
撮影=後藤秀二
「アウトとグッドは紙一重」を合言葉に、毎回、愛すべきダメ人間たちを紹介する異色のトークバラエティが話題を集めている。その番組こそ『アウト×デラックス』(フジテレビ系)だ。テーマはずばり「アウト」。世間の常識からほんのちょっとだけ外れてはいるが、熱い思いを持って生きる「アウト」な人たち。MCを務めるナイナイ矢部浩之&マツコ・デラックスの巧みな媒介によって、アウトな彼らだけに見えている不思議な世界がするすると引き出されていく。果たして本当に「アウト」なのは、彼らなのか、それとも見ている我々か――。若きディレクター、鈴木善貴氏が仕掛ける、フジバラエティの新しい王道スタイルとは?
――5月23日の放送では、あの絶対王者『アメトーーク!』を視聴率で追い抜いたことが話題になりましたが、まずはその時のご感想をお聞かせください。
鈴木善貴氏(以下、鈴木) 時間が丸っきりかぶってて勝ったら、そりゃあスゴイですけど……ズレてますから。だって『アメトーーク!』は10年間続いている番組ですよ。その10年の歴史でたった一回、「おっ、何か新しい番組が始まったな」っていう興味で見てもらった番組の視聴率が、たまたまちょっとよかったぐらいで調子に乗ってたら、おこがましいですよ。でも……うちの番組を知らない友達には言ってますけど。「え? おまえ『アウト×デラックス』知らないの? あの『アメトーーク!』に視聴率で勝ったんだけど」って(笑)。
――それにしても、「アウト」という概念を番組の中心に据えるというアイデアがスゴイ。それは“王道”のイメージがあるフジテレビバラエティにおいて、かなり「アウト」ではなかったですか?
鈴木 僕の中では、特に外れている感じはないです。王道にもいろいろあるし。ただ深夜番組を僕に頼むということは「何やってもいいんだな」とは思いましたね。一応上の人は「レギュラー目指してます」とか言ってましたけど、大体そんなことになった例がないし(笑)、だったら思いっ切りやって「あぁ、また見たい」って若者たちに言わせてやろうと。
――放送後にすぐネットで話題になるのも、『アウト×デラックス』の特徴だと思います。
鈴木 僕らがこの番組を作るのに心がけているポイントが3つあるんですけど、まずは皆さんが知らなくて興味深い人に出てもらう。知ってる人の場合は、必ずなんらかの新しい発見があるように。あとは完全に一般の方。出演者には楽しんで帰ってもらって、見ている人には不快な思いが残らないように。それだけは気を付けてキャスティングしているつもりです。
――タレントさんと素人さんをまったく同じ土俵に並べるというのも、独特ですね。
鈴木 “大部屋”と呼んでいるひな壇には、淡路恵子さんや坂上忍さんとまったくの素人が、同じ並びで座ってますからね(笑)。でも素人さんといっても相当アクの強い、ポリシーのある人たちですから。タレントさんも素人さんも、それぞれポリシーは違えど、思いのパワーは負けてないんですよ。普通だったらタレントさんを前に「恐縮です……」ってなっちゃいますけど、素人さんもガンガン言い返す。思いのパワーはみんな同じなんだろうなと思います。逆にパワーが弱い人は、あそこには入れない。「見せかけアウト」は、すぐバレちゃうんです。
――見せかけアウト(笑)。いそうです。
鈴木 「アウト」って、マイナスなイメージに聞こえるかもしれないけど、僕たちは「アウトとグッドは紙一重」という、いい意味で使ってますから。タレントさんをブッキングする時には「えっ……アウト?」って、必ず聞かれますけど(笑)。
――キャスティングする時は、相当リサーチをされるのですか?
