
『クズとブスとゲス』の主演を兼ねた奥田庸介監督。劇中の格闘シーンはすべてガチでやり、ヒリヒリとした生の痛みを感じさせる。
2016年の邦画界を言い表すキーワードはバイオレンスに他ならない。花沢健吾原作コミックの実写化『アイアムアヒーロー』はゾンビ大量虐殺シーンが強烈なインパクトを残した。人を殴ることに快感を覚える若者たちの無軌道な行動を追った『ディストラクション・ベイビーズ』は単館系ながらロングランヒットとなった。無差別連続殺人鬼がどんな家庭環境で育ったのかを描いた『葛城事件』、違法捜査で出世を遂げる暴力刑事の実録ドラマ『日本で一番悪い奴ら』も今年を代表する作品だろう。渋谷ユーロスペースにて7月30日(土)より公開される『クズとブスとゲス』と『ケンとカズ』の2本も、ドラッグ売買に関わる主人公たちが暴力にまみれる姿を克明に描いた青春犯罪映画となっている。共に30歳と若い監督が撮ったこの2本の作品は、「この映画を撮らずにはいられなかった」という監督の心の中で暗く燃えたぎる情念を感じさせるものとなっている。
『クズとブスとゲス』の奥田庸介監督は1986年生まれ。専門学校時代に撮った自主映画『青春墓場』3部作が評価され、大森南朋や光石研らが出演した『東京プレイボーイクラブ』(11)で一度商業映画デビューを果たしている。だが、トントン拍子で商業デビューを飾ったことに浮かれ、完成した商業デビュー作は不満が残るものになってしまった。清掃業やクラブの用心棒などのバイトで食い凌ぐ一方、気に入らない企画のオファーを断っているうちに、映画の仕事がまったく来なくなってしまった。精神的に不安定な状態となり、「この映画が撮れれば死んでもいい」という想いで作ったのが『クズとブスとゲス』だった。奥田監督の惨状を見かねて、映画業界とは無縁の実の兄がプロデューサーを買って出て、製作費の足りない分はクラウドファンディングで補った。世間に迎合できない奥田監督が身と心を削るようにして撮った作品だ。
『クズとブスとゲス』の奥田監督は主演も兼ねている。見るからに怪しいスキンヘッドの男(奥田庸介)は夜な夜な寂れたバーに現われては、ひとりで呑んでいる女性に近づく。ターゲットに選ばれた女性はグラスの中に睡眠薬を入れられ、スキンヘッドの男の自宅(母親と同居するゴミ屋敷)に連れ込まれ、猥褻画像を撮られる。スキンヘッドの男は、女性を恐喝することで生活費を稼ぐ最低最悪なゲス人間だった。だが、スキンヘッドの男がハメた女はヤクザ(芦川誠)が管理していた商売女だったことから、逆にヤクザに脅され200万円を用意するはめに陥る。手持ちの大麻を売っただけでは足りず、新しい女に触手を伸ばすことに。リーゼントの男(板橋駿谷)はまともな仕事に就けないクズ人間だったが、自分のもとから去っていった恋人(岩田恵里)がデリヘル嬢になっていること知り、その元凶となったスキンヘッドの男の自宅へ殴り込む。かくして、ゲス人間vsクズ人間vsヤクザの三つ巴の争いが勃発する。
奥田監督は学生時代に格闘技を学んだ経験があり、劇中での格闘シーンやリンチシーンでは共演者たちからのパンチや蹴りをガチで受けている。「噓くさいものにはしたくなかった」からだ。ビール瓶を自分の頭でカチ割るシーンがあるが、これも撮影用の飴細工ではなく、本物のビール瓶を割っている。脚本にはなく、演じているうちにその場で衝動的にやってしまった。自主映画時代から一緒に組んできたスタッフだったので、カメラを止めることなくそのシーンを撮り終えた。当然ながら、額から血が噴き出した奥田監督は病院行きとなり、その日の他のシーンは撮影中止となった。だが、奥田監督の狂った情念こそが、この映画を突き動かしている。

