どぶろっく ヒット曲「もしかしてだけど」で“キングオブ営業芸人”にのし上がった3つの理由

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「新・もしかしてだけど」(テイチクエンタテインメン)
 お笑い芸人の仕事場は大きく分けて3つある。テレビやラジオなどの「メディア」、ライブハウスや劇場、寄席などの「ライブ」、そして「営業」だ。一般的には、芸人はテレビに出るものだというイメージがあるが、テレビに出られる芸人はほんの一握り。多くの芸人にとって主戦場はあくまでもライブや営業であり、中でも収入源として重要度が高いのが「営業」だ。  営業とは、イベント会場やショッピングモールなどで客寄せのために舞台に立って芸を披露する、というもの。たとえテレビにあまり出ていなくても、営業で日本中を回るだけで十分な収入を得ている芸人は大勢いる。営業で求められることはテレビとは違う。営業で稼いでいる芸人の実態は、世間にはあまり知られていない。  そんな営業の世界で現在人気ナンバーワンとの呼び声が高いのが、「もしかしてだけど」でおなじみの歌ネタ芸人・どぶろっくだ。6月18日放送の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で発表された「2013年芸人営業本数ランキング」でも、テツandトモ、ナイツといったライバルを抑えて1位をマーク。彼らこそが、営業の世界でトップをひた走る「キングオブ営業芸人」なのだ。  歌手の世界では、営業で稼ぐための大前提として「ヒット曲を持っている」というのがある。誰もが知っているヒット曲があれば、それを楽しみにして人が集まってくれるからだ。芸人にとってのヒット曲とは、ギャグだったり、キャラだったり、ネタだったりする。ただ、どぶろっくの場合は、文字通り「もしかしてだけど」というヒット曲を持っている。この曲がヒットしたからこそ、彼らは営業の世界で引っ張りだこになった。  「もしかしてだけど」が売れた理由は3つある。1つは、男性に支持されたということ。この曲では、主人公の男性がちょっとした女性の言動から勝手に妄想を膨らませて、自分に好意があるのではないかと深読みする。焼肉屋の会計でお釣りと一緒にガムを渡してきた店員には「サヨナラのキスを求めてるんじゃないの」と思い込む。勘違いだけで、すべてを自分に都合よく解釈してしまうのだ。さすがにここまでおめでたい男は、現実にはほとんどいないかもしれない。  だが、実際のところ、大なり小なり勘違いしていなければ、男は一歩前に踏み出すことができない。いわば、この曲では、前向きに勘違いする勇気と、勘違いしてでも前に進むしかない悲哀という表裏一体の男の生き様が歌われているのだ。  だから、この曲を聴くと、男性はバカバカしいと笑いながらも、スカッと明るい気持ちになれる。この曲の主人公は、何気ない日常の一場面を、妄想で鮮やかに彩ってしまう。それは、淡々と繰り返される日々を明るく生きていくのに欠かせない究極のポジティブ思考なのだ。  2つ目は、歌詞の内容が女性にも受け入れられた、ということ。どぶろっくがそれまでに作っていた歌ネタの中には、下ネタがややキツすぎるものがあった。すべての女性が下ネタを嫌うわけではない。ただ、あまりに露骨だったり品がなさすぎたりする下ネタは、受け入れられないことが多い。笑うことに後ろめたさを感じるような下ネタは、どうしても敬遠されてしまいがちだ。  「もしかしてだけど」には下ネタの要素が含まれてはいるが、女性にも受け入れられやすい。それは、下ネタの出力調整が絶妙だからだ。直接的な単語を使っているわけではないし、性的な話を露骨に語っているわけでもない。現実にはあり得ないほど妄想を膨らませることで、男の性欲をコミカルかつマイルドに見せることに成功している。これなら、女性が笑いづらくなる心配はない。  最後に、この曲がヒットしたのはメロディーがよかったから、というのももちろん外せない。メロディーのいい曲は何度でも聴きたくなるし、自分でも口ずさみたくなる。そして、歌詞の意味を理解できない子どもにもウケやすい。メロディーがいい曲がヒットするというのは、音楽の世界とまったく同じだ。  男が共感し、女が笑い、子どもが口ずさむ。お笑い史上屈指のヒット曲を引っさげて、「キングオブ営業芸人」として日本中を飛び回るどぶろっく。男の性欲で濁りきったどぶろくは、いつのまにか万人に愛される透き通った純米酒に生まれ変わっていたのだ。 (文=お笑い評論家・ラリー遠田)