
TBS日曜ドラマ『陸王』番組サイトより
池井戸潤原作、八津弘幸脚本、福澤克雄演出と、TBS日曜劇場が同枠のヒットドラマ『半沢直樹』『下町ロケット』と同じ布陣で挑む『陸王』は、初回14.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と盤石のスタートです。役所広司が15年ぶりの連ドラ主演だったりとか、今をときめく山崎賢人と竹内涼真が競演してたりとか、話題性も十分ですし、コケる要素がまるで見当たりません。というわけで、第1話を振り返りです。
■設定の時点で“勝ってる”
お話は、埼玉県行田市で100年続く足袋屋さん「こはぜ屋」が、その技術を応用してランニングシューズを作ろうと奮闘する挑戦譚。実際にモデルになった老舗の足袋会社があるそうですが、もうこの「ランニング足袋」の存在自体がドラマチックですもんね。町工場の技術でロケットを飛ばそうという『下町ロケット』同様、設定の時点で勝ちは決まったようなものですし、池井戸さんが適切な人材配置を施した原作小説も、「どうぞ映像化してください」というメッセージをビンビンに感じるエンタメ作品に仕上がっています。
序盤の物語を転がすのは、「こはぜ屋」を担当する銀行員の坂本っちゃん(風間俊介)です。「不況だわ~斜陽だわ~」と嘆くばかりの「こはぜ屋」社長・宮沢(役所)への融資が厳しくなってきたとみるや、「新規事業を考えてください」とハッパをかけます。
すると宮沢は偶然、デパートのシューズ売り場で五本指の軽いランニングシューズを発見。「足袋みたいだ……」とつぶやくと、足袋の技術を応用した素足感覚のシューズを作ることを閃きました。実は「こはぜ屋」、先代の時代にもマラソン足袋の開発を手がけ、頓挫した歴史があったのでした。
坂本っちゃんは、その申し出に賛同すると、さっそくランニングの専門家であるスポーツ用品店の有村(光石研)を宮沢に紹介。ランニングブームの昨今、カカトに厚い緩衝剤の入ったシューズがもてはやされているせいで「人間本来の走り」が失われ、よくないフォームが原因でケガをする人が増加しているという話を聞き、宮沢はマラソン足袋の意義を再認識することになります。
このあたり、完全に坂本っちゃんが神の配剤を担う“救世主”として機能しています。普通に考えて、こんなにすぐ「足袋屋」と「足袋っぽいシューズを推す専門家」が出会っちゃうのは、ご都合主義そのものなんですが、坂本っちゃんが単に優秀な銀行員であるだけでなく、その行動がいちいち彼の「理想の銀行員であろう」という信念に重ねて描かれるので、全然ムリ目に見えません。坂本っちゃんによるこうした出会いの導きは、ある意味で“奇跡”なわけですが、『陸王』そのものが「信念によって奇跡を起こす物語」なので、むしろそうしたストーリー哲学の強度を増す方向に働いている。こういうところが、池井戸さんの適切な人材配置の真骨頂です。
もうひとり、物語に推進力を与えるのが、ダイワ食品という食品会社で実業団ランナーをしている茂木くん(竹内)。もともとは野球少年だったものの、肘を壊して陸上に転向。その後、箱根で鳴らした有望株でしたが、どうやらフォームに不安があるそうです。有村に誘われて息子・大地(山崎)とともにレースを観戦しに行った宮沢の目の前で、茂木くんは故障リタイアしてしまいます。普通に考えて、こんなにタイミングよく「フォーム矯正に役立つ足袋っぽいシューズを作りたい足袋屋」と「フォーム矯正が必要な元有望選手」が出会っちゃうのもアレですが、2人の芝居が実に熱いので飲み込まされてしまいます。
ちなみに大地は就職浪人で、面接に落ちまくり中。「こはぜ屋」では、腰かけ的に働いているだけ。もともと工学部の出身で、ケガでサッカーをあきらめた過去があります。なので、野球をあきらめてマラソンで再起した茂木くんに、強いシンパシーを感じているようです。茂木くんの故障を目の前で見た大地は「どんだけ努力したって、できないことってあんだよなぁ」と、しょぼくれてしまいます。もはや人生に対するモチベーションはゼロ。そんな大地に、宮沢はランニングシューズを作る決意を述べます。
つまり、宮沢のランニングシューズで茂木くんを復活させることができれば、それはしょぼくれた大地を励ますことにもつながるというわけです。こういう人材配置、ホントに上手い。
第1話では、なんだかんだで「こはぜ屋」の工員さん総出で試作品を作り上げたり、番頭のお爺ちゃんに苦虫を噛み潰されたり、それなりに試作品が認められたり、有村に「軽くていいけど、ソールの耐久性が問題だ」と言われたりしながら、2時間たっぷりと見応えのあるドラマらしいドラマを見せてくれました。最後に、「こはぜ屋」に肩入れしすぎて左遷されることになった坂本っちゃんが「軽くて丈夫なソールの材料」になりそうな素材を持って来てくれて、夢がつながります。坂本っちゃんのミラクル救世主ぶりたるや!
