原作とは完全別物!? ディープすぎる『聖闘士星矢』派生マンガの世界

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『聖闘士星矢 1』(集英社)
『聖闘士星矢』が実写映画化される――先日、こんなニュースが世間を騒がせました。あらためて紹介するまでもありませんが、『聖闘士星矢(セイントセイヤ)』とは「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1985~90年まで連載されていた、車田正美先生による大ヒットマンガです。  リアルタイムで星矢を読んでいた、僕と同じぐらいの世代の皆さんの中には、30年の時を経て、なぜいま実写化なのか? と思う方も多いかもしれませんが、実は『聖闘士星矢』はスピンオフ作品によって、今もなお大変アツい状況なのです。今回は、そんな『聖闘士星矢』スピンオフマンガの世界をご紹介しましょう。 『聖闘士星矢』はギリシア神話をモチーフとした格闘マンガで、聖闘士(セイント)と呼ばれる少年たちが、星座を冠した聖衣(クロス)という鎧を身にまとって闘います。聖闘士には青銅聖闘士(ブロンズセイント)、白銀聖闘士(シルバーセイント)、黄金聖闘士(ゴールドセイント)という階級があり、主人公のペガサス星矢やその仲間であるドラゴン紫龍、キグナス氷河、アンドロメダ瞬たちは、最下層の青銅聖闘士でありながら、友情・努力・勝利というジャンプ的ご都合主義を武器に、本来は絶対にかなわないはずの白銀聖闘士、黄金聖闘士を打ち倒していくのです。  作品中で一番の人気コンテンツといえるのが、12星座を冠した黄金聖闘士たち。全員が最強レベルの戦闘力を持つというのもさることながら、どいつもこいつもキャラのクセが強すぎるのが魅力です。蟹座はクズ野郎だし、魚座はオカマ野郎だし、牡牛座はデブだし、天秤座はジジイだし、双子座は二重人格だし……とにかく個性の宝庫。聖闘士星矢ブーム全盛期の頃、黄金聖闘士のキャラを自分の星座になぞらえるのがはやったため、蟹座や魚座の人は非常に肩身が狭かったのです。ちなみに僕は魚座ですが、3月生まれの自分をこれほど呪ったことはありませんでした。  そんな一世を風靡した聖闘士星矢のスピンオフマンガですが、現在これだけの作品が出ています。 『聖闘士星矢 EPISODE.G』『聖闘士星矢 EPISODE.G アサシン』『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話 外伝』『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』『聖闘士星矢 セインティア翔』『聖闘士星矢Ω』  いかがでしょう? 皆さんの想像以上の作品数ではないでしょうか。しかも、これらの作品の多くが長期連載となっているのです。すごいことですね。  ちなみに派生作品のほとんどは車田先生の作画ではない上に、やたらと黄金聖闘士推しなのが特徴です。タイトルに冠されている星矢に関しては、ほぼ脇役扱い、白銀聖闘士に至っては完全に空気です。  というわけで、スピンオフ作品の中で特に読んでおくべき作品をピックアップしてご紹介しましょう。 ■『聖闘士星矢 EPISODE.G』(原作:車田正美 作画:岡田芽武)
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『聖闘士星矢EPISODE.G 1』(秋田書店)
 聖闘士星矢スピンオフマンガの元祖にして、ちょっとスピンさせすぎだろという仕上がりなのがこの『エピG』です。  Gとはもちろん、みんな大好き黄金聖闘士(ゴールドセイント)のG。黄金聖闘士・獅子座のアイオリアが主人公の作品なのですが、そういった設定以前に画が原作とは完全に別物になっているのがツッコミどころです。典型的少年マンガな車田画の原作に対して『エピG』では、目のパーツが顔の半分を占め、体が枝のようにひょろひょろのガリもやしな聖闘士ばかりです。正直、最初は違和感しかないのですが、これに慣れるとクセになってきます。 ■聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話(原作:車田正美 作画:手代木史織)
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『聖闘士星矢THE LOST CANVAS冥王神話 1』(秋田書店)
『THE LOST CANVAS~』(通称LC)も少女マンガタッチのため車田先生の画の雰囲気とは違いますが、『エピG』ほどの強烈な違和感はなくマイルドで安心して読むことができます。落ち着いて読める、星矢スピンオフマンガといえましょう。  ストーリーはやはり黄金聖闘士がメインですが、原作より243年も昔の前世代の聖闘士たちが活躍する作品となっています。聖闘士は歌舞伎役者の襲名制のごとく、星座ごとに世代交代が行われるのです。例えば魚座のオカマ野郎・アフロディーテの前にもちゃんと先代、先々代の魚座の聖闘士がいて代々受け継がれてきたのです。三代目 J Soul Brothersみたいな感じでしょうか(微妙に違う?)。  ちなみに、よく似たタイトルの『聖闘士星矢 NEXT DIMENSION 冥王神話』(通称ND)という作品があるのですが、こちらは本家の車田先生が描いている正真正銘の星矢続編マンガのため、違和感は限りなくゼロです。当たり前ですが、やっぱり星矢には車田画が一番フィットします。 ■『聖闘士星矢 セインティア翔』(原作:車田正美 作画:久織ちまき)
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『聖闘士星矢セインティア翔 1』(秋田書店)
