
撮影=尾藤能暢
テレビドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズや、『コドモ警察』『HK/変態仮面』など次々とヒット作、話題作を手掛け、今、最もエッジなクリエイターとして注目を浴びる福田雄一監督。そんな彼の最新作『俺はまだ本気出してないだけ』が、堤真一、橋本愛、生瀬勝久、山田孝之という魅力的なキャスティングで6月15日に全国松竹系で封切られる。
40歳で会社を辞め、「俺は漫画家になる」と夢を追いかけ始めた大黒シズオ(演:堤真一)と、彼に振り回される周囲の人々による哀愁のドラマが描かれる本作を、福田監督はどう実写映像化したのか。また、バラエティ番組の放送作家としても活躍する福田監督は、現在のテレビ業界に対してどんな思いを抱いているのかを聞いてみた!
──どういう経緯で『俺はまだ本気出してないだけ』が実写映画化することになったのでしょうか。
福田雄一監督(以下、福田) 4年くらい前に、まったく関係のない5人のプロデューサーから、原作をほぼ同じタイミングで勧められるという珍事件があったんです。最初に勧めてくれたのがNHKのプロデューサーで、「すごく好きな原作なんですけど、うちじゃできないんで、ほかのところでやってみてはいかがですか?」って話をいただいたんですが、そこでは笑い話に終わったんです。そんなわけで、特に原作をちゃんと読もうという気にはならずにいたんですが、その後2~3カ月くらいの間にいろいろな方からほぼ同時期に勧められて、「気持ち悪いくらいに勧められるな」と思っていた時に、すごく仲のいいプロデューサーに会う機会があって「また話が出てくるんじゃないかな」と思ってたら、「福田さんにぜひやってもらいたい原作があるんだ」って、ドンってコミックスを出されたんです(笑)。
ここまで多くの人に勧められるってことは何かあるんだろうなと思って、そこで初めて原作を読んだんですが、勧められる意味がよく分かりましたね。これはまさに僕がやるのにふさわしいなと思ったので、『大洗にも星はふるなり』を一緒にやったプロデューサーに、「原作を押さえてもらえないですか」って相談したんですが、その時点ですでに「堤真一さんでやりたい」と答えた覚えがあります。
──原作を読んでいた人ほど、大黒シズオ役に堤真一さんという人選には驚かれたのではないでしょうか?
福田 でしょうね。ただ以前『THE3名様』をやった時に、原作の持つカッコ悪いイメージが、役者さんの力でさらに強くジャンプするという経験をしているんですよ。カッコいい3人の役者さんがファミレスに並んでカッコ悪い演技をすると、本当にカッコ悪い3人に見える。わざとらしい感じではなく、カッコいい人にちゃんとダメな人間を演じてもらう面白さが映像化の醍醐味である、というなんとなくの成功体験があったので、いわゆるダメな男を描く原作をそれっぽい役者さんで描くことは面白くないと思っていたんです。それで、このタイトルの実写化をやるんだったら意外性のある人で、でもちゃんと原作の味を損なわなくて面白い作品、というものを目指すべきと考えていました。ちょうどその頃、堤さんと舞台をご一緒する機会があったのですが、当時ハードなイメージしかなかった堤さんの素の顔を見るにあたり、「本当にダメなオッサンだな」と感じるに至りまして……。
――一同笑
福田 ご一緒する時間が増えれば増えるほど、堤さんを見損なっていってる自分がいたんです(笑)。僕、本当にダメな人が大好きだから、堤さんのダメなところを見れば見るほど、好きになっていったんです。男として、人としていい意味で見損なっていったので、そこのタイミングにがっちり合ったんです。堤さんって人前に出るときちんとできますけど、普段は割とこんな(劇中のシズオのままな)人なので、ファンの人には残念だと思うのですが「普段はこんなに残念な人なんだよ」というところを、映画を通じて受け止めていただきたいと思いますね。
──堤さんみたいなルックスのいい中年男性が、朝から横になってゲームやってるっていうビジュアルが、すごく生々しかったですね(笑)。
福田 生々しいですよ(笑)。あれは狙った通りです。彼の普段の体たらくを見せてもらっていたからこその自信はあったんです。だって、普段そうなんだもん。ありていに言うと、酒が入るとダメな人なんですよ。まず空気が読めなくなる。下ネタが増える。自分のダメな過去をさらけ出す。いいところが全然なくなるんですよ(笑)。普段はすごく紳士な方なんですけどね。

──共演者も、アクの強いメンツがそろっていますよね。福田監督というと山田孝之さんのイメージもある視聴者もいると思うのですが、今回もメインキャラの一人・市野沢秀一役として物語を引っ張っていきますね。福田監督にとって、山田孝之さんはどういう役者ですか?
