「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの“素顔”に突撃インタビュー!

「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像1
異色肌ギャルの発案者でありプロデューサーのmiyakoさん
 今年の6月26日、ツイッターのタイムラインに流れてきた以下のツイートが、私の凝り固まった脳味噌に強烈な衝撃を与えてくれた。  髪の毛は蛍光塗料で染めたような青にピンク、そして全身の肌は鮮やかな緑色という、二次元の世界から飛び出してきたような巨乳美女が、舌を出してこちらを挑発していたのだ。この女性こそがツイートをしたmiyakoさんだ。  そこには写真が3枚あり、残りの2枚は明らかに同族と思われる、「肌色」を放棄した異色なギャルの群れ。そんなインパクト抜群のヴィジュアルに添えられた「ウチらが一番カワイイし」というコピーもまた異色、いや出色の出来だった。  この異色肌ギャルのツイートは1万以上のリツイートを集め、国内外で大きな話題を呼ぶこととなったのだが、個人的にその驚きを大きくしたのは、この緑色の肌を持つ美女と『八潮秘宝館』というディープスポットで会っていたことだった。そのときは高級ラブドールに囲まれていても違和感を感じさせない、いい意味で人形っぽさのある色白の女性だったのに。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像2
写真中央がmiyakoさん。八潮秘宝館についてはこちらの記事参照。
 あのときに会ったmiyakoさんが、まさか肌を緑色に染めていたとは。この「異色肌ギャル」は瞬く間にムーブメントを呼び、各媒体のインタビューやテレビ番組の出演、さらには蜷川実花がプロデュースするイベントへの出演も果たした。  メディアを通じて観る異色肌ギャルのmiyakoさんと、私が記憶しているmiyakoさんの間を埋めたい。そんな個人的な動機で恐縮なのだが、10月20日に歌舞伎町で行われたハロウィンイベントの前に時間をいただき、異色メイク前のmiyakoさんにインタビューをお願いした。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像3
異色肌ギャルではない時のmiyakoさん。
──さっそくですが、まずはmiyakoさんが何者なのかを教えてもらっていいですか? miyako 元グラビアイドルで、今はモデルや異色肌ギャルのプロデューサーですね。 ──やっぱり一般人のかわいさじゃないですよね。ではプロデューサーに聞きますが、この異色肌ギャルというのは一体何者なのでしょう。 miyako いわゆるアメコミとか、ロッキン・ジェリービーンさん(ミュージシャンでもある日本人覆面漫画家)、水野純子さん(コケティッシュでグロテスクな作風の漫画家・イラストレーター)とか、イラストとかコミックの世界では肌色が現実とは違うキャラが普通だったので、それで私がギャルでやってみよ~って趣味で撮影したのが始まりです。 ──なるほど、異色肌でギャルになってみようと。すごい発想だと思いますけど、miyakoさんは元ギャルなんですか? miyako 全然。ただのオタクです。マンガ、ゲームが大好き人間。オタクというか、引きこもりに近いかな。 ──具体的にはどんな作品ですか。 miyako ゲームだと、『バイオショック』、『龍が如く』、『クーロンズゲート』、『探偵 神宮寺三郎』シリーズとか。マンガなら『パタリロ』が好きです! ──確かにギャルとは関係ないラインナップですね。まさか『パタリロ』がくるとは。 miyako でもギャルに憧れはあったんです。ガングロとかヤマンバとか。それでトランスを聞いてみたり、「egg」(大洋図書)とか「小悪魔ageha」(インフォレスト)を買ってみたり、そういう努力はしていました。その頃に憧れたギャルをオマージュして、ちょっと異色肌でやってみようと思ったのが2年前です。最初は一人でスタジオを借りて、地味に撮影していました。 ──自分の中に眠っていたギャルへの憧れを、得意分野であるオタクカルチャーから「異色肌」と結び付けて、コスプレのような感じで実現させたということですかね。 miyako よしじゃあ今度は一人ではなく、何人かでやろうと思って募集をかけたら、けっこう集まったんです。それで6月に歌舞伎町のバーを借りて撮影をしたら、それがTwitterでバズって、いろんなところからご依頼がきたりとか。 ──あの写真の表情、すごくいいですよね。 miyako 「アヘ顔」ですね。あれでバーッといきました。でもこんなことになるとは全然思っていなくて。蜷川実花さんに呼んでいただけたり、カズ・レーザーさんをメイクしたり……良い思い出です。 ──いやいや、活躍はまだまだこれからですよ!
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像4
異色肌のときとは、ちょっと表情が違うように見える
──異色肌のメイクは何でするんですか? miyako 舞台役者とかピエロとかが使うドーランですね。三善(みつよし)というメーカーを使っています。一回のメイクで2時間以上かかるし、やっぱり一回異色肌になるだけでも、すごく体力を使うので、短期間に依頼が重なると、何回も塗っては落としてってなるので、ものすごく大変ですね。塗ってしまうと、ものに触れないとか、着替えもできないとか、そういうのがすごくストレスで。 ──なるほど、異色肌になるのも楽じゃないんですね。他のメンバーはメイクや髪型がバラバラなんだけど、グループとしての統一感を感じます。人数が増えると、やっぱりパワーアップしますね。このヴィジュアルは自分たちで考えるんですか? miyako メンバーがそれぞれ自分で考えますね。ただ、やっぱりなるべくハデにしようとか、色がかぶらないようにしなきゃとかは、こっちで気を付けています。 ──そこはプロデューサーの手腕ですね。 miyako ちょっとは、かな。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像5
miyakoさんは異色肌ギャルの発案者であり、現在はメンバーを統括するプロデューサーでもある
──この異色肌ギャルには設定とかあるんですか? 宇宙から来たとか、特殊能力で変身しているとか。 miyako 自分のキャラに近いかな。何か架空の存在になりきるというよりは、自分の延長線上にあるキャラクターです。名前もキャラ名とかがあるわけではなく、普段の自分の名前ですね。 ──miyakoさん以外のメンバーは、どんな人がいるんですか? miyako ラブドールと暮らすグラドル、ぽっちゃりアイドル、ストリッパー、漫画家、イベントスタッフ、主婦といろいろですね。全部で10人くらいかな。こんな活動をしているけど、実はオタクでおとなしいメンバーばっかりです。異色肌は自己解放みたいなところが結構あって、あの派手なメイクをすることで、普段の弱い自分からの開放がそこにある。変身すると弱いヒロインが強い魔法少女になるみたいな。でも中には普段から異色肌みたいな子もいるかな。 ──なるほど。確かにもともとが強そうな方が混ざってますね。あ、良い意味でですよ。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像6
本日集まった異色肌ギャル達の貴重なメイク前の姿。
──外観を変えると、内面も変わります? miyako かわいいなー、自分! ってみんなテンションが上がります。その変身が大変なんですけど。 ──ちょっと特殊かもしれませんが、理想の自分になるためのメイクなんでしょうね。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像7
イベントでの異色肌ギャル。誰がどれになったかわかりますか?※左の黒肌ギャルだけメイク前は写ってません(写真提供:海老式
──「ウチらが一番カワイイし」という印象的なフレーズとつながってきましたね。 miyako あのツイートをするとき、何かギャルっぽい強い言葉を考えようと思って、ふと思いついたフレーズです。今はみんなの合言葉になっていますね。自己肯定のフレーズ。オタクって基本的に自己肯定力が低いので。 ──かわいいとか、きれいだねとか、人に思われるためにやっているのとは、ちょっと違う感じですね。 miyako あわよくば、かわいいって思われたいというのはありますよ。でも、自分で自分がかわいい! と思いたい方が強いです。みんなが自己肯定をできる瞬間が、異色肌になっている瞬間なのかなって思います。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像8
自己肯定、最高!(写真提供:海老式
──今後の活動はどんなことを予定しているのでしょう。 miyako また新たに作品撮りをしたりとか、もっとボーダレス的な活動に参加したりとか、みんなを楽しませていけるようなことができたらなーって思っています。自己肯定力をみんなでもっと上げていくスタイルで。ハロウィンが近いので、みんなにも異色肌を試してほしいな。ただ、企業が商用でのパロディはやらないでいただいて……。  * * *  miyakoさんが異色肌ギャルになったのは、ただ目立ちたいからというわけではなく、なりたい自分を積み重ねた結果なのだろう。ちょっと自信を持った状態の自分になるためのコスプレなのだ。  こうしてじっくりと話を伺ったおかげで、目の前にいた色白のmiyakoさんと、写真で見た緑色のmiyakoさんが、しっかりと繋がって見えるようになった。 (取材・文=鴨野橋太郎)

「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの“素顔”に突撃インタビュー!

「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像1
異色肌ギャルの発案者でありプロデューサーのmiyakoさん
 今年の6月26日、ツイッターのタイムラインに流れてきた以下のツイートが、私の凝り固まった脳味噌に強烈な衝撃を与えてくれた。  髪の毛は蛍光塗料で染めたような青にピンク、そして全身の肌は鮮やかな緑色という、二次元の世界から飛び出してきたような巨乳美女が、舌を出してこちらを挑発していたのだ。この女性こそがツイートをしたmiyakoさんだ。  そこには写真が3枚あり、残りの2枚は明らかに同族と思われる、「肌色」を放棄した異色なギャルの群れ。そんなインパクト抜群のヴィジュアルに添えられた「ウチらが一番カワイイし」というコピーもまた異色、いや出色の出来だった。  この異色肌ギャルのツイートは1万以上のリツイートを集め、国内外で大きな話題を呼ぶこととなったのだが、個人的にその驚きを大きくしたのは、この緑色の肌を持つ美女と『八潮秘宝館』というディープスポットで会っていたことだった。そのときは高級ラブドールに囲まれていても違和感を感じさせない、いい意味で人形っぽさのある色白の女性だったのに。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像2
写真中央がmiyakoさん。八潮秘宝館についてはこちらの記事参照。
 あのときに会ったmiyakoさんが、まさか肌を緑色に染めていたとは。この「異色肌ギャル」は瞬く間にムーブメントを呼び、各媒体のインタビューやテレビ番組の出演、さらには蜷川実花がプロデュースするイベントへの出演も果たした。  メディアを通じて観る異色肌ギャルのmiyakoさんと、私が記憶しているmiyakoさんの間を埋めたい。そんな個人的な動機で恐縮なのだが、10月20日に歌舞伎町で行われたハロウィンイベントの前に時間をいただき、異色メイク前のmiyakoさんにインタビューをお願いした。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像3
異色肌ギャルではない時のmiyakoさん。
──さっそくですが、まずはmiyakoさんが何者なのかを教えてもらっていいですか? miyako 元グラビアイドルで、今はモデルや異色肌ギャルのプロデューサーですね。 ──やっぱり一般人のかわいさじゃないですよね。ではプロデューサーに聞きますが、この異色肌ギャルというのは一体何者なのでしょう。 miyako いわゆるアメコミとか、ロッキン・ジェリービーンさん(ミュージシャンでもある日本人覆面漫画家)、水野純子さん(コケティッシュでグロテスクな作風の漫画家・イラストレーター)とか、イラストとかコミックの世界では肌色が現実とは違うキャラが普通だったので、それで私がギャルでやってみよ~って趣味で撮影したのが始まりです。 ──なるほど、異色肌でギャルになってみようと。すごい発想だと思いますけど、miyakoさんは元ギャルなんですか? miyako 全然。ただのオタクです。マンガ、ゲームが大好き人間。オタクというか、引きこもりに近いかな。 ──具体的にはどんな作品ですか。 miyako ゲームだと、『バイオショック』、『龍が如く』、『クーロンズゲート』、『探偵 神宮寺三郎』シリーズとか。マンガなら『パタリロ』が好きです! ──確かにギャルとは関係ないラインナップですね。まさか『パタリロ』がくるとは。 miyako でもギャルに憧れはあったんです。ガングロとかヤマンバとか。それでトランスを聞いてみたり、「egg」(大洋図書)とか「小悪魔ageha」(インフォレスト)を買ってみたり、そういう努力はしていました。その頃に憧れたギャルをオマージュして、ちょっと異色肌でやってみようと思ったのが2年前です。最初は一人でスタジオを借りて、地味に撮影していました。 ──自分の中に眠っていたギャルへの憧れを、得意分野であるオタクカルチャーから「異色肌」と結び付けて、コスプレのような感じで実現させたということですかね。 miyako よしじゃあ今度は一人ではなく、何人かでやろうと思って募集をかけたら、けっこう集まったんです。それで6月に歌舞伎町のバーを借りて撮影をしたら、それがTwitterでバズって、いろんなところからご依頼がきたりとか。 ──あの写真の表情、すごくいいですよね。 miyako 「アヘ顔」ですね。あれでバーッといきました。でもこんなことになるとは全然思っていなくて。蜷川実花さんに呼んでいただけたり、カズ・レーザーさんをメイクしたり……良い思い出です。 ──いやいや、活躍はまだまだこれからですよ!
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像4
異色肌のときとは、ちょっと表情が違うように見える
──異色肌のメイクは何でするんですか? miyako 舞台役者とかピエロとかが使うドーランですね。三善(みつよし)というメーカーを使っています。一回のメイクで2時間以上かかるし、やっぱり一回異色肌になるだけでも、すごく体力を使うので、短期間に依頼が重なると、何回も塗っては落としてってなるので、ものすごく大変ですね。塗ってしまうと、ものに触れないとか、着替えもできないとか、そういうのがすごくストレスで。 ──なるほど、異色肌になるのも楽じゃないんですね。他のメンバーはメイクや髪型がバラバラなんだけど、グループとしての統一感を感じます。人数が増えると、やっぱりパワーアップしますね。このヴィジュアルは自分たちで考えるんですか? miyako メンバーがそれぞれ自分で考えますね。ただ、やっぱりなるべくハデにしようとか、色がかぶらないようにしなきゃとかは、こっちで気を付けています。 ──そこはプロデューサーの手腕ですね。 miyako ちょっとは、かな。 ──この異色肌ギャルには設定とかあるんですか? 宇宙から来たとか、特殊能力で変身しているとか。 miyako 自分のキャラに近いかな。何か架空の存在になりきるというよりは、自分の延長線上にあるキャラクターです。名前もキャラ名とかがあるわけではなく、普段の自分の名前ですね。 ──miyakoさん以外のメンバーは、どんな人がいるんですか? miyako ラブドールと暮らすグラドル、ぽっちゃりアイドル、ストリッパー、漫画家、イベント制作、主婦といろいろですね。全部で10人くらいかな。こんな活動をしているけど、実はオタクでおとなしいメンバーばっかりです。異色肌は自己解放みたいなところが結構あって、あの派手なメイクをすることで、普段の弱い自分からの開放がそこにある。変身すると弱いヒロインが強い魔法少女になるみたいな。でも中には普段から異色肌みたいな子もいるかな。 ──なるほど。確かにもともとが強そうな方が混ざってますね。あ、良い意味でですよ。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像6
本日集まった異色肌ギャル達の貴重なメイク前の姿。
──外観を変えると、内面も変わります? miyako かわいいなー、自分! ってみんなテンションが上がります。その変身が大変なんですけど。 ──ちょっと特殊かもしれませんが、理想の自分になるためのメイクなんでしょうね。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像7
イベントでの異色肌ギャル。誰がどれになったかわかりますか?※左の黒肌ギャルだけメイク前は写ってません(写真提供:海老式
──「ウチらが一番カワイイし」という印象的なフレーズとつながってきましたね。 miyako あのツイートをするとき、何かギャルっぽい強い言葉を考えようと思って、ふと思いついたフレーズです。今はみんなの合言葉になっていますね。自己肯定のフレーズ。オタクって基本的に自己肯定力が低いので。 ──かわいいとか、きれいだねとか、人に思われるためにやっているのとは、ちょっと違う感じですね。 miyako あわよくば、かわいいって思われたいというのはありますよ。でも、自分で自分がかわいい! と思いたい方が強いです。みんなが自己肯定をできる瞬間が、異色肌になっている瞬間なのかなって思います。
「ウチらが一番カワイイし」話題の『異色肌ギャル』をプロデュースするmiyakoの素顔に突撃インタビュー!の画像8
自己肯定、最高!(写真提供:海老式
──今後の活動はどんなことを予定しているのでしょう。 miyako また新たに作品撮りをしたりとか、もっとボーダレス的な活動に参加したりとか、みんなを楽しませていけるようなことができたらなーって思っています。自己肯定力をみんなでもっと上げていくスタイルで。ハロウィンが近いので、みんなにも異色肌を試してほしいな。ただ、企業が商用でのパロディはやらないでいただいて……。
sDSC_1738.jpg
ハロウィンイベントでのステージパフォーマンス(写真提供:@lmskii
 miyakoさんが異色肌ギャルになったのは、ただ目立ちたいからというわけではなく、なりたい自分を積み重ねた結果なのだろう。ちょっと自信を持った状態の自分になるためのコスプレなのだ。  こうしてじっくりと話を伺ったおかげで、目の前にいた色白のmiyakoさんと、写真で見た緑色のmiyakoさんが、しっかりと繋がって見えるようになった。 (取材・文=鴨野橋太郎)

