
StarChild『モーレツ宇宙海賊』
番組改編期目前の6月が到来したということで、これから月末に向けて多くのアニメが続々とフィナーレを迎えることになる。その中でも、現在とくにアツい展開を見せているのが『モーレツ宇宙海賊』(MBSほか)だ。
ごく普通の女子高校生だった主人公・茉莉香が、死んだ父親が船長を務めていた海賊船・弁天丸の船長となり宇宙海賊として活躍するというスペースオペラ作品である本作は、放送開始当初こそ「地味だ」「展開が遅い」「古くさい」という意見が多勢を占め、Blu-ray&DVD第1巻の初動売り上げもそこそこヒットレベルの作品であった。
しかし、茉莉香が宇宙海賊として生きていくことを決意する序盤のヤマ場である第5話から、物語はグイグイと急展開。評判もじわじわと上昇。さらに通常は巻を追うごとに売り上げが下がっていくBlu-ray&DVDの初動売り上げ枚数は右肩上がりで増加するという、大器晩成ぶりを見せている。
そんな『モーレツ宇宙海賊』の魅力を挙げるとするならば、やはり丁寧な描写という点に尽きるだろう。何かとスピード感重視の昨今、アニメも第1話で視聴者の興味を引くようなネタを詰め込まないといけない、という暗黙の了解が制作側のみならずアニメファンの間にも定着しているように感じられるが、そんな時代の風潮に左右されることなく茉莉香が宇宙海賊になるまでを、実に序盤の5話を使ってじっくり描いている点がまず驚きである。確かにスロースタートとなった本作だが、そのおかげで茉莉香のみならず、弁天丸クルーのキャラクターもじっくり描くことが可能となり、後の物語に深みを持たせることに成功している。
また、アニメでは大ざっぱに処理されがちな電子戦や戦術、組織の描写、作品世界の歴史などをじっくりと描いている点も、スペースオペラ的に高ポイントである。練りに練られた設定や、リアルなSF描写にロマンを感じる視聴者も少なくないだろう。
これらの要素を2クールにわたってじっくり描き続けた本作は現在、物語最大のヤマ場を迎えている。海賊船を狙う謎の敵が宇宙を跋扈する中、茉莉香はスタンドプレーが基本の宇宙海賊を招集し、組織化することで状況に立ち向かおうとする。第1話ではまだどこにでもいる普通の女子高校生だった彼女が、いまや海賊たちを束ねるリーダーとして人心を集めているのだ。
物語のスタート時点からは想像もつかない展開となっているが、そこに至るまでの心情や成長が丁寧に描かれているため、この展開に違和感は少ない。むしろ茉莉香の成長ぶりに、ここまで作品に付き合ってきた視聴者は感動すら覚えるはずだ。
冒頭でも「古くさい」という視聴者のコメントもある、と紹介したが、確かに本作はテンポのいい会話劇や、女性キャラが多い作品にありがちな百合描写、カタルシスを得るためのトンデモ展開など、今のアニメならあって然るべき「お約束」は現行の他作品に比べれば少なめ。むしろ骨太なSFドラマや謀略劇。はたまた泥臭い学園ドラマなど、例えるならば「90年代の夕方6時枠」を思わせるちょっぴり懐かしい肌触りの作風となっている。だが、それをもって本作がつまらないと切り捨ててもいいのだろうか?
軽薄短小が良しとされる今のアニメシーンの中で、ここ最近は『Fate/Zero』『境界線上のホライゾン』『ヨルムンガンド』といった熱く重厚なドラマが展開されるテレビアニメが増えつつあり、好評を博している。またOVA作品の『機動戦士ガンダムUC』もガンダムブランドという強力なバックボーンもさることながら、劇中の歴史を脚本や舞台設定にうまく取り入れることでドラマに奥行きを持たせることに成功し、大ヒットを記録している。
そう考えると、じわじわと上がっている『モーレツ宇宙海賊』のソフト売り上げと評価は、見応えある丁寧な作品に対する期待と、ゆるい萌え&日常系アニメは飽きてきたよ、というアニメファンからの無言のメッセージというのは深読みのしすぎだろうか。
放送開始時点と現在の『モーレツ宇宙海賊』の評価の転換は、アニメファンの求める作品像の変化の兆しなのかもしれない。
(文=龍崎珠樹)
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