 元来、聖闘士は女人禁制、もし女子が聖闘士になるのであれば、仮面をかぶり、女であることを捨てなければならないという厳しい掟があります。原作では、魔鈴さんとかシャイナさんといった仮面をかぶった女聖闘士が悲劇のヒロインとして扱われていました。  しかし、このルールには例外がありましてな……というまさかの後付け設定により、顔出しした美少女聖闘士「聖闘少女(セインティア)」が大活躍するマンガが爆誕! セーラームーンのようなノリで楽しめます。 ■『聖闘士星矢 EPISODE.G アサシン』(原作:車田正美 作画:岡田芽武)
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『聖闘士星矢EPISODE.Gアサシン 1』(秋田書店)
 タイトルの通り、スピンオフ作品である『エピG』をさらにスピンオフさせて、もはやハンドスピナーみたいな回転力を誇る続編がこの『エピGアサシン』。前作をはるかに上回る超ヤバイ画で、最も異形の聖闘士星矢派生作品となっています。  画はとにかく過剰なまでにキラキラしています。豪華・全ページフルカラーでキラッキラ。キラキラしすぎて、読むのにブルーライトカット眼鏡が必要なレベルです。そして、設定がやたらと現代的。  バトルする場所が新宿西口の地下駐車場や池袋のサンシャイン近辺で、もはやギリシア感はゼロ。かつて活躍した聖闘士達は小宇宙(コスモ)が燃え尽きてしまったらしく、アンドロメダ瞬は練馬で医者やってるし、キグナス氷河は墨田区の飲み屋でバーテンをやっています。星矢は赤いパーカーのフードをかぶったメンタル病みまくりの兄ちゃんだし、「先生が来てくれるなンてッ!!」とか小池一夫風のセリフ回しまで出てくるし……。タイトルでは星矢のスピンオフ作品だとわかっていても、脳がしばらくそうだと認識できません。 ***  というわけで、ディープすぎる聖闘士星矢スピンオフ作品の世界をご紹介しました。かつて「ジャンプ」で『聖闘士星矢』を愛読していた皆さんも、当時を思い出しながら、星矢が今どれだけ進化しているか確かめてみてはいかがでしょうか?  そして、どうせ星矢スピンオフ作品に手を出すなら、スピンオフの究極系である『聖闘士星矢 EPISODE.G アサシン』まで、ぜひ読んでみてください。別物すぎて腰を抜かしますよ。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

北朝鮮の星矢ヲタ再び! 『聖闘士星矢』実写化に「すごく期待してます」

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『聖闘士星矢30周年記念画集 聖域-SANCTUARY-』(宝島社)
『聖闘士星矢』のハリウッド実写化が発表されました。Yahoo!ニュースのトップでも取り上げられるほど、注目を集めているようです。  実写化については昨年からファンの間では、話題になることもありましたが、まさか実現するとは……。漫画の実写化は日本ですらファンを満足させることが難しいのに、ハリウッドとなると不安以外の要素が見当たらないというのが正直なところです。案の定、困惑が広がっています。    そこで、昨年本コラムで取り上げた(参照記事)北朝鮮の星矢ファン・趙さん(東アジア滞在中)は、このニュースをどう見たのか!? さっそく連絡を取ってみました。 *** ――お久しぶりです。『聖闘士星矢』のハリウッド実写化が決まりましたね。これについて、どう思いますか? 「ものすごく期待していますよ! もう期待しかないでしょう」 ――えっ、本当ですか? 日本では、どちらかといえば不安 が広がっているようですが……。 「僕、楽観的すぎますかね?」 —――具体的に、何を期待しているんですか? 「配役からラストシーンの美術効果まで、全部ですよ! とても挑戦的な着想だと思いますよ」 ――確かに、聖衣などはちゃんと作ってほしいと思いますが、世界観が壊れないか不安です。同じく『ドラボンボール』が実写化された際には 、かなりのファンが失望していたのは事実ですから。 「世界観って、実写化したからといって、そんなにたやすく壊れるものですかね? CG技術が補ってくれると、僕は思っているんですが。『ドラゴンボール』が失敗したのは、投資額が少なかったからではないですか?」 ――資金さえうまく集まれば、成功すると? 「基本ですよ、やっぱり。CGは 、お金がかかりますから」 ――実は、過去に日本でも『星矢』舞台化しているんですよ。SMAPというトップアイドルグループが演じたことで話題になったのですが(写真を見せる)。 「誰が何役を演じているのかわかりませんね、これは(笑)」 ――中央の右側が星矢です。 「(笑)」 ――実写化するということは、こういうことなんです。 「だからこそ、ますます期待できるじゃないですか! 過去の失敗だけで、未来を否定することはできませんよ。ところで、日本のファンは『聖闘士星矢Legend of Sanctuary』(2014年公開のフルCG映画)についてはどう思っているんですか? 僕、中国でちょくちょく見るんですけど」 ――これは評価が分かれましたね。おおまかには、「もはや別の作品として見るべきだ」という声と、「これはこれで良いんじゃないか」という声の2つ でした。ただ、CGを駆使しても、実写版がこうなるかどうかはわかりませんね。 「そうですね(笑)」 ***  短いやりとりしかできませんでしたが、日本のファンと違って、純粋に期待している様子でした。  何よりも「過去の失敗で、未来を否定することはできない」という車田 マインドを体現するかのような発言は、星矢ファンとして大切なものを思い出させてくれました 。  余談ではありますが、先日、某脚本家と話していたら「展開が強引な車田作品は、ボリウッドにこそ適している」という話になりました。  たとえば『リングにかけろ』 で主人公がギャラクティカ・マグナムを放つと背景に宇宙空間が広がり、次のシーンで対戦相手が体育館の天井を突き破るといった車田作品特有のジェットコースター感を表現するには、ボリウッドが適していると。確かに、ボリウッドメイキング版なら、しっくりくるかもしれません。    ともかく、実写版が成功してくれることを、私もファンのひとりとして願っております!  ●やす・やどろく ライター、編集者。都内大学院の心理学部在籍中。元朝鮮青年同盟中央委員。政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様の観察に主眼を置く。しばしば3重スパイ扱いされるのが悩み。日朝和平、北朝鮮のGDP向上、南北平和統一を願う一市民。ペンネームは実家が経営していたラブホテルの屋号(※とっくに倒産)。<http://blog.livedoor.jp/yasgreen/>

