ウザい女モノマネでブレーク! 横澤夏子「朝ドラのヒロインになったら、芸人は辞めさせていただきます!!」

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撮影=後藤秀二
 ある時は合唱に熱くなりすぎる音楽教師、ある時はバンドマン好きの女、ある時は3児を抱えるモーレツママ……。圧倒的な人間観察力で“いそうでいなそうで、でもやっぱりいそうな”ウザい女を憑依させる注目の芸人、横澤夏子。昨年からじわじわとテレビに進出、ルミネでの初単独ライブは即完売(※当日券アリ)と、売れる予感しかない彼女だが、芸人活動以上に夢中になっているものがあるようで……。 ――ルミネtheよしもと初単独ライブ『ダントツガール』即日完売、おめでとうございます! 横澤夏子(以下、横澤) ありがたいですぅ。ほんと、ニヤニヤしちゃう。天狗になっちゃう~! でも、ルミネでやるのが本当に夢だったんです。それが完売するなんて、思ってもみなくて。婚活パーティーで出会った男の人に、頭下げて来てもらおうと思ってたんですよ。 ――婚活パーティーでチケットを売る!? 横澤 新手の詐欺みたいでしょ? アハハハ~! ――ヨシモト∞ホールでの定期ライブ「横澤夏子の売れ活パーティー」は、今回ゲストにフリーアナの福澤朗さんがいらっしゃるんですね。 横澤 私、婚活パーティーにばっかり行っていて、年に40回行った時もあるくらい。婚活パーティーのはしごとかしてたんですよ。そんなことばっかりやってないで、売れるための活動“売れ活”もしろよ、ということで始めたライブです。売れてる先輩を呼んで「どうしたら売れますか~」って、おこがましく聞くという。新ネタをやったり、トークで人生相談したり、今回は福澤さんなので「どうしたら女子アナになれますか?」って聞いちゃおうっかなって思ってます。 ――インタビュー開始3分で、気になるキーワードがたくさん出てきているんですけど……。以前おかずクラブさんを取材したとき(参照記事)に「横澤夏子、キテるんですよ」ってお話しされてたんですよね。 横澤 ホントですか? 私の名前を出す余裕があるんだぁ(笑)。東京NSC 15期は、デニスとかマテンロウとか、ハーフに引っ張ってもらっている期なので、日本人も頑張ろうと。やっとおかず出てきてくれて。 ――横澤さんは実際お会いするとお肌もキレイで、間違いなく20代……という感じなんですが、正直テレビのネタを見る限り、確実に30代後半だろうなと思ってました。 横澤 それ、よく言われるんですよ。苦労顔なんですぅ。「お子さんいらっしゃるんですよね?」もよく言われますが、ベビーシッターの資格を持ってて、そういう仕事もしていたからですかね。いつ年齢が顔に追いつくんだろうって思ってます。 ――ネタのチョイスに、エグみがあるんですよね。お母さんが子どもをママチャリに乗せてるネタとか、育児経験がないとわからないような部分を攻めてくるので。 横澤 私、ああいうお母さんになりたいっていう憧れが強いんですよ。バスに乗ってる時に、自転車の後ろと前に子ども乗せて、一人は背負って犬も連れて、デイサービスに通っているお母さんを見たんです。あの状態でデイサービスへ……。ダンナのお母さんだろうな、子どもを会わせに行くんだろうな……と。たくましすぎる! うらやましい! そんな気持ちで作ったネタです。
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■イラつくな~って思う人がいると、ネタにして昇華 ――普段は、どんなところでネタづくりをしているんですか? 横澤 普通に友達とカフェでお茶してて、「バイト先に、こういう人がいてさ」と話すと「うちの会社にもいる!」ってなって、どんどん要素が加わって、ネタが完成されますね。だから、友達と一緒に作っている感じです。「その人って、こういうこと言いそうだよね」「やめて~!!」とか(笑)。私、ネイリストの同居人と5年間ルームシェアしてたんですけど、ネイリストはホント、“歩くネタ帳”ですよ(笑)。女社会でもがいてるので。 ――横澤さん、OL経験はあるんですか? 横澤 ないんです。大学にも行ってなくて、でも大学生活って、人生の夏休みって言われてるくらいじゃないですか。大学に行ってる友達がうらやましくて、“よし、私はバイトでたくさん人生経験しよう”と。バイトは20~30個やってましたね。はとバスの添乗員、ブライダル、ベビーシッター、テレアポ……そこで新しい人種に会って、イラつくな~って思う人がいると、1本のネタにしてライブでやるんです。その人も呼んで。 ――呼んじゃう(笑)。 横澤 しれっと「あのネタどうでした?」って聞くと、「面白かった~」って言うんですよ。アンタのことだよ!!(笑) ――性格悪っ!! 最高ですね。 横澤 それが友達バージョンの時もあって「夏子、この人を消滅させてください」って依頼を受けまして、そのターゲットでネタを作るんです。依頼主から「ありがと~、もうあの人は私の中で成仏しました~」って手を合わせられると、あぁやりがい感じるなって。 ――殺し屋じゃないですか(笑)。 横澤 だんだん友達が消えていってます。アハハハ~! 高卒で田舎から出てきて、マナーも何もわからないし、よしもとの規律しか知らなかったんですよ。東京という街を知るためにもこれは外に出ないと、と。習い事もたくさんやりましたね。 ――習い事も? 横澤 「ケイコとマナブ」に、無料のお試しレッスンが載ってるじゃないですか。これを月2で行くという目標を立てて、ハープとかフランス語とか、フランス行く予定もないのに(笑)。結局、残ったのがABCクッキングです。あと、クラシックバレエも始めました。 ――行動派ですね! 横澤 地元に「充実してるよ」「私リア充だよ」ということを見せつけるための材料です。 ――リア充への恨みつらみをモチベーションにするのではなく、見せつける。 横澤 そうです。それを上回っちゃえば、こっちのもんなんじゃないかと。でもね、どんどんハリボテみたいになっていくんですよ。ちっちゃい私を、すごく大きく見せてるから(笑)。
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■とにかく目立ちたくて、ミスコンにも応募 ――ご両親は、中学の先生とスクールカウンセラーだとお伺いしました。 横澤 堅いんですよぉ。しかも、私も小中高校ずっと生徒会長やっていて、超マジメ。中学生くらいの時にタカアンドトシさんを見て、お笑いというものを初めて知りました。こんな大勢の人を笑わせて、しかも有名になるなんて、すごい! って。私、有名になりたい、ただの目立ちたがり屋なんですぅ。生徒会長をやってたのも、先生に覚えてもらいたいから。同窓会で「えっと……名前が出てこないな」っていう子にだけは、絶対になりたくないと思っていたんです。それでいちいち先生に媚び売ったり、バレンタイン渡したり、ホントに男子に嫌われる女子ですよね。アハハハ~。 ――「面白い」と言われたいではなく? 横澤 ただ担任の先生に「教え子で~」って自慢されたい。何があったんでしょうね、私、学生時代に(笑)。地元での有名欲が高じて、ミスコンにも応募したんですよ。しかも去年、今年と。 ――結構最近じゃないですか! 横澤 市長さんにも直々に会いに行って、親戚にも根回ししたのに書類で落とされて。ウソでしょ? って。 ――貪欲ですねぇ……。 横澤 「ミスコン出身の嫁」っていうのもいいでしょ? ――「VERY」(光文社)にいそう。「私は全然応募する気なかったんですけど……」って言いながら。 横澤 「まさかグランプリだなんてぇ」って、ちょっと片足上げながらコート羽織るみたいな(笑)。 ――横澤さんにとって、婚活は本気なんですね……。 横澤 私、21歳のころから婚活パーティーに行ってたんですけど、その年だとあまり相手にされないんですよ。「何? マルチ?」とか言われて。で、こっちもたくさん行っているとだんだん理想が高くなってきて、男性のダメなところばっかりに目が行くようになるんです。料理取り分ける時に「よいしょ」って言う男の人に、「いやいや、重くないのに」とか(笑)。「LINEの写真、EXILEっぽいですね」って言ったら「俺、EXILEの最終の前の前の前までいったんだよ」とか。その人は「●●(苗字)ザイル」でLINE登録してますけど。 ――芸人だということは、明かしているんですか? 横澤 一応「保育関係の仕事」で申請して、後々「もうひとつお仕事やってまして」「え、何?」「芸人を……」これで相手がドン引きする。でも、それにめげず、しずしずと∞ホールのチケットを出して売るんです。 ――怪しまれて当然かと(笑)。 横澤 婚活パーティーで出会い、それからチケットを買ってくれるようになった男性たちもようやく140名を超えまして、その方たちだけでライブを開けるくらいになりました。 ――でも、今は仕事が忙しくて、婚活パーティーに行く時間もないのでは? 横澤 今年は絶対行かないぞ、逆に追われる恋をしてみようという目標を立てたんですけど、1月2日に行っちゃって(笑)。お餅つき婚活パーティーに。今回こそは、何かあるんじゃないかって思っちゃうんですね。「この時の出会いが……」っていう結婚式のプロフィールムービーが、頭の中で完成されちゃってるから。 ――「あまり乗り気ではなかったが、なぜかこの時は参加してみようと思った」的な。 横澤 そうそう、「●●さんとは婚活パーティーで出会い……」。いや、婚活パーティーは言いたくないな、“異業種交流会”にしときます! ――横澤さんが老成されてるのは、頭の中で多種多様な人生を生きてしまっているからなのですね……。100万回生きたねこですね。 横澤 いい表現~(笑)。
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■最終目標は、朝ドラヒロイン!? ――そんな横澤さんのネタは、女としては大爆笑なんですけど、男性にはどう映るんでしょうか? 横澤 それ、私も思うんです。私の単独ライブに来てくれる男の人を見ていると、よくこれで笑えるね、本当に性格悪いね、と。たぶん、結婚できない男たちなんだろうな~(笑)。やっぱり、若手の劇場に来るお客さんは男性芸人ファンが圧倒的に多いので、女芸人はいろいろ大変です。でも、私がこういう芸風だからか、出待ちの女の子に「あの……●●さん(若手芸人)って彼女いるんですか?」とか聞かれやすいんですよ。「いやぁ、いないと思うけど……頑張ってね!」と、決して取り次ぎはしないけど、保健室の先生みたいな動きをしていると、その子がお客さんになってくれたり。 ――これで、また1枚チケットがさばけると。 横澤 やっぱり若手にとって、チケット売りは生命線ですから。 ――横澤さんの系譜ですと、よしもとには友近さんがいらっしゃいますよね。 横澤 友近さんは大好きな人で、それこそ中学の時から見てました。だから、友近さんのお名前を出されると、恐れ多いですぅ。今、朝ドラ出てらっしゃるじゃないですか。私、物心ついたころから、朝ドラ1話も欠かさず見ているくらいの朝ドラファンなので、友近さんに初めてお会いした時も「うめさん~!」(編註:『あさが来た』での、友近の役名)って。 ――何かアドバイスはもらいましたか? 横澤 もうその背中だけで「女芸人は堂々と生きていかねばならない」と教えてもらっています。 ――横澤さんは、どんな芸人を目指していますか? 横澤 最終目標は、朝ドラのヒロインです! 朝ドラのヒロインになったら芸人辞めると、マネジャーさんにも話してます。本当に、朝ドラのヒロインのような人生を歩みたいんですよ。何かショックなことがあったとして、朝ドラって、だいたい木曜日にヒロインも落ち込むこと多いじゃないですか。だから「今日は木曜日の日だ。土曜日になったら、いいことが起きる」って思える。人生の指針なんです。何もない日は何もない日で「あぁ、今日は火曜日の日ね」と。自分が決して経験することのない人生を見せてくれるので、「もうひとつ人生増えた」っていうくらい感情移入しちゃうんですよ。「あれ、私いま銀行作ろうとして……ないよね……」って、錯覚しちゃう。今日行くのは炭鉱? それとも∞ホール? ――(笑)。 横澤 あとは、よく朝の番組で、視聴者からのお悩みに答える企画あるじゃないですか。あれに出てみたいです。人の家庭内のモメ事に首つっこみたい。そして、余計にややこしくさせたい。 ――横澤さんは、本当に人間が好きなんですね。生きてる人間が(笑)。 横澤 大好き。ネタの宝庫。友達の愚痴とか聞くのも大好きなんですよ。くだらなすぎる! まだ言ってる! って。 ――もう『あさイチ』(NHK)出るしかないですね。 横澤 朝ドラ出てからの『あさイチ』で。「来週は、結構進展ありますよ」とか言っちゃって。 ――「R-1」で優勝したいとか、そういう芸人的な目標は…… 横澤 もちろんあります! 今年こそ「R-1」で優勝したい。そして、地元に自慢したい。地元の友達で、化粧品店の副店長になった子がいるんですけど、その子に勝ちたいんです。肩書が欲しいんです! (取材・文=西澤千央) <<『横澤夏子の売れ活パーティー』公演概要>> 【開催日時】1月27日(水)開場18:45/開演19:00 【開催会場】ヨシモト∞ホール(渋谷) 【出演者】横澤夏子/ゲスト:福澤朗(ノースプロダクション) 【料金】前売1,500円/当日1,800円 【チケット】チケットよしもと Yコード:999-060       TEL:0570-550-100(お問い合わせ10:00~19:00)       WEB:<http://yoshimoto.funity.jp/> ※ラスト公演:2月24日(水)開場21:15/開演21:30  <<ルミネtheよしもと初単独ライブ『ダントツガール』公演概要>> 【開催日時】3月5日(土)開場19:00/開演19:30 【開催会場】ルミネtheよしもと(新宿) 【料金】当日2,500円 ※前売完売

