
アナログとデジタルの過渡期であった1980年代。WiiもPS3もなかったけれど、ジャンクでチープなおもちゃがあふれていた。足りない技術を想像力で補い、夢中になって集めた「キン消し」「ミニ四駆」「ビックリマンシール」......。懐かしいおもちゃたちの現在の姿を探る!
天使、お守り、悪魔の三勢力が織りなす壮大な神話的ストーリーを描いたシール入りチョコで、日本全土に一大ブームを巻き起こした「ビックリマンチョコ 悪魔VS天使シール」がロッテから発売されたのは1985年のこと。
シリーズ開始当初はそこまで大きな反響はなかった「悪魔VS天使シール」だが、魅力的なキャラクターと想像力をかきたてるシール裏面のテキストが全国の小学生に大いに受け、翌86年に大ブレイク。小学館の男児向け雑誌「コロコロコミック」とのタイアップも追い風となり、漫画・アニメ・ゲーム・おもちゃと次々とメディアミックス展開をした。
ブーム最盛期には、需要と供給のバランスが完全に崩壊し、「一度に買えるのは一人3個まで」というローカルルールや、プレミア度の高いキラキラシールが箱の特定の位置に出やすいなどの都市伝説。そしてシールだけを集める子どもや、パチモンの「ロッチシール」などの記事が新聞をにぎわせるなど、80年代後半の日本は“ビックリマンフィーバー”の真っただ中にあった。
今回はそんな「ビックリマンチョコ 悪魔VS天使シール」の原点と今の姿を追いかけてみよう。
■ビックリマン誕生から大ブレイクまで
最初に気をつけておきたいのは、「ビックリマンチョコ 悪魔VS天使シール」は、2010年に登場した 23代目ビックリマンチョコ「漢熟覇王」まで続く、あまたの「ビックリマンチョコ」の中の10代目に当たるタイトルだという点だ。ということで、まずは「悪魔VS天使シール」に至るまでのビックリマンチョコの歴史を紐解いてみよう。

初代「ビックリマンチョコ どっきりシール」が誕生したのは1977年のこと。それ以前、ロッテは「危険!」「おやつちょうだい!」などの一言コメントをコミカルなデザインでプリントしたシールをおまけにつけたチョコバー「はりはり仮面」を発売していた。
「次にロッテは、子どもたちに海外で流行しているウェハースチョコレートのお菓子を食べてほしいと考え、最初は一般的なウェハースチョコを売ろうと思っていました。しかし、ただウェハースチョコを出すのでは面白くないから、何かを加えようと考えた結果、『ビックリマンシール』が生まれました」(ロッテ商品開発部・大野友幸氏)
そして、「人をビックリさせたい、ドッキリさせたい」というコンセプトを元に、初代「ビックリマンチョコ」は「しょうゆの染み」「針を上にした画びょう」などの絵をリアルに描いた「どっきりシール」をおまけに採用。壁や机に貼れば、家族や友達が思わず二度見してしまうほどリアルなイラストのシールは大ヒットを記録した。
以降、赤塚不二夫、手塚治虫風のキャラクターが描かれた「まんギャシール」、風景写真とコミカルなイラストの組み合わせがシュールな笑いを誘う「特ダネシール」などが登場。一発ネタのインパクト重視なシールは、これまたいずれもヒット。
このように、さまざまなアプローチでユーザーを「ビックリ」させてきたビックリマンチョコだが、動物と物体の掛け合わせキャラが登場する8代目「まじゃりんこシール」、当時の流行やダジャレを元にしたキャラクターが登場する9代目「ギャグポスターシール」辺りから、キャラクター性を強めたシリーズが多くなっていく。
そして85年、ついに空前の大ヒットシリーズである10代目「悪魔VS天使シール」がスタートすることとなる。

