事と本気はちょっと違う」と返す言葉の応酬。 「AV男優をナメてもらっては困る」 「私も本気で舐めているので」  果たして、この対戦の結末はどうなるのか。対戦会場には、タクヤの口の奥から「ゴワッ、ゴワッ、ゴワ」と、聞いたことがないような吸引音が響き渡るのだった―――。  地上波テレビでのエロ系番組は、視聴者の“良識”の抗議と自主規制によって、ほぼ死に絶えて久しい。一方でCSやBSのような衛星放送では、AVが普通に放送されていることもあり、女性の裸を使ったエロ企画はなかなか成功しないのが実情だ。そんな中登場したのが『チャックおろさせて~や』だ。女性の裸を使った放送可能なエロはやり尽くした。ならば、男性の身も心も脱がしていく方向に活路を見だした。男芸人がアナルをさらし、ゲイがAV男優をイカせる。男が肉体的にも精神的にも丸裸になることで、エロと笑いが見たことのない境地で重なり合ったのだ。それは“勃ち笑い”必至の最高にサイテーなドキュメンタリーだった。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

「んんん……」誰もが唸らずにいられない『DOCTORS 2』高嶋政伸の過剰な怪演

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テレビ朝日『DOCTORS 2 最強の名医』
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「ん、んん、んんん……んん」  今日も、奇妙で気色の悪い唸り声が聞こえる。声の主はもちろん、高嶋政伸演じる森山先生だ。  『DOCTORS 2~最強の名医~』(テレビ朝日系)が好調だ。主演は沢村一樹。天才的外科医・相良浩介を演じ、赤字経営に苦しむ堂上総合病院を立て直すという、テレ朝が得意とする王道のストーリーである。しかし、どこかがおかしい。  まず相良のキャラクターである。一見、さわやかで腕が立ち、患者たちを救おうとする男であるが、実はくせ者である。自分の理想に合わないことや相手に対しては、叱責、脅しを厭わず、自分の思い通りに物事を進めるために計略を図る、腹黒さすらうかがえる策士でもある。彼の軽やかなダークヒーローっぷりが、このドラマの魅力の一つになっていることは間違いない。  しかし、なんといっても森山である。高嶋の過剰な怪演こそがこのドラマの見どころで、事実上の主役ともいえる。  森山は堂上総合病院の院長である堂上たまき(野際陽子)の甥に当たる外科医。腕はいいが、人格に問題がある男だ。自信過剰でプライドが高く、ほかの医者や看護師、患者たちを見下している。ボンボン育ちゆえ、傲慢で直情的で短気だ。思いどおりに行かないことがあると、自分を抑えきれず興奮し、「ん、んん、んんん……」と唸り声を上げるのだ。森山は、“チーム森山”と呼ばれる取り巻きたち(正名僕蔵、尾崎右宗、敦士)と、気に食わない相良と何かにつけて敵対し、いびり倒しているのだ。  昨年放送されたシーズン1では、森山たちのそんな腐りきった意識に相良がメスを入れ、病院を立て直した。事実、経営も安定し、森山も医師としての名声を手に入れることができた。何も問題がないよいように見えた。しかし森山は「なーんか、満ち足りないんだよなぁ」と嘆き、モチベーションが上がらない。「慢心」だ。シーズン1で積み重ねた相良の病院改革の数々を、その一言でチャラにしてしまう脚本もスゴいが、それが“説得力”を持つのも、シーズン1の森山による、ちんけで傲慢な言動の積み重ねのたまものだ。  シーズン2では、そんな慢心しきった堂上総合病院に2億円の融資話が舞い込む。それが実現すれば、経営の安定は確かなものとなる。そこで、このタイミングしかないと判断した堂上は、森山に院長就任を打診する。もともとは病院経営なんて面倒で嫌がっていた森山だったが、一転。 「それだよ、足りなかったのは……。俺が欲しかったのは、肩書だったんだよ!」  と歓喜して快諾。まだ正式に決まってもないのに、院長としての名刺を作る森山。しかもゴールドで。「初回限定だよぉ」とチーム森山に自慢する始末。