“芸能生活30周年”ニコラス・ケイジの会心作! 被災地に流布する暗号『ハングリー・ラビット』

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妻を強姦された高校教師のウィル(ニコラス・ケイジ)は
謎の男・サイモン(ガイ・ピアーズ)から“代理殺人”を
提案される。
 サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックの代表作のひとつに『見知らぬ乗客』(51)がある。妻との離婚調停が進まない主人公に、たまたま列車の中で知り合った乗客が“交換殺人”を持ち掛けるというもの。“見知らぬ乗客”は主人公にこう囁く。「あなたの妻をあの世に送ってさしあげますよ。代わりに、私の父を殺してくれませんか」と。お互いに殺人の動機がないので、警察は逮捕することができないと言う。『見知らぬ乗客』は個人間で取り交わされる契約だったが、もしも“交換殺人”を組織単位で行なったらどうなるか? ターゲットの選定、行動パターンの調査、そして実行、証拠隠滅を別々の人間が分担して“完全犯罪”をやり遂げる。ニコラス・ケイジ主演の『ハングリー・ラビット』は、平凡な高校教師が組織ぐるみの“交換殺人”に巻き込まれる恐怖を描いている。  舞台は米国のニューオリンズ。2005年に米国南部を襲った超大型ハリケーン・カトリーナの災禍からようやく街は立ち直り、かつての平和な暮らしが戻りつつあった。そんなある日、高校教師のウィル(ニコラス・ケイジ)の妻ローラ(ジャニュアリー・ジョーンズ)が銃で武装した暴漢にレイプされるという事件が起きる。ローラは一命を取り留めたが、ボコボコにされた顔が痛ましい。外傷以上に心の傷が深刻だった。夫であるウィルが近づいても怯えている。なぜ自分の妻が? 警察は何をしているのか? 怒りの吐け口を見つけられずにいるウィルに“見知らぬ男”が声を掛けてきた。「警察が犯人を捕まえても、すぐに釈放されます。私たちが代わりに強姦魔を罰してあげましょう」と謎の男サイモン(ガイ・ピアース)は話す。強姦魔をこのまま街にのさばらせておくわけにはいかない。正義は自分たちの側にあるのだ。そう考えたウィルは「イエス」の返事をする。しばらくして強姦魔の死体が発見された。ウィルは違和感を覚えつつも、ローラとの夫婦生活に平穏が戻ってくることを喜んだ。  ローラが元気を取り戻した頃、“見知らぬ男”サイモンが再びウィルの前に姿を現わす。強姦魔の件の代償として、今度はウィルが殺人を引き受けなくてはならないと説明する。交換殺人は組織単位で巧妙に行なわれており、彼らは「空腹なウサギは?」「ジャンプする」という暗号を交わしていた。次のターゲットはすでに選定されており、記事を捏造して人心を惑わす悪徳ジャーナリストを事故に見せかけて消すようウィルは命じられる。ウィルは頑なに代理殺人を拒み続けるが、想像以上に秘密組織の規模は大きく、ウィルは逃げ場を失っていく。「空腹なウサギは?」と問われたウィルは、やむえず「ジャンプする」と答えざるを得なくなる。
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強姦魔に襲われ、病院に運ばれた妻ローラ
(ジャニュアリー・ジョーンズ)。ウィルは自分
が何もできないことが恨めしい。
 ハリケーン・カトリーナによって堤防が決壊し、ニューオリンズの八割が水没した。行政の対応が遅れ、移動手段を持たない低所得者、高齢者、障害者たちが犠牲となった。さらに、ブッシュ政権の災害に対する認識が甘かったために救援体制が整わず、食料や医療品をめぐる略奪行為が相次いだ。自分たちの安全は自分たちで守らなくてはいけない。『ハングリー・ラビット』では災害をきっかけに防災・自衛の意識が強まった被災都市で、秘密裡に自警団が結成される。あくまでもフィクションだが、60年代の南部を舞台にした実録映画『ミシシッピー・バーニング』(88)に登場するKKKのような不気味さがある。また、災害の起きた地域では情報が錯綜し、デマや噂が飛び交いやすい。災害がもたらす以上の恐怖が人々を襲う。街が復興した後も、様々な都市伝説が生まれる。本作の善良なる主人公ウィルも、妻の暴行事件や交換殺人の依頼にパニック状態となり、冷静な判断ができなくなってしまう。『キック・アス』(10)では自警団の無茶ぶりをコメディとして演じたニコラス・ケイジが、本作では正義の名のもとに暴力を振るうことの是非を問い掛けてくる。
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“交換殺人”を断ったため、ウィルは秘密
組織に追い詰められる。一体、どちらが正義
なのか。
 今年で“芸能生活30周年”を迎えたニコラス・ケイジ。私生活では古城マニアであることに加え、スーパーカーやレアコミックの収集による散財が祟って、借金まみれ状態。そのため、ここ数年は作品を選ばぬ多作ぶりだ。やはり被災後のニューオリンズを舞台にした『バッド・ルーテナント』(09)や趣味と実益を兼ねた『キック・アス』(10)『ドライブ・アングリー3D』(11)は見応えのある好編だったが、古典アニメの実写化『魔法使いの弟子』(10)や伝奇ファンタジー『デビルクエスト』(11)といったビミョーな作品にまで主演。シネコンに行くと、いつもニコラス・ケイジの哀愁をたたえた中年顔が待っている。もはや“ハリウッドの船越英一郎”状態だ。ニコラス・ケイジひとりによって、ハリウッド大作が“プログラム・ピクチャー”化している感がある。とはいえ、ある一定レベル以上の娯楽作品に押し上げてみせているところは、さすがハリウッドのトップスター。本作では秘密組織の追っ手を振り切るシーンにおいて、立体高速道路でのパルクールを交えたスタントに挑んだ。金遣いはルーズだが、自分が二枚目スターではないことはしっかり自覚している。  借金まみれのニコラス・ケイジにぴったりな、もう一本の主演作が『ブレイクアウト』(6月23日公開)。美人妻(ニコール・キッドマン)と生意気ざかりな愛娘との3人で優雅な豪邸暮らしを満喫していたところ、その派手さに目をつけた覆面強盗団の襲撃に遭う。こちらの作品も、不意に降り掛かってきた暴力に対し、どうやって自分と自分の家族を守るかがテーマだ。果たして家族の絆パワーで、セキュリティー設備の盲点を突いてきた強盗団を撃退できるか? 借金に追われ、お尻に火が点いた状態で次々と映画に主演するニコラス・ケイジ。彼が現代の米国を象徴するスターであることは間違いない。 (文=長野辰次) hungryrabbit4.jpg 『ハングリー・ラビット』 製作/トビー・マグワイア、ジェームズ・D・スターン 監督/ロジャー・ドナルドソン 脚本/ロバート・タネン、ユーリー・ゼルツァー 出演/ニコラス・ケイジ、ジャニュアリー・ジョーンズ、ハロルド・ペリノー、ガイ・ピアーズ  配給/ショウゲート 6月16日(土)より新宿バトル9ほか全国公開中 <http://hungry-rabbit.com> (C)2011 HRJ DISTRIBUTION, LLC ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第175回]やめろと言われても、今では遅すぎたッ! 妻夫木聡&武井咲主演の過剰なる純愛劇『愛と誠』 [第174回]年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』 [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! 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やめろと言われても、今では遅すぎたッ! 妻夫木聡&武井咲主演の過剰なる純愛劇『愛と誠』

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“愛は平和ではない、愛は戦いである”の名ゼリフで幕を開ける『愛と誠』。
昭和歌謡曲の名曲がフルコーラスで甦る!
 やめろと言われても~、今では遅すぎたッ! 映画の序盤、学ランを着た妻夫木聡が西城秀樹の1974年のヒット曲「激しい恋」を熱唱する。その歌詞のまんまの映画である。『巨人の星』『タイガーマスク』『あしたのジョー』などの“スポ根”漫画で知られる梶原一騎原作の純愛ストーリー『愛と誠』を、三池崇史監督が映画化。妻夫木の「激しい恋」に続いて、映画初出演となる武井咲が加藤和彦の名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」をフルコーラスで歌い上げる。ミュージカルタッチのツッコミどころ満載ムービーだ。一度映画館に足を踏み入れてしまうと、その過剰すぎる世界を最後まで見届けるはめになる。  「週刊少年マガジン」で『愛と誠』の連載がスタートしたのが1973年。3年間にわたって濃厚なる青春ストーリーが繰り広げられた。財閥の令嬢・早乙女愛は幼少期にスキー遊びをしていたところ誤って急斜面に陥り、地元の少年・太賀誠に命を救われる。愛にとって白馬の王子さまが現われた瞬間だった。だが、誠は額に大きな傷を負ってしまう。それから11年後、都内の名門高校に通う愛はフダ付きのワルと化した誠と再会。誠の額には巨大な傷跡が残っていた。自分が傷つけたために誠の精神が歪んでしまった。自責の念にかられる愛は、何とかして誠を本来の純真な姿に立ち直らせようと尋常ならざる情熱を注ぎ始める。愛の献身的な行動に焼きもちを妬いたのが、メガネ秀才の岩清水弘。「君のためなら死ねる」とストーカーまがいの手紙を愛に送りつけ、2人に執拗に付きまとう。報われることのない一方通行の恋愛トライアングル! さらに不良の巣窟である花園実業高校を仕切る“影の大番長”との対決が愛と誠を待ち受けていた!  愛は平和ではない。愛は戦いである。ネール首相が娘に贈った言葉を引用したオープニングからして、原作の連載された70年代でも充分に大仰でアナクロ感のあった『愛と誠』が21世紀に再映画化されたことに驚いた。しかも、かつて松竹で実写化された際は『愛と誠』(74)『続・愛と誠』(75)『愛と誠・完結編』(76)の三部構成だった大河ドラマを、三池版『愛と誠』は2人が運命的に出会った幼少期のエピソードからラストまで一気に突っ走る(残念ながら、ムチの名手・砂土谷峻の登場は割愛)。
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31歳にして学生服を着こなす太賀誠役の妻夫
木聡。額のキズをからかわれると、誠の怒り
パワーはマックスとなる。
 三池監督は70年代に発表された原作を、どう現代的にアレンジしたのか? 音楽プロデューサーに小林武史、振り付けにパパイヤ鈴木を投入してのミュージカル仕立てという劇薬を注入した。岩清水弘(斎藤工)は「空に太陽があるかぎり」を暑苦しいほどエネルギッシュに歌い、文学少女・高原由紀(大野いと)への絶対的な愛を誓う蔵王権太(伊原剛志)は狂ったように「狼少年ケン」を吠え叫ぶ。あぁ、何と青春とは恥ずかしいものなのだろうか。人は恋をすると周囲が見えなくなってしまう。相手のことしか考えられない。青春ラブストーリーをミュージカルとして描いた三池監督の選択は、とっても正しい。  原作ものは一度バラバラに解体してから、エッセンス的部分を抽出して映画として再構成することをセオリーとしている三池監督。人気俳優たちが原作に登場するキャラクターたちの物まねを演じることで良しとする、あまたの監督たちとは一線を画するところだ。しかしまぁ、梶原一騎の実弟・真樹日佐夫先生との交流の深かった三池監督が、『愛と誠』の世界をミュージカル仕立てでここまでぶっ壊してみせたことに二度驚いた。  『十三人の刺客』(10)の公開時に三池監督にキャスティングについて聞いたところ、興味深いコメントが返ってきた。『十三人の刺客』の“刺客”チームは主に映画畑出身者で固め、対する“殿さま”チームには日本屈指のミュージカル俳優として活躍する市村正親とSMAPメンバーとしてスポットライトを浴び続ける稲垣吾郎を配したのだと。ステージ上で華麗に歌い踊るスターたちを、みんなで泥まみれにしてやれという“裏テーマ”のもと『十三人の刺客』は作られたのだった。80年代はテレビ映画や2時間ドラマの助監督として汗水を流し、90年代は低予算なVシネやインディペンデント映画を眠らずに量産してきた三池監督の“ミュージカル=華やかなもの”をぶっ潰してやりたいという“暗い情熱”を感じさせる。でも、稲垣吾郎も市村正親も泥まみれになることで俳優としての高い評価を受けることになった。これこそ、三池監督ならではの“歪んだ愛情”ではないか。