ウザい女モノマネでブレーク! 横澤夏子「朝ドラのヒロインになったら、芸人は辞めさせていただきます!!」

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撮影=後藤秀二
 ある時は合唱に熱くなりすぎる音楽教師、ある時はバンドマン好きの女、ある時は3児を抱えるモーレツママ……。圧倒的な人間観察力で“いそうでいなそうで、でもやっぱりいそうな”ウザい女を憑依させる注目の芸人、横澤夏子。昨年からじわじわとテレビに進出、ルミネでの初単独ライブは即完売(※当日券アリ)と、売れる予感しかない彼女だが、芸人活動以上に夢中になっているものがあるようで……。 ――ルミネtheよしもと初単独ライブ『ダントツガール』即日完売、おめでとうございます! 横澤夏子(以下、横澤) ありがたいですぅ。ほんと、ニヤニヤしちゃう。天狗になっちゃう~! でも、ルミネでやるのが本当に夢だったんです。それが完売するなんて、思ってもみなくて。婚活パーティーで出会った男の人に、頭下げて来てもらおうと思ってたんですよ。 ――婚活パーティーでチケットを売る!? 横澤 新手の詐欺みたいでしょ? アハハハ~! ――ヨシモト∞ホールでの定期ライブ「横澤夏子の売れ活パーティー」は、今回ゲストにフリーアナの福澤朗さんがいらっしゃるんですね。 横澤 私、婚活パーティーにばっかり行っていて、年に40回行った時もあるくらい。婚活パーティーのはしごとかしてたんですよ。そんなことばっかりやってないで、売れるための活動“売れ活”もしろよ、ということで始めたライブです。売れてる先輩を呼んで「どうしたら売れますか~」って、おこがましく聞くという。新ネタをやったり、トークで人生相談したり、今回は福澤さんなので「どうしたら女子アナになれますか?」って聞いちゃおうっかなって思ってます。 ――インタビュー開始3分で、気になるキーワードがたくさん出てきているんですけど……。以前おかずクラブさんを取材したとき(参照記事)に「横澤夏子、キテるんですよ」ってお話しされてたんですよね。 横澤 ホントですか? 私の名前を出す余裕があるんだぁ(笑)。東京NSC 15期は、デニスとかマテンロウとか、ハーフに引っ張ってもらっている期なので、日本人も頑張ろうと。やっとおかず出てきてくれて。 ――横澤さんは実際お会いするとお肌もキレイで、間違いなく20代……という感じなんですが、正直テレビのネタを見る限り、確実に30代後半だろうなと思ってました。 横澤 それ、よく言われるんですよ。苦労顔なんですぅ。「お子さんいらっしゃるんですよね?」もよく言われますが、ベビーシッターの資格を持ってて、そういう仕事もしていたからですかね。いつ年齢が顔に追いつくんだろうって思ってます。 ――ネタのチョイスに、エグみがあるんですよね。お母さんが子どもをママチャリに乗せてるネタとか、育児経験がないとわからないような部分を攻めてくるので。 横澤 私、ああいうお母さんになりたいっていう憧れが強いんですよ。バスに乗ってる時に、自転車の後ろと前に子ども乗せて、一人は背負って犬も連れて、デイサービスに通っているお母さんを見たんです。あの状態でデイサービスへ……。ダンナのお母さんだろうな、子どもを会わせに行くんだろうな……と。たくましすぎる! うらやましい! そんな気持ちで作ったネタです。
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■イラつくな~って思う人がいると、ネタにして昇華 ――普段は、どんなところでネタづくりをしているんですか? 横澤 普通に友達とカフェでお茶してて、「バイト先に、こういう人がいてさ」と話すと「うちの会社にもいる!」ってなって、どんどん要素が加わって、ネタが完成されますね。だから、友達と一緒に作っている感じです。「その人って、こういうこと言いそうだよね」「やめて~!!」とか(笑)。私、ネイリストの同居人と5年間ルームシェアしてたんですけど、ネイリストはホント、“歩くネタ帳”ですよ(笑)。女社会でもがいてるので。 ――横澤さん、OL経験はあるんですか? 横澤 ないんです。大学にも行ってなくて、でも大学生活って、人生の夏休みって言われてるくらいじゃないですか。大学に行ってる友達がうらやましくて、“よし、私はバイトでたくさん人生経験しよう”と。バイトは20~30個やってましたね。はとバスの添乗員、ブライダル、ベビーシッター、テレアポ……そこで新しい人種に会って、イラつくな~って思う人がいると、1本のネタにしてライブでやるんです。その人も呼んで。 ――呼んじゃう(笑)。 横澤 しれっと「あのネタどうでした?」って聞くと、「面白かった~」って言うんですよ。アンタのことだよ!!(笑) ――性格悪っ!! 最高ですね。 横澤 それが友達バージョンの時もあって「夏子、この人を消滅させてください」って依頼を受けまして、そのターゲットでネタを作るんです。依頼主から「ありがと~、もうあの人は私の中で成仏しました~」って手を合わせられると、あぁやりがい感じるなって。 ――殺し屋じゃないですか(笑)。 横澤 だんだん友達が消えていってます。アハハハ~! 高卒で田舎から出てきて、マナーも何もわからないし、よしもとの規律しか知らなかったんですよ。東京という街を知るためにもこれは外に出ないと、と。習い事もたくさんやりましたね。 ――習い事も? 横澤 「ケイコとマナブ」に、無料のお試しレッスンが載ってるじゃないですか。これを月2で行くという目標を立てて、ハープとかフランス語とか、フランス行く予定もないのに(笑)。結局、残ったのがABCクッキングです。あと、クラシックバレエも始めました。 ――行動派ですね! 横澤 地元に「充実してるよ」「私リア充だよ」ということを見せつけるための材料です。 ――リア充への恨みつらみをモチベーションにするのではなく、見せつける。 横澤 そうです。それを上回っちゃえば、こっちのもんなんじゃないかと。でもね、どんどんハリボテみたいになっていくんですよ。ちっちゃい私を、すごく大きく見せてるから(笑)。
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■とにかく目立ちたくて、ミスコンにも応募 ――ご両親は、中学の先生とスクールカウンセラーだとお伺いしました。 横澤 堅いんですよぉ。しかも、私も小中高校ずっと生徒会長やっていて、超マジメ。中学生くらいの時にタカアンドトシさんを見て、お笑いというものを初めて知りました。こんな大勢の人を笑わせて、しかも有名になるなんて、すごい! って。私、有名になりたい、ただの目立ちたがり屋なんですぅ。生徒会長をやってたのも、先生に覚えてもらいたいから。同窓会で「えっと……名前が出てこないな」っていう子にだけは、絶対になりたくないと思っていたんです。それでいちいち先生に媚び売ったり、バレンタイン渡したり、ホントに男子に嫌われる女子ですよね。アハハハ~。 ――「面白い」と言われたいではなく? 横澤 ただ担任の先生に「教え子で~」って自慢されたい。何があったんでしょうね、私、学生時代に(笑)。地元での有名欲が高じて、ミスコンにも応募したんですよ。しかも去年、今年と。 ――結構最近じゃないですか! 横澤 市長さんにも直々に会いに行って、親戚にも根回ししたのに書類で落とされて。ウソでしょ? って。 ――貪欲ですねぇ……。 横澤 「ミスコン出身の嫁」っていうのもいいでしょ? ――「VERY」(光文社)にいそう。「私は全然応募する気なかったんですけど……」って言いながら。 横澤 「まさかグランプリだなんてぇ」って、ちょっと片足上げながらコート羽織るみたいな(笑)。 ――横澤さんにとって、婚活は本気なんですね……。 横澤 私、21歳のころから婚活パーティーに行ってたんですけど、その年だとあまり相手にされないんですよ。「何? マルチ?」とか言われて。で、こっちもたくさん行っているとだんだん理想が高くなってきて、男性のダメなところばっかりに目が行くようになるんです。料理取り分ける時に「よいしょ」って言う男の人に、「いやいや、重くないのに」とか(笑)。「LINEの写真、EXILEっぽいですね」って言ったら「俺、EXILEの最終の前の前の前までいったんだよ」とか。その人は「●●(苗字)ザイル」でLINE登録してますけど。 ――芸人だということは、明かしているんですか? 横澤 一応「保育関係の仕事」で申請して、後々「もうひとつお仕事やってまして」「え、何?」「芸人を……」これで相手がドン引きする。でも、それにめげず、しずしずと∞ホールのチケットを出して売るんです。 ――怪しまれて当然かと(笑)。 横澤 婚活パーティーで出会い、それからチケットを買ってくれるようになった男性たちもようやく140名を超えまして、その方たちだけでライブを開けるくらいになりました。 ――でも、今は仕事が忙しくて、婚活パーティーに行く時間もないのでは? 横澤 今年は絶対行かないぞ、逆に追われる恋をしてみようという目標を立てたんですけど、1月2日に行っちゃって(笑)。お餅つき婚活パーティーに。今回こそは、何かあるんじゃないかって思っちゃうんですね。「この時の出会いが……」っていう結婚式のプロフィールムービーが、頭の中で完成されちゃってるから。 ――「あまり乗り気ではなかったが、なぜかこの時は参加してみようと思った」的な。 横澤 そうそう、「●●さんとは婚活パーティーで出会い……」。いや、婚活パーティーは言いたくないな、“異業種交流会”にしときます! ――横澤さんが老成されてるのは、頭の中で多種多様な人生を生きてしまっているからなのですね……。100万回生きたねこですね。 横澤 いい表現~(笑)。
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■最終目標は、朝ドラヒロイン!? ――そんな横澤さんのネタは、女としては大爆笑なんですけど、男性にはどう映るんでしょうか? 横澤 それ、私も思うんです。私の単独ライブに来てくれる男の人を見ていると、よくこれで笑えるね、本当に性格悪いね、と。たぶん、結婚できない男たちなんだろうな~(笑)。やっぱり、若手の劇場に来るお客さんは男性芸人ファンが圧倒的に多いので、女芸人はいろいろ大変です。でも、私がこういう芸風だからか、出待ちの女の子に「あの……●●さん(若手芸人)って彼女いるんですか?」とか聞かれやすいんですよ。「いやぁ、いないと思うけど……頑張ってね!」と、決して取り次ぎはしないけど、保健室の先生みたいな動きをしていると、その子がお客さんになってくれたり。 ――これで、また1枚チケットがさばけると。 横澤 やっぱり若手にとって、チケット売りは生命線ですから。 ――横澤さんの系譜ですと、よしもとには友近さんがいらっしゃいますよね。 横澤 友近さんは大好きな人で、それこそ中学の時から見てました。だから、友近さんのお名前を出されると、恐れ多いですぅ。今、朝ドラ出てらっしゃるじゃないですか。私、物心ついたころから、朝ドラ1話も欠かさず見ているくらいの朝ドラファンなので、友近さんに初めてお会いした時も「うめさん~!」(編註:『あさが来た』での、友近の役名)って。 ――何かアドバイスはもらいましたか? 横澤 もうその背中だけで「女芸人は堂々と生きていかねばならない」と教えてもらっています。 ――横澤さんは、どんな芸人を目指していますか? 横澤 最終目標は、朝ドラのヒロインです! 朝ドラのヒロインになったら芸人辞めると、マネジャーさんにも話してます。本当に、朝ドラのヒロインのような人生を歩みたいんですよ。何かショックなことがあったとして、朝ドラって、だいたい木曜日にヒロインも落ち込むこと多いじゃないですか。だから「今日は木曜日の日だ。土曜日になったら、いいことが起きる」って思える。人生の指針なんです。何もない日は何もない日で「あぁ、今日は火曜日の日ね」と。自分が決して経験することのない人生を見せてくれるので、「もうひとつ人生増えた」っていうくらい感情移入しちゃうんですよ。「あれ、私いま銀行作ろうとして……ないよね……」って、錯覚しちゃう。今日行くのは炭鉱? それとも∞ホール? ――(笑)。 横澤 あとは、よく朝の番組で、視聴者からのお悩みに答える企画あるじゃないですか。あれに出てみたいです。人の家庭内のモメ事に首つっこみたい。そして、余計にややこしくさせたい。 ――横澤さんは、本当に人間が好きなんですね。生きてる人間が(笑)。 横澤 大好き。ネタの宝庫。友達の愚痴とか聞くのも大好きなんですよ。くだらなすぎる! まだ言ってる! って。 ――もう『あさイチ』(NHK)出るしかないですね。 横澤 朝ドラ出てからの『あさイチ』で。「来週は、結構進展ありますよ」とか言っちゃって。 ――「R-1」で優勝したいとか、そういう芸人的な目標は…… 横澤 もちろんあります! 今年こそ「R-1」で優勝したい。そして、地元に自慢したい。地元の友達で、化粧品店の副店長になった子がいるんですけど、その子に勝ちたいんです。肩書が欲しいんです! (取材・文=西澤千央) <<『横澤夏子の売れ活パーティー』公演概要>> 【開催日時】1月27日(水)開場18:45/開演19:00 【開催会場】ヨシモト∞ホール(渋谷) 【出演者】横澤夏子/ゲスト:福澤朗(ノースプロダクション) 【料金】前売1,500円/当日1,800円 【チケット】チケットよしもと Yコード:999-060       TEL:0570-550-100(お問い合わせ10:00~19:00)       WEB:<http://yoshimoto.funity.jp/> ※ラスト公演:2月24日(水)開場21:15/開演21:30  <<ルミネtheよしもと初単独ライブ『ダントツガール』公演概要>> 【開催日時】3月5日(土)開場19:00/開演19:30 【開催会場】ルミネtheよしもと(新宿) 【料金】当日2,500円 ※前売完売

「待たせたな──」最高の仕上がりで挑む、地下格闘技“希望の星”渋谷莉孔がいよいよ中国へ殴りこみ!