6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──

6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像1
(撮影=名鹿祥史)
“涙のカリスマ”として、プロレス界に一時代を築いた“邪道”大仁田厚が10月31日、東京・後楽園ホールでの「さよなら大仁田 さよなら電流爆破」で、リングに別れを告げる。実に6度にわたって引退、復帰を繰り返してきた大仁田だが、「今回は本当に引退」だと言う。引退試合を目前に控えた大仁田を直撃し、引退に至る経緯を聞きつつ、元参院議員でもある氏に来たる衆院選についての話も聞いてみた。(取材・文=ミカエル・コバタ) ――周囲では、「本当に引退するのか?」という声もありますが、今度こそ本当に辞められるんですよね? 大仁田厚(以下、大仁田) もちろん。本当は6回も引退、復帰を繰り返したつもりはないんだけど、どこかに6回って書かれたから、もう6回でいいやって思ったんだけど……。「まだ動けるじゃないか」って言われますけど、肉体的な問題もあるし、もうボクの時代じゃないですよ。ボクはプロレスが大好きだし、今でも何千人というお客さんは呼べるけど、最後の幕引きをしなきゃいけない。引退の言葉は何度も使ってきたから、今回は「さよなら」です。 ――かねて、「還暦で電流爆破デスマッチをやって引退」を公言されていましたが、それを有言実行されると……。 大仁田 そうですね。10月25日で60歳になりますから、肉体的にも限界です。この先、顔見せ的な試合はできるかもしれませんが、ボクはそういうのは好きじゃない。動けるうちに引いた方がいいと思ったんです。 ――10月29日に、名古屋国際会議場で、最後の電流爆破デスマッチ(大仁田&KAI vs ミノワマン&青柳政司)を行いますね? 大仁田 平成元年にFMWは名古屋で旗揚げしたんですけど、そのときの対戦相手が青柳館長。あれから28年の月日を経て、こういうことになって、これも何かの縁なんでしょうね。異種格闘技戦はFMWの原点。タッグを組むKAIは、ボクのファンでプロレスラーになった選手。総合格闘家のミノワマンとは初対戦になりますが、水と油のおもしろさがある。青柳館長はバイク事故で右脚を複雑骨折して引退したけど、「もう一度、大仁田を蹴りたい!」ということで、この試合のために、1日限定で復帰する。このメンバーで電流爆破をやるわけですから、どんな試合になるか想像もつかない。だからこそ、おもしろいんじゃないですか。 ――10月31日の引退試合(大仁田&雷神矢口&保坂秀樹 vs 藤田和之&ケンドー・カシン&NOSAWA論外)では、アントニオ猪木さんの弟子である藤田選手と対戦します。かなり、意外な人選だと思いますが……。 大仁田 そういう声もありますが、ボクはジャイアント馬場さんの弟子です。そのライバルだった猪木さんとは、対戦要望を出して、実現目前までいったけど、諸々の事情で流れて、交わることができなかった。だったら、最後に猪木さんの遺伝子である藤田選手と闘ってみたいと思ったんですよ。馬場さんと猪木さんの代理戦争じゃないけど……。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像2
――当日、猪木さんを会場に招待するようなプランはないのですか? 大仁田 ないです! 呼んでも来ないですよ。実はあいさつに行きたくて、秘書さんを通じてアポイントを取ろうとしたんだけど、取り次いでくれなくてダメ。礼を尽くそうとしても、アポが取れない。プロレス界の首領なら、もっとドーンと構えてほしいよ。ボクは猪木さんに嫌われてる男の1人なんでしょうね。 ――むしろ引退試合を電流爆破デスマッチで、という選択肢もあったと思いますが? 大仁田 もちろん。当初は旧川崎球場跡地(現・富士通スタジアム川崎)も考えたけど、あそこはもうアメフトやサッカーのスタジアムで、思い出深い川崎球場じゃないんですよ。だったら、後楽園にしようと思って。後楽園はデビューした場所だし、全日本プロレスで最初の引退式をやった場所でもあるし、思い出がいっぱい詰まってるんです。だから、最後は後楽園なんです。 ――ZERO1・超花火プロレスの工藤めぐみエクスプロージョンプリンセスからは、引退試合3日後となる11月3日に川崎市スポーツ文化・総合センターで開催される「電流爆破フェスティバル」へのオファーが届きましたが、出る可能性はありますか? 大仁田 それは絶対ないです。工藤選手の気持ちはうれしいけど、それは出ません。それをやったら、10月31日のチケットを買ってくれたファンを裏切ることになる。遠方の人で、休みを取って来てくれる人もいるわけだし。その話が出て、チケット購入者からキャンセルが出たりしましたけど、それは100パーセントないです。 ――引退後のプランは決まっているんですか? 大仁田 まだ決まってません。ただ1カ月は休もうと思ってます。痛めている膝、肩、右手の問題もありますし。しばらく体を休めたいですね。 ――商売を始められるような考えはないですか? 大仁田 いやー、ボクは商売には向いてないですよ。じいちゃんが商売人だったけど、博打じゃないけど、相場師みたいなもんだった。 ――今回こそ、本当に引退されるんですよね? 大仁田 そうだよ。もうボクの時代じゃないって! ただ、たとえば老人ホームとか慰問して、そこでリングを作って、アマチュアとしてやることはあるかもしれない。それはあくまでもボランティアであって、プロレスラーとしてではない。プロレスラーの大仁田厚は幕引きで、もう幕を開けることはないです。それからボクは「イジメ撲滅」「地方の活性化」を掲げて、全国300カ所くらい回ったんですけど、地方の活性化にはプロレスがいいって思うんですよ。地方でやると、おじいちゃん、おばあちゃん、子どもたちが来るんです。だから地域プロレスは応援したい。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像3
――大仁田さんは元参院議員でもありますが、今でも政治には興味を持たれているんですよね? 大仁田 関心はあります。やっぱり地方の活性化をすべきだと思うんです。東京中心の世の中で、すべてが東京に集まる中、地方はどんどん過疎化して、空き家問題もある。高齢化、少子化の問題もある。地方の財源の問題もある。最近はよく「タバコは吸うな」って言いますけど、たばこ税の多くは地方税ですよ。規制に入ると、地方の財源はどんどんなくなっていく。地方は官僚や有力な国会議員に頭を下げて、補助金をもらう状態。地方がどんどん疲弊していく中で、地方革命が起きないかな? 誰か地方から声を上げないかな? って思ってます。希望の党、立憲民主党もいいけど、誰か地方党とかいって名乗り上げる人はいないのかと思う。沖縄県みたいに、政府に反発すると、補助金も削られて、締め付けられて財源がなくなっていく。予算で地方をいじめるわけですよ。 ――国政より、地方自治に興味があるわけですか? 大仁田 そうだね。地方にはその地方の特色があって、地方新聞があるんです。たとえば群馬に上毛新聞、栃木に下野新聞というのがあって、シェアが80パーセントくらいある。この間、佐賀新聞の社長とお会いしたんですが、ここも80パーセントくらいのシェアを持っている。共同通信とか大きなところと提携は結んでいるんだろうけど、地方新聞が立ち上がるべきじゃないかと思うんですよ。「地方のことを考えろ!」って。地方が立ち上がらなければ、日本の国はダメ。 ――自民党の石破茂さん(衆院議員)なんかはどうですか? 大仁田 ボクは好きですよ。地方の人が陳情に行っても、流す人がいるんだけど、あの人は幹事長時代、陳情に来ると、ちゃんと話を聞いていたって、国会議員仲間から聞きましたね。鈴木宗男さん(元衆院議員)なんか、陳情に来ると、その場で官僚に連絡して、その場で話を決めたっていう伝説がある。そういう地方のためになる人が必要だと思う。 ――今回の衆院選(22日投開票)は、どう見られていますか? 大仁田 どこが野党だかわからない。本当の野党は共産党と社民党くらいだろ。リベラルという意味は非常に難しいけど、大衆主義的な傾向があって、はき違えがある。共産党の理想論は聞いてたら素晴らしいけど、その予算はどうするの? 理想ではメシ食えないよ。ボクはもう自民党員じゃないし、好きな人を応援したいと思います。党ではなく、人で選ぶべきだと思う。「地方のために、何をしてくれるんだ!」って、議長の胸ぐらをつかむぐらいの気持ちを持った人が出るべき。「てめぇー、なめんなよ!」というくらいの国会議員がいてもいいじゃない。自国は自国で守らないといけないし、日本という国の存在感を高めないといけない。それができる人を首相にして、全責任を負わせないと……。選挙権も18歳からになったわけだし、投票率が100パーセントになれば、日本の国は変わりますよ。建設関係の人たちとかが自民党を勝たせようとしたりするけど、日本がどういう方向を向くかを国民も考えないと……。第2次安倍(晋三)政権になって、5年近くになるけど、お灸を据えないといけない。野党にがんばってもらいたいけど、選択肢がなかなかないな。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像4
――猪木参院議員がたびたび訪朝されてますが、どう見られていますか? 大仁田 訪朝しても、金正恩(キム・ジョンウン)は出てこないじゃん。猪木さん的には、北朝鮮とのパイプがあるというのを、自民党とかにアピールする材料でしかないんじゃないの? だって、なんのために行ったのか、中身がないじゃない。帰国後、何も決まっていない。猪木さんが「平和の祭典」をやっても、ミサイルをぶっ放してるじゃない。そこら中に。「平和の祭典」をやった成果があるんなら、ミサイルは撃ってこないだろ。あくまでも猪木さんの政治的なアピールだと思いますよ。北朝鮮の特命大臣とか狙ってるんじゃないの?(笑) ――国会議員を1期で辞められたのはなぜですか? 大仁田 1期で辞めたのは、政治家になりきれなかった男だからかな。政治家は平気でウソをつく。いや言ってるときは本当なんだけど……。ウソをつくのが商売のようなところがある。その点、宗男さんなんか正直だった。「オレが国会議員を続けていたら、(北方領土の)2島は返還されたんだよ。4島じゃなくてもいいじゃない」って言ってたね。2島だけでも返還されれば、北海道の漁業の人たちが、そっちの方にも鮭や昆布を取りに行けるでしょ。北海道は拓殖銀行が潰れて、経済が落ちたけど、そのときにがんばってたのが宗男さん。今でも、あの年になって、がんになっても、立とうとする精神力は買うべきだよ。北海道のためにって。あれこそ地方革命だよ。それから、参院議員になってわかったのは、あの世界は「官僚と世襲」だと痛感した。それでイヤになって、1期で辞めた。それは今でも変わらないな。 ――どうしても、地方の方に目が行ってしまうわけですか? 大仁田 そうだね。ボクはいろんな都市を回って、たくさんの市長や知事に会ったけど、どこかお手本になるような都市作りをしてくれないかな。日本は根本に立ち返り、家族とは何か、きょうだいとは何か、友人とは何かを考えるべき。ネットの世界は生き方の手本じゃないよ。自分が感じ、自分で動いて、食べて飲んで、それを自分の生き方にしなきゃいけないと思います。 ――それでは、将来的に、大仁田さん自身が、どこかの市長選に出馬するような意向はありますか? 大仁田 今のところないけど、どこかでボクを生かしてくれる所があれば、立ちたいという気持ちはメチャメチャ持ってます。 ――わかりました。それでは最後に何かメッセージがあれば、お願いします。 大仁田 10月31日、後楽園ホール。「大仁田の最後を見てやろうか!」という人がいたら、ぜひ足を運んでください。それから、ネットでよく、故・鳩山邦夫先生に「借金返せ!」って書き込みしてる人がいるんだけど、その件はもう鳩山家との間で解決してますから。それでも文句ある人は、ボクのところに直接聞きに来てください。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像5
★大仁田厚試合情報 10月21日(土) A-TEAM 沖縄・豊見城市豊崎美らSUNビーチ特設会場(18時開始) 10月29日(日) 大仁田興行 愛知・名古屋国際会議場(15時開始) 10月31日(火) 大仁田興行 東京・後楽園ホール(18時半開始) ★大仁田厚オフィシャルサイト http://onitafire.com/ ●大仁田厚(おおにた・あつし) 1957年10月25日、長崎県長崎市生まれ。高校を3日で中退し、73年10月、旗揚げしたばかりの、故ジャイアント馬場率いる全日本プロレスに新弟子第1号として入門。74年4月14日、後楽園ホールでの佐藤昭雄戦でデビュー。82年3月にNWAインターナショナル・ジュニアヘビー級王座を奪取するなど、同団体のジュニアのエースとして活躍。83年4月20日、東京体育館でのヘクター・ゲレロ戦で左膝蓋骨を粉砕骨折し、長期欠場を余儀なくされる。戦線復帰はしたものの、左膝のケガは癒えず、85年1月3日、後楽園で引退式を行う。88年12月3日、ジャパン女子プロレスのリングで復帰。89年10月、FMWを旗揚げ。有刺鉄線、電流爆破など過激デスマッチ路線で新境地を開拓。社長兼エースとして、同団体を牽引し、“涙のカリスマ”と称される。95年5月5日、川崎球場で2度目の引退。96年12月に復帰すると、以後、引退、復帰を繰り返す。2001年に自民党から参院選に出馬し当選。42歳で駿台学園高等学校を、47歳で明治大学政治経済学部経済学科を卒業。

6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──

6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像1
(撮影=名鹿祥史)
“涙のカリスマ”として、プロレス界に一時代を築いた“邪道”大仁田厚が10月31日、東京・後楽園ホールでの「さよなら大仁田 さよなら電流爆破」で、リングに別れを告げる。実に6度にわたって引退、復帰を繰り返してきた大仁田だが、「今回は本当に引退」だと言う。引退試合を目前に控えた大仁田を直撃し、引退に至る経緯を聞きつつ、元参院議員でもある氏に来たる衆院選についての話も聞いてみた。(取材・文=ミカエル・コバタ) ――周囲では、「本当に引退するのか?」という声もありますが、今度こそ本当に辞められるんですよね? 大仁田厚(以下、大仁田) もちろん。本当は6回も引退、復帰を繰り返したつもりはないんだけど、どこかに6回って書かれたから、もう6回でいいやって思ったんだけど……。「まだ動けるじゃないか」って言われますけど、肉体的な問題もあるし、もうボクの時代じゃないですよ。ボクはプロレスが大好きだし、今でも何千人というお客さんは呼べるけど、最後の幕引きをしなきゃいけない。引退の言葉は何度も使ってきたから、今回は「さよなら」です。 ――かねて、「還暦で電流爆破デスマッチをやって引退」を公言されていましたが、それを有言実行されると……。 大仁田 そうですね。10月25日で60歳になりますから、肉体的にも限界です。この先、顔見せ的な試合はできるかもしれませんが、ボクはそういうのは好きじゃない。動けるうちに引いた方がいいと思ったんです。 ――10月29日に、名古屋国際会議場で、最後の電流爆破デスマッチ(大仁田&KAI vs ミノワマン&青柳政司)を行いますね? 大仁田 平成元年にFMWは名古屋で旗揚げしたんですけど、そのときの対戦相手が青柳館長。あれから28年の月日を経て、こういうことになって、これも何かの縁なんでしょうね。異種格闘技戦はFMWの原点。タッグを組むKAIは、ボクのファンでプロレスラーになった選手。総合格闘家のミノワマンとは初対戦になりますが、水と油のおもしろさがある。青柳館長はバイク事故で右脚を複雑骨折して引退したけど、「もう一度、大仁田を蹴りたい!」ということで、この試合のために、1日限定で復帰する。このメンバーで電流爆破をやるわけですから、どんな試合になるか想像もつかない。だからこそ、おもしろいんじゃないですか。 ――10月31日の引退試合(大仁田&雷神矢口&保坂秀樹 vs 藤田和之&ケンドー・カシン&NOSAWA論外)では、アントニオ猪木さんの弟子である藤田選手と対戦します。かなり、意外な人選だと思いますが……。 大仁田 そういう声もありますが、ボクはジャイアント馬場さんの弟子です。そのライバルだった猪木さんとは、対戦要望を出して、実現目前までいったけど、諸々の事情で流れて、交わることができなかった。だったら、最後に猪木さんの遺伝子である藤田選手と闘ってみたいと思ったんですよ。馬場さんと猪木さんの代理戦争じゃないけど……。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像2
――当日、猪木さんを会場に招待するようなプランはないのですか? 大仁田 ないです! 呼んでも来ないですよ。実はあいさつに行きたくて、秘書さんを通じてアポイントを取ろうとしたんだけど、取り次いでくれなくてダメ。礼を尽くそうとしても、アポが取れない。プロレス界の首領なら、もっとドーンと構えてほしいよ。ボクは猪木さんに嫌われてる男の1人なんでしょうね。 ――むしろ引退試合を電流爆破デスマッチで、という選択肢もあったと思いますが? 大仁田 もちろん。当初は旧川崎球場跡地(現・富士通スタジアム川崎)も考えたけど、あそこはもうアメフトやサッカーのスタジアムで、思い出深い川崎球場じゃないんですよ。だったら、後楽園にしようと思って。後楽園はデビューした場所だし、全日本プロレスで最初の引退式をやった場所でもあるし、思い出がいっぱい詰まってるんです。だから、最後は後楽園なんです。 ――ZERO1・超花火プロレスの工藤めぐみエクスプロージョンプリンセスからは、引退試合3日後となる11月3日に川崎市スポーツ文化・総合センターで開催される「電流爆破フェスティバル」へのオファーが届きましたが、出る可能性はありますか? 大仁田 それは絶対ないです。工藤選手の気持ちはうれしいけど、それは出ません。それをやったら、10月31日のチケットを買ってくれたファンを裏切ることになる。遠方の人で、休みを取って来てくれる人もいるわけだし。その話が出て、チケット購入者からキャンセルが出たりしましたけど、それは100パーセントないです。 ――引退後のプランは決まっているんですか? 大仁田 まだ決まってません。ただ1カ月は休もうと思ってます。痛めている膝、肩、右手の問題もありますし。しばらく体を休めたいですね。 ――商売を始められるような考えはないですか? 大仁田 いやー、ボクは商売には向いてないですよ。じいちゃんが商売人だったけど、博打じゃないけど、相場師みたいなもんだった。 ――今回こそ、本当に引退されるんですよね? 大仁田 そうだよ。もうボクの時代じゃないって! ただ、たとえば老人ホームとか慰問して、そこでリングを作って、アマチュアとしてやることはあるかもしれない。それはあくまでもボランティアであって、プロレスラーとしてではない。プロレスラーの大仁田厚は幕引きで、もう幕を開けることはないです。それからボクは「イジメ撲滅」「地方の活性化」を掲げて、全国300カ所くらい回ったんですけど、地方の活性化にはプロレスがいいって思うんですよ。地方でやると、おじいちゃん、おばあちゃん、子どもたちが来るんです。だから地域プロレスは応援したい。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像3
――大仁田さんは元参院議員でもありますが、今でも政治には興味を持たれているんですよね? 大仁田 関心はあります。やっぱり地方の活性化をすべきだと思うんです。東京中心の世の中で、すべてが東京に集まる中、地方はどんどん過疎化して、空き家問題もある。高齢化、少子化の問題もある。地方の財源の問題もある。最近はよく「タバコは吸うな」って言いますけど、たばこ税の多くは地方税ですよ。規制に入ると、地方の財源はどんどんなくなっていく。地方は官僚や有力な国会議員に頭を下げて、補助金をもらう状態。地方がどんどん疲弊していく中で、地方革命が起きないかな? 誰か地方から声を上げないかな? って思ってます。希望の党、立憲民主党もいいけど、誰か地方党とかいって名乗り上げる人はいないのかと思う。沖縄県みたいに、政府に反発すると、補助金も削られて、締め付けられて財源がなくなっていく。予算で地方をいじめるわけですよ。 ――国政より、地方自治に興味があるわけですか? 大仁田 そうだね。地方にはその地方の特色があって、地方新聞があるんです。たとえば群馬に上毛新聞、栃木に下野新聞というのがあって、シェアが80パーセントくらいある。この間、佐賀新聞の社長とお会いしたんですが、ここも80パーセントくらいのシェアを持っている。共同通信とか大きなところと提携は結んでいるんだろうけど、地方新聞が立ち上がるべきじゃないかと思うんですよ。「地方のことを考えろ!」って。地方が立ち上がらなければ、日本の国はダメ。 ――自民党の石破茂さん(衆院議員)なんかはどうですか? 大仁田 ボクは好きですよ。地方の人が陳情に行っても、流す人がいるんだけど、あの人は幹事長時代、陳情に来ると、ちゃんと話を聞いていたって、国会議員仲間から聞きましたね。鈴木宗男さん(元衆院議員)なんか、陳情に来ると、その場で官僚に連絡して、その場で話を決めたっていう伝説がある。そういう地方のためになる人が必要だと思う。 ――今回の衆院選(22日投開票)は、どう見られていますか? 大仁田 どこが野党だかわからない。本当の野党は共産党と社民党くらいだろ。リベラルという意味は非常に難しいけど、大衆主義的な傾向があって、はき違えがある。共産党の理想論は聞いてたら素晴らしいけど、その予算はどうするの? 理想ではメシ食えないよ。ボクはもう自民党員じゃないし、好きな人を応援したいと思います。党ではなく、人で選ぶべきだと思う。「地方のために、何をしてくれるんだ!」って、議長の胸ぐらをつかむぐらいの気持ちを持った人が出るべき。「てめぇー、なめんなよ!」というくらいの国会議員がいてもいいじゃない。自国は自国で守らないといけないし、日本という国の存在感を高めないといけない。それができる人を首相にして、全責任を負わせないと……。選挙権も18歳からになったわけだし、投票率が100パーセントになれば、日本の国は変わりますよ。建設関係の人たちとかが自民党を勝たせようとしたりするけど、日本がどういう方向を向くかを国民も考えないと……。第2次安倍(晋三)政権になって、5年近くになるけど、お灸を据えないといけない。野党にがんばってもらいたいけど、選択肢がなかなかないな。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像4
――猪木参院議員がたびたび訪朝されてますが、どう見られていますか? 大仁田 訪朝しても、金正恩(キム・ジョンウン)は出てこないじゃん。猪木さん的には、北朝鮮とのパイプがあるというのを、自民党とかにアピールする材料でしかないんじゃないの? だって、なんのために行ったのか、中身がないじゃない。帰国後、何も決まっていない。猪木さんが「平和の祭典」をやっても、ミサイルをぶっ放してるじゃない。そこら中に。「平和の祭典」をやった成果があるんなら、ミサイルは撃ってこないだろ。あくまでも猪木さんの政治的なアピールだと思いますよ。北朝鮮の特命大臣とか狙ってるんじゃないの?(笑) ――国会議員を1期で辞められたのはなぜですか? 大仁田 1期で辞めたのは、政治家になりきれなかった男だからかな。政治家は平気でウソをつく。いや言ってるときは本当なんだけど……。ウソをつくのが商売のようなところがある。その点、宗男さんなんか正直だった。「オレが国会議員を続けていたら、(北方領土の)2島は返還されたんだよ。4島じゃなくてもいいじゃない」って言ってたね。2島だけでも返還されれば、北海道の漁業の人たちが、そっちの方にも鮭や昆布を取りに行けるでしょ。北海道は拓殖銀行が潰れて、経済が落ちたけど、そのときにがんばってたのが宗男さん。今でも、あの年になって、がんになっても、立とうとする精神力は買うべきだよ。北海道のためにって。あれこそ地方革命だよ。それから、参院議員になってわかったのは、あの世界は「官僚と世襲」だと痛感した。それでイヤになって、1期で辞めた。それは今でも変わらないな。 ――どうしても、地方の方に目が行ってしまうわけですか? 大仁田 そうだね。ボクはいろんな都市を回って、たくさんの市長や知事に会ったけど、どこかお手本になるような都市作りをしてくれないかな。日本は根本に立ち返り、家族とは何か、きょうだいとは何か、友人とは何かを考えるべき。ネットの世界は生き方の手本じゃないよ。自分が感じ、自分で動いて、食べて飲んで、それを自分の生き方にしなきゃいけないと思います。 ――それでは、将来的に、大仁田さん自身が、どこかの市長選に出馬するような意向はありますか? 大仁田 今のところないけど、どこかでボクを生かしてくれる所があれば、立ちたいという気持ちはメチャメチャ持ってます。 ――わかりました。それでは最後に何かメッセージがあれば、お願いします。 大仁田 10月31日、後楽園ホール。「大仁田の最後を見てやろうか!」という人がいたら、ぜひ足を運んでください。それから、ネットでよく、故・鳩山邦夫先生に「借金返せ!」って書き込みしてる人がいるんだけど、その件はもう鳩山家との間で解決してますから。それでも文句ある人は、ボクのところに直接聞きに来てください。
6度引退→復帰の大仁田厚に聞く「今度こそ本当に引退?」さらに、政治と地方とアントニオ猪木──の画像5
★大仁田厚試合情報 10月21日(土) A-TEAM 沖縄・豊見城市豊崎美らSUNビーチ特設会場(18時開始) 10月29日(日) 大仁田興行 愛知・名古屋国際会議場(15時開始) 10月31日(火) 大仁田興行 東京・後楽園ホール(18時半開始) ★大仁田厚オフィシャルサイト http://onitafire.com/ ●大仁田厚(おおにた・あつし) 1957年10月25日、長崎県長崎市生まれ。高校を3日で中退し、73年10月、旗揚げしたばかりの、故ジャイアント馬場率いる全日本プロレスに新弟子第1号として入門。74年4月14日、後楽園ホールでの佐藤昭雄戦でデビュー。82年3月にNWAインターナショナル・ジュニアヘビー級王座を奪取するなど、同団体のジュニアのエースとして活躍。83年4月20日、東京体育館でのヘクター・ゲレロ戦で左膝蓋骨を粉砕骨折し、長期欠場を余儀なくされる。戦線復帰はしたものの、左膝のケガは癒えず、85年1月3日、後楽園で引退式を行う。88年12月3日、ジャパン女子プロレスのリングで復帰。89年10月、FMWを旗揚げ。有刺鉄線、電流爆破など過激デスマッチ路線で新境地を開拓。社長兼エースとして、同団体を牽引し、“涙のカリスマ”と称される。95年5月5日、川崎球場で2度目の引退。96年12月に復帰すると、以後、引退、復帰を繰り返す。2001年に自民党から参院選に出馬し当選。42歳で駿台学園高等学校を、47歳で明治大学政治経済学部経済学科を卒業。