中国人ならソッコー裏切る!? 『聖闘士星矢』が描く「絆」の本質とは?

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『聖闘士星矢 冥王 ハーデス十二宮編 よみがえりし黄金聖闘士たちの神話 前編』(バンダイビジュアル)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。僕が親日家になったきっかけは、幼少時に日本のアニメに興味を持ったことです。現在、日本のアニメは世界中で評判を呼んでいます。こうしたアニメから垣間見える日本文化の神髄を、中国人目線で分析していきたいと思います。 ■中国でも大人気だった『聖闘士星矢』  車田正美原作の『聖闘士星矢』(集英社)は、「聖衣」(クロス)と呼ばれる甲冑をまとった少年たちが闘いを繰り広げる漫画です。日本では1986年からテレビアニメ版が放送されましたが、中国では放送権の問題や政府の検閲などが重なり、6年後の92年から放送開始しました。当時、中国のとあるテレビ局は毎週18時半に「630アニメ」という放送枠を設けており、その枠で放送されたアニメはたいてい国民的人気を博していました。そして『聖闘士星矢』もご多分に漏れず、中国中の子どもたちが夢中になったのです。  当時小学生だった僕もその中の一人で、食事時に夢中でテレビを見ていたので、母親にたびたび叱られました。クラスの男子で『聖闘士星矢』を見ていない者はみんなの輪に入れないほどで、さらに本来は男子向けの内容であるにもかかわらず、女子のファンも多くいました。僕が幼稚園児の頃はアメリカのディズニーアニメのファンだったのですが、『聖闘士星矢』のほうが、はるかに完成度が高かったこと、同じ東洋の国の作品であるためか、共感できる面が多く、一気に気持ちがなびきました。『聖闘士星矢』の影響から、僕と同世代の中国人は親日感情が強い傾向があります。 『聖闘士星矢』には、日本独自の文化や思想が感じられます。まず、ヒロインの城戸沙織は女神・アテナの化身という設定ですが、「神が現世に現れる」というアイデアは、「神の子孫」とされる天皇が存在する日本の作品だからこそ生まれたものだと、訪日後に気づきました。  作中では「小宇宙」(コスモ)と呼ばれる潜在的エネルギーが存在し、登場人物はこの力を使用して超人的な能力を発揮します。これは共産主義による無神論がはびこり、科学で説明できないものは認めない現在の中国出身の作家には思いつかない設定です。ただ、荒唐無稽なものかというとそんなことはなく、現実の人間は危機が訪れた際、限界以上の能力を発揮することがあります。この描写は『聖闘士星矢』と同じ「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された『キン肉マン』でも「火事場のクソ力」と呼ばれて表現されています。  また、『聖闘士星矢』における一部登場人物は「第七感」(セブンセンシズ)と呼ばれる能力を持ち、あらかじめ危機を察知することが可能です。これも仮に中国の漫画編集部でこうした設定を提案したら、非現実的だとして却下されるでしょうが、「第六感」「女の勘」などと呼ばれる不安察知能力は現実に存在します。アニメ『ガンダム』シリーズにも「ニュータイプ能力」という第七感と類似した設定がありますね。 ■天皇が結ぶ日本の絆 『聖闘士星矢』の物語は複数の章に分かれているのですが、僕が一番好きなのは「黄金聖闘士十二宮編」です。この章では家族、仲間との「絆」がテーマになっていますが、個人主義的な考えが強い中国では、絆という概念は希薄です。そのため、中国人が組織を結成すると、たいてい裏切り者や二重スパイが発生します。民主化活動が中国全土に広まっていかないのは、そのためです。  しかし、日本の漫画やアニメ、ドラマや映画には、家族や仲間のために命を投げ出すシーンが頻繁に登場します。大半の中国人には理解できない傾向ですが、日本人が絆を大切にするのは、やはり天皇の存在が大きいと思います。拙著『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)にも記したのですが、当初、僕は、日本社会は天皇を頂点とするピラミッド型社会だと思っていました。しかし、実際の日本社会は球体のような構造で、中心に天皇が存在し、「引力」を発生させています。それにより、人々は見えない「糸」のようなもので結ばれているのです。日本社会が強い共同意識を持ち、犯罪発生率が低いのは、天皇がおられるためです。  来日後、『聖闘士星矢』日本語版の名シーンを鑑賞しましたが、日本の声優陣の演技力の高さに感心すると同時に、中国の声優の演技レベルが低かったことがわかり、思わず失笑してしまいました。中国では子ども向けと揶揄されるアニメですが、日本産アニメには、大人の鑑賞に堪える高度な作品が多く存在します。  こうした感じで、次回も日本産アニメを通して僕なりに日本文化を読み解いてみたいと思います。
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

中国人ならソッコー裏切る!? 『聖闘士星矢』が描く「絆」の本質とは?

