AV誕生から30周年の思い出をAV好き作家・高橋源一郎とAVライター・安田理央がアツく語り合った!!

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対談は2012年3月某日、東京・高田馬場の安田理央氏事務所にてなごやかにとり行われました。
 佐川一政による「パリ人肉事件」が起きた1981年、アダルトビデオは誕生した。それから30年。このスペシャルイヤーを記念し、主要AVメーカー40社超が集結。プロジェクト名は、その名も「AV30」。時代とメーカーの垣根を超えてセレクトされたこのコンピレーション・AVシリーズが、12年1月より毎月5作品、合計30作品リリースされている。  このプロジェクトの監修を努めるライター/アダルトメディア研究家の安田理央氏と、安田氏とは旧知の仲で、AV好きとしても知られる作家の高橋源一郎氏の対談が実現。世代は違えど同じAV時代を生きた2人は、日本のAVシーンをどう見ているのか? 安田理央(以下:安田) 高橋さんがAVを見始めたのって、いつ頃ですか? 高橋源一郎(以下:高橋) 1983年ですね。僕は82年に作家デビューして、翌年に荻窪に引っ越すんだけど、マンションの隣にレンタルビデオ屋があったの。初めて借りたのは、和服を着たお姉さんが脱いでエッチしてるのかしてないのか、よくわからない作品。このとき僕は32歳かな。それから1~2本を経て、『ミス本番・裕美子19歳』(84年/宇宙企画)を見てびっくりしたんです。 安田 伝説の作品ですね。あの当時一世を風靡した宇宙企画の、いわゆる「美少女モノ」の原点になった。まずピアノのBGMが流れてきて、イメージシーンがあって、インタビューして……(笑)。 高橋 それからベッドに座って、男優が現れてキスして……っていう、一連のあの王道の流れはここから始まったんだよね。で、「ミス本番」だから、ほんとにセックスしてるのがわかるわけ。当時の女優さんなんて、ブスばっかりだったじゃない? その中にあって裕美子ちゃんは抜群に可愛かったから、「えっ、いいの!?」って、カルチャーショック。 安田 いま見ても可愛いですね。僕もそのぐらいからAV見てるんですよ。まだ高校生でしたけど、アルバイトしてビデオデッキ買って。 rio_gennichiro05.jpg ■文学は黒木香にかなわない? 高橋 いちAVファンとしては、「ミス本番」シリーズを追っかけてたでしょ。で、ほどなくして黒木香の『SMっぽいの好き』(86年/クリスタル映像)が出て、2度目の衝撃を受けた。すごい淫乱で、びっくりしたよね。 安田 監督の村西とおるさんに聞いたんですけど、当時は「女が淫乱」っていうAVなんてウケないだろう考えて、お蔵入りしかけたらしいんです。でも、その頃村西さんのところに出入りしてた警察官に絶賛されて、出してみたら大当たりしたという。まあ、村西さんだから話を盛ってるかもしれませんが(笑)。 高橋 あれは新しい表現だったよね。AVは本来オナニーのためにあるんだけど、はっきりいってあれじゃヌケないよ(笑)。だって気持ちよくなったらホラ貝を吹くって、爆笑するしかないでしょ。悲劇や死はセックスと結びつくけど、笑いとセックスは結びついたことがない。日本ではね。ほんとまいった。僕は、これ見たとき、「文学はこれにはかなわんな」って思った(笑)。 安田 実は、残念ながらこの2作品は、諸事情で「AV30」には入れられなかったんですよ。80年代の作品で収録されてるのは、一番古い人で84年の竹下ゆかり、あと主立ったところでは小林ひとみ、桂木麻也子、斉藤唯、葉山みどり、立原友香、美穂由紀、豊丸……。 高橋 全員見てる(笑)。特に、豊丸は強烈だったね。ここまでくると、もはや人間を超えてる。黒木香はまだ人間だったけど(笑)、豊丸は「何? セックスロボ?」