「何もかも違和感だらけの作品だった」幾原邦彦監督が語る、『ウテナ』と故・川上とも子の追憶

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 8日夜、東京・テアトル新宿にて「Blu-ray BOX発売記念 少女革命ウテナ テアトルAN上映会カシラ」が開催された。2013年1月23日と2月27日に発売される上下巻に分けての「少女革命ウテナBlu-ray BOX」を記念したもので、全39話中、幾原邦彦監督セレクトによる「川上とも子(天上ウテナ)セレクション」11話分を上映。さらにトークとプレゼント大会もある濃密なイベントとなった。  斬新な表現とタブーを含む内容で物議を醸し、謎だらけの物語が多様な考察を生み、今日まで熱狂的に語り継がれている『少女革命ウテナ』。1997年のテレビシリーズオリジナルは16ミリフィルム音声2ch。これをHDリマスター、DTS-HD Master Audio 5.1ch化したBlu-ray映像をソースに劇場のシステムで鑑賞できる機会はほかになく、前売りチケットは発売後数分で完売した。  寒い外部と隔絶された暖かな館内で、詰めかけたファンが当日限定のスウィーティなオリジナルドリンク「薔薇の花嫁」(表面に薔薇の花弁を散らしてある。280円)を味わっていると、23時ちょうどから上映を前にトークが始まった。  11話(上映第1部:1、2、7、9話、第2部:12、14、23話、第3部:25、34、38、39話)を選ぶにあたっては「ざっくりと全体の流れがわかり、彼女(川上とも子)の声の変遷がわかるようにした」と、幾原邦彦監督。 「最近インターネットで見始めたのだという人が、今日の上映会やBlu-rayで見たときのリアクションが楽しみ。作品は時代の空気とセットになっているものだから、新しく入ってきた若い人にどういう印象で見られるかは気になる。この作品を『見つけ出してくれている』ということはありがたい。当時の情熱が、この作品を今日まで、この環境で見られるようにしてくれているのだと思うと、スタッフに感謝したい」(幾原監督)  MCを務めた池田慎一プロデューサーからは、いくつかの告知があった。12月19日から2013年4月14日まで杉並アニメーションミュージアムで小林七郎美術監督の展示会があり、『少女革命ウテナ』の作品が展示されるほかに、1話と2話が上映されること。劇中のマスコット的キャラクター「チュチュ」のぬいぐるみが29日からのコミックマーケット83、ブースNo.332にて限定販売されること。「天井桟敷」の系譜に連なるJ.A.シーザーの「万有引力」が寺山修司没後30周年公演を2013年5月23日から上演すること。2013年春に『少女革命ウテナ』の過去最大規模となる展示会を開催予定であること、などなど。幾原監督からは「友人にCD-BOXをあげてしまったが(すでに新品では買えず)プレミアがついている。再発してほしい」と要望があり、観衆の同意に圧された池田プロデューサーが「検討します」と答えるハプニングもあった。  極度に演劇的な演出や構成で知られる『少女革命ウテナ』を、幾原監督は「チャレンジングな企画だった」と振り返る。 「若く野心的だったからこそ、やってはいけないことをいっぱいやった。今のように深夜アニメがある時代ではない、そこで大人の人たちにこれをやれよと持って来られるのではなく、これは俺たちがやっていい、という興奮した状態」(幾原監督)で、誰も止める者がいない状態。言いたいことを言い合って軋轢も絶えなかった、だからこそ熱量が高い作品になった、という。  その若者のひとりが主演声優、天上ウテナ役を演じた川上とも子(故人/2011年没)だった。生前の映像が流されると、盟友のひとりである漫画家さいとうちほが登壇、幾原監督とともに思いを語った。 「アフレコのときにお会いしたのが初めてだと思うんですけど、とにかくウテナがのんびりしていることに驚きました。もっとシリアスなイメージだったので。作品は一枚ずつ重なって形になっていく。川上さんの雰囲気がキャラクターや作品の方向性をどんどん決めていった部分がある。それは私としては新鮮だったし、親しみがもてるウテナになった気がします」(さいとう) 「より、おおらかなキャラクターに印象は傾いた。主人公が男装している少女であると決めたときに、いわゆる宝塚のキリッとした男役の声なのであろうとは、スタッフそれぞれが漠然とは意識したと思う。もちろん僕もそうなんですけど、そうなのかなと思いつつ、そのイメージをさらに超えたニュアンスをほしいと思っていた」(幾原監督)  宝塚の男役的な声をそのまま当てると、パロディのようになってしまう。聴いたことのないニュアンスでしゃべってくれる人がよいと思っていたときに、当時新人だった彼女のピュアな声がオーダーに応えてくれたと今にして思う、と幾原監督は言う。 