「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る“人生旅行”

「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像1
 元祖フリーアイドルで声優のルンルンこと宍戸留美さんが、自らカメラマンとしてかわいい声優さんたちの写真を撮り、さらにアイドルライターの私(小明)がインタビューする不思議な連載の53回目! 今回も声優からちょっと外れた番外編! おたぽるで「姫乃たまの耳の痛い話」を連載し、サイゾーからは『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』も出版したサイゾーと縁の深いアイドル・ライター・歌手の姫乃たまちゃんを小明が迎え撃つ、新旧(?)アイドルライター対談です! ──ご無沙汰です、前回お会いしたのも、確かサイゾーの企画でしたね~。(【小明×姫乃たま】精神を病む素質あり(!?)の売れないアイドルの幸せはどこにあるのか?姫乃 そうです、あのときは私がインタビューしたのでした。 ──今回は逆ということで、どうですか? その後、もろもろと。 姫乃 いい大人になれるように頑張ってます、小明さんみたいな(笑)。 ──最後の(笑)はなんだよ。あと、残念ながらたまちゃんはもう大人だよ。前の取材のときはまだ大学を出たばっかりで、私はさんざん「新卒を逃して地下アイドル続行とか、愚か(笑)」と馬鹿にした気がするんだけど、それからおよそ2年だね。今、たまちゃんの名前を検索すると「キングオブ地下アイドル」って出てくるのね。 姫乃 あははは、もう性別も越えているし。 ──ねぇ、キングなの? 地下アイドルのキングになってるの? 姫乃 違います! 違います! ──だって、私が初めてたまちゃんと会ったのは、映画『世界の終わりのいずこねこ』(2014年)の撮影のときだよ。あのときのたまちゃんは印象的でしたよ。持ってたバックが超ボロボロだったの。レースはちぎれていて、持ち手の縫い目もほつれていて、全体的に薄汚れていて、それを見て「ご苦労なさってるんだわ」と思ってたんだけど、今日はもう……何それ? ルイ・ヴィトンのリュックサックじゃん。どんだけ金持ってんの? 姫乃 これは、祖母が20年くらい使った後にくれたもので……。 ──はぁ~(ため息)。出ました、おばあちゃんからのもらいもの。セレブがよく言うやつ。本当に良い物は世代を超えて受け継がれるってか? 私がおばあちゃんからもらったバッグはね、スーパーのチラシで織ったやつだったよ! 1日で壊れたよ! 姫乃 でも20年ものですよ? 一回置き引きにあって「ブランドものなんて持つんじゃなかった!」って警察に被害届を出したら、「おばあちゃんが20年かぁ、うーん、時価5,000円だね」って言われたんですよ。 ──5,000円のヴィトンかぁ……。でも、ホラ、前回のインタビューで会ったときは、たまちゃんはもっと変なワンピースを着ていたよ。中野ブロードウェイ1階のらこっと(ワンピース1枚500円とかの激安店)で売っていそうな、猫の絵がついた服を。 姫乃 小明さんに「すっごい毛玉ついてるね」って言われたやつですよね。あれもまだ着てますよ。ゴキブリコンビナートを観劇するときに便利なんですよ、虫や泥などが飛んできますので。 ──物持ちいいね! で、今日の服はヒグチユウコの猫でしょ? 猫まで売れてる猫にランクアップと来たもんだよ。 姫乃 これはね、1万5,000円くらいするのを、古着屋さんで6,000円で買いました。 ──5,000円のヴィトンとあわせて、ようやく1万円越えか……。高いのか安いのかわからないところが、キングオブ地下アイドルって感じでいいね。 姫乃 っていうか、関係ないんですけど、小明さんって、ちゃんとノートのメモを見てインタビューするんですね。偉いですね。 ──いつもならそうですが、残念ながら今日は……ジャーン!! ノートは白紙です!! 全て見ているフリでした!! 姫乃 ギャッ!? けっこうチラチラ見てたのに!?
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像2
──それは挙動が不審なだけです。いつもは細かく個人情報を書いて質問事項をズラーっと並べているんだけど、今回はたまちゃんだし、いいかなって……。だってインタビューもいっぱい受けてるし、自分でも書いたものもたくさんあるから、同じようなこと聞いても、お腹いっぱいでしょう。 姫乃 ちなみに、前に小明さんにインタビューさせていただいたとき、小明さんにノートを覗かれたんですよ。ノートには担当編集から聞けって言われた「小明さんと中川翔子さんの格差について」って書いてあって……「聞きなよ。ホラ、早くそれ聞きなよ」って言われて震えました。 ──(爆笑)! 今は、たまちゃんとの格差が広がるばかりだよ。だってキングオブ地下アイドルだもんね。売れたんだよ。 姫乃 それは、イベンターの人が適当につけた冠だから! ──今、連載はどれくらいやってるの? 姫乃 今は月に10本くらいで、週刊もあるから、なんだかんだ月に20本くらい書いてます。改めて確認すると恐ろしいですね……。それで今月はライブが17本くらいあって。 ──何そのスケジュール! 儲かってるでしょう! 姫乃 儲かってないです。小忙しいだけです。 ──ウソつくんじゃないよ。儲かってるんだろ。私もうすぐ第二子産まれるからさ、ちょっと包んでよ。40万でいいよ。 姫乃 初孫レベル! ──毎月だよ。頑張って。でも、全然お休みもなさそうで大変だねぇ。 姫乃 というか、今週やっと私にはワーカホリックの気があるかもしれないって気が付いたんですよ。ワーカホリックの人って何かから逃避していると思うんですけど、ライブで会った大谷能生さんから「自分自身から逃げている以外にないだろう」って言われて。ワーカホリックを解いたときに、私に残るものは何なのだろうと思ったら怖くないですか? そこには虚無しかないんですよ。だから、最近はイベントで精神科医の人と対談したりして、神話の話とかしてます。 ──公開診療かな? 姫乃 あれっ、あれって診療だったのか! 「これをイベントだと思い込んだのはいつからですか?」ってやつですか。怖いな。 ──イベントの終わりには何か病名ついた? 姫乃 いえ。「この世は冥界だから頑張りなさい」って言われました。 ──え、大丈夫? その先生も怖いんだけど。 姫乃 これまで過酷な地下アイドルのインタビューとか、業界を俯瞰してできるだけ正確に伝える仕事ばかりやって来たので、もっとこう、目に見えないものも信じていかなきゃいけないなぁと思って。 ──宗教にハマる一歩手前だね! 宗教家の皆さん、勧誘するなら今ですよー! 姫乃 これまで宗教とかスピ系と呼ばれるものを毛嫌いしてたのですが、妄信するのではなくて物事の本質を知るためスピリチュアリティがあると知ってからすごく興味があって、自分から仕事の営業をかけたことがないんですけど、この間初めてTOCANA(サイゾーが運営する目に見えないものばかり載っているサイト)の編集長に連載させてくださいって頼んできました。 ──ああ、もう実行に移しているんだ。ええと、かける言葉が見つからないけど、お大事にね。でも気持ちはわかるよ。私も何かにすがりたい。私も一時期仏像とかにハマったんだけど、結局あんまり続かなかったなぁ。 姫乃 やってましたね、仏像。あれって、やっぱりそういうことだったんですか? 私も最近、「魂はいずれどこかに還っていくなぁ」って感覚が強まってきてから、生きるのが楽になりました。人生は旅行。 ──大丈夫? 今ってお酒飲んでないよね? っていうか、たまちゃんって、いつも酒を飲んでるよね。原稿書くときも飲むの? 姫乃 あ~……半分くらいは。あとライブのときはだいたい飲んでますね。んっ、なんか飲まない日がないですね。そういえば朝起きたときが一番ビール飲みたいです。 ──まんしゅうきつ子さんの『アル中ワンダーランド』(扶桑社)とかを読みなよ。多分それアル中だよ。 姫乃 私ですか? でも今は飲んでないですよ。 ──うん知ってる。だって今は挙動が変だもの。
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像3
姫乃 あっ、確かにお酒飲んでるときの方が挙動が普通かもしれない! ──田代まさしさんが捕まる前に一緒に仕事してたけど、シャブが抜けてるときは手が震えてたよ……。逆にシャブが入ってるときはテキパキしてるんだって。 姫乃 そうそうそう! 飲めないときは、とにかく目の前にある飲み物を飲んで気分を落ち着けてるんですよ。でも、今はせっかくメイクさんに口紅を塗ってもらったから飲めなくて、それで挙動が変なのかな? ──口紅なんてあとで塗り直すよ! メイクさんはそのために来てるんだよ! 姫乃 あっ、ありがとうございます。なんか、そういう感じでやっています。 ──危ういね。変な薬とかやらないでくださいね。 姫乃 最近、石丸元章さんと仲良くさせていただいているのですが、ドラッグへの欲望を抑えて、文章を書いて生きているという点で、ほとんど神様ですよね。欲望の抑え方が修行僧。 ──カウントダウンそこまで来てんじゃん! でも、身近な人がちょいちょい捕まりがちなところは、私たちの共通点ですね。……そうだ! 共通点と言えば、先日、東洋経済オンラインでたまちゃんが村田らむさんにインタビューされているのを読んだんだけど、そこで私たちの共通点をたくさん見つけましたよ。 姫乃 あれ、主に暗い話しかしてないじゃないですか。 ──そうです。まず、暗黒の中学時代です。たまちゃんは中学校でひどいイジメにあったわけですが、私も中学校は大嫌いで1年ほぼ行かずにひきこもってました。そして「全身にかさぶたができる」という奇病も、まったく同じ症状が私にもありました。 姫乃 そうなんですよ! 私、小明さんの本を読んだときに「あ、いた!!」って思った記憶があります。アレすごいですよね、なんなんですかね? ──全身にかさぶたと膿が広がって『蔵六の奇病』みたくなるんだよね。蔵六はその膿できれいな絵を描くけど、私たちはコラムを書いていたんだね。そして19歳くらいでライターデビューしているでしょ、そこも同じです。 姫乃 私はワニマガジン社のエロ本でデビューです。 ──私は「BUBKA」! まだアイドル誌じゃなくってハードなゴシップ誌だった頃の。 姫乃 同じだー。いやでも本当に文章を書く仕事ができてよかったです。 ──アイドル一本で食うなんて、できなかったしね。 姫乃 里咲りさちゃんとか、絵恋ちゃんとか、ライブ稼業で食べている周囲の人ともぶつからなくて済むのが良いです。兼業している中途半端さが、本職の人に対して申し訳ない気持ちもありますが……。 ──ああ~、たまちゃんの世代は大変そうだね。私の時代って、まだ基本は可愛さが売りの事務所所属のアイドルが多かったから、その中でフリーで変わったことをすればナンボか目立ったんだよ。でも、今はフリーでなんでもできる上に、変な奴が多すぎるよね。ミスiD界隈とか、それの最たるもんだよね。 姫乃 しかも、みんなやる気があるでしょう? ──やる気がある上に、元気がない人たちに向けて活動している人が多いのも、やっかいなんだよ。昔は、元気なアイドルには元気なファン、ダウナーなアイドルにはダウナーなファンで住み分けができていたのに、今はもう全部まざっている感じ。それに、今は事務所に入らない子が多いから、アイドル同士のつながりも大事にしなくちゃいけなさそう。大変じゃない? 姫乃 私は業界から相手にされていない感じなので、のうのうとやっています。あと、なんだかんだでみんなアッパーなんですよね。里咲りさちゃんはアッパーの化身ですし、絵恋ちゃんは性格的にはアレですけど、ライブはアッパーです。
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像4
──性格的にはアレというか、先日この連載で絵恋ちゃんに会ったときは(記事参照)、話を聞きながら何度も「ヤバイ」と思ったよ。 姫乃 目がね、あまり合わないんですね。私もですけど。 ──個室でマンツーマンで話しているのに目が合わないんだよ。でも、打ち解けてくると柔らかくなるの。あの不器用さが愛しいよね。っていうか、たまちゃんって友達いる? 姫乃 ……んんっ? なんの話ですか? ──アイドルで、友達っている? 姫乃 ちょっとなんの話かわからないですね。でも、絵恋ちゃんと、里咲りさちゃんと、ぱいぱいでか美ちゃんと、水野しずちゃんと女子会っていうのをやっていますよ。 ──何そのメンツ! 何しゃべるの? 姫乃 恐らく全員が「私が一番まともだ」って思ってるから、通常の女子会(行ったことない)と違ってマウンティングの取り合いがなくて居心地はいいんです。ただ、私以外の4人はあんまりお酒を飲まないんですね。というか飲まないんです。で、私は今までの人生で、同世代の女性と交流を取ることがなかったので、酒を飲まないと緊張しすぎてしまうんですよね。でもみんな飲まないから、ちょこちょこ「ビール、ビール、チューハイ、チューハイ」って注文するのが恥ずかしくって……。 ──たまちゃんの会計だけどんどん上がって、割り勘イヤだな。 姫乃 私も恥ずかしいんですよ。なので、洋食屋に行ったらワインをボトルで、焼き肉屋に行ったらマッコリをカメで頼んでしまうんですよ。一応気をつかって「飲む~?」って聞くんですけど、「いらな~い」って言われるから、それを一人で飲んで、一人で酔っていくんです。だから、だいたい記憶がなくて、何を話したかは思い出せないんですよね。そういう感じでやっています。 ──それ、酒飲まないと友情を育めないんじゃないの……? 姫乃 なんだろう、でもお酒を飲んでるときの方が現実世界に近いって、TOCANAにも書いてありましたよ。 ──TOCANAどんだけ愛読してんだよ! 私もお酒に頼ろうと思ったんだけど、その練習で自宅で一人酒しているときに急性アル中みたくなって死にかけて諦めたんだよね。たまちゃんは酒が強いから、きっと永遠に辞められないんだ……。あ、妊娠すると飲めないよ。妊娠~出産~授乳の時期は飲めないから、ずっと妊娠し続ければ酒が抜けるかもよ。 姫乃 子どもは2人くらい欲しいんですけど、結婚ってどういう手順を踏めばできるんですか? やはりハチ公前でプラカードなどを掲げて? ──フリーハグ感覚で結婚だね。ホームレスとかしか来ないだろう。あと日本のビザが欲しい外人とか……うちの旦那かな? 姫乃 旦那さんお元気ですか? 今度ホームパーティーなどに呼んでください。 ──ないよ、そんなもん。 姫乃 ないんですか? フランス人の方はそういう催しをすると聞いています。 ──フランス人もピンキリだから。私と結婚する外人だから、それなりだよ。 姫乃 小明さんは結婚したり出産したりして「幸せになったね」と言われると、とても腹が立ったり、モヤモヤしたりしませんか? ──しますよ。結婚出産して、人生はそんなにシンプルではないのだと学んだよ。 姫乃 子育てとか結婚生活って、自分と向き合う時間が多くなったりしますか? ──しませんよ。忙しいから。今、子どもは2歳で、次々に要求のボールを投げ続けられてて、それを受け止めたり返したりしないといけないから、自分と向かい合って鬱々とする習慣をキープしていたら死にます。
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像5
姫乃 でも、これまでも30代や40代の男性たちに、ボールを投げ続けられていませんでしたか? ──さすがに24時間じゃないもの。そして彼らは基本DDだったりして、数打ちゃ当たる感覚でいろんなアイドルに投げてるから、ボールの重みも違うよ。まぁ活動歴の割にガチ恋が異常に少なかったせいもあるでしょうけど……。だから前と比べて、体力的に「あ、死ぬ」ってことはあっても、精神的に「死ぬ」ってことが減ったと思う。あと、前は「いざとなったら死にゃいいや」っていう選択肢が一番に来ていたんだけど……。 姫乃 保険感覚の死。 ──今はその選択肢がなくなったから、なんとかするしかないんだよ。あとなんか、年とっていろいろと図太く、図々しくなってるんだと思う。図々しさは強さだよね。 姫乃 図々しさですか。やはり最終的にはスターバックスで持ち込んだせんべいを勝手に食べるおばさんになりたいですよねぇ。「甘いものしかないわねぇ、ここ~(バリバリ)」みたいな。 ──それは別に今からでもできるんじゃない? 頑張って! 姫乃 今はもっと他のことで頑張らせてください。 ──でも、今はそうやって忙しいからなんとかなっているけど、そのうち子どもが大きくなって、また自分と向き合う時間が増えてきたら、「私の人生って……」って、サブカル40で鬱かもね。そのときはもう誰も私の書いた物なんて読まないだろうから、もう匿名ではてなダイアリーに投稿するよ。 姫乃 なんでも最終的には、はてなダイアリーに投稿するとなんとかなりますよね。 ──はてなダイアリーなら今はあんまり誰も読まないだろうから(失礼)、何書いても良い感じがあるよね。事務所に入ってグラドルやってたとき、ブログとは別で匿名で鬱々とした日記を書いてたよ。 姫乃 わかります。私も今、アベ、アベマ、アママ、アメバ、アベベ、あれ? アマブロ? あ、アー……? ──挙動だけじゃなく舌にもキテいる。完全にアル中である。 姫乃 あ、アメブロ? あれをオフィシャルだったのにほとんど閉じて、近々オフィシャルでもなんでもないはてなブログに移行する予定です。そういう感じでやっています。 ──そうですか、それは何よりで……あんたほんとに肝臓大事にしなさいよね。 姫乃 ところで、私、地下アイドルの肩書きを変えたいんですけど、何か良い肩書きないですかね? ──前に私が「アイドルライター継いで」って言ったら断ったじゃん。まだ根に持ってるからね。それになんで変えたいの? キングの冠を自ら下ろすなんて愚かだよ! 姫乃 先日、宍戸留美さんとイベントをやったときに、宍戸さんは写真を撮るから、「自分をアイドルと名乗るのはアイドル一本でやっている人に失礼だと思う」って話をされていて、非常に反省しました。 ──確かに、ワンマンライブをロフトプラスワンとかじゃない地上のイケてるライブハウスでやって、450人も動員している時点で、姫乃たまはもう地下アイドルではないよね。 姫乃 でも、その翌日のアフターパーティで私のお誕生日会をやったら、30人くらいしか来なかったですよ。お客さんが酒樽を買ってきてくれたので、みんなで割って飲みました。 ──それはあなたを一生食わせてくれる精鋭です。もうコミューンを作ってどこかの山で暮らしなさいよ。 姫乃 でも、小明さんのファンも来てましたよ。 ──じゃあもうマージン寄こせよ! 姫乃 でもですよ、みんな酒樽の酒を飲んでベロベロになっていて、例外なくベロベロに酔った小明さんのファンがチェキの上に酒をこぼして、「ごめんね!」って焦ってどかそうとして、そのチェキを誕生日ケーキにダイブさせたんですよ。そのまま一緒にチェキ撮ったら、クリームまみれのチェキがベローっと出てきました。あっちも申し訳なさそうだし、こっちも意味なく申し訳ない気持ちですよ! ──マージン寄こせと言ったけど、今はうちの子がごめんねって気持ち……。じゃあ、真面目に考えるね。地下アイドルじゃない肩書きって言ったら……コラムニスト? コラムニストで良いじゃん! かっこいい~! 峰なゆかさんとか、犬山紙子さんとか、北条かやさんとか、その辺とやりあうんだよ。 姫乃 私その中で戦えないよ!? 想像しただけで助かりたい気持ちだよ!? ──誰もが自分が一番まともだと思っているその女子会を抜けて、お前はそこに行くんだ。 姫乃 (震え) ──怖いね……。もう少し地下アイドルで良いんじゃないの、グラビアとかやってさ。 姫乃 もうグラビアも辞めちゃったんです。めっちゃ太ったんですよ、3年で8キロ増えたんです。 ──8キロ! 私、いま妊娠後期で8キロ増えてるんだけど、妊娠せずして8キロ!?
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像6
姫乃 新生児3人分です。女子会でも私だけ「もう食べられないよぉ~(太っちょの声マネ)」みたいになってます。 ──やるねぇ。アイドル的な売りが厳しくなってくるアラサーあたりで肝臓を壊したら、体調が悪くて原稿も書けず、アイドル仕事もできず、サーッとヤバくなりますね。 姫乃 ほ、保険に入ります。国に金を納めて、貯金をがんばって続けようと思いました。 ──酒を辞めるって発想はないんだね! とは言え、たまちゃんはまだ24歳なんだよね。私が24歳のときって何してたかな。もう覚えてないな。 姫乃 記憶にモヤが? ──そう、二十歳前後は鬱がMAXになってるけど、そこを越えるともう防衛本能が働くのか、記憶がないのよ。 姫乃 私のMAXの時期も、18~19か。うーん、良く生きてたねぇ。大人になって良かったねぇって思いますねぇ。 ──大人になって良かったことはありますか? 姫乃 鬱が穏やかに……。 ──ハードなマイナスから、マイルドなマイナスになっただけだね……。 姫乃 あと性格も穏やかになりました。昔は切れたナイフでした。 ──キレる十代はおっかないから、それは良かったね。 姫乃 あと同性の人から好かれるようになって良かったなって。昔はなんだろう、「前世で米でも荒らしたのかな?」ってくらい、目が合うだけで嫌われてました。 ──すごいね、才能を感じるね。その代わり、男子から好かれたりする特権があったでしょ? 姫乃 「LEON」を読まないタイプのおじさまからは好かれたかもしれません。 ──サブカルおじさんから好かれて良いなぁ。私はセクハラとかで悪名高いサブカルおじさんと接触しても、完全にスルーされてたもんなぁ。なんか悔しいよ。私の何がダメだったの? 姫乃 でも、なんだろう、別にそれで何もないですよ。 ──「無」だね。あ、ハチ公前でプラカードを持たずとも、そのサブカルおじさんを受け入れれば、たまちゃんは若いアイドルだし、超ガッツかれてすぐ結婚になるんじゃない? どういうメンズが好きなの? 姫乃 体重が130キロくらいあって、車が好きで、サイゾーとかを読んでいる文化的な人ですかね。 ──それ日刊サイゾーの編集長だろ! っていうか、たまちゃん、ちょっとこの連載狙ってない? 前に宍戸さんと一緒にライブしてたあたりから薄々感じてたんだけど、私の産休中に私と取って代わろうって魂胆でしょう? 新旧アイドルライターなら新しい方が良いってか? クッソ!! 言っておくけど、このギャラは安いからな!! 姫乃 あははは、来月から宍戸留美×姫乃たまに! でも、宍戸さんと小明さんと私は職業上の血縁関係にあるので、小明さんのギャラが上がらないことには私のギャラも上がりません。上げておいてください。 ──無理!! 今日はありがとうございました!!
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像7
●オマケ 宍戸留美27周年記念作品について ──あのさぁ、せっかくだから宍戸さんの27周年の記念アルバムの話しようよ。せっかく二人とも歌っているしさ。 姫乃 そうだ、そういう美しい話をしましょう。 ──「ピンクのラフレシア」のレコーディングはどうでしたか? 姫乃 ……緊張しました。なんか歌えなかったんですよ、全然。声もガサガサだったし。 ──それは酒焼けだろう。 姫乃 だから龍角散を持参してたんですけど、手が震えているからオシャレなスタジオに白い粉をドバッとこぼしてしまい……宍戸さんに「おじさん臭くなったね」と言われて……。なんとかレコーディングは始めたものの、私は緊張するとピッチが下がる癖があるので、何度やってもずっと低いピッチのままで、宍戸さんがニコニコ見守ってくださる中、4時間ずっと白い粉が舞っていて……。 ──地獄だね。しかも、たまちゃんはレコーディング初日だったから、その後の人はずっと龍角散臭い中で歌ったんだね。 姫乃 そうなんです。あと、宍戸さんはすごく人間が出来ていて、現役のアイドル達を耕す意味でも自分の曲を提供してくださっているわけだけど、嫉妬心とか複雑な気持ちはないのかな、と思ってたら、レコーディング中に「あ、今すごく複雑な気持ちになった」とおっしゃられて、「そうだよなぁ、頑張って歌わなきゃ!」と思ったらますますピッチが下がっていって……だんだん向こうのブースからの応答がなくなってきて、「あ、これはもう1フレーズずつ切り貼りしはじめているな」とわかって……。 ──(爆笑)! 姫乃 服についた龍角散をバサバサしながら切り貼りしたものを聴いて「あ、歌えているみたいになってますね」って言った後、宍戸さんに「レコーディング風景を撮りたいから」って言われて、記念受験で歌ってみたら普通に全部歌えてしまい、みんながガックリしていました。 ──これに関しては、酒飲んでから行けば一発録りで出来たような気もするね……。でも、作曲家の福田さんはそれで学習したみたいで、次のアイドルから優しくなったらしいよ。私はほぼラストの方だったから超優しくて「今のニュアンスは良かったから、この頭の2文字だけちょうだい!」とか、もうフレーズごとの切り貼りですらなかったよ。その裏にはたまちゃんの龍角散臭い努力があったんだね。感謝~。 姫乃 私は申し訳なさで逃げるように帰りましたけどね。 ──後足で粉かけて帰ったんだね。次にたまちゃんと会うのはアルバムの発売記念ライブとかかな。やだなぁ。私、里咲りさちゃんとか絵恋ちゃんとかと一緒にライブするの、もうキツいよぉ。 姫乃 アッパーですよ……。 ──このアルバムに参加が決まってうれしかったけど、参加アイドルのラインナップ見てちょっと引いたもんね。現代のライブアイドルの中に、そっと入り込んでる自分の違和感がすごい。「だって宍戸さんとはずっと一緒にやってるからね!」みたいな。コネ入社ですよ。 姫乃 縁故採用! ──肩身狭いよぉ。盛り上げたり踊ったりできないよぉ。 姫乃 里咲りさちゃんや絵恋ちゃんが踊って輝くほど、私たちの目がどんどん遠くなっていって……嫌だわ……またそれをやらなきゃいけないのね……。 ──学生時代の格差が蘇るようだよ。でも、たまちゃんだって歌いながら踊るじゃん。 姫乃 だって、歌ったり踊ったりしなけりゃアイドルって言えなくなるじゃないですか。 ──そういう理由かよ~! ではでは、また発売記念ライブ(たぶんある)でね! 読者の皆さまも是非是非~! (取材・文=小明/撮影=宍戸留美) ●姫乃たま(ひめの・たま) 地下アイドル/ライター 1993年2月12日、下北沢生まれ。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。主な音楽作品に『First Order』『もしもし、今日はどうだった』、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。7インチレコードやカセットテープなど、様々なメディアで音楽を発表しており、地下アイドルとしても枠にとらわれない活動を展開している。 ・Twitter https://twitter.com/Himeeeno ●ししど・るみ 1973年、福岡県生まれ。1990年にアイドルデビュー、18歳でフリーアイドルになり現在まで様々な分野で活動中! フランス、ドイツ等でもライブを行い音楽活動で高い評価を得ている。 【宍戸留美最新情報】 ■絵恋ちゃん、里咲りさ、姫乃たま、小明、他がカバーしたものと、セルフカバーした宍戸留美アイドル時代の音源を絶賛制作中! ■11/18(土)「宍戸留美と昼下がりのキルシェ親睦会」開演:16時 場所:Kirsche 前売¥3,000(1oder別) ゲスト:るんこ、さな、cherry ※25名様限定 ■11/19(日)「宍戸留美と昼下がりのレガート親睦会」開演:13時 場所:cafe&bar Legato 前売り¥3,000(2oder別) ゲスト:るんこ、さな、たかこ ※22名様限定 ■演劇企画CRANQ主催の朗読劇に出演! 6th STAGE Sound Play #2『プリモ・ピアット~聖夜のヒミツ~』12/19(火)〜24(日) 場所:中目黒キンケロシアター http://cranq.jp/
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像8
東京幻想曲集 発売中! 「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像9
増田賢一氏と25年分の宍戸留美を撮りためた「東京幻想写真集」発売中!! 公式HP: http://rumi-shishido.com/ ブログ: http://lineblog.me/sundaliru/ Twitter: @RumiShishido ●あかり 1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。『卑屈の国の格言録』(サイゾー)、『アイドル墜落日記 増量版』(洋泉社)、DVD『小明の感じる仏像』(エースデュース)発売中。 ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/> シングル「君が笑う、それが僕のしあわせ」発売中。<http://www.cyzo.com/akr/

「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る“人生旅行”