って感じ。それまでの日本にはなかった洋ピンのノリで、しかもアソコがブラックホールみたいなんだもん。 安田 フィストファックしたり大根入れたりしてましたからね。この豊丸と同時期に葉山レイコが『処女宮 うぶ毛のヴィーナス』(88年/h.m.p)でデビュー。さらに89年に松坂季実子や樹まり子、90年に桜木ルイや星野ひかる、あいだももなんかが登場して、ひとつのAV黄金時代を迎えます。 高橋 「処女宮」シリーズもクオリティ高かったよね。宇宙企画の美少女モノにぶつけてさ。 安田 僕は、この頃ビデオ業界誌の仕事をしてたんですけど、あるときゴールドマン監督の作品にハマって、無理やりインタビューしにいったんですよ。そこからカンパニー松尾さんやバクシーシ山下さん、平野勝之さんといったV&Rプランニングの人たちと付き合うようになったんです。90年前後は、そういう異端の企画モノ作品が花開いた時期でもありますね。 高橋 バクシーシ山下さんの『ボディコン労働者階級』(92年)とかね。V&Rはアウトサイダーだったよね。 rio_gennichiro07.jpg ■期せずしてアートとなった「500人SEX」 安田 90年代半ばになると、ソフト・オン・デマンドなどインディーズ系(セルビデオ)メーカーが台頭して、00年代初頭にいわゆる企画単体ブームが起こります。以降、女優の質、量ともに充実するんですけど、例えばいまなお現役の吉沢明歩(03年~)や麻美ゆま(05年~)みたいな息の長いビッグネームがいる一方で、デビュー作が売れずにすぐ切られてしまう女優もいたり。そのへんはシビアになっていくんですよね。 高橋 社会の縮図だね。 安田 メーカーも苦しいんですよね。やっぱりインターネットの影響が一番大きいんですけど、作品の本数は増えてるのに価格は下がってますから。そうなると、とにかく売れる作品をつくらなきゃいけなくなって、結果、V&R的なもの、つまり企画性重視のドキュメンタリータッチのものなんかが排除されていく。 高橋 余裕がないから、遊べないんだよね。 安田 高橋さんは、昨年上梓された『恋する原発』(講談社)で集団セックスを扱ってますけど、ソフト・オン・デマンドの名作『500人SEX』(06年)みたいなのは、いまはもう撮れないですよ。 高橋 あれは感動的だよね。全員がイッたあと、エンドロールでやたら叙情的な歌が流れるでしょ。もうね、大作映画を見終わった気分なんだけど、泣いたらいいのか笑ったらいいのかわかんない。もはやアート。 安田 しかも制作サイドにはそんな気はさらさらなくて、ただ結果としてアートになっちゃってるという(笑)。 高橋 そうそう。「これはすばらしいものだから鑑賞してください」って思ってつくると「お芸術」になっちゃう。でも、あの作品は「これはなんなの? もうアートとしかいいようがないよね?」っていうものに、結果としてなってしまった(笑)。 安田 高橋さんって、最近のAVも結構見てますよね? 高橋 僕はDMMの会員だからね(笑)。新作のサンプルなんかはほぼチェックしてます。僕が「AVが変わったな」って思ったのは、00年代後半、プレステージの作品を見てから。あそこって、基本的に女優の名前で売ってないでしょ。 安田 いわゆる「素人モノ」といわれるジャンルなんだけど……。 高橋 別に本当の素人なわけではない。単体女優並みに可愛い女の子たちを、匿名性でもって、街で見かける本物のOLさんとか女子大生っぽく見せてるよね。いいとこ突いてる。 安田 「プレステージ以前」と「以降」では大きな違いがあって、以前は、素人はブスで当たり前、むしろブスだから素人っぽくていいっていわれてたんです。だけど、プレステージ以降は、素人モノでもブスは許されなくなった。 