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早乙女愛を演じた武井咲。「脚本をしっかり
読まなくてもいいかなと思える現場でした」と
記者会見でビックリ発言。
 誠(妻夫木聡)の生活費を捻出するため、お嬢さまの愛(武井咲)は校則を破って怪しげなカフェで働き始める。カフェというよりも、風俗店だ。蔵王権太役の伊原剛志(49歳)は学生服姿で暴れ回り、岩清水の名ゼリフ「君のためなら死ねる!」も盛り込んである。誠に一蹴されたスケ番のガム子(安藤サクラ)は誠に夢中になっていく。クールなワルを気取っている誠でさえ、ひとりの女性に振り向いてほしくて歌舞伎町の小さな店に通い詰める。ミュージカルシーンや登場キャラクターたちのベタな行動に腹を抱えて笑いながらも、次第に彼らの行く末が気になり始める自分に気づく。誰よりも由紀のことを慕う権太や自分が誠に恋したことに戸惑うガム子の純情は果たしてどうなるのか。バカじゃないのと毒づきながらも、愛と誠が幼少期のトラウマから解放されればいいのにと思う。原作の発表からいくら歳月が経っても、人間の根っこの部分はそう変わらないらしい。ケータイや最新のスマートフォンを持つようになっても、人間の本質はおそろしくベタで、信じられないほどバカなのだ。  最後にコワモテで知られた原作者・梶原一騎にまつわるトリビアを。梶原一騎はペンネームであり、本名は高森朝樹という。その“梶原”の由来だが、ヤンチャぶりの度がすぎて親から教護院「誠明学園」に送られた高森少年は学園でひとりの少女と出会い、若いロマンスを育んだ。その少女の姓が“梶原”だった。教護院で心を通い合わせた少女の姓を、作家を志した高森少年は名乗るようになる。その後、劇画原作で富と名声を手に入れた彼は松竹での『愛と誠』三部作の映画化をきっかけに芸能界に深く関わるようになり、晩年はスキャンダルまみれとなっていった。それでも、どんなにドロドロに汚れまくりながらも高森朝樹は心の中の小さな小さなロマンスを大事にした。“梶原一騎”というペンネームを50歳で亡くなる最期まで使い続けた。 (文=長野辰次) aitomakoto4.jpg 『愛と誠』 原作/梶原一騎、ながやす巧 脚本/宅間孝行 音楽/小林武史 振付/パパイヤ鈴木 監督/三池崇史 出演/妻夫木聡、武井咲、斎藤工、大野いと、安藤サクラ、前田健、加藤清史郎、一青窈、余貴美子、伊原剛志、市村正親 配給/角川映画・東映 6月16日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー (c)2012『愛と誠』製作委員会 <http://aiandmakoto.jp> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第174回]年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』 [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! [第171回]自由社会に順応できない“脱北者”の過酷な現状 無垢なる季節との決別『ムサン日記 白い犬』 [第170回] 世界興収100億突破のSF大作『ロボット』はあらゆる既成概念を破壊する!! [第169回]“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』 [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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やめろと言われても、今では遅すぎたッ! 妻夫木聡&武井咲主演の過剰なる純愛劇『愛と誠』

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“愛は平和ではない、愛は戦いである”の名ゼリフで幕を開ける『愛と誠』。
昭和歌謡曲の名曲がフルコーラスで甦る!
 やめろと言われても~、今では遅すぎたッ! 映画の序盤、学ランを着た妻夫木聡が西城秀樹の1974年のヒット曲「激しい恋」を熱唱する。その歌詞のまんまの映画である。『巨人の星』『タイガーマスク』『あしたのジョー』などの“スポ根”漫画で知られる梶原一騎原作の純愛ストーリー『愛と誠』を、三池崇史監督が映画化。妻夫木の「激しい恋」に続いて、映画初出演となる武井咲が加藤和彦の名曲「あの素晴らしい愛をもう一度」をフルコーラスで歌い上げる。ミュージカルタッチのツッコミどころ満載ムービーだ。一度映画館に足を踏み入れてしまうと、その過剰すぎる世界を最後まで見届けるはめになる。  「週刊少年マガジン」で『愛と誠』の連載がスタートしたのが1973年。3年間にわたって濃厚なる青春ストーリーが繰り広げられた。財閥の令嬢・早乙女愛は幼少期にスキー遊びをしていたところ誤って急斜面に陥り、地元の少年・太賀誠に命を救われる。愛にとって白馬の王子さまが現われた瞬間だった。だが、誠は額に大きな傷を負ってしまう。それから11年後、都内の名門高校に通う愛はフダ付きのワルと化した誠と再会。誠の額には巨大な傷跡が残っていた。自分が傷つけたために誠の精神が歪んでしまった。自責の念にかられる愛は、何とかして誠を本来の純真な姿に立ち直らせようと尋常ならざる情熱を注ぎ始める。愛の献身的な行動に焼きもちを妬いたのが、メガネ秀才の岩清水弘。「君のためなら死ねる」とストーカーまがいの手紙を愛に送りつけ、2人に執拗に付きまとう。報われることのない一方通行の恋愛トライアングル! さらに不良の巣窟である花園実業高校を仕切る“影の大番長”との対決が愛と誠を待ち受けていた!  愛は平和ではない。愛は戦いである。ネール首相が娘に贈った言葉を引用したオープニングからして、原作の連載された70年代でも充分に大仰でアナクロ感のあった『愛と誠』が21世紀に再映画化されたことに驚いた。しかも、かつて松竹で実写化された際は『愛と誠』(74)『続・愛と誠』(75)『愛と誠・完結編』(76)の三部構成だった大河ドラマを、三池版『愛と誠』は2人が運命的に出会った幼少期のエピソードからラストまで一気に突っ走る(残念ながら、ムチの名手・砂土谷峻の登場は割愛)。
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31歳にして学生服を着こなす太賀誠役の妻夫
木聡。額のキズをからかわれると、誠の怒り
パワーはマックスとなる。
 三池監督は70年代に発表された原作を、どう現代的にアレンジしたのか? 音楽プロデューサーに小林武史、振り付けにパパイヤ鈴木を投入してのミュージカル仕立てという劇薬を注入した。岩清水弘(斎藤工)は「空に太陽があるかぎり」を暑苦しいほどエネルギッシュに歌い、文学少女・高原由紀(大野いと)への絶対的な愛を誓う蔵王権太(伊原剛志)は狂ったように「狼少年ケン」を吠え叫ぶ。あぁ、何と青春とは恥ずかしいものなのだろうか。人は恋をすると周囲が見えなくなってしまう。相手のことしか考えられない。青春ラブストーリーをミュージカルとして描いた三池監督の選択は、とっても正しい。  原作ものは一度バラバラに解体してから、エッセンス的部分を抽出して映画として再構成することをセオリーとしている三池監督。人気俳優たちが原作に登場するキャラクターたちの物まねを演じることで良しとする、あまたの監督たちとは一線を画するところだ。しかしまぁ、梶原一騎の実弟・真樹日佐夫先生との交流の深かった三池監督が、『愛と誠』の世界をミュージカル仕立てでここまでぶっ壊してみせたことに二度驚いた。  『十三人の刺客』(10)の公開時に三池監督にキャスティングについて聞いたところ、興味深いコメントが返ってきた。『十三人の刺客』の“刺客”チームは主に映画畑出身者で固め、対する“殿さま”チームには日本屈指のミュージカル俳優として活躍する市村正親とSMAPメンバーとしてスポットライトを浴び続ける稲垣吾郎を配したのだと。ステージ上で華麗に歌い踊るスターたちを、みんなで泥まみれにしてやれという“裏テーマ”のもと『十三人の刺客』は作られたのだった。80年代はテレビ映画や2時間ドラマの助監督として汗水を流し、90年代は低予算なVシネやインディペンデント映画を眠らずに量産してきた三池監督の“ミュージカル=華やかなもの”をぶっ潰してやりたいという“暗い情熱”を感じさせる。でも、稲垣吾郎も市村正親も泥まみれになることで俳優としての高い評価を受けることになった。これこそ、三池監督ならではの“歪んだ愛情”ではないか。
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早乙女愛を演じた武井咲。「脚本をしっかり
読まなくてもいいかなと思える現場でした」と
記者会見でビックリ発言。
 誠(妻夫木聡)の生活費を捻出するため、お嬢さまの愛(武井咲)は校則を破って怪しげなカフェで働き始める。カフェというよりも、風俗店だ。蔵王権太役の伊原剛志(49歳)は学生服姿で暴れ回り、岩清水の名ゼリフ「君のためなら死ねる!」も盛り込んである。誠に一蹴されたスケ番のガム子(安藤サクラ)は誠に夢中になっていく。クールなワルを気取っている誠でさえ、ひとりの女性に振り向いてほしくて歌舞伎町の小さな店に通い詰める。ミュージカルシーンや登場キャラクターたちのベタな行動に腹を抱えて笑いながらも、次第に彼らの行く末が気になり始める自分に気づく。誰よりも由紀のことを慕う権太や自分が誠に恋したことに戸惑うガム子の純情は果たしてどうなるのか。バカじゃないのと毒づきながらも、愛と誠が幼少期のトラウマから解放されればいいのにと思う。原作の発表からいくら歳月が経っても、人間の根っこの部分はそう変わらないらしい。ケータイや最新のスマートフォンを持つようになっても、人間の本質はおそろしくベタで、信じられないほどバカなのだ。  最後にコワモテで知られた原作者・梶原一騎にまつわるトリビアを。梶原一騎はペンネームであり、本名は高森朝樹という。その“梶原”の由来だが、ヤンチャぶりの度がすぎて親から教護院「誠明学園」に送られた高森少年は学園でひとりの少女と出会い、若いロマンスを育んだ。その少女の姓が“梶原”だった。教護院で心を通い合わせた少女の姓を、作家を志した高森少年は名乗るようになる。その後、劇画原作で富と名声を手に入れた彼は松竹での『愛と誠』三部作の映画化をきっかけに芸能界に深く関わるようになり、晩年はスキャンダルまみれとなっていった。それでも、どんなにドロドロに汚れまくりながらも高森朝樹は心の中の小さな小さなロマンスを大事にした。“梶原一騎”というペンネームを50歳で亡くなる最期まで使い続けた。 (文=長野辰次) aitomakoto4.jpg 『愛と誠』 原作/梶原一騎、ながやす巧 脚本/宅間孝行 音楽/小林武史 振付/パパイヤ鈴木 監督/三池崇史 出演/妻夫木聡、武井咲、斎藤工、大野いと、安藤サクラ、前田健、加藤清史郎、一青窈、余貴美子、伊原剛志、市村正親 配給/角川映画・東映 6月16日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー (c)2012『愛と誠』製作委員会 <http://aiandmakoto.jp> ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第174回]年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』 [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! [第171回]自由社会に順応できない“脱北者”の過酷な現状 無垢なる季節との決別『ムサン日記 白い犬』 [第170回] 世界興収100億突破のSF大作『ロボット』はあらゆる既成概念を破壊する!! [第169回]“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』 [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』

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民間団体「心といのちを考える会」の袴田俊英さん。“縁側”のように
気軽に交流できる場所としてコーヒーサロン「よってたもれ」を始めた。