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『聖闘士星矢 冥王 ハーデス十二宮編 よみがえりし黄金聖闘士たちの神話 前編』(バンダイビジュアル)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。僕が親日家になったきっかけは、幼少時に日本のアニメに興味を持ったことです。現在、日本のアニメは世界中で評判を呼んでいます。こうしたアニメから垣間見える日本文化の神髄を、中国人目線で分析していきたいと思います。 ■中国でも大人気だった『聖闘士星矢』  車田正美原作の『聖闘士星矢』(集英社)は、「聖衣」(クロス)と呼ばれる甲冑をまとった少年たちが闘いを繰り広げる漫画です。日本では1986年からテレビアニメ版が放送されましたが、中国では放送権の問題や政府の検閲などが重なり、6年後の92年から放送開始しました。当時、中国のとあるテレビ局は毎週18時半に「630アニメ」という放送枠を設けており、その枠で放送されたアニメはたいてい国民的人気を博していました。そして『聖闘士星矢』もご多分に漏れず、中国中の子どもたちが夢中になったのです。  当時小学生だった僕もその中の一人で、食事時に夢中でテレビを見ていたので、母親にたびたび叱られました。クラスの男子で『聖闘士星矢』を見ていない者はみんなの輪に入れないほどで、さらに本来は男子向けの内容であるにもかかわらず、女子のファンも多くいました。僕が幼稚園児の頃はアメリカのディズニーアニメのファンだったのですが、『聖闘士星矢』のほうが、はるかに完成度が高かったこと、同じ東洋の国の作品であるためか、共感できる面が多く、一気に気持ちがなびきました。『聖闘士星矢』の影響から、僕と同世代の中国人は親日感情が強い傾向があります。 『聖闘士星矢』には、日本独自の文化や思想が感じられます。まず、ヒロインの城戸沙織は女神・アテナの化身という設定ですが、「神が現世に現れる」というアイデアは、「神の子孫」とされる天皇が存在する日本の作品だからこそ生まれたものだと、訪日後に気づきました。  作中では「小宇宙」(コスモ)と呼ばれる潜在的エネルギーが存在し、登場人物はこの力を使用して超人的な能力を発揮します。これは共産主義による無神論がはびこり、科学で説明できないものは認めない現在の中国出身の作家には思いつかない設定です。ただ、荒唐無稽なものかというとそんなことはなく、現実の人間は危機が訪れた際、限界以上の能力を発揮することがあります。この描写は『聖闘士星矢』と同じ「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された『キン肉マン』でも「火事場のクソ力」と呼ばれて表現されています。  また、『聖闘士星矢』における一部登場人物は「第七感」(セブンセンシズ)と呼ばれる能力を持ち、あらかじめ危機を察知することが可能です。これも仮に中国の漫画編集部でこうした設定を提案したら、非現実的だとして却下されるでしょうが、「第六感」「女の勘」などと呼ばれる不安察知能力は現実に存在します。アニメ『ガンダム』シリーズにも「ニュータイプ能力」という第七感と類似した設定がありますね。 ■天皇が結ぶ日本の絆 『聖闘士星矢』の物語は複数の章に分かれているのですが、僕が一番好きなのは「黄金聖闘士十二宮編」です。この章では家族、仲間との「絆」がテーマになっていますが、個人主義的な考えが強い中国では、絆という概念は希薄です。そのため、中国人が組織を結成すると、たいてい裏切り者や二重スパイが発生します。民主化活動が中国全土に広まっていかないのは、そのためです。  しかし、日本の漫画やアニメ、ドラマや映画には、家族や仲間のために命を投げ出すシーンが頻繁に登場します。大半の中国人には理解できない傾向ですが、日本人が絆を大切にするのは、やはり天皇の存在が大きいと思います。拙著『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)にも記したのですが、当初、僕は、日本社会は天皇を頂点とするピラミッド型社会だと思っていました。しかし、実際の日本社会は球体のような構造で、中心に天皇が存在し、「引力」を発生させています。それにより、人々は見えない「糸」のようなもので結ばれているのです。日本社会が強い共同意識を持ち、犯罪発生率が低いのは、天皇がおられるためです。  来日後、『聖闘士星矢』日本語版の名シーンを鑑賞しましたが、日本の声優陣の演技力の高さに感心すると同時に、中国の声優の演技レベルが低かったことがわかり、思わず失笑してしまいました。中国では子ども向けと揶揄されるアニメですが、日本産アニメには、大人の鑑賞に堪える高度な作品が多く存在します。  こうした感じで、次回も日本産アニメを通して僕なりに日本文化を読み解いてみたいと思います。