高橋 AVの中でブスが生きていけるのは、もはやヘンリー塚本【AV黎明期からアクの強いSM系のドラマ作品ばかりを撮り続けている、孤高の有名AV監督】の世界だけだね。ときどき僕は近所のホテルで缶詰になって作品を書いてるんだけど、そこのホテルの部屋のテレビのアダルトチャンネルは、ヘンリー作品ばっかり流すの。僕すっかり喜んじゃんって(笑)。 安田 ヘンリーさんはいいですね。最近は特に、エロと作品性がいい具合にミックスされてて。つぼみや風間ゆみも出てるから、必ずしもブスばっかりってわけじゃないですけど(笑)。 高橋 男優の花岡じったをうまく使ってるじゃない。キワモノなんだけど、あの世界では妙にリアリティがある。ほんとにどうしようもない、野獣のような昭和の男。ドラマ性が濃厚だから、ヘタするといやらしくなくなっちゃう気もするんだけど、彼の作品の中では、普通のおばさんみたいな人でもやたらエロいよね。 安田 基本的にAVのカラミって、始まったらあとは男優と女優にお任せで撮る場合が多いんですけど、ヘンリーさんはカラミも細かく演出するんですって。セリフ回しとかも、女優が「たまんねえ……」とか言ってて。 高橋&安田 へへへへへへへ(笑)。 高橋 退廃的で、登場人物が不健康な貧乏人ばっかりで、みんなトラウマを抱えててさ。そんな人たちが、ものすごいねっとりとしたセックスをするんだよね。 rio_gennichiro08.jpg ■ヌキに特化された、AVの完成形 安田 ところで、企画もののAVが淘汰されていって、AVから「遊び」がなくなったという話をしましたけど、それは決して悪いことではないんですよね。「AV30」を編集してて思ったんですよ、「いまのAV、エロくていいわぁ」って(笑)。 高橋 たしかにヌキに特化した視点で見てみれば、ものすごくレベルが高くなってるよね。E-BODYとかS1の作品っていうのは、それのある種の完成形。30年かけて練り上げられたスタイルだからね。 安田 平野勝之さんの作品とかもすばらしいんだけど、「ヌク」というAV本来の機能からはちょっと外れちゃう。 高橋 どうしても「表現」が入っちゃうからね。 安田 だから「さあヌクぞ!」っていうときは、S1とかを見ちゃうんじゃないかな。「ユーザーが見たいものを見せる」ためのノウハウが蓄積されてますから。そういう意味では、僕はプレミアムっていう、高級感ある単体女優のメーカーが一番好きなんですよ。 高橋 そういう作品って、ものすごく可愛い子が、ものすごくエロい肉体を、完璧なアングルで見せてくれる。そういう技術がもう、完成されてるよね。 安田 女優も男優も制作者も、みんなスキルが高い。職人的といってもいいですね。特に女優はね、「なんでデビュー作からそんなに上手いの?」っていうくらいのことをみんなやってる。なんでかっていうと、彼女たちの世代って、もう子どもの頃から自然にAVを見てるんですよ。見てるから、男の乳首は舐めるものだと思ってる(笑)。 高橋 この前ね、僕の姪っ子が遊びに来たんだ。超絶可愛い、今年大学に入る18歳なんだけど、「Rioちゃんが~」とか、AV女優の名前をよく知ってるんだよね。僕が「なんで?」って聞くと、女の子同士のお泊まり会とかで見てるんだって。女子会でAV鑑賞だよ。 安田 いまは、恵比寿マスカッツとかの影響で、ほんとにAV女優に憧れてやってくる女の子がいっぱいいるんですよね。成瀬心美も、Rioに憧れてこの業界に入ったと公言してますし。 高橋 だってさ、もはや普通のアイドルより可愛いもんね。 安田 そんなコがいきなり乳首舐めたりするっていう(笑)。新しい世界に入りましたね。 rio_gennichiro10.jpg ■AVは多様性を取り戻せるか? 高橋 安田さんがこれからのAV業界に望むことって、なに? 安田 僕はやっぱり、多様性が欲しいんですよね。S1もプレミアムも好きだけど、はじっこにV&R的なものも成り立ってほしいなって。