「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像1
 元祖フリーアイドルで声優のルンルンこと宍戸留美さんが、自らカメラマンとしてかわいい声優さんたちの写真を撮り、さらにアイドルライターの私(小明)がインタビューする不思議な連載の53回目! 今回も声優からちょっと外れた番外編! おたぽるで「姫乃たまの耳の痛い話」を連載し、サイゾーからは『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』も出版したサイゾーと縁の深いアイドル・ライター・歌手の姫乃たまちゃんを小明が迎え撃つ、新旧(?)アイドルライター対談です! ──ご無沙汰です、前回お会いしたのも、確かサイゾーの企画でしたね~。(【小明×姫乃たま】精神を病む素質あり(!?)の売れないアイドルの幸せはどこにあるのか?姫乃 そうです、あのときは私がインタビューしたのでした。 ──今回は逆ということで、どうですか? その後、もろもろと。 姫乃 いい大人になれるように頑張ってます、小明さんみたいな(笑)。 ──最後の(笑)はなんだよ。あと、残念ながらたまちゃんはもう大人だよ。前の取材のときはまだ大学を出たばっかりで、私はさんざん「新卒を逃して地下アイドル続行とか、愚か(笑)」と馬鹿にした気がするんだけど、それからおよそ2年だね。今、たまちゃんの名前を検索すると「キングオブ地下アイドル」って出てくるのね。 姫乃 あははは、もう性別も越えているし。 ──ねぇ、キングなの? 地下アイドルのキングになってるの? 姫乃 違います! 違います! ──だって、私が初めてたまちゃんと会ったのは、映画『世界の終わりのいずこねこ』(2014年)の撮影のときだよ。あのときのたまちゃんは印象的でしたよ。持ってたバックが超ボロボロだったの。レースはちぎれていて、持ち手の縫い目もほつれていて、全体的に薄汚れていて、それを見て「ご苦労なさってるんだわ」と思ってたんだけど、今日はもう……何それ? ルイ・ヴィトンのリュックサックじゃん。どんだけ金持ってんの? 姫乃 これは、祖母が20年くらい使った後にくれたもので……。 ──はぁ~(ため息)。出ました、おばあちゃんからのもらいもの。セレブがよく言うやつ。本当に良い物は世代を超えて受け継がれるってか? 私がおばあちゃんからもらったバッグはね、スーパーのチラシで織ったやつだったよ! 1日で壊れたよ! 姫乃 でも20年ものですよ? 一回置き引きにあって「ブランドものなんて持つんじゃなかった!」って警察に被害届を出したら、「おばあちゃんが20年かぁ、うーん、時価5,000円だね」って言われたんですよ。 ──5,000円のヴィトンかぁ……。でも、ホラ、前回のインタビューで会ったときは、たまちゃんはもっと変なワンピースを着ていたよ。中野ブロードウェイ1階のらこっと(ワンピース1枚500円とかの激安店)で売っていそうな、猫の絵がついた服を。 姫乃 小明さんに「すっごい毛玉ついてるね」って言われたやつですよね。あれもまだ着てますよ。ゴキブリコンビナートを観劇するときに便利なんですよ、虫や泥などが飛んできますので。 ──物持ちいいね! で、今日の服はヒグチユウコの猫でしょ? 猫まで売れてる猫にランクアップと来たもんだよ。 姫乃 これはね、1万5,000円くらいするのを、古着屋さんで6,000円で買いました。 ──5,000円のヴィトンとあわせて、ようやく1万円越えか……。高いのか安いのかわからないところが、キングオブ地下アイドルって感じでいいね。 姫乃 っていうか、関係ないんですけど、小明さんって、ちゃんとノートのメモを見てインタビューするんですね。偉いですね。 ──いつもならそうですが、残念ながら今日は……ジャーン!! ノートは白紙です!! 全て見ているフリでした!! 姫乃 ギャッ!? けっこうチラチラ見てたのに!?
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像2
──それは挙動が不審なだけです。いつもは細かく個人情報を書いて質問事項をズラーっと並べているんだけど、今回はたまちゃんだし、いいかなって……。だってインタビューもいっぱい受けてるし、自分でも書いたものもたくさんあるから、同じようなこと聞いても、お腹いっぱいでしょう。 姫乃 ちなみに、前に小明さんにインタビューさせていただいたとき、小明さんにノートを覗かれたんですよ。ノートには担当編集から聞けって言われた「小明さんと中川翔子さんの格差について」って書いてあって……「聞きなよ。ホラ、早くそれ聞きなよ」って言われて震えました。 ──(爆笑)! 今は、たまちゃんとの格差が広がるばかりだよ。だってキングオブ地下アイドルだもんね。売れたんだよ。 姫乃 それは、イベンターの人が適当につけた冠だから! ──今、連載はどれくらいやってるの? 姫乃 今は月に10本くらいで、週刊もあるから、なんだかんだ月に20本くらい書いてます。改めて確認すると恐ろしいですね……。それで今月はライブが17本くらいあって。 ──何そのスケジュール! 儲かってるでしょう! 姫乃 儲かってないです。小忙しいだけです。 ──ウソつくんじゃないよ。儲かってるんだろ。私もうすぐ第二子産まれるからさ、ちょっと包んでよ。40万でいいよ。 姫乃 初孫レベル! ──毎月だよ。頑張って。でも、全然お休みもなさそうで大変だねぇ。 姫乃 というか、今週やっと私にはワーカホリックの気があるかもしれないって気が付いたんですよ。ワーカホリックの人って何かから逃避していると思うんですけど、ライブで会った大谷能生さんから「自分自身から逃げている以外にないだろう」って言われて。ワーカホリックを解いたときに、私に残るものは何なのだろうと思ったら怖くないですか? そこには虚無しかないんですよ。だから、最近はイベントで精神科医の人と対談したりして、神話の話とかしてます。 ──公開診療かな? 姫乃 あれっ、あれって診療だったのか! 「これをイベントだと思い込んだのはいつからですか?」ってやつですか。怖いな。 ──イベントの終わりには何か病名ついた? 姫乃 いえ。「この世は冥界だから頑張りなさい」って言われました。 ──え、大丈夫? その先生も怖いんだけど。 姫乃 これまで過酷な地下アイドルのインタビューとか、業界を俯瞰してできるだけ正確に伝える仕事ばかりやって来たので、もっとこう、目に見えないものも信じていかなきゃいけないなぁと思って。 ──宗教にハマる一歩手前だね! 宗教家の皆さん、勧誘するなら今ですよー! 姫乃 これまで宗教とかスピ系と呼ばれるものを毛嫌いしてたのですが、妄信するのではなくて物事の本質を知るためスピリチュアリティがあると知ってからすごく興味があって、自分から仕事の営業をかけたことがないんですけど、この間初めてTOCANA(サイゾーが運営する目に見えないものばかり載っているサイト)の編集長に連載させてくださいって頼んできました。 ──ああ、もう実行に移しているんだ。ええと、かける言葉が見つからないけど、お大事にね。でも気持ちはわかるよ。私も何かにすがりたい。私も一時期仏像とかにハマったんだけど、結局あんまり続かなかったなぁ。 姫乃 やってましたね、仏像。あれって、やっぱりそういうことだったんですか? 私も最近、「魂はいずれどこかに還っていくなぁ」って感覚が強まってきてから、生きるのが楽になりました。人生は旅行。 ──大丈夫? 今ってお酒飲んでないよね? っていうか、たまちゃんって、いつも酒を飲んでるよね。原稿書くときも飲むの? 姫乃 あ~……半分くらいは。あとライブのときはだいたい飲んでますね。んっ、なんか飲まない日がないですね。そういえば朝起きたときが一番ビール飲みたいです。 ──まんしゅうきつ子さんの『アル中ワンダーランド』(扶桑社)とかを読みなよ。多分それアル中だよ。 姫乃 私ですか? でも今は飲んでないですよ。 ──うん知ってる。だって今は挙動が変だもの。
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像3
姫乃 あっ、確かにお酒飲んでるときの方が挙動が普通かもしれない! ──田代まさしさんが捕まる前に一緒に仕事してたけど、シャブが抜けてるときは手が震えてたよ……。逆にシャブが入ってるときはテキパキしてるんだって。 姫乃 そうそうそう! 飲めないときは、とにかく目の前にある飲み物を飲んで気分を落ち着けてるんですよ。でも、今はせっかくメイクさんに口紅を塗ってもらったから飲めなくて、それで挙動が変なのかな? ──口紅なんてあとで塗り直すよ! メイクさんはそのために来てるんだよ! 姫乃 あっ、ありがとうございます。なんか、そういう感じでやっています。 ──危ういね。変な薬とかやらないでくださいね。 姫乃 最近、石丸元章さんと仲良くさせていただいているのですが、ドラッグへの欲望を抑えて、文章を書いて生きているという点で、ほとんど神様ですよね。欲望の抑え方が修行僧。 ──カウントダウンそこまで来てんじゃん! でも、身近な人がちょいちょい捕まりがちなところは、私たちの共通点ですね。……そうだ! 共通点と言えば、先日、東洋経済オンラインでたまちゃんが村田らむさんにインタビューされているのを読んだんだけど、そこで私たちの共通点をたくさん見つけましたよ。 姫乃 あれ、主に暗い話しかしてないじゃないですか。 ──そうです。まず、暗黒の中学時代です。たまちゃんは中学校でひどいイジメにあったわけですが、私も中学校は大嫌いで1年ほぼ行かずにひきこもってました。そして「全身にかさぶたができる」という奇病も、まったく同じ症状が私にもありました。 姫乃 そうなんですよ! 私、小明さんの本を読んだときに「あ、いた!!」って思った記憶があります。アレすごいですよね、なんなんですかね? ──全身にかさぶたと膿が広がって『蔵六の奇病』みたくなるんだよね。蔵六はその膿できれいな絵を描くけど、私たちはコラムを書いていたんだね。そして19歳くらいでライターデビューしているでしょ、そこも同じです。 姫乃 私はワニマガジン社のエロ本でデビューです。 ──私は「BUBKA」! まだアイドル誌じゃなくってハードなゴシップ誌だった頃の。 姫乃 同じだー。いやでも本当に文章を書く仕事ができてよかったです。 ──アイドル一本で食うなんて、できなかったしね。 姫乃 里咲りさちゃんとか、絵恋ちゃんとか、ライブ稼業で食べている周囲の人ともぶつからなくて済むのが良いです。兼業している中途半端さが、本職の人に対して申し訳ない気持ちもありますが……。 ──ああ~、たまちゃんの世代は大変そうだね。私の時代って、まだ基本は可愛さが売りの事務所所属のアイドルが多かったから、その中でフリーで変わったことをすればナンボか目立ったんだよ。でも、今はフリーでなんでもできる上に、変な奴が多すぎるよね。ミスiD界隈とか、それの最たるもんだよね。 姫乃 しかも、みんなやる気があるでしょう? ──やる気がある上に、元気がない人たちに向けて活動している人が多いのも、やっかいなんだよ。昔は、元気なアイドルには元気なファン、ダウナーなアイドルにはダウナーなファンで住み分けができていたのに、今はもう全部まざっている感じ。それに、今は事務所に入らない子が多いから、アイドル同士のつながりも大事にしなくちゃいけなさそう。大変じゃない? 姫乃 私は業界から相手にされていない感じなので、のうのうとやっています。あと、なんだかんだでみんなアッパーなんですよね。里咲りさちゃんはアッパーの化身ですし、絵恋ちゃんは性格的にはアレですけど、ライブはアッパーです。
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像4
──性格的にはアレというか、先日この連載で絵恋ちゃんに会ったときは(記事参照)、話を聞きながら何度も「ヤバイ」と思ったよ。 姫乃 目がね、あまり合わないんですね。私もですけど。 ──個室でマンツーマンで話しているのに目が合わないんだよ。でも、打ち解けてくると柔らかくなるの。あの不器用さが愛しいよね。っていうか、たまちゃんって友達いる? 姫乃 ……んんっ? なんの話ですか? ──アイドルで、友達っている? 姫乃 ちょっとなんの話かわからないですね。でも、絵恋ちゃんと、里咲りさちゃんと、ぱいぱいでか美ちゃんと、水野しずちゃんと女子会っていうのをやっていますよ。 ──何そのメンツ! 何しゃべるの? 姫乃 恐らく全員が「私が一番まともだ」って思ってるから、通常の女子会(行ったことない)と違ってマウンティングの取り合いがなくて居心地はいいんです。ただ、私以外の4人はあんまりお酒を飲まないんですね。というか飲まないんです。で、私は今までの人生で、同世代の女性と交流を取ることがなかったので、酒を飲まないと緊張しすぎてしまうんですよね。でもみんな飲まないから、ちょこちょこ「ビール、ビール、チューハイ、チューハイ」って注文するのが恥ずかしくって……。 ──たまちゃんの会計だけどんどん上がって、割り勘イヤだな。 姫乃 私も恥ずかしいんですよ。なので、洋食屋に行ったらワインをボトルで、焼き肉屋に行ったらマッコリをカメで頼んでしまうんですよ。一応気をつかって「飲む~?」って聞くんですけど、「いらな~い」って言われるから、それを一人で飲んで、一人で酔っていくんです。だから、だいたい記憶がなくて、何を話したかは思い出せないんですよね。そういう感じでやっています。 ──それ、酒飲まないと友情を育めないんじゃないの……? 姫乃 なんだろう、でもお酒を飲んでるときの方が現実世界に近いって、TOCANAにも書いてありましたよ。 ──TOCANAどんだけ愛読してんだよ! 私もお酒に頼ろうと思ったんだけど、その練習で自宅で一人酒しているときに急性アル中みたくなって死にかけて諦めたんだよね。たまちゃんは酒が強いから、きっと永遠に辞められないんだ……。あ、妊娠すると飲めないよ。妊娠~出産~授乳の時期は飲めないから、ずっと妊娠し続ければ酒が抜けるかもよ。 姫乃 子どもは2人くらい欲しいんですけど、結婚ってどういう手順を踏めばできるんですか? やはりハチ公前でプラカードなどを掲げて? ──フリーハグ感覚で結婚だね。ホームレスとかしか来ないだろう。あと日本のビザが欲しい外人とか……うちの旦那かな? 姫乃 旦那さんお元気ですか? 今度ホームパーティーなどに呼んでください。 ──ないよ、そんなもん。 姫乃 ないんですか? フランス人の方はそういう催しをすると聞いています。 ──フランス人もピンキリだから。私と結婚する外人だから、それなりだよ。 姫乃 小明さんは結婚したり出産したりして「幸せになったね」と言われると、とても腹が立ったり、モヤモヤしたりしませんか? ──しますよ。結婚出産して、人生はそんなにシンプルではないのだと学んだよ。 姫乃 子育てとか結婚生活って、自分と向き合う時間が多くなったりしますか? ──しませんよ。忙しいから。今、子どもは2歳で、次々に要求のボールを投げ続けられてて、それを受け止めたり返したりしないといけないから、自分と向かい合って鬱々とする習慣をキープしていたら死にます。