 日本における2011年の自殺者数が3万651人であることが発表された。14年連続で年間自殺者数が3万人を越えたことになる。イラク戦争で亡くなったイラク民間人の犠牲者数は戦闘の激しかった2003~2006年の3年間で約15万1000人(WHO調査)とされているからも、この数字が尋常ではないことがわかる。日本では目に見えない戦争がずっと続いていると言っても過言ではない。自殺死亡率を他国と比べてみると、リトアニア、韓国、ロシア、ベラルーシなどに続いて、日本は第8位となっている。上位にランキングされている国を見てみると、旧共産圏が多いことに気づく。日本もバブル景気に躍らされて気づくのが遅れたが、90年代以降すっかり社会の仕組みが変わってしまった。社会の変化に対応できずに孤立化し、生きづらさを抱える多くの人たちが自らの命を絶っている。そして、また苦しんでいるのは自殺者だけではない。残された家族や友人たちも、自殺者を救うことができなかった自責の念に悩まされている。これまで映画が取り上げることが稀だった、自殺対策というシリアスなテーマに正面から向き合ったドキュメンタリーが『希望のシグナル 自殺防止最前線からの提言』だ。  日本でもっとも自殺率の高い県という不名誉な記録が95年から15年連続で続いた秋田県。その汚名を返上するため、秋田県内では各地域でそれぞれ自殺防止の取り組みが行なわれている。『希望のシグナル』はその様子を1年間にわたって記録したもの。本作において中心的な人物となっているのが秋田県藤里町で暮らす袴田俊英さん。袴田さんは曹洞宗月宗寺の住職であり、10年前に「心といのちを考える会」を設立して、会長を務めている。「自分たちにできることからやっていこう」という袴田さんたちが始めたことは一杯のコーヒーを淹れることだった。町の中心地にある交流館で週1回、コーヒーサロン「よってたもれ」を開いている。コーヒーは一杯100円。誰でもここに来れば、袴田さんや他のお客さんが話し相手になってくれ、日常生活で感じている愚痴や不満をこぼすことができる。また、他のお客さんの話を聞くことで、悩みを抱えているのは自分だけではないことが分かる。  悩みを誰かに打ち明けたからといって、すぐに問題が解決するわけではない。「でも」と袴田さんは言う。「悩みを人に話している間だけ、背負っている荷物を降ろして、ひと息つくことができるんです」と説明する。週1回のコーヒーサロンを利用する人数は、そう多いわけではない。しかし、利用者数が多いか少ないかは関係ないらしい。自分の話を誰かが聞いてくれる場所がある、そのことが大切なのだ。人口4000人の藤里町は秋田県内でも有数の自殺率が高い町だったが、袴田さんたちの取り組み以降、自殺者数は減少へと向かっているそうだ。
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NPO法人「蜘蛛の糸」の佐藤久男さんは
8億円の借金を抱えた体験をもとに、自営
業者たちの生活再建の手助けをしている。
 秋田県で自殺予防に取り組む、もう一人の中心人物と言えるのが佐藤久男さん。秋田市でNPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げ、自営業者とその家族の自殺防止に努めている。佐藤さんはかつて秋田で有数の凄腕社長として知られていた。だが、バブルの終焉と共に会社は倒産し、8億円もの借金が残った。残務整理中は気が張っていて大丈夫だったが、整理が終わった途端に鬱になり、自殺願望に取り憑かれた。それまで社長夫人として家事以外のことはしたことのなかった妻の英子さんが一念発起して学生相手の下宿を始め、佐藤さんを支えた。佐藤さんは、このときの体験を活かして「会社の倒産や借金くらいで死ぬことはない」と多重債務や経営難に苦しむ人たちの相談にのっている。佐藤さんは精神科医でも専門のカウンセラーでもない。「しろうとでも、人間と人間が向き合うことでできることがあるのではないか」と手探りで活動を続けている。事務所を兼ねていた自宅に掛かってきた電話を英子さんが取ったところ、受話器の相手は「お陰で命拾いしました」と感謝の気持ちを伝えたそうだ。人を助けることで、佐藤さん夫婦もまた救われている。  自殺の抱える問題に、遺族側が身内から自殺者が出たことを外部に向けて話したがらないという一面がある。外部の人間も、なぜ自殺してしまったのか立ち入って聞くことを憚ってしまう。自殺の原因がはっきりせず、遺族も周囲の人々もいつまでも浄化されないままの問題を抱え込むことになる。仙台で暮らす田中幸子さんは自死遺族の自助グループ「藍の会」の代表。田中さんは警察官だった息子を自殺で失い、「人を殺して、自分も死のう」と自殺未遂を重ねた。いろんな会に参加したり、あらゆる本を読んだりしたが、救われることはなかった。同じように身内を自殺で亡くした遺族たちはどんな悩みを抱えているのか。田中さんは遺族の会が仙台にあればいいと思った。袴田さんがパネラーとして出席した自殺予防のための集会が仙台で開かれた際に、田中さんは「自分は死にたい。仙台に会はつくられないのか」と訴えたが、その悲痛な声は「まだ、その準備はできていない」という事務的な対応で遮られてしまった。そのとき、「いつでも連絡ください」と言葉を掛けたのが袴田さんだった。その後、袴田さんとのやりとりに励まされた田中さんは、自助グループを独力で立ち上げた。遺族の声を自殺対策に反映させることが自殺を減らすことに繋がると田中さんは考えている。
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仙台で自死遺族の自助グループ「藍の会」を
立ち上げた田中幸子さん。遺族との茶話会や
ランチ会を開いている。
 本作を企画・製作したのは1982年生まれ、岩手県北上市在住の双子の兄弟、都鳥(とどり)伸也・拓也。兄・拓也が撮影&編集を担当、弟・伸也が監督を務めた。日本映画学校時代の同期生にSONYの旧式カメラPD-150を借りて、本作を撮り上げた。製作費ゼロからのスタートだったが、サポーターズ・クラブという形で撮影取材と同時進行で製作費を募り、完成に漕ぎ着いた。岩手県のお隣・秋田県の自殺対策が、民間のネットワークだけでなく行政や医師会などを巻き込む形で変革期を迎えつつあることを映像として記録しようという想いで、アルバイトをしながら二人三脚で撮影を続けた。正直なところ、映像としては平板で、作品の構成にも斬新さはない。でも、映像的なテクニックに頼らない愚直さが、本作においては非常に効果的だったように思う。エンディングロールでは、協力者のクレジットが延々と流れる。本作の主旨に賛同し、製作費をカンパしたサポーターズ・クラブの人たちの名前だ。  マスコミ向け試写の際に都鳥監督が夜行バスに乗って上京して挨拶をし、新聞などのインタビューに答えたりした他は、本作の目立った宣伝活動は都内では行なわれていない。公開規模もこぢんまりとしており、公開終了後にDVDとして一般販売やレンタルされる予定はない。本作の上映を目にする人は、かなり限られることになるだろう。もちろん、多くの人に観てもらいたいし、本作で紹介された取り組みが他の地域でも広がるきっかけになればいいと思う。でも、いちばん肝心なのは、秋田や仙台や岩手に自殺者がひとりでも減ることに努めている人たちがいるという事実。たとえ、あなたが今いる場所からそこが遠く離れていても、あなたが死んだら悲しむ人がいるということ。あなたが死ぬのを考え直したら、喜んでくれる人がいるということ。この映画は生きづらい社会の夜空に打ち上げられた、小さな小さなシグナルなのだ。 (文=長野辰次) kibounosig4.jpg 『希望のシグナル 自殺防止最前線からの提言』 監督/都鳥伸哉 撮影・編集/都鳥拓也  配給/ロングラン映像メディア事業部 6月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開  ※6月16日(土)は都鳥兄弟による初日舞台挨拶、17日(日)は清水康之氏(自殺対策支援センター ライフリンク)と都鳥監督とのトークなどポレポレ東中野にて毎週土曜と日曜にトークイベントを開催 <http://ksignal-cinema.main.jp> (c)『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部 ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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年間自殺者数3万人を越える現代社会への提言 自殺対策の現状を追った『希望のシグナル』

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民間団体「心といのちを考える会」の袴田俊英さん。“縁側”のように
気軽に交流できる場所としてコーヒーサロン「よってたもれ」を始めた。
 日本における2011年の自殺者数が3万651人であることが発表された。14年連続で年間自殺者数が3万人を越えたことになる。イラク戦争で亡くなったイラク民間人の犠牲者数は戦闘の激しかった2003~2006年の3年間で約15万1000人(WHO調査)とされているからも、この数字が尋常ではないことがわかる。日本では目に見えない戦争がずっと続いていると言っても過言ではない。自殺死亡率を他国と比べてみると、リトアニア、韓国、ロシア、ベラルーシなどに続いて、日本は第8位となっている。上位にランキングされている国を見てみると、旧共産圏が多いことに気づく。日本もバブル景気に躍らされて気づくのが遅れたが、90年代以降すっかり社会の仕組みが変わってしまった。社会の変化に対応できずに孤立化し、生きづらさを抱える多くの人たちが自らの命を絶っている。そして、また苦しんでいるのは自殺者だけではない。残された家族や友人たちも、自殺者を救うことができなかった自責の念に悩まされている。これまで映画が取り上げることが稀だった、自殺対策というシリアスなテーマに正面から向き合ったドキュメンタリーが『希望のシグナル 自殺防止最前線からの提言』だ。  日本でもっとも自殺率の高い県という不名誉な記録が95年から15年連続で続いた秋田県。その汚名を返上するため、秋田県内では各地域でそれぞれ自殺防止の取り組みが行なわれている。『希望のシグナル』はその様子を1年間にわたって記録したもの。本作において中心的な人物となっているのが秋田県藤里町で暮らす袴田俊英さん。袴田さんは曹洞宗月宗寺の住職であり、10年前に「心といのちを考える会」を設立して、会長を務めている。「自分たちにできることからやっていこう」という袴田さんたちが始めたことは一杯のコーヒーを淹れることだった。町の中心地にある交流館で週1回、コーヒーサロン「よってたもれ」を開いている。コーヒーは一杯100円。誰でもここに来れば、袴田さんや他のお客さんが話し相手になってくれ、日常生活で感じている愚痴や不満をこぼすことができる。また、他のお客さんの話を聞くことで、悩みを抱えているのは自分だけではないことが分かる。  悩みを誰かに打ち明けたからといって、すぐに問題が解決するわけではない。「でも」と袴田さんは言う。「悩みを人に話している間だけ、背負っている荷物を降ろして、ひと息つくことができるんです」と説明する。週1回のコーヒーサロンを利用する人数は、そう多いわけではない。しかし、利用者数が多いか少ないかは関係ないらしい。自分の話を誰かが聞いてくれる場所がある、そのことが大切なのだ。人口4000人の藤里町は秋田県内でも有数の自殺率が高い町だったが、袴田さんたちの取り組み以降、自殺者数は減少へと向かっているそうだ。
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NPO法人「蜘蛛の糸」の佐藤久男さんは
8億円の借金を抱えた体験をもとに、自営
業者たちの生活再建の手助けをしている。