いろんな作品があって、全部ひっくるめてAV。「AVの世界は広い」っていうのが面白いので。 高橋 それはあらゆるジャンルでそうだよね。多様性が失われた世界は一番恐いから。 安田 90年代初頭のカンパニー松尾さんたちって、AVの枠を広げる作業をしてきたんですよ。いまは逆に、「ヌクためのAVを深く掘っていく」作業がメインストリームになっちゃってますよね。もちろん、そうすることでAVの完成形が出来上がったことはひとつの大きな成果ではあるんですけど。 高橋 売れなきゃしょうがないんだけど、王道だけになっちゃうとね。辺境開拓っていうか、「こいうのもアリか!?」「AVってそんなこともできるの!?」みたいな新たなジャンルも、きちんと出てきてくれないと。 安田 それこそ、黒木香のホラ貝吹きを見たときのような衝撃が、最近はあまりない。 高橋 でもさ、人間から、性欲っていうか、エロスがなくなるはずはないからね。AVもビデオテープからDVDになって、いまはネット配信になりつつあるでしょ。そうやって変身を繰り返して、その過程で一度ガクンと落ちたりするのは、長い歴史の中ではしょうがないよね。文学だってさ、すごくダメなときなもあるんだよ。でも、そしたらまた違うものを見つけて、変わっていくの。そういうもの。 安田 男と女がセックスしてる映像は、どこかで必ず流れてるわけですしね。カタチが変わっていくだけで。 高橋 そう。男と女がセックスしなくなったら、もうどうしょうもないでしょ。それは世界の終わりだからね。 (取材・文=須藤輝/撮影=編集部) ●やすだ・りお 1967年、埼玉県生まれ。風俗、AVなどのアダルト系記事を中心に、一般週刊誌からマニア誌まで、幅広く執筆。現在、AV30年史をメーカー横断的に振り返る「AV30」プロジェクトを進行中。著作に『エロの敵――今、アダルトメディアに起こりつつあること』(翔泳社)など。 ●たかはし・げんいちろう 1951年、広島生まれ。81年、『さようなら、ギャングたち』で、講談社の群像新人長編小説賞優秀賞を受賞。88年、『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞受賞。その他の著書に『虹の彼方に』『ジョン・レノン対火星人』(共に講談社文芸文庫)、『日本文学盛衰史』『恋する原発』(共に講談社)など多数。05年より明治学院大学国際学部教授を務める。 ●作品解説 アダルトビデオ30周年記念プロジェクト 「AV30」 アダルトビデオ誕生30周年を記念し、主要AVメーカー40社超が集結。12年1月より6月まで毎月5本、計30本のコンピレーションAVが続々とリリースされる。 『メーカー横断ベスト!!! 小室友里8時間』『【AV女優日本代表】 熟女☆JAPAN』などの女優重視 のセレクトから、『AV30年史3 ハード・陵辱の名作編』『アナルSEXの殿堂 【肛門プレイ大全】』など の企画重視のセレクト、さらには、『メーカー横断ベスト!!! カンパニー松尾8時間』といった、監督重視のセレクトまで盛りだくさん。 各巻に封入されているライナーノーツも読みどころ満点。安田理央氏のほか、藤木TDC氏などのAVに詳しいライター陣のみならず、カンパニー松尾編では松尾氏みずからが解説。 全作品8時間、いずれも税込2,980円(税込)で続々発売中!! 公式サイト<http://www.av30.jp/

「ぬるま湯もウソではないけれど――」入江悠監督『SR3』が叫んだボンクラたちの夢の後先

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『SR』シリーズの大ファンで『SR』イベントにゲスト出演したこともある小明さん。
インタビュー後半には入江監督に意外な要求も……!?