「何もかも違和感、私の画も川上さんの声もあの音楽もいろいろなものがマッチしていない(笑)異分子だらけのものが、1話ごとにどんどん変な方向に形が作られていく過程が1話ずつ見るとよくわかり、監督が普通ではないものを求めていたのがよくわかった」(さいとう)  自ら温泉を予約してスタッフの旅行を企画した彼女のような声優は、最近はなかなかいない――と幾原監督が思い出に触れたところで、スペシャルゲストである川上とも子のご母堂、川上賤子さんが挨拶を行った。 「みなさま、こんばんは。みなさまの反応を見ていると、川上とも子という子も、何かみなさんの心の中にこういう形で残っているんだなと、すごくうれしかったです。でも本当でしたら、私のかわりに川上とも子がここに立っていなければいけないのに、いないということが悔しいし、残念です。悲しいです。先ほどから幾原監督とちほ様のお話を聴いておりましても、『ウテナ』という作品は、やっぱり、幾原監督と、画を描かれたちほさんと、ウテナを演じた川上とも子の、三位一体の作品だって、いま私は感じております。その作品が熱線に包まれたと言っていらっしゃいましたけれども、それどころじゃないですよ、永遠の命を持っている立派な作品として、古今東西の名作として、これからもずっと生き続けていくと思うんです。  川上とも子が、ちょっと変なところもあったし、面白い子だということも言ってくださったんですけれども、実はとも子自身も、ウテナ役に決まったとき、初めての主役でしたので、この奇妙奇天烈な女の子の役をどういうふうにして表現したらいいか、すごく悩んでいました。なぜかと言いますと、桐朋(学園大学短期大学部)の演劇を出ておりまして、蜷川幸雄先生から『僕は君が声優になるのは反対です。あまりにもったいなさすぎる』というハガキをもらっていたんですね。それで自分が声優になるか女優になるか、悩んでいる瀬戸際のときにいただいた役で、この役をどういうふうに表現するかということによって、これからの一生が決まるんじゃないかって、はたで見ていてもかわいそうなくらい悩んでおりまして。最後にたどり着いた境地が『声の演技に、自分が高校時代から今までずっとやっていた演技の勉強をすべて声に生かそう』というものでした。だから、最初はばらばらだったものが、だんだんとも子のウテナになってきたというお話をうかがって、やっぱり彼女はそこまで努力していたんだなと、私もすごくうれしく思っております。  でも、本当のことを言いますと、幾原監督からこのお話をいただいたときに、どんなに監督が悔しく残念に思われているか、本当に私にはわかったんです。なぜかと言いますと、主役を演じたとも子がいなくなってしまったあとのウテナがどうなるか、やはり監督としても心配だし悔しかったと思います。画を描かれたちほさんと、おふたりが揃って病室にお見舞いに来てくださったときに、とも子が『あぁいいな、私も早く元気になって、またあのふたりと一緒に仕事がしたい!』と、ずっと言っておりました。  ここにいるみなさま方のお顔がちょっと、ここにいるとよく見えないのですけれども、とも子のことを思ってくださっている方たちだったんだなと、すごくわかりました。本当にありがとうございます」  「川上とも子の15年前の仕事をこの環境で聴いていただけるということに、本当に僕も興奮している」(幾原監督)、「川上さんが『終わるのが寂しい、寂しい』と半べそをかきながら何度も言っていたことが印象に残っています。すごくこれに入れ込んでいたなと思います。その生きた証しのような『ウテナ』をみなさんにもう一度見ていただけることは、川上さんにも本当に幸せなことだと思います」(さいとう)という言葉に送られ、休憩を挟んで上映が始まると満場のファンから拍手が湧き起こる。「オレのハートに火をつけたぜ」という台詞の場面では笑いも。本当に見たい人だけが集まったイベント上映ならではのいい雰囲気だ。  音の迫力も劇場ならでは。ズン、と腹に響く拡がりや重さは、決闘に向かうシーンで流れる「絶対運命黙示録」のメリハリをも強調していて、より物語に引き込まれる効果があるのではないかと思えるほどだった。  第1部終了後はプレゼント大会。原画が多数掲載されたセガサターン版ゲームソフトのおまけ資料集など、お宝を詰めた袋が当選者10名に手渡された。幾原監督がHDリマスター版の手応えを「思ったよりよかった。16ミリをこのサイズ(スクリーン)に拡大するわけだから大丈夫かと思ったけど、きれいだった。デジタル化に手間をかけているので、なんとか見られるレベルになっている。今のところ大丈夫。よかったでしょ?」と語り、問うと、大勢の拍手が返ってきた。  「(仕事が煮詰まったときなどに)黒薔薇編の世界って行ってみたくない?(※懺悔室のような場所が出てくる)」という第2部、「暁生が大活躍。たぶんこの音響で見るとすごいと思います。クルマの音だけで来ると思うんですよね。ガーッと。とおっ! って飛びますよね。当時、さいとう先生が衝撃を受けていましたね。『ああ、変態なんだ』と(※無意味なほどにシャツがはだけてポーズをとっている)」という第3部の最終回までの上映を終えると、時刻はもう始発が動く5時30分。  第1部後のトークでは、別のセレクションでの上映会を実現すべく動いていることも明らかにされた。今後も続くお祭りへの期待も含め、満腹といった感でファンはそれぞれの家路についた。 (取材・文=後藤勝)