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像5
姫乃 でも、これまでも30代や40代の男性たちに、ボールを投げ続けられていませんでしたか? ──さすがに24時間じゃないもの。そして彼らは基本DDだったりして、数打ちゃ当たる感覚でいろんなアイドルに投げてるから、ボールの重みも違うよ。まぁ活動歴の割にガチ恋が異常に少なかったせいもあるでしょうけど……。だから前と比べて、体力的に「あ、死ぬ」ってことはあっても、精神的に「死ぬ」ってことが減ったと思う。あと、前は「いざとなったら死にゃいいや」っていう選択肢が一番に来ていたんだけど……。 姫乃 保険感覚の死。 ──今はその選択肢がなくなったから、なんとかするしかないんだよ。あとなんか、年とっていろいろと図太く、図々しくなってるんだと思う。図々しさは強さだよね。 姫乃 図々しさですか。やはり最終的にはスターバックスで持ち込んだせんべいを勝手に食べるおばさんになりたいですよねぇ。「甘いものしかないわねぇ、ここ~(バリバリ)」みたいな。 ──それは別に今からでもできるんじゃない? 頑張って! 姫乃 今はもっと他のことで頑張らせてください。 ──でも、今はそうやって忙しいからなんとかなっているけど、そのうち子どもが大きくなって、また自分と向き合う時間が増えてきたら、「私の人生って……」って、サブカル40で鬱かもね。そのときはもう誰も私の書いた物なんて読まないだろうから、もう匿名ではてなダイアリーに投稿するよ。 姫乃 なんでも最終的には、はてなダイアリーに投稿するとなんとかなりますよね。 ──はてなダイアリーなら今はあんまり誰も読まないだろうから(失礼)、何書いても良い感じがあるよね。事務所に入ってグラドルやってたとき、ブログとは別で匿名で鬱々とした日記を書いてたよ。 姫乃 わかります。私も今、アベ、アベマ、アママ、アメバ、アベベ、あれ? アマブロ? あ、アー……? ──挙動だけじゃなく舌にもキテいる。完全にアル中である。 姫乃 あ、アメブロ? あれをオフィシャルだったのにほとんど閉じて、近々オフィシャルでもなんでもないはてなブログに移行する予定です。そういう感じでやっています。 ──そうですか、それは何よりで……あんたほんとに肝臓大事にしなさいよね。 姫乃 ところで、私、地下アイドルの肩書きを変えたいんですけど、何か良い肩書きないですかね? ──前に私が「アイドルライター継いで」って言ったら断ったじゃん。まだ根に持ってるからね。それになんで変えたいの? キングの冠を自ら下ろすなんて愚かだよ! 姫乃 先日、宍戸留美さんとイベントをやったときに、宍戸さんは写真を撮るから、「自分をアイドルと名乗るのはアイドル一本でやっている人に失礼だと思う」って話をされていて、非常に反省しました。 ──確かに、ワンマンライブをロフトプラスワンとかじゃない地上のイケてるライブハウスでやって、450人も動員している時点で、姫乃たまはもう地下アイドルではないよね。 姫乃 でも、その翌日のアフターパーティで私のお誕生日会をやったら、30人くらいしか来なかったですよ。お客さんが酒樽を買ってきてくれたので、みんなで割って飲みました。 ──それはあなたを一生食わせてくれる精鋭です。もうコミューンを作ってどこかの山で暮らしなさいよ。 姫乃 でも、小明さんのファンも来てましたよ。 ──じゃあもうマージン寄こせよ! 姫乃 でもですよ、みんな酒樽の酒を飲んでベロベロになっていて、例外なくベロベロに酔った小明さんのファンがチェキの上に酒をこぼして、「ごめんね!」って焦ってどかそうとして、そのチェキを誕生日ケーキにダイブさせたんですよ。そのまま一緒にチェキ撮ったら、クリームまみれのチェキがベローっと出てきました。あっちも申し訳なさそうだし、こっちも意味なく申し訳ない気持ちですよ! ──マージン寄こせと言ったけど、今はうちの子がごめんねって気持ち……。じゃあ、真面目に考えるね。地下アイドルじゃない肩書きって言ったら……コラムニスト? コラムニストで良いじゃん! かっこいい~! 峰なゆかさんとか、犬山紙子さんとか、北条かやさんとか、その辺とやりあうんだよ。 姫乃 私その中で戦えないよ!? 想像しただけで助かりたい気持ちだよ!? ──誰もが自分が一番まともだと思っているその女子会を抜けて、お前はそこに行くんだ。 姫乃 (震え) ──怖いね……。もう少し地下アイドルで良いんじゃないの、グラビアとかやってさ。 姫乃 もうグラビアも辞めちゃったんです。めっちゃ太ったんですよ、3年で8キロ増えたんです。 ──8キロ! 私、いま妊娠後期で8キロ増えてるんだけど、妊娠せずして8キロ!?
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像6
姫乃 新生児3人分です。女子会でも私だけ「もう食べられないよぉ~(太っちょの声マネ)」みたいになってます。 ──やるねぇ。アイドル的な売りが厳しくなってくるアラサーあたりで肝臓を壊したら、体調が悪くて原稿も書けず、アイドル仕事もできず、サーッとヤバくなりますね。 姫乃 ほ、保険に入ります。国に金を納めて、貯金をがんばって続けようと思いました。 ──酒を辞めるって発想はないんだね! とは言え、たまちゃんはまだ24歳なんだよね。私が24歳のときって何してたかな。もう覚えてないな。 姫乃 記憶にモヤが? ──そう、二十歳前後は鬱がMAXになってるけど、そこを越えるともう防衛本能が働くのか、記憶がないのよ。 姫乃 私のMAXの時期も、18~19か。うーん、良く生きてたねぇ。大人になって良かったねぇって思いますねぇ。 ──大人になって良かったことはありますか? 姫乃 鬱が穏やかに……。 ──ハードなマイナスから、マイルドなマイナスになっただけだね……。 姫乃 あと性格も穏やかになりました。昔は切れたナイフでした。 ──キレる十代はおっかないから、それは良かったね。 姫乃 あと同性の人から好かれるようになって良かったなって。昔はなんだろう、「前世で米でも荒らしたのかな?」ってくらい、目が合うだけで嫌われてました。 ──すごいね、才能を感じるね。その代わり、男子から好かれたりする特権があったでしょ? 姫乃 「LEON」を読まないタイプのおじさまからは好かれたかもしれません。 ──サブカルおじさんから好かれて良いなぁ。私はセクハラとかで悪名高いサブカルおじさんと接触しても、完全にスルーされてたもんなぁ。なんか悔しいよ。私の何がダメだったの? 姫乃 でも、なんだろう、別にそれで何もないですよ。 ──「無」だね。あ、ハチ公前でプラカードを持たずとも、そのサブカルおじさんを受け入れれば、たまちゃんは若いアイドルだし、超ガッツかれてすぐ結婚になるんじゃない? どういうメンズが好きなの? 姫乃 体重が130キロくらいあって、車が好きで、サイゾーとかを読んでいる文化的な人ですかね。 ──それ日刊サイゾーの編集長だろ! っていうか、たまちゃん、ちょっとこの連載狙ってない? 前に宍戸さんと一緒にライブしてたあたりから薄々感じてたんだけど、私の産休中に私と取って代わろうって魂胆でしょう? 新旧アイドルライターなら新しい方が良いってか? クッソ!! 言っておくけど、このギャラは安いからな!! 姫乃 あははは、来月から宍戸留美×姫乃たまに! でも、宍戸さんと小明さんと私は職業上の血縁関係にあるので、小明さんのギャラが上がらないことには私のギャラも上がりません。上げておいてください。 ──無理!! 今日はありがとうございました!!
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像7
●オマケ 宍戸留美27周年記念作品について ──あのさぁ、せっかくだから宍戸さんの27周年の記念アルバムの話しようよ。せっかく二人とも歌っているしさ。 姫乃 そうだ、そういう美しい話をしましょう。 ──「ピンクのラフレシア」のレコーディングはどうでしたか? 姫乃 ……緊張しました。なんか歌えなかったんですよ、全然。声もガサガサだったし。 ──それは酒焼けだろう。 姫乃 だから龍角散を持参してたんですけど、手が震えているからオシャレなスタジオに白い粉をドバッとこぼしてしまい……宍戸さんに「おじさん臭くなったね」と言われて……。なんとかレコーディングは始めたものの、私は緊張するとピッチが下がる癖があるので、何度やってもずっと低いピッチのままで、宍戸さんがニコニコ見守ってくださる中、4時間ずっと白い粉が舞っていて……。 ──地獄だね。しかも、たまちゃんはレコーディング初日だったから、その後の人はずっと龍角散臭い中で歌ったんだね。 姫乃 そうなんです。あと、宍戸さんはすごく人間が出来ていて、現役のアイドル達を耕す意味でも自分の曲を提供してくださっているわけだけど、嫉妬心とか複雑な気持ちはないのかな、と思ってたら、レコーディング中に「あ、今すごく複雑な気持ちになった」とおっしゃられて、「そうだよなぁ、頑張って歌わなきゃ!」と思ったらますますピッチが下がっていって……だんだん向こうのブースからの応答がなくなってきて、「あ、これはもう1フレーズずつ切り貼りしはじめているな」とわかって……。 ──(爆笑)! 姫乃 服についた龍角散をバサバサしながら切り貼りしたものを聴いて「あ、歌えているみたいになってますね」って言った後、宍戸さんに「レコーディング風景を撮りたいから」って言われて、記念受験で歌ってみたら普通に全部歌えてしまい、みんながガックリしていました。 ──これに関しては、酒飲んでから行けば一発録りで出来たような気もするね……。でも、作曲家の福田さんはそれで学習したみたいで、次のアイドルから優しくなったらしいよ。私はほぼラストの方だったから超優しくて「今のニュアンスは良かったから、この頭の2文字だけちょうだい!」とか、もうフレーズごとの切り貼りですらなかったよ。その裏にはたまちゃんの龍角散臭い努力があったんだね。感謝~。 姫乃 私は申し訳なさで逃げるように帰りましたけどね。 ──後足で粉かけて帰ったんだね。次にたまちゃんと会うのはアルバムの発売記念ライブとかかな。やだなぁ。私、里咲りさちゃんとか絵恋ちゃんとかと一緒にライブするの、もうキツいよぉ。 姫乃 アッパーですよ……。 ──このアルバムに参加が決まってうれしかったけど、参加アイドルのラインナップ見てちょっと引いたもんね。現代のライブアイドルの中に、そっと入り込んでる自分の違和感がすごい。「だって宍戸さんとはずっと一緒にやってるからね!」みたいな。コネ入社ですよ。 姫乃 縁故採用! ──肩身狭いよぉ。盛り上げたり踊ったりできないよぉ。 姫乃 里咲りさちゃんや絵恋ちゃんが踊って輝くほど、私たちの目がどんどん遠くなっていって……嫌だわ……またそれをやらなきゃいけないのね……。 ──学生時代の格差が蘇るようだよ。でも、たまちゃんだって歌いながら踊るじゃん。 姫乃 だって、歌ったり踊ったりしなけりゃアイドルって言えなくなるじゃないですか。 ──そういう理由かよ~! ではでは、また発売記念ライブ(たぶんある)でね! 読者の皆さまも是非是非~! (取材・文=小明/撮影=宍戸留美) ●姫乃たま(ひめの・たま) 地下アイドル/ライター 1993年2月12日、下北沢生まれ。16才よりフリーランスで地下アイドル活動を始め、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業も営む。主な音楽作品に『First Order』『もしもし、今日はどうだった』、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。7インチレコードやカセットテープなど、様々なメディアで音楽を発表しており、地下アイドルとしても枠にとらわれない活動を展開している。 ・Twitter https://twitter.com/Himeeeno ●ししど・るみ 1973年、福岡県生まれ。1990年にアイドルデビュー、18歳でフリーアイドルになり現在まで様々な分野で活動中! フランス、ドイツ等でもライブを行い音楽活動で高い評価を得ている。 【宍戸留美最新情報】 ■絵恋ちゃん、里咲りさ、姫乃たま、小明、他がカバーしたものと、セルフカバーした宍戸留美アイドル時代の音源を絶賛制作中! ■11/18(土)「宍戸留美と昼下がりのキルシェ親睦会」開演:16時 場所:Kirsche 前売¥3,000(1oder別) ゲスト:るんこ、さな、cherry ※25名様限定 ■11/19(日)「宍戸留美と昼下がりのレガート親睦会」開演:13時 場所:cafe&bar Legato 前売り¥3,000(2oder別) ゲスト:るんこ、さな、たかこ ※22名様限定 ■演劇企画CRANQ主催の朗読劇に出演! 6th STAGE Sound Play #2『プリモ・ピアット~聖夜のヒミツ~』12/19(火)〜24(日) 場所:中目黒キンケロシアター http://cranq.jp/
「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像8
東京幻想曲集 発売中! 「ひと月に原稿〆切20本、ライブ17本……」【姫乃たま】ワーカホリックと酒と自己逃避を巡る人生旅行の画像9
増田賢一氏と25年分の宍戸留美を撮りためた「東京幻想写真集」発売中!! 公式HP: http://rumi-shishido.com/ ブログ: http://lineblog.me/sundaliru/ Twitter: @RumiShishido ●あかり 1985年、栃木県生まれ。02年、史上初のエプロンアイドルとしてデビューするも、そのまま迷走を続け、フリーのアイドルライターとして細々と食いつないでいる。『卑屈の国の格言録』(サイゾー)、『アイドル墜落日記 増量版』(洋泉社)、DVD『小明の感じる仏像』(エースデュース)発売中。 ブログ「小明の秘話」<http://yaplog.jp/benijake148/> シングル「君が笑う、それが僕のしあわせ」発売中。<http://www.cyzo.com/akr/

