
漫才は時代と共に進化する。その進化の最前線にいるのがウエストランドの2人だ。ボケの河本太が一言つぶやくたびに、ツッコミの井口浩之が早口で長々と言葉を浴びせていく。「漫才は2人の言葉の掛け合いである」という定説を覆す、1:100の一方的なやりとり。この斬新なスタイルが評価されて、『THE MANZAI』では2年連続で認定漫才師に選出。今年4月には『笑っていいとも!』(フジテレビ系)の準レギュラーにも抜擢された。新世代漫才師の代表である2人に、話を聞いた。
――10月23日にお2人にとって初めてのDVD『漫才商店街』が発売されます。ここに収録するネタは、どうやって選ばれたんですか?
井口 まあ、最近やってる長いツッコミのやつと、そうなる前の昔のネタ。それも入れないと、見る方も疲れちゃうと思うんで。こいつに聞いたら「なんでもいい」って言ったから、じゃあこっちで決めようと。
河本 そうですね。僕はDVDのタイトルすら知らなかったです。収録の当日に聞きました。
――収録では、河本さんがミスを連発していたそうですが。
井口 本当にそうですよ。できあがったDVDをチェックしたら、9本中7本はミスってましたから。せりふが出てこないとか、ありとあらゆるミスをしてますよ。その辺も楽しんでもらえることを祈るしかないですね。
――では、このDVDの収録以外でもミスをすることが多いんでしょうか?
井口 そうですよ、ミスしかしてないです。『オンバト+』(NHK)でも、ミスしたままオンエアを勝ち取ったこともありますし。「今日、牛丼屋……じゃなかった、ファーストフードの店員やりたいんだけど」って。芸人が「じゃなかった」って言います!? もともとめちゃくちゃな漫才なので、僕らだから許された、みたいなところもありますけどね。
河本 最近、特に(ミスが)多いですね。2回に1回ぐらいは間違えます。
――それは、ご自分ではどうしてだと思われますか?
河本 ……待ってる時間が長くて。
井口 いや、あれは待ってる時間じゃないんだよ。
河本 次のせりふまでの間に違うことを考えちゃうんですよ。
井口 でも、最初のせりふでいきなり間違えることもありますからね。こいつは、とにかく余裕ぶっこくんですよ。DVD収録のときも、後輩が見に来てたから格好つけてネタの練習をしないんですよ。それで本番でミスる。舞台袖に来て出番直前になってから、事の重大性に気付いて震え出すんですよ。『THE MANZAI』の予選のときもそうでした。
――昔のネタをやってみた感想は?
井口 楽しかったですね。DVDの収録がなかったら、一生やらなかったかもしれないので。思い出す、いいきっかけになりました。

――河本さんも、昔のネタでは結構しゃべってますよね。
河本 楽しかったですけど、ずっとラクしてきたので、昔のネタやるのか、みたいないらだちはあります。仕事増やされた感が。
井口 最低の人間だな!
――井口さんが長いツッコミをする、今の漫才が生まれたきっかけは?
井口 昨年の元旦の『新春レッドカーペット』(フジテレビ系)のオーディションのときですね。僕らはそれまで、民放の番組のオーディションは全部落ちてたんです。「特徴がないからダメだよ」って言われていて。それでもうやけくそになって、ネタ考えずにアドリブで、1個だけボケて長くつっこむみたいなのを悪ふざけでやったんです。それがたまたま引っかかって番組にも出していただいたので、味をしめて、これはいけるわ、って。
――そのスタイルが、お2人には合ってる感じがしますね。
井口 そうですね。前の形で普通に漫才やってるときにも、もともとツッコミが長かったんですよ。台本では一言なのに延々とつっこんだりしてたので。あと、こいつが2行以上のせりふをしゃべれないっていう、特殊な病気で。
――覚えられないんですか?
河本 はい、覚えられない。
井口 すごいできないやつなんですよ、信じられないくらいに。そういう意味では、今の漫才の形は合ってたんでしょうね。
河本 楽ですよ、すごく。でも、今はそれに慣れすぎてそれが普通になってるので、これ以上増やされると、ちょっとイラッとしますね。

――もともと井口さんは目立ちたがり屋で、たくさんしゃべりたいタイプなんですよね。
井口 そうですね、無理してないですから。こいつがしゃべり出すのは、本当に嫌ですね。2人とも楽屋のテンションのままって感じなので。漫才は、そのほうがいいのかなっていうのがあります。そういう意味では、こいつができなくてよかったのかもしれないですね。普通の漫才ができなさすぎてこうなりましたから。落第生の究極形というか、落第しすぎていいことになったのかも。
――そのせいで誰も見たことがない漫才が生まれた、と。
井口 だからおそらく、こいつほどできない人はいないんでしょうね。みんなもう少しできるんでしょうね。
――河本さんは、これだけ「できない」と言われても全然悔しがらないですね。
河本 悔しくはないですね。お笑いにまったくプライドがないので。よほどのことがないと怒らないです。
井口 ヘタに何か言ってくるよりは、僕としてはやりやすいです。

――井口さんは最近の若手芸人の中では珍しく、バラエティ番組などでも積極的に前に出ていきますね。
井口 そうですね。あとから考えると怖いんですけど、その瞬間は目立ちたいと思ってるだけです。
――河本さんは中学時代から井口さんを見てきていると思うんですが、その頃から目立ちたがり屋なところはあったんでしょうか?
河本 性格は……リーダーですよね。実は気が強いし、すごく真面目。なんでもちゃんとしてないとダメなところがあって。
井口 前に出る話と全然関係ねえよ!
河本 自分が全部把握していないといけないタイプで。時間にも厳しくて、ちゃんと時間通りじゃないといけないんです。
井口 だから、前に出る話はどうなったんだよ! 質問に対する受け答えじゃないだろ。
河本 ああ、目立ちたがり屋でした。
井口 無理くり着地したな!
――井口さんはこれだけ背が低いのに、周りから「かわいい」とはあんまり思われていないみたいですよね。
河本 そうなんですよ。
井口 「何くそ感」が出ちゃってるんでしょうかね。モテない、人気ない、お金ない、っていうのがあって。そういうことで「何くそ」って思ってないと力が出ないタイプなので。
――『いいとも』の準レギュラーでありながら、今もアルバイトをされてるそうですね。
井口 はい、今テレビに出るギャラだけじゃ食っていけないですから。お金がない分、頑張るしかない。僕らはどこに行っても常にアウェーですからね。何を言ってもウケるようなところでやったことがないんで、そういう意味では頑張れますよ。
――事務所の先輩である爆笑問題のお2人から、何か言われたりすることはありますか?
井口 お2人ともすごく優しいですね。太田(光)さんは、僕らがやってるようなめちゃくちゃなネタもいいって言ってくれてるし、こいつが「せりふ間違えちゃってすいません」って言ったら、「別にいいんだよ、お前がどんどん間違えて、井口が慌ててるのが面白いんだから」って。
河本 太田さんには「あんまり練習するな」って言われました。
井口 「予定調和になると面白くないから、何も考えずにやれ」って。そうやって節々でありがたいことを言っていただけるので、うれしくなりますね。ほかに誰に何を言われてもいいや、っていうふうにプラスに捉えられますから。
――今後の夢は?
井口 人気番組には普通に出たいですし、王道を行きたいですね。でも、やっているうちにまた、これもできない、あれもできない、っていうふうになって変わっていくかもしれないですけどね。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田/撮影=名鹿祥史)
●うえすとらんど
井口浩之、河本太からなるお笑いコンビ。2008年結成。
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