 『SR サイタマノラッパー』シリーズが大好き! そして入江監督も大好き! ということで、己のアイドル特権をフルに活用し、入江悠監督にお話をうかがってきました! アイドル10年もやってて良かったー!! ――お久しぶりです! 唐突ですが、監督は事務所に入ってるんですね、アイドルの私も入っていないというのに。事務所に入って、何か変わりましたか? 入江悠監督(以下、入江) 『SR2』の公開ぐらいに入ったんですけど、とくに変わったことは……。あ、こないだドラマの撮影をしていて病院に行く暇がなかったときに、“飲む点滴”っていうのを差し入れてもらえるようになりましたね。 ――飲む点滴? それってシャ……いや、それ飲むとしばらく献血に行けなくなるとか言われませんでした? 入江 それ、本気のやつじゃないですか(笑)。ちゃんとした病院でもらえる薬です。 ――ドラマの撮影は忙しすぎて、眼球が炎症を起こしたそうですね。『SR』でも、出演者のトム(水澤紳吾)さんのシワが増えたり、イック(駒木根隆介)が太ったり、今回の『SR3』の主役のマイティ(奥野瑛太)も円形脱毛症になったそうで、撮影の過酷さが伝わってきます……。けど、『SR』シリーズも有名になって、埼玉の人たちもうれしいと思いますよ! 入江 それが、埼玉で上映してもぜんぜんお客さんが入らなかったんですよ。以前、浦和のシネコンで上映したとき、みんな吸い込まれるように『踊る大捜査線』とかに入って行っちゃって……。 ――……。でも、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』、すごく良かったです。SHO-GUNGのイックとトムを捨てて東京に行って転落したマイティのやりきれなさ、号泣しながら何度も見ました。あと、マイティのシーンが壮絶なだけに、相変わらずのんきなイックとトムが出てくるとホッとしました。あいつらどうやって生活してるんだ……。 入江 イックとトムはどんどん生活感がなくなっていきますからね。“ラップの妖精”みたいな感じです。あの2人がいなかったら、ものすごくハードになっちゃいますよね、映画もマイティの人生も。 ――『SR3』は今までと趣向を変えて、バイオレンスな方向にいったのはなぜですか? 入江 東映の深作欣二監督の映画が好きで、『仁義なき戦い』とか、ああいうのをやりたいって思っていたから。それに震災以降、いろんなことが剥き出しになったじゃないですか。生きるか死ぬか、いろいろリアルになった。今までの、コタツの中にいるみたいな、ぬるま湯もウソではないけど、もう『SR』シリーズを始めた2009年とは変わってきちゃったんじゃないかな。 IMG_7282_.jpg ――確かにそうですね。『SR2』が群馬のくすぶってる女の子たちに火をつけにいく話だったので、てっきり今回も栃木でそうだろうと思っていたら、主役がまさかのマイティで驚きました。 入江 よぼよぼのお爺さんラッパーとか、ガキんちょラッパーとか、いろいろ考えたんですけど、どっちも撮るのが大変だな、と思って(笑)。 ――栃木、老人だけはいっぱいいますからね……。最近、千葉にあった私の実家が母親の実家近くの栃木に移ったんですけど、母が「千葉ではお婆ちゃん扱いだったけど、栃木だと若者扱いになった」って喜んでました。 入江 そんなに格差が!? ――行ってみたら、確かに市内にいる人間が母よりも年上の、それこそ腰が曲がった方と、たまにその息子夫婦+孫、みたいな感じで……。でも、さすがにあんなにモヒカンだらけの労働者の集う修羅の街ではなかったですよ! 監督、栃木にどんな印象を持っているんですか? 入江 世紀末(笑)。いや、うちの父親も宇都宮出身なんですよ。『北斗の拳』みたいなのがいっぱいいる、殺伐とした街として栃木を描いちゃいましたけど、本当に若い人は昼いないですよね。栃木も全域を回って日光のほうまで行ったんですけど……あ、佐野にはいます。でっかいショッピングモールがあるんで。 ――ああー、行ったことがあります。佐野に限らず、地元のデカいショッピングモールに行くと、必ず同級生が家族連れで来ていたりして……。丸腰でいくと精神的に大けがをする、鬱スポットのひとつです。しかしながら、そんな土地で、よくあのフェスシーンを完成させましたね、インディペンデント映画なのに、出演者が2,000人超えなんてあり得ない! 入江 エキストラさんはみんな自腹で来てくれて、北海道から来てくれている人もいて、そういう人に助けられました。 ――それだけ規模が大きくなったのに、セリフには放送禁止用語がたくさん出てきて……。監督は、これがテレビで流れることなんか考えていないんだなと思いました。
