「ガウディ計画編」は再生を描いた──『下町ロケット』が掲げた“TBS品質”の矜持

shitamachi1225.jpg
日曜劇場『下町ロケット』|TBSテレビ
 放送開始前から大きな期待を集めていたドラマ『下町ロケット』(TBS系)だが、12月20日に放送された最終回の視聴率は全10話の中で最も高い22.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)を記録。作品の内容も回を追うごとに密度を増し、多くの視聴者を満足させた。ここでは、第6話から第10話までの「ガウディ計画編」を振り返ってみたい。  ドラマ『下町ロケット』は、第1話から第5話までは池井戸潤の小説『下町ロケット』を、第6話から第10話までは同『下町ロケット2 ガウディ計画』を原作としている。全10話のドラマ作品で2冊の小説を原作としているというのも珍しいが、それゆえに毎回密度の濃い内容となった。原作のテーマを換骨奪胎し、絶妙の形で見せていくやり方には、この作品をテレビドラマとして視聴者に届けたいという制作者のプライドを感じずにはいられない。佃製作所が「ロケット品質」を掲げるのなら、この作品は「TBS品質」を掲げたテレビドラマだといえるだろう。  原作との違い、というか、原作の表現するものをテレビドラマとしてふさわしい見せ方に変えている部分はいくつもあるが、「ガウディ計画編」の初回となる第6話でも見事な脚色が加えられている。それは、佃航平(阿部寛)や佃製作所の開発者たちが、福井市にある株式会社サクラダを訪れる場面でも象徴的だ。  人工弁「ガウディ」を開発しようとしている株式会社サクラダの社長、桜田章(石倉三郎)は、自身が「ガウディ」に専心している理由を明かす。彼には娘がいたのだが、17歳のときに重い心臓弁膜症で亡くなっていたのだ。それを聞いた航平と佃製作所の社員は心を打たれるのだが、この場面は、原作ではこう描かれている。 *** 「仕事ってのは、いろいろですね」  やがて、その口から出てきたのはそんな言葉だ。 「桜田さんとウチとでは、仕事をする理由がまるで違う。人の数だけ、仕事をする意味があるのかな」 「そうかもな」  佃はいった。 「だからこそ、おもしろいんじゃないか。———なあ、やってみないか」 ***  原作では、こういったやりとりがあって、佃製作所が「ガウディ」の開発に加わることになる。小説であれば、不自然さはない。小説『下町ロケット』では夢を追いかけるというテーマだったが、『下町ロケット2』ではそれだけではなく、せざるを得ない理由によって仕事をする者もいるというのがテーマになっているからだ。それは医療という新しい分野に関わることになる佃製作所が越える、ひとつの壁でもある。  これに対して、ドラマ『下町ロケット』の第6話は、原作にはなかった場面を付け加えている。それはあくまでも全10話のストーリーとして見せるために、原作『下町ロケット』と『下町ロケット2』をつなぐ役割を果たしている。具体的には、原作と同じく「仕事っていうのはいろいろですね」「人の数だけ仕事をする意味がある」と佃製作所の唐木田(谷田歩)が言う、それを聞いた航平は、同意はしながらも、根底は同じなんじゃないかと伝え、こう口にする。 「(日本が本格的なロケットを手掛けるようになった)最初のきっかけは、1959年に起きた伊勢湾台風だといわれています。死者、行方不明者、5,000人以上。未曾有の大災害でした。そういう被害を二度と出さないために(略)ロケット開発はこんにちに至るまで進歩を続けてきました」  そして桜田に対して「(人工弁を開発することが)いつか夢だと言える日が来てほしい」と告げるのだった。このエピソードを付け加えることによって、ドラマ『下町ロケット』の第6話以降はそれまでのストーリーと分離することなく地続きのものとなり、さらには第6話以降のテーマをも指し示している。  ドラマ『下町ロケット』の第6話以降、「ガウディ計画編」は、つまり再生の物語である。原作にもそういった描かれ方は多くあるのだが、ドラマでは再生というテーマを強く打ち出している。