中国人ならソッコー裏切る!? 『聖闘士星矢』が描く「絆」の本質とは?の画像2
●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

北朝鮮の『聖闘士星矢』ヲタに会ってきた!(後編)

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ノリノリで、乙女座シャカのポーズをしてくれた趙さん。その横でスカーレットニードル(蠍座の必殺技)を決める蠍座の安宿(諸事情により背景加工)
■前編はこちらから)  こんにちは。前回に引き続き、北朝鮮の聖闘士星矢ヲタとの対談です。日頃より、『聖闘士星矢』ファンであることを公言している私。拙書『実録・北の三叉路』(双葉社)のあとがきでも書いた通り、北朝鮮にも『聖闘士星矢』ファンがいるという情報を聞き、一度深く語り合ってみたいと思っていたのですが、このたびついに対面が実現しました。  面会時間が限られていたため、込み入った話はできませんでしたが、後編は北朝鮮の政治体制と思想と絡めて、やや真面目な内容となっております。  表現や言い回しなどは、趙さんの言葉になるべく忠実に再現しました。日本語として不自然な部分もあるかと思いますが、趙さんの熱い思いが伝わればと思います。ファン以外には理解できない表現が多々あり、また趙さん独自の解釈もありますが、何卒ご了承ください。 ――ところで、『聖闘士星矢』のように、力によって力を制することは、世界における核抑止力の論理と通じませんか? 趙さん 星矢たちの技は、核兵器には及ばないですよ。(双子座の必殺技ギャラクシアンエクスプロージョンは、銀河の星々を砕く技といわれていますが?)いやいや、比喩に決まってるじゃないですか(笑)。  構図としては同じであろうと、それはセンシティブな問題ですから、別枠で話さないと。複雑な話になりますよ、これは。よく「スーパーマンは善か悪か」という問題が論議されますが、ある個人が地球を破壊するほどの力を持ったとき、善悪にかかわらず、それは存在する価値がないといわれます。ただひとつ言えるのは、わが国が核を保有するのは、自衛のためということです。 ――私は、『星矢』には現在の世界の縮図が描かれていると思っています。敵、味方それぞれの正義があり、勝者が少なからず正義を“証明した”と見なされるのは、戦争と同じではないですか? 趙さん 僕は、そうは思いません。戦いにおいても、ちゃんと対話の過程があるし、主人公が属する女神アテナの力は春の日のように「アタタカイ」(日本語で)。絶望の淵に落ちた時に、勇気を与えてくれる力です。一方、敵側は冷たく恨みや憎しみに満ちていて、ポジショニングをするためだけの力です。  僕は当初、主人公のペガサス星矢が嫌いだったんですよ、弱いから。主人公のくせにやられてばかりで、“なんだコイツは?”と思っていたんですが、ピンチになったとき、常に女神や仲間たちから温かい愛の力が流れ込んでくることによって勝利する。ここが、この作品の見どころなんですよね。 ――主人公が、決して最強ではないところがポイントであると? 趙さん はい。『ドラゴンボール』もそうですけど、多くの少年漫画は、主人公が宇宙一の戦士になることが最終目的ですよね。でも、『星矢』だけは、主人公が最強であるという描写は最後まで出てきません。ほかの作品のセオリーでいくならば、あの5人(主人公を取り巻く青銅聖闘士)の中ではフェニックス一輝が一番強いのだから、最終局面では彼が出ていかなきゃいけないはず。一輝は、乙女座シャカも認めた男ですから。しかし、一番背も小さくて幼い星矢に、みんなが加勢するんです。個人の力に頼らず、人類または仲間が力を合わせる団結力と自己犠牲の尊さを教えてくれている。同じく、ドラゴン紫龍も自分の目を潰してまで仲間のために戦う。これは、のちの日本の少年漫画に大きな影響を与えたのではないかと思います。 ――そんな趙さんが推してる乙女座シャカですが、自己犠牲の精神がまったく感じられませんよね。原作でも、「弱者への慈悲がない」と、自分で認めていますけど。 趙さん でも、シャカはむやみに敵を殺したりしないでしょ! 彼はちゃんと仏教を体現していたから、それでいい。余談ですが、無抵抗を貫いたキング牧師やガンジーも、仏教でいうところの菩薩の愛に近いものがある。イスラム教やキリスト教は服従させるだけの力ですからね(この後、延々と西洋文明批判が続く)。 ――私はもちろん、『星矢』は単に戦いだけでなく、思想信条の違いを乗り越えて団結する世界平和の理想形も描いていると思っていますが、黄金聖闘士が、まさしくそれを表していますよね。 