 秋田県で自殺予防に取り組む、もう一人の中心人物と言えるのが佐藤久男さん。秋田市でNPO法人「蜘蛛の糸」を立ち上げ、自営業者とその家族の自殺防止に努めている。佐藤さんはかつて秋田で有数の凄腕社長として知られていた。だが、バブルの終焉と共に会社は倒産し、8億円もの借金が残った。残務整理中は気が張っていて大丈夫だったが、整理が終わった途端に鬱になり、自殺願望に取り憑かれた。それまで社長夫人として家事以外のことはしたことのなかった妻の英子さんが一念発起して学生相手の下宿を始め、佐藤さんを支えた。佐藤さんは、このときの体験を活かして「会社の倒産や借金くらいで死ぬことはない」と多重債務や経営難に苦しむ人たちの相談にのっている。佐藤さんは精神科医でも専門のカウンセラーでもない。「しろうとでも、人間と人間が向き合うことでできることがあるのではないか」と手探りで活動を続けている。事務所を兼ねていた自宅に掛かってきた電話を英子さんが取ったところ、受話器の相手は「お陰で命拾いしました」と感謝の気持ちを伝えたそうだ。人を助けることで、佐藤さん夫婦もまた救われている。  自殺の抱える問題に、遺族側が身内から自殺者が出たことを外部に向けて話したがらないという一面がある。外部の人間も、なぜ自殺してしまったのか立ち入って聞くことを憚ってしまう。自殺の原因がはっきりせず、遺族も周囲の人々もいつまでも浄化されないままの問題を抱え込むことになる。仙台で暮らす田中幸子さんは自死遺族の自助グループ「藍の会」の代表。田中さんは警察官だった息子を自殺で失い、「人を殺して、自分も死のう」と自殺未遂を重ねた。いろんな会に参加したり、あらゆる本を読んだりしたが、救われることはなかった。同じように身内を自殺で亡くした遺族たちはどんな悩みを抱えているのか。田中さんは遺族の会が仙台にあればいいと思った。袴田さんがパネラーとして出席した自殺予防のための集会が仙台で開かれた際に、田中さんは「自分は死にたい。仙台に会はつくられないのか」と訴えたが、その悲痛な声は「まだ、その準備はできていない」という事務的な対応で遮られてしまった。そのとき、「いつでも連絡ください」と言葉を掛けたのが袴田さんだった。その後、袴田さんとのやりとりに励まされた田中さんは、自助グループを独力で立ち上げた。遺族の声を自殺対策に反映させることが自殺を減らすことに繋がると田中さんは考えている。
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仙台で自死遺族の自助グループ「藍の会」を
立ち上げた田中幸子さん。遺族との茶話会や
ランチ会を開いている。
 本作を企画・製作したのは1982年生まれ、岩手県北上市在住の双子の兄弟、都鳥(とどり)伸也・拓也。兄・拓也が撮影&編集を担当、弟・伸也が監督を務めた。日本映画学校時代の同期生にSONYの旧式カメラPD-150を借りて、本作を撮り上げた。製作費ゼロからのスタートだったが、サポーターズ・クラブという形で撮影取材と同時進行で製作費を募り、完成に漕ぎ着いた。岩手県のお隣・秋田県の自殺対策が、民間のネットワークだけでなく行政や医師会などを巻き込む形で変革期を迎えつつあることを映像として記録しようという想いで、アルバイトをしながら二人三脚で撮影を続けた。正直なところ、映像としては平板で、作品の構成にも斬新さはない。でも、映像的なテクニックに頼らない愚直さが、本作においては非常に効果的だったように思う。エンディングロールでは、協力者のクレジットが延々と流れる。本作の主旨に賛同し、製作費をカンパしたサポーターズ・クラブの人たちの名前だ。  マスコミ向け試写の際に都鳥監督が夜行バスに乗って上京して挨拶をし、新聞などのインタビューに答えたりした他は、本作の目立った宣伝活動は都内では行なわれていない。公開規模もこぢんまりとしており、公開終了後にDVDとして一般販売やレンタルされる予定はない。本作の上映を目にする人は、かなり限られることになるだろう。もちろん、多くの人に観てもらいたいし、本作で紹介された取り組みが他の地域でも広がるきっかけになればいいと思う。でも、いちばん肝心なのは、秋田や仙台や岩手に自殺者がひとりでも減ることに努めている人たちがいるという事実。たとえ、あなたが今いる場所からそこが遠く離れていても、あなたが死んだら悲しむ人がいるということ。あなたが死ぬのを考え直したら、喜んでくれる人がいるということ。この映画は生きづらい社会の夜空に打ち上げられた、小さな小さなシグナルなのだ。 (文=長野辰次) kibounosig4.jpg 『希望のシグナル 自殺防止最前線からの提言』 監督/都鳥伸哉 撮影・編集/都鳥拓也  配給/ロングラン映像メディア事業部 6月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開  ※6月16日(土)は都鳥兄弟による初日舞台挨拶、17日(日)は清水康之氏(自殺対策支援センター ライフリンク)と都鳥監督とのトークなどポレポレ東中野にて毎週土曜と日曜にトークイベントを開催 <http://ksignal-cinema.main.jp> (c)『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部 ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第173回]“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! [第171回]自由社会に順応できない“脱北者”の過酷な現状 無垢なる季節との決別『ムサン日記 白い犬』 [第170回] 世界興収100億突破のSF大作『ロボット』はあらゆる既成概念を破壊する!! [第169回]“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』 [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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[第66回]アナーキーな"社歌"で生産性アップ! 満島ひかり大進撃『川の底からこんにちは』 [第65回]超ヘビー級なシリアス劇『プレシャス』"家族"という名の地獄から脱出せよ [第64回]乱れ咲く"悪の華"ゼブラクイーン! 仲里依紗が過激変身『ゼブラーマン2』 [第63回] オタク王が見出した"夢と現実"の接点 ティム・バートン監督作『アリス──』 [第62回] バッドテイストな感動作『第9地区』 アナタはエビ人間とお友達になれるか? [第61回]スコセッシ監督の犯罪アトラクション『シャッターアイランド』へようこそ! [第60回]宮崎あおいの"映画代表作"が誕生! 毒を呑んでも生き続けよ『ソラニン』 [第59回]"おっぱいアート"は世界を救えるか? 母乳戦士の記録『桃色のジャンヌ・ダルク』 [第58回]現代に甦った"梶原一騎ワールド"韓流ステゴロ映画『息もできない』 [第57回]命知らずの変態レポーター、中東へ! 史上最大のどっきり?『ブルーノ』 [第56回]仲里依紗がアニメから実写へと跳躍! 母娘2代の時空旅行『時をかける少女』 [第55回]ビグロー監督はキャメロンより硬派! 人間爆弾の恐怖『ハート・ロッカー』 [第54回] "空気を読む"若者の悲劇『パレード』楽しいルームシェア生活の行き先は? [第53回]社会の"生け贄"に選ばれた男の逃亡劇 堺雅人主演『ゴールデンスランバー』 [第52回]『男はつらいよ』の別エンディング? "寅さん"の最期を描く『おとうと』 [第51回]ひとり相撲なら無敵のチャンピオン! 童貞暴走劇『ボーイズ・オン・ザ・ラン』 [第50回]ヒース・レジャーが最後に見た夢の世界 理想と欲望が渦巻く『Dr.パルナサスの鏡』 [第49回]トニー・ジャーは本気なんジャー! 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[第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学 (画像1:キャプション) (画像2:キャプション) (画像3:キャプション)

“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』

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自衛隊市ヶ谷駐屯地の総監室を占拠した三島由紀夫(井浦新)は
バルコニーでの演説後、割腹自殺に及ぶ。
 “キング・オブ・インディペンデント”若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)『キャタピラー』(10)に続く、“昭和三部作”の完結編となる『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』。1970年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた作家・三島由紀夫が日本の未来を憂う若者たちと「楯の会」を結成し、三島事件を引き起こすまでの軌跡を描いたものだ。三島由紀夫役を演じたARATAが本作に出演したことがきっかけで、「アルファベット表記はこの作品に相応しくない」と本名の井浦新に芸名を改めるなど、男たちの激情が渦巻く力作となっている。
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自衛官たちに向かって“改憲”を訴える三島
由紀夫。本作をきっかけにARATAから改名した
井浦新が渾身の演技に挑む。
 映画はまず、日比谷公会堂で演説中の日本社会党委員長・浅沼稲次郎が17歳の少年・山口二矢に刺殺される瞬間のニュース映像で幕を開ける。沢木耕太郎のノンフィクション小説『テロルの決算』(文藝春秋)でも知られるショッキングな暗殺事件だ。1960年に起きたこの事件を、若松監督は未成年者による殺人事件とは解釈せず、自国を愛するあまりに直接行動に出た17歳の少年の純粋さに共鳴している。17歳のときに実家を飛び出して上京した若松監督は、この事件当時はまだピンク映画『甘い罠』(63)で監督デビューする前の何者でもなかった。何者でもなかったこのアウトロー監督にとって、よっぽど忘れがたい事件だったのだろう。また、この国のことを憂いていたのは山口二矢だけではなかった。獄中で山口二矢が首吊り自殺を遂げるシーンが映し出され、カメラがパーンすると、そこには書斎で短編小説『憂国』を執筆中の三島由紀夫(井浦新)の姿がある。戦後の日本社会が物質的に満たされていく一方、日本人の美しい心がけがれていく。日本語による美しい文章を綴る三島由紀夫には、そのことが堪え難かった。  自衛隊を武士道精神を受け継ぐ拠り所と考えた三島由紀夫は自衛隊に体験入隊し、自衛官たちと交流を重ねていく。そして、若者たちに呼び掛けて、民兵組織「楯の会」を結成する。運営費や制服代は、三島由紀夫の作家としての収益が当てられた。1960年代の大学を吹き荒れた学園紛争に反感を感じていた民族派の学生・持丸博(渋川清彦)や森田必勝(満島真之介)らが「楯の会」に参加し、麗しき男たちの王国が築かれる。国の未来を憂うことで一心同体となった彼らは、来るべき日のための訓練に汗を流し、酒を酌み交わし、『昭和残侠伝』(65)の主題歌「唐獅子牡丹」を朗々と歌う。三島由紀夫夫人・瑤子(寺島しのぶ)は女の自分が立ち入れない“男だけのユートピア”がちょっぴり羨ましげだ。
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多くの若者たちが三島のもとに集まるが、
「楯の会」に入会するには自衛隊で1カ月以上
の軍事訓練を体験しなくてはならなかった。
 三島由紀夫というとアブノーマルな作風からホモセクシャル疑惑がつきまとうが、若松監督はその点に関しては安易にスキャンダラスな描き方をしない。その代わり、三島由紀夫と森田必勝らは一緒にサウナ風呂に入る。タオル一枚で全身から玉のような汗をダラダラと流しながら、男たちは熱く語り合う。三島由紀夫を何よりも崇拝する森田必勝は「先生、ボクは死ぬことは怖くありません!」「この国のために、身を捧げることができるなら本望です!」と大きな目をギラギラさせながら三島に迫る。ついに三島は「楯の会」の中から信頼できるメンバーを率いて、行動に出ることを決意。市ヶ谷駐屯地で自衛官たちの決起を促し、その後“改憲”を訴えて自衛隊と共に国会を包囲するというクーデターを画策する。駐屯地に押し入る際の武器は、日本古来からの武器である日本刀のみ。決起を誓い合った三島由紀夫と若者たちは、今まで感じたことのない究極の恍惚感に酔いしれる。  みずから若松プロに電話して、『実録・連合赤軍』のオーディションに参加して以来、すっかり若松作品の常連俳優となったARATAこと井浦新。『11.25自決の日』と同時期に撮影した『海燕ホテル・ブルー』の公開時に話を聞いたところ、若松監督から三島由紀夫役を頼まれたのはクランクインの2か月前だったそうだ。 「若松監督からは『実録・連行赤軍』の撮影中に『右の次は左も撮るぞ』と聞いていたんですが、まさか自分が三島役をやるとは思いもしていませんでした。若松監督から頼まれたら断ることはできないんですが、正直なところ、うれしいというよりプレッシャーでしかなかったですよ(苦笑)。役づくりに1年あっても足りないくらいなのに、2か月ですから。でも、若松監督からは『物まね映画にはしない。お前の考える三島由紀夫を演じればいいんだ』と言われ、すごく気が楽になりましたね」と語ってくれた。以前より、1960年~1970年代の文化に興味があり、三島文学もたしなんでいたので、撮影前に慌てて三島由紀夫全集を読み直したりすることはなかったそうだ。三島由紀夫研究読本などに手を伸ばすこともなく、写真集『薔薇刑』などの撮影を通して三島由紀夫と親交のあった写真家・細江英公のエッセイなどを思い出しながら、三島由紀夫役に挑んだという。  ARATA時代の井浦新は、おしゃれでクールな印象が強かったが、「まだ見たことのない自分に会ってみたい」という純粋な想いから若松組に飛び込んでいった激情家の一面を持つ。ごく少人数での撮影だった『海燕ホテル・ブルー』の伊豆大島ロケでは、助監督代わりに現場での雑用も引き受け、初めて若松作品に出演する若手俳優には声を掛けて飲み会を開く好漢でもある。『実録・連合赤軍』で新しい自分の一面を引き出してくれた若松監督の期待に応えるため、精一杯の熱演を見せている。自衛隊での演習シーンで奇妙な走り方をするが、これは三島役のオファーを受ける直前に足の骨折で入院しており、無理矢理リハビリして撮影現場に入ったためと思われる。演技力うんぬんではなく、精神力勝負の現場だったようだ。森田必勝役を演じた満島真之介(満島ひかりの実弟)の黒目がちなギラギラした瞳も印象的。彼の一本気な情熱が、井浦のクールなルックスの裏に隠された激情を呼び起こし、男たちの物語はクライマックスへとなだれ込む。
