2000年代に入ってから、中学生や高校生などの若者たちによるホームレス殺人事件が頻発した。そのほとんどが、行き当たりばったりな理由だったことに恐怖を感じた人もいるだろう。そんな物騒な事件を久しく聞かなくなったが、一方で“ネットカフェ難民”や“マック難民”など、野宿者の若年化が社会問題となっている。 『釜ヶ崎から: 貧困と野宿の日本』(筑摩書房)は、その野宿者に迫った約360ページにわたるルポである。著者の生田武志は、野宿者が多くいる大阪・釜ヶ崎で実際に生活していたという人物。昼間は住民と同じようにキツい日雇い労働に従事し、夜はボランティアとして野宿者支援を30年間続けてきた。 生田が、初めて釜ヶ崎を訪れたのは学生のとき。当時のテレビ番組で、冬を迎える釜ヶ崎を見た。そこには、失業したため路上で暮らす人々が映っており、大阪市内だけで毎年数百人が路上死していると報じられていたという。「自分が今まで生活してきたのとはまったく違う世界が、行こうと思えば1、2時間のところにあるというのは大きな衝撃を受けた」と語っている。 現地では、他の住民たちと同じように狭いドヤ(簡易的な宿泊施設)に宿泊し、朝4時になると“寄せ場”と呼ばれる仕事が集まる場所へいった。そこでは、「1000円・8~5時・枚方市・土木」と仕事の概要が書かれたワゴン車が何台も並び、手配師と呼ばれる仲介業者によって現場に送り込まれる日々を繰り返した。 生田は、野宿者問題は社会と密接に関係していると語る。長期休みの大学生やフリーターが好んで日雇い労働を利用するようになってから、釜ヶ崎でも仕事が減った。若くて安い労働力にシフトしていき、比較的年配者が多い釜ヶ崎は相手にされなくなった。仕事が月に10日あるかないかが当たり前となり、ドヤ代すら支払えなくなった日雇い労働者が路上にあふれていったという。 最近になって、釜ヶ崎は姿を変えた。ドヤはマンションになり、日雇いの街は福祉の街になった。これはマンションだと「住居」とみなされ、生活保護が支給されるからで、ドヤの経営者たちは、生活保護受給者を住まわせることで収入を得ている。 ほか、野宿者を狙った貧困ビジネスや野宿者襲撃に関する構造など、知られざる貧困と社会の関係が克明に描かれる。 「21世紀はホームレスの世紀」。豊かさの裏側には、現代社会の歪な姿が見え隠れする。『釜ヶ崎から: 貧困と野宿の日本』(筑摩書房)
「7822」カテゴリーアーカイブ
NHKの「女性の貧困特集」ドキュメンタリー番組に疑問符……結局は国営巨大メディアの“高みの見物”か
去る1月27日にNHK総合テレビで放映されたドキュメンタリー番組『クローズアップ現代 あしたが見えない ~深刻化する“若年女性”の貧困~』が話題となっている。 同番組は、20代を中心とした若年女性の雇用状況が大変に厳しいものとなっており、低い収入での生活を余儀なくされている実態を報じた。高校を卒業した若い女性の正規雇用率が5割に満たないという状況で、多くの女性がアルバイトなどの報酬が比較的低い仕事に就かざるを得ない実情を説明。複数のアルバイトを掛け持ちして働いても、月収にして10万円程度にしかならない事例などを紹介した。 さらに深刻な例として、相応の生活費が必要とされるシングルマザーの状況を取り上げ、実に8割のシングルマザーが貧困状態にあること、少しでも高い収入を期待して風俗産業に就業するシングルマザーが少なくないことなども報告された。 こうした報道内容を評価する声がある一方、番組内での説明不足、あるいは不備について指摘する意見も噴出した。 問題とされたのは、風俗店で働くシングルマザーの発言と、その内容に対する番組側の対応である。あるシングルマザーの女性は風俗店で働くようになったきっかけとして「生活保護を申請しようと役所の窓口を訪れた際、担当職員から『生活保護の申請に必要な調査に2~3カ月かかる』との旨を言われたため、申請を断念した」と発言した。 ところが、この点について取材を担当した記者や番組の進行役など、出演者からは何ひとつ指摘も説明もなく、テロップ等での解説も一切なかった。 しかし、生活保護法では行政は生活保護の申請がなされた場合、14日以内に決定を行い、調査等の必要がある場合でも30日までの延長しか認めていない。