その満面の笑みが気持ち悪い。院長交代の噂を聞いた看護師たちは戦々恐々。人格に問題がありすぎる森山が院長になるなら病院を辞めると、口々に言い合う。相良も森山の院長就任は「早すぎる」と感じ、一計を案じるのだった。  森山が担当する患者の術後の経過がよくないことを知った相良は、その患者の腫瘍が完全に取り除かれていないことを看破していた。しかし、「手術は成功した」と自分のミスを認めない森山に対し、相良は「勝手に」再手術を強行するのだ。それを知り激高した森山は患者たち公衆の面前で相良に対し絶叫する。 「俺が院長になったら、お前はクビだぁ!」  しかし、それを聞いていたのは患者たちだけではなかった。相良の計略により、銀行の融資担当者もいたのだ。  結果、銀行側は2億円の融資をする条件として「堂上が院長を続ける」ことを挙げる。「森山先生は人格に問題があります。そして、院長になれば、相良先生をクビにすると宣言しました。相良先生がクビになれば、病院経営は悪化します」と。  「ん、んん、んんん……んん」と唸り始める森山。堂上は、そんな森山を呆然と見つめながら吐き捨てるのだ。 「早く大人になってちょうだい……普通にちゃんとして!」  高嶋の振り切った過剰な演技は、完全にコントだ。独特に歪んだ濃すぎる顔も、さらにそれを引き立てる。その演技には異様な中毒性がある。彼の気色の悪さに身悶えながら、なぜかなんだか心地よく感じる奇妙さと快感に思わず「ん、んん、んんん……んん」と唸り声を上げずにはいられないのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

鈴木敏夫の引き出す力 『仕事ハッケン伝』で見せたジブリの真髄

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『NHK 仕事ハッケン伝』より
中田の出演回は、7月3日(水)午後4時05分~4時53分に再放送予定。
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「頑張る必要ない。才能出してくれれば」 これはスタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫が、オリエンタルラジオ中田敦彦に初対面で言い放った言葉だ。 「あなた、才能あるんでしょ?」という鈴木の問いかけに、「…や、頑張ります」と中田が答えたのを受けてのものだった。  『仕事ハッケン伝』(NHK総合)は「もし今と違う仕事についていたら、どんな人生を送っていたのだろう」をコンセプトに、各界の著名人がさまざまな職種の企業に実際に1週間程度“入社”し、その仕事を体験するというドキュメンタリー。2011年5月に第1シーズンが始まり、現在第3シーズンを迎える。今回のシーズンではこれまでも、吉木りさがバスツアー企画、平山あやがファッションエディター、小島よしおが食品スーパーなどと、実にさまざまな職種に挑戦している。ちなみに13年4月11日に放送された「冨永愛×左官」は、ギャラクシー賞月間賞を受賞した。  6月27日放送回で中田が“入社”したのは、憧れの会社「スタジオジブリ」。巨匠・宮崎駿を擁し、名プロデューサー鈴木らが『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など、数々の大ヒット作を生み出してきた、世界を代表するアニメ映画制作会社だ。中田が配属されたのはプロデューサー室。映画のヒットに直結する広告やパンフレット、公式グッズなどを制作する部署だ。そこで鈴木が中田に課したのは、宮崎監督5年ぶりの新作『風立ちぬ』の新聞広告のデザインだった。  そんな“難問”に対し、中田は実に彼らしいやり方で、その“解答”を導き出そうとする。中田は自ら「受験パンク」と呼ぶように、ベッドを破壊して椅子に自分を縛り付けて寝ずに勉強して倒れ病院に運ばれたり、“右脳と左脳を交互に休ませれば、眠る必要はない”という独自の理論から眼帯をつけて勉強したほど、学生時代、勉強に没頭した。