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『キャタピラー』(10)に続いての若松
孝二作品への出演となった寺島しのぶ。三島
由紀夫の妻・瑤子を演じる。
 ポール・シュレイダー監督、緒形拳主演の日本未公開映画『Mishima:A Life In Four Chapters』(85)と同様に、本作の三島由紀夫も狂気と血に彩られた一生に一度きりの“聖なる神事”へと突き進む。総監室のバルコニーから自衛官たちに決起を呼び掛けるが、その声はヤジに掻き消されてしまう。でも、そんなことは三島由紀夫には織り込み済みだった。何よりも自分たちが行動することが大事なのであって、成功するかどうかは問題ではなかったのだ。自衛隊にはすでに武士道精神を持つ者がいないことを確認した三島由紀夫はおのれが武士としての死に様を見せることで、自分自身の物語の感動的なグランドフィナーレを迎える。その介錯を務めるのは、三島由紀夫が愛する美しい若者・森田必勝だ。  この5月、本作を携えて41年ぶりにカンヌ映画祭に参加した若松監督は、現在76歳。2011年には『11.25自決の日』『海燕ホテル・ブルー』だけでなく、中上健次原作『千年の悦楽』(今秋公開予定)も撮り上げている。今まさに、人生のクライマックスを謳歌しているといっては失礼だろうか。三島由紀夫は自らが潔く散ることに美を求めたが、若松監督は貪欲に生き抜くことで生の輝きを放っている。三島由紀夫の死と若松孝二の生が激突する。スクリーンからヤケドしそうなほどの熱い火花がほとばしる。 (文=長野辰次) mishimayukio_05.jpg ●『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 監督・脚本/若松孝二 企画協力/鈴木邦夫 脚本/掛川正幸 出演/井浦新、満島真之介、岩間天嗣、永岡佑、鉄之助、渋川清彦、大西信満、地曳豪、タモト清嵐、中泉英雄、長谷川公彦、韓英姫、小林優斗、小林三四郎、笠松伴助、小倉一郎、篠原勝之、吉澤健、寺島しのぶ  配給/若松プロ、スコーレ 6月2日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開 <http://www.wakamatsukoji.org/11.25> (c)若松プロダクション ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! [第171回]自由社会に順応できない“脱北者”の過酷な現状 無垢なる季節との決別『ムサン日記 白い犬』 [第170回] 世界興収100億突破のSF大作『ロボット』はあらゆる既成概念を破壊する!! [第169回]“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』 [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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“三島割腹事件”を若松孝二監督が映画化!『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』

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自衛隊市ヶ谷駐屯地の総監室を占拠した三島由紀夫(井浦新)は
バルコニーでの演説後、割腹自殺に及ぶ。
 “キング・オブ・インディペンデント”若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)『キャタピラー』(10)に続く、“昭和三部作”の完結編となる『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』。1970年11月25日に自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を遂げた作家・三島由紀夫が日本の未来を憂う若者たちと「楯の会」を結成し、三島事件を引き起こすまでの軌跡を描いたものだ。三島由紀夫役を演じたARATAが本作に出演したことがきっかけで、「アルファベット表記はこの作品に相応しくない」と本名の井浦新に芸名を改めるなど、男たちの激情が渦巻く力作となっている。
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自衛官たちに向かって“改憲”を訴える三島
由紀夫。本作をきっかけにARATAから改名した
井浦新が渾身の演技に挑む。
 映画はまず、日比谷公会堂で演説中の日本社会党委員長・浅沼稲次郎が17歳の少年・山口二矢に刺殺される瞬間のニュース映像で幕を開ける。沢木耕太郎のノンフィクション小説『テロルの決算』(文藝春秋)でも知られるショッキングな暗殺事件だ。1960年に起きたこの事件を、若松監督は未成年者による殺人事件とは解釈せず、自国を愛するあまりに直接行動に出た17歳の少年の純粋さに共鳴している。17歳のときに実家を飛び出して上京した若松監督は、この事件当時はまだピンク映画『甘い罠』(63)で監督デビューする前の何者でもなかった。何者でもなかったこのアウトロー監督にとって、よっぽど忘れがたい事件だったのだろう。また、この国のことを憂いていたのは山口二矢だけではなかった。獄中で山口二矢が首吊り自殺を遂げるシーンが映し出され、カメラがパーンすると、そこには書斎で短編小説『憂国』を執筆中の三島由紀夫(井浦新)の姿がある。戦後の日本社会が物質的に満たされていく一方、日本人の美しい心がけがれていく。日本語による美しい文章を綴る三島由紀夫には、そのことが堪え難かった。  自衛隊を武士道精神を受け継ぐ拠り所と考えた三島由紀夫は自衛隊に体験入隊し、自衛官たちと交流を重ねていく。そして、若者たちに呼び掛けて、民兵組織「楯の会」を結成する。運営費や制服代は、三島由紀夫の作家としての収益が当てられた。1960年代の大学を吹き荒れた学園紛争に反感を感じていた民族派の学生・持丸博(渋川清彦)や森田必勝(満島真之介)らが「楯の会」に参加し、麗しき男たちの王国が築かれる。国の未来を憂うことで一心同体となった彼らは、来るべき日のための訓練に汗を流し、酒を酌み交わし、『昭和残侠伝』(65)の主題歌「唐獅子牡丹」を朗々と歌う。三島由紀夫夫人・瑤子(寺島しのぶ)は女の自分が立ち入れない“男だけのユートピア”がちょっぴり羨ましげだ。
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多くの若者たちが三島のもとに集まるが、
「楯の会」に入会するには自衛隊で1カ月以上
の軍事訓練を体験しなくてはならなかった。
 三島由紀夫というとアブノーマルな作風からホモセクシャル疑惑がつきまとうが、若松監督はその点に関しては安易にスキャンダラスな描き方をしない。その代わり、三島由紀夫と森田必勝らは一緒にサウナ風呂に入る。タオル一枚で全身から玉のような汗をダラダラと流しながら、男たちは熱く語り合う。三島由紀夫を何よりも崇拝する森田必勝は「先生、ボクは死ぬことは怖くありません!」「この国のために、身を捧げることができるなら本望です!」と大きな目をギラギラさせながら三島に迫る。ついに三島は「楯の会」の中から信頼できるメンバーを率いて、行動に出ることを決意。市ヶ谷駐屯地で自衛官たちの決起を促し、その後“改憲”を訴えて自衛隊と共に国会を包囲するというクーデターを画策する。駐屯地に押し入る際の武器は、日本古来からの武器である日本刀のみ。決起を誓い合った三島由紀夫と若者たちは、今まで感じたことのない究極の恍惚感に酔いしれる。  みずから若松プロに電話して、『実録・連合赤軍』のオーディションに参加して以来、すっかり若松作品の常連俳優となったARATAこと井浦新。『11.25自決の日』と同時期に撮影した『海燕ホテル・ブルー』の公開時に話を聞いたところ、若松監督から三島由紀夫役を頼まれたのはクランクインの2か月前だったそうだ。 「若松監督からは『実録・連行赤軍』の撮影中に『左の次は右も撮るぞ』と聞いていたんですが、まさか自分が三島役をやるとは思いもしていませんでした。若松監督から頼まれたら断ることはできないんですが、正直なところ、うれしいというよりプレッシャーでしかなかったですよ(苦笑)。役づくりに1年あっても足りないくらいなのに、2か月ですから。でも、若松監督からは『物まね映画にはしない。お前の考える三島由紀夫を演じればいいんだ』と言われ、すごく気が楽になりましたね」と語ってくれた。以前より、1960年~1970年代の文化に興味があり、三島文学もたしなんでいたので、撮影前に慌てて三島由紀夫全集を読み直したりすることはなかったそうだ。三島由紀夫研究読本などに手を伸ばすこともなく、写真集『薔薇刑』などの撮影を通して三島由紀夫と親交のあった写真家・細江英公のエッセイなどを思い出しながら、三島由紀夫役に挑んだという。  ARATA時代の井浦新は、おしゃれでクールな印象が強かったが、「まだ見たことのない自分に会ってみたい」という純粋な想いから若松組に飛び込んでいった激情家の一面を持つ。ごく少人数での撮影だった『海燕ホテル・ブルー』の伊豆大島ロケでは、助監督代わりに現場での雑用も引き受け、初めて若松作品に出演する若手俳優には声を掛けて飲み会を開く好漢でもある。『実録・連合赤軍』で新しい自分の一面を引き出してくれた若松監督の期待に応えるため、精一杯の熱演を見せている。自衛隊での演習シーンで奇妙な走り方をするが、これは三島役のオファーを受ける直前に足の骨折で入院しており、無理矢理リハビリして撮影現場に入ったためと思われる。演技力うんぬんではなく、精神力勝負の現場だったようだ。森田必勝役を演じた満島真之介(満島ひかりの実弟)の黒目がちなギラギラした瞳も印象的。彼の一本気な情熱が、井浦のクールなルックスの裏に隠された激情を呼び起こし、男たちの物語はクライマックスへとなだれ込む。
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『キャタピラー』(10)に続いての若松
孝二作品への出演となった寺島しのぶ。三島
由紀夫の妻・瑤子を演じる。