つまり「生活保護に関する調査に2~3カ月かかる」という発言があったとしたら、それは明らかに誤りであり、全国で横行している、いわゆる「水際作戦」である可能性が高い。 水際作戦は生活保護法に反する違法行為であって、番組はこの点についてしかるべき指摘をすべきであった。にもかかわらず、一切の説明やコメントが認められなかったのである。 番組終了後、専門家などから疑問や批判が続出。NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの稲葉剛氏も自身のTwitterで、「なぜ生活保護制度に詳しい専門家の監修を受けないのか」「当事者の声をテレビでそのまま流すと、意図せずとも虚偽の説明を流布させる、という結果を招くことになります」と指摘した。 さらに28日には、衆議院議員の山井和則氏がこの問題を取り上げ、3項目にわたって厚生労働省に質問。これに対して厚生労働省が「不適切であると考えています」などと回答した。 大手メディアが報道において、最も重要な点を無視したり、または著しく誤解を生むような表現を用いたりするケースは過去にも散見する。 社会的に問題性の高い状況を報道することは価値があろう。しかし、大手メディアの報道を見るたびに、しばしば弱者への配慮についてどこかが欠けていると感じてしまうことがある。より慎重に、そして想像力を働かせる努力が欠落してしまっては、価値ある報道も恵まれた大手報道機関による高みの見物に堕してしまう危険性は否定できないのではなかろうか。 (文=橋本玉泉)『クローズアップ現代 あしたが見えない ~深刻化する“若年女性”の貧困~』 NHKオンライン
生活保護法改正、申請拒絶の“水際作戦”助長と懸念の声続出 撤回求める緊急声明も
サイゾーのニュースサイト「Business Journal」の中から、ユーザーの反響の大きかった記事をピックアップしてお届けします。
■「Business Journal」人気記事(一部抜粋)
矢口真里と別居報道の中村昌也「アイツ全然料理つくらない。収入格差止まらない」
ももクロ成功の秘訣 優れたITサービスは、先駆者のコピー&クローン?
B787運航再開も安全は置き去り…事故原因未特定、訓練飛行中のトラブルも発覚!
■特にオススメ記事はこちら!
生活保護法改正、申請拒絶の“水際作戦”助長と懸念の声続出 撤回求める緊急声明も - Business Journal(5月21日)
5月17日、政府は生活保護法改正案を閣議決定した。この改正法案については「不正受給対策の強化を目指す」などとして、現行に比べてかなり多くの項目が追加されている。 しかし、その「改正」された内容には、多くの法律関係者や生活保護の現場にいる人々から、疑問と怒りの声があがっている。 改正案が閣議決定される2日前の5月15日13時から、東京・霞ヶ関の厚生労働記者会において、生活保護全国問題対策全国会議(代表幹事:弁護士・尾藤廣喜氏)による、「『生活保護法改正法案』の撤回・廃案を求める緊急声明」の記者会見が開かれた。そして、今回の「改正法案」について、さまざまな問題点が指摘された。 現在、生活保護申請の窓口では、いわゆる「水際作戦」というものが横行している。福祉事務所の窓口で、申請に来た人たちを事実上拒絶するというやり方である。これによって保護が必要な困窮者が申請できないとの批判が多い。 しかも、この水際作戦というもの自体、申請する権利の侵害に該当するため違法である。にもかかわらず、不正受給の防止などを口実に、この違法行為が全国各地で続けられているのが現状である。 ところが、今回の改正案では、現行よりもさらに申請を困難にするとしか思えないような変更が数多く見つかるのである。 ●口頭での申請は拒絶? 例えば、従来は生活保護の申請は口頭でも認められており、それを裏付ける裁判所の判例もある。しかし、改正案では申請時の申請書ならびに添付書類の提出を要件化している。このため、口頭での申請が認められる可能性が格段に低くなり、申請がますます拒絶される可能性が高くなるとの指摘が、法律家からあがっている。