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(c)2012「SR3」製作委員会
入江 なんか、『踊る大捜査線』のときのトラウマで。逆をいってやろうと思って……。 ――(笑)。でも、インディペンデントじゃなくても、予算がなくてエキストラを呼べないってこともけっこうありますよね。たとえばゾンビ映画なら、ラストでゾンビがワーって集まって主人公が襲われるシーンなのに、ゾンビが超少ないとかよくありますもん。監督はメジャーでもできないことをインディペンデントでやってのける。かっこいいです。 入江 そうですね。今回の『SR3』でやりたいことは全部やってやろうと思ってたし、とりあえず、今回でこのシリーズは区切ろうと思ってます。一応、海のない北関東は。 ――なんで!? 私が育った千葉だって充分ダサいですよ! 千葉にも来てくださいよ! 入江 だって、千葉だとディズニーとかまであるんですよ? ――ぐぬぬ……。でも、本当にやってほしい県はいっぱいあるんですよ。シリーズが終わるのは寂しいです。 入江 じゃあ、サイズダウンして、千葉とか神奈川とか茨城とか、興味ないところを5分ぐらいでバババっとYouTubeで……。 ――あからさまに興味ないじゃないですか……。ところで先日、「映画秘宝」(洋泉社)で『SR』シリーズファンの座談会をしたんです。その際に、小説版が面白いと聞き、恥ずかしながら今さら読んだんですけど、いやぁ面白いですね。とくにイックとトムの学生時代の話が最高でした! 文庫化もされるそうで、印税が楽しみなんじゃないですか(いやらしい笑み)? 入江 いや、すごい頑張って1年がかりで書いたんですけど、書き込みすぎて想定よりもかなり分厚くなっちゃって、手に取りにくくなったんですよ。そのせいか、全然売れてないし……。せっかく表紙も『デトロイト・メタル・シティ』の若杉公徳さんが描いてくださったのに。 ――そうなんですか……。でも、映画では描かれなかったイックたちの陰鬱な高校時代の話は本当に素晴らしかったです。勉強ができなくてグレる気力もないけど性欲だけは余ってる、みたいなリアルさ。監督がどんな学生時代を送られたのか興味津々です。 sr32s.jpg 入江 僕は、中学はもう動物園みたいなところで、高校は男子校です。平和というか「週刊少年ジャンプ」みたいな生活ですよね。ステイタス持っているやつが偉い。基本、ぼんくらでした。 ――男子校ですか。そういえば以前、『SR』のイベントのゲストに呼んでいただいた際、『SR2』の女の子たちが「こっちは仲良くやりたいと思ってるのに、監督やイックたちはいつも男子だけでキャッキャやってて入る余地がない」と言っていましたね。 入江 そうなんですよ。男子校出身なんで、女子と距離をつめるのが苦手なんです。大人になっても全然苦手です。小説ではイックの高校は共学なんですけど、それも全部妄想。同じ教室で女子と席が並んでいるとか、想像もできないですからね。中学の頃の記憶をかろうじて思い出しながら書きました。 ――イックは女子に対する警戒心も半端ないですよね。ひょんなことから仲良くなったスクールカースト上位の小暮千夏(みひろ)に対する「お前の完璧な自己演出の手段になってたまるか」みたいな捻くれた受け取り方がすごい(笑)。 入江 「こんな子が俺のところに来るわけない」ってやつね。 ――映画の長回しのシーンのふとした間とか、俳優の呼吸と呼吸の間にはこんなに色んな葛藤があったのか、と驚きました。 入江 故・川勝正幸さんに「イックってこんなIQ高かったんだ!」