 ポール・シュレイダー監督、緒形拳主演の日本未公開映画『Mishima:A Life In Four Chapters』(85)と同様に、本作の三島由紀夫も狂気と血に彩られた一生に一度きりの“聖なる神事”へと突き進む。総監室のバルコニーから自衛官たちに決起を呼び掛けるが、その声はヤジに掻き消されてしまう。でも、そんなことは三島由紀夫には織り込み済みだった。何よりも自分たちが行動することが大事なのであって、成功するかどうかは問題ではなかったのだ。自衛隊にはすでに武士道精神を持つ者がいないことを確認した三島由紀夫はおのれが武士としての死に様を見せることで、自分自身の物語の感動的なグランドフィナーレを迎える。その介錯を務めるのは、三島由紀夫が愛する美しい若者・森田必勝だ。  この5月、本作を携えて41年ぶりにカンヌ映画祭に参加した若松監督は、現在76歳。2011年には『11.25自決の日』『海燕ホテル・ブルー』だけでなく、中上健次原作『千年の愉楽』(今秋公開予定)も撮り上げている。今まさに、人生のクライマックスを謳歌しているといっては失礼だろうか。三島由紀夫は自らが潔く散ることに美を求めたが、若松監督は貪欲に生き抜くことで生の輝きを放っている。三島由紀夫の死と若松孝二の生が激突する。スクリーンからヤケドしそうなほどの熱い火花がほとばしる。 (文=長野辰次) mishimayukio_05.jpg ●『11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち』 監督・脚本/若松孝二 企画協力/鈴木邦夫 脚本/掛川正幸 出演/井浦新、満島真之介、岩間天嗣、永岡佑、鉄之助、渋川清彦、大西信満、地曳豪、タモト清嵐、中泉英雄、長谷川公彦、韓英姫、小林優斗、小林三四郎、笠松伴助、小倉一郎、篠原勝之、吉澤健、寺島しのぶ  配給/若松プロ、スコーレ 6月2日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開 <http://www.wakamatsukoji.org/11.25> (c)若松プロダクション ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第172回]実在の事件を題材にした“命の授業”『先生を流産させる会』がついに劇場公開! [第171回]自由社会に順応できない“脱北者”の過酷な現状 無垢なる季節との決別『ムサン日記 白い犬』 [第170回] 世界興収100億突破のSF大作『ロボット』はあらゆる既成概念を破壊する!! [第169回]“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』 [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! [第136回]"理想の恋人"という偶像を破壊せよ 深夜番長の劇場デビュー作『モテキ』 [第135回]"城定秀夫監督、ブレイク前夜の予感! 闘争本能を呼び覚ます『タナトス』 [第134回]"人間失格"の道を選んだ映画監督の業 林由美香の最新主演作『監督失格』 [第133回]ホラ吹きのホラを見破る特異な職能 ポランスキー監督『ゴーストライター』 [第132回]芦田愛菜、6歳にして危険な魅力!? 子連れで全力疾走『うさぎドロップ』 [第131回]元"暴走族"が書いた旧友への鎮魂歌 青春懺悔録『アメイジング グレイス』 [第130回]V・ギャロ主演のサバイバルグルメ!? 『エッセンシャル・キリング』 [第129回]『キック・アス』より悪趣味で泣ける 中年男の悪ノリ暴走劇『スーパー!』 [第128回]この夏の清涼剤、地方少女のダンス成長記『あぜみちジャンピンッ!』 [第127回]竹ヤリで世界進出"スシタイフーン"『エイリアンVSニンジャ』ほか逆上陸 [第126回]イーモウ監督、久々のアイドル映画 中華的妹萌え『サンザシの樹の下で』 [第125回]ナタリー・ポートマン vs. ヘビメタ野郎 人気女優の隠し球『メタルヘッド』 [第124回]黒澤明の名作『生きる』のラテン版! ヤモメ男が残した遺産『BIUTIFUL』 [第123回]北国で93年間営業を続ける"大黒座"と町の記録『小さな町の小さな映画館』 [第122回]新幹線がすれ違う瞬間、願いが叶う? 小学生の目線で描かれた『奇跡』 [第121回]理想と情熱がもたらした"痛い現実" 青春の蹉跌『マイ・バック・ページ』 [第120回]胸に響く金言"プロとは手を抜くこと" 職人秘話『アトムの足音が聞こえる』 [第119回]危険な出会い、井口昇ミーツ仲村みう 悪夢の遊園地『富江 アンリミテッド』 [第118回]ナタリー・ポートマン"第1章"の終幕 虚実が攻め合う『ブラック・スワン』 [第117回]"セカイ"を旅立った少女の地底探検記 新海誠監督の新作『星を追う子ども』 [第116回] 美少女たちの輝きが脳裏から離れない。青春ムービー『魔法少女を忘れない』 [第115回] 恋愛が与える"陶酔"とリアルな"痛み"サブカル活劇『スコット・ピルグリム』 [第114回]妄想、空想、そして現実からの大脱走 美少女革命『エンジェル ウォーズ』 [第113回]"3.11"後の新しい映画モデルとなるか『劇場版 神聖かまってちゃん』の挑戦 [第112回]マスコミが讃えた"楽園"のその後、ひとりの少女の成長記録『愛しきソナ』 [第111回]閉鎖的な"村社会"をブチ破ったれ! 韓流サバイバル劇『ビー・デビル』 [第110回]"粋"を愛したフランスの伯父さん J・タチ主演『イリュージョニスト』 [第109回]自分にとって家族は敵か、味方か? オスカー2冠受賞『ザ・ファイター』 [第108回]コーエン兄弟『トゥルー・グリット』40年で変化した"米国のヒーロー像" [第107回]ジョニー・デップが愛した"極道記者" 『GONZO』奇人がスターだった時代 [第106回] 巨匠イーストウッド監督の異色作! 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CGなしの狂乱劇再び『マッハ!弐』 [第48回]全米"オシャレ番長"ズーイー、見参! 草食系に捧ぐ『(500日)のサマー』 [第47回]市川崑監督&水谷豊"幻の名作"『幸福』28年の歳月を経て、初のパッケージ化 [第46回]押井守監督、大いなる方向転換か? 黒木メイサ主演『アサルトガールズ』 [第45回]ドラッグ漬けの芸能関係者必見!"神の子"の復活を追う『マラドーナ』 [第44回] 暴走する"システム"が止まらない! マイケル・ムーア監督『キャピタリズム』 [第43回]"人は二度死ぬ"という独自の死生観『ガマの油』役所広司の監督ぶりは? [第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! [第25回]白熱! 女同士のゴツゴツエゴバトル 金子修介監督の歌曲劇『プライド』 [第24回]悪意と善意が反転する"仮想空間"細田守監督『サマーウォーズ』 [第23回]沖縄に"精霊が暮らす楽園"があった! 中江裕司監督『真夏の夜の夢』 [第22回]"最強のライブバンド"の底力発揮! ストーンズ『シャイン・ア・ライト』 [第21回]身長15mの"巨大娘"に抱かれたい! 3Dアニメ『モンスターvsエイリアン』 [第20回]ウディ・アレンのヨハンソンいじりが冴え渡る!『それでも恋するバルセロナ』 [第19回]ケイト姐さんが"DTハンター"に! オスカー受賞の官能作『愛を読むひと』 [第18回]1万枚の段ボールで建てた"夢の砦"男のロマンここにあり『築城せよ!』 [第17回]地獄から甦った男のセミドキュメント ミッキー・ローク『レスラー』 [第16回]人生がちょっぴり楽しくなる特効薬 三木聡"脱力"劇場『インスタント沼』 [第15回]"裁判員制度"が始まる今こそ注目 死刑執行を克明に再現した『休暇』 [第14回]生傷美少女の危険な足技に痺れたい! タイ発『チョコレート・ファイター』 [第13回]風俗嬢を狙う快楽殺人鬼の恐怖! 極限の韓流映画『チェイサー』 [第12回]お姫様のハートを盗んだ男の悲哀 紀里谷監督の歴史奇談『GOEMON』 [第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』 [第10回]ジャッキー・チェンの"暗黒面"? 中国で上映禁止『新宿インシデント』 [第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』 [第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』 [第7回]少女たちの壮絶サバイバル!楳図かずおワールド『赤んぼ少女』 [第6回]派遣の"叫び"がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 [第5回]三池崇史監督『ヤッターマン』で深田恭子が"倒錯美"の世界へ [第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々 [第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は...... [第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった [第1回]堤幸彦版『20世紀少年』に漂うフェイクならではの哀愁と美学

“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』

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才能がありすぎるがゆえに、冷遇されてきたディー判事(アンディ・ラウ)。
近年のツイ・ハーク自身を思わせる主人公だ。
 永遠のケレン味職人、こけおどし美学の求道者、ホラ吹き大魔人、黒忍者ハッタリくん……。どれも、香港映画界の巨匠ツイ・ハークに捧げたい尊称だ。もちろん、B級映画を愛する人間にとって、最大級の誉め言葉のつもり。“香港のスピルバーグ”と呼ばれたツイ・ハークといえば、ちょっとエッチな伝奇ファンタジー『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』、ジョン・ウー監督の出世作となった香港ノワール『男たちの挽歌』、ジェット・リーが驚異的な身体能力を発揮した武侠ロマン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』などの人気シリーズを80~90年代に大ヒットさせた人気プロデューサー&監督。ツイ・ハークが表舞台に引っ張り上げたジョン・ウーがハリウッドで大成功し、香港に凱旋後も超大作『レッドクリフ』をメガヒットさせたのとは対照的に、近年のツイ・ハークはかつての輝きが失われた感があった。すみません、それって間違った認識でした。ツイ・ハークの本当の黄金時代はこれから始まるんじゃないかと思えるほど、アンディ・ラウ主演作『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』が破壊的に面白いんですよ。
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都市伝説でおなじみ“人体発火事件”が唐の都
で連続発生。巨大仏の建立に関わる王朝貴族が
次々と犠牲になる。
 史実や民間伝承に巧みにフィクションを注入し、観る者をイマジネーションの世界に誘い込むのが、ツイ・ハーク作品の面白さ。本作の主人公は、ディー・レンチェ判事。唐の時代、中国四千年の歴史にあって唯一女帝の座に就いた則天武后に仕えた実在の名判事。“中国のシャーロック・ホームズ”と称されている人物だ。超常現象を一切信じない現実主義者のディー判事が、唐の都を騒がせる“人体発火事件”の真相を解き明かすというミステリー仕立てになっている。  ツイ・ハークはアイデアマンゆえに、SFXや小道具などに凝りすぎるきらいがあったが、今回はディー判事による謎解きという縦軸がしっかりあるため、内容にブレがない。ディー判事(アンディ・ラウ)を支えるキャラクターたちも明快。SMの女王さまばりにムチを操る男装の麗人チンアル(リー・ビンビン)、アルビノっぽいビジュアルの若い司法官ペイ(ダン・チャオ)がそれぞれの思惑を胸に隠しながらディー判事の捜査に同行し、共に王朝転覆をめぐる陰謀を追う。人体発火事件に加え、牛久大仏を遥かに凌駕する巨大仏、言葉をしゃべる鹿、敵の武器の弱点を瞬時にリサーチする降龍杖……とツイ・ハークならではケレン味たっぷりなキーアイテムが続々登場。まさにアイデアのマトリョーシカ状態。それでもって今回は、それらのアイデアがディー判事の謎解きによって見事にググ~ンと収斂されていくんです。  今回の設定の中で、ひときわユニークなのが物語中盤に登場する“亡者の市”。漢時代に地割れによって沈んだ旧市街地が地下に残っており、お尋ね者や訳ありな人たちが徘徊するアンダーワールドを形成している。犯罪に関する裏情報を収集するなら、裏社会の住人に尋ねるのがいちばんということで、ディー判事ら一行は地下都市へと降りていく。洞窟で撮影されたというこのパートは、香港アクション映画の伝統芸であるワイヤーアクションが満載。各キャラクターが敵味方入り乱れて、洞窟内をビュンビュン飛びまくる。ちなみに本作のアクション監督はサモ・ハン。80年代の香港映画を思わせる、ユーモラスさのあるアクションが本作の味わいをより深めてくれます。
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デ、デカい! バベルの塔かスカイツリーかと
いうくらいの高さを誇る超高層仏“通天仏”。
クライマックスで大崩壊しちゃいます!