生活困窮者の中には精神的および肉体的に相当に疲へいしていて、数多くの書類を用意することに大変な負担がかかる場合が少なくない。 しかも、必要とされる添付書類の数は決して少なくはない。例えば、預金通帳や賃貸契約書などの家賃を証明する書類のほか、退職した場合には元勤務先の給与明細、その他、資産等についての書類も提出しなければならない。しかし、保護を必要とする人の場合、家賃滞納で住居の強制退出を余儀なくされたり、生活費の枯渇から野宿者すなわちホームレス状態になってしまって、そのために所持品の盗難や紛失などで必要書類そのものが作成できなくなったりというケースも実際に起きている。こうした現状を考えると、今回の改正案は申請のハードルを高くするような変更であるとしか考えられず、違法であるはずの水際作戦を合法化するような内容といわざるを得ない。 ●欧米諸国より遅れる生活困窮者支援 ほかにも、親族など扶養義務者に対する調査権限の強化なども指摘されている。申請窓口で「親類の勤め先や収入なども調べます」「実家や兄弟にもいろいろと連絡しますが、よろしいですか」などと職員から告げられれば、圧力に感じて申請そのものをやめてしまうケースも十分に考えられるし、実際にそのようにして水際作戦が行われている実態もある。 これらの指摘に対して、厚生労働省は「これまで実施していたことを文章にしただけであり、運用は従来と変わらない」「これからも口頭での申請は認める」などと主張する。しかし、そうした厚労省側の発言には「水際作戦の合法化を狙ったものだ」などの批判と怒りの声が噴出している。 そもそも、現状において保護が必要とみられる人をどれだけ生活保護制度がカバーしているかという、いわゆる「捕捉率」をみると、日本ではどれだけ多く見積もっても20パーセントに満たない。イギリスやドイツなどの欧米諸国の捕捉率が80パーセントを超えているのに比べれば非常に低い数字であり、80パーセント以上の生活困窮者が放置されていることとなる。 また、厚労省や一部国会議員等が生活保護の不正受給を問題点として指摘する。しかし、日本における現在の生活保護不正受給は、全体のわずか0.35パーセントから、せいぜい0.5パーセントでしかない。 「たしかに不正受給は問題ですが、それによって生活保護申請の戸口を狭くしてしまうほうが大きな問題であり、時代に逆行するものとしか考えられない」と多くの関係者、専門家が口にする。 閣議決定した17日には、東京・永田町の衆議院第一議員会館前において、「生活保護法改正法案の撤回・廃案を求める緊急アクション」が行われた。われわれの生活に深く関係する問題だけに、今後もこの生活保護法改正からは目が離せない。 (文=橋本玉泉) <ご参考> 生活保護全国問題対策会議 ■おすすめ記事 矢口真里と別居報道の中村昌也「アイツ全然料理つくらない。収入格差止まらない」 ももクロ成功の秘訣 優れたITサービスは、先駆者のコピー&クローン? B787運航再開も安全は置き去り…事故原因未特定、訓練飛行中のトラブルも発覚! アドビ、クリエイティブ製品のパッケージ販売終了にどう対応?安価な別製品も豊富 ブラック企業の代名詞(?)光通信、なぜ社員から評判良い? 実力主義、高待遇…5月15日、「緊急声明」記者会見の模様
3つのバイトを掛け持ちし、駅のトイレで寝泊まり……子どもたちを蝕む、貧困の連鎖

『ルポ 子供の貧困連鎖
教育現場のSOSを追って』
(光文社)
5年ほど前、「貧困」が新たな社会問題としてクローズアップされはじめた時には「いくら不況とはいえ、GDPが世界第2位の日本でまさか……」と誰もが思ったことだろう。それから数年を経て、日本に貧困問題が存在していることは一般に認知されてきたものの、今のところ抜本的な改善策が講じられていない。それどころか、長引く不況にデフレ、円高が重なり、事態は徐々に悪い方へと進んでいる。
「高齢者に手厚く、若者に厳しい」という日本の支援制度の特徴を反映するように、これまでの貧困問題はとくに20代〜40代の若年層をイメージして語られることが多かった。ニート、フリーター、ネットカフェ難民、ワーキングプア……次々と現れる新しい貧困層の存在に社会は動揺し、彼らを定義するために多くの言葉が生まれた。