受験勉強に最も大切なのは「傾向と対策」だ。出題者の意図をくみ取り、相手の求めていることを探るのが解答への近道。中田はお笑い芸人としても、受験と同じようにこの傾向と対策を徹底的に分析しネタを作り、自分の立ち位置を選び取っていった。だから、今回も彼はその方法論を採用する。  まずは絵コンテを読み込み、印象的なシーンやセリフを抜き出しメモを取っていく。さらに“過去問”にあたるようにジブリの過去の新聞広告をひとつひとつ、つぶさに見て、その傾向を分析していく。会議では自分が発言するよりも、その様子をじっくりと観察していく。そうして中田の手元には、膨大な量の書き込みであふれるメモの山ができ上がっていた。  「強烈なビジョンを鈴木さんが持っていて、それをみんなで削りだしていくっていう作業」だと、中田はジブリの企画会議の傾向を挙げ、「まったく新しいアートというか、僕がいいっていう、ひとりよがりのものは絶対はじかれる」と対策を練っていった。  さらに中田は、過去の新聞広告から“解答”には「(1)メインコピー (2)オリジナルコピー (3)テーマ (4)煽り (5)劇中セリフ (6)歌 (7)宮崎語録」の7つのバリエーションが存在すると分析。そして「ジブリ」が「熱風」という意味であることに目をつけた中田は、“解答”を導き出してコピーを作り上げた。 「『風の谷のナウシカ』から29年。/この夏、ジブリに新たな『風』が吹く。」  自信作だった。しかし鈴木は「基本的には面白い」と評価する一方で「まだ終わったわけじゃないから」と納得しない。そして2人の話し合いの中から、宮崎による企画書を全文掲載するという斬新なアイディアが生まれる。  「しゃべってると刺激を受けるんですよ。自分ひとりで考えていたって(いいアイディアは)出てこない」という鈴木の言葉に、中田は「『今話してて思いついたんだよ』って強調してくれたのは『お前がいてよかったよ』っていうメッセージですから、うれしかった」と素直に喜んだ。  「人数が多いほうが面白いものができる」というのが、鈴木の信念なのだという。それは宮崎も同じだ。彼はありとあらゆることを他人に訊いて回るのだという。そうしてその反応を作品に反映させていく。ひとりで考えていただけでは、いいものは完成しないのだ。中田はそのことに苦しんできた。デビュー以来、ネタはほぼすべて自分ひとりで考えてきた。しかし、近年、それに限界を感じ始めていたのだ。  鈴木から中田は新たな課題を出される。企画書を全文掲載したポスターに添える煽りコピーを考えてほしい、というものだ。  鈴木がこれまでの最高傑作と考える「天才・宮崎駿の/凶暴なまでの情熱が/世界中に吹き荒れる!」という『もののけ姫』の煽りコピーを超えるものを、というのだ。  中田はデビュー当時、100個ネタを書くことを自らに課した。それが、中田が思う芸人としての“通過儀礼”であり、最善の策だったのだ。今回もまた、中田は「天才・宮崎駿」に代わるものを見つけるため、100個コピーを考えることを自らに課す。  最初は、言葉から発想し、別の言葉を探していた中田。しかし、それでは言葉が「記号化」してしまう、と気づき、鈴木の過去の言葉と傾向を頭の中からいったん“捨てた”。そして、中田自身が作品を見て感じたことを言語化していった。すると、止まっていたペンが一気に動き出したのだ。その膨大なコピーの中から、どれを選ぶのか? 「自分で作るけど、選ぶのは他人かもしれない」  デビュー当時、100個のネタの中から、あの大ブレイクした「武勇伝」の原型となるネタ「中田伝説」をやろう、と言い出したのは相方の藤森だった。中田はデビューの頃と同じように、藤森に意見を聞いた。  そして中田は藤森たちからの反応が良かった、 「『誰かのため』ではなく/『自分のため』に作った。/宮崎駿、七十二歳の覚醒。」 「トトロの姿が見えなくなった大人たちへ。/宮崎駿がもう一度、夢を見せます。」 「どう生きるか。どう愛すか。/大人には教科書がない。/でも宮崎アニメがある。」 など、13個の案まで絞り、鈴木に提出した。 「すごいね、君、才能あるね!」鈴木は、それらのコピーを見て称賛する。