 そして、クライマックスの舞台となるのは、スカイツリーとためをはるくらいの超高層大仏“通天仏”。真犯人との対峙は、2時間ドラマでは崖の上かビルの屋上と決まっている。人はなぜ、高い所に登ると「許してくれ。オレがやった」とか「結婚しよう。今度一緒に登るときはきっと3人だね」とか余計なことを口走しちゃうんだろうか。それはまぁ置いといて、きちんとサスペンスドラマのツボを押さえてくれるツイ・ハークのサービス精神がうれしい。そして、謎の解明と同時に始まるのが、通天仏の大崩壊! このお約束感がたまらんッ。正直いって、この巨大仏がいかにもCGでの書き割りっぽいんだけど、このチープさ、こけおどし感こそ、香港映画のダイゴ味でしょう!  溢れんばかりの才能がありながらも日の当たる場所に出ることができずにいるディー判事はツイ・ハーク自身の心情が投影されているのかなぁとか、かつては志をともにした仲間との決別はツイ・ハークとジョン・ウーの関係を匂わせているのかなぁとか、そんな周囲が邪推する諸々の恩讐もB級映画ならではのうさん臭さもすべて巻き込んで巨大仏がぶっ倒れていく。ザ・カタルシス。神も仏も名声も、頼るべきものはもう何もない。後に残るは、観客を徹底的に楽しませるべきエンターテイメント道だけである。  ツイ・ハーク卿、ここに大復活! “香港のスピルバーグ”といういかがわしい呼称の代わりに、今後はエンターテイメント道を突き進む彼の背中を追う“ツイ・ハークの息子”たちが世界各地から続々と現われることだろう。『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』という長たらしい邦題の本作は、王朝貴族の人体だけでなく、B級映画マニアのハートまで熱く焦がしてくれる快作だ。 (文=長野辰次) ocho4.jpg 『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』 監督/ツイ・ハーク アクション監督/サモ・ハン 出演/アンディ・ラウ、リー・ビンビン、ダン・チャオ、レオン・カーフェイ、カリーナ・ラウ 配給/ツイン 配給協力/太秦 5月5日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開 <http://www.dee-movie.com/> (c)2010 Huayi Brothers Media Corporation Huayi Brothers International Ltd. All Rights Reserved. ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! 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“エンタの神さま”ツイ・ハークが大復活! B級映画マニアの心を焦がす『王朝の陰謀』

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才能がありすぎるがゆえに、冷遇されてきたディー判事(アンディ・ラウ)。
近年のツイ・ハーク自身を思わせる主人公だ。
 永遠のケレン味職人、こけおどし美学の求道者、ホラ吹き大魔人、黒忍者ハッタリくん……。どれも、香港映画界の巨匠ツイ・ハークに捧げたい尊称だ。もちろん、B級映画を愛する人間にとって、最大級の誉め言葉のつもり。“香港のスピルバーグ”と呼ばれたツイ・ハークといえば、ちょっとエッチな伝奇ファンタジー『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』、ジョン・ウー監督の出世作となった香港ノワール『男たちの挽歌』、ジェット・リーが驚異的な身体能力を発揮した武侠ロマン『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ』などの人気シリーズを80~90年代に大ヒットさせた人気プロデューサー&監督。ツイ・ハークが表舞台に引っ張り上げたジョン・ウーがハリウッドで大成功し、香港に凱旋後も超大作『レッドクリフ』をメガヒットさせたのとは対照的に、近年のツイ・ハークはかつての輝きが失われた感があった。すみません、それって間違った認識でした。ツイ・ハークの本当の黄金時代はこれから始まるんじゃないかと思えるほど、アンディ・ラウ主演作『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』が破壊的に面白いんですよ。
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都市伝説でおなじみ“人体発火事件”が唐の都
で連続発生。巨大仏の建立に関わる王朝貴族が
次々と犠牲になる。
 史実や民間伝承に巧みにフィクションを注入し、観る者をイマジネーションの世界に誘い込むのが、ツイ・ハーク作品の面白さ。本作の主人公は、ディー・レンチェ判事。唐の時代、中国四千年の歴史にあって唯一女帝の座に就いた則天武后に仕えた実在の名判事。“中国のシャーロック・ホームズ”と称されている人物だ。超常現象を一切信じない現実主義者のディー判事が、唐の都を騒がせる“人体発火事件”の真相を解き明かすというミステリー仕立てになっている。  ツイ・ハークはアイデアマンゆえに、SFXや小道具などに凝りすぎるきらいがあったが、今回はディー判事による謎解きという縦軸がしっかりあるため、内容にブレがない。ディー判事(アンディ・ラウ)を支えるキャラクターたちも明快。SMの女王さまばりにムチを操る男装の麗人チンアル(リー・ビンビン)、アルビノっぽいビジュアルの若い司法官ペイ(ダン・チャオ)がそれぞれの思惑を胸に隠しながらディー判事の捜査に同行し、共に王朝転覆をめぐる陰謀を追う。人体発火事件に加え、牛久大仏を遥かに凌駕する巨大仏、言葉をしゃべる鹿、敵の武器の弱点を瞬時にリサーチする降龍杖……とツイ・ハークならではケレン味たっぷりなキーアイテムが続々登場。まさにアイデアのマトリョーシカ状態。それでもって今回は、それらのアイデアがディー判事の謎解きによって見事にググ~ンと収斂されていくんです。  今回の設定の中で、ひときわユニークなのが物語中盤に登場する“亡者の市”。漢時代に地割れによって沈んだ旧市街地が地下に残っており、お尋ね者や訳ありな人たちが徘徊するアンダーワールドを形成している。犯罪に関する裏情報を収集するなら、裏社会の住人に尋ねるのがいちばんということで、ディー判事ら一行は地下都市へと降りていく。洞窟で撮影されたというこのパートは、香港アクション映画の伝統芸であるワイヤーアクションが満載。各キャラクターが敵味方入り乱れて、洞窟内をビュンビュン飛びまくる。ちなみに本作のアクション監督はサモ・ハン。80年代の香港映画を思わせる、ユーモラスさのあるアクションが本作の味わいをより深めてくれます。
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デ、デカい! バベルの塔かスカイツリーかと
いうくらいの高さを誇る超高層仏“通天仏”。
クライマックスで大崩壊しちゃいます!
 そして、クライマックスの舞台となるのは、スカイツリーとためをはるくらいの超高層大仏“通天仏”。真犯人との対峙は、2時間ドラマでは崖の上かビルの屋上と決まっている。人はなぜ、高い所に登ると「許してくれ。オレがやった」とか「結婚しよう。今度一緒に登るときはきっと3人だね」とか余計なことを口走しちゃうんだろうか。それはまぁ置いといて、きちんとサスペンスドラマのツボを押さえてくれるツイ・ハークのサービス精神がうれしい。そして、謎の解明と同時に始まるのが、通天仏の大崩壊! このお約束感がたまらんッ。正直いって、この巨大仏がいかにもCGでの書き割りっぽいんだけど、このチープさ、こけおどし感こそ、香港映画のダイゴ味でしょう!  溢れんばかりの才能がありながらも日の当たる場所に出ることができずにいるディー判事はツイ・ハーク自身の心情が投影されているのかなぁとか、かつては志をともにした仲間との決別はツイ・ハークとジョン・ウーの関係を匂わせているのかなぁとか、そんな周囲が邪推する諸々の恩讐もB級映画ならではのうさん臭さもすべて巻き込んで巨大仏がぶっ倒れていく。ザ・カタルシス。神も仏も名声も、頼るべきものはもう何もない。後に残るは、観客を徹底的に楽しませるべきエンターテイメント道だけである。  ツイ・ハーク卿、ここに大復活! “香港のスピルバーグ”といういかがわしい呼称の代わりに、今後はエンターテイメント道を突き進む彼の背中を追う“ツイ・ハークの息子”たちが世界各地から続々と現われることだろう。『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』という長たらしい邦題の本作は、王朝貴族の人体だけでなく、B級映画マニアのハートまで熱く焦がしてくれる快作だ。 (文=長野辰次) ocho4.jpg 『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』 監督/ツイ・ハーク アクション監督/サモ・ハン 出演/アンディ・ラウ、リー・ビンビン、ダン・チャオ、レオン・カーフェイ、カリーナ・ラウ 配給/ツイン 配給協力/太秦 5月5日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開 <http://www.dee-movie.com/> (c)2010 Huayi Brothers Media Corporation Huayi Brothers International Ltd. All Rights Reserved. ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第168回]人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』 [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! [第161回] 鬼才キム・ギドクの"多重人格ショー"セルフドキュメンタリー『アリラン』 [第160回]映画創成期に散った"殉教者"への聖歌 3D映画『ヒューゴの不思議な発明』 [第159回]これはホラー? それともコメディ? 勘違い女が爆走『ヤング≒アダルト』 [第158回] ピラミッドは古代からのメッセージ!? 歴史ミステリー『ピラミッドの謎』 [第157回] 韓国映画の名匠が明かす"創作の極意"イ・チャンドン監督『ポエトリー』 [第156回] ローカル局で"伝説となった男"の生涯『木村栄文レトロスペクティブ』 [第155回] 米国に半世紀も君臨した"影の大統領" FBI初代長官『J・エドガー』 [第154回]犯罪者たちに学ぶ"人心掌握術"の奨め『アニマル・キングダム』『預言者』 [第153回]"地獄"からの生還者・板尾創路の凄み 古典落語を過激に脚色『月光ノ仮面』 [第152回]早くも2012年ベスト1映画が登場!"代理殺人"を巡る恐怖『哀しき獣』 [第151回]父殺し、自分殺し、そして再生の物語 園子温流ラブストーリー『ヒミズ』 [第150回]米国お笑い横断旅行『宇宙人ポール』人間のちっぽけな悩みはETが解決! [第149回]70年前と変わらない日本人の精神構造『聯合艦隊司令長官 山本五十六』 [第148回]追悼......"永遠の反逆児"原田芳雄さん幻の主演作『原子力戦争』がDVD化 [第147回]"ファスト風土"を舞台にした犯罪喜劇 J・アイゼンバーグ主演『ピザボーイ』 [第146回]"正義のゾンビ"が犯罪者を貪り喰う! イラク戦争奇談『ゾンビ処刑人』 [第145回] "時代の寵児"の未ソフト化作品上映!