しかし、もはや貧困問題は子どもさえ例外ではない。『ルポ 子供の貧困連鎖 教育現場のSOSを追って』(光文社)は、保育園から高校生までの子どもたちが直面する貧困の現場に向き合った1冊だ。
ユニセフによれば、日本における18歳未満の子どもの相対的貧困率は14.9%。先進35カ国中ではワースト9位という、目も当てられない成績だ。7人に1人は貧困状態、つまりクラスに35人の生徒がいれば、そのうちの5人が「貧困児童」というのが実態である。では、そんな子どもたちを抱える教育現場では、どんな事態が起こっているのだろうか? 本書でつまびらかに描かれている内容を一部紹介しよう。
定時制高校に通う陽子は、朝6時〜9時までコンビニ、10時〜15時までファーストフード店、17時〜21時まで学校に行った後、飲食店で深夜バイトという毎日を送っていた。仕事が終わるころには、すでに終電はない。真冬の私鉄沿線の街は寝静まり、深夜3時には駅の明かりも消えている。行き場所のない彼女は、駅前にある多目的トイレに入った。車椅子でも使えるように広く設計されたその場所で眠りにつくためだ。そして、2時間ばかりの浅い眠りについた後、彼女はまたコンビニのバイトへ向かう。「トイレは寒いけど、横になれる場所があるとほっとする。眠れるだけで『幸せ』って感じ」。トイレで眠る彼女が感じた“幸せ”とは、いったいなんなのだろうか?
民主党政権になり、2010年からは子ども手当の支給と、高校無償化が実施された。「チルドレン・ファースト」を公約として掲げていた民主党政権は、この国の将来を担う子どものために財源を使い、子育てにかかる出費は軽減されるものと期待された。しかし、高校を例にとれば、公費負担は授業料のみ。修学旅行積立金、PTA会費といった月1万円ほどの負担は、家計にのしかかる。以前なら授業料とともにPTA会費なども免除になっていた低所得家庭の生徒にとっては、実質的な値上がりだ。本書では、月5万円の奨学金を得ることができても、家賃の支払いと借金返済のために親が使い込んでしまうという事例もレポートされている。
大阪府内のある小学校では、保健室を訪れる児童に対して給食の残りのパンと牛乳を出している。この地域の就学援助利用率は40%に上り、給食以外に満足な食事も摂れない児童は多い。目が悪くなってもメガネを作ることもできず、成長する子どもの体格に合わせた体操服を用意できない家庭もある。保育園では車上生活を送る園児や、親によるネグレクト(育児放棄)や虐待などを受ける園児が後を絶たない。
本書の内容は、一般的な教育を受けて育ってきた読者にとっては、思わず目を背けたくなるものばかりだ。しかし、このような事例は、どこの学校でももはや特別なものではない。むしろ、本書に登場する生徒・児童たちは、まだマシといえるだろう。取材に協力する先生たちは、勤務外の労も厭わず、自分の時間を削りながら子どもたちを支えているからだ。しかし、それはあくまでも教師たちの個人的な熱心さのなせる業。この子どもたちを支える社会的なシステムは存在していない。
いまだに「貧困は自己責任である」という風潮は強い。確かに自己責任の側面もないとは言い切れないが、親のネグレクトや借金問題などによって貧困に直面する子どもたちに限っては、それは当てはまらないだろう。3つのバイトを掛け持ちし、公衆トイレで眠りながら定時制高校に通う少女に「それは、あなた自身の責任です」とは言えない。そして、満足な教育を受けることができない彼らの大部分は、おそらく数年後に、ワーキングプアとして労働市場に送り込まれるのだ。
豊かな日本の裏側で、子どもたちは逃れることのできない連鎖に蝕まれている。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
●ほさか・わたる
1979年に共同通信社入社。社会部を経て、編集委員室編集委員。著書に『虐待』(岩波書店)『迷宮の少女たち』(共同通信社)などがある。
●いけたに・たかし
1988年に共同通信社入社。大阪社会部次長などを経て、社会部次長。著書に『死刑でいいですー孤立が生んだ二つの殺人』(共同通信社)がある。
生活保護を取り巻く受給者バッシング――“ナマポ”は本当に悪なのか!?