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中国へ出発する前日、所属ジムの「和術彗舟會HEARTS」にてフィジカルメンテナンスを入念に行う。
 シブリク、いよいよ中国へ出陣!――地下格闘技出身で世界を舞台に活躍中の渋谷莉孔(30)が、今月23日(土)、中国・湖南省長沙市のSWCスタジアムで行われるアジア最大の格闘技イベント『ONE WUJIE〜DYNASTY OF CHAMPIONS』に参戦する。昨年12月にマレーシアで行われる予定だった試合は自身のケガにより流れてしまったが、その悔しさをバネに年末年始、特別強化トレーニングを重ねてきたという渋谷。「以前とは比べものにならないほど強くなった」と自画自賛する最高の仕上がりで海外3戦目に臨む。 * * *  渡航直前の渋谷に、インタビューを行った。 ――今回の対戦相手は、フィリピン人のロイ・ドリゲス。いったいどんな選手でしょう? 渋谷 ボクシングベースの選手ですね。ボクシングで50戦ぐらいしてから、総合(格闘技)に転向したらしいです。彼は前の試合でストロー級のタイトルマッチに挑んで敗れてるんですが、その動画を見る限り、「いいところが消えてしまってるかな」という印象ですね。ボクシング中心で勝負すりゃいいのにタックルを盛んに取り入れたりして、長所が消えちゃってる。まぁそれから1年近く経ってるんで、修正してる可能性もありますけど。 ――相手の身長は163㎝。渋谷選手より7㎝低いです。 渋谷 相手のほうがちっちゃいんで、こっちからタックル行くのは面倒だなってのはあるけど、打撃は基本、上背に勝るこっちのほうが有利でしょうね。そのへんの読みが大きく狂わなければ大丈夫。軽量級なんでスピードがあるのは当然として、あとはどれくらい力があるか。こればっかりはやってみないとわからないです。 ――急な試合決定でしたが、体重調整は大丈夫ですか? 渋谷 最近のONEの大会で、無理な減量をした選手が脱水症状で亡くなる事故が起きまして。その影響で今回からいろいろ厳しい減量制限が加わったんですよ。現地のホテルに着いた瞬間から試合当日の入場前まで何度か計量があって、100グラム200グラムも増やせないし落とせない、みたいなシステム。尿検査もプラスされて、尿が薄まったり濃くなったり量が減ったりしたらアウトという難しい条件で、このシステムのほうが死ぬんじゃないか、っていう(笑)。どうなることやらって感じですけど、やるしかないですね。 ――試合は何分何ラウンドですか? 渋谷 5分3ラウンドです。5ラウンドよりも、3ラウンドのほうが好きですね。そっちのほうが時給が高いんで(笑)。 ――昨年11月に骨折したアバラは大丈夫ですか? 渋谷 完治しました。それまで全然使ってなかった肋骨周りの筋肉も鍛え始めたんで、今後は打たれてもケガには繋がりにくいと思います。
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――昨年末から、新しいトレーニング方法を取り入れたそうですね。 渋谷 パッキャオやデラホーヤにフィジカル指導した経験もある池田充宏先生のもとで強化トレーニングを始めました。それによって、ものの考え方から、体の使い方、練習方法、食生活まで、ガラッと変わりましたね。 ――主にグレードアップした点は? 渋谷 全部ですね。すべてにおいて、以前とは比べものにならないほど強くなりました。車にたとえると、モデルチェンジなんてもんじゃない。車から電車に生まれ変わったような感じです。 ――それは見ものですね。平直行さんとの対談(記事参照)で課題とされた「相手をやっつける戦い方」「観客を楽しませる戦い方」もクリアできそうですか? 渋谷 つまりは自分が強くなって、相手との力の差が大きくなれば、派手にKOできて、結果的に面白い試合になる。今回、体の鍛え方を変えることによって爆発力も増したから、期待してもらって大丈夫です。練習でもホント、相手を吹っ飛ばせるようになりましから。平さんから教わった「必殺のヒジ打ち」も要所要所で使うつもりです。 ――中国で戦うことについては? 渋谷 日本と一緒でこの時期は寒いので、そこはプラスかも。相手はフィリピン人なので、寒いとこでは動きが鈍くなるはず。ブラジル人のアドリアーノ・モラエスが北京でカザフスタン人とやったときは最初、体が動かず、体重も落ちなかったらしいです。暑い国の人が中国で試合をするのは不利でしょう。 ――中国は反日感情があるため、ブーイングを浴びるかも。 渋谷 対戦相手が中国人だったらすごそうだけど、今回はフィリピン人だから、どうなんでしょうね。まぁ、あったとしても気にしないです。むしろ最初はブーイングがあるぐらいのほうがいいかも。それをひっくり返すのが楽しいから。
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戦闘態勢完了!
――最後に、ファンへメッセージをお願いします。 渋谷 「待たせたな」「今回俺の試合を見れるおまえらはホントに幸せもんだな」って言いたいです。逆に、もし今回の試合で実力を出せなかったら俺はホントに運が悪い、って思いますね。 ――どういう意味ですか? 渋谷 それぐらい今の自分は強くて調子がいい、ってことです。生まれ変わった今の自分をみんなに見せたくてしょうがない。お披露目パーティーみたいなもんですね。早くベールを脱ぎたいです。だから試合前の事故や風邪には十分気をつけます(笑)。 ――非常に楽しみです。今日はありがとうございました。  当日の試合は下記URLからライブストリーム(9.99ドル)で観戦可能。日本からも大きな声援を送ろう!  http://onefc.com/livestream (取材・文=岡林敬太) 大会……ONE WUJIE〜DYNASTY OF CHAMPIONS(CHANGSHA) 会場……SWCスタジアム(中国・湖南省長沙市) 会期……2016年1月23日(土)18:30(現地時間)※日本との時差は1時間

「僕は狂ってない」 TBS『クレイジージャーニー』で話題の写真家・佐藤健寿が語る、10年間の奇妙な冒険

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 タイや台湾の奇っ怪な寺から、中国の洞窟村、ギリシャのオーパーツ、そしてカザフスタンの宇宙基地まで……世界中のあらゆる奇妙な場所やモノを巡ってきた写真家・佐藤健寿氏。「奇界遺産」というジャンルを確立した彼が12月に刊行した書籍が、奇界遺産をめぐる旅を文章で記録した『奇界紀行』(角川書店)だ。  アルゼンチンのUFO村を訪れ、インドでサイババを目撃し、漫画家・諸星大二郎とパプアニューギニアを訪れた日々などなど、世界22カ所の旅の記録を詰め込んだ本書には、佐藤氏の代表作『奇界遺産』(エクスナレッジ)とは打って変わって、文字で楽しむ奇妙な旅が展開されている。  いま話題の伝聞型紀行バラエティ『クレイジージャーニー』(TBS系)にもたびたび出演し、知名度も急上昇中の佐藤が、10年にわたる奇界な旅を振り返る!  ――本書では、『奇界遺産』などで発表された旅を、文章によって詳細に描いた一冊です。 佐藤健寿(以下、佐藤) 『奇界遺産』では、場所そのものにフォーカスしているので、旅の過程や旅の中で感じた思いを詳しく書いてなかったんです。ただ、旅の最中に日記をつけていたり、雑誌などで旅の記録を文章で残していたので、本書ではそのような原稿をまとめて大幅に加筆修正を施しました。 ――文字によって佐藤さんの旅が描かれると、『奇界遺産』とはまた別の旅を追経験できるようですね。 佐藤 ただ、基本的に、あまり文章を書くのが好きじゃないんです……。 ――そうなんですか!? 佐藤 写真に比べると、大変じゃないですか(笑)。それに、取材地優先でやってるので、よく紀行文に描かれるような食に対するこだわりとか、旅先でのトラブルには興味がなくて、旅の過程が淡白なんです。それを求めて旅してるわけではないですから。帯に「見るもの、出会う人、みな奇妙。」と書いてますが、紀行文としても奇妙なものになりましたね。 ――とことん奇妙なものにしか興味がないと(笑)。本書には台湾の奇妙なお寺から、チェルノブイリやブータンまで、さまざまな旅の記録がつづられています。あらためて、佐藤さんの興味の幅を感じさせますね。 佐藤 タイや台湾のお寺は奇妙ですが、チェルノブイリはジャーナリズムっぽいし、ブータンは普通の旅行記っぽい。いわゆる、バックパッカーの旅行本のようなものでもない。旅業界もいろいろな系統がありますが、どこに行ってもわりとアウトサイダーで、バックパッカー系のイベントに呼ばれても違和感があるし、オシャレな場所に呼ばれても異物感がある。そういうのが、この本にも出てるかもしれないですね。
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漫画家・諸星大二郎氏と訪れた、パプアニューギニア(本書より)
――本書に掲載されている中で、特に思い入れのある場所はどこでしょうか? 佐藤 10年前にインドに行った時の記録は、もともと誰に見せるためでもない日記として書いていたので、素直に旅の感想をつづっています。今回の本のために加筆はしましたが。あとは、タイで溺れかけた話ですね。人生で一番死にかけた状況だったんですが、必死だったのであまり覚えていない(笑)。後で思い出しつつ、苦労しながら文章にしました。 ――10年間の旅を振り返って、何かご自身の中で変化はありましたか? 佐藤 行きたい場所のハードルが上がってきた、というのはありますね。パッと思いついて簡単に行ける場所が少なくなってきた。行きたい場所はもちろんあるけど、時間も費用もかかって、何カ月も前から申請しなきゃいけない。どんどんハードルが上がってきていますね。もちろん、冒険家ではないので、身近な場所にある奇妙なものも、もっと探していきたいとは思いますが。 ――こんなにたくさんの奇界を見ていると、少し感覚がマヒしてしまう部分もありますか? 佐藤 それは当然あると思いますし、何かと比べちゃうってのはありますね。ある仏像を見たときに、“あの仏像のほうが大きかったな”とか。ただ、少数民族からロケットまで、僕が扱ってる範囲ってけっこう広いので、その都度、ジャンルを変えて、飽きないようにやってます。 ――思わず笑ってしまうような場所も多いので誤解してしまいがちですが、佐藤さんの文章からは、考えを巡らしながら真摯に旅をする様子が伝わってきます。 佐藤 『クレイジージャーニー』(TBS系)に出ているほかの旅人たちもそうですが、本当に狂ってる人って、多分、こういう旅はできないんです。現地に行くと、すぐに危ないことになってしまいますからね。だから、クレイジーなことをやってる人ほど、ある意味では緻密で慎重な人が多いと思います。ただ、行く場所がおかしいだけなんです(笑)。 ――スラムを旅する丸山ゴンザレスさんや、アラスカの写真家・松本紀生さんなど、本当にみなさん“クレイジージャニー”ですよね。 佐藤 謙遜するわけではないんですが、あの番組の中で、僕は一番普通の人間だと思います。行く場所は狂ってるかもしれませんが、至ってまともな人間なんです。10年も旅を続けているから、それなりにはおかしいかもしれませんが……。 ――だいぶおかしいと思います! 佐藤 旅人も、あのレベルまで行くと、もはや比べようがないんです。アラスカとスラム、どちらがすごいかなんて、わかりません。そもそも、僕もそうなんですが、あの番組に出ている人たちは、ほかの人が何をしているかにあまり興味がない。ただ、自分がやりたくてやっているだけなんです。緻密でわけわかんないことやっているっていうのが、唯一の共通点ですかね。
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西アフリカ・トーゴ「呪術師の市場」(本書より)
――テレビだからこそ、取材できた場所ってあるんですか? 佐藤 テレビだからこそというわけではないですが、逆にテレビでよくできたな、というのは廃墟ですね。廃墟って、個人で行く分には簡単というか、基本的にはみんな無許可で、勝手に侵入して撮っている場合が多いんですよ。テレビでなぜ今までやらなかったかといえば、許可取りがめちゃくちゃ難しいから。テレビだから不法侵入はできないし、そもそも誰が許可を持っているのかもわからない。けれど、僕が番組で行った4カ所の廃墟は、運よく許可が取れたんです。事前にロケハンして、タレントさんを連れて行って、「はい撮ります」というのとは違って、リアルな廃墟探検の様子を番組で公開できたのは、画期的なことなんじゃないかと思いますね。ありていなテレビ番組として見せるんじゃなくて、廃墟写真家とかそういう人たちが普段やってるやり方で、そのまま番組として放送できたのは、僕としても面白かったです。 ――書籍だけでなく、テレビ、ラジオなどさまざまな方面に活動の幅が広がり、「奇界遺産」というジャンルもすっかり確立されましたね。 佐藤 僕は別にマニアだけに向けているわけではなくて、むしろ変わったものを、全然興味がない人たちにこそ見てもらいたい。だからテレビに出てるというのもあります。最近も、歌舞伎町歩いてたらホストみたいな人に声かけられて「番組見て、本買いました。共産党ホール、やばいっすね」って言われて、つくづくやっててよかったなと思いましたね(笑)。 ――今後、どんなことにチャレンジしてみたいですか? 佐藤 幸い、テレビ番組でもラジオ番組(NHKラジオ第一『ラジオアドベンチャー奇界遺産』)でも割と自分がやりたいようにやらせてもらっています。ただ、昨年は意図していろいろなことに手を出した時期だったので、今年はもう一度初心に戻って本を作りたいですね。 ――待望の『奇界遺産3』ですか!? 楽しみにしています! (取材・文=萩原雄太[かもめマシーン]) ●佐藤さん今後の予定 1/27(水)『クレイジージャーニー』DVD発売 1/29(金)「TRANSIT 佐藤健寿 特別編集号 美しき不思議な世界」発売 1/29日(金)~2/8(日) 写真展「From Caves to Spaces」(中目黒Roots to Branches)を開催 2/5(金) TRANSIT特別編集号「美しき不思議な世界」発売記念トークイベント(代官山蔦谷書店) 公式サイト<http://kikai.org/> Twitter <https://twitter.com/x51>