趙さん 確かに、黄金聖闘士はそれぞれプライドが高くて、力を合わせて何かをしたことは最後の場面以外、一度もありませんよね。でも、中国のブロガーが「黄金聖闘士が団結したのはたったの一度だけだが、そのせいで全滅した。つまり、団結とは死を意味するのだ」と書いていて、「なるほど!」と思いましたね(笑)。それも一理あるなと。 ――そんな黄金聖闘士が久々に復活したスピンオフ『聖闘士星 矢黄金魂』は、ファンにはとてもうれしい作品でしたね。しかし、最後には黄金聖闘士たちは復活することなく、死後の世界に戻っていきました。わかってはいても、やはり残念に思うファンは多いです。 趙さん 僕は、実はそれほど悲しいことだと思っていないんですよ。タイトルに「魂」と打ち出していることがポイントです。重要なのは生き残ることや、肉体や物質として存在することではないんです。魂をもって、ナすべきことをするという一点に尊さがある。しかし、『黄金魂』は寄りの絵はキレイだったのに、引きの絵がどうしようもなかったですね。 ――さすが、よく見ておられますね。その件は日本のファンの中でも言われていまして、「制作費の問題では?」という説が挙がっています。 趙さん なるほど、お金がないとクオリティが落ちるのは万国共通ですよね。 ――北朝鮮の思想である「主体思想」に、人間には社会的生命と肉体的生命の2つの命が存在するという考え方がありますが、霊魂という概念についても認めているのですか? 趙さん もちろん、われわれの言う霊魂とは、オカルト的な意味ではありません。人々の客観的な記憶に残るという点では霊魂と社会的生命は共通しますが、この2つはまったく違います。社会的生命は主に社会的役割を意味しますが、霊魂はときに肉体的生命よりも重要になり得ます。霊魂は意識の中にしか存在しませんが、重要でなければ、なぜ肉体的生命を操る源になれるのでしょうか?   ――それは物質的価値観と、どう関連するのでしょうか? 趙さん 肉体が死ねば個人の意識や記憶は消えますが、誰かが記憶にとどめてくれるし、その中で新たな霊魂として存在できる。自分を記憶する誰かが死に絶えたとしても、どうせ皆等しく死ぬのですから、寂しくありません。そして、霊魂の感じるものを、一瞬一瞬大事にするということです。われわれは、資本主義社会の人々より、持ち物も写真も少ない。だからこそ、生きているうちに意識に焼き付ける一つひとつのものが大切なんです。 ――もし北朝鮮で日本のアニメが解禁された場合、『星矢』が受け入れられる可能性はあるでしょうか? 趙さん 人それぞれでしょうけど、いま『星矢』を見ても、理解できる人民は少ないと思います。大ざっぱに言うと、特に舶来のものに対する受け止め方を共有するには、経済が平均的に底上げされる必要があると思います。それは、どの国でも同じだと思いますが……。 ――最近の日本のアニメで、知っているものはありますか? 趙さん 友達の影響で『東京喰種(トーキョーグール)』を見ました。テーマは複雑だけど、世界観は単純ですね。人間と、人間を食らう側で、もう設定が明らかですよね。 ――『東京喰種』は体を食うことで魂も食らうという、宗教的カニバリズムが根底にあるといわれています。単純な食欲のほかに、愛するがゆえに食らうという。 趙さん いずれにしろ、結局食うじゃないですか。カニバリズムの世界になると思うと、単純にぞっとしますけどね。 筆者の同行者 作品表現として、刺激があっていいのでは? 趙さん 刺激って(笑)。今の若い人は、刺激が好きなんですか? 刺激の何がいいのかわかりません。僕は、静かに音楽を聴いて過ごすのが好きですけど。   筆者の同行者 仏教は動物的本能や欲求から離脱していく過程といえますし、カニバリズムもまた動物的な欲求のひとつです。ベクトル的には、仏教と似ていませんか? 趙さん いやいや(笑)。過程が同じだからといって、結果も同じとは限らないし。その逆もしかりですよ。まあ、時間があったら研究してみましょう。ただ『東京喰種』の作者も、『星矢』をはじめとする日本の昭和の漫画群を見て育ったと思いますので、自己犠牲の精神については影響を受けたと思っています。 ***  趙さんはほかにも、宮崎駿など日本のアニメ界の重鎮やアニメーターの労働環境にも興味があるようでした。後日、仲介者づてに『聖闘士星矢30周年展』の写真を送ると、たいそう喜んでいました。 ●やす・やどろく ライター、編集者。元朝鮮青年同盟中央委員。政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様の観察に主眼を置く。しばしば3重スパイ扱いされるのが悩み。日朝和平、北朝鮮のGDP向上、南北平和統一を願う一市民。ペンネームは実家が経営していたラブホテルの屋号(※とっくに倒産)。<http://blog.livedoor.jp/yasgreen/>