鈴木 その人の本を読み、映画やテレビを見て、雑誌のインタビューにも当たります。インタビューなら、ほんのちょこっと書かれていた情報、たとえば「カレーライスが好き」という情報をもっと深く掘り下げていくと意外な発見があったり。淡路さんなんて腱鞘炎になるくらい、それこそドラクエの動きを自分がしちゃうくらいゲームがお好きだなんて、お話しするまで全然知りませんでした。最近だと……矢部美穂さんのお母さんかな。抜群に面白い。
――矢部(浩之)さんが「番組乗っ取られる」って言ってましたね。
鈴木 もう全然乗っ取っていただいて構いません(笑)。栗原類くんもブレークしてくれて本当にうれしいです。ミラクルひかるさんも、以前はモノマネのうまいタレントさんっていうイメージだけだったんですけど、なかなか闇を抱えてらっしゃった(笑)。
――あの「アウト面会」(※アウト軍団による、苦手な人克服コーナー)は面白かった……。ちょっとスッキリしました。
鈴木 一番うれしいのが「そうそう、私もそう思った」って共感してもらえることです。この番組はすべて“本音”。入念な取材と打ち合わせはしますけど、台本はありません。本番は皆さんに本音で語っていただくだけ。だから、思いもよらない方向にいくことも多々あります。そんなにハネないだろうと思っていたところにマツコさんが食いついて、ドカーンとなることも。やっぱりマツコさんがね、もともと番組を始める際に「私自身がアウトだから、アウトな人たちを笑えないわよ」って言ってたんですよ。それを聞いて、“あぁ、いいな”と。マツコさんは自分自身をアウトだと思ってるから、アウトな人たちの魅力を上手に引き出してくれるんですよね。また「アウトな人間がテレビに出ないと、テレビは面白くない」とも言っていました。普通じゃ面白くないと。
――マツコさんの優しさが、すごく出ている番組ですよね。

鈴木 「優しいマツコを見せる」っていうのは、実は番組当初のコンセプトとしてありました。それがマツコさんにとってうれしいかどうかは分かりませんが。そこに矢部さんの優しいツッコミが加わって、そんな優しい2人だったら、どんな出演者の方々も受け入れてくれるだろうと。
――しかしコンプライアンスが厳しい状況で、素人さんに登場してもらうことは、それだけリスクも高いのではないかと思うのですが。
鈴木 僕らがまずはその人たちとたくさん話して、この人は魅力的だと、これなら視聴者も分かってくれるなと、そういう自信を得た時だけ出演してもらうようにしています。そこでピンとこない人は、どんなにアウトであってもオファーはしません。編集後にいろいろなスタッフにも見てもらって、厳しくチェックしています。
――たとえば、俳優志望の上地雄輔さん好きの田口学くんとか……。
鈴木 おっ! きましたね(笑)。
――田口くんの場合は、最初から「イケるな」という確信があったのですか?
鈴木 僕らが理想として描いていた人ですね、田口くんは。「こういう人に出てもらいたいな」と思っていた型にピタっとハマった人。今じゃもう、神みたいになってますけど(笑)。裏でもスゴイですよ~。会議も「この間、田口が楽屋でね」とか「田口ったら、後ろでそっくり返って座ってた」とか、田口くんの直近トークから始まりますから。みんな腹立ちながらも田口でこれだけ盛り上がるってことは、やっぱり面白いんですよ。だからこのラインを崩さないように、ギリギリ面白がられる範囲で止めておかないと(笑)。山下(恵司/声が高すぎる男)くんもこぼり(ゆきこ/主治医に恋する女)さんもそれぞれ夢があってテレビに出たい人たちだから、その夢がかなうように応援したいと思ってますね。だから大物俳優さんがゲストで来た時とか、演技を見てもらったりするんです。その「アウト」な部分が、すぐ隣にある「グッド」に転がればいいなって。まぁ、みんなが「グッド」になってしまったら、この番組は終わりですけどね……。
――確かに(笑)。
鈴木 素人さんの恐ろしさって、こちらの想像をはるかに超えてくるところ。タレントさんももちろん面白いですけど、素人さんの場合は、その振り切れ方が、こっちが予想だにしない方法だったりしますからね。そういう瞬間に立ち会った時は「やった!!」ですよ。だって尊敬する上地さんを前にしての最初の質問、僕らなら「ふぁ、ファンです!」みたいな、ありきたりのセリフしか書けないですけど、彼(田口)は「僕のブログ見てくれてましたか?」ですよ。「6回ライブに行ったんですけど、気づいてました?」ですよ。もうそれは台本では絶対書けない。柿沼(しのぶ/自分の紙芝居を世に広めたい女)さんの「涙あり、笑いあり、やりがいあり」も、もうなんなんですか、「やりがい」って(笑)。

――話にオチがなかったり、間がおかしくなったり、芸人さんに振るのとはだいぶ違う反応が返ってきますよね。それをそのまま流すというのも、『アウト×デラックス』のはじけてるところではないかと。
鈴木 お笑いの文法が成立しない、普通のことを言って面白い人にはかなわないんですよ。フリがあってボケて……とかじゃないですから。彼ら彼女らにとっては普通のことを言っているだけで、それがあるうちは、この番組は大丈夫じゃないかと思います。
――タレントさんで、度肝を抜かれたのはどなたですか?
鈴木 元SIAM SHADEの栄喜さん。あとベタにラーメン王の石神秀幸さんも好き。すっごい薄い話を、よくあそこまで濃厚に話せるなっていう(笑)。それから……ひふみん。
――加藤一二三九段! クイズを出したがる天才棋士ですね!