そして、あるひとつのコピーに眼の色を変えた。 「『巨匠・宮崎駿』ではなく、/『人間・宮崎駿』としての処女作。」  「これいいねえ。刺激を受けた。だって新鮮だもん! 『人間・宮崎駿』だけでもすごいですよ。まったく自分の中になかった」と絶賛したのだ。そして「欲を言えば、完成度」と、その仕上げを中田に求めたのだ。  「自分だったら……?」。そう中田は自問自答する。「大事な局面で素人が案を出しても、100%使わない」と。だったら「鈴木さんの中にある言葉を削りだす」と戦略を立て、中田は再び自分の言葉を“捨てた”。それが、相手が求めている答えのはずだと考えたのだ。これまでの対話の中で鈴木から出た言葉の中から組み合わせて、中田はコピーをひねり出す。それを見て「最後はやっぱり難しいよね」と鈴木はつぶやき、自分が考えてきたという1枚を机に広げようとした。その瞬間の中田の表情は、明らかに落胆していた。自分が傾向と対策を分析し導き出した解答は間違っていたのだ、と。やっぱり、すでに鈴木の中には鈴木なりの答えがあったのか、というような一瞬の表情だった。  しかし、中田は実際にポスターに添えられたコピーを読んで驚愕する。 『人間・宮崎駿、七十二歳の覚悟。』  それは中田が生み出した言葉から発想されたコピーだった。中田は解答を間違えた。しかし、間違えたのは生み出した言葉ではない。少年漫画のような気持ちのいい逆転劇。 鈴木の答えは、中田の中にあったのだ。  「君が考えたことをテクニックでまとめることだけをやろうと思ってた」と鈴木は言う。けれど、中田の出した中に使えるものがひとつもなかったらどうしたのだろうか?「あるんだよ!」と鈴木は力強く即答する。「それは自信があるの、俺。いろんな人と付き合ってきて。大概の人は、一個は持ってる」と。  鈴木の引き出す力で、中田の言葉を引き出し、完成された“作品”に昇華させた。それが、鈴木敏夫の真骨頂であり、スタジオ・ジブリの真髄だ。 「もし俺が『君の案はダメ。自分で考えます』とやったとするじゃん。そうしたら俺の負け。その人から引き出せないってことだから」  鈴木が引き出したのは中田の言葉だけではない。彼の芸人としての向き合い方、方法論。そして他人との信頼関係。その苦悩、すべてを削りだした。それらは決してひとりだけで傾向と対策を練るだけでは辿りつけない“解答”のヒントだった。  「全部間違えてた。人を使うって難しいんですよ。(略)その結果、ひとりでネタ作るって結論に戻っちゃってたんですよね。人がうまく使えなくて。今日の鈴木さんの言葉に、お笑いに対する向き合い方の答えがあった気がする」  鈴木は、そうやって「人間・中田敦彦」を削りだし、その魅力を引き出したのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

鈴木敏夫の引き出す力 『仕事ハッケン伝』で見せたジブリの真髄

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『NHK 仕事ハッケン伝』より
中田の出演回は、7月3日(水)午後4時05分~4時53分に再放送予定。
「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。 「頑張る必要ない。才能出してくれれば」 これはスタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫が、オリエンタルラジオ中田敦彦に初対面で言い放った言葉だ。 「あなた、才能あるんでしょ?」という鈴木の問いかけに、「…や、頑張ります」と中田が答えたのを受けてのものだった。  『仕事ハッケン伝』(NHK総合)は「もし今と違う仕事についていたら、どんな人生を送っていたのだろう」をコンセプトに、各界の著名人がさまざまな職種の企業に実際に1週間程度“入社”し、その仕事を体験するというドキュメンタリー。2011年5月に第1シーズンが始まり、現在第3シーズンを迎える。今回のシーズンではこれまでも、吉木りさがバスツアー企画、平山あやがファッションエディター、小島よしおが食品スーパーなどと、実にさまざまな職種に挑戦している。