第6話で追加されたこの伊勢湾台風のエピソードはその象徴だといえるし、ドラマの中でそれを宣言した場面だといってもよい。  ロケットという夢や未来を目指す技術であっても、その根底には悲しみや後悔がある。逆に言えば、悲しみや後悔はいつか夢や未来を目指す技術になり得る。航平の言葉はそれを指し示しているのだし、そしてこの言葉は、桜田を再生させるものでもある。また、これから佃製作所が挑む人工弁という技術自体が再生を目指すものだから、これは第6話以降に通底するテーマでもある。  原作『下町ロケット』の発行日は2010年11月24日であり、『下町ロケット2』の発行日は15年11月5日だ。その2冊の間に日本を襲った大災害は、伊勢湾台風がそうであったように多くの悲しみや後悔を生み、そして日本の技術の象徴ともいえる原子力発電所への幻想も崩壊した。だがそれでも、技術者は立ち上がるのだ。悲しみや後悔を、夢や未来へと変えるために。ドラマ『下町ロケット』の「ガウディ計画編」が描く再生とは、まさにそういった種類のものだ。  原作で描かれていない再生は、ドラマの最終回となる第10話でもエピソードとして追加されている。サヤマ製作所の社員で、データを偽造した月島(福田転球)は「もう一度取り戻しましょうよ。技術者としてのプライドを」と説得されて社長の椎名(小泉孝太郎)を告発し、技術者としての再生が示唆される。あるいは、椎名の亡くなった父親の開発した技術が新型ロケットの重要な部品として使われていることが明かされ、死をもってなお技術が再生される。そして椎名もまた、最後の最後で技術者としての再生を誓い、物語は終幕を迎えるのだった。  どんな悲しみや後悔も、人は乗り越えることができる。口に出してしまうといささか気恥ずかしいこの言葉を、再生というテーマで映像化したのがドラマ『下町ロケット』の「ガウディ計画編」だ。だからこそこの作品は、今を生きる我々の心をつかみ、多くの共感を得たのではないだろうか。  余談ながら、逆にドラマでは描かれていないが、原作ではしっかり描かれているのが、世良公則が演じた医師・貴船の再生である。貴船の再生の場面は原作では、ある意味でひとつのクライマックスだといってもいい。ドラマ『下町ロケット』を楽しんだ方は、そちらも併せて読んでみてはいかがだろうか。 (文=相沢直) ●あいざわ・すなお 1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。 Twitterアカウントは@aizawaaa

『下町ロケット』は原作から何を足し、何を引いたか……スピード感を得た“21世紀の『水戸黄門』”像

shitamachi1120.jpg
日曜劇場『下町ロケット』|TBSテレビ
 2015年10月クールの連続ドラマの中で最も注目を浴びている作品といえば、やはり『下町ロケット』(TBS系)になるだろう。原作はご存じ、池井戸潤。『半沢直樹』(同)の大ヒットは記憶に新しいが、ここ最近の地上波だけでも『七つの会議』(NHK総合)、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)、『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系)、『民王』(テレビ朝日系)と、ドラマ化が続く。現在の日本のテレビドラマ界は、池井戸なしでは成立し得ないのではないか、と思えるほどだ。 『半沢直樹』の大ヒットを経験していることもあり、TBSとしても気合十分。かつ『下町ロケット』は、過去にWOWOWでドラマ化されているという経緯もあり、負けるわけにはいかないところだ。そして事実、期待通りのヒット作品となる。初回の視聴率こそ16.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だったが、右肩上がりで数字を伸ばし、ロケット編の最終回となる第5話では20.2%という高視聴率を記録。これはプライムタイムのドラマとしては2015年度最高の記録であり、第二の『半沢直樹』になるかどうか、期待が集まる。 『下町ロケット』に限らず、小説原作をテレビドラマにする際はある程度の脚色が必要となる。それではこの作品では、原作にどのような脚色が加えられているのか。そして、テレビドラマとしての『下町ロケット』は、その脚色においてどのような成功を収めているのか。第1話から第5話までの「ロケット篇」を振り返り、検証してみたい。 <原作を削るのではなく、原作に足すという手法>  ドラマ『下町ロケット』では、原作で重要だった要素はほぼそのまま生かされている。基本的には原作の主要な登場人物はすべてドラマでも活躍するし、あの場面が削られてしまった、というケースはほとんどない。強いて言うならば、前半で資金繰りに苦しむ場面は小説からドラマになる際にはかなり短めに処理されているが、小説のように登場人物の内面を描くことができないという映像の特性を考えれば、もっともな演出だといえるだろう。  逆に、原作にはなかったが、ドラマにする上で足されている要素はいくつかある。登場人物でいうと、主人公の佃航平(阿部寛)の娘、利菜(土屋太鳳)は原作にも登場するのだが、登場回数は増え、かなり大きな役回りを演じている。これは『下町ロケット』がテレビ作品であり、幅広い層に向ける必要があるからだろう。親子のやりとりをしっかり見せることによって、ただの企業ものではない、家族ドラマとしての側面を描くことに成功している。  また、原作からの最も大きな改変といえるのが、第2話の裁判シーン。航平が証人喚問で呼ばれて法廷に立ち、技術者としてのプライドを述べる重要な場面だが、実はこの場面は、原作には存在していない。この派手な場面を作ることによって、第2話の視聴率は17.8%と、第1話を越えることに成功。連続ドラマにおいて重要な第2話にこの派手なエピソードを付け加えることによって、視聴者を増やす動機付けにつながったといえるだろう。 <日本のテレビドラマではあまりない情報量の多さ> 『下町ロケット』をテレビドラマにするにあたってTBSが取った戦略は、「ロケット篇」だけで全話を構成するのではなく、続編の『下町ロケット2』を含めて全話に詰め込むというものだった。この手法により、またすでに述べたようにテレビドラマのオリジナルの要素まで加えていることもあり、この作品は一般的な日本のテレビドラマと比べてかなり情報量が多い。テンポも早く、全体を通してのカットのつなぎやセリフの間も非常に早い。これにより、視聴者が一切飽きることなく、一話を最後まで見てしまうという習慣付けに成功している。  情報量の多さを処理する上で効果的に使われている演出が、松平定知によるナレーションだ。毎回頭に入るこのナレーションだが、普通であれば前回までのあらすじを視聴者に紹介するという役割に過ぎないところ、前回から今回に至るまでに何があったかも説明するという離れ業を演じている。  たとえば第4話、佃製作所が帝国重工からの審査を受ける回だが、この回の頭のナレーションでは帝国重工の審査する側の溝口(六角慎司)と田村(戸次重幸)の簡単な紹介と富山敬治(新井浩文)との関係性の説明がなされる。これをナレーションだけで処理するというのは、かなりアクロバティックな演出だろう。通常のドラマであれば、この3人が話し合う場面を映像として見せるわけだが、それをあえてせずにナレーションで処理する。かつ、前回までのあらすじと交えてそれがなされているために、視聴者としての違和感はまったくない。前回までのあらすじと思って見ていたら、そのまま今回のエピソードに引き込まれるという、シームレスな演出方法になっている。  この情報量の多さとテンポを重用視する演出は、むしろ海外のドラマに近いともいえるだろう。視聴者が多くの海外ドラマに触れ、そのスピード感を知っている今、『下町ロケット』は新たなスタイルを模索し、それを確立しつつある。 <どの回を見ても楽しめるという『水戸黄門』的スタイル>  これまでに述べた演出方法により、『下町ロケット』が何を目指し、また何に成功しているのかというと、どの回を見ても楽しめるという、いわば『水戸黄門』的スタイルだ。通常の日本のテレビドラマであれば、どれか1話を見逃してしまうとその後の話についていけないということは多い。というか、全話を通して見る視聴者を前提としているためにそうならざるを得ないわけだが、『下町ロケット』はそうではない。第何話から見ても楽しめるというスタイルを突き詰めていて、だからこそ視聴率が右肩上がりになるという成功を収めている。  各種デバイスの発達やHDD録画視聴というスタイルの普及により、テレビドラマを毎週同じ時間にお茶の間に座って見る、という昔ながらの視聴方法はすでに崩れている。『下町ロケット』はそれを前提として新たなテレビドラマのスタイルを追求する、“21世紀の『水戸黄門』”だといえるだろう。第6話以降、このまま上昇飛行が続いていくのかどうか、見逃せないところだ。 (文=相沢直) ●あいざわ・すなお 1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。 Twitterアカウントは@aizawaaa

『下町ロケット』は原作から何を足し、何を引いたか……スピード感を得た“21世紀の『水戸黄門』”像

shitamachi1120.jpg
日曜劇場『下町ロケット』|TBSテレビ
 2015年10月クールの連続ドラマの中で最も注目を浴びている作品といえば、やはり『下町ロケット』(TBS系)になるだろう。原作はご存じ、池井戸潤。『半沢直樹』(同)の大ヒットは記憶に新しいが、ここ最近の地上波だけでも『七つの会議』(NHK総合)、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)、『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系)、『民王』(テレビ朝日系)と、ドラマ化が続く。現在の日本のテレビドラマ界は、池井戸なしでは成立し得ないのではないか、と思えるほどだ。 『半沢直樹』の大ヒットを経験していることもあり、TBSとしても気合十分。かつ『下町ロケット』は、過去にWOWOWでドラマ化されているという経緯もあり、負けるわけにはいかないところだ。そして事実、期待通りのヒット作品となる。初回の視聴率こそ16.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だったが、右肩上がりで数字を伸ばし、ロケット編の最終回となる第5話では20.2%という高視聴率を記録。これはプライムタイムのドラマとしては2015年度最高の記録であり、第二の『半沢直樹』になるかどうか、期待が集まる。 『下町ロケット』に限らず、小説原作をテレビドラマにする際はある程度の脚色が必要となる。それではこの作品では、原作にどのような脚色が加えられているのか。そして、テレビドラマとしての『下町ロケット』は、その脚色においてどのような成功を収めているのか。第1話から第5話までの「ロケット篇」を振り返り、検証してみたい。 <原作を削るのではなく、原作に足すという手法>  ドラマ『下町ロケット』では、原作で重要だった要素はほぼそのまま生かされている。基本的には原作の主要な登場人物はすべてドラマでも活躍するし、あの場面が削られてしまった、というケースはほとんどない。強いて言うならば、前半で資金繰りに苦しむ場面は小説からドラマになる際にはかなり短めに処理されているが、小説のように登場人物の内面を描くことができないという映像の特性を考えれば、もっともな演出だといえるだろう。  逆に、原作にはなかったが、ドラマにする上で足されている要素はいくつかある。登場人物でいうと、主人公の佃航平(阿部寛)の娘、利菜(土屋太鳳)は原作にも登場するのだが、登場回数は増え、かなり大きな役回りを演じている。これは『下町ロケット』がテレビ作品であり、幅広い層に向ける必要があるからだろう。親子のやりとりをしっかり見せることによって、ただの企業ものではない、家族ドラマとしての側面を描くことに成功している。  また、原作からの最も大きな改変といえるのが、第2話の裁判シーン。航平が証人喚問で呼ばれて法廷に立ち、技術者としてのプライドを述べる重要な場面だが、実はこの場面は、原作には存在していない。この派手な場面を作ることによって、第2話の視聴率は17.8%と、第1話を越えることに成功。連続ドラマにおいて重要な第2話にこの派手なエピソードを付け加えることによって、視聴者を増やす動機付けにつながったといえるだろう。 <日本のテレビドラマではあまりない情報量の多さ> 『下町ロケット』をテレビドラマにするにあたってTBSが取った戦略は、「ロケット篇」だけで全話を構成するのではなく、続編の『下町ロケット2』を含めて全話に詰め込むというものだった。この手法により、またすでに述べたようにテレビドラマのオリジナルの要素まで加えていることもあり、この作品は一般的な日本のテレビドラマと比べてかなり情報量が多い。テンポも早く、全体を通してのカットのつなぎやセリフの間も非常に早い。これにより、視聴者が一切飽きることなく、一話を最後まで見てしまうという習慣付けに成功している。  情報量の多さを処理する上で効果的に使われている演出が、松平定知によるナレーションだ。毎回頭に入るこのナレーションだが、普通であれば前回までのあらすじを視聴者に紹介するという役割に過ぎないところ、前回から今回に至るまでに何があったかも説明するという離れ業を演じている。  たとえば第4話、佃製作所が帝国重工からの審査を受ける回だが、この回の頭のナレーションでは帝国重工の審査する側の溝口(六角慎司)と田村(戸次重幸)の簡単な紹介と富山敬治(新井浩文)との関係性の説明がなされる。これをナレーションだけで処理するというのは、かなりアクロバティックな演出だろう。通常のドラマであれば、この3人が話し合う場面を映像として見せるわけだが、それをあえてせずにナレーションで処理する。かつ、前回までのあらすじと交えてそれがなされているために、視聴者としての違和感はまったくない。前回までのあらすじと思って見ていたら、そのまま今回のエピソードに引き込まれるという、シームレスな演出方法になっている。  この情報量の多さとテンポを重用視する演出は、むしろ海外のドラマに近いともいえるだろう。視聴者が多くの海外ドラマに触れ、そのスピード感を知っている今、『下町ロケット』は新たなスタイルを模索し、それを確立しつつある。 <どの回を見ても楽しめるという『水戸黄門』的スタイル>  これまでに述べた演出方法により、『下町ロケット』が何を目指し、また何に成功しているのかというと、どの回を見ても楽しめるという、いわば『水戸黄門』的スタイルだ。通常の日本のテレビドラマであれば、どれか1話を見逃してしまうとその後の話についていけないということは多い。というか、全話を通して見る視聴者を前提としているためにそうならざるを得ないわけだが、『下町ロケット』はそうではない。第何話から見ても楽しめるというスタイルを突き詰めていて、だからこそ視聴率が右肩上がりになるという成功を収めている。  各種デバイスの発達やHDD録画視聴というスタイルの普及により、テレビドラマを毎週同じ時間にお茶の間に座って見る、という昔ながらの視聴方法はすでに崩れている。『下町ロケット』はそれを前提として新たなテレビドラマのスタイルを追求する、“21世紀の『水戸黄門』”だといえるだろう。第6話以降、このまま上昇飛行が続いていくのかどうか、見逃せないところだ。 (文=相沢直) ●あいざわ・すなお 1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。 Twitterアカウントは@aizawaaa

『下町ロケット』『遺産争族』に高視聴率の期待感 好調な出足の秋ドラマ初回総まとめ

roket1027
TBS系『下町ロケット』公式サイトより
 秋ドラマ(10月期)の初回がすべて放送終了した。  夏ドラマ(7月期)は軒並み低調で、完全な“夏枯れ”状態。全話平均視聴率が10%を超えたのは、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系/杏主演)、『デスノート』(日本テレビ系/窪田正孝主演)、『恋仲』(フジテレビ系/福士蒼汰主演)の3作だけという悲惨な結果に終わった。しかし、秋ドラマはおおむね好調な出足だ。そこで、本項ではランキング形式で初回を振り返りたい。 ☆2015年10月期民放プライム帯連続ドラマ初回視聴率ランキング(数字はビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同) 1位 『相棒season14』(テレビ朝日系/水谷豊主演/水曜午後9時~)18.4% 2位 『下町ロケット』(TBS系/阿部寛主演/日曜午後9時~)16.1% 3位 『偽装の夫婦』(日本テレビ系/天海祐希主演/水曜午後10時~)14.7% 4位 『遺産争族』(テレビ朝日系/向井理主演/木曜午後9時~)14.2% 5位 『科捜研の女 15』(テレビ朝日系/沢口靖子主演/木曜午後8時~)13.5% 6位 『掟上今日子の備忘録』(日本テレビ系/新垣結衣主演/土曜午後9時~)12.9% 6位 『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(フジテレビ系/松坂桃李主演/火曜午後10時~)12.9% 8位 『5→9~私に恋したお坊さん』(フジテレビ系/石原さとみ主演/月曜午後9時~)12.6% 9位 『エンジェル・ハート』(日本テレビ系/上川隆也主演/日曜午後10時30分~)12.5% 10位 『コウノドリ』(TBS系/綾野剛主演/金曜午後10時~)12.4% 11位 『無痛~診える眼』(フジテレビ系/西島秀俊主演/水曜午後10時~)11.6% 12位 『釣りバカ日誌 新入社員 濱崎伝助』(テレビ東京系/濱田岳主演/金曜午後8時~)10.8% 13位 『オトナ女子』(フジテレビ系/篠原涼子主演/木曜午後10時~)9.9% 14位 『結婚式の前日に』(TBS系/香里奈主演/火曜午後10時~)7.7% ※参考1=おもな深夜帯連続ドラマ初回視聴率 ・『サムライせんせい』(テレビ朝日系/錦戸亮主演/金曜午後11時15分~)7.4% ・『青春探偵ハルヤ』(日本テレビ系/玉森裕太主演/木曜午後11時59分~)5.1% ・『おかしの家』(TBS系/オダギリジョー主演/水曜午後11時53分~)2.8% ※参考2…NHK総合連続ドラマ初回視聴率 ・『デザイナーベイビー』(黒木メイサ主演/火曜午後10時~)=9月22日放送開始 5.8% ・『破裂』(椎名桔平主演/土曜午後10時~)4.2%  トップに立ったのは、おなじみのシリーズモノ『相棒』の第14シリーズ。前シリーズは、3代目相棒・成宮寛貴が逮捕されて卒業するという衝撃的な形で終えた。今シリーズから、4代目相棒・反町隆史が登場するとあって、大いに注目を集め、18.4%の高い視聴率をマークした。ただ、第10~13シリーズの初回は4シリーズ連続で19%を超えていたため、それと比較すると、やや寂しい数字。成宮が“相棒”を務めた第11~13シリーズの全話平均は、いずれも17%を超えており、新相棒の反町で今後どれだけ数字が獲れるか?  シリーズモノを除き、事実上のトップとなったのが、『下町ロケット』。大ヒットした『半沢直樹』(TBS系)の池井戸潤原作で、阿部寛が丸3年ぶりに連ドラの主演を務めるとあって、視聴者の関心も高かったようで、16.1%を記録。第2話では17.8%とアップしており、ヒットする予感が漂ってきた。  主役の天海祐希が、元恋人でゲイであることが判明した沢村一樹と偽装結婚する『偽装の夫婦』は14.7%と好発進。脚本は『家政婦のミタ』『○○妻』(日本テレビ系)、『純と愛』(NHK)などの遊川和彦氏で、随所に奇抜な“らしい”展開があり、クスッと笑えてしまうところがミソ。毎年のように、「理想の女性上司」ナンバー1に選ばれるなど、好感度の高い天海の潜在的な視聴率は侮れない。第2話では10.3%と大きく下げたが、面白さは変わらず。今後、大崩れすることはなさそうだ。  近年、TBSでの主演が多かった向井理が、テレビ朝日で初主演となる『遺産争族』。向井にとっては、昨年末の結婚後、初のドラマ出演となったが、同局の10月期の同枠では、昨年まで3年連続でヒット作『ドクターX~外科医・大門未知子』が放送されていた。つまり、同局的には“勝負枠”。キャストは『ドクターX~』に出演していた岸部一徳、伊東四朗、鈴木浩介、室井滋、渡辺いっけいらが配された。    ストーリーは研修医の向井が、大手葬儀会社のバツイチ社長令嬢の榮倉奈々と結婚し、榮倉の父(岸部)の要望を受け入れ、婿入りすることになる。そこでは、榮倉の祖父(伊東)の遺産をめぐり、家族間の争いが繰り広げられていた……というもの。初回は14.2%で、15%は超えられなかったが、上々のスタート。今後の展開に、視聴者の期待感は高いようだ。  『相棒』を上回る第15シリーズに突入した『科捜研の女』は初回13.5%を弾き出し、根強い人気を示した。同ドラマは、高い視聴率こそめったにないものの、常時10%台をキープする安定感が特徴。今シリーズは第13シリーズ以来の2クール連続放送となる。『相棒』とともに、確実に視聴率を稼ぎそうだ。  コメディ探偵モノの『掟上今日子の備忘録』は12.9%の好発進。ストーリー自体はバカバカしい内容だが、かえってそれがウケるのだ。『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)以来となる新垣結衣と岡田将生の名コンビぶりもドラマの見せどころ。白髪のウイッグをかぶった新垣の“かわいさ”だけでも、なんとか2ケタは維持できそうな雰囲気だ。  松坂桃李のプライム帯での初主演ドラマとなった『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』は12.9%と、フジテレビの同枠では上々のスタートで、前クールの超低視聴率ドラマ『HEAT』の悪夢を払拭できそうな勢い。ヒロインの木村文乃もいい味を出しており、“悪女”役の菜々緒はセクシーシーン連発で存在感を発揮している。  他のドラマも、ほとんどが2ケタ発進したが、いきなり1ケタでスタートとなったのは『オトナ女子』と『結婚式の前日に』の2作。  初回9.9%だった『オトナ女子』は、第2話で9.2%と下げており、先行きが暗い。初回は篠原涼子と友情出演の斎藤工とのキスシーンからスタート。第2話でも、のっけから篠原が胸の谷間を強調。ベッドシーンなど過激な描写も多いため、家族そろっての視聴はつらいところ。ターゲットとしているのは、30~40代の独身女性であろうが、ネット上では「美しすぎて、私生活でも満たされている篠原が結婚できない40歳との設定が非現実的」との声もチラホラで、共感が得られにくいようだ。フジとしては、同じ篠原主演の『ラスト・シンデレラ』(13年4月期/全話平均15.2%)同様、平均15%前後を狙っていたと思われるが、大きく目算が外れてしまった。せめて、平均1ケタ台は回避したいところだろう。  1作だけドツボにはまってしまったのが、『結婚式の前日に』だ。主役の香里奈は、昨年3月、あられもない大股開き画像が写真週刊誌に流出し、一時休業を余儀なくされていた。香里奈にとっては、約2年ぶりの連ドラ出演、主演となると『私が恋愛できない理由』(11年10月期/フジテレビ系)以来4年ぶりとなったが、騒動によるイメージダウンは大きく、払拭できていなかったようだ。  ストーリー自体はしっかりしたもので、婚約者役の鈴木亮平を始め、遠藤憲一、江波杏子らの脇役陣も好演しているが、視聴率には結びつかず。初回7.7%→第2話4.6%と早くも5%割れで、苦戦は必至。この状況が続けば、打ち切りもありそうだ。  局別に見ると、『ドクターX~』が放送されていたこともあり、例年、10月期はテレ朝が高視聴率を獲っていた。シリーズモノの『相棒』『科捜研の女』は安定した視聴率を記録する可能性が高いだけに、『遺産争族』がどこまで数字を伸ばせるかがポイント。  ドラマ別では、好調なスタートを切った『下町ロケット』が、どこまで上げてくるかが焦点になりそう。  いずれにせよ、どのドラマも始まったばかりで、今後大逆転があるかも? (文=黒田五郎)