って言われて。それも、まぁ、小説で書いていたら、つい自分のこととリンクしてきちゃってね……。 ――やっぱり、イックはご自分がモデルなんですか? 入江 そうなんです。自分も基本的にインドアで、イックの部屋は自分の部屋ですからね。一応、自分のぼんくらな部分を書いているんですけど、書き込んでいるうちにどんどんその部分を追求したくなっちゃって……。そんなところに熱くなっちゃってるから、分厚くなっちゃうんですよね(笑)。 ――読んでからまた映画を見ると、二度三度と楽しめて良かったです! イックが高校を卒業してから音楽の専門学校に行ったように、監督も大学時代に映画の勉強を始められたんですよね。そこで初めて東京に? sr34s.jpg 入江 そうです。でも、日大の芸術学部が所沢で……。なぜかいつも池袋でUターンしなければならない。東京に出るために大学行ったのに。 ――(笑)。ちなみに、以前ブログに「映画を見せようと努力すればするほど貧乏になる」と書いていましたが、宣伝に行くときは基本的に自腹なんですか? 入江 そう。乗り合いで新潟まで行ったり、北海道まで飛行機で自腹で行っていましたね。最初は旅行気分で楽しかったんですよ。Tシャツとか持って行って物販もやって、なんとかメシ代ぐらいを稼いで、みたいな。札幌では、イックとマイティはパチスロで帰りの交通費とか稼いでましたよ。ろくでなしですよね。 ――そうでもしないと帰れないから(笑)。インディペンデント映画は制作側も出演者側も、想像以上にハードなんですね……。 入江 でも、その札幌で、マイティがそれまでにないぐらいパチスロに大当たりして、人生初の風俗に行ったらしいんです。そしたら、出てきたのがイックみたいな女だったっていう(笑)。 ――そこは『SR』愛で、ぜひチェンジなしでいってほしいですよね! 入江 ね(笑)。そういうことやっていると、赤字になっていくんですよ。 ――あはは! でも、監督みたいな人がお金がなくて映画を撮れないっていう状況がファンとしてはいちばん辛いので、『SR3』は絶対にたくさんの方に見に来てほしいところです。 入江 『SR2』から、もう1年以上空いちゃったんでね。もうちょっと間隔を空けずにやっていかないと、トムさんの老い感が(笑)。もう、あんまりアップが撮れなくなってきたんですよ。早くしないとやばい。あの人、俳優としての欲がないんですよ。カメラに写りたいとかいう気持ちもなくなってきたみたいで、着替えもゴミ袋に入れて持ち運びしていますからね。 ――すごいいい俳優さんなのに、なぜそんなことに……。ちなみに、監督は『SR1』を撮った際に、「この映画が当たらなかったら監督を辞めよう」と思っていたそうですが、その時、監督は29歳ですよね。まだ若いじゃないですか。どうして辞めようと思われたんですか? 入江 僕、19歳のときに映画を勉強しようと思って、東京に……っていうか所沢に出てきて、そこからちょうど10年経つ時期だったんです。10年ってひとつの区切りじゃないですか。映画って、文筆と違って、あんまり晩年でデビューとかってないんですよね。感覚的なセンスもあるし、29歳ぐらいがいろいろ考える節目だろうな、と思っていて。 IMG_7289_.jpg ――監督は劇団も立ち上げていらっしゃいますけど、劇団の人も30歳前後で一気に人数が減っていきますよね。みんな、やりたいことか現実とか、プレッシャーとか家族の事情に挟まれて、だいたいそのあたりでフェードアウトしていく。私は今アラサーで、売れないアイドルも10年目になってるんですけど、もう挟まれすぎて苦しいですもん。完全に節目が来てます。 入江 おお、そうなんですね、すごいですね。 ――最近CDなどを出し始めたので、これでまたしばらくアイドルを名乗ってやろうと思ってるんですが、なにぶん知名度もありませんし……。でも『SR3』で、どん底にいながら叫び続けるマイティを見たら、ついつられて「私はまだアイドルを続けるぞ!」みたいな気持ちになっちゃって……どんどん辞めるタイミングを失っていくんですよ、売れてもないのに。これはもう責任問題だと思うんですよ。