『現代の貧困―ワーキングプア/
ホームレス/生活保護』(ちくま新書)
長引く不況などの影響から、生活保護の受給者は今年1月の時点で209万人を突破、昨年7月から過去最多の更新が続いている。その勢いは止まることを知らず、今後もますます増え続けると予想されている。あちこちで国の予算が削減される中、高齢者、母子家庭、障害者、うつ病、DV被害などの世帯を中心に、年間3.7兆円もの税金が投じられているのが現状だ。
ネットの世界では“ナマポ”と呼ばれ、月に十数万円が支給されるケースもあることなどから、「働いたら負け」と揶揄されることもある生活保護。しかし、生活保護はあくまで最後のセーフティネットであり、損得勘定で語られるべきものではない。そこで、日本女子大学で貧困や福祉政策を研究し、『現代の貧困―ワーキングプア/ホームレス/生活保護』(ちくま新書)の著者としても知られる岩田正美氏とともに、生活保護というシステムの仕組みやその問題点を考えてみたい。
■「水際作戦」と「受給者バッシング」
まず、生活保護を受給するためにはいくつかの条件がある。収入が国が定める最低生活費に満たないこと、家や車などの資産を持っていないこと、また親族などからの援助も受けることができないことなどが挙げられる。このような基準は、福祉事務所のケースワーカーと呼ばれる職員によって査定され、受給の可否が決定される。受給金額は個人や地域によって異なるものの、支給される金額は“ワーキングプア”として汗水流して働く人とほとんど大差はない。その結果、ネット上などでは受給者に対するバッシングが後を絶たない。
かねてから、生活保護の受給には暴力団などによる不正がはびこってきた。その金額は2005年度で72億円にも上るといわれている。そこで、窓口業務を担当する各自治体の福祉事務所では「水際作戦」と呼ばれる対応をする。これは、福祉事務所の窓口でできるだけ申請を受け付けず、相談のレベルで相談者を追い返してしまうことをいう。「生活保護の申請は国民の権利なので、申請をした上で却下となれば不服申し立てや裁判もできますが、申請をさせなければ、そうしたこともできなくなってしまいます」と岩田氏。しかし、その審査の厳しさによって、受給申請が却下された者による孤独死や犯罪事件などが発生すると、「弱者切り捨て」と批判の矢面に立たされてしまうのだ。
また、水際作戦には、別の側面からの問題点も指摘されている。元ケースワーカーの大山典宏氏は『生活保護 vs ワーキングプア』(PHP新書)でこう語る。「多くの人たちは『壊れる』という形で生活保護のネットに救われることとなります。厳しい労働条件の仕事でぼろぼろになるまで傷つき、家族関係の葛藤に悩まされ、心の病―うつ病―になって初めて生活保護の対象になるのです。(中略)皮肉なことに、水際作戦を展開すればするほど、壊れる若者を増やして生活保護からの自立を難しくしているのです」
生活保護を取り巻く問題は、これらの「受給者バッシング」と「行き過ぎた水際作戦」の間を揺れている。報道される際も、この両極端の問題にのみフォーカスが当たることが多いものの、それは生活保護の一部の姿でしかない。あくまで本質はその中間にある。「生活保護は、働ける可能性のある人たちにとって、もう一度労働市場へ復帰するためのトランポリンのような存在であるべきです」と岩田氏は解説する。
■生活保護がなくなったら……
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と憲法第25条に記されている通り、生活保護は国民として当然の権利。