■ニューヒロイン爆誕! 阿川佐和子って、こんなにかわいかったっけ!?
キャストは、どなたもすばらしくハマっています。一流スポーツメーカーの営業社員・小原を演じるピエール瀧や、実直なシューフィッター・村野の市川右團次なんて、ほとんど当て書きじゃないかってくらいドハマリしてます。
そんな中、原作中の存在感をはるかに超えて華やかに立ち上がったキャラクターが、阿川佐和子演じる「こはぜ屋」縫製部門のリーダー・正岡あけみです。
納期が怪しい作業があれば「ねえ、みんな! 絶対間に合わせるよぉ~!」と鬨の声を上げておばちゃんたちを奮い立たせ、マラソン足袋開発チームの会議に参加すれば「ハ・ダ・シ・か・ん・か・く♪」と小さな身体をピョンピョン揺らしてみたり。プロジェクトにビビり始めた宮沢社長に涙ぐんで共感して見せたかと思えば、飲み会で番頭さんと言い合いになると「クソじじい!」と言い放つ。
その振る舞いすべてが、たいへんにキュートなのです。連ドラへのレギュラー出演は今回が初めてだそうですが、完全にニューヒロイン誕生といえるでしょう。阿川さんの存在は、『陸王』の大きな武器になると思います。ホントかわいかった。次回以降も楽しみ。
■で、“サビ残”の話なんですが……
ランニングシューズの開発にあたって、「こはぜ屋」の縫製部門のおばちゃんたちは、サービス残業をさせられていました。当然、不満も出てくるわけですが、同調圧力が働いてハッキリ拒否することができません。『陸王』は老舗企業が舞台ですが、現代劇ですので、ちょっと引っかかる部分ではありました。
銀行からの融資が厳しくなり、宮沢社長は融資継続の条件として「新規事業の中止」と「リストラ」を迫られます。結果、突っぱねてシューズの開発を続けることになりますが、おばちゃんたちに与えられた選択肢は「リストラされるか」「サビ残させられるか」の二者択一という状況でした。
これ、個人的にはそんなに「ひでえな」とも思わなかったんですが、引っかかったのには理由があります。
「残業すれば工賃は割り増しになる。これまでの残業分だけでも、コストはすでに計画を上回っていた」(池井戸潤『陸王』集英社より)
つまり原作では、「こはぜ屋」は残業代を払ってるんです。ドラマでは、あえて変更してる。
ドラマの制作陣の間で、その方が、よりドラマチックであろうという判断が働いていることに、どうしても引っかかってしまう。結果、社長と銀行との間で“福沢節”ともいえるエモーショナルなやり取りが生まれて感動的なシーンが演出されているので、失敗ではないと思うのですが、プロット上、どうしても“サビ残である”という必然性があったのかなというところに疑問が残る。サビ残じゃなくてもいいのに、サビ残という設定を追加していることに、「その方が尊い」「無償の労働は美しい」という主張が見える。
というか、たぶん主張でもないんだろうな。視聴者の多くが「その方が尊い」と感じると踏んで、そうしている。けど、世間的にはちょっとズレ始めてて、私も含めて引っかかってしまう層が昔より多くなったし、そうした層の声がネットによって表に出やすくなってる。
たぶん今、過渡期なんでしょうね。あと数年もすれば、テレビドラマも、もうちょいこのへん敏感に排除する時代が来ると思います。せっかく高品質で面白いドラマなんで、こういうとこでケチが付いちゃうのはもったいないなーと。そんな感じでしょうか。
(文=どらまっ子AKIちゃん)