時代はファミコン全盛期。『スーパーマリオ』に代表される個性的なビジュアルを強調し、アイコン化されたゲームキャラクターが人気を得るようになってきた時代だけあって、たった1枚で強烈なインパクトを残すシールは容易に子どもたちに受け入れられた。また、2枚、3枚とシールを集めていくことで、どんどん広がっていく奥深い世界観も、子どもたちの探究心を刺激。
シールをコレクションすることで、より悪魔と天使の抗争のドラマを堪能できるという物語性とコレクション性を兼ね備えた「悪魔VS天使シール」の新鮮な魅力に、全国の子どもたちは酔いしれた。
■年間4億食が売れた? 驚異のビックリマン伝説
とはいえ、「悪魔VS天使シール」が後に30年近くも熱烈なファンがつくようなヒット作になるとは、最初は誰も思ってはいなかったようで、事実、第2弾まではそこそこ売れていたものの、「次にヒットが出なかったら、もう終わりにしよう」とロッテ社内でも意見が交わされていたそうだ。
その流れが大きく変わったのは、第3弾が登場した頃だ。
それまで「スーパーゼウス」「シャーマンカーン」など、天使側のヘッド(各弾に1~2枚のレアシール)しか存在しなかったところに、敵対する悪魔側のヘッド「スーパーデビル」が登場。さらに悪魔側のリーダーとしての形態のほかに、天使側に潜入するために変装した「偽神」状態のシールも用意され、一層ドラマ性が強調されるようになる。
そのせいかは定かではないが、この第3弾が登場した頃から急激にビックリマンチョコの売り上げが上がり始めたそうだ。
その後、小学生男子のバイブル誌「コロコロコミック」(小学館)の強力なバックアップもあり、シールで描ききれない物語や設定を誌面で補完することにも成功。ビックリマンファンの必需品として、コロコロコミックはビックリマンチョコと足並みをそろえるようにヒット街道を驀進するようになる。

「シールの裏面には数行しかテキストが書けないから、どうやって世に広めようかと苦慮している時に『コロコロコミック』でストーリーをきちんと伝えるような態勢ができ、世界観をきちっとつくることができたおかげで、物語に深みを持たせることができました。ブーム最盛期の88年には、年間4億食が販売されました」(大野氏)
ロッテのヒット商品「ガーナミルクチョコ」が、年間1億食ということから、「ビックリマンチョコ」がいかに驚異的なヒット商品であったかが分かるだろう。
この大ヒットにもかかわらず、生産が追い付かず「購入は一人3個まで」のようなルールが各店舗でつくられたのは先述の通り。88年夏に発売された『コロコロコミックビックリマン臨時増刊号』は、20万部が即日完売となるという記録を樹立。その後、「悪魔VS天使シール」は91年の第31弾まで続くロングランシリーズとなる。
■シールもチョコも手を抜かないロッテのこだわり
そんな日本のお菓子史上最大級のヒット商品となった「ビックリマンチョコ 悪魔VS天使シール」だが、商品開発に対するロッテのこだわりぶりもほかのお菓子の追随を許さない。
各弾に天使、お守り、悪魔の三すくみを12組計36種類に加え、ヘッド数種類がベースとなる「悪魔VS天使シール」。それが31弾まで続くということで、実に1,000種類以上のキャラクターが生み出されていた計算になるが、それをおよそ2~3カ月ごとに発表。このペースだけでも驚きだが、当時はまだ今のようにパソコンでお手軽にイラストの修正もできない時代だ。それらすべてのキャラクターを手描きで仕上げ、手直しが行われる度に絵を描き直していたという。
また、大野氏によると、だいたい2弾ごとに新たな技術をシールに盛り込んでいたそうだ。中でもホログラムシールの美しさとプレミア度は出色で、今もマニアの間では高額で取引されるほど。2009年に発行された印刷業界の専門誌「デザインのひきだし」では、ホログラム、箔押し、疑似エンボス、2枚重ねシールなどの技術を活用した身近なシールとしてビックリマンシールが取り上げられるなど、今もなお印刷業界からも注目を集めている。
そして、チョコへのこだわりぶりにも注目したい。
当初はアーモンドやピーナッツをチョコに混ぜ込んでいたビックリマンチョコだが、現在の「ビックリマン伝説チョコ」はクッキークランチ入りチョコとなっている。
その理由は、「シリーズ初期は、当時の食事情を考慮して栄養価の高いナッツを入れていましたが、今は上品な味わいや食べ応えを追求してクランチを入れています」とのこと。
「シールとお菓子が一体となっているのが『ビックリマンチョコ』です。シールだけ欲しいというお客様もいるのですが、やはりお菓子メーカーとしての意地がありますので、どちらも楽しんでいただきたいと考えています」
大野氏は意気込んだ表情でこのように語る。
■2012年、待望の新シリーズ始動!
現在、「ビックリマン」は「悪魔VS天使シール」第1弾を復刻した「ビックリマン伝説チョコ」を2月から東日本で発売。そして4月24日より、販売地域を全国に拡大すると同時に、新シリーズ「聖魔化生伝」の販売をスタートする。