リーゼントの男を演じた板橋駿谷は自主映画『青春墓場』シリーズから出演。奥田監督をよく知るスタッフ&キャストだからこそ完成した。
奥田「自分でもどうかしてると思う。でも、撮影中はいつも『このカットさえ、撮れれば死んでもいい』くらいの覚悟だった。暴力そのものを描きたかったわけではなく、暴力の先にあるものを描きたかった。俺、シルベスタ・スタローンの『ロッキー』が大好きなんです。スタローンの生き様に惹かれるんです。スタローンのことを笑う人もいるけど、『ランボー』や『エクスペンダブルズ』も彼の生き様が作品になっている。『クズとブスとゲス』も自分が思うような映画を撮れず、ずっと苦しかった自分の気持ちをそのまま映画にしたもの。面白いものを観たと思われなくていい、スゲェものを観たと思わせたいんです」
奥田監督にとって暴力シーンは、ヒリヒリとした痛みを伴う生きることの実感を映像に刻み付けるためのものとして存在するようだ。『クズとブスとゲス』が第16回東京フィルメックスのスペシャル・メンション受賞作なら、『ケンとカズ』は第28回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞受賞作である。本作で長編デビューを果たす小路綋史監督は奥田監督と同じ1986年生まれ。どちらもドラッグ売買に手を染める若者たちを描いており、渋谷ユーロスペースで同日公開されることで、観客動員から作品評価まで比較されることになる。ユーロスペースも、両作品が競い合うことを狙って、ブッキングしたようだ。怪優然としたワイルドな容姿の奥田監督と違って、数日後に取材した小路監督はいかにも映画青年風な物静かな雰囲気である。
小路「早い時期に、奥田監督との対談はどうかと打診されたことがあったんですが、それは僕から断りました。奥田監督のあのキャラには勝てない。対談しても、僕は『そうなんですか』とうなづくだけになってしまう(苦笑)。奥田監督は“死ぬ気”で撮ったそうですが、僕もこの映画が完成しなければ、自分には才能がないんだと諦めて、撮影監督を務めた従兄弟と一緒に故郷の広島に帰るつもりでした。この作品に自分を賭けていたという気持ちでは、引けをとらないつもりです。編集作業に2年半を費やしたんですが、終わりが見えなくて頭がおかしくなりそうでした。あのとき、病院で診てもらったら鬱病だと診断されたでしょうね。自主映画って、24時間作品のことばかり考え続けるから、プライベートとの境目がなくなって、どうかしてきちゃうです」

覚醒剤売買の実態を描いた『ケンとカズ』。ケン役のカトウシンスケは、『クズとブスとゲス』にもキャラの異なる役で出演している。
『ケンとカズ』の舞台は千葉県市川市。幼なじみのケン(カトウシンスケ)とカズ(毎熊克哉)は小さな自動車修理工場に勤めているが、実はその工場は覚醒剤の売上金を洗浄するための見せかけの職場だった。ケンは恋人(飯島珠奈)の妊娠をきっかけにまともな仕事への転職を考えるが、カズは痴呆症になった母親の面倒を看なくてはならず、まとまったお金を必要としていた。そんな中、敵対する覚醒剤の密売グループを相手に、カズたちは暴力沙汰を招いてしまう。市川の寂れた風景が、ザラついた犯罪映画によく似合っている。
小路「市川の月3万5000円の安アパートに、ずっと暮らしていたんです。そのアパートにはヤクザが来たりして、映画の舞台としてリアリティーがある街だなと思ってました。覚醒剤については警察OBや元売人から話をいろいろ聞くことができたので、迷うことなく撮影に臨むことができましたね。今はインターネットを介して宅配便などで届けられているので、映画では人と人が路上で覚醒剤を受け渡しする少し前の時代設定にしています。その方が映画的だなと思ったんです。この映画では覚醒剤を身近に潜んでいるものとして描いていますが、暴力も遠い存在だとは思えない。すごく身近なところに隠れているものだと感じています」
なぜ、暴力映画が次々と作られるのか。社会背景や映画界の内情などに理由を見つけることは可能だろう。ただ、少なくとも『クズとブスとゲス』の奥田監督と『ケンとカズ』の小路監督の場合は、閉塞的な日常生活から脱出するための手段として、暴力やドラッグまみれの痛みを伴うリアルな犯罪映画を撮り上げたことは確かだ。両監督はまだ面識がない。ユーロスペースでばったり遭ったら、どうするか聞いてみた。「争っている意識はまるでない。でも記事として盛り上がるなら、『つかみ合いのひとつでもやりましょうか』と書いてもらってかまいませんよ」と2人とも笑った。この夏、渋谷の円山町で2本のインディペンデント映画が静かに熱い火花を散らす。
(文=長野辰次)

『クズとブスとゲス』
プロデューサー/奥田大介、小林岳、福田彩乃
監督・脚本・主演/奥田庸介 出演/板橋駿谷、岩田恵里、大西能彰、カトウシンスケ、芦川誠
配給/アムモ98 7月30日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(c)2015映画蛮族
http://kuzutobusutoges.com

『ケンとカズ』
監督・脚本・編集/小路綋史 撮影・照明/山本周平
出演/カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節、髙野春樹、江原大介、杉山拓也
配給/太秦 PG12 7月30日(土)より渋谷ユーロスペースより全国順次公開
(c)『ケンとカズ』製作委員会
http://www.ken-kazu.com

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