「松江哲明グレイテスト・ヒッツ」 [第144回]原発事故を描いた『カリーナの林檎』と今関あきよし監督の背負った贖罪 [第143回]"窮屈なモラル"を脱ぎ捨てた裸の女たち 園子温監督の犯罪エロス『恋の罪』 [第142回]ノーベル賞作家・川端康成が夢想した新風俗『スリーピングビューティー』 [第141回]横暴な上司は有志社員が制裁します!『モンスター上司』のブラックな笑い [第140回]"クソみたいな社会を変えたい!"高校生テロリストの凄春『アジアの純真』 [第139回] うつ病なんかヘーキ!? 宮崎あおい主演作『ツレがうつになりまして。』 [第138回]"神話"が生まれる瞬間を目撃せよ! 人類への黙示録『猿の惑星:創世記』 [第137回]刑務所で食する至高の味『極道めし』ヒロインの後ろ姿に、むせび泣き! 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[第42回]誰もが共感、あるあるコメディー! 2ちゃんねる発『ブラック会社』 [第41回]タラとブラピが組むと、こーなった!! 戦争奇談『イングロリアス・バスターズ』 [第40回]"涅槃の境地"のラストシーンに唖然! 引退を賭けた角川春樹監督『笑う警官』 [第39回]伝説の男・松田優作は今も生きている 20回忌ドキュメント『SOUL RED』 [第38回]海より深い"ドメスティック・ラブ"ポン・ジュノ監督『母なる証明』 [第37回]チャン・ツィイーが放つフェロモン爆撃 悪女注意報発令せり!『ホースメン』 [第36回]『ソウ』の監督が放つ激痛バイオレンス やりすぎベーコン!『狼の死刑宣告』 [第35回]"負け組人生"から抜け出したい!! 藤原竜也主演『カイジ 人生逆転ゲーム』 [第34回]2兆円ペット産業の"開かずの間"に迫る ドキュメンタリー『犬と猫と人間と』 [第33回]"女神降臨"ペ・ドゥナの裸体が神々しい 空っぽな心に響く都市の寓話『空気人形』 [第32回]電気仕掛けのパンティをはくヒロイン R15コメディ『男と女の不都合な真実』 [第31回]萩原健一、松方弘樹の助演陣が過剰すぎ! 小栗旬主演の時代活劇『TAJOMARU』 [第30回]松本人志監督・主演第2作『しんぼる』 閉塞状況の中で踊り続ける男の悲喜劇 [第29回]シビアな現実を商品化してしまう才女、西原理恵子の自叙伝『女の子ものがたり』 [第28回]"おねマス"のマッコイ斉藤プレゼンツ 不謹慎さが爆笑を呼ぶ『上島ジェーン』 [第27回]究極料理を超えた"極地料理"に舌鼓! 納涼&グルメ映画『南極料理人』 [第26回]ハチは"失われた少年時代"のアイコン  ハリウッド版『HACHI』に涙腺崩壊! 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人はお下劣な分だけ、強く優しくなれる!? 結婚を控えた女たちの本音『ブライズメイズ』

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ぱっと見は、『セックス・アンド・ザ・シティ』っぽい
オシャレ映画だけど、開けてびっくり、
お下劣ギャグ満載の『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』。
 よく、女子が給湯所やトイレに集まって盛り上がっているじゃないですか。一体、何を話しているのか気になるんだけど、「男子にはちょっと言えない内容ね、グフフ」とか言われるのがオチなわけですよ。そーゆー男子にとっては大秘境にも感じられる、女子たちのブラックボックス的な世界を過激なコメディにしたのが『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』。本作は大ヒットコメディ『40歳の童貞男』(05)のジャド・アパトー監督がプロデュース、『宇宙人ポール』(11)でキリスト教原理主義者の父親に育てられた片目のヒロインを演じたクリステン・ウィグが主演&脚本。でもって、やることは結婚式前夜の独身男たちのアホバカぶりを描いた『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪な二日酔い』(10)の女性版といった趣き。『40歳の童貞男』『ハングオーバー』に負けず劣らずな、下ネタ&アホネタが浅草サンバカーニバルばりの大パレードを繰り広げます。
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アニー役のクリステン・ウィグ(画像左)と
リリアン役のマーヤ・ルドルフ。共に即興
コメディ劇団グラウンドリングス出身で、息が合ってます。
 テーマは結婚式を間近に控えた“女たちの友情”。恋も仕事も崖っぷちな主人公アニーにクリステン・ウィグ、アニーのセンスの良さやユーモアを理解する大親友リリアンに『お家をさがそう』(09)のマーヤ・ルドルフ。この2人、共に同じ即興劇団出身で米国の人気お笑い番組『サタデーナイトショー』で共演していたという実生活でも大親友同士。日本でいえば、WAHAHA本舗で苦労を共にし合った久本雅美と柴田理恵みたいな関係ですか。仕事がうまく行かなくても、男に棄てられても、お互いに悩みをさらけ出し、ジョークにしてゲラゲラ大笑いすれば、元気を取戻すことができたアニーとリリアン。でも、気がつけば、2人ともそろそろアラフォーと呼ばれるお年頃に。久しぶりに会ったリリアンが婚約宣言、しかも相手がエリートサラリーマンだったので、アニーはショックを覚える。表向きは「おめでとう」と言うものの、自分だけ取り残されたコドク感がどこからともなく心の中に吹き込んでくる。さらにリリアンから、やっかいな頼まれ事をされる。花嫁介添え役である“ブライズメイズ”の仕切り役をいちばんの親友であるアニーに務めてほしいと。  もちろん私に任せてよ、と胸を叩いてみせるアニーだが、リリアンが諸々の事情で選んだ4人の花嫁介添え役はかなりの個性派ぞろい。スーパーセレブなヘレン(ローズ・バーン)は、リリアンの婚約者の上司の妻。金銭感覚があまりに違い、やたらとイニシアチブを取りたがる出しゃばりタイプ。アニーにとって唯一の親友であるリリアンを自分の世界に取り込もうとしている。もう1人の要注意人物は、婚約者の妹であるメーガン(メリッサ・マッカーシー)。デヴィッド・フィンチャー監督の『ファイト・クラブ』(99)をこよなく愛する武闘派だ。見るからにトラブルメーカーな匂いをぷんぷんさせているメーガンだが、リリアンにとって義妹になるわけで、介添え役から外すわけにいかない。初対面な上に、ライフスタイルのばらばらなメンバーを束ねて、アニーは大親友の晴れの宴を盛り上げるために途方もない苦労を背負いこむはめに。
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いつもお上品なセレブ妻・ヘレン(ローズ・
バーン)。アニーとはどうも気が合わない
タイプ。女同士の友情は成立するのか?
 『セック・アンド・ザ・シティ』(08)みたいにおしゃれな世界を舞台に、とんでもない下ネタが飛び交う。中でも極めつけは、リリアンの花嫁衣装の試着にみんなで出掛けた日の惨劇。試着前にアニーの薦める安くて美味しいブラジル料理店でランチを取るが、どうも肉料理の素材に不都合があったらしく、メンバーはキリキリと差し込むような腹痛に襲われる。しかも、超高級セレブなブライダルショップでの試着中に。脂汗を流しながら必死で耐えるリリアンたち。おいしいランチが、おそろしいウンチに大変身! まぁ、お下劣と思うでしょうが、でもその後もすったもんだあった挙げ句のクライマックスは意外とすっきり爽快感のある後味。男同士のシンプルな友情に比べ、結婚を機に別世界に嫁ぐことになる女性の場合は嫉妬、世間体、新しいコミュニティとの迎合といった様々な難問が渦巻いているわけで、それらの葛藤を踏み越えた女たちのノーウーマンノークライな絆に、男も知らず知らずに涙腺をピンポイント攻撃されるわけですよ。  人生で最も華やかなメモリアルイベントである結婚式を題材にした作品で、もう一本のお薦めがスパニッシュホラー『REC/レック3 ジェネシス』(4月28日より公開、入場料1000円)。謎のウィルスに感染したアパートの住人たちが次々と凶暴化していく様子を主観映像で追った人気シリーズ。『REC/レック』(07)では報道カメラ、『REC レック2』(09)はアパートに突入した警察隊のCCDカメラによる映像という設定だったけど、今回は感染源であるアパートとは別設定に。結婚式の楽しげ様子を記録していたホームビデオにウィルス感染した列席者たちが続々とゾンビ化していく姿が映し出されるというもの。教会での結婚式というサイコーにおめでたい席が、ゾンビたちによって血に染まるという天国から地獄への急降下していくドライブ感は、観る者の顔を引きつらせる。さらに新郎新婦の親族や親友たちがゾンビ化して襲いかかってくるという恐怖。途中から主観映像という『REC』シリーズのお約束が放り出されることも気にならないほどの阿鼻叫喚っぷりです。
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アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた
メリッサ・マッカーシー。オスカーを受賞した
『ヘルプ』のオクタビア・スペンサーとは
下ネタ対決となった。
 しかし、ラテン女はとことんタフですなぁ。周りがゾンビだらけで花婿は行方不明という絶体絶命な状況の中で、花嫁のクララ(レティシア・ドレラ)は「今日は私にとっての一生に一度のハレの日なのよ!」「絶対に幸せになってみせる!!」と驚異的なサバイバル能力を発揮。花婿の前では楚々としていた花嫁クララだが、ウェディングドレス姿でチェーンソーを振り回し、ゾンビたち(ついさっきまで身内)をバッタバタと八つ裂きにしていく。幸せの邪魔をするヤツは身内でもゾンビでも容赦しねぇ! 花嫁の怒髪天パワーはゾンビを上回る迫力っす。  『ブライズメイズ』と『REC3』を続けて観て思いました。人類が男子だけだったら、もうとっくの昔に人間という種族は滅亡していたんじゃないですかね。気取りを捨てた女は、サイコーに強いよ! (文=長野辰次) prize5.jpg 『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』 監督/ポール・フェイグ 脚本/アニー・ムモーロ&クリステン・ウィグ 出演/クリステン・ウィグ、マーヤ・ルドルフ、ローズ・バーン、クリス・オダウド、エリー・ケンバー、ウェンディ・マクレンドル=コーヴィ、メリッサ・マッカーシー 配給/東京テアトル 4月28日(土)よりヒューマントラスト渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー R15 <http://bridesmaidsmovie.jp> (C)2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED ●深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】INDEX [第167回]行きすぎたシステム社会に警鐘を鳴らす“ユナボマー・マニフェスト”の映画化『モンスターズクラブ』 [第166回]祭りの終わりと新ステージの幕開け、3部作完結『サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』 [第165回]すばらしき“コーマン野郎”の世界!『コーマン帝国』、愛と欲望の歴史 [第164回]懐かしき香り漂う、新感覚サスペンス 破滅へ突き進む男の悲劇『ドライヴ』 [第163回] 災害に備えた地下シェルターは必要? 心理ホラー『テイク・シェルター』 [第162回] 森田芳光監督の最終列車『僕達急行』人生は出会いと旅立ちのリフレイン! 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