復刻版は当時よりもサイズアップ!
「2012年の今、つぎ込めるものを全部つぎ込んだ」という「ビックリマン伝説チョコ」は、伝説の「悪魔VS天使シール」の原点である第1弾を、ゴージャスなエンボスシールで復刻すると同時に、現在ユーザー数が120万人以上を数えるソーシャルゲーム版「ビックリマン」と連動するほか、「聖魔化生伝」に登場する新キャラクターのラフカットを収録したシールも封入している。
そして過去のシリーズと新シリーズを繋ぐような「ビックリマン伝説チョコ」を受けスタートする「聖魔化生伝」は、「悪魔VS天使シール」の前史に当たる内容になるそうだ。
「『悪魔VS天使シール』で活躍したキャラクターのルーツを持つキャラクターがたくさん出てきます。新鮮でありながら、過去のキャラクターとの繋がりを探すという楽しみもできるようになっています」
そう語る大野氏は、かつての「悪魔VS天使シール」がそうだったように、まずはお菓子としてコンスタントに展開することを目標に掲げているとも語る。
タイアップやメディア展開を前提とした商品開発が当たり前となったこの時代、あえて直球で勝負をかけてくるロッテに、「お菓子メーカーとしての意地」を感じるのは筆者だけではないはずだ。
再始動し始めた「ビックリマン」だが、将来的にはどんな展開を目指しているのだろうか?

新シリーズ「聖魔化生伝」の下絵。
「今は、かつてのシリーズを楽しんでくださった方に支えていただいている部分も大きい『ビックリマンチョコ』ですが、やはり『ビックリマンチョコ』は子どもたちに楽しんでもらうということがスタートだったので、いつかはそこに戻りたいという思いがあります。ですので、今の小学生にかつての私たちと同じように楽しんでもらえるものを、これからも目指していきたいと思います」(大野氏)
2012年に生誕35周年を迎えた「ビックリマンチョコ」は、今後も新たな「ビックリ」を子どもたちに提供するべくネタの仕込みに余念がないようだ。
ところで余談だが、ビックリマンチョコといえば「箱の奥から3~4個目くらいにキラシールが出やすい」という都市伝説があったが……。
「それは全く根拠のない都市伝説ですね。商品製造の工程上、狙った位置に特定のシールをパッケージすることはできないんです」
とは大野氏の弁。
これはビックリ。根拠のないウワサに全国の子どもたちは踊らされていたことが、これで証明されてしまったわけだ。それでもついつい奥の方からビックリマンチョコを取り出してしまう癖が抜けそうもないのは、筆者だけではないはずだ。
ちょっとした行動パターンにまで深い影響を与えたビックリマンチョコは、まぎれもない「国民食」なのである。
(取材・文=有田シュン)
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