「たぶん、商業漫才、商業コントは一生作れない」21年目に開催した“野性爆弾20周年ライブ”の顛末

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 2015年、野性爆弾が「結成20周年記念」と銘打ったライブを敢行した。野爆の前に野爆なく、野爆の後に野爆なし、と言ってみたくなるほど、お笑い界の獣道を超然と歩むこのコンビがそんなベタなライブを打つとは、四十路を超えて何か心境の変化が……!? ※なお、20周年ライブで“くーちゃん”こと川島邦裕氏が「くっきー」に改名することを突如発表したため、本稿でも「くっきー」で統一しています。 ――20周年、おめでとうございます。 くっきー ありがとうございます。ただ、ほんまは20周年じゃないんですよ。2015年で21周年。 ロッシー そこはほんま謝らなあきません。 ――そうだったんですか? 「20周年記念ライブ」と銘打ってたんで、てっきりそうなのかと。 くっきー 一昨年、仲いい社員に「20周年記念ライブやってください」と頼まれていたのを、恥ずかしいから断っていて。それが15年に、「21周年で」と言われたので、じゃあ1年ずらしたし、やるわと。そこでキリいいから、20周年ということにして。 ロッシー 後輩に「あれ、野爆さん、20周年でしたっけ?」と聞かれるたび、ドキドキしてました。 ――20周年ライブは、僕もチケット買ってルミネの最前列で見てました。最後、会場が少し感動的な空気になっていたような……。 くっきー でも楽屋戻って相方と抱き合って泣いてるわけじゃないですからね(笑)。なんなら21周年やし。結構やり終えた感はありましたけど。 ――そこはいつもとは違った。 くっきー いつものライブはネタって感じじゃなくて、コーナーばかりなんで。先輩後輩集めて、ざれざれ遊んでるだけ(笑)。 ロッシー わちゃわちゃやってます。 くっきー その点、新ネタだけのライブは緊張するというか、ピリッとしますよね。でも腰重たいんです。〆切に追われないとやらんタイプで……。 ――ネタはどれぐらいで作ったんですか。 くっきー ネタ作りでいうと2日ぐらいです。 ロッシー 僕はネタできるまでなんもなかったんですけど、ネタできてからは早かったですね。1カ月ほど前から「合わすんで、来てください」と呼ばれて。 くっきー それまでは社員さんが会議室おさえて、箱詰めですよ。小道具作りにも1日取られて、監禁ですわ。地獄ですわ。ただ社員さんも「悪い」って気持ちが働くのか、甘いもんを差し入れてくれるのが、疲れてる時にオアシス的な存在になりまして……(笑)。うまいこと踊らされましたね。気がついたら作ってた。 ――20周年ライブはリズムネタや漫才もある中で、幕間に流れる映像が一番強烈でした。 くっきー 師匠のモノマネね。似てたでしょ? ――似てる・似てないという価値観で見てなかったですよ(笑)。オール巨人師匠や欽ちゃんが顔白塗りで……。 ロッシー DVDに入ってますからね。見てない人は、ぜひそっちで見てほしい。 ――あんな大胆な映像が入ってるんですか。怒られません? くっきー 大師匠がうちのDVDなんて見ないですよ!(笑) 絶対にばれない。 ロッシー そうですね。今のところ近場の巨人師匠にも届いてませんし。 ――そのDVDの見どころを教えてください。 くっきー マジメなコントはないんで、気負って見てほしくないです。「キングオブコント」のようなシリアスな大会に出るコントではないんでね。 ロッシー みんなで集まって、話のネタにでもするような感じで。 くっきー 柔らかい脳みそで、いいちこでも飲みながらゆっくり見ていただきたい(笑)。
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●「賞レース出たいですよ、それは。だって有名になるんでしょ?(笑)」 ――「キングオブコント」といえば、野性爆弾さんって賞レースの印象がないんです。若手の頃って参加してました? くっきー してましたよ。 ロッシー でも本人が出たいと言っても、なかなかエントリーしてくれないんですよね。「ムリやろ」って。できへんヤツが「進学したい」と言い出したみたいな感じなんです(笑)。 くっきー 「M-1」始まった時もマネジャーに「出てみるわ」と言うたら、「はいはい、わかりました」でエントリー表を渡されないまま終わっていく。それでも「M-1」出た時は3回戦で落ちたのかな。 ――「M-1」に出てたんですか。意外です。 くっきー 芸歴10年目、最後の年に出ましたね。手に寿司乗せて回るというネタやったんですよ。漫才に慣れてなくて距離感わからんから、マイクに手がバーンと当たって、そのままセンターマイクが客席に倒れて。悲鳴の上がる中、僕たちの「M-1」は終わりました(笑)。「キングオブコント」も一回、準決勝までいきましたし。今は出てませんけど。 ロッシー 予選の最後、うちらがコントやるのがボケみたいになってるんですよ。MCのあべこうじ君にいじられて、密着のカメラもついて「名前呼ばれへんやんけ! なんやこれ!」で帰るノリができあがってるみたいな。 ――「俺たちに賞レースは関係ないぜ」というポリシーを持って、参加しないものかと勝手に思ってました。 くっきー 出たいですよそれは。だって有名になるんでしょ?(笑)フフフ。 ロッシー 結局、バッファローさんがくれる賞(バッファロー吾郎が主催する「BGO上方笑演芸大賞」)しかもらってないですね。 くっきー 20周年ライブは「キングオブコント」を狙えるネタや営業で出稼ぎできるネタを目指してたんです。でも作りだしたら気持ち悪くて作られへんで、ああいう形になってしまう。結果、どこにも出せない。 ――今、営業で出稼ぎできるネタはあるんですか。 ロッシー それが営業用のネタが1本あるんです。奇跡的に。 くっきー 前半は結構かわいい、ベタな感じの歌ネタで。そこに「俺も歌いたい」と言い出して、急に弩級の下ネタを放り込みます(笑)。それに相方がキレてケンカになって、僕が鳥になって飛んでいく。 ロッシー で、僕が一人残される。 ――ほとんど野爆さんのコントのような……。 くっきー 反応は悪くないです。下ネタで一瞬お客さんが沈んでも、相方がキレるためのフリなんで、少しヒャッと引いたほうがいいんですよ。ヒャッとなりすぎると大変ですけど。15年ぐらいそれやって、もう目つむってもできます(笑)。
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●「大阪時代はクソみたいな扱いだったのが、東京出たら変わりました」 ――今、野爆さんは芸歴21年ですか。東京出てどれぐらい経ちます? ロッシー 僕ら大阪に14年いたんで、7年ですかね。結構しんどい時期に上京しまして。 くっきー レギュラーで出ていた劇場(うめだ花月)がつぶれることになったんです。そこは僕らと先輩の世代がメインだったんですけど、次にできる少し大きめの劇場(京橋花月)は師匠や中堅も出るよと。その話聞いて「それはだりーな」と(笑)。気を使うし、「おはようございます!」と元気に挨拶するのは面倒くせーじゃないですか。 ロッシー その「これからどうする?」のタイミングで、『やりすぎコージー』(テレビ東京)の正月特番で今年もっとも売れる吉本芸人を占ったら、くっきーさんが選ばれたんですよ。じゃあこのタイミングで東京に出ようかと。 ――東京出てきて、仕事は変わりました? くっきー まあまあとんとん拍子にテレビ出て、顔さされるようになりましたね(笑)。 ロッシー 大阪ローカルから全国区の番組に一本出ると、その差だけでだいぶ効果ありましたね。大阪時代はクソみたいな扱いだったのが、東京出たら変わりました。 くっきー 大阪で全然呼ばれなかったテレビ局がすぐ呼んだりして。「わかりやすいなー。はいはい」と(笑)。 ロッシー 急にホテルとってくれるようになったり。何もこっちは変わってなくて、「先月までおったで」って話ですけどね。 ――逆輸入というやつですね。「クソみたいな扱い」と言われましたが、バッファロー吾郎さんが、「大阪時代、ケンコバと野爆は吉本から見放された存在だった」と言われていて。 くっきー 本当、仕事はなかったですね。劇場、たまにテレビ、年にいっぺん『オールザッツ』。 ――『オールザッツ漫才』で披露する野爆さんのコントは輝いてたじゃないですか。 くっきー そうなんです。そこで輝いて、その名残で少し仕事もらえて、くすんできたらまた『オールザッツ』みたいな。その繰り返しでした。 ロッシー バイトもしてましたし。僕はダーツバーで。 くっきー 僕も先輩のカラオケボックスで働いてましたね。だけど、子どもできるとお金必要じゃないですか。そうなると「もっとわかりやすい漫才にしようかな」と思った時期あるんです。商業漫才。お金を稼ぐマニー漫才を(笑)。 ――悪い言葉ですねえ。 くっきー でもできなかったです。なんか違いました。丸みを帯びようとしたら、できなかった。
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●「ロック畑育ちなんでね、どうしてもネタにメッセージがね」 ――チャンスをつかんだのはいつなんですか。 くっきー 東京出るギリギリぐらいの時期、ヨシモトファンダンゴTVで『野爆テレビ』(07~08年)が始まったんですよ。それが東京のほうに流れて、それから呼ばれるようになりまして。 ――石野卓球さんが絶賛してた番組ですね。あと上京当時の『笑う妖精』(テレビ朝日/09~10年)も印象に残ってます。 くっきー あの番組はでかかったですね~。 ――そのおかげで商業漫才に進まずとも生活できるようになったと。 くっきー でも今もギリギリですよ……。(編集とライターに向かって)月5万円ずつ振り込んでくださいよ(笑)。 ロッシー それは助かりますわ。 くっきー 年とったら国に金入れること多くなったんでね。「健康保険、こんな払うんかい!」って。 ――それはこっちも同じですよ(笑)。年を重ねて、ネタは変わりました? くっきー 丸くなったりですか? それはないです。昔と変わりません。たぶん、商業漫才、商業コントは一生作れないでしょうね。 ――野爆さんのコントって何が核になってるんでしょうね。 くっきー ストーリーは大事にしてますし、あと意外とメッセージが入ってる。気づかなかったでしょ? ――メッセージ……。入ってましたっけ? くっきー 入ってますよ! 「ゴミを捨てるな」みたいなメッセージが。まあロック畑で育ってるんで、どうしても入ってしまいますね。ずっと僕の横にはロックがあったんで。 ――どんなミュージシャンに影響受けたんですか? くっきー 光GENJIとか(笑)。 ロッシー おかしいですね。ロックないですね。アイドルなのにローラースケートはいてるぐらいですよ、ロック感は。 くっきー そこな。そういう反骨精神な。遊ぼうよパラダイス、っていうタイトルでしたっけ? ――それ歌い出しですね。飛鳥涼さん作詞の。 くっきー ああ……。ね! ロッシー これ何も知りませんね(笑)。 (取材・文=鈴木工/撮影=市村岬) ■DVD情報 野性爆弾 20周年記念単独ライブDVD 『野性爆弾 初! ネタのみGIG』 タイトル通り、野性爆弾にとって初となったオール新ネタライブの様子をDVD化。特典映像には、突如「くっきー」に改名したくーちゃんこと川島の改名発表の裏側を収録 http://goo.gl/kWRO9I