だから、もう、ちょっと、嫁に、嫁……。 入江 ああ、嫁に行くか、アイドルを続けるか、みたいな? ――いや、ちょっと監督の嫁に……監督が嫁にもらっ……えーと……(赤面)。 入江 いやぁ、でも10年続けるってすごいですよ。アイドルとして、「これをやりたい!」みたいなものはあるんですか? ――話をそらされた……? いや、明確な目標はそんなにないんですけど、続けているといいことがあるじゃないですか。イックとトムが寅さんみたいに旅をしながらいろんな人に出会うように、私もアイドルライターというのを続けていると、その道すがらでこうして入江監督と会えたり、辞めていたら絶対に不可能だったうれしいことがある。だから続けてる感じです。続けるって大事ですよね。 入江 そうね。ただ、イックとトムは、とにかく食べたり歩いたりしているだけですけどもね。マイティは一度辞めちゃうけど、イックたちは1と2の後にリセットボタン押されて、全部忘れて戻ってくるから(笑)。 ――そういうの、憧れます。けど、どこかで折り合いをつけたり、新しい生き方を見つけて辞めていった人たちも自分が持ってない幸せを持っているし、辞めることと続けること、どっちが正解なのか全然わかりません。監督はどう思いますか? 入江 全然わからなくて。僕も撮りながらも答えが出なくて、折り合いがつけられなくて、だからああいう終わり方になっているんです。だけど、映画を通して伝えたいことっていうのは、やっぱり“続ける”っていうことですね。まぁ難しいし、悪いこともあるんだけど、やっぱり続けてほしいですよね。  * * *  と、映画について熱く語ってくださる監督の話を赤面しながら聞き、頷きながらも随所随所で「嫁にしてくれ」というアピールを挟みましたが、すべてスルーされました。さらに、そのインタビュー後の道すがら、編集さんが宣伝の方に「すみません、次はちゃんとした映画ライターを呼びますので」と謝っているのも聞きました。しかしながら、監督のおっしゃるようにすべては“続ける”こと。言い続けていれば、きっといつか嫁にもらってくれることでしょう。どんどん立場が厳しくなってまいりますが、私もまだまだあきらめない! SHO-GUNGよろしく伸びるグンググーン! (取材・文=小明) ●『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 監督・脚本・編集/入江悠 出演/奥野瑛太、駒木根隆介、水澤紳吾、斉藤めぐみ、北村昭博、永澤俊矢、ガンビーノ小林、美保純 配給/SPOTTED PRODUCTIONS 4月14日(土)より渋谷シネクイントほかにて全国順次ロードショー、4月21日(土)より渋谷シネクイントほかにて『SR』シリーズ全作上映 <http://sr-movie.com> (c)2012「SR3」製作委員会 ●いりえ・ゆう 1979年生まれ。幼少期から19歳までを過ごした埼玉県深谷市を舞台にした『SR サイタマノラッパー』で2009年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリを受賞しブレイク。『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』など意欲的に作品を発表し続け、インディーズとメジャーの枠を超えた活躍で業界内外の注目を集めている。 ●あかり 1985年生まれ。1985年栃木県生まれ。2002年史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。著作に『アイドル墜落日記』(洋泉社)。 ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/> サイゾーテレビ<http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120>にて生トーク番組『小明の副作用』(隔週木曜)出演中 ニューシングル「君が笑う、それが僕のしあわせ」発売中。<http://www.cyzo.com/akr/