「生活保護は国民の最後のセーフティネットなのです。これ以下の生活に堕ちることは、誰にとっても好ましくないという基準を示しています」(岩田氏)
しかし、国の予算がひっ迫する中、生活保護の総支給額は増加の一途をたどるばかり。このまま増え続ければ、受給者一人当たりの受給額を減額しなければならないのだろうか。
「生活保護総額の増大は、貧困の増大を背景としています。貧困を減少させないと、生活保護水準を下げても問題は解決しません。とくに強調したいのは、生活保護基準を下げると、最低賃金の基準も下がってしまうことです」(岩田氏)
ワーキングプアが生活保護受給者に嫉妬の視線を向けることが、最低賃金引き下げという形で当のワーキングプアたちにも跳ね返る。あたかも「貧困スパイラル」と形容されそうな状況で得をするのは、カネを握っている国や大企業だ。しかし、不況が続く日本では、生活保護制度そのものが立ち行かなくなってしまう可能性もある。どうすれば、無理なくこの制度を存続することができるのだろうか?
「現在、生活保護は住宅扶助や生活扶助、教育扶助、医療扶助など、さまざまな扶助がセットになって支給されています。ですから、一度生活保護から出ると、すべての援助を失ってしまうことになる。これでは、いつまでもそこから抜け出すことができません。ですから、いくつかの扶助を生活保護対象者にはならない低所得者にも利用できるようにすべきでしょう。とくに住宅扶助などは、生活保護基準ギリギリのワーキングプアに対して拡大していくことが必要なのではないでしょうか」(岩田氏)
また、先に引用した大山典宏氏も著書で「ずっと利用し続けるのではなく、困ったときだけちょっとだけ利用すればいい」という形の“プチ生活保護”という提案を行う。社会情勢とともに、生活保護制度も過渡期を迎え、その形を変えなければならない時期となっている。
では、極論だが、いっそのこと生活保護をなくしてしまったらどうなるのか……。そうすれば年間3.7兆円もの予算が削減され、余った税金を雇用対策に活用できるかもしれない。だが、岩田氏の予想する未来は暗い。
「生活保護がなくなってしまったら孤独死が頻発し、毎日のように白骨死体が発見されるかもしれません。若い世代でも、親の年金にぶら下がってしか生きていけない人々が、親の死亡届も出さなくなるケースも予想されます」
拡大する一方の生活保護にはさまざまな批判が相次ぎ、一部の生活保護受給者が受給金でパチスロに熱を上げる姿も報道される。そのような受給者の姿を見ていたら、制度そのものに疑問を持ってしまうのは当然のことだろう。しかし、その一方で、この制度によって年間200万人もの受給者が救われているという事実も存在することを、忘れてはならない。
(取材・文=萩原雄太[かもめマシーン])
【貧困レポ】大失業時代到来 住人の85%が生活保護を受給する"ドヤ街"寿町の今
厚生労働省は先週、全国の生活保護受給者が8月末現在で205万9,871人になったと発表したが、7月末時点より9,376人増と2カ月連続で過去最多を更新。長引く不況や高齢化の進展が主な要因だといえそうだが、生活保護を受給できればまだマシな方。さまざまな事情で、雇用保険も生活保護も受給できない人々も世の中には存在する。山谷(東京)、釜ヶ崎(大阪)と並ぶ日本3大ドヤ街の1つ、寿町を抱える横浜市では、生活に困窮した受給対象外の人々への緊急援護として「パン券」と「ドヤ券」を配布している。
パン券とはいわゆる食券のことで、寿町にあるスーパーや食堂など指定の4カ店で714円分の食料品を購入したり、食事ができたりするもの。一方、ドヤ券とは宿泊料1,500円までのドヤに泊まることができるチケットだ。