北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)

北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)の画像1
テレビ番組のADを振り出しに映画プロデューサーとなった森昌行氏。北野武監督、そしてビートたけしの最大の理解者でもある。
 オフィス北野の社長であり、北野監督作品のプロデューサーでもある森昌行氏へのロングインタビュー後編。『アウトレイジ』シリーズの個性的なキャスティングと『アウトレイジ 最終章』後の展望について尋ねた。 (前編はこちらから) ──“全員、悪人”というキャッチフレーズで始まった『アウトレイジ』シリーズが話題になったことで、それまでの芸能界の「好感度」がもてはやされる風潮にクサビを打ったんじゃないでしょうか。 森昌行 実録犯罪ドラマで大久保清を演じたこともありますし、たけしさん自身が悪役を好んでやりますよね。そのきっかけになったのは、たけしさんが俳優として注目を集めた大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』(83)です。たけしさんは坊主頭にして原軍曹という日本兵を演じたのですが、ラストシーンの「メリークリスマス、ミスター・ローレンス」という台詞で劇場に笑いが起きたんです。あんなシリアスな映画なのに自分のシーンで笑いが起きたことが、かなりショックだったようです。それもあって、あえてお笑いをやりながら悪役を演じるという難しいことにたけしさんは取り組み始めた。違和感なく役者をやれるようになるまで10年を要したと言っています。今では悪役が定着して、いいおじいちゃん役は映画では難しいでしょうね(笑)。極悪非道な役をやればやるほど、クールだと喜ばれる。そういう意味でも、お笑いと暴力は紙一重なのかもしれません。 ──ビートたけしの悪役ぶりに触発されるように、『アウトレイジ』シリーズでは西田敏行ら大物俳優たちも、それぞれ思い切った極道ぶりを披露していますね。  実は、西田さんが新人時代にバラエティー番組に出演していた頃、僕はそのバラエティー番組のADをやっていたんです。『アウトレイジ』が公開中のとき、フジテレビの廊下で西田さんとすれ違い、「森さん、俺にも悪いのやらせてよ」と頼まれたんです(笑)。西田さんみたいな大物俳優はそう簡単に出演してくれないだろうと思っていたんですが、「いい人の役ばかりで、ずっとイライラしていた。だから『アウトレイジ』には出たかった」と後から言われました。そういう経緯もあって、西田さんは撮影現場ではアドリブ連発でノリノリでした(笑)。 ■コワモテ俳優が集う『アウトレイジ』シリーズの現場 ──『ビヨンド』に続く『アウトレイジ 最終章』も実力派男優たちの顔面バトルの連続。撮影現場はかなりピリピリしていたのでは?  いえ、ピリピリした現場ではありませんでした。かといって、俳優たちがワーワーと騒いでいる現場でもなく、とても静かな現場でした。そんな中で、西田さんはカメラが回り出すとメリハリのついた演技を次々と見せる。北野監督は「プロの俳優はやっぱり違うな」と感心していたぐらいです(笑)。 ──花菱会の若頭・西野(西田敏行)が「迷惑もハローワークもあるかいっ」と捲し立てる場面がありますが、あれはアドリブ?  西田さんがアドリブで考えた台詞です(笑)。西田さんは他にもアドリブを連発していました。元証券マンの新会長(大杉漣)に向かって「ジェニ(銭)ジェニ♪って、リトル・リチャードじゃあるまいし」なんて台詞も飛ばしていたんですが、ほとんど編集でカットされています。西田さんは昨年入院されていたので心配していたんですが、自分の出番になると大変な集中力を見せてくれました。やっぱり、すごい俳優だなと思いましたね。 ──『最終章』からの出演となる花菱会直参幹部・花田役のピエール瀧も面白い存在です。凄んでみせるけど、どこかおかしみがある。  本物のヤクザではない、お金の力で幹部に取り立ててもらった半グレ上がりという設定ですね。まだヤクザの世界のことがよく分かっておらず、自分の指を詰めるのを怖がっている。ヤクザ然としていないところが、ぴったりだったんじゃないでしょうか。彼がいたことで、逆に塩見三省さんの凄みが際立ったように思います。 ──第1作には短い出番でしたがマキタスポーツが出ていましたし、ミュージシャンはドラマに出ると独特の面白さを発揮しますね。  ピエールさんが電気グルーヴで活躍していることはもちろん知っていましたが、ミュージシャンであることを意識してキャスティングしたわけではありません。でも、やっぱりミュージシャンの方は台詞の間を外すことがないし、話し方もリズミカルですね。たけしさんも「ミュージシャンはコントをやらせてもうまい」と言っています。
北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)の画像2
金の力で花菱会の幹部に成り上がった花田(ピエール瀧)。花菱会と張会長グループとの抗争の火種となる。
■本職の俳優顔負けの存在感を放った男 ──『アウトレイジ』シリーズの意外なキャスティングで外せないのは、『ビヨンド』からフィクサー役で出演している金田時男さん。俳優ではなく、まったくの素人だと聞いています。  たけしさんは金田時男さんの息子さんと知り合い、個人的な付き合いがあったそうです。それで食事を一緒にするうちに、父親である金田時男さんを紹介され、戦後の日本をどう生きてきたかといった話をされ、その話がとても面白かったそうです。また、金田時男さんは松田優作さんの自伝なども読まれ、「お金はいくら稼いでも、いつかは消えてしまう。その点、俳優は映画にその姿を残すことができて羨ましい。とんでもないと思うかもしれないが、北野作品に自分の姿を刻みつける機会があればお願いできないか」とたけしさんにお願いしたそうです。金田さんは顔つきがいいし、あの存在感は本職の俳優たちにも負けていない。それで『ビヨンド』では台詞がほとんどなかったんですが、張会長として出演してもらい、『最終章』ではストーリーの展開上、出番も台詞もかなり増えることになったんです。 ──2014年に亡くなった高倉健さんですが、北野映画に出演かという噂が何度も上がりました。実際にオファーはされていたんでしょうか?  高倉健さんがご存命中に「こういうのをやりませんか」と企画を提案させていただいたことはありました。ただ提案書だけではなく、ある程度のホン(脚本)を用意しないとダメだと健さんの出演作をプロデュースされた方からは聞いていたので、北野組は脚本が変更することは多々ありますが、シノプスよりは詳しいものを準備しました。健さんもずいぶん考えてくれたみたいですが、自分がやる役ではないんじゃないかと丁寧に断られたというのが事実です。 ──『アウトレイジ』シリーズや先ほど出た「ヤクザ名球会」ではなかったんですね?  違います。映画化された企画へのオファーではなく、まったく別の企画でした。健さんの出演が決まっていなかったので、他のキャストへのオファーもしていない状態だったので、その企画は実現はしていないんです。
北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)の画像3
『アウトレイジ ビヨンド』に続き、日韓の裏社会を牛耳るフィクサー・張会長(金田時男)は独特の存在感を見せる。
■恋愛小説『アナログ』の映画化の可能性は? ──『アウトレイジ』シリーズの完結後は、どのように考えていられるんでしょうか? ビートたけし初の恋愛小説ということで9月に発売されたばかりの『アナログ』(新潮社)も話題となっていますが……。  北野監督の頭の中には、次回作はどうするのか、バイオレンス映画をまた撮るのかどうかといった考えはあるようですが、それはそのときの気分によって変わるものなので、これからのことは『アウトレイジ 最終章』が興行的に成功して、そこから初めて「じゃあ、次回はどうするか」という話になります。もちろん、『アナログ』は出版されたばかりで話題性もあるので次回作の候補にはなり得ますが、最終的にはビジネスサイド、お金を出してくれる人たちが納得してくれないと次へは進めません。また、原作小説があっても、それを映画としてどう広がりのあるものにしていくかというアイデアも必要になってきます。『アウトレイジ』の前や『龍三と七人の子分たち』の前も、北野監督は別の企画を提案していたんですが、どの企画が優れている優れていないではなく、どの企画が実現可能かどうかということなんです。我々は大ヒットメーカーではありませんが、ヒットメーカーとしての立場は守っていかなくてはいけない。興行的に成功を見込める作品を作っていくことが責務でもあるんです。それと北野組には大きなハードルがあるんです。たけしさんはテレビの仕事もしているのでテレビの収録をする“テレビ週”と映画の撮影をする“映画週”とが隔週ごとに分かれていて、他の映画よりも機材費や人件費が2倍必要になってくるため、リクープラインが高くなっているんです。いろんな企画のアイデアを持っている北野監督は歯がゆいかもしれませんが、プロデューサーとしては企画選びは慎重にならざるを得ないんです。 ──北野監督の初期を代表するバイオレンス映画の傑作『ソナチネ』の後に『キッズ・リターン』(96)のような名作が生まれているだけに、ファンは次回作も大いに期待してしまいます。  いやいや、『キッズ・リターン』の前には『みんな~やってるか!』(95)がありましたし、94年にはバイク事故も起こしています(苦笑)。バランスが大きく崩れることもあるわけです。それで『座頭市』が大ヒットして喜んでいたら、また『TAKESHIS’』で沈んで……ということになっています。今の興行システムでは、それは許されないんです。単館でもロングラン上映してくれる映画館が全国に20~30館もあればビジネス的に可能なんですが、今はそんな劇場は国内には1~2館しかないというのが現状です。観客動員100万人という数字は、東京ドームを20日連続で満員にしなくちゃいけないということ。ローリングストーンズでもできるかどうか。シネコンのシステムの中でヒットさせるということは、そういうことなんです。 ──森プロデューサーはそんな重責を担っていながら、毎年11月に開催される映画祭「東京フィルメックス」のエクゼクティブプロデューサーも務めている。めちゃめちゃ大変じゃないですか。  「東京フィルメックス」は“アジアの若手監督を紹介する映画祭”という建前は非常に美しいのですが、内情はとても厳しいです(苦笑)。カンヌやベネチアといった映画祭でも近年はだんだん地味になってきているぐらいですからね。 ──最近のフィルメックス上映作品だと、中国のジャ・ジャンクー監督の『罪の手ざわり』(13)や奥田庸介監督の『クズとブスとゲス』(15)などは、とても面白い作品でした。  いい映画でしたねぇ。アジアにはまだまだ優れた才能がいることは我々も分かってはいるんですが、彼らの作品を定期的に公開できる環境が整っていない状況なんです。大量消費の時代にあって、いくら良作を作ってもビジネス的には難しい。多様化の時代と言われていますが、現実は全然多様化していません。みんな、マスのほうへ向かっているのが現状です。マスでなければ、いわゆるオタクと呼ばれる趣味趣向の世界になり、メジャーにはなり得ない。シネコンとは異なる、新しい受け皿づくりは今後の大きな課題かもしれません。 (取材・文=長野辰次)
北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)の画像4
●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
北野監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(後編)の画像5
『アウトレイジ 最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像1
北野映画にこの人あり。森昌行プロデューサーがいたから、『ソナチネ』や『キッズ・リターン』などの傑作が誕生した。
“世界のキタノ”こと北野武監督が衝撃デビューを果たした『その男、凶暴につき』(89)から、常に北野映画を支えてきたのが森昌行プロデューサーだ。またオフィス北野の社長として、テレビの第一線で活躍を続ける人気タレント・ビートたけしのマネジメントも手掛けている。多彩なキャストを配し、経済至上主義となった現代社会の風刺にもとれるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』シリーズは、どのようにして生まれたのか。そして、トリロジー完結編『アウトレイジ 最終章』を完成させ、北野映画はこれからどこへと向かうのか。北野監督の才能を誰よりも愛するがゆえに、時にシビアな判断も迫られる森プロデューサーが北野映画の裏側を語った。 ──2010年に公開された第1作『アウトレイジ』は独創的なバイオレンスシーンが話題となり、スマッシュヒットを記録しました。もともとは前作『アキレスと亀』(08)の主人公・真知寿がいろんな自殺方法を試すシーンで危なすぎて使えなかったネタから生まれたそうですね。 森昌行 我々はデスノートと呼んでいるんですが、死に方帳みたいなものをたけしさんは持っているんです(笑)。お笑いのネタ帳と同じように、面白い死に方や殺し方を思いついたら、たけしさんは『アキレスと亀』以前からメモしていました。子どもが自由に落書きするみたいな感覚なんですが、その手帳を持ち歩いているときに警察に尋問されたら、きっとテロリストとして逮捕されるでしょうね(笑)。 ■笑いほど残酷なものはない ──北野監督にとっては、笑いも死も同価値のものなんですね。  北野さんは昔から言っているんですが、「笑いとは残酷なものだ」と。また、「笑いは悪魔のように忍び寄る」とも言っています。お笑いって、シリアスな状況であればあるほど、そこで起きる笑いも大きくなるわけです。お葬式みたいに絶対笑ってはいけない場で、誰かがおならをするとおかしくて仕方ない。それがたけしさんの言う「笑いが悪魔のように忍び寄る」ということなんです。これは突発的に起きる暴力と同じようなもの。だから、笑いってすごく暴力的なものなんだ、というのがたけしさんの持論です。チャップリンが言っていたそうですが、「ホームレスがバナナの皮で転ぶより、大統領がバナナの皮で転んだほうが面白い」と。権力を持っている人間が転んだほうがおかしいわけです。だから、たけしさんも「お笑いをやっているからには俺は文化勲章をもらうんだ」と言っています。文化勲章をもらった翌日、立ちションで逮捕されたら、そのギャップが笑いを生むわけです。たけしさんはいつも笑いをベースに考えていて、その延長線に暴力も並んでいるようですね。 ──北野映画は“死生観”“破滅衝動”がテーマだとも言われています。  確かに「北野監督の作品は死がテーマになっている」と言われていたことが初期の頃はありました。でも、たけしさんに言わせれば「いや、そうじゃないんだ。今の時代は生に光を当て過ぎているんだ」ということなんです。たけし流に言えば、なぜ死を忌み嫌うのか、生きることにしか光を当てないほうがおかしいよ、ということ。人間の死を描くことは生を描くということでもあるんです。北野監督にとっては、死に方=生き方なんです。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像2
『アウトレイジ ビヨンド』でマル暴刑事・片岡(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は韓国の済州島に身を潜めていたが……。
■内面三部作は監督にとって必要な作品だった ──北野作品は、笑いと暴力、生と死が隣り合わせになっているわけですね。『アウトレイジ ビヨンド』(12)は北野監督にとっては初の続編。第1作のラスト、刑務所で刺殺されたはずの大友組の組長・大友(ビートたけし)が実は生きていたという『ビヨンド』のアイデアは、森プロデューサーの発案だったと聞いています。  ハハハ、それは事実です(笑)。確かに北野監督はそれまでシリーズものを作ることはせず、『アウトレイジ』も1作で完結させたつもりだったはずです。北野監督と揉めたわけではないんですが、これはプロデューサー個人の話として聞いてください。プロデューサーという仕事は、クリエイティブサイドとビジネスサイドとのブリッジ役だと認識しています。クリエイティブサイドに関しては、北野監督の意思を最大限に尊重したい。でも一方のビジネスサイドに立てば、プロデューサーは出資者たちへの責任があるわけです。作品を完成させるだけでなく、興行的にも成功を収めなくてはいけません。『アウトレイジ』の前に撮った、『TAKESHIS’』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』の3作品は正直なところ、ビジネス面で成功したとは言えませんでした。 ──北野監督の内面を描いた三部作、どれも興味深い作品でした。  もちろん、3作品とも内容は評価はされており、それぞれ海外の映画祭にも呼ばれています。北野監督の作家性には悪影響は何らもたらしていません。また、『座頭市』(03)の後、自分が撮りたいのはこれだという明確なものが見つからない混迷期に入り、北野監督にとっては新しい出口を探り出すために必要な3作だったと思います。決して開き直って、弁明しているわけではありません(笑)。そこで3作を撮り終えた北野監督に提案したのが、「十八番中の十八番であるバイオレンスエンターテイメントをやりましょう」ということでした。実験的な作品は避けて、北野監督が最も得意とするバイオレンスアクションに戻ろうと。でも、それは『その男、凶暴につき』や『3-4x 10月』(90)や『ソナチネ』(93)をもう一度撮るということではないし、そうならないと確信していました。北野監督はそれまでにいろんな作品を撮ってきたので、バイオレンスアクションを撮っても初期作品とは同じものにはならないはずだという期待もありました。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像3
老舗暴力団・花菱会の若頭・西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)。実力派俳優たちの老練なやりとりは大きな見どころ。
■『アウトレイジ』に科せられた高いハードル ──北野映画初出演組を中心にした多彩なキャスティングも、『アウトレイジ』シリーズならでは。  それまでの北野監督は、色のついた俳優を起用することをあまり好みませんでした。自分の言うとおりに役者は動いてほしいと考えていたようです。それもあって、寺島進や大杉漣さんといった北野組と呼ばれる常連俳優たちをいつも起用していたんです。ですが、いろんな作品を撮ってきたことで北野監督はどんな俳優が来ても充分にやれるはずだという読みがこちらにはあり、『アウトレイジ』は北野組ではない俳優を使いましょうと提案しました。ビジネス的に前3作が成功しなかったということも、プロデューサーとして大きくありました。『アウトレイジ』がもし失敗したら、監督生命が危ぶまれる……くらいの危機感がありました。4作連続でリクープできなければ、メディアが“世界のキタノ”と持ち上げても、ビジネスパートナーたちはパートナーシップを解消してしまう。そうなれば、北野監督は好きなように映画を撮ることもできなくなる。『アウトレイジ』に関しては、私は観客動員100万人をボーダーラインとして考えていました。そのくらいの大ヒットじゃないと、過去3作のマイナスイメージを払拭できないと、スタッフ全員にハッパを掛けていたんです。いざ、劇場公開してみると観客動員は80万人程度でした。ヒットはヒットなんですが、私の設定していた目標値には達していなかった。そこで、たけしさんには「大友は生きているというアイデアはどうですか? 大友の死体は映していませんし」と私から持ち掛けて、『アウトレイジ』のDVDがリリースされるタイミングで、続編製作を正式発表することでヒット感を打ち出しました。その甲斐あって、『アウトレイジ』のDVDセールスは伸び、その勢いが第2作『アウトレイジ ビヨンド』へと続いたんです。 ──北野監督と森プロデューサーには長年の信頼関係があるわけですが、それでも「大友は生きている」というアイデアを切り出すタイミングは気を使ったんじゃないですか?  もちろん、そうです。下手なタイミングで切り出せば、一蹴されてしまう可能性もありました。でも、たけしさんにも思うところがあったんだと思います。「大友が生きているなら、こういうストーリーになるな」とアイデアを膨らせてくれました。その結果、『ビヨンド』は第1作を越える興収結果を残し、『ビヨンド』で終わってもよかったんですが、今度は北野監督が乗って、「次は大友が韓国へ逃げて……」と3作目まで作ることになったんです。まぁ、すぐに『アウトレイジ 最終章』を作るのではなく、一度違うベクトルに振ったほうがいいだろうと思い、たけしさんがネットで発表した短編小説『ヤクザ名球会』を『龍三と七人の子分たち』(15)として映画化することにしました。幸い、こちらもうまくヒットすることができました。 ──北野監督ほどの才能と実績とネームバリューがあっても、常に数字を残さなくてはいけない時代ですね。  やはり、シネコンというシステムの中では、興行成績というものが中心になっています。『HANA-BI』(98)の頃はアートハウス系でロングラン公開され、口コミで動員することができました。『HANA-BI』を1年間にわたって上映し続けた映画館もあったほどです。海外の映画祭で受賞したことで宣伝費も使わずに済みました。でも、そういったアートハウス系の映画館はほとんど消えてしまい、今はシネコンで上映するしかありません。ある意味、シネコンは残酷な世界です。公開初週の土日にどれだけ観客動員できたかで、公開期間も決められてしまう。宣伝費も『HANA-BI』の頃に比べて、10倍必要になっています。そんな中で、ただ作家性を重視した作品を撮っても、自己満足で終わってしまうことになってしまう。シネコンに作品を掛けるということは、メジャー指向で大量動員することが前提となっています。『HANA-BI』や『座頭市』くらいまでは海外マーケットもそれなりの市場だったんですが、今はアジア映画が海外で占める市場はとても縮小されています。嫌だと思っていても、日本の大量動員システムの中で勝負し、勝ち残っていくしかないんです。エンターテイメントに徹しないと、この国では映画を撮ることはできません。海外でインタビューを受けると「なぜ、北野監督は今もテレビ出演を続けているのか?」と質問されることがありますが、今の日本では映画を撮っているだけでは食べてはいけないからなんです。よっぽど慎ましい生活にすれば別でしょうけど。そういったことも含め、マネジメントも考えざるをえない。当然、たけしさんも年齢を重ね、テレビの世界では新しい人間も出てくる。今後、映画監督としてタレントとして、どう続けていくかは大きなテーマですね。 (取材・文=長野辰次/後編につづく) ●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像4
『アウトレイジ最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)