北朝鮮の『聖闘士星矢』ヲタに会ってきた!(前編)

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(c)車田正美先生/集英社・東映アニメーション
 みなさん、こんにちは。だいぶご無沙汰してしまいました。  日頃より、『聖闘士星矢』ファンであることを公言している私。拙書『実録・北の三叉路』(双葉社)のあとがきでも書いた通り、北朝鮮にも『聖闘士星矢』ファンがいるという情報を聞き、一度深く語り合ってみたいと思っていたのですが、このたびついに対面が実現しました。  6月18日からは秋葉原UDXで『聖闘士星矢生誕30周年記念展』も開催されるとあり、タイミングも最高! まさかファンが北朝鮮にまで存在するとは、原作者も東映アニメーションさんも想像もつかなかったでありましょう。  実は、北朝鮮人民のアニヲタというのは少ないながらもおりまして、海外勤務中に動画を目にしてファンになるというケースがあるようです。また13年ほど前、北朝鮮で『ドラゴンボール』が放映(吹き替え)されていたという証言もあります。年配の男女の声優2人が、すべてのキャラを演じ分けていたそうで……。
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 こちらが、アニヲタ北朝鮮代表(?)の趙さん(仮名 32歳)です。北朝鮮で生まれ育ち、兵役を経て、現在は仕事の関係で中国に滞在中(諸事情により、背景加工)。 「兵役時代は、暇ができたら日本語の勉強も時々していました。わが国は先軍政治といって、兵士が軍事だけでなく、さまざまな要所で社会奉仕活動を行うのですが、幹部の息子ばかりが平壌に配属される事例が相次いだんです。地方での任務は、都市より過酷な面が多いので。そこで将軍様が『そういう差別はしないように』とのお触れを出され、改善されたことがありましたね」(趙さん)  そんなバリバリの北朝鮮人民である趙さんが、以降アニヲタモードに切り替わり、ノンストップで日本のアニメと『聖闘士星矢』について語ってくれたのであります。  表現や言い回しなどは、趙さんの言葉になるべく忠実に再現しました。日本語として不自然な部分もあるかと思いますが、趙さんの熱い思いが伝わればと思います。ファン以外には理解できない表現が多々あり、また趙さん独自の解釈もありますが、何卒ご了承ください。 ――お会いできて光栄です。趙さんは日本のアニメがお好きだということで、お話を伺いにきました。特に聖闘士星矢がお好きだとか。 趙さん 日本のアニメは全部、中国で見ました。昔から国内外問わずアニメが好きだったんですが、僕は最近のものよりちょっと古いのが好きでして、『聖闘士星矢』もそのうちのひとつです。ギリシャ神話が好きで大学時代もよく研究していたので、『聖闘士星矢』には格別な思い入れがあります。何より、小宇宙(コスモ)という概念が、私にはしっくりきます。私も人体の中には小宇宙があると考えていて、それは中医学でいう「気」の概念と通ずるものがあります。 ――今日はお土産に、お好きだとおっしゃっていた乙女座のシャカの神聖衣フィギュアをお持ちしました。 趙さん うわー! うれしい! 中国ではフィギュアが売っていても、なぜかアンドロメダ瞬しか残ってないんですよ。乙女座のシャカはインド人なんですが、仏教をベースにした彼の技は本当に素晴らしい。中国語の吹き替えでは中国語で技の名前を言っているんですが、やはりオリジナルの日本語のほうがしっくりきます。シャカの技の「天舞宝輪」は、中国語の「ティエンムーパオリン」よりも「テンブホーリン」のほうが、かっこよく聞こえますよ。 ――この見た目でインド人って、おかしくないですか? 趙さん そんなこと言ったら、ほかのキャラだってそうでしょう! ――昨年出たスピンオフ『聖闘士星矢 黄金魂』も、ご覧になられたとか? 趙さん 黄金魂だけでなく、『THE LOST CANVAS 冥王神話』(※原作の前の時代を描いたスピンオフ。以下、LC)も見ましたよ。「黄金魂」では、シャカの出番があまりに少なかったと思います。しかし、原作での解釈がだいぶ発展、改善されたと思います。シャカは原作では洞察力がそれほどなく、教皇が偽物であることも見抜けず、たいして慈悲深くもないキャラクターでしたが、黄金魂ではようやく正しく描かれていました。対戦相手となった不死身の男が臨終の際、これまで虐げた者の痛みを一身に浴び苦悶するのですが、そこでシャカは彼の痛覚を剥奪することで死後の安寧を与える。これが、本来の慈悲深いシャカの姿です。 ――乙女座のシャカが大好きなんですね。 趙さん はい。