11月某日早朝──。横浜市中区役所には、あまり裕福とはいえない身なりの年配者らが行列をなしている。パン券、ドヤ券とも平日の朝に横浜市中区役所で配布されており、彼らはチケットをもらうために集まった人々だ。「券は数に限りがあるからさあ、朝の5時から区役所の前に並んでいるんだよ」とは、寿町を縄張りにするホームレスの1人。これらの券さえあれば、とりあえず食事と夜露をしのげる場所を確保できるため、みな必死だ。
パン券は代用貨幣のようなものともいえるが、購入できるのは、あくまでも食料品のみ。酒やタバコなどの嗜好品は買うことができない。だが、何といっても労働者の街である。住人たちの多くは酒やタバコが大好き。そこで、チケットを額面よりも低い値段で換金するといったブローカーのような業者も存在する。
「パン券を換金するのはもちろん不正なんだけど、やっぱり貧しくてもお酒やタバコはたしなみたいじゃない? かわいそうだから、わたしも頼まれたら換金してあげてるわよ。もちろん、ブローカーなんかと違って額面通りの値段でよ。わたしがチケットを使えばいいだけの話で、別に損するわけじゃないしね」
そう話すのは寿町でスナックを経営するママだが、それ以前に寿町のような貧しいエリアで飲み屋の経営が成り立つのか。飲み代を踏み倒されてしまうのでは、と他人事ながら心配になってしまう。しかし、ママはこう一笑に付す。
「何言ってんのよ。この街の住人は公務員と一緒よ。お客さんには生活保護受給者が多いんだけど、ツケで飲ませても支給日には必ずおカネが入るわけだから取りっぱぐれがないの。不安なときは受給窓口で待ち構えて、支給されたとたん取り立てるからね(笑)」
寿町のみならずドヤ街全般にみられる傾向だが、かつての労働者の町も昨今では不況に伴う派遣労働の激減や住人の高齢化により、生活保護など自治体からの補助金なしでは成り立たない「福祉の町」と化している。寿町でも住人の85%が生活保護受給者で、60歳以上の高齢者が60%を占めているという。パン券やドヤ券のような緊急援護的な補助は横浜市独自のものだが、では横浜市が弱者に手厚い自治体なのかといえば、決してそうではない。この街で活動するNPO関係者は次のように憤る。
「そんなキレイごとではないですよ。昭和39年に東京オリンピックが開催されたとき、客船で来日した外国人に汚いところは見せられないということで、当時の横浜の中心地だった桜木町界隈に数多くいた露店商や日雇い労務者、大岡川の船上生活者などが寿町に押し込まれたという経緯があるんです。補助金で黙らせて臭いものには蓋をするというのは、原発行政と同じ発想です」
寿町に店を構える飲食業者、この街で毎日のようにノミ行為を行っている暴力団など、すべては住人らが受け取る生活保護を目当てにしたものだ。その意味では、この街の経済は自治体からの補助金がただ還流しているだけだともいえる。最近では、ドヤを改装して外国人バックパッカー向けの宿泊施設を運営するなど、若い起業家らが立ち上げたコミュニティービジネスによって寿町のヒトとカネの流れを変えようとする動きもみられる。だが、「福祉の町」からの脱却は容易ではない。
(文=牧隆文)

【関連記事】
・「都はサービスが悪い!?」年越し派遣村は"ゆとりオヤジ"たちの巣窟だった!
・派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』
・秋葉原事件は必然!? トヨタ社員が憤る人材の使い捨て
風の自叙伝―横浜・寿町の日雇労働者たち 取り残された街の風景。