北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像1
北野映画にこの人あり。森昌行プロデューサーがいたから、『ソナチネ』や『キッズ・リターン』などの傑作が誕生した。
“世界のキタノ”こと北野武監督が衝撃デビューを果たした『その男、凶暴につき』(89)から、常に北野映画を支えてきたのが森昌行プロデューサーだ。またオフィス北野の社長として、テレビの第一線で活躍を続ける人気タレント・ビートたけしのマネジメントも手掛けている。多彩なキャストを配し、経済至上主義となった現代社会の風刺にもとれるバイオレンスエンターテイメント『アウトレイジ』シリーズは、どのようにして生まれたのか。そして、トリロジー完結編『アウトレイジ 最終章』を完成させ、北野映画はこれからどこへと向かうのか。北野監督の才能を誰よりも愛するがゆえに、時にシビアな判断も迫られる森プロデューサーが北野映画の裏側を語った。 ──2010年に公開された第1作『アウトレイジ』は独創的なバイオレンスシーンが話題となり、スマッシュヒットを記録しました。もともとは前作『アキレスと亀』(08)の主人公・真知寿がいろんな自殺方法を試すシーンで危なすぎて使えなかったネタから生まれたそうですね。 森昌行 我々はデスノートと呼んでいるんですが、死に方帳みたいなものをたけしさんは持っているんです(笑)。お笑いのネタ帳と同じように、面白い死に方や殺し方を思いついたら、たけしさんは『アキレスと亀』以前からメモしていました。子どもが自由に落書きするみたいな感覚なんですが、その手帳を持ち歩いているときに警察に尋問されたら、きっとテロリストとして逮捕されるでしょうね(笑)。 ■笑いほど残酷なものはない ──北野監督にとっては、笑いも死も同価値のものなんですね。  北野さんは昔から言っているんですが、「笑いとは残酷なものだ」と。また、「笑いは悪魔のように忍び寄る」とも言っています。お笑いって、シリアスな状況であればあるほど、そこで起きる笑いも大きくなるわけです。お葬式みたいに絶対笑ってはいけない場で、誰かがおならをするとおかしくて仕方ない。それがたけしさんの言う「笑いが悪魔のように忍び寄る」ということなんです。これは突発的に起きる暴力と同じようなもの。だから、笑いってすごく暴力的なものなんだ、というのがたけしさんの持論です。チャップリンが言っていたそうですが、「ホームレスがバナナの皮で転ぶより、大統領がバナナの皮で転んだほうが面白い」と。権力を持っている人間が転んだほうがおかしいわけです。だから、たけしさんも「お笑いをやっているからには俺は文化勲章をもらうんだ」と言っています。文化勲章をもらった翌日、立ちションで逮捕されたら、そのギャップが笑いを生むわけです。たけしさんはいつも笑いをベースに考えていて、その延長線に暴力も並んでいるようですね。 ──北野映画は“死生観”“破滅衝動”がテーマだとも言われています。  確かに「北野監督の作品は死がテーマになっている」と言われていたことが初期の頃はありました。でも、たけしさんに言わせれば「いや、そうじゃないんだ。今の時代は生に光を当て過ぎているんだ」ということなんです。たけし流に言えば、なぜ死を忌み嫌うのか、生きることにしか光を当てないほうがおかしいよ、ということ。人間の死を描くことは生を描くということでもあるんです。北野監督にとっては、死に方=生き方なんです。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像2
『アウトレイジ ビヨンド』でマル暴刑事・片岡(小日向文世)を射殺した大友(ビートたけし)は韓国の済州島に身を潜めていたが……。
■内面三部作は監督にとって必要な作品だった ──北野作品は、笑いと暴力、生と死が隣り合わせになっているわけですね。『アウトレイジ ビヨンド』(12)は北野監督にとっては初の続編。第1作のラスト、刑務所で刺殺されたはずの大友組の組長・大友(ビートたけし)が実は生きていたという『ビヨンド』のアイデアは、森プロデューサーの発案だったと聞いています。  ハハハ、それは事実です(笑)。確かに北野監督はそれまでシリーズものを作ることはせず、『アウトレイジ』も1作で完結させたつもりだったはずです。北野監督と揉めたわけではないんですが、これはプロデューサー個人の話として聞いてください。プロデューサーという仕事は、クリエイティブサイドとビジネスサイドとのブリッジ役だと認識しています。クリエイティブサイドに関しては、北野監督の意思を最大限に尊重したい。でも一方のビジネスサイドに立てば、プロデューサーは出資者たちへの責任があるわけです。作品を完成させるだけでなく、興行的にも成功を収めなくてはいけません。『アウトレイジ』の前に撮った、『TAKESHIS’』(05)、『監督・ばんざい!』(07)、『アキレスと亀』の3作品は正直なところ、ビジネス面で成功したとは言えませんでした。 ──北野監督の内面を描いた三部作、どれも興味深い作品でした。  もちろん、3作品とも内容は評価はされており、それぞれ海外の映画祭にも呼ばれています。北野監督の作家性には悪影響は何らもたらしていません。また、『座頭市』(03)の後、自分が撮りたいのはこれだという明確なものが見つからない混迷期に入り、北野監督にとっては新しい出口を探り出すために必要な3作だったと思います。決して開き直って、弁明しているわけではありません(笑)。そこで3作を撮り終えた北野監督に提案したのが、「十八番中の十八番であるバイオレンスエンターテイメントをやりましょう」ということでした。実験的な作品は避けて、北野監督が最も得意とするバイオレンスアクションに戻ろうと。でも、それは『その男、凶暴につき』や『3-4x 10月』(90)や『ソナチネ』(93)をもう一度撮るということではないし、そうならないと確信していました。北野監督はそれまでにいろんな作品を撮ってきたので、バイオレンスアクションを撮っても初期作品とは同じものにはならないはずだという期待もありました。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像3
老舗暴力団・花菱会の若頭・西野(西田敏行)と若頭補佐の中田(塩見三省)。実力派俳優たちの老練なやりとりは大きな見どころ。
■『アウトレイジ』に科せられた高いハードル ──北野映画初出演組を中心にした多彩なキャスティングも、『アウトレイジ』シリーズならでは。  それまでの北野監督は、色のついた俳優を起用することをあまり好みませんでした。自分の言うとおりに役者は動いてほしいと考えていたようです。それもあって、寺島進や大杉漣さんといった北野組と呼ばれる常連俳優たちをいつも起用していたんです。ですが、いろんな作品を撮ってきたことで北野監督はどんな俳優が来ても充分にやれるはずだという読みがこちらにはあり、『アウトレイジ』は北野組ではない俳優を使いましょうと提案しました。ビジネス的に前3作が成功しなかったということも、プロデューサーとして大きくありました。『アウトレイジ』がもし失敗したら、監督生命が危ぶまれる……くらいの危機感がありました。4作連続でリクープできなければ、メディアが“世界のキタノ”と持ち上げても、ビジネスパートナーたちはパートナーシップを解消してしまう。そうなれば、北野監督は好きなように映画を撮ることもできなくなる。『アウトレイジ』に関しては、私は観客動員100万人をボーダーラインとして考えていました。そのくらいの大ヒットじゃないと、過去3作のマイナスイメージを払拭できないと、スタッフ全員にハッパを掛けていたんです。いざ、劇場公開してみると観客動員は80万人程度でした。ヒットはヒットなんですが、私の設定していた目標値には達していなかった。そこで、たけしさんには「大友は生きているというアイデアはどうですか? 大友の死体は映していませんし」と私から持ち掛けて、『アウトレイジ』のDVDがリリースされるタイミングで、続編製作を正式発表することでヒット感を打ち出しました。その甲斐あって、『アウトレイジ』のDVDセールスは伸び、その勢いが第2作『アウトレイジ ビヨンド』へと続いたんです。 ──北野監督と森プロデューサーには長年の信頼関係があるわけですが、それでも「大友は生きている」というアイデアを切り出すタイミングは気を使ったんじゃないですか?  もちろん、そうです。下手なタイミングで切り出せば、一蹴されてしまう可能性もありました。でも、たけしさんにも思うところがあったんだと思います。「大友が生きているなら、こういうストーリーになるな」とアイデアを膨らせてくれました。その結果、『ビヨンド』は第1作を越える興収結果を残し、『ビヨンド』で終わってもよかったんですが、今度は北野監督が乗って、「次は大友が韓国へ逃げて……」と3作目まで作ることになったんです。まぁ、すぐに『アウトレイジ 最終章』を作るのではなく、一度違うベクトルに振ったほうがいいだろうと思い、たけしさんがネットで発表した短編小説『ヤクザ名球会』を『龍三と七人の子分たち』(15)として映画化することにしました。幸い、こちらもうまくヒットすることができました。 ──北野監督ほどの才能と実績とネームバリューがあっても、常に数字を残さなくてはいけない時代ですね。  やはり、シネコンというシステムの中では、興行成績というものが中心になっています。『HANA-BI』(98)の頃はアートハウス系でロングラン公開され、口コミで動員することができました。『HANA-BI』を1年間にわたって上映し続けた映画館もあったほどです。海外の映画祭で受賞したことで宣伝費も使わずに済みました。でも、そういったアートハウス系の映画館はほとんど消えてしまい、今はシネコンで上映するしかありません。ある意味、シネコンは残酷な世界です。公開初週の土日にどれだけ観客動員できたかで、公開期間も決められてしまう。宣伝費も『HANA-BI』の頃に比べて、10倍必要になっています。そんな中で、ただ作家性を重視した作品を撮っても、自己満足で終わってしまうことになってしまう。シネコンに作品を掛けるということは、メジャー指向で大量動員することが前提となっています。『HANA-BI』や『座頭市』くらいまでは海外マーケットもそれなりの市場だったんですが、今はアジア映画が海外で占める市場はとても縮小されています。嫌だと思っていても、日本の大量動員システムの中で勝負し、勝ち残っていくしかないんです。エンターテイメントに徹しないと、この国では映画を撮ることはできません。海外でインタビューを受けると「なぜ、北野監督は今もテレビ出演を続けているのか?」と質問されることがありますが、今の日本では映画を撮っているだけでは食べてはいけないからなんです。よっぽど慎ましい生活にすれば別でしょうけど。そういったことも含め、マネジメントも考えざるをえない。当然、たけしさんも年齢を重ね、テレビの世界では新しい人間も出てくる。今後、映画監督としてタレントとして、どう続けていくかは大きなテーマですね。 (取材・文=長野辰次/後編につづく) ●森昌行(もり・まさゆき) 1953年鳥取県生まれ。テレビ番組製作会社でADとして過ごし、最初にチーフディレクターを務めたバラエティー番組『アイドルパンチ』(テレビ朝日)をきっかけに、司会のビートたけしと親交を深める。88年の「オフィス北野」の設立に参加し、92年から代表取締役社長に就任。89年の北野監督の監督デビュー作『その男、凶暴につき』から全ての北野作品をプロデュースしている。また、例年11月下旬に開催されるアジアを中心にしたインディペンデント系の映画祭「東京フィルメックス」の運営も手掛け、若手映像作家の育成にも取り組んでいる。
北野武監督を支え続ける森昌行プロデューサーが語る『アウトレイジ』三部作の舞台裏と北野映画の今後(前編)の画像4
『アウトレイジ最終章』 監督・脚本・編集/北野武 音楽/鈴木慶一 撮影/柳島克己 照明/高屋齋 出演/ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳 配給/ワーナー・ブラザース映画、オフィス北野 R15+ 10月7日(土)より全国ロードショー (c)2017『アウトレイジ最終章』製作委員会 http://outrage-movie.jp