ポスト『まどマギ』!? "アニメ界の小室哲哉"が放った力作『輪るピングドラム』を再考

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『輪るピングドラム1(期間限定版)』
(キングレコード)
 一時期、ブログのエントリや掲示板の書き込みで、「生存戦略」という耳慣れない四字熟語を目にしたことはなかっただろうか? なんでもコレ、進化論の用語で、動植物が生き残るために、種としての最適な行動をとることを指す言葉らしい。こんな専門用語がどうして急に広くネット上に出回り始めたのか。答えは簡単、昨クールのNo.1アニメ『輪るピングドラム』(TBS系)という作品に登場していたからである。  この『輪るピングドラム』を送り出したのは、「アニメ界の小室哲哉」という異名もある(らしい)、イケメンカリスマアニメ監督・幾原邦彦。『美少女戦士セーラームーン』シリーズの中でも、随所に漂う耽美的な雰囲気からファン人気の高い『美少女戦士セーラームーンR』『美少女戦士セーラームーンS』や、天井桟敷などのアングラ演劇的世界観をアニメに導入して高い評価を得た『少女革命ウテナ』などが代表作だ。  本作は、幾原が映画『少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』以来、12年ぶりに送り出す完全新作オリジナルアニメーションとして、作品内容の情報露出がかなり絞られていたにもかかわらず、放送前から大きな期待を集めていた。そして、実際にフタを開けてみても、コミカルな味わいもありながら、スリリングでドラマチック、それでいてハートフルな物語と、ピクトグラムなど象徴的な表現を巧みに盛り込んだ先鋭的なビジュアルが同居する、現在のアニメシーンにおいて唯一無二の存在感がある作品として話題を集めた。「生存戦略」という言葉がネット流行語になるのも、むべなるかな。  物語の中心となるのは、冠葉・晶馬・陽毬の高倉三兄弟妹(きょうだい)。長患いの果てに病気で命を落としたはずの陽毬が、奇妙なペンギン帽子に宿った力で生き延びた代わりに、冠葉と晶馬は「ピングドラム」という正体不明のアイテムを探し求めることになる。  ピングドラムの鍵となるのは、荻野目苹果という少女が持つ、彼女の死んだ姉・桃果の日記帳。それを奪い取ろうと画策する人物が次々に現れ、多様な思惑が複雑に交錯する。中盤には、すべての登場人物が、過激派テロリスト集団によって1995年に起こされた地下鉄爆破事件(当然ながら、これはオウム真理教による地下鉄サリン事件を想起せずにはいられない)になんらかの形でかかわっていたことが明かされ、さらに物語は複雑さを増す。過去と現在が交錯しながら、クライマックスへ向けて物語が集約されていく展開は圧巻だ。  また、作中に散りばめられた、物語を読解する補助線となるような要素も魅力的だ。登場人物の名前(「カンパ(ネルラ)」=「冠葉」、ジョバ(ンニ)=「晶馬」)を始めとする宮沢賢治作品を想起させる要素、ロックバンド・ARBの女性ボーカルユニットによるカバー楽曲などが、多様な読解を可能にする深みを作品に与えていた。ARBのカバー曲を全収録したミニアルバム『トリプルH』が2万枚を超える売り上げを記録し、現在も数字を伸ばし続けている。  阪神大震災以来となる3・11の震災や、元・オウム真理教の平田信の自首などで、忘れかけていた95年の記憶が強烈に日本社会全体で思い返されている昨今。また『魔法少女まどか☆マギカ』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のヒットで、原作のないアニメオリジナル企画に注目が集まってもいる。放送は終わったものの、まだまだ『輪るピングドラム』は同時代的なインパクトを持ち続けそうだ。未見の人は是非チェックしてみてほしい。 (文=麻枝雅彦)
輪るピングドラム1(期間限定版) クセは強いですが......。 amazon_associate_logo.jpg
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