福田 今回思ったのが、揺るがないアプローチの方法を持ってくる役者だなということです。今回は、山田君に一言もダメ出ししていないんですよね。ぶっちゃけ、この(シリアスな)山田孝之を演出させてもらったのって今回が初めてなんです。基本的にずっとコメディを一緒にやってきて、これまでは「笑いを獲得してください」という発注しかしていないんですけど、今回は一切笑いの要素がない。その中で山田君が言っていたのが、「声が聴こえないくらいのボリュームでしゃべってもいいですか」っていうことで、それが彼の市野沢に対するアプローチだったんですが、そこを徹頭徹尾貫く姿を見て、「この役者さんはすごいな」と思いましたね。
市野沢って一番シズオに惹かれていて、彼を大切に思っている人じゃないですか? でも絶対に「惹かれてます」って言わないし、かといって、市野沢がシズオに惹かれていくさまを、いわゆる演技で見せているわけじゃない。それを山田君が完璧に演じたっていうのが驚きで。いつもは面白セリフしか言わせてないから(笑)、今まで自分がいかに山田孝之を無駄遣いしていたか痛感しましたね。日本の宝に対して、「勃起してくれないか」「チンコ入れていい?」とか、今までよく言っていたなと(笑)。
──演技そのものではなく、雰囲気や佇まいで演じた、という感じですか?
福田 そうですね。彼の中で「これ」っていう落としどころがあったんでしょうね。それに対して僕も違うとも思わなかったし、ちゃんと市野沢の生きざまを見せてくれたのですごいと思いましたね。宮田役の生瀬(勝久)さんとも初めて仕事をしたんですけど、「そりゃ生瀬さんも仕事が来るわ」と思いましたね。一番最初の生瀬さんのシーンを撮った時、僕が思い描いていたのとはちょっと違うキャラクターを(生瀬が)思い描いてらっしゃったんですよ。比較的テンションの高い、なれなれしいおじさんの役作りで来てらっしゃって、ちょっと宮田と違うって思ったんですけど、生瀬さんのアプローチの仕方が分からなかったので「違うんです」「こうなんです」って指示するのはやめて、カメリハの前に「セリフをもうちょっとゆっくり言ってもらえますか」っていうお願いだけをしたんですよ。そしたら、カメリハであの劇中のキャラになっていたんです。長々と説明は全然していないんですが、口調の話をしただけで、役のアプローチを変えてきたんです。これができたら、そりゃ演出家は使うわと思いましたね。
──出演者たちの演技力が遺憾なく発揮された作品になったと。
福田 ええ。あとは濱田岳君も良かった。岳君は最初、ノリのいい若者編集者を演じてくれていたんですけど、それはどうなんだろうなって思って、「この編集さんにとって、いかに“省エネ”でこの打ち合わせをやり過ごすかっていうのがテクニックだと思うんだよね。その中ですごく褒めるとか、すごく丁寧な物言いのほうが、シズオをすごく下に見ているとか、全然熱がないということが伝わるんじゃないか」的なことだけを相談したんですよ。そしたら生瀬さんと同じでカメリハの時でガラッと変わって、かつ岳君は変えたキャラクターにアドリブを足してきたんですよね。「と言うことで」ってシズオが原稿をしまっている時にドアを開けてあげるっていう(笑)。あのシーンは岳君のアドリブなんですよ。
──確かにあのシーンの演技は、すごくいい味が出ていました(笑)。そんな映画版『俺はまだ本気出してないだけ』ですが、終盤が原作とはちょっとばかり違うテイストになっていますね。ここも原作を知っていた人は驚くポイントだと思うのですが、監督としては映像化の際に原作を改変していくことに対してどう思われていますか?