ちなみに13年4月11日に放送された「冨永愛×左官」は、ギャラクシー賞月間賞を受賞した。  6月27日放送回で中田が“入社”したのは、憧れの会社「スタジオジブリ」。巨匠・宮崎駿を擁し、名プロデューサー鈴木らが『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』など、数々の大ヒット作を生み出してきた、世界を代表するアニメ映画制作会社だ。中田が配属されたのはプロデューサー室。映画のヒットに直結する広告やパンフレット、公式グッズなどを制作する部署だ。そこで鈴木が中田に課したのは、宮崎監督5年ぶりの新作『風立ちぬ』の新聞広告のデザインだった。  そんな“難問”に対し、中田は実に彼らしいやり方で、その“解答”を導き出そうとする。中田は自ら「受験パンク」と呼ぶように、ベッドを破壊して椅子に自分を縛り付けて寝ずに勉強して倒れ病院に運ばれたり、“右脳と左脳を交互に休ませれば、眠る必要はない”という独自の理論から眼帯をつけて勉強したほど、学生時代、勉強に没頭した。受験勉強に最も大切なのは「傾向と対策」だ。出題者の意図をくみ取り、相手の求めていることを探るのが解答への近道。中田はお笑い芸人としても、受験と同じようにこの傾向と対策を徹底的に分析しネタを作り、自分の立ち位置を選び取っていった。だから、今回も彼はその方法論を採用する。  まずは絵コンテを読み込み、印象的なシーンやセリフを抜き出しメモを取っていく。さらに“過去問”にあたるようにジブリの過去の新聞広告をひとつひとつ、つぶさに見て、その傾向を分析していく。会議では自分が発言するよりも、その様子をじっくりと観察していく。そうして中田の手元には、膨大な量の書き込みであふれるメモの山ができ上がっていた。  「強烈なビジョンを鈴木さんが持っていて、それをみんなで削りだしていくっていう作業」だと、中田はジブリの企画会議の傾向を挙げ、「まったく新しいアートというか、僕がいいっていう、ひとりよがりのものは絶対はじかれる」と対策を練っていった。  さらに中田は、過去の新聞広告から“解答”には「(1)メインコピー (2)オリジナルコピー (3)テーマ (4)煽り (5)劇中セリフ (6)歌 (7)宮崎語録」の7つのバリエーションが存在すると分析。そして「ジブリ」が「熱風」という意味であることに目をつけた中田は、“解答”を導き出してコピーを作り上げた。 「『風の谷のナウシカ』から29年。/この夏、ジブリに新たな『風』が吹く。」  自信作だった。しかし鈴木は「基本的には面白い」と評価する一方で「まだ終わったわけじゃないから」と納得しない。そして2人の話し合いの中から、宮崎による企画書を全文掲載するという斬新なアイディアが生まれる。  「しゃべってると刺激を受けるんですよ。自分ひとりで考えていたって(いいアイディアは)出てこない」という鈴木の言葉に、中田は「『今話してて思いついたんだよ』って強調してくれたのは『お前がいてよかったよ』っていうメッセージですから、うれしかった」と素直に喜んだ。  「人数が多いほうが面白いものができる」というのが、鈴木の信念なのだという。それは宮崎も同じだ。彼はありとあらゆることを他人に訊いて回るのだという。そうしてその反応を作品に反映させていく。ひとりで考えていただけでは、いいものは完成しないのだ。中田はそのことに苦しんできた。デビュー以来、ネタはほぼすべて自分ひとりで考えてきた。しかし、近年、それに限界を感じ始めていたのだ。  鈴木から中田は新たな課題を出される。企画書を全文掲載したポスターに添える煽りコピーを考えてほしい、というものだ。  鈴木がこれまでの最高傑作と考える「天才・宮崎駿の/凶暴なまでの情熱が/世界中に吹き荒れる!」という『もののけ姫』の煽りコピーを超えるものを、というのだ。  中田はデビュー当時、100個ネタを書くことを自らに課した。それが、中田が思う芸人としての“通過儀礼”であり、最善の策だったのだ。今回もまた、中田は「天才・宮崎駿」に代わるものを見つけるため、100個コピーを考えることを自らに課す。  