鈴木 年上の、しかもすごい経歴をお持ちの方にこんな言い方は失礼かもしれませんが、ほんっとにカワイイ。アウトは「カワイイ」でもあると僕は思っていて。本音をさらけ出してくれて、その人の素の部分が見えた時って、たまらなくカワイイし愛おしいんです。人間の魅力というか……出てくるんですよね。そうそう、出版業界で誰かいませんか? アウトでカワイイ人は?
――サイゾーは……変な人しかいません……。
鈴木 いいですねぇ。「今日は某雑誌の編集部の方です」「なんの雑誌ですか?」「サイゾーです」「アウト~!」(笑)。
――一度編集部に来ていただいて、ぜひお好みをピックアップしてください(笑)。『アウト×デラックス』といえば、いくつかのエピソードをパズルのように組み合わせる構成も独特ですよね。
鈴木 トーク番組を見ている時に「ちょっと長いな……」って思うことありません? 飽きさせないためにも、最初に出演者さんを全部見せてしまおうかなと。あと、作るものは基本的にオシャレなものでありたい。たとえば10人ゲストが出て、エンディングを迎えた後にガガッと巻き戻って、一人目の一言が聞けるみたいなことがやりたかったんです。スタンリー・キューブリックのような。いやムダなんですよ、いらないんですよ。だけど僕みたいな浅い人間は、アレを見て「オシャレだな~」って思うんです。本来であれば、中身を見るべきですけどね。僕は洋服も好きだしガワを楽しむ人間なんで、あれを見て男の子たちが「おお!かっけー!」って言ってくれるかなと思ったんですよ。
――ムダ精神は大事だと思います!
鈴木 僕もそうでした。誰かの思いつきだと思うんですけど、昔セットの後ろに四星球(スーシンチュウ)が置いてあるのを見たことがあるんです。その時「あぁ、遊び心あるなぁ」って感動して。遊び心って大事ですよね。テレビを楽しんで作ってる感じ。
――それこそまさに、フジバラエティという感じじゃないでしょうか。
鈴木 ムダなことに全力を傾ける(笑)。あとは反骨心じゃないですけど、常にマイノリティな部分を大事にしたいんです。だからゴールデンにはこだわらないし、なんなら15分に縮小されてもいい。とにかくじっくり手間暇かけて作りたいんですよ。“作品感”を出したいんです。
――DVD化などは?
広報 ないですね。
鈴木 もったいないな~! フルバージョンのDVD出したら絶対面白いのに!!
――フルバージョンすごそう!『アウト×デラックス』を見ていると、「もしかして私のほうがアウトなんじゃないか……」って思えてくるから不思議なんです。
鈴木 アウトな方たちの生き方が少しでも光って見えたら、こっちの勝ちなんだと思います。面白いのは、当初男性をターゲットに番組を作っていたんですけど、視聴率調査によると実際は女性のほうがよく見てくれているみたいで。男性は、やっぱり『アメトーーク!』に行っちゃうんですかね。
――以前、日刊サイゾーのインタビューで、加地倫三さん(『アメトーーク!』総合演出)は「フジテレビはバラエティ界の巨人軍」と言ってましたから、『アウト×デラックス』のことは相当意識されてると思います。
鈴木 そのインタビュー読みました。まったく、うまいこと言いますよね! でもそれは、王者だからこその発言ですよ。マツコさんが初回に「混乱のフジテレビだからこそのレギュラー化」って言ってましたけど、混乱だからこそできることもある。僕としては、もっと早くレギュラーになってもよかったと思います。2年前であれば、まだ同じような番組はなかったから。まぁないとは思いますけど、ゴールデンに移行するなんて話になったら、きっぱりやめますよ。面白くないだろうし。だから、この番組をゴールデンに昇格させるレベルの混乱状態には陥ってほしくはないですね(笑)。
――鈴木さんの夢はなんですか?
鈴木 そうですね……もうちょっと、ゆったり働きたいですね……。そしていつかアウト軍団だけで30分作ってみたい。田口くんや山下くん、柿沼さんたちの面白さを凝縮した30分が作れたら、この番組はもっと強くなるんじゃないかと思います。その延長上として「アウト総選挙」がね、中野サンプラザあたりでできたら素晴らしい。
――会場選びが……絶妙です(笑)。
鈴木 もちろん生放送で。
――だ、大丈夫ですか?
鈴木 大丈夫じゃない生放送ほど、見たいものはないじゃないですか。終わりはそれで。生放送でやらかしちゃって、終了と。
(取材・文=西澤千央)