「プリキュアにはかなわない」という現実を超えて──ラノベレーベルにも乗り出す「キリスト新聞社」の目指す未来

「プリキュアにはかなわない」という現実を超えて──ラノベレーベルにも乗り出す「キリスト新聞社」の目指す未来の画像1
「キリスト新聞」社長・松谷信司氏
「日曜日の朝は、特撮がありプリキュアもあり……まあ、勝てないですよ」  真っすぐな視線から注がれる言葉には、諦めの先の希望があった。  松谷信司は、キリスト新聞の編集長として、これまでもさまざまな試みを行ってきた人物である。聖書を題材に「モーセ召喚!!!」「聖書の世界を遊び尽くせ!!」をキャッチコピーにしたカードゲーム『バイブルハンター』。同じく聖書の人物が登場する『バイブルリーグ』。スマホで遊べるパズルゲーム『モーセの海割り』。  宗教改革500周年を迎える今年は、宗教改革をテーマとするアナログゲームのコンテストを実施。この作品は『ルターの宗教大改革』のタイトルで、ルターが95カ条の論題を張り出した500周年の記念日となる10月31日に発売される予定だ。  そんな新聞社が新たに発表したのが、キリスト教をモチーフにしたライトノベルレーベルの創刊だ。ライトノベル投稿サイト「トークメーカー」とコラボして行われている作品募集では、プロアマ不問はもちろんのこと、宗教不問・改宗不要とまで煽っている。  近年、さまざまな宗教が現代社会のカルチャーを利用した試みを盛んに行っている。人気アニメとコラボする神社や、仏教アイドルなどが次々と現れている。そうした中で、キリスト新聞社の試みは、かなり特徴的に見える。  それは、ここまでやっていいのかという“ユルさ”である。キリスト新聞は、いわゆる業界紙の中ですべての教派を扱う新聞である。創刊は1946年。日本のキリスト教界の中では伝統と権威のある新聞といえるだろう。それが、なぜここまで尖った試みを行うのだろうかということが引っ掛かった。  これまでも、興味の赴くままに神社仏閣の現在を取材したことはある。その中には、神田明神しかり、了法寺しかり、サブカルチャーを利用して人々に働きかけようとするところも数多くあった。けれども、サブカルチャーを取り入れながらも、宗教としての立ち位置は鮮明に打ち出していたように感じている。それに比べると、キリスト新聞のゲーム、そしてライトノベルレーベルには、ぐっとユルさが感じられる。  それに、是非の気持ちなどはない。むしろ、なぜここまでユルくするのだろう。そんな興味のままに取材のアポイントメントを取った。 ■40歳の若社長が語る「キリスト教信仰の危機」とは?  キリスト新聞社があるのは、神楽坂の筑土八幡の近く。近年、道路も改修され古くからの街並みは徐々に21世紀へと変貌しようとしている。そんな変わりつつある街の一角にあるキリスト新聞社の入居する建物は、明らかに昭和の雰囲気だった。古ぼけたコンクリートの建物。その4階にある編集部は、オフィスというよりも事務所という言葉が似合う空間である。多くの人が行き来した、色あせた階段や廊下の床には、どこか硬い芯のようなものが感じられた。  そんな新聞社で、編集長であり6月からは社長にも就任した松谷は、まだ40歳である。アポイントメントを取った後、取材当日までの間に下調べをしていて、そのことを知った時に少し驚いた。伝統のある宗教の業界紙である。そんな会社の社長だから、きっと70歳くらいの信仰に人生を捧げてきたような、雰囲気のある人物が出てくると思っていたからだ。現場の第一線で活躍する年齢の人物が、社長にも就任する。そこには、ひとつの会社にとどまらない「業界」全体の何がしかの期待が込められていると思い、がぜん興味が湧いた。  神道でも仏教でも、よく語られている信者の減少と信仰の形骸化。それが、日本国内においては決して多数ではないキリスト教にとっては、より危機感を抱くことなのではないか。そんな誰もが思いつくような疑問を、松谷に尋ねてみることにした。 「まったく同じですね。お寺さんの話を聞いても、まったく課題は同じです。高齢化、なり手がいない。若者がいない。人がいない。お金がないのは共通です。住職がいないお寺が問題になっていますが、同様に牧師がいない教会も出てきて、問題になっているんです」  松谷が語ってくれたのは、私がにわかに想像したよりも深刻な各教派の実情であった。  最初に、松谷が問題として語ったのは、神学校を卒業して神父・牧師になった若者が、数年で辞めてしまうということであった。  神学校に入学をするということは、信仰に人生を捧げようという強固な決心があるように思える。けれども、そうした決意を固めた人でも持たないという問題を、教会は抱えているのだという。 「この時代、病んでいる方が多く教会にやってきますよね。神父や牧師になるのは真面目な方が多いので、真摯に対応しすぎて疲弊してしまうんです。朝も夜も構わず教会にやってくる人の相手をしたり、深夜に何時間も長電話の相手をしたり。牧師の場合ですと、奥さんや家族も被害を被ってしまうんです」  松谷の言葉は、驚くほどに率直だった。  とりわけ「病んでいる方」「真面目な方が多い」という言葉を使ったときには、少しドキっとした。なんらオブラートに包むことない物言い。でも、決して見下したり冷笑しているのでない。その言葉を使うとき、松谷の目は明らかに真剣そのものだった。同時に、そこまで刺すような言葉を用いなければならないということに「業界」の危機感が滲んでいるように見えた。私の思考の中でそのことと、ゲームやライトノベルが次第に糸で結ばれていった。 ■教会の「敷居の高さ」を取り除くために  私も、ライトノベルレーベルの立ち上げをきっかけに取材に訪れたわけであるが、現代日本に生きていてキリスト教の信仰に触れる機会はほとんどない。確かにキリスト教系の学校というものは、幼稚園から小中高大学まで全国各地にある。12月になれば、みんなクリスマスの準備を始める習慣は根付いている。けれども、聖書を読んだことがあるかといえば、そんな人はあまりいない。ましてや、そこに登場する人物や業績の知識を持ち合わせている人は少ない。「使徒」と聞いて思い浮かべるのは『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ東京系、他)。あるいは『聖☆おにいさん』(講談社)くらいだろうか。それで、何がしかの知識の片鱗を得ても「なら教会に行ってみようか」と考える人は少ないだろう。 「敷居が高いですね。キリスト教系の学校というものは、けっこういっぱいあります。そうした学校に通っていても、教会で聖書読んでお祈りする人はあまりいません。娯楽の少ない時代には、教会に行けばおいしいお菓子や文化とかメリットはありました。でも今は、楽しいものがたくさんありますから」  その楽しいものとして、松谷は日曜朝の特撮、そして『プリキュア』の名を挙げた。日曜日の礼拝が、決して『プリキュア』にはかなわない。その、いわば「負け」を認めることが松谷の出発点になっているのだった。 「だから、若い人に触れてもらうために、マンガやゲームを制作したのです。そして、ラノベは絶対に必要なジャンルだと思っていました」  取材の前に、松谷が登場している幾つかの記事を読んだときに、松谷は「信徒以外の<にわかファン>」という言葉を用いて、もっと広くキリスト教をアピールする必要性を語っていた。けれども、松谷は単に新たな信徒を取り込むためだけに、サブカルチャーを利用しているのではない。むしろ「業界」内部に変化をもたらす必要性。もっと簡単にいえば「敷居を下げる」ことを求めているようだった。  キリスト教の「本場」ともいえるヨーロッパあたりを旅行すると一目瞭然だが、教会は日本の神社仏閣と同等に敷居が低い。ちょっと扉を開けて入って、礼拝の様子を覗き見しても咎められることはない。中には夜中でも開いていて自由に礼拝はできる教会もある。  けれども、日本の教会というものは、だいたいが入りにくさに満ちている。道路に面した門は閉ざされているし、その奥にある建物の扉はもっと重くて固い。何か、覚悟を決めなくては入ることのできない雰囲気がある。 「やはり、規模の違いでしょう。四谷の聖イグナチオ教会なんかは、わりと自由に出入りできます。でも、ほかの教会は基本、何もなく入っていくと不審者になっちゃいますね」  今までは「きっかけが、なさすぎた」と、松谷は言った。キリスト教の信仰を、簡単に学べるような本は少ない。少し興味を持って知ろうとすれば、日曜日の朝に礼拝にいかなければならない。そんな宗教で、おいそれと信者が増えるとは到底考えられないと、思った。 「今は、信者を増やすよりも、にわかのファン回りにいる人をどうやって増やすかを考えないと、コアなファンも育たないと思うんですよ」  そんな問題意識があっても、変化しようとしない教会。教派によっては、次代の聖職者を養成する神学校すら維持することのできないところも出てきているという。そうした、変わらない教会の意識を変えさせる方法が、ゲームでありライトノベルなのだろう。 「教会だけが、教会自身で変わるのはもう無理だと諦めています。外堀である、我々メディアとか第三者が『教会にはできないけど、私には言える』という立場で刺激を与えていかないと、生き残れないのではないかと思っています」  松谷の言葉には、まったく揺るぎがなかった。前述した通り、キリスト新聞はいわゆる「業界紙」である。ということは、業界とは常に持ちつ持たれつの関係にあるはずである。そうした専門的な媒体というものは、ネタ元であったり、購読者の属性に対しては、あまり批判をしないものだ。そんなことをしては、ネタももらえなくなってしまうし、場合によっては購読者が減る恐れもある。そんな立場の媒体のはずなのに、松谷には「こんな業界だから仕方ない」という諦観は、みじんもなかった。  もう、このまま現状維持では目減りしていくだけで後はない。ならば、やれることをすべて試してみよう。そんな開拓精神が満ちているように思えた。つまりそれは、単に最近はマンガやアニメ、ゲームがはやっているから、そこに乗っかってサブカルチャーを利用した宣教をしようというような軽いものではないということである。 「サブカルやっても儲かるワケではありません。結果は、すぐには出ないと思っていますし」  実は、ライトノベルレーベルの創刊だけでなく、キリスト教新聞は、今年大きな改革を実施している。これまで、通常の新聞と同じ大きさかつ、縦書きだった紙面を刷新。タブロイド判で横書きに切り替えたのだ。変更前と変更後、両方を見せてもらったが、それはまったくの別物である。変更前のものが新聞とすれば、変更後のものはフリーペーパーのようなスタイル。あまりに変わりすぎて、購読者からは「新聞が届かないのですが」と、クレームがきたほどだという。 「前から変えなきゃいけないとは思っていました。高齢化で、どんどん『読者が字が小さくて読めない』とかでやめていくばっかりだったのです。また、電子版を始めるにあたって従来のサイズは適さないと判断したのです」  題字も変わり、従来の新聞スタイルに比べると手軽に読むことのできる雰囲気になっているのは確かである。けれども、これも結果はすぐに出るわけではない。松谷自身も「判型を変えたからって購読者は激増しない」という。それでも、確実に変化を「業界」内部にも促す材料となっていることを確信しているように見えた。  そんな内部をも変化させる要素であるサブカルチャーの重要性を、松谷は冷静に判断していた。そのことを感じたのは、話がモーセの海割りから映画『十戒』へと及んだときであった。  チャールトン・ヘストン主演の『十戒』は、公開時に日本でも大ヒットした名作である。3時間超の映画の中で、残り時間が1時間を切る頃まで、ためて、ためて、ついにモーセの海割りシーンが大迫力で出現する。その記憶は多くの人に共有されていて、日本でも大勢の人がモーセといえば「海を割る人」くらいには覚えている。 「そう『ドラえもん』でも、十戒石板という秘密道具が……」  ふと、そんな言葉が口をついて出た。すぐに松谷も反応した。 「モーゼステッキという道具もありましたね」  多くの言葉を使わなくても一目瞭然。これが、サブカルチャーの成果である。藤子不二雄が『十戒』を観て大いに感動したエピソードは『まんが道』春雷編の中に記されているが、その感動が『ドラえもん』のエピソードのモチーフとなり、我々の記憶にと刻まれている。  松谷が目指しているのは、まさにこれである。ゲーム『バイブルハンター』や『バイブルリーグ』は、それぞれのカードに記された効果が、その人物の逸話とイコールになっている。つまり、ゲームで遊びながら、なんとなく聖書の登場人物を知っていくことができるわけだ。それで興味を持ち、原典である聖書を読むきっかけを得るような、本当の「にわか」が増加すること。それが、松谷のもくろみなのだ。 「東北学院大学の聖書入門という授業では、バイブルリーグを教材で使ってもらっています。授業で人物を取り上げて、なぜカードの効果がこれなのかとか説明した後に、実際にゲームで遊ぶんだそうです。これは、文字通りこちらの意図したことですね。三国志だって、ゲームやマンガで知った人がいっぱいいるじゃないですか。キリスト教だって聖書を読まなきゃわからないだけじゃなく、ほかにも入口があっていいんじゃないんでしょうか」  けれども、やはりほかの宗教と同じく、サブカルチャーを利用することへの不信感を持つ人も一定数は存在している。 「よく批判もされますよ。そもそもゲームにすることが不敬と考えている人もいます。お寺や神社と一緒で、ポケモンGO禁止の教会もありますしね。また『バイブルハンター』では、エヴァのイラストで肌の露出が多いというクレームが。聖書に忠実にすると、なんにもつけていないんですけどね……」  ともすれば、古色蒼然たる偏狭なクレームと受けとめることもできる。けれども、松谷はそれにいちいち腹を立てたりはしない。 「まあ、そんなくだらないことで炎上してはアレなんで、気を使ってはいますけど……」  批判は批判として粛々と受け止めて、我が道を貫く姿。それは、決して自分のやっていることに間違いがないことの確信があるからだと思った。  そんな状況の中で取り組まれているライトノベルの公募は、意外に注目を集めていると、松谷は言う。1週間で30作品あまりの応募があったというのだ。 ──やはり、文字数などの点でハードルを低めに設定しているからではないでしょうか? 「いえ、もともとハードルは高いと思うんです。舞台がミッションスクールとか、キリスト教の用語が出てくるラノベはたくさんあるわけで、どう差別化するかが課題だと思っています。そのため、キリスト教の理解を深めるための作品を条件にした。そうじゃなかったら、フツーのラノベになってしまいます」 ──では、どのような作品を求めているのでしょう。 「聖書をラノベ風にしたものとか、現代におけるキリスト教そのものを舞台にしたラノベ。キリスト教系の学校とかを舞台にして、面白おかしいだけじゃなく、根本には思想があるといいなというのが、希望ではあるんです」  ゲームがそうであるように、人によっては「不敬」と思うまでに、これでもかというほどに、面白おかしい路線を走っている。でも、そんなことができるのも、ちゃんと芯の部分があるからだと思った。
「プリキュアにはかなわない」という現実を超えて──ラノベレーベルにも乗り出す「キリスト新聞社」の目指す未来の画像2
■本物の教会でコスプレ撮影会も……「いのフェス」  そんな松谷の思いが如実に表現されているのが、キリスト新聞社が協賛に名を連ね、年1回各地の教会で開催されているイベント「「いのり☆フェスティバル(いのフェス)」である。  2011年に始まったこのイベントは、キリスト教に関係する催しやフリーマーケットで構成されるもの。松谷自身も実行委員として参加しているのだが「有志による実行委員会」という形を取っているだけに、さらに振り幅が大きい。毎年のチラシは、ほとんど同人誌即売会のノリで自ら「教会版コミケ」という表現も。昨年、名古屋で開催された時のチラシには「天国無双」と、最近人気の作品へのオマージュとおぼしき煽り文まで記されている。  そして、10月9日に開催される今年の「いのフェス2017」では、会場となる教会でコスプレ撮影会もできるというのが、売りになっているのである。これまで、結婚式場などのチャペルでコスプレ撮影会というものは存在した。けれども、今回は本物の教会。それも公式にこんな文章で告知している。 ---------------------------------------------------------- コスプレ交流撮影会 「ホンモノの教会で撮ってみた♪」 実際に礼拝が行われる場で写真が撮れるまたとない機会。 ----------------------------------------------------------  サブカルチャーを用いた、変革へ向けての鮮烈な爆発。それは、10年後、20年後、どういう結果をもたらすことになるのだろうか。 (取材・文=昼間たかし) ■聖書 × トークメーカー ライトノベル新人賞 http://talkmaker.com/info/303.html ■いのり☆フェスティバル http://www.inofest.com/