最初は、言葉から発想し、別の言葉を探していた中田。しかし、それでは言葉が「記号化」してしまう、と気づき、鈴木の過去の言葉と傾向を頭の中からいったん“捨てた”。そして、中田自身が作品を見て感じたことを言語化していった。すると、止まっていたペンが一気に動き出したのだ。その膨大なコピーの中から、どれを選ぶのか? 「自分で作るけど、選ぶのは他人かもしれない」  デビュー当時、100個のネタの中から、あの大ブレイクした「武勇伝」の原型となるネタ「中田伝説」をやろう、と言い出したのは相方の藤森だった。中田はデビューの頃と同じように、藤森に意見を聞いた。  そして中田は藤森たちからの反応が良かった、 「『誰かのため』ではなく/『自分のため』に作った。/宮崎駿、七十二歳の覚醒。」 「トトロの姿が見えなくなった大人たちへ。/宮崎駿がもう一度、夢を見せます。」 「どう生きるか。どう愛すか。/大人には教科書がない。/でも宮崎アニメがある。」 など、13個の案まで絞り、鈴木に提出した。 「すごいね、君、才能あるね!」鈴木は、それらのコピーを見て称賛する。そして、あるひとつのコピーに眼の色を変えた。 「『巨匠・宮崎駿』ではなく、/『人間・宮崎駿』としての処女作。」  「これいいねえ。刺激を受けた。だって新鮮だもん! 『人間・宮崎駿』だけでもすごいですよ。まったく自分の中になかった」と絶賛したのだ。そして「欲を言えば、完成度」と、その仕上げを中田に求めたのだ。  「自分だったら……?」。そう中田は自問自答する。「大事な局面で素人が案を出しても、100%使わない」と。だったら「鈴木さんの中にある言葉を削りだす」と戦略を立て、中田は再び自分の言葉を“捨てた”。それが、相手が求めている答えのはずだと考えたのだ。これまでの対話の中で鈴木から出た言葉の中から組み合わせて、中田はコピーをひねり出す。それを見て「最後はやっぱり難しいよね」と鈴木はつぶやき、自分が考えてきたという1枚を机に広げようとした。その瞬間の中田の表情は、明らかに落胆していた。自分が傾向と対策を分析し導き出した解答は間違っていたのだ、と。やっぱり、すでに鈴木の中には鈴木なりの答えがあったのか、というような一瞬の表情だった。  しかし、中田は実際にポスターに添えられたコピーを読んで驚愕する。 『人間・宮崎駿、七十二歳の覚悟。』  それは中田が生み出した言葉から発想されたコピーだった。中田は解答を間違えた。しかし、間違えたのは生み出した言葉ではない。少年漫画のような気持ちのいい逆転劇。 鈴木の答えは、中田の中にあったのだ。  「君が考えたことをテクニックでまとめることだけをやろうと思ってた」と鈴木は言う。けれど、中田の出した中に使えるものがひとつもなかったらどうしたのだろうか?「あるんだよ!」と鈴木は力強く即答する。「それは自信があるの、俺。いろんな人と付き合ってきて。大概の人は、一個は持ってる」と。  鈴木の引き出す力で、中田の言葉を引き出し、完成された“作品”に昇華させた。それが、鈴木敏夫の真骨頂であり、スタジオ・ジブリの真髄だ。 「もし俺が『君の案はダメ。自分で考えます』とやったとするじゃん。そうしたら俺の負け。その人から引き出せないってことだから」  鈴木が引き出したのは中田の言葉だけではない。彼の芸人としての向き合い方、方法論。そして他人との信頼関係。その苦悩、すべてを削りだした。それらは決してひとりだけで傾向と対策を練るだけでは辿りつけない“解答”のヒントだった。  「全部間違えてた。人を使うって難しいんですよ。(略)その結果、ひとりでネタ作るって結論に戻っちゃってたんですよね。人がうまく使えなくて。今日の鈴木さんの言葉に、お笑いに対する向き合い方の答えがあった気がする」  鈴木は、そうやって「人間・中田敦彦」を削りだし、その魅力を引き出したのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) 「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから