これが、本当にあのピエール瀧だろうか、と一瞬目を疑ってしまった。いつも薄ら笑いを浮かべ、飄々としている。電気グルーヴとしてもテレビタレントとしても、あるいは俳優としても常に人を食ったような佇まい。それが、瀧のイメージではないだろうか。しかし、ドラマ『64(ロクヨン)』(NHK総合)の瀧は、それとはまったく違う顔を見せている。 まず驚くのは、そんな瀧が「主演」だということだ。これまで『おじいさん先生』(日本テレビ系)でドラマの主演を務めたことはあったが、これはタイトル通り、瀧がおじいさんに扮した半ばコントのようなコメディ。瀧の「人を食った」ようなキャラクターをそのまま生かしたものだった。 今回は、“笑い”の一切ない重厚なサスペンスドラマ。しかもNHKである。ドラマの大半で、瀧が苦悶の表情を浮かべた顔が画面を占めているのだ。そして、その鬼気迫る顔が驚くほどカッコよく、思わず見とれてしまう。 『64』の演出を務めるのは井上剛。音楽は大友良英。『あまちゃん』をはじめ、『その街のこども』『クライマーズ・ハイ』『Live!Love!Sings! 生きて愛して歌うこと』など数多くの作品でタッグを組む名コンビだ。今回も、静かだが強い大友の音楽と、それを効果的に使った井上の演出がドラマの重厚さを際立たせている。そう、『64』は、「重厚」と呼ぶに相応しいドラマである。 物語の主軸となっているのは、タイトルにもなっている通称「ロクヨン」と呼ばれる誘拐事件である。わずか1週間しかなかった「昭和64年」に起きた、少女誘拐事件。身代金も少女の命も奪われ、未解決のまま14年が過ぎ、時効を迎えようとしている。 瀧扮する三上は事件当時、刑事としてこの事件の解決に奔走したが、現在は広報室の広報官という立場になっており、「ロクヨン」の時効を目前に控え行われる警察庁長官の視察の準備を任されている。「ロクヨン」事件を捜査する刑事部と、三上が所属する警務部は、この事件の秘密を握る「幸田メモ」の存在などで対立し、三上はそれぞれの思惑の全貌がつかめないでいた。警察への不信感を抱く遺族との交渉もままならない。そんな中、警察幹部の娘が起こした交通死亡事故の匿名発表をめぐって記者クラブと対立し、視察の取材協力まで拒否されてしまう。さらに私生活では、高校生の娘が口論の末、失踪。次々に振りかかる難題に三上は眉間にしわを寄せ、静かに悩み続けるのだ。 さらに、三上の苦悩は終わらない。時効直前、「ロクヨン」そっくりの新たな誘拐事件が起こるというのだ。「という」と伝聞で書くのは、まだ起こっていないからだ。このドラマは「ロクヨン」事件と、14年後に起こるこの新たな誘拐事件という2つの誘拐事件が“本筋”である。しかし、全5話中、2話が終わった時点で、まだこの事件は起こっていない。昨今のドラマでは、できるだけ早めに本筋を提示するのが主流となっている。そのほうが分かりやすく、視聴者を逃しにくいからだ。だが、本作では丁寧に、丁寧すぎるほどに、その周辺を時間をかけて描いている。その丁寧さの分だけ、今どき珍しい「骨太」なドラマになっている。昭和の最後を舞台にしていることが象徴するように、どこか昭和のドラマを見ているような感覚に陥ってしまう。 それを強調するのが、瀧の「顔」である。プロデューサーも、彼を主演に起用した理由を「昭和の顔にこだわったから」だと語っている。昭和の俳優は、みんな顔が大きかった。その顔力で画面を重厚なものにし、その迫力で視聴者を釘付けにしていた。瀧にも、間違いなくそんな“顔力”がある。骨太で重厚なドラマには、瀧のような強い顔が必要不可欠なのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらからNHK土曜ドラマ『64(ロクヨン)』番組HPより
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バカとハサミは使いよう?『キスマイGAME』流「ドローン」の使い方
首相官邸にドローンが墜落したことが、大きな問題になっている。ドローンとは主に空撮用に使われる無人飛行型ロボット。災害現場や人が立ち入れない場所でも空撮が可能であることから、特にメディアにとって大きな技術革新をもたらした撮影機材である。一方、その高度なテクノロジーゆえ、当初から悪用の危険性は指摘されており、それが現実になってしまった。 どんなテクノロジーでも、それが優れた技術であればあるほど、悪用する者が出てくるもの。当然、それに対する対策は必要だが、だからといって、ドローン自体を悪者にするのはナンセンスだ。悪用の可能性が高いのと同じように、有用な使い方の可能性も広がっている。そして、そのどちらでもない「遊び道具」としても、無限の可能性を秘めているのではないだろうか。 いち早くドローンをテレビで「遊び道具」として使ったのが、『あの遊びをバージョンアップ!キスマイGAME』(テレビ朝日系)だ。4月から始まったKis-My-Ft2の冠番組で、その名の通り、子どもの頃に遊んだ鬼ごっこ、かくれんぼ、缶蹴りなどを、2015年現在の最新テクノロジーを使って“バージョンアップ”するというものだ。 初回は「だるまさんがころんだ」を、高性能防犯カメラを使ってバージョンアップ。わずかな動きも検知する防犯カメラを相手に「だるまさんがころんだ」をするという、単純明快なゲームだった。しかし、この「わずかな動き」が現在のテクノロジーでは尋常ではない。膝のちょっとした動きはもちろん、表情の変化、まばたきさえも検知されてしまうのだ。この攻略のため、ひとりが壁になって協力しながら前に進んだり、ほふく前進で動きを最小限にとどめたりと、キスマイたちが知恵を絞って挑戦していき、成功に少しずつ近づいていく。だから、見ている側も手に汗握り、画面に釘付けになり、失敗すると「あー!」と思わず声に出してしまう。 そしてドローンを「遊び道具」にしたのは、第3回放送(4月14日深夜)だった。その特性を最大限生かし、ドローンが“鬼”となった「かくれんぼ」が行われたのだ。ルールはとてもシンプル。一定時間内に、ドローンから挑戦者が一人も見つからず逃げ切れれば勝利だ。「見つかった」という判定は、ドローンのカメラに3秒間継続して映ったらアウトという基準。これがゲームバランスとして絶妙だった。 キスマイは、「助っ人」であるゲストの前園真聖と共に、この「ドローンかくれんぼ」に挑戦していく。前園は、言わずと知れたサッカー元日本代表のアスリート。だからといって、このゲームに向いているか疑問だったが、彼は想像以上に大活躍を見せた。安定した飛行でブレずに相手を捉えることができ、視野も180度と広いドローンに「体幹がしっかりしている、長友(佑都)みたい」「相当視野が広い。遠藤(保仁)ぐらい」などと真面目な顔でたとえて笑わせる、バラエティ的活躍だけではない。挑戦のリーダーとして自分も走り回りながら、的確に指示を出し、まさに司令塔の役割を担っていた。 第1ステージの舞台は「教室」。机など、ドローンの視界を妨げるものはあるが、いわゆる「かくれんぼ」のように、同じ場所に隠れているだけではすぐに見つかってしまう。いかにドローンに対し、的確なポジショニングを取れるかがこのゲームの攻略のポイントだ。サッカーもある意味、ポジショニングのスポーツ。だから、前園はすぐにこのゲーム攻略のコツをつかんでいき、ドローンの死角となる“ウラを取る”ことに成功するのだ。しかし、その後もドローンが驚異的な性能を発揮し、挑戦者たちを苦しめていく。 最新テクノロジー vs 人間の知能合戦は、とても見応えのあるものだ。特に、技術の穴を見つけ、そこを突き、絶対に無理だと思われていた攻略の糸口をつかむカタルシスは大きい。しかも、その糸口を導き出したとしても、その戦略を正確に実行する運動能力がなければならないから、ハラハラ・ドキドキ感は倍増する。 まさに、バカとハサミは使いよう。『キスマイGAME』は、テレビならではの方法でドローンのような最新テクノロジーを「遊び道具」に仕立て上げた。 子どもの遊びを大人たちが、お金と技術と知性をかけて真剣にやっている。まったく意味のない、最新テクノロジーのムダ使いである。だが、その意味のなさやムダにこそ、テレビの可能性は広がっている。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらからテレビ朝日『キスマイGAME』番組公式サイトより
山口智子の演技は、なぜ“古い”のか?『心がポキッとね』の壮大な実験
「すっごくたのしみにぃ、しててくれる人いるみたいでぇ、2,469人~、昨日一人増えちゃったぁ!」 と、意気揚々とSNS用の料理写真を撮る、山口智子演じる空間コーディネーター・静。 言葉尻のアクセントが妙に上がるような、クセの強い抑揚のセリフ回しは古臭い。もちろん彼女は、あえてやっているのだろう。いわば、山口智子は、90年代の自分の演技の自己パロディをしているかのようだ。静が、40歳半ばにして、いまだに90年代的な自分探しをしているような自意識まみれの“病んだ”女性という設定だからだ。 『心がポキッとね』(フジテレビ系)は、岡田惠和脚本、宮本理江子演出のドラマである。2人は、同局の『最後から二番目の恋』を手がけたコンビだ。主人公は、静の元夫の春太(阿部サダヲ)。現在は、アンティーク家具の修理を担当する仕事に就いている。もともとはサラリーマンで営業をしていたが、「なんで周りの奴らはできないんだろう」と思ってしまうほど、営業成績優秀。それゆえ、周りから疎まれ、上司から嫌われた結果、ありえないくらいのノルマを与えられ、精神的に壊れてしまう。 そんなストレスを、彼は妻にぶつけ、暴力を振るった。いわゆるドメスティック・バイオレンスである。 「彼女を深く傷つけ、人生を狂わせてしまった。でも、愛してた。不幸にしようなんて、思ってもなかった。でも、してしまった。だからね、怖いんですよ、人と関わるの。だから、人と関わるの、やめようと思いまして」 家庭と仕事を失い、公園でホームレスまがいの生活をしていた春太は、アンティーク家具店の社長、心(藤木直人)に拾われ、彼の自宅の1階を間借りして生活している。 自分の世界に閉じこもる春太と、桜の下で偶然出会ったのが、みやこ(水原希子)である。 彼女はかつての恋敵(山下リオ)に言いがかりをつけられて、ストーキングされている。彼女から逃げる手助けをしたのが、春太だった。 「あたしね、誰かのこと好きになるとおかしくなっちゃう。壊れちゃうんだよね」 と、みやこは言う。そう、現在ストーキングされているみやこもまた、ストーカーだったのだ。彼女は好きになった男を追い回し、警察に逮捕された経歴があるという。「全然そんなつもりじゃなかったんだけど、好きすぎて周りが見えなくなって空回りしてた」と。 そんな彼女には現在、「神」と崇める存在がいる。彼女が絶望の淵に立ち、泣きじゃくっているところを、「何してるの?」と声をかけてくれた男だ。 一方、静は現在、心と付き合っており、「お試し同棲」を始めるという。 「静」というのは、春太にDVを受け深く傷ついたため、変えた名前だ。こんな不幸な自分は自分ではない、別の“本当の”自分を見つけなければ不幸である自分が本当になってしまうと、“自分探し”に奔走しているのであろう。周りに「センスのいい」ものをそろえ、「幸せなブログ、書きたい!」と偏執してしまうという“病”だ。 そして心も、別の病を抱えている。 彼は困っている人や捨てられた物を見ると放っておけず、誰かれ構わず声をかけ、拾ってきてしまうのだ。相手がどう思っているかなどと思い悩むことは皆無。自分がよかれと思うことに一直線。「壊れたら、直せばいい」と。 悪気もないが、配慮もない。だから、彼の善意のせいで迷惑を被っても、周りは何も言えないのだ。たちの悪い病である。 そしてみやこは、「神」と偶然再会する。もちろん、彼女の「神」は心である。心はみやこを自宅に連れて帰り、1階で住むように提案するのだ。こうして、2階では心と静の同棲生活。下では静の元夫・春太と、心に片思いをする女・みやこという三角、いや四角関係の生活が始まるのだ。 いびつな形の人間関係の中で、かろうじて保っているバランス。ひとたびちょっとした衝撃が加えられると、一気に崩れてしまうような危ういバランス。それはこのドラマそのものであり、今のテレビや社会の状況でもあるのではないか。 DV男とストーカー女をはじめ、このドラマに出てくる登場人物のほとんどは、通常のドラマであれば「加害者」側、主人公たちの「障害」になるような人物として描かれるキャラクターだ。しかし、『心がポキッとね』では、それを主人公側として描いている。決して悪い人間ではない彼らが、「そんなつもりではない」のに加害者側に立ってしまった。けれど、それは現代においてありふれた光景だ。 偶然、桜の下で出会い、偶然、因縁浅からぬ人や好きな人と一緒に生活するようになる――。実に90年代ドラマ的な設定である。 もちろん、山口智子があえて“古い”演技をしているのと同じように、こうした“古い”設定もあえて作られたものだろう。古い設定に新しい現代的な病理を抱えた人物を置いたらどうなるか。これは過去の恋愛ドラマを現在の人間ドラマに更新するための壮大な実験なのではないか。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『心がポキッとね』フジテレビ
どこまでエンタテインメントにするか? 『中居正広のISORO』が映す、アイドルの「本当のところ」
「僕、お風呂を一緒に入れるのってヒロくんしかいないです、世の中に」 稲垣吾郎は堂々とそう告白した。同じベッドで寝たこともあるという。 「ヒロくん」とは、いったい何者なのだろうか? 2009年の『さんま&SMAP!美女と野獣のクリスマススペシャル』(日本テレビ系)で初めてその存在が公にされ、14年の同番組でさらに詳しく語られた。そして、15年1月10日放送の『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)で話したことで、SMAPファン以外にも広く知られることとなった。 しかし、「50歳くらいの既婚のサラリーマン」「週2回くらいのペースで稲垣の自宅にやって来る」「稲垣の自宅にはヒロくん専用の部屋がある」などと断片的に語られるエピソードでは、ヒロくんがいったい何者なのか、そもそも2人はどんな関係なのか、謎は深まるばかりだった。男同士が半同棲生活を続けている、ということもあり、「同性愛疑惑」もささやかれていた。 そんな中で3月23日に『SMAP×SMAP』(同)の枠で放送された特別番組が『中居正広のISORO』だ。冒頭の稲垣の告白はこの番組で飛び出したものだ。番組は、稲垣が、ヒロくんの自宅を訪れ、“居候”する様子を追いかけたものだ。 ヒロくんと稲垣が出会ったのは99年。共通の知人の紹介だったという。だが、3人で会っても、ヒロくんはその知人と会話するばかり。何度か会っていくうちに、耐えられず稲垣がヒロくんに尋ねた。 「もしかして僕のこと嫌いですか?」 「ジャニーズとか苦手なんだよね」 その会話が、仲良くなったきっかけだったという。2人は急速に信頼し合うようになり、稲垣が新居を選ぶ際にはヒロくんも同行。「これだけ広ければ、ここで遊べるよね」というヒロくんの一言で新居を決めた。以降、週の半分をお互いの家を行き来し、「ヒロくん」「ごろち」と呼び合う関係になったという。 「テレビ、これでいいのか?」 普段通りの会話ゆえ、妙な間が入ったりするし、特に何かが起こるわけでもない。ヒロくんの自宅で過ごす2人のVTRを見た中居が、思わずそう言った。 そんな中居を尻目に、「仲良さそう。見てて安心する」「不思議な感じ」などと無邪気に語る稲垣は新鮮だ。 「見たことないもん、こんな吾郎」と、中居も言う。確かにVTR中の稲垣は、これまでのイメージとは異なる新たな一面を見せていた。デビューから25年以上経って、常に第一線で活躍し続けてもなお、こうした新たな一面をのぞかせることができる。そして、このなんでもないVTRで視聴者を惹きつけることができるSMAPの強さを、あらためて感じた。 「結婚しないのか?」と問われた稲垣は「『大切な存在』(=ヒロくん)がいるから、それを認めてくれる女性じゃないとできない」と、サラッと言った。それに対し、中居は「『大切な存在』なんて、歌詞やドラマの世界だけの言葉だと思ってた」と驚きを隠さない。 「でも、言葉で伝えたらすごく気持ちよくなってくると思いますよ。僕もこういうふうに認め合うことを前はしてなかったんですけど、いま普通に言えるようになって気持ちいいですもん、やっぱり。楽だもん。そういうもんなんだなって。絆というか愛というか。やってみなよ、みんなも。大切な存在、いるはずだよ!」 と語っているうちに興奮した稲垣は、カメラに向かって呼びかけるのだ。 「伝えてみなよ! 声に出してみなよ! すごく楽になるよ!」 「どこまでエンタテインメントにするかということについては、非常識を常識にするということに関して、僕らは腹をくくる準備と覚悟はあった」(『AERA(13年5/6・13)』) と中居は語っている。かつて、アイドルは文字通り偶像だった。“お人形”であることを求められた。だが、80年代に入り、アイドルは“自我”を持ち始め、80年代後半には、同じ“人間”であり、手に届く存在であることが強調されるようになった。いわば、アイドルの“人間宣言”である。その流れの中で、SMAPはさらにそれを一歩進めた。アイドルではタブーとされてきた下ネタや恋愛話を語り、失敗話や自らのダメな部分を晒すようになったのだ。言ってみれば“ダメ人間宣言”である。 そうしてSMAPは新たなアイドル像を提示することで、アイドル界のトップに立った。一方で中居には「エンタテインメントにする」ことへの明確な線引きがある。たとえば、この番組でも、稲垣とヒロくんがイチゴ狩りに行って、あーんとイチゴを食べさせ合うVTRを受けて、稲垣があーんとイチゴを中居の口に運ぶと、頑なに拒否。 また、次回の“居候”先に稲垣が「SMAPのヒロくん」、すなわち中居正広を提案すると、「そこに僕の中のエンタテインメントは入ってませんから」と真顔で退けた。 あるいは、昨年の『27時間テレビ』(同)では、「解散」について赤裸々に話す香取に対して、中居が「そのチャックは開けたくなかった」と言ったこともある。中居にとってその部分は、アイドルという“着ぐるみ”を維持するためのギリギリのライン、すなわち“チャック”だったのだ。それに対し、稲垣は言う。 「チャックは開けてなくても透けて見えたりするもの」と。 VTR中、「2人はチューくらいできるの? 本当のところどうなってるの?」と問われた稲垣は、静かにほほえんで言った。 「本当のところなんて、言うわけないよね」 そうしてヒロくんの素顔まで晒した番組でも、肝心な核心部分は煙に巻いたまま終わった。半同棲するほど親密な2人の関係だからといって、必ずしもそこに恋愛感情があるわけではない。それがあってもいいし、なくてもいい。何でつながっているかなんて、当人以外は「本当のところ」分からない。その「分からなさ」は、そのままエンタテインメントであり、アイドル性だ。「分からない」からこそ、無限に可能性を広げてくれる。 最後に以前、歌人の枡野浩一が『ゴロウ・デラックス』(TBS、15年1月22日放送)で稲垣に捧げた短歌を紹介したい。 「『両方って人もいるよね』両方に夢を与える稲垣吾郎」 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから
本田望結の活躍に見る、『逃走中』が子どもたちを夢中にさせるワケ
また『逃走中』(フジテレビ系)が原因で“炎上”したという。 炎上したのは、3月15日放送の回で「自首」を選んだE-girlsのAmiだ。『逃走中』は、テーマパークやショッピングセンター等の施設を舞台にした大規模な“鬼ごっこ”番組。十数人の出演者=逃走者が、ハンターと呼ばれる“鬼”から決められた時間を逃げ切れば賞金を獲得できる。途中、捕まるリスクはあるが、協力して成功させるとハンターが減るなどの「ミッション」が用意されている一方で、逃走者にはルール上、「自首」が許されており、その時間に応じた賞金が支払われる。 Amiはこの「自首」により、目標であった賞金100万を超える約120万円を手にした。もちろんルール上認められた行為であるが、それまでの言動、自首後の振る舞いで人間性が浮き彫りになり、批判に晒されてしまうのだ。 『逃走中』の炎上といえば、今回は出演しなかったが、ドランクドラゴン鈴木拓が有名だ。自身の「代表作」とうそぶき、「この番組がキッカケでヒールキャラを確立した」と胸を張る。普段の仕事では見送りになど来ない息子が、『逃走中』の仕事の日だけは、鈴木を見送りに来るのだという。「父ちゃん、今日はちゃんとミッションやってね」と。 なぜなら『逃走中』は、子どもたちの間で絶大な人気を誇る番組だからだ。そんな番組で父親が悪者になってほしくないと思うのは、無理もない。なぜ、それほどまでに子どもたちを夢中にさせるのだろうか? そのひとつの答えが、「誘惑の扉」と題された今回の放送にあった。今回の出演者は前述のAmiのほか、プロ野球・広島カープのエース前田健太、芸人の小籔千豊、よゐこ濱口優、元宝塚の大和悠河など多彩なメンバーに混じって、“天才子役”と名を馳せ、フィギュアスケーターとしても将来メダルを期待される本田望結がいた。10歳の本田は間違いなく、今回の主役のひとりだった。 「ヤバい、ドキドキしてる!」 と、最初から興奮気味の本田。小学校では「『逃走中』ごっこ」などもしているという。だから「みんなに『ミッションできたよ!』って言いたい」と無邪気に決意を語るのだ。だが、いざ始まると、本田は身を潜めたまま動けなくなってしまう。 「無理だ、怖い。こんなに怖いと思ってなかった……」 ハンターの影におびえ、動きたいという気持ちより恐怖心が上回ってしまう。「ミッション」が通知されても、気持ちばかりがはやって、足は止まったまま。動きたくても動けない悔しさがにじみ出る。 「ヤバい全然動けない……。何も動けてないや、テレビ見てると楽しそうだな、絶対行きたいなって思ってたけど、こんなにドキドキするとは思わなかった」 本田が動けないままでいるうちに、エリアには「誘惑の扉」が出現する。この扉の中に入ると、5分間ハンターの追撃を受けずに済む。その代わり、その時間、新たにハンターが10体放出されるというのだ。 「扉に入るのやめる」 と、いち早く出演者全員にチャットで意思表示する本田。しかし、ハンターに追われる中で、Ami、濱口、小林麻耶の3人が「誘惑の扉」に入ってしまう。10体増加したハンターたちに追い詰められ、その5分間で6人もの逃走者が確保されてしまった。 「もう自分が恥ずかしいよ」 1時間以上、動けなかった本田はついに動き始める。そして、確保された逃走者を復活させる「ミッション」発動が通知される。 「絶対やります! 絶対やります!」 「ミッション」は危険と隣り合わせだ。ハンターに捕まるリスクは高まる。事実、ミッション中に確保されてしまうことも少なくない。だから、ミッションに参加しないという選択肢も当然ある。だが、本田は、自分がその選択をすることは許せなかったのだ。そしてほかのメンバーと協力して「ミッション」を成功させると、それに貢献できた彼女はウキウキ気分で得意げ。その興奮を隠せない。 一方、出演者のアレクサンダーから「自首」を相談されると、あからさまに軽蔑の眼差しを向け、こう言う。 「自首どうぞ。望結はしない。最後まで生き残る。あとミッションも絶対やる! さようなら。望結は捕まるかもしれないけど、みんなのために頑張ります!」 残り時間わずかになると、「誘惑の扉」が再び現れる。 「そんなことはしない! 誰も入らなかったらハンターは来ないわけでしょ。入ったら大変なことになる! みんなを裏切ることになるから。絶対に入らない!」 と語気を強めた本田だが、ハンターに追われ、恐怖に駆られると、泣きそうになりながら、その扉を開けようとしてしまうのだ。 『逃走中』での本田望結は、子どもらしさが全開だった。恐怖で思い通りに体が動かない葛藤、一転して「ミッション」に成功した後の得意げな言動、自分にも他人にも厳しくあろうとする正義感、逆にピンチに陥ったら逃げてしまう弱さ、何より目の前のことに前のめりで夢中になる姿。そのすべてが子どもっぽくて、愛らしかった。いや、彼女だけではない。出演者それぞれが、子どもっぽい本性を晒してしまうのだ。 『逃走中』は子ども心を呼び覚ます。子どもだましでは、子どもはだませない。巧妙なミッションの設定と、「自首」を誘発するような人間心理をついた絶妙なゲームバランスが、いつだって本気で遊ぶ子どもたちを刺激する。夢中になるのは、子どもたちだけではない。なぜなら、大人にだって子ども心は残っているからだ。『逃走中』は、そんな子ども心をターゲットにした番組なのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『逃走中』フジテレビ
なぜミッチーは“許される”のか? 『嵐にしやがれ』で語った、及川光博「イイ男」の原点
ミッチーこと及川光博が、いつになく精力的だ。歌手デビュー20周年を記念して、約5年ぶりにシングルCD「ダンディ・ダンディ/SAVE THE FUTURE!!」(ビクターエンタテインメント)を発売、さらに映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』(3月21日公開)に仮面ライダー3号・黒井響一郎役で出演という、ミュージシャン・俳優、2つの大きな仕事が重なった。そのプロモーションに音楽番組はもちろん、その強烈なキャラクターゆえバラエティ番組にも引っ張りだこだ。 『ミュージックドラゴン』(日本テレビ系)では「レッドカーペット歴20年」とレッドカーペットで登場し、「川柳は宇宙だ!」と川柳を詠み、仮面ライダー寸劇を演じていたし、『ユミパン』(フジテレビ系)では照れまくる永島優美アナウンサーを相手に「壁ドン」や「あごクイ」を完璧に決め、『しゃべくり007』(日本テレビ系)では40歳代のおっさんトークを、『さんまのまんま』(関西テレビ)ではさんまと恋愛・結婚トーク。変幻自在でありながら、一貫して「ミッチー」であり続ける姿は驚異的だ。 思えば、及川光博は不思議で稀有な存在だ。『相棒』(テレビ朝日系)の神戸尊役に出会うまで、長らく代表作といえる役柄もなかったし、代表曲といえるようなヒット曲もない。それでも20年にわたり、及川光博はずっと「2.5次元」的な「ミッチー」というキャラで芸能界を生き抜いてきた。いわば、代表作は自ら「透明な着ぐるみ」(『しゃべくり007』)と称す、「ミッチー」そのものなのだ。 「本日諸君らの担当教官となった、見ての通りのガルマ・ザビです」 観客がキョトンとする中、『機動戦士ガンダム』に登場するガルマ・ザビの衣装に扮した及川光博が登場したのが、『嵐にしやがれ』(日本テレビ系)だ。「私物」というジオン公国の軍服に身を包んだミッチーは、どう見てもガルマそのものである。そのコスプレのクオリティは、テレビ用に昨日今日始めたレベルではないことは明らか。事実、ライブなどでは、『サイボーグ009』『宇宙戦艦ヤマト』『ルパン三世』(緑ジャケット)、『ガッチャマン』『ベルサイユのばら』『セーラームーン』(タキシード仮面)などのコスプレを披露。『ガンダム』関連では、シャアを模した「赤い彗星のニャア」というキャラにまでなりきっている。 コアなアニメファンは、テレビタレントがこうした言動をすると、親近感が湧くというよりも逆に反感を抱くことが珍しくない。だが、なぜか「ミッチーなら許せる」という声が多い。それもまた、ミッチーの稀有さのひとつだ。 『嵐にしやがれ』はもともと、ゲストである「アニキ」が嵐メンバーにさまざまなことを教えていくという番組。現在はゲストも「アニキ」に限らず、ロケ企画も多くなったが、この日の及川光博出演のコーナーは原点に帰ったように、「ザビ家が変身するとザクになるの?」などと『ガンダム』をまったく知らない嵐を相手に、ミッチーが「人生の参考書」だという「ガンダムに学ぶイイ男授業」をするというものだった。 「みなさん、引かないでくださいよ。いや、引いてもいい!」 と言いながら、スラスラと、「0079」「80」「83」「87」「88~93」と数字をホワイトボードに書いていくミッチー。『ガンダム』に関連する年号である。もうこれだけでも、生粋の『ガンダム』ファンであることが分かるが、次々と浴びさられる嵐からの質問にも間髪を入れず答えていくさまは、まさに『ガンダム』マニア。そして「イイ男」としてシャア・アズナブルとランバ・ラルを挙げ、シャアは「カリスマ性はあるけど弱点は自己中」と分析。ランバ・ラルには「背負い、許し、包む」「部下思い」な理想の上司と紹介。「若手に対して堂々と説教ができる。なぜか? 自信があるからです、経験値があるから、実績があるから。その説得力が大人」と熱く語り、最大限評価した上で、最後にミッチー目線らしい欠点を挙げる。 「ラルは人間の器はでかいけど、メタボ!」 後半は、なぜか『ガンダム』を離れ『快傑ズバット』の話に急展開。「初めて自分のお小遣いで買ったレコードが『快傑ズバット』の主題歌でした」というミッチーは、ズバットを演じた宮内洋が「俳優の原点」だという。確かに、ズバットのキメキメでキザな仕草はミッチーのそれを思い起こさせる。「クール&セクシーというのが、男としてカッコいい」と。 前述の通り、及川光博は仮面ライダー3号を演じる。これは、ミッチーにとって長年の夢だった。デビュー当時、彼は「戦隊ヒーロー」もののオーディションを受けたことがある。ミッチーが希望したのは「青」役。そう、『ゴレンジャー』では宮内洋が演じた「青」だ。だが、それはかなわなかった。そして時を経て、及川光博は仮面ライダー3号に選ばれたのだ。 「3号」はもともと、原作漫画には1号、2号に続いて登場していた“幻”のライダー。しかし特撮シリーズでは、3号は“封印”され、デザインを一新した『仮面ライダーV3』が事実上の「3号」として制作された。その「V3」を演じたのもまた宮内洋なのだ。そして映画『スーパーヒーロー大戦GP 仮面ライダー3号』では、その「V3」と「3号」が対決するという。ものすごい運命のつながりを感じさせてくれる話だ。それは、決して偶然ではないはずだ。及川光博はいつだって“本気”でやりきり、それをやり続けてきた。その結果、まさにシャアのような「カリスマ性」に加え、ランバ・ラル同様の「自信」「経験値」「実績」を手にし、ミッチーの「説得力」になっている。だからこそ、コアなファンも納得させ、作り手から請われるという最高の形で、夢がかなったのだ。 『嵐にしやがれ』は、そんなミッチーだからこそできる、「イイ男授業」だった。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから「ダンディ・ダンディ/SAVE THE FUTURE!!」(ビクターエンタテインメント)
森三中・黒沢大号泣! 『みなさんのおかげでした』が見せた、石橋貴明の意外な一面
「いつ終わりが来るんですかね、恋愛って」 と真顔で石橋貴明に問いかけるミラクルひかるに、森三中・黒沢が激高する。 「安っい質問してんじゃねえよ!」 さらに黒沢は続ける。 「こんな機会ないのに、なんでそんな安い質問するかな? めったに聞けないんだよ、タカさんに!」 これは、2月19日放送の『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の新企画、「石橋温泉」での一場面だ。貴明が温泉旅館で、後輩たちの悩みを聞くという企画である。 破天荒で傍若無人なイメージのある貴明だが、実は若手芸人から「意外に親身になって相談に乗ってくれる男」だと慕われている。お笑いファンには、TBSラジオ『バナナマンのバナナムーンGOLD』や『おぎやはぎのメガネびいき』に“乱入”し、自らの芸歴を振り返りながら、後輩たちと真摯に語り合った“伝説”の放送が思い浮かぶだろう。 そんな貴明のもとに今回集まったのが、オアシズ・大久保佳代子、椿鬼奴、森三中・黒沢かずこ、フォーリンラブ・バービー、ミラクルひかるという5人の女芸人だった。 最初に悩みを打ち明けたのは鬼奴だった。 「彼が芸人として売れるにはどうしたらいいのか?」 鬼奴が同棲中の恋人、グランジ・佐藤大は、実は『みなさんのおかげでした』と縁のある芸人だ。人気コーナーのひとつ「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」に出場し、「朝5時の富士そば恵比寿西口店の店員」のモノマネで見事、第3回のチャンピオンに輝いているのだ。 「奴さんの言う『売れる』っていうのは、どういう状態なの?」 と貴明が尋ねると、「もう少し収入があると……。収入格差があります。今のところ、家賃も私が払っていて」と現状を告白する鬼奴。佐藤は酒とギャンブル好きの、昔気質の芸人なのだ 「お給料のうち、7割ぐらいは借金返して、残りの1万とか2万を競艇に。(25日にもらった給料が)だいたい26日に終わってる」 そのため、鬼奴だけでなく、ほかの芸人たちにも借金を繰り返しているという。それでも「私も42歳なので、そろそろ結婚しようかな」という鬼奴に、同期で親友の黒沢は複雑な思いを抱えていた。もちろん、鬼奴が恋愛を成就して結婚できればうれしい。だが、今の状況のまま結婚して、果たして本当に幸せになれるのか、と。 そのことについて男性芸人に相談しても「いいじゃん、鬼奴に合ってるよ」「鬼奴が稼げばいい」などと芸人ノリで返される。だが、目の前の貴明は茶化さずに「鬼奴さん、(佐藤の借金を)全部把握してるの?」「結婚なんかしちゃったら、自分のほうに(借金が)来ちゃうよ」「本当に怖いのは突然売れた時」などと真剣に相談を聞いてくれる。 「タカさんが真剣に聞いてくださって、すごいうれしいです」 と、自分のことのように感謝する黒沢。そして貴明が「(佐藤は)バイト辞めたほうがいいんじゃないかな。借金を返すためのバイトなんでしょ? 彼がやらなきゃいけないのはネタを作って売れなきゃダメでしょ」と諭すように語ると、鬼奴が「バイト辞めろって言ってくださる方はいなかった」と涙ぐむ中、なぜか黒沢は鬼奴以上に大号泣するのだ。 「なん……、何……、あの……、あの……うれしいっす!」 口ごもりながら懸命に自分の思いを伝える黒沢の姿はおかしくも美しく、そして感動的だった。感極まった黒沢は、自分の番でないにもかかわらず、自分の悩みを吐露し始めてしまう。 「自分たちは中途半端な年齢になってきて、先輩も後輩もいっぱいいるし、この先どうなっていくのかな? って。クソッていう気持ちもなくなってきちゃって、ダラダラ流されるようにこの世界で生きてて、自分がなんの目的でこの世界に入ってきたのかが分からなくなっちゃって。その時にカラオケで歌うのが(とんねるずの)『一番偉い人へ』です、っていうのが一番言いたかったことです!」 ほかの4人とタイプが違う、恋愛経験豊富なミラクルひかるが入っているバランスも絶妙だった。 貴明が「突然売れた時に『じゃあな、鬼奴』って言われる可能性がある」と危惧した時、ミラクルはしたり顔で言うのだ。 「でもその時は、女として1ランク上がった時ですよ」 「黙れ、ババア! どのポジションで言ってるんだよ!」 そんな言葉に大久保が激高しても、構わず平然とミラクルは続ける。 「だけど、いま彼を愛せるのは鬼奴さんだけなんで、マジ、頑張ってください」 「石橋温泉」は悩みを吐露する女芸人たちはもちろん、貴明の意外な一面を垣間見ることのできる。この企画をはじめ、『とんねるずのみなさんのおかげでした』はコンスタントに新機軸の企画を打ち出し、とんねるずの新たな顔をのぞかせ続けている。彼らは大御所となった今でも、とても精力的で、どの若手芸人よりも挑戦的に見える。まさに「一番偉い人へ」で歌ったように、「俺たちは今何をするべきか?」とテレビの中で問い続けているようだ。 次週も続くという「石橋温泉」。その予告で黒沢は、多くの芸人たちの思いを代弁するように訴えていた。 「タカさんが生きてるうちに、聞かなきゃいけないことがいっぱいある! まだ死なないでください!」 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから
ゾクゾクするほど美しい……業の深さが浮き上がる『ゴーストライター』中谷美紀の2つの「顔」
「私たちは共犯者ね」と、カリスマ作家・遠野リサ(中谷美紀)はゴーストライターの川原由樹(水川あさみ)にささやく。 「望んでやっているわけではありません」 この時はまだ「遠野リサの代わりはいないけど、川原由樹の代わりはいくらでもいる」という立場だ。 「なんで(電話に)出ないの? 締め切りは明日よ」 次第に焦り始めるリサに、由樹が叫ぶ。 「だったら、先生が自分で書けばいいじゃないですか!」 「私たちは嘘をつき続けるしかないの」 リサは、なだめるようにささやく。 「いつまで世間を騙し続けるんですか?」 「いくら欲しいの?」 と訊くリサを睨みつけて、由樹は即答する。 「10億!」 そして、ついに由樹に土下座するリサ。 「お願いします……原稿を、ください」 これはドラマ『ゴーストライター』(フジテレビ系)の第4話予告である。わずか30秒のこの映像で、2人の立場が天から地へ大逆転するさまが克明に描かれている。 『ゴーストライター』はその名の通り、カリスマ的人気を誇る作家・遠野リサのゴーストライターを、若き才能あふれる作家志望のアシスタント・川原由樹が務めていくという物語である。このご時世にこのタイトル、明らかに佐村河内守氏と新垣隆氏の騒動に便乗した安易な企画じゃないか、と思わせる。しかも、ネット上の公式プロモーション企画では「あの新垣隆氏が語る『ゴーストライター』」などという動画まで配信されている。駄作のにおいがする。そう思わせる要素はいくつもあった。 だが、その先入観は第1話ですぐに覆された。 ドラマは土砂降りの中、2人が対峙するシーンから始まる。由樹を平手打ちするリサ。それに対し「私がいないと、なんにもできないくせに」と不敵に笑う由樹。つかみかかるリサ。「遠野リサはすべてを失った」と、リサのモノローグが挿入される。もみ合いながら、由樹に馬乗りになるリサ。「あなたに何が分かるのよ!」と激高し、由樹の顔面を叩き続ける。そして第1話の最後、同じシーンに戻る。今度は由樹がリサに馬乗りになる。そして吐き捨てるように言う。 「今日で遠野リサ先生のゴーストライターを辞めさせていただきます」 リサは由樹を見上げながら言う。「クビよ」 脚本は『僕の生きる道』、『僕と彼女と彼女の生きる道』『僕の歩く道』の「僕シリーズ3部作」などで知られる橋部敦子。こうしたセンセーショナルなシーンと併せて、それに至るプロセスを周到に描いていく。 発端は、そのシーンの2年あまり前だった。天才作家と呼ばれ、次々とベストセラーを生み出していたリサ。だが、認知症の母(江波杏子)との確執や、反抗期の息子(高杉真宙)の問題行動などで精神をすり減らし、過去の作品を超えられないというジレンマもあって、極度のスランプに陥っていた。そんな時にアシスタントとしてやってきたのが、作家志望の由樹だった。彼女にリサーチをやらせると、小説が書きやすいように資料をそろえてくる。その仕事ぶりに信頼を寄せていくリサ。やがて由樹はリサに認められたい一心で、原稿の案を書いてしまう。これは、秘書の美鈴(キムラ緑子)に咎められるが、リサは原稿案こそ採用しなかったものの、由樹を「その野心が好きよ」と、さらに認めていく。その一方でリサは、ますます書けなくなっていく。 最初はプロットだけだった。由樹に骨組みを書かせ、それにリサが肉付けする。そこまではまだギリギリ、アシスタントと作家の関係性だった。だが、次第に追い詰められ、そのすべてを由樹が書くようになっていってしまう。天才作家がゴーストライターと共犯関係になっていく過程、カリスマが堕ちていく姿が丁寧かつ飽きさせない展開の早さで描かれていくのだ。 目を見張るのは、リサ演じる中谷美紀の「顔」である。彼女のその「顔」が、物語に説得力を与えている。取材やトークショーなど対外的な“表”のシーンでは、カリスマ然とした美しい顔を見せる一方で、裏側のシーンでは苦悩し、深いシワが刻まれた顔をしている。そのシワが、業の深さをありありと見せつけるのだ。2つの「顔」のギャップに身震いしてしまう。醜くも美しい。 いや、中谷だけではない。彼女の母を演じる江波も、秘書のキムラも、そしてもちろんゴーストライターの水川も、このドラマに出てくる女性陣のほとんどは、業の深い顔をして画面に現れるのだ。 綿密な脚本、女優たちの「顔」を浮かび上がらせる演出、怒涛のような展開は、見る者を釘付けにする。 「私は遠野リサさんのゴーストライターです」 早くも第5話の、リサ原作の映画製作発表の場で告白した由樹。17日に放送する第6話の予告では、リサから由樹へ名誉毀損の訴状が送られたシーンが描かれている。 そして裁判が開かれる。まさに怒涛の展開だ。 「法は、嘘つきを裁けるのか」 というコピーが躍る中、法廷に入ってきた遠野リサ。 醜い真実と、美しいウソが交錯していくようだ。 「何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」 困惑し歪んだ顔の由樹を前に、リサは凛とした佇まいでそう宣誓する。その「顔」は、ゾクゾクするほど美しいのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『ゴーストライター』フジテレビ
幻想のいびつさを問いただす、野島伸司流『お兄ちゃん、ガチャ』という寓話
「ガチャ、ガチャ、お兄ちゃん ガチャ、ガチャ、お兄ちゃん♪」 ジャニーズJr.たちがキメキメで歌って踊っている。 「よりどりみどりで迷っちゃう お兄ちゃん、ガチャ~♪」 頭がおかしくなりそうだ。 これは、深夜ドラマ『お兄ちゃん、ガチャ』(日本テレビ系)のエンディングである。主演は『八重の桜』(NHK総合)や『Woman』(日本テレビ系)などの好演で「天才子役」と評される鈴木梨央と、ジャニーズJrの岸優太。 “理想のお兄ちゃん”をガチャコンで選ぶことができるという設定の「奇抜で、独創的で、ファンタジックで、胸キュン」なドラマだ。設定だけでかなり頭がオカシイ! この倒錯的な世界観を描く脚本は、なんとあの野島伸司である。 鈴木梨央演じる小学生の雫石ミコは、連載を打ち切られ荒れた生活を送る漫画家の母、「スナフキンになりたい」と家を出てしまった父、怠け者の姉、汚くて乱暴で言うことをきかない弟、そこら中落書きして最後は泣けばいいと思っている妹たち家族に家事全般を押し付けられ、うんざりした日々を送っている。 「優しいお兄ちゃんが欲しい。私には、なんでお兄ちゃんだけがいないのよ!」 そんな鬱屈した状況を変えるべく、人並みにメルヘンな生活を味わいたいと通い始めたバレエ教室で、「お兄ちゃんガチャ」の存在を知る。 そこは、とあるゲームセンター。「3階という名の地下1階」に「お兄ちゃん、ガチャ」はある。1回500メダル、貧乏人の雫石ミコにとっては大金だが、それでガチャを回せば、理想のお兄ちゃん候補が出てくるというのだ。「お兄ちゃん」にはA~Dまでのランクがあるが、当然ハズレもある。大半がハズレで、「ワッキー」(ペナルティ・ワッキー)や「タナカ」(アンガールズ・田中卓志)が出てきてしまうのだ。 ミコがガチャをするか迷っていると、バレエ教室で5人ものお兄ちゃん候補(演じるのはジャニーズJr.の面々)を引き連れていたお金持ちのお嬢様・蛇崩ナツコ(木内舞留)がやってくる。 お兄ちゃん候補を「キープ」するだけでも、1人1週間1000メダルが必要。しかも、その5人のお兄ちゃん候補は全員Aランク。何十万メダルも注ぎ込んで集めたのだ。ナツコは、あらためて10回引くという。何年かに一度しか出ないといわれているレアな「Sランク」お兄ちゃんを引くためだ。 そんな姿を見て、ミコは決心する。なけなしの500メダルをガチャに入れ、ガチャのハンドルを回した。 カプセルの中に詰まった丸い塊を、お風呂で一晩かけてふやかすと「お兄ちゃん」が誕生する。ワッキーやタナカが出ないことを祈って風呂場の扉を開けると、そこには後に「トイ」と名付けられる、不機嫌そうな男(岸優太)が立っていた。 「初めまして。私のお兄ちゃんになってくれますか?」 「ヤダね」 ミコがナツコのもとで見た「お兄ちゃん」たちは、「妹」に忠実だった。だが、トイは違う。自分の思ったまま、自分勝手な行動をするのだ。そしてほかの家族には優しい気遣いをしているように見えるのに、ミコにだけは終始冷たい。 しかし、このトイはレアな「Sランク」のお兄ちゃんなのだ。 「SはSでも、ドSのSじゃない!」 ミコはトイとともに、よりよい理想のお兄ちゃんを探し、再びガチャを回すのだ。 「ガチャを引く女子はお兄ちゃんに恋人以上を求めてる」と、お兄ちゃんガチャを開発した博士は言う。また、ナツコは「彼氏はいらないの?」と訊かれ、こう答えている。 「彼氏なんか私はいらない。素敵なお兄ちゃんさえいれば金輪際いらないの。だって所詮別れるでしょ? 彼氏なんて。結婚しても離婚なんていまどき普通だし。要するに、永遠なんて約束されてないわけ。その点、お兄ちゃんは永遠じゃない。彼氏なんて野蛮で不潔な存在と比較すること自体が、あなたがいやらしい心の持ち主だということ。私たちはプラトニックで十分ですから。大人なんか汚い、いやらしい。私はなりたくない。ずっとメルヘンの世界に生きていきたい」 彼女たちは「永遠の愛」を求める一方で、自分の理想と異なっていった時にそれを躊躇なく「捨てる」。その選択ができるのは自分たちだけ。相手には、常に自分の理想通りでいてほしい。そして、自分に優しくしてほしい。でなきゃ、あなたは「返品」だと。 それが、アイドルとアイドルファンの関係や、エンタテインメント業界の構図の寓意であることは明らかだ。野島伸司は、その一方通行的ないびつな関係を、そのままジャニーズのアイドルたちを使って、アイドルファンが見るであろうドラマで描くのだ。やはり、頭がオカシイ! けれど、そんな関係性はいまやアイドルとアイドルファンにとどまらない。現実の人間関係でも起こっていることだ。人はアイドルや「お兄ちゃん」、あるいは別の何かに理想を重ね、夢を見る。そして、その夢を拠りどころに生きている。どこかでそれが幻想であることを知りながら。 『お兄ちゃん、ガチャ』は幻想的な世界を徹底的に美しく、いびつに描くことで、そんな幻想を問いただしているのだ。 (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『お兄ちゃん、ガチャ』日本テレビ
これは真実なのか、虚構なのか?『山田孝之の東京都北区赤羽』であぶり出される「己」
いったい僕は、何を見ているんだろう? 『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)を見ていると、そんな疑問がどうしても湧いてくる。原作には清野とおるの漫画作品『東京都北区赤羽』『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』がクレジットされているし、これまでドラマ作品を放送してきた枠だし、「主演」は山田孝之だから、おそらくドラマなのだろう。だが、どう見ても、普通のドラマではない。なにしろ、原作漫画の作者であり、主人公であるはずの清野とおる本人がマスク姿で、なぜかミニチュアホースを連れて、主演の山田孝之と一緒に画面の中で普通にしゃべっているのだから。 『山田孝之の東京都北区赤羽』は、山田孝之の映画撮影風景から始まる。『己斬り』と題された時代映画である。監督は、『天然コケッコー』で報知映画賞最優秀監督賞を最年少で受賞した山下敦弘。山田演じる主人公が、一番の悪は自分だということに気づき、「死に様こそ生き様」と刀で自害するラストシーンを撮っている。しかし、山田は突然「作り物の刀では死ねない」と面倒くさいことを言いだし、撮影を止めてしまう。「刀(真剣)を用意してもらうか、タイトル・結末を変えるか」と。当然ながら、どちらも監督は受け入れることができず、撮影は中止してしまった。 その数週間後、山下のもとに山田から荷物が届けられた。それが『東京都北区赤羽』の単行本だ。山下を自宅に呼び出した山田は、その漫画を読んだかを確認すると、「感じなかったですか?」と山下を見据えて問う。「え、何が?」と戸惑う山下に、山田はこう言うのだ。 「ここに出てくる人たちって、すっごい人間らしいと思いませんか?」 「僕は今まで自分らしく生きないように生きてきたんですよ」 「自分らしい軸を作りたい」 ついては赤羽に住みたい、とまで言いだす山田。そして、軸を見つけるまでの過程を、山下監督に記録してほしいと請うのだ。 本作のジャンルを規定するならば、『東京都北区赤羽』をモチーフにしたモキュメンタリーということになるだろう。現実と虚構をないまぜにしながらドキュメンタリー風のドラマを作っていくジャンルである。 『山田孝之の東京都北区赤羽』が“連続ドキュメンタリードラマ”として放送されるに至った経緯を、山下とともに本作の監督にクレジットされている松江哲明はこう証言している。 「山下君から『松江君、助けて』と、ある日突然連絡がありました。そこで見せられたのは、赤羽での山田孝之を映した日常の映像素材。『2時間前後の映画にまとめてしまうのは、もったいない』と感じ、テレ東さんに相談したところ、なんと全12話の番組として放送していただくことになりました。僕はドキュメンタリー監督としての技術をぶち込み、何よりも北区民として恥ずかしくない作品を目指しました」(番組公式HPより) 実際に、山田は赤羽に移り住んで、そこでの日常を山下は撮り続けたという。 「今振り返って見てみるとあの時期はやはり相当参っていたのだなぁ、結構ヤバいところまで行ってしまってた」と本人も述懐する、「山田孝之の“崩壊”と“再生”の記録」だと山下は言う。 それらの証言すら、どこまでが真実で、どこからが虚構なのか分からない。ただ確かなのは、本作で山田が赤羽の地を訪れ、清野とおるをはじめとする、原作漫画に登場する赤羽の住民たちと交流をしていくということだ。今後は、親友の綾野剛や先輩のやべきょうすけ、大根仁監督、ミュージシャンの吉井和哉らも登場するという。もちろん“本人”役で、だ。 1話のラストでマスク姿の清野とおると赤羽で合流した山田は、亀ヶ池弁財天や“拝めないお稲荷様”作徳稲荷大明神が祀られているビル、清野が初めに暮らしたアパートなど漫画に登場するスポットに案内される。 「清野とおるのトキワ荘なわけですね」「友達いなかったですけどね」「こっから始まったわけですね。サクセスストーリーが」「サクセスはまだしてないですけど」などという乾いた会話をしながら、その日の最後にたどり着いたのは、「ナイトレストラン・マカロニ」。そこで山田孝之の歓迎会を開いてくれるという。 集まったのは、居酒屋「ちから」のマスターや悦子ママ、堅気の人とは思えないコワモテのジョージさんなど、原作漫画に登場する名物キャラたち。もちろん、役者ではなく本物の赤羽の住民たちだ。 彼らの“圧”に押され、山田が渋々、THE YELLOW MONKEYの「カナリヤ」を歌ったり、ダジャレや下ネタが飛び交う、いかにも「赤羽」というムードの宴をカメラは映し続ける。 そしてその宴会の最後、山田は自分が赤羽に住みたいと思った経緯を説明しながら、締めの挨拶をする。 「赤羽に住んで、みなさんのように己を持って生きていきたい」 その挨拶に拍手が起こる中、ひとりジョージさんだけは、もともとコワモテの顔がさらにこわばっていた。 「おいらよ、悪いけどお前の最後の話で、今、拍手も握手する気もないよな」 山田を隣に座らせたジョージさんは、静かに怒りをぶつける。 「赤羽の人たちをなめてねえか?」 清野がフォローしようと慌てて口を挟む中、「素直に生きれるように赤羽で挑戦したい」とあらためて説明する山田に「挑戦したいなんて思ってること自体がおかしい」とジョージさんは突っぱねる。 「お前にその気があるんだったら、普通に生活すれば素直になるんだよ!」 そんなジョージさんの説教に、虚空を見つめる山田というカットで第2話が終わるのだ。 どこまでが台本なのか、まったく分からない。ドラマなのか、ドキュメンタリーなのか、もはやそんなことはどうでもいい。ジャンルなどという枠組みを解体し、すべてフラットにしてしまうのが「テレビ」だ。真実と嘘もないまぜにし、あらゆるジャンルを内包するのが「テレビ」なのだ。そうしてテレビはジャンルを超え、人間そのものの「己」をえぐりながら映し出す。それでもなお、あの虚空を見つめる山田孝之を見ると、もう一度問い返さずにはいられない。 いったい僕は、何を見ているんだろう? (文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>) ◆「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから『山田孝之の東京都北区赤羽』テレビ東京