井上監督が語る『あまちゃん』とトンネルの向う側 音楽ロードムービー『LIVE!LOVE!SING!』が劇場公開

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福島で被災した朝海(石井杏奈)たちは各地に散り散りになって生活を送っていた。高校の卒業を控え、小学校の同窓生たちと母校を再訪する旅に向かう。
 2013年に放映されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』からは能年玲奈、橋本愛、福士蒼汰、有村架純ら新世代のスターたちが次々と飛び出していった。そしてドラマ、歌、笑いといったエンターテイメントが社会に大きな影響を与えることを改めて実証してみせた。東日本大震災と福島第一原発事故によって、長らく自粛モードにあった日本社会に明るさをもたらしたメモリアルな作品だった。その『あまちゃん』をチーフ演出として世に送り出したのが、井上剛ディレクター。阪神淡路大震災を扱った『その街のこども 劇場版』(11)も高い評価を受けている。監督第2作となる『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』は『あまちゃん』の舞台となった東北地方、そして『その街のこども』の舞台・神戸を繋ぐ音楽ロードムービーだ。『あまちゃん』のヒロイン・天野アキの運命にも大きく関わった3.11のその後を井上ディレクターはどう描いたのか? 『あまちゃん』ブームを振り返りつつ、本作を通して震災後の社会について語ってもらった。 ──本作は2015年3月に一度オンエアされたドラマですが、映画館という密閉された空間で観ることで、様々な感情を反芻することになる。震災から5年近く経ったけれど、この国は変わったのか? 自分は何をやっていたのか? 無人化してしまった被災地の風景を見つめながら、いろんな想いが渦巻きます。 井上 そんなふうに感じていただけて、うれしいです。一度放送したものに26分追加して、100分に再編集したものですが、観る人によって、いろんな風景をスクリーンの中に見つけてもらえればなと思っているんです。 ──井上ディレクターにとって、代表作である『あまちゃん』と『その街のこども』を繋いだ作品となっていますね。 井上 自分が作った作品なので、繋がっていると言えば繋がっていますが、どちらも自分で企画した作品ではないんです。「こういう企画あるけど、どう?」と打診されて、引き受けたわけです。受けたのは自分ですけど、進んで被災地をテーマにした作品を撮りたがる人はあまりいないんじゃないですか。2010年に阪神淡路大震災15年特集ドラマとして『その街のこども』を作り、そして東日本大震災が起きた。2011年3月は僕がチーフを務めていた『てっぱん』が放映中で、クライマックス部分の放映が1週間休止になり、とても印象に残っています。『あまちゃん』の音楽も担当した大友良英さんが福島出身だったので、気になって福島まで訪ねたりもしました。その年の夏には『あまちゃん』の企画が持ち上がって、宮城出身の脚本家・宮藤官九郎さんと「明るいドラマをやりたいよね」って話をしていましたね。まぁ、それで今の世の中を描くのなら、震災をなかったことにできないよねみたいなことをプロデューサーも交えて話し、『あまちゃん』は内容がまとまっていった感じです。『あまちゃん』を撮ったので東北地方には愛着がありましたし、『その街のこども』を撮った神戸にもまた行けるので、本作の企画も受けたんです。
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「人と人との間には溝があって当たり前。そんな溝や理不尽さを抱えながら、僕たちは社会と向き合うことになる」と井上剛ディレクター。
──『あまちゃん』は日本中に明るい笑いを届け、社会現象にもなりましたが、井上ディレクターはあの大ブームをどのように感じていたんですか? 井上 今もまだ、うまく客観視できていません。撮っている間に「騒がれているらしいぞ」とは耳にしていたんですが、目の前の撮影に追われて喜んでいる余裕がまったくなかった(笑)。全然、ブームになった実感がないんです。宮藤さんも脚本を書き終わって、かなり時間が経ってから『あまちゃん』人気は火が点いたので、あまり実感ないみたいですね。何だったんでしょうね(笑)。正直にやったのがウケたのかな。 ──ドラマはフィクションなわけですが、正直さがウケたとは……? 井上 通常のドラマだと田舎は美しい故郷として語られるわけですが、『あまちゃん』では田舎のイケてなさをそのまま素直に描いたんです。でも、イケてないことを『あまっちゃん』は「残念な」という言葉で表現したことで、どこか愛らしく伝わったんじゃないですか。田舎は賛美すべき場所ではなく、残念な場所だと。正直に描いたことでドラマとして表現の幅が広がった。役者のみなさんもそこに乗って、さらに正直なお芝居をした。小泉今日子さん演じた天野春子は若い頃はアイドルを目指していたという現実とリンクするような設定になっていたので、観るほうも感情移入しやすかったんでしょう。何よりも天野アキ役の能年玲奈さんはまさに透明度がそのまま魅力だった。最初は演技力がなかったけれど、逆に視聴者のみなさんは「俺たちが応援しなきゃ!」という気になったと思うんです。 ──『あまちゃん』がオンエアされた2013年は、天野アキという純朴なアイドルを日本中が応援していたと。 井上 そうだと思います。ちょっとイケてないけど、アキのことを応援せずにはいられなかったんでしょうね。それにもちろん、みなさん被災した東北のことが心配だったと思うんです。東北まで励ましに行きたいけど、なかなか気軽には足を運べない。『あまちゃん』の放映が終わってから、『あまちゃん』ツアーと称して東北を旅行する人が増えたのはうれしいかったですね。ドラマの中でやっていた町おこしが、現実のものになったんだなと。
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『あまちゃん』の井上ディレクターに加え、『あまちゃん』の音楽を手掛けた大友良英、Sachiko Mも参加。ユニークな音楽ドラマとしても楽しめる。
■絆という言葉では絆を結ぶことはできない ──正直さが『あまちゃん』人気を生み出したわけですか。本作も正直さを全面に押し出した作品ですね。主人公の朝海(石井杏奈)は中学生のときに福島で被災し、神戸に引っ越してきた。高校の卒業イベントで「しあわせ運べるように」を合唱することになるけれど、神戸復興の願いが込められた歌詞内容が彼女にはきれいごとに感じられてしまう。 井上 そうなんです。当たり前のことなんですが、東日本大震災で被災した人と阪神淡路大震災を経験した人とでは温度差があるし、同じ被災地でもそれぞれ被災状況が違うわけです。それを被災していない側は、同じ被災地、同じ被災者とひと括りにしてしまう。そこには溝があって当然だし、そう簡単に分かり合うなんてことはできない。絆って言葉では絆を結ぶことはできないんです。でも、「分からないから、さよなら」とサッと別れる人たちの話ではなく、「分からない。分からないけど……」というところから始まるドラマなんです。 ──最初は「しあわせ運べるように」の歌詞がきれいごとのように感じられていたのが、朝海たちと一緒に神戸から福島まで旅をすることで、被災者の心情を完全に理解することはできなくても、被災者たちの感じた痛みを想像することはできるようになる。被災地の風景を知ることで、最後に流れる「しあわせ運べるように」がまるで違う歌のように聞こえてくる。 井上 正直いうと、僕も最初に「しあわせ運べるように」を聞いたときは抵抗を感じたんです。それが神戸はもちろん、震災後の福島でもよく歌われていて、何度も聞くうちに聞こえ方が変わってくる。心が動かされていくんです。いちばん抵抗を感じるのは、「生まれ変わる神戸のまちに」というフレーズだと思います。「そう簡単に町が生まれ変わるわけないだろう」と劇中の朝海みたいに感じる人は少なくないでしょう。でも、何度も聞いているうちに「そうか、生まれ変わるのは町だけじゃないんだ。自分の気持ちが変わることで、町も変わっていくんだ」というようにも感じられていくんです。復興していく町を応援したいという希望と自分が知っていた町が消えていく哀しさとがないまぜになった複雑な心境ですね。最後の「しあわせ運べるように」の合唱シーンを撮るために、朝海役の石井杏奈ちゃんには1カ月前から地元の合唱グループと一緒に練習してもらいました。5分程度のシーンですが、「女子高生たちの文化祭みたいなイベントをやります」とホールを1日貸し切って、地元の人たちに集まってもらって公演を行なったんです。最後の1シーンを撮るために、かなりの手間ひまを掛けました(笑)。
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『ソロモンの偽証』(15)で迫真の演技を見せた石井杏奈、NMB48の木下百花ら若手キャストによるロードムービー。神戸出身の渡辺大知は音楽教師役。
■『あまちゃん』では描かなかったトンネルの向う側 ──朝海たちは故郷の町が立入制限区域に指定されて、ゴーストタウン化した現状を目の当たりにする。また旅の中でいろんな人たちと出会うことで成長し、それまでとは異なる風景を感じられるようになっていく。福島のロケシーンはドキュメンタリーを観ているようでした。 井上 若いキャストたちに対しては、こちらから細かく演出するのではなく、廃屋の前まで彼女たちを誘導し、どんなリアクションをするのかをカメラに収めました。彼女たちは瓦礫の中にあったミッキーマウスのぬいぐるみを見つけて「あっ、ミッキーだ!」と叫ぶんです。大人としては「おい、そこか?」と思ってしまうんですが、でも言葉でうまく表現できないだけであって、彼女たちも心に痛みは充分に感じているわけです。それで「何か言わなくちゃ」というときに「あっ、ミッキーだ!」と出てしまう。大人とは異なるリアクションをなるべく収めるようにしましたね。旅に同行する教師役の渡辺大知は放射能の怖さを知っているので、立入制限区域内では無闇に物に触ろうとしません。それに対し、朝海たちは自分の故郷なので平気で路上にしゃがみこみ、家屋に入っていこうとする。若いキャストたちは役そのものになりきっていましたね。 ──『あまちゃん』にも磯野先生役で出演した皆川猿時は、まるで『不思議な国のアリス』に登場するチェシャ猫のような役。彼の登場でドキュメンタリータッチのドラマがファンタジックなものへ変わっていく。 井上 皆川さんじゃなかったら、あそこまでこのドラマをジャンプさせることはできなかったでしょう。飛び道具ですね(笑)。たった1カットの中に、笑いと哀しみとファンタジーと、それにヤケクソ加減を交えて演じてくれた。決して自分から愚痴をこぼすような人ではありませんが、あの役は大変だったと思います。皆川さんのお陰で、制限区域内で行なったライブもすごく盛り上がった。実際に町から避難している住民の方たちに、ひと晩だけ撮影用に特別許可をもらって集まってもらったんです。避難後、初めて住民の方たちは顔を合わせ、ライブシーンは大変なハイテンションでした。『あまちゃん』の劇中曲「潮騒のメモリー」を手掛けたSachiko Mさんが作曲したオリジナルソング「ギグつもり」のヤケッパチな歌詞とおかしな振り付けを、みなさん面白がってやってくれたんです。 ──『あまちゃん』ではユイ(橋本愛)はトンネルの向う側、震災直後の被災地を目撃しますが、ドラマとしては生々しく被災地を描くことはしなかった。本作はトンネルの向う側を正面から映し出した作品と言えそうですね。被災地の復興は全然進んでいない。でも、顔を上げるとそこには大きな青空が広がっている。 井上 あぁ、ユイが立ち止まったトンネルですね。撮影中は「トンネルの向う側を撮ろう」という意識はありませんでしたが、確かにそうかもしれませんね。震災から時間は経過したけれど、被災地は何も変わっていない。無人化した町は震災直後に時間が止まって、そのままの状態なんです。その一方、あちこちに雑草が生い茂り、残酷なほど緑に覆われている。鳥も多く、震災を生き残った生き物たちもいっぱいいる。観る人によって、いろんな風景が見出せると思います。 ──やはり、『あまちゃん』と本作は繋がっている作品だと言えそうですね。最後に『あまちゃん』の続編を望む声も多いと思いますが、そういった声にはどう答えているんですか? 井上 よく尋ねられますが、続編はないでしょう。宮藤さんや大友さんたち『あまちゃん』のスタッフと顔を合わせても、続編の話はしませんね。『あまちゃん』が面白かったのは、毎日15分間という時間の中でくだらないことをやっていたから良かったと思うんです。スペシャルドラマや劇場版という形でやったら、「こんなくだらないことを延々とやるなんて。時間と金を返せ」と怒り出す人が出てくると思いますよ(笑)。でも、『あまちゃん』のキャストとまた仕事ができるなら、それはやってみたいです。能年さんみたいな才能の持ち主は希有ですよ。あんないい役者はそうそういません。『あまちゃん』とはまた別の作品でご一緒できる機会あれば、ぜひやりたいですね。 (取材・文=長野辰次/撮影=名鹿祥史)
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『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』 監督/井上剛 脚本/一色伸幸 音楽/大友良英、Sachio M 出演/石井杏奈、渡辺大知、木下百花、柾木玲弥、前田航基、津田寛治、二階堂和美、皆川猿時、ともさかりえ、南果歩、中村獅童 配給/トランスフォーマー 1月16日(土)よりフォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館にて先行公開、1月23日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー (c)2015 NHK http://livelovesing-movie.com ●いのうえ・つよし 熊本県出身。1993年にNHK入局。代表作として劇場公開もされた『その街のこども』(10)、社会現象となった『あまちゃん』(13)などがある。その他、『クライマーズ・ハイ』(05)、『ハゲタカ』(07)、『てっぱん』(10)、『64(ロクヨン)』(15)など数多くのテレビドラマの演出を手掛けている。

井上監督が語る『あまちゃん』とトンネルの向う側 音楽ロードムービー『LIVE!LOVE!SING!』が劇場公開

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福島で被災した朝海(石井杏奈)たちは各地に散り散りになって生活を送っていた。高校の卒業を控え、小学校の同窓生たちと母校を再訪する旅に向かう。
 2013年に放映されたNHK連続テレビ小説『あまちゃん』からは能年玲奈、橋本愛、福士蒼汰、有村架純ら新世代のスターたちが次々と飛び出していった。そしてドラマ、歌、笑いといったエンターテイメントが社会に大きな影響を与えることを改めて実証してみせた。東日本大震災と福島第一原発事故によって、長らく自粛モードにあった日本社会に明るさをもたらしたメモリアルな作品だった。その『あまちゃん』をチーフ演出として世に送り出したのが、井上剛ディレクター。阪神淡路大震災を扱った『その街のこども 劇場版』(11)も高い評価を受けている。監督第2作となる『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』は『あまちゃん』の舞台となった東北地方、そして『その街のこども』の舞台・神戸を繋ぐ音楽ロードムービーだ。『あまちゃん』のヒロイン・天野アキの運命にも大きく関わった3.11のその後を井上ディレクターはどう描いたのか? 『あまちゃん』ブームを振り返りつつ、本作を通して震災後の社会について語ってもらった。 ──本作は2015年3月に一度オンエアされたドラマですが、映画館という密閉された空間で観ることで、様々な感情を反芻することになる。震災から5年近く経ったけれど、この国は変わったのか? 自分は何をやっていたのか? 無人化してしまった被災地の風景を見つめながら、いろんな想いが渦巻きます。 井上 そんなふうに感じていただけて、うれしいです。一度放送したものに26分追加して、100分に再編集したものですが、観る人によって、いろんな風景をスクリーンの中に見つけてもらえればなと思っているんです。 ──井上ディレクターにとって、代表作である『あまちゃん』と『その街のこども』を繋いだ作品となっていますね。 井上 自分が作った作品なので、繋がっていると言えば繋がっていますが、どちらも自分で企画した作品ではないんです。「こういう企画あるけど、どう?」と打診されて、引き受けたわけです。受けたのは自分ですけど、進んで被災地をテーマにした作品を撮りたがる人はあまりいないんじゃないですか。2010年に阪神淡路大震災15年特集ドラマとして『その街のこども』を作り、そして東日本大震災が起きた。2011年3月は僕がチーフを務めていた『てっぱん』が放映中で、クライマックス部分の放映が1週間休止になり、とても印象に残っています。『あまちゃん』の音楽も担当した大友良英さんが福島出身だったので、気になって福島まで訪ねたりもしました。その年の夏には『あまちゃん』の企画が持ち上がって、宮城出身の脚本家・宮藤官九郎さんと「明るいドラマをやりたいよね」って話をしていましたね。まぁ、それで今の世の中を描くのなら、震災をなかったことにできないよねみたいなことをプロデューサーも交えて話し、『あまちゃん』は内容がまとまっていった感じです。『あまちゃん』を撮ったので東北地方には愛着がありましたし、『その街のこども』を撮った神戸にもまた行けるので、本作の企画も受けたんです。
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「人と人との間には溝があって当たり前。そんな溝や理不尽さを抱えながら、僕たちは社会と向き合うことになる」と井上剛ディレクター。
──『あまちゃん』は日本中に明るい笑いを届け、社会現象にもなりましたが、井上ディレクターはあの大ブームをどのように感じていたんですか? 井上 今もまだ、うまく客観視できていません。撮っている間に「騒がれているらしいぞ」とは耳にしていたんですが、目の前の撮影に追われて喜んでいる余裕がまったくなかった(笑)。全然、ブームになった実感がないんです。宮藤さんも脚本を書き終わって、かなり時間が経ってから『あまちゃん』人気は火が点いたので、あまり実感ないみたいですね。何だったんでしょうね(笑)。正直にやったのがウケたのかな。 ──ドラマはフィクションなわけですが、正直さがウケたとは……? 井上 通常のドラマだと田舎は美しい故郷として語られるわけですが、『あまちゃん』では田舎のイケてなさをそのまま素直に描いたんです。でも、イケてないことを『あまっちゃん』は「残念な」という言葉で表現したことで、どこか愛らしく伝わったんじゃないですか。田舎は賛美すべき場所ではなく、残念な場所だと。正直に描いたことでドラマとして表現の幅が広がった。役者のみなさんもそこに乗って、さらに正直なお芝居をした。小泉今日子さん演じた天野春子は若い頃はアイドルを目指していたという現実とリンクするような設定になっていたので、観るほうも感情移入しやすかったんでしょう。何よりも天野アキ役の能年玲奈さんはまさに透明度がそのまま魅力だった。最初は演技力がなかったけれど、逆に視聴者のみなさんは「俺たちが応援しなきゃ!」という気になったと思うんです。 ──『あまちゃん』がオンエアされた2013年は、天野アキという純朴なアイドルを日本中が応援していたと。 井上 そうだと思います。ちょっとイケてないけど、アキのことを応援せずにはいられなかったんでしょうね。それにもちろん、みなさん被災した東北のことが心配だったと思うんです。東北まで励ましに行きたいけど、なかなか気軽には足を運べない。『あまちゃん』の放映が終わってから、『あまちゃん』ツアーと称して東北を旅行する人が増えたのはうれしいかったですね。ドラマの中でやっていた町おこしが、現実のものになったんだなと。
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『あまちゃん』の井上ディレクターに加え、『あまちゃん』の音楽を手掛けた大友良英、Sachiko Mも参加。ユニークな音楽ドラマとしても楽しめる。
■絆という言葉では絆を結ぶことはできない ──正直さが『あまちゃん』人気を生み出したわけですか。本作も正直さを全面に押し出した作品ですね。主人公の朝海(石井杏奈)は中学生のときに福島で被災し、神戸に引っ越してきた。高校の卒業イベントで「しあわせ運べるように」を合唱することになるけれど、神戸復興の願いが込められた歌詞内容が彼女にはきれいごとに感じられてしまう。 井上 そうなんです。当たり前のことなんですが、東日本大震災で被災した人と阪神淡路大震災を経験した人とでは温度差があるし、同じ被災地でもそれぞれ被災状況が違うわけです。それを被災していない側は、同じ被災地、同じ被災者とひと括りにしてしまう。そこには溝があって当然だし、そう簡単に分かり合うなんてことはできない。絆って言葉では絆を結ぶことはできないんです。でも、「分からないから、さよなら」とサッと別れる人たちの話ではなく、「分からない。分からないけど……」というところから始まるドラマなんです。 ──最初は「しあわせ運べるように」の歌詞がきれいごとのように感じられていたのが、朝海たちと一緒に神戸から福島まで旅をすることで、被災者の心情を完全に理解することはできなくても、被災者たちの感じた痛みを想像することはできるようになる。被災地の風景を知ることで、最後に流れる「しあわせ運べるように」がまるで違う歌のように聞こえてくる。 井上 正直いうと、僕も最初に「しあわせ運べるように」を聞いたときは抵抗を感じたんです。それが神戸はもちろん、震災後の福島でもよく歌われていて、何度も聞くうちに聞こえ方が変わってくる。心が動かされていくんです。いちばん抵抗を感じるのは、「生まれ変わる神戸のまちに」というフレーズだと思います。「そう簡単に町が生まれ変わるわけないだろう」と劇中の朝海みたいに感じる人は少なくないでしょう。でも、何度も聞いているうちに「そうか、生まれ変わるのは町だけじゃないんだ。自分の気持ちが変わることで、町も変わっていくんだ」というようにも感じられていくんです。復興していく町を応援したいという希望と自分が知っていた町が消えていく哀しさとがないまぜになった複雑な心境ですね。最後の「しあわせ運べるように」の合唱シーンを撮るために、朝海役の石井杏奈ちゃんには1カ月前から地元の合唱グループと一緒に練習してもらいました。5分程度のシーンですが、「女子高生たちの文化祭みたいなイベントをやります」とホールを1日貸し切って、地元の人たちに集まってもらって公演を行なったんです。最後の1シーンを撮るために、かなりの手間ひまを掛けました(笑)。
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『ソロモンの偽証』(15)で迫真の演技を見せた石井杏奈、NMB48の木下百花ら若手キャストによるロードムービー。神戸出身の渡辺大知は音楽教師役。
■『あまちゃん』では描かなかったトンネルの向う側 ──朝海たちは故郷の町が立入制限区域に指定されて、ゴーストタウン化した現状を目の当たりにする。また旅の中でいろんな人たちと出会うことで成長し、それまでとは異なる風景を感じられるようになっていく。福島のロケシーンはドキュメンタリーを観ているようでした。 井上 若いキャストたちに対しては、こちらから細かく演出するのではなく、廃屋の前まで彼女たちを誘導し、どんなリアクションをするのかをカメラに収めました。彼女たちは瓦礫の中にあったミッキーマウスのぬいぐるみを見つけて「あっ、ミッキーだ!」と叫ぶんです。大人としては「おい、そこか?」と思ってしまうんですが、でも言葉でうまく表現できないだけであって、彼女たちも心に痛みは充分に感じているわけです。それで「何か言わなくちゃ」というときに「あっ、ミッキーだ!」と出てしまう。大人とは異なるリアクションをなるべく収めるようにしましたね。旅に同行する教師役の渡辺大知は放射能の怖さを知っているので、立入制限区域内では無闇に物に触ろうとしません。それに対し、朝海たちは自分の故郷なので平気で路上にしゃがみこみ、家屋に入っていこうとする。若いキャストたちは役そのものになりきっていましたね。 ──『あまちゃん』にも磯野先生役で出演した皆川猿時は、まるで『不思議な国のアリス』に登場するチェシャ猫のような役。彼の登場でドキュメンタリータッチのドラマがファンタジックなものへ変わっていく。 井上 皆川さんじゃなかったら、あそこまでこのドラマをジャンプさせることはできなかったでしょう。飛び道具ですね(笑)。たった1カットの中に、笑いと哀しみとファンタジーと、それにヤケクソ加減を交えて演じてくれた。決して自分から愚痴をこぼすような人ではありませんが、あの役は大変だったと思います。皆川さんのお陰で、制限区域内で行なったライブもすごく盛り上がった。実際に町から避難している住民の方たちに、ひと晩だけ撮影用に特別許可をもらって集まってもらったんです。避難後、初めて住民の方たちは顔を合わせ、ライブシーンは大変なハイテンションでした。『あまちゃん』の劇中曲「潮騒のメモリー」を手掛けたSachiko Mさんが作曲したオリジナルソング「ギグつもり」のヤケッパチな歌詞とおかしな振り付けを、みなさん面白がってやってくれたんです。 ──『あまちゃん』ではユイ(橋本愛)はトンネルの向う側、震災直後の被災地を目撃しますが、ドラマとしては生々しく被災地を描くことはしなかった。本作はトンネルの向う側を正面から映し出した作品と言えそうですね。被災地の復興は全然進んでいない。でも、顔を上げるとそこには大きな青空が広がっている。 井上 あぁ、ユイが立ち止まったトンネルですね。撮影中は「トンネルの向う側を撮ろう」という意識はありませんでしたが、確かにそうかもしれませんね。震災から時間は経過したけれど、被災地は何も変わっていない。無人化した町は震災直後に時間が止まって、そのままの状態なんです。その一方、あちこちに雑草が生い茂り、残酷なほど緑に覆われている。鳥も多く、震災を生き残った生き物たちもいっぱいいる。観る人によって、いろんな風景が見出せると思います。 ──やはり、『あまちゃん』と本作は繋がっている作品だと言えそうですね。最後に『あまちゃん』の続編を望む声も多いと思いますが、そういった声にはどう答えているんですか? 井上 よく尋ねられますが、続編はないでしょう。宮藤さんや大友さんたち『あまちゃん』のスタッフと顔を合わせても、続編の話はしませんね。『あまちゃん』が面白かったのは、毎日15分間という時間の中でくだらないことをやっていたから良かったと思うんです。スペシャルドラマや劇場版という形でやったら、「こんなくだらないことを延々とやるなんて。時間と金を返せ」と怒り出す人が出てくると思いますよ(笑)。でも、『あまちゃん』のキャストとまた仕事ができるなら、それはやってみたいです。能年さんみたいな才能の持ち主は希有ですよ。あんないい役者はそうそういません。『あまちゃん』とはまた別の作品でご一緒できる機会あれば、ぜひやりたいですね。 (取材・文=長野辰次/撮影=名鹿祥史)
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『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』 監督/井上剛 脚本/一色伸幸 音楽/大友良英、Sachio M 出演/石井杏奈、渡辺大知、木下百花、柾木玲弥、前田航基、津田寛治、二階堂和美、皆川猿時、ともさかりえ、南果歩、中村獅童 配給/トランスフォーマー 1月16日(土)よりフォーラム福島、シネマート心斎橋、元町映画館にて先行公開、1月23日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー (c)2015 NHK http://livelovesing-movie.com ●いのうえ・つよし 熊本県出身。1993年にNHK入局。代表作として劇場公開もされた『その街のこども』(10)、社会現象となった『あまちゃん』(13)などがある。その他、『クライマーズ・ハイ』(05)、『ハゲタカ』(07)、『てっぱん』(10)、『64(ロクヨン)』(15)など数多くのテレビドラマの演出を手掛けている。

“よしもとイチのモテ男”ノンスタ井上「努力型のブサイクがイケメンに勝つから、恋愛は面白い!!」

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撮影=後藤秀二
 どんなに暴言を吐かれても悪意をぶつけられても、すべてポジティヴではね返す男、ノンスタイル井上裕介。M-1チャンピオンの称号を持つ一方で、現在その特異なまでのナルシストキャラが開花し、処女作『スーパー・ポジティヴ・シンキング』(ヨシモトブックス)も、日めくり『まいにち、ポジティヴ!』(同)も、好評を博している。そして、今回ポジティヴ恋愛論に特化した『マイナスからの恋愛革命』(同)を上梓。ネガティヴな自虐がもてはやされる昨今、井上が全国の“マイナスさん”たちに伝えたいこととは――。 ――恋愛におけるネガティヴの芽をひとつひとつつぶしていったこちらの本、書くきっかけはなんだったんですか? 井上裕介(以下、井上) 『スーパー・ポジティヴ・シンキング』(ヨシモトブックス)の中でも恋愛のテクニック的なことは書いていたんですけど、読者の方から「恋愛のことだけで一冊書いてほしい」という声をいただきまして、せっかくなら……と。もちろん生まれ持った顔やスタイルは大きな要素ですが、そこがよくないからと最初からあきらめてしまっている人が多すぎると思うんですよ。僕自身、決してモテるタイプではありません。だからこそ、努力で恋愛を勝ち取ってきました。「俺ができんねんから、みんなだってできるんだよ」ということは言いたかった。だって、めっちゃ男前の後輩が、俺より全然モテなかったりするんですよ。そういう後輩に「おまえ、女性の気持ち、ちゃんとわかってへんのとちゃうか」とか、飲みながらよく話しているんです。それをまとめたら一冊の本になった……という感じでしょうか。 ――外見は、努力でなんとかなるのでしょうか? 井上 よく言う「性格がよければ、顔なんてどうでもいい」っていうのは、絶対にウソだと思うんですよ。理性ではそう言えても、本能ではそうじゃない。本能の部分で、どうしても惹かれちゃう外見ってありますから。ただ持って生まれたものを、よりよく見せることはできるじゃないですか。なんの努力もしなかったら、50点の顔を100点にすることはできないけど、努力で70~80点にはできるというのが僕の考え。だとしたら、素材だけで努力してない60点のやつに勝てます。素材にあぐらかいているイケメンに、努力したマイナス人間が勝つのが、一番気持ちいいじゃないですか。そして、その勝負に勝ってきたのが、僕なんですよ。 ――この本を読んでいると「人間って、いっぱい言い訳をして生きてるんだな」ということに気づかされます。 井上 進むべき道より、逃げ道のほうが絶対的に多いですからね。いい意味でも悪い意味でも、恋愛におっくうになっている人たちに「サボってる時間ないぞ」って思わせる本になったかなとは思いますよ。 ――井上さんは、小さい頃からポジティヴハートを持っていたんですか? 井上 どうだろう……。もしかしたら、歴代の彼女が、こういうふうに育ててくれたのかもしれません。僕はもともとメールに絵文字を使わない人でしたが、当時付き合っていた5歳年下の彼女に「なんでメールに絵文字入れないの? 絵文字なきゃ、メール楽しくないやん」って言われて「あぁ、女の子って、メールを“楽しい遊び”としてやってるんやな」ってわかった。僕は、メールを仕事の連絡を取る手段、くらいにしか考えてなかったから、価値観って男と女でだいぶ違うんやっていうのを学びましたし。
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■本能の扉をこじ開けていかないと、つまらない ――そういう指摘を、ちゃんと受け入れられるのがすごいです。 井上 例えば19歳の感覚って、19歳にしかわからないでしょう。付き合ってる子のそういう“リアル”は大事にしたいし、そのいい部分だけ自分にも取り込めばいいと思う。パンケーキ屋とか、男同士なら絶対に行かないですよ。でも、彼女に誘われてパンケーキ屋に行ったら、そのパンケーキなるものが、おいしいかまずいかは知ることができます。それまでゼロだった知識が、1になる。ゼロか1かって、恋愛においては、ものすごくデカイことなんですよ。 ――すべては「経験」として、蓄積されると。 井上 結局、ゼロから1にすることが一番大変なんです、仕事も恋愛も。1回パンケーキ食べに行っていれば「俺、あのシロップが苦手やねん」って逃げられるじゃないですか。「あそこ女の子ばっかりで恥ずかしいわ」とも言える。1回行っていれば、さも100回行ったテンションでしゃべれますからね。 ――何事も決めつけないで、1回はやってみないとダメですね。 井上 そう、女性も1回でいいから、男に雑に遊ばれたらいいんですよ。その雑な扱いに、快感を覚える人もいるかもしれない。そこで初めて「私ってMやったんや」とわかる。 ――新しい癖の扉が開かれる(笑)。 井上 大事やと思いますよ。ずっとイケメンと付き合ってきた女性が、ブサイクといわれる男性とエッチしてみたら「私、顔よりも、下のサイズのほうが大事だったんだ……」って気づくかもしれない(笑)。 ――私は見た目じゃない……サイズ!! 井上 人間は理性で恋愛を考えがちですけど、本能の扉をいっぱいこじ開けていかない、とつまらないと思いますよ。いろんな人と会って話せば、それだけ情報を得るわけで、いろんな情報を得るから正しい情報を知るわけで。新聞だって同じニュースなのに、全紙表現は違うでしょ。頭のいい人は全部読んで、情報の本質を知るそうですよ。それは、恋も一緒だと思う。いろんな女を、男を知って、本当の自分の好みを知ることが大事。 ――今まで井上さんが「本能の扉開けられたな……」と感じたことは? 井上 多少下品な話でも大丈夫ですか? ――安心してください。 井上 芸人になったばかりの頃、先輩と女の子たちとホテルで飲んだことがあるんです。その中にひとり、イケメンゴリラの「シャバーニ」に似た女の子がいまして。やがて先輩たちはその女の子たちとコトを始めたのですが、僕は酔っていたのもあって、ひとり隣の部屋で寝てたんですね。どれくらいしてからか、ふとシャバーニちゃんに起こされたんです。「どしたん?」って聞いたら、先輩に「井上のとこ行ってあげて」って言われたと。そんな経験なかったし、正直タイプじゃないし、「え……」ってなったんだけど、それって先輩は先輩で俺のこと思ってくれて、シャバーニちゃんはシャバーニちゃんで俺のこと思ってくれてるってことじゃないですか。2人の愛情をむげにはできないと思って、俺は抱きました。でも、それが思いのほか楽しかった。セックスって、こういう楽しみ方もあるんやなって知りました。もっといろんな人と経験を重ねたら、もっと楽しいことが待ってるのかもしれないって。 ――では、逆に「自分が相手の扉をこじ開けた」というご経験は? 井上 ラブラブでイケメンの彼氏がいる女性を、彼氏から奪い取ったということならありますよ。半年くらいかかりましたけど。 ――なかなかの長期戦ですね。 井上 奪うつもりで奪いにいったというよりは、いいなと思った女の子にたまたまイケメンの彼氏がいた……という感じです。半年は友情という形で関係を築き上げて、その中で小さな愛情を投げ続けました。
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■“策士”井上の、恋の国盗り合戦 ――小さな愛情とは? 井上 いきなり「別れてくれや」は重いじゃないですか。友達として仲良くご飯食べて、親身に話を聞いて……。「彼氏とケンカした」とか「ブスって言われた」とかそういう話が出たときに「間違ってへんと思うよ」「俺はカワイイと思うけどな」と、その子を肯定する言葉を地道に積み上げていくんです。それで向こうが大きいケンカをドンとしたときに「だったら俺のところにこうへんか」と。 ――なるほど。 井上 もちろん、肯定だけもよくないですよ。わがままモンスターを生み出すだけだから。だけど、彼氏持ちの子を奪うのであれば、肯定してあげることは大事。その彼氏が否定している部分を肯定してあげて「私間違ってないよね。彼が間違ってるんだよね」と火に油を注ぐ。それも、いきなり油ドバーじゃダメ。スポイトくらいで、チョチョンと。 ――猜疑心の火を絶やさぬくらいの油で。 井上 そうしていると、どっかのタイミングで「私、井上くんみたいな彼氏やったら、絶対幸せやと思うわ」となる。でも、そこで一気に取りには行かない。 ――え、行かないんですかっ!? 井上 このタイミングでがっつくと、十中八九「そういうつもりじゃないねん」ってなります。相手を冷静にさせてしまう。こっちに向きかけた愛情のベクトルが、また彼氏に戻ってしまいます。ベクトルが徐々に動きだしているのを感じつつ、そこからどれだけ地道に頑張れるか。 ――ここぞというタイミングは、どう見極めればいいのでしょうか? 井上 そこで大切になるのが、彼女の友達です。友達から彼女の動向をよく聞き出しておく。彼女の友達を援軍にして「だったら、井上くんにしたら?」と言わせるんです。 ――彼女の友達とも、良好な関係を構築しないといけませんね。 井上 この作戦を取るためには、自分自身が「いいやつ」にならないとダメです。中身が魅力的な人間にならないと、援軍も集まらないから。三国志でいうところの、劉備玄徳のようにならないと。武力もカネもないけど人が集まる、これが最高です。 ――恋の国盗り合戦……。 井上 彼女が友達と女子会をしているところに呼ばれるのを嫌がる男って、多いじゃないですか。でも、これは声を大にして言いたい。そこに行くからこそ、彼女の友達に「彼氏いいやつやん」って思われるし、何かあったときに助けてくれる。恋愛は1対1じゃないんです。 ――そうなんですか!? 井上 1対1で相手を倒せる力があればいいけど、俺は1対1ではイケメンに勝てないと思ってるから、チームを作って戦うんです。しかも、この本は、ただ彼女・彼氏を作るというものではなく「イケてる彼女・イケてる彼氏」を作るための指南書ですから。イケてる男、イケてる女というのは、モテるんです。そんな人らをオトすためには、何ひとつめんどくさがってたらダメですよね。自分よりランクが上なんだから。 ■恋は「戦略」、結婚は「運」 ――数々の恋愛の修羅場をくぐり抜けてきた井上さんがいま思う、本当にイケてる女とは? 井上 これは人それぞれですよ。僕がとてもステキだと思う子でも、相方から見たら全然魅力がないかもしれない。要するに「自分にピッタリだ」と思う女性を探すことです。 ――不特定多数に言い寄られるというより、自分にピッタリの人を見つけ出し、その人に思ってもらう……それが「モテ」であると。 井上 それが一人目の彼女/彼氏だったら、一番ハッピーなんじゃないですか? でも、そんなことなかなかないから。恋愛は、わらしべ長者と一緒。広げてナンボです。情報は、あるに越したことない。100人の中から彼女を見つけるのと1万人の中から見つけるのとではパーセンテージが大きく変わってきますから。恋愛1割バッターは、10回打席に立てば1回はヒット打てるでしょ。10回合コンに行けば1回はお持ち帰りできるし、100回合コン行けば10回イケる。そして10回のお持ち帰りを経験すれば、10回お持ち帰りできる雰囲気が自然と出てくるんです。すると不思議なことに、10回の合コンで3回お持ち帰りできるようになる。つまり、モテ打率が上がるということです。 ――……井上さんは仮に芸人にならなくても、なんらかの形で財を成していそう。 井上 ハハハ。僕がガキの頃になりたかった仕事は教師なんですよ。人に何かを理論立てて教えるのが好き。学生の頃は数学が一番得意でした。数学って、理論と公式でしょ? Xが女でYが男やとしたら、どの公式に当てはめたら、この問題は解けるのか……と考えるのが好きなんです。 ――男と女の方程式ですね。 井上 素材だけで勝負できるやつのモテ方は、全部少女漫画に描いてあります。『NANA』(矢沢あい/集英社)と『君に届け』(椎名軽穂/同)を読めば、女性のやってほしいことはだいたいこの2冊に詰まってる。だけど、僕が壁ドンやってもハマらない。そもそも背が足りません。だから僕たちは、その少女漫画的な手法にプラスアルファで独自のエッセンスを加える必要があるんですよ。例えば女性が大好きなサプライズ。でも、僕はベタなサプライズはしません。 ――しないんですか? 井上 仰々しいサプライズを1年に一回クリスマスにするくらいだったら、小さいサプライズを年に20回30回やります。風邪ひいたときにドアノブにポカリをかけておくとか、彼女との何気ない会話で欲しいものをリサーチして翌日不意にプレゼントするとか、寒いときに上着をそっとかけるだけでもいい。 ――日常のサプライズには、知恵と工夫が必要ですね。 井上 こと恋に関しては、そうですね。戦略が大事。しかし、結婚に関しては、そうとばかりは言えない。「運」が、ものすごい重要になってくるから。一緒におってしんどくない、波長が合う人を見つけるのは、最終的には「運」です。でも多くの人と出会わないと、運をつかむことはできないとも思います。 ――まずは、たくさん打席に立つこと。 井上 そう。この本を読んであなたが行動に移したときが、「恋愛革命」の始まりなんです!! (取材・文=西澤千央)

「心筋梗塞!?」「DV疑惑勃発!?」“元アウトローのカリスマ”瓜田純士夫妻が新年早々お騒がせ!

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 新宿の交番に救急車が出動。担架に乗せられ運ばれる女、その傍らには顔面タトゥーの男!――“元アウトローのカリスマ”こと瓜田純士(36)の2016年が、サイレンの音とともにけたたましくスタートした。新年早々、いったい何が起きたのか? 瓜田家を襲った“事件”を徹底追跡する!  まだお屠蘇気分が抜けない1月初旬、新宿区内の交番に1台の救急車が到着した。担架の上にぐったりと横たわり、搬送される女。その様子を見守る顔面タトゥーの男。野次馬の多くは、こう思ったに違いない。「この男がこの女を殴ったのか」と。  ところが、実情は異なるようだ。一件落着した数時間後、当事者のひとりである瓜田純士が電話取材に応じた。 ――いったい何が起きたのでしょう? 瓜田 家にいた嫁が突然、「背中に稲妻みたいな痛みが走った。これ、アカンやつや!」と寝起きに騒ぎ出しまして。眠いしうるさいから、しばらく無視してたんですよ。そしたら彼女、ガバッと布団から飛び出して、「心筋梗塞や……」とつぶやくなり、手にしてた携帯をゴトッと床に落っことしたんです。僕がその携帯を拾い上げて、画面を見たら、Wikipediaの心筋梗塞のページだった。「症状が完全に一致する」と泣きそうな顔で彼女は言うんですよ。 ――ヤバイですね。 瓜田 ぶっちゃけ僕は半信半疑だったんですが、念のため病院に連れて行くことになりまして、一緒に家を出たんですが、そしたら今度は「歩けへん」と言い出して、道端にうずくまっちゃった。「ウチ、痛みには強いほうやで。そのウチが歩けへんって、相当や」なんて弱音を吐くから、目の前の交番にお願いして、救急車を呼んでもらいました。 ――大ごとですね。 瓜田 そのうち声もかすれ始めて、みるみる元気がなくなってきて。でも、おまわりさんが電話で「容態が悪いのは20代くらいの女性です」と実際の年齢よりもかなり若く説明したのを聞いて、彼女がニヤニヤうれしそうな顔をしたのを僕は見逃しませんでした。コイツ、けっこう余裕あるじゃねえか、と。やがて救急車が到着し、多くの通行人が見守る中、衰弱した彼女が担架に乗せられて病院に運ばれていきましたが、傍から見たら完全に「DV男とその被害者」ですよ(笑)。 ――そのあと、どうなったのでしょう? 瓜田 最寄りの大きな病院の緊急処置室に搬送された彼女は、まず心電図を取られたんですが、お医者さんからは、「心筋梗塞をかなり心配されているので大変言いにくいのですが、ビックリするぐらい綺麗な心電図ですよ。ハハハ」と笑われたそうです。それでバツが悪くなったのか、大袈裟にうめき声を上げ始めた彼女は、レントゲン検査を待つ間、僕と目が合うたびに、「純士、今までありがとな」などと、まるで今生の別れをするかのようなことを言うんです。 ――瓜田さんはそのとき、どんなお気持ちでしたか? 瓜田 レントゲンも終わってないのにコイツは何を言ってんだ、と思いました。本当は「大丈夫そうだね」と言いたかったけど、「大丈夫か?」と言ってあげました。 ――結局、お身体のどこが悪かったのでしょう? 瓜田 あれこれ調べてもらったんですが、なんと、「すべてにおいて異常なし」という検査結果が出ました。背中の痛みは、ただの「寝違え」だそうです(笑)。寝違えただけで救急車呼ぶなんて聞いたことあります? さすがの僕もビックリしましたし、恥ずかしくなりましたよ。……あ、ちょっとすいません。嫁がしゃべりたいというので、電話を代わりますね。  もしもし。あけましておめでとうございます。あのですね、お医者さんが言うには、「ひょっとしたら胸膜炎の症状がこれから出てくるかも」とのことでした。だからたぶん、私は胸膜炎なんです!
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救急車が駆け付けた交番
――胸膜炎?  あとは、「脱水症状もあるかも」と言われました。水分が足りなくて、血が濃くなってるみたいです。 ――水を飲まずに寝て、寝汗をかいただけでは?  違います! ホンマに息もできへんぐらいに痛かったんですよ! 帰り際、お医者さんから「ところで、暴力は振るわれてないですか?」と小声で聞かれたので、「少し」と答えておきました。本当は振るわれてないんですけどね。純士、ザマーミロ!(笑) 瓜田 (慌てて携帯電話を奪い取り)あぁ、バカな嫁がすいません。彼女はどうしても、なんかの病気にしたいみたいです。あまりにも検査に引っかからなすぎて、本人も恥ずかしくてしょうがないみたいです。(背後では大声で反論する奥様の声) ――奥さん、お元気そうですね。 瓜田 はい、もうすっかり元気です。でもほんの数時間前、病院にいるときは、今にも死にそうな様子でした。点滴を打たれながら車椅子に座り、余命3日みたいな顔をして、お医者さんや看護士さんから声をかけられるたびに、「あぁ……はい……」と力なくつぶやいてたんです。ところが、バカ高い会計を終えて病院を出た瞬間、目の前のラーメン屋を見て、「おいしそうやなぁ。なぁなぁ純士、これ食べて帰ろうや!」ですからね。おまけに背脂コッテリのラーメンにオプションのニンニクをガンガン入れながら、「替え玉、もらっちゃおうかな」だって。病院関係者に見られたらどうしようって、僕がハラハラドキドキしましたよ。いやぁ、お恥ずかしい限りです。 ――年明け早々、大変な思いをしましたね。 瓜田 まぁでも、無事でよかったです。
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 瓜田は昨秋、パニック障害を患った(記事参照)。それ以来、夫婦揃ってガン検診を受けるなど、健康意識が高まりつつある瓜田家。今回は過剰反応だったようだが、救急車を呼ばずに手遅れになるよりはマシだったと言える。瓜田家の今年一年の「無病息災」と「家内安全」を祈りたい。 (取材・文=岡林敬太) ※日刊サイゾーでは今年より、ほぼ月イチペースで瓜田純士の最新情報をお届けします。今後の動向にご注目ください。

「フリースタイルバトルは格闘技!」 話題の深夜番組『フリースタイルダンジョン』演出家が明かす、“戦場”の裏側

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『フリースタイルダンジョン』|テレビ朝日
 いま、深夜番組『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)が騒がしい。Zeebraがオーガナイザーを務めるフリースタイル(即興)ラップのMCバトル番組で、「チャレンジャー」たちが、般若を“ラスボス”とする5人の「モンスター」に挑戦し、賞金獲得を目指す。  昨年9月から放送が開始され、コアな題材にもかかわらず、YouTube公式チャンネルの再生回数は約900万回を突破。ヘッズ(ヒップホップファン)以外にも、確実に番組中毒者が広がっている証しだ。特に第9回(11月24日)の放送で行われた般若 VS 焚巻は、大反響を巻き起こした。  1月からは、いよいよRec4が開始。ますます盛り上がりを見せる中、演出を担当する岡田純一氏に、その人気の秘密や舞台裏、そしてヒップホップを知らなくても楽しめる見どころなどを、テレビウォッチャー・てれびのスキマが直撃した。 ――僕は今までヒップホップにはぜんぜん興味なくて、むしろ苦手なくらいだったんですけど、最近会った複数の人に立て続けに『フリースタイルダンジョン』はヤバいって薦められて見たら、本当にスゴくて。岡田さんは、もともとヒップホップ好きだったんですか? 岡田純一氏(以下、岡田) 番組が始まるまでは、広く浅く嗜む程度でした。今はズッポリはまってます。 ――企画は、すんなり通ったんですか? 岡田 いや、すんなりは通ってないです。ラップのバトルって、放送禁止用語が出てくるじゃないですか。それを、どうやって地上波で放送するかっていうのが一番の課題で。禁止用語を絶対に言わないっていうルールを決めて、なんとか企画が通ったって感じですね。で、うっかり言っちゃたら、演出上、「ピー」音ではなく、「コンプラ」(という表示)で消しましょうと。「テレビ局はコンプライアンスでうるさいっていうのを逆手に取ろう」っていう発想です。 ――演出面でいえば、ラップにはすべてテロップを入れてますね。「トラブル」に「虎舞竜」と当てたり、芸が細かいなと(笑)。
YouTube番組公式ページより
岡田 やっぱり、テレビでやるからには、わかりやすく伝えなければという思いからです。正直、僕なんか、一度聞いただけじゃ、なんて言ってるかわからないですから。実際にテロップを入れてみると、実は壮大な物語が語られていたとか、意外な発見がたくさんある。一部の方からは「(テロップを)見たくない」って意見もあったりするんですけど、いうてもテレビなんで、極論お母さんにも楽しんでもらいたいですからね。  だから、審査員の方たちは本当にスゴいなって、よく聞き取れてるなって驚いてます。で、大変なのはADさん。何度も聞き直して全部書き起こして、本人に一回「これで合ってますか?」って投げて、赤ペン入れて戻してもらって、あのテロップが出来上がっているんです。そのADさん、今ではどっぷりヘッズになってます(笑)。ちなみに、「虎舞竜」はR-指定からの赤字リクエストです。 ――「モンスター」に「チャレンジャー」が挑戦するという形式にしたのは? 岡田 タイトルが「ダンジョン」ということもあり、「RPG的な要素を入れたいね」っていう、Zeebraさんのアイデアです。『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)の「高校生ラップ選手権」との差別化じゃないけど、ゲーム的な世界感を出せたらいいなって。「クリティカルヒット」(審査員が全員一致の場合、一発で勝敗が決る)という番組オリジナルルールも、ゲーム性が出る部分ですね。ほかのMCバトル大会では、ドローで延長っていうのがあるんですけど、ウチはそこをなくしたんで、審査員さんがドローと思っても、どちらかを選ばなきゃいけない。なので、僅差なのに一発で勝敗決まっちゃうこともあるスリリングさが、ジャッジのポイントになってるんじゃないですかね。ルールに関しては、すでにZeebraさんの中で出来上がってましたから、さすがですね。 ――審査員のキャスティングも絶妙で、特にいとうせいこうさんの存在が大きいですよね。『源氏物語』を引き合いに出したり、「本洒落と駄洒落の違い」を解説してくれたり、僕のようにヒップホップに詳しくない人に翻訳してくれてる感じで。 岡田 審査員の皆さんは、先生だと思ってます。毎度わかりやすく解説していただいて、助かってます。「なんでこの判定なの?」ってところを、納得させてもらってますね。チャレンジャーやモンスターのキャスティングも、基本的にはZeebraさんです。でなければ、般若さんも出なかったと思いますね。モンスターはみんな、リスクを承知で引き受けてくれています。バトルに負けた後なんて、声かけられないですからね。申し訳ないなと思いつつ、毎回1STバトルで勝たれると、今度は放送尺が足らなくなっちゃう。ジレンマですね。でも真剣勝負なんで、毎回何が起こるか本当にわからない(苦笑)。
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――なんといっても、「般若VS焚巻」(https://www.youtube.com/watch?v=drxDMVzPYfs)の回はスゴかったですが、現場で見ていてどうでしたか? 岡田 いやー、震えましたね。本当に。予算のない番組なんで、賞金100万円出たらどうなっちゃうんだろうって(笑)。 ――そっち!(笑) 岡田 それもありつつ、約7年ぶりにフリースタイルバトルに出る般若さんの鬼気迫る感じとか、めちゃくちゃカッコ良かったですね。あの回は本当にすごかった。プロデューサーが、たまらず酒を買いに走るっていう(笑)。そのくらい、スタッフのみんなも興奮させてくれたバトルでしたね。僕はいつもフロアで見てるんですけど、お客さんと一緒に叫びましたね。ほえました。「100万円守ったー」って!(笑) ――やっぱりそこ!(笑) 岡田 Rec1では最高賞金50万円だったんですけど、収録を終えて、プロデューサーに「めったに100万円出ないし、目標は大きいほうがいいから、賞金100万円にしてくれ」って頼んだんです。そしたら、Rec2でまさかの般若戦っていう。余計に焦りましたね(笑)。でも、いずれは100万円を手にする人が出てほしいなとも思ってますよ(笑)。 ――あの対戦があれだけ盛り上がったのは、やっぱりそれまでの積み重ねが大きかったと思います。CHICO CARLITOが直前まで追い詰めて緊張感が高まっていたり、般若さんが“通訳”を使って、それまで一切しゃべらないっていう演出だったり。 岡田 あれは、般若さんの希望で。一切しゃべらないでテレビに出ることが、10年くらい前からの夢だったそうです(笑)。般若中継では、犬の喜多川景子が出たり、失踪していたO.G(おじ)さんが出てきたり……。この先いったいどうなるんだろうと、楽しみと不安でいっぱいです(笑)。 ――Rec2で般若さんを出してしまったからか、Rec3でモンスターたちがギアチェンジした感じで。 岡田 特に、T-PABLOWの成長っぷりがすごいですね。バトルの内容も、素人目にもぜんぜん違うなって。この番組は、彼らの成長を見る、ドキュメントみたいな要素もあるのかなって思いますね。Rec3はとにかくみんな気合が入っていて、どんどん挑戦者を負かしちゃうんで、「あれ? これはこれで、今度は放送尺が足りなくなっちゃうぞ」って(笑)。掌幻戦でほっとする自分がいたり……これが制作の哀しきジレンマなんです。般若さんに出番を回すまいとするモンスターたちの気迫、チームの絆が強くなったりと、いろんな方面で、影響を与えたバトルでしたね ――放送には乗っていないけど、印象的なシーンなどは? 岡田 いや、それちょっと記事にできないことばっかり(笑)<※以下、「コンプラ」でカット>。真剣勝負でやってるからこそ、いろいろあるんですよ。    
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岡田純一氏
――YouTubeでも再生回数900万回を超え、一般層にも広がりを見せていますが、何かきっかけがあったのでしょうか? 岡田 いろいろな芸能人の方が、SNSで番組についてリアクションしてくれたことが大きいですね。カンニング竹山さんが「ラップは全然わかりませんが今観ているフリースタイルダンジョンがクソおもしろい」とTwitterでツイートしてくれたことで一気に広がって、ほかにも、アジカンの後藤さんや、湘南乃風のSHOCK EYEさん、一番驚いたのは北川景子さんです。「時代きたー」と確信しました(笑)。 ――ヒップホップをよく知らない人には、どんなところを見てほしいですか? 岡田 そのまんまなんですけど、バトルです。バトルを見れば、そのスゴさがわかるっていう。ラップとして見るんじゃなくて、どう韻を踏むのか、頭の体操的な要素で見てくれてもいいと思いますし、いろんな見方ができると思うんです。僕は、フリースタイルバトルは格闘技だと思っているので、格闘技中継を意識して番組作りをしています。あと、般若劇団の行く末ですかね(笑)。    ――音楽番組がなかなか放送されない中で、バトル以外にも、ゲストによるライブも挟んでいますね。 岡田 これは、Zeebraさん、たっての希望なんです。バトルはできなくてもラッパーとして一生懸命頑張ってる人がいて、いい曲もってるのに、テレビには出られない、CDは売れないって人がたくさんいて。そんな人たちにチャンスを与えたいという、ヒップホップには夢があるんだっていう、Zeebraさんの熱い思いがベースにあったからこそのコーナーです。Rec1一発目の挑戦者、Dragon Oneが、今度はゲストライブで登場するって、ヒップホップドリームじゃないですか? ――1月から始まったRec4の見どころは? 岡田 新システムを導入して「隠れモンスター」がどこかで出てきます。まだ誰かは言えないんですけど、あっと驚く人が出てくるので、お楽しみに! さらにヤバい挑戦者もどんどん出てきて、濃厚キャラクター祭りです。Twitterで出せ出せ言われていたアノ人も出てきます。挑戦者の年齢幅を拡げたので、ますますヤバい人が出てきそうです。本当に100万円出ちゃうかもしれません! (取材・文=てれびのスキマ) ●テレビ朝日『フリースタイルダンジョン』 毎週火曜 深夜1:26~1:56  メインMC&オーガナイザー/Zeebra 進行/UZI モンスター/般若、漢 a.k.a. GAMI、サイプレス上野、R-指定(Creepy Nuts)、T-PABLOW 番組公式HP <http://www.tv-asahi.co.jp/freestyledungeon/> YouTube公式番組ページ <https://www.youtube.com/channel/UCpW67m9qez6GUd5-gbWS9Ag>