日本でも12星座で誰が最強か、話したりしませんか? 僕としては、シャカが最強、これは譲れません。ほかの聖闘士は攻め一辺倒だけど、彼は攻防一体ですから。最弱? 最弱は牡牛座でしょう。牡牛座はLCでもそうだった。しかも、強い相手じゃなくて、雑魚に倒されてしまうじゃないですか。聖域十二宮編で倒された黄金聖闘士というのは結局、作者から見てそこまで重要なキャラクターではなかったんですよ。必要なキャラだけ残した。それだけです。 ――でも、性格が一番いいのは牡牛座じゃないですか? 趙さん 性格といっても、牡牛座は性格描写が豊富ではないじゃないですか。アイオリアのように、兄の件で苦労したというようなバックストーリーがないし。ファンがキャラクターについてイメージするのは自由ですが、ちょっと頭が回らないんじゃないかな、彼は……。まあ、ほかの聖闘士の道を切り開く礎にはなりましたね。恵体である点もいいと思いますし。性格が一番いいのは、牡羊座ムウだと思います。見た目もいい。あのシールを貼ったみたいなちょこんとした眉毛が、頭がよさそうに見えますよ。  人として仲良くなれないのは断然、蟹座デスマスク。彼はありえない。ただ、どうして彼が黄金聖闘士になれたのか興味が尽きない部分はありますし、黄金魂では改心したような描写もありますが、それでも他のキャラクターが魅力的なので霞んでしまいますね。 ――部門別に秀でている能力が違うから、一概には言えませんよ。パンチだけなら獅子座だし、パワーだけなら牡牛座だったり……。 趙さん いや、彼らは弱点があるでしょ。牡牛座アルデバランは居合い抜きをしたら隙ができてしまうし、獅子座アイオリアも光速拳が使えるけど、敵が光の速さを超えてきたら苦しいし、直線攻撃しかできないでしょ。しかし、シャカは四方八方に攻防一体の陣形を作るわけです。これを最強と言わないで、なんというのですか!?  ただ、アイオリアは後に出てきた漫画で、ひとりでアテナエクスクラメーション(※黄金聖闘士が三位一体で放つ禁じ手の最終奥義)をやったらしいじゃないですか(※LCにて、先代の獅子座レグルスが放ったゾディアックエクスクラメーションのことを言っていると思われる)?  え? それはアイオリアじゃないって? まあ、とにかく動画で見た時は、私はアイオリアだと思っていたので、全身鳥肌が立ちましたよ。僕はよく座禅を組んで瞑想するんですが、そのときに感じる高揚感と同じく、全身が震えてエネルギーがブワーっと吹き出して実に気分がよかった。そんなアニメは星矢だけです。『ドラゴンボール』も若干、その傾向がありますが、あれは大声を上げるのがどうも苦手で。「オアアアアアアアアー!」とか、1カ月くらい便秘してたのかと。 ――黄金聖闘士で誰が最強であるかは、星矢ファンの間で長年論争になっていますが、論争自体が無意味なのではないかと。一応、全員互角という設定になっていますし、勝敗が決まるのはジャンケンの組み合わせみたいなものですから。 趙さん 無意味ではありませんよ。なぜなら、黄金で誰が最強であるかは、論点や視点が無限にある。たとえば最近、中国で言われているのは、アテナエクスクラメーションで中央の人間が最強だという説。だって、原理としてはそうでなければならないでしょ。黄金魂では童虎でしたね。作家が考える最強の人物がセンターなんですよ、きっと。聖闘士星矢Ωでは紫龍がセンターだったし。 ――作家が、解釈の余地をファンに与えているということですね。 趙さん そうです! 読者にイマジネーションの余地を与えてくれたからこそ、こんなに長く世界的に人気が続いているんだと思います。私も、『星矢』のキャラクターと世界観に関しては時間が許す限り、ずっと語ることができますよ。たとえば魚座アフロディーテも、彼は同性愛的なものを暗示していると思います。顔は紛れもなく女だし、技も女っぽいのに体は男。あと、彼には愛する女性がいない。これは作者が、同性愛者を子どもに見せるにはあまりによろしくないから、あえてそこで留めておいたのだと思っています。 ――現在、原作者の車田正美先生は指の骨に問題があり、手術が必要な状態だということですが、あえて手術はせず描き続けたいとおっしゃっているようです。 趙さん それは素晴らしい、芸術家の鑑です。ただ、お体は心配です。 (後編に続く) ***  次回は、聖闘士星矢の世界観と北朝鮮の政治思想は相入れるのかについて語って頂きます。 ●やす・やどろく ライター、編集者。元朝鮮青年同盟中央委員。政治や民族問題に疲れ、その狭間にある人間模様の観察に主眼を置く。しばしば3重スパイ扱いされるのが悩み。日朝和平、北朝鮮のGDP向上、南北平和統一を願う一市民。ペンネームは実家が経営していたラブホテルの屋号(※とっくに倒産)。<http://blog.livedoor.jp/yasgreen/>