福田 原作を振られる時に、自分のチャンネルにない作品を振られるとあたふたしちゃって、逆にいじれなくなっちゃうんですよ。基本的に僕は自分の身の丈を分かっているつもりなので、原作を見た時に自分の手に負えないと思った作品は必ずお断りするようにしています。それでいうと、『俺はまだ本気出してないだけ』に関してはけっこう自信があったんですよ。この作品は自分のチャンネルでいけると思った時に、この顛末は原作のファンにも絶対に納得してもらえるということに自信が持てたので、思いきって変えました。この映画をやるにあたって意識したのが『無能の人』と『釣りバカ日誌』なんですけど、『釣りバカ』ってファンタジーだと思うんですよ。あんないい奥さんなんていないし、出世しなくても釣りがやれればいいやって夢物語だと思うんですけど、それじゃいけないと思うんです。ハマちゃんってこんな人だから、お前もこういうふうに生きろよっていうのは、映画を見てくれる人に対してはひどすぎるメッセージだと思ったんですよ。見た人の奥さんが超鬼嫁だったら、現実を振り返った時に、げんなりしかしないじゃないですか。そういうふうにはしたくないなって思ったんです。だから「お前も会社を辞めちゃえよ」じゃなくて、「こんなことになっちゃうから辞めない方がいいぞ」というメッセージにしたかったんです。
シズオは救われなくてシズオ以外には救いがあるっていう終わりが、見ている側には救いになるんじゃないかなって。その点は、原作ファンには悪いようには伝わらないと思います。
──2013年は『コドモ警察』『HK/変態仮面』そして本作と、毎月のように新作が公開されますが、今、なぜご自身の作品が受けていると思いますか?
福田 受け入れられているかどうかは別として、僕は若干、不満言いなんですよ。「あのドラマ面白くねえから、もっとああしたらいいのに」とか、人にはあまり言わないんですけど、沸々といっつも思ってるんです。『勇者ヨシヒコ』にしても『コドモ警察』にしても、深夜番組を普段から見てて、「こうしたらいいのにな」っていうのを具現化しただけなんですよ。だから、単純に僕の思い込みがみんなと同じだと思ってやっているので、たまたま応援してくれる人がいるだけなのかなって思ってますね。自分のやっていることはカウンターだってよく言われるんですけど、テレビ業界に一石を投じるみたいな大それたこととかは全然考えてなくて、まったく天然でやっているんです。
──ちなみに、福田監督が今、テレビ業界に対して不満があるとするならば、どんなことですか?
福田 う~ん……。基本的にバラエティ番組の構成作家という肩書も持っているので、なかなか言いづらい部分もあるんですけど(苦笑)、そこまで視聴者に媚びなくてもいいのにな、と思うことはありますね。やっぱり僕らが小学生や中学生の時に見ていたテレビ番組って、「ほら面白いだろう」って上から視聴者に投げかけていたと思うんですよ。ドリフターズや『笑っていいとも!』やとんねるずさんの番組に、視聴率を取るための仕掛けはなかった。とにかく面白いことをやっていたら視聴者がついてくるっていう時代だったと思うんです。その時代を知っているから、やっぱりテレビって夢や面白いものを見させてくれるというイメージがあるし、なおかつ制作者側が「面白いやろ!どや!」って上から投げかけてくれるメディアじゃないといけないと思っています。
だから、いわゆる視聴者のためのお役立ち情報がメインになっている現状ってどうなのかなとは思います。もちろん今そういう番組が数字を取っているというのも事実なのですが、あんまり視聴者にへりくだってやると、バカにされるだけだと思うんですよね。CMを入れるタイミングも視聴者が一番気持ちいいタイミングで入れるべきだし、裏番組のことなんかも全然考える必要もない。もともとバラエティ番組の現場でもお仕事をさせてもらっている自分としては、視聴率を取る以上に、面白いものを提供するというスピリットを忘れちゃいけないと思っています。
(取材・文=有田シュン)
●『俺はまだ本気出してないだけ』
配給:松竹
監督・脚本:福田雄一
原作:青野春秋『俺はまだ本気出してないだけ』(小学館 IKKI COMIX刊)
出演:堤真一、橋本愛、生瀬勝久、山田孝之、濱田岳、指原莉乃、水野美紀、石橋蓮司ほか
6月15日より全国ロードショー <
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