
『ウォールフラワー』で我が道を進むサブカル少女を演じたエマ・ワトソン。眼のやり場に困ってしまう衣装で年下男子を悩殺す。
『ハリー・ポッター』シリーズで10年間にわたって魔法少女ハーマイオニーを演じたエマ・ワトソン。10代のほとんどをハーマイオニー役と共に過ごしてきた彼女が、等身大の生身の女の子に扮したのが『ウォールフラワー』だ。アメリカの田舎の高校に通う変わり者の美少女役を実に楽しげに演じている。撮影時21歳だったエマ・ワトソンの輝きを記録した作品として語り継がれることになるだろう。
ウォールフラワーとはパーティー会場などで壁際にいる、ひとりぼっちの人のこと。主人公は高校に進学したばかりの少年チャーリー(ローガン・ラーマン)。内気な性格が災いして、なかなか同学年に友達が作れずにいる。クラス内はあっという間にグループ分けができてしまい、チャーリーはどこにも属することができないはみだし者になってしまった。いつも1人っきりで、昼休みは学食の片隅で黙ってランチを喉に押し込んでいる。卒業までずっとこのままの生活が続くかと思うと気が重い。
アメフト部の対校試合を観戦にきたチャーリーは、ここで一念発起。上級生だけど同じ工作の授業を受けているパトリック(エズラ・ミラー)に思い切って声を掛けてみる。パトリックは学園いちの変人だったが、年下のチャーリーに優しく接し、隣の空いている席を勧めてくれた。学内で初めて口を利いてくれる相手が見つかってチャーリーはうれしくて堪らない。そして、ちょっと遅れて現われたのは眼を見張るような美少女サム(エマ・ワトソン)。パトリックとサムはお互いの親が再婚した義兄妹。2人は学内でどのグループにも属さない異色の存在だった。翌日、パトリックは学食にひとりでいたチャーリーに「一緒にランチしようぜ」と声を掛けてくれた。サムも一緒だ。チャーリーの灰色の学生生活が一気にバラ色に塗り替わった。

学内でどこにも所属できずにいるチャーリー(ローガン・ラーマン)。サムたちに出会うまではスクールカーストの底辺をさまよっていた。
年上の女性・サムは、チャーリーにとって眩しすぎる存在。ダンスパーティーではデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの83年の大ヒット曲「カモン・アイリーン」をBGMに弾けたダンスを披露する。パーティー後の深夜ドライブでは、車から上半身を乗り出してショートヘアをなびかせた姿が神々しい。そしてクリスマスには作家志望のチャーリーのためにタイプライターを用意しただけでなく、特別な贈り物を2人っきりのときにこっそりプレゼントしてくれる。サムにリードされ、チャーリーは大人の階段を一歩ずつ上がっていく。スクールカーストなどに縛られない自由なサムたちに感化されたチャーリーは、今ではキング・オブ・ウォールフラワーとして堂々と咲き誇っていた。
義兄のパトリックとは別に、いつもワイルド系の恋人を侍らせているサム。でも年下のチャーリーには格別に優しい。どうしてサムはチャーリーに親切なのだろうか? サムは自分の美しさを知っている。それが傲慢に感じられないほど、彼女は完璧に美しい。だが、その美しさは永遠に続かないことも彼女は承知している。美少女とは、生命のはかなさと創造主である神の残酷さを知る美しい生き物の呼称なのだ。多分、美少女たちは自分の最盛期の輝きを記録し、後世に語り継いでくれるスクリプターを本能的に欲しているに違いない。サムとチャーリーはとても仲のよい親友となるが、恋人の関係には踏み出せない。上級生と下級生という年齢差以上に、神に選ばれし美少女とその記録係という関係性によって2人はお互いの距離をそれ以上縮めることができない。

パトリック(エズラ・ミラー)の運転で真夜中のドライブへ。彼らにとって、この3人でいるときがいちばんハッピーな時間だった。
原作者であるスティーブン・チョボスキー監督自身の手によって映画化された本作。物語の設定は1991年だが、田舎の高校が舞台ということもあり、80年代の色合いが強い。チャーリーもサムも80年代に活躍したUKバンド、ザ・スミスが大のお気に入りで、リバイバルブームに沸いたホラーミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』(75)のコスプレ上映会に嬉々として参加する。仏教徒でパンクスのメアリー(メイ・ホイットマン)らと一緒になって、映画マニア向けのミニコミ誌づくりに熱中する。UKロック、カルトムービー、ミニコミ誌……。学内の主流派にはなれない、いや主流派になることにまるで興味がない、はみだし者たち文化系の青春が鮮やかに描かれていく。
ヒロインであるサム役に英国人エマ・ワトソンを起用したチョボスキー監督は、エマ・ワトソンの中に孤独な影を感じていたそうだ。美少女は美しければ美しいほど孤独に映る。チョボスキー監督の故郷であるピッツバーグ郊外で撮影は行なわれ、本作のハイライトともいえる車から上半身を乗り出してのドライブシーンの撮影中、エマ・ワトソンは泣き出してしまった。「両手を挙げていたら、気持ちが高ぶっちゃって。間違いなく、あれは私の人生の中で最高の瞬間のひとつだったわ」と振り返るエマ・ワトソン。彼女自身、『ウォールフラワー』の撮影時に人生のあるピークに自分が達していることを悟っていた。
映画とは過去を振り返る表現に他ならない。そこにはすでに失われてしまった美しさが刻まれ、どうしようもない哀しみやはかなさが伴う。その宿命を背負う覚悟がある者だけが、美少女として輝くことができるのだ。『ウォールフラワー』の中のエマ・ワトソンは、泣きたくなるほど美しい。
(文=長野辰次)
『ウォールフラワー』
原作・脚本・監督/スティーブン・チョボスキー 出演/ローガン・ラーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラー、メイ・ホイットマン、ケイト・ウォルシュ、ディラン・マクダーモット、メラニー・リンスキー、ニーナ・ドブレフ、ジョニー・シモンズ、ジョーン・キューザック、ポール・ラッド
配給/ギャガ 11月22日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
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