野球漫画ルーキーズがドキュメンタリー映画に!? 球児を救うはずが借金地獄『ホームレス理事長』

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NPO法人ルーキーズを立ち上げた山田豪理事長。ルーキーズの運営費を調達するため、理事長みずから金策に走り回っている。
 落ちこぼれの高校球児たちが熱血教師のもと甲子園を目指す野球漫画『ROOKIES』はテレビドラマ化、さらに映画化され、大ヒットを記録した。だが、フィクション上の存在であるはずの二子玉学園高校野球部を地で行く野球チームが実在することはご存じだろうか。愛知県常滑市で活動するNPO法人ルーキーズは諸事情から高校をドロップアウトした球児たちに「再び野球と勉強の場を」与えることを目的に2010年に設立されたクラブチーム。全国から集まったルーキーズの選手たちは午前中は高卒資格の取得を目指して勉強し、午後は廃校のグランドに移動してみっちりと汗を流す。人気漫画にあやかって命名されたこのチームに密着取材したドキュメンタリー映画が2月15日(土)より劇場公開される。タイトルは『ホームレス理事長−退学球児再生計画−』。えっ、ホームレス? 落ちこぼれ球児たちが更生していく汗と涙と感動のドキュメンタリーじゃないの。こちらの先入観を思いっきり裏切る想定外のドラマがスクリーン上で繰り広げられる。製作したのは『平成ジレンマ』(11)『死刑弁護人』(12)など一筋縄で済まないドキュメンタリーを次々と放っている東海テレビだ。  おはようございます。朝、あいさつを交わしながらルーキーズのメンバーをカメラが映し始めると、いきなりカメラに向かってガンを飛ばし、つかみかかろうとする新入部員がいる。不用意に近づく相手に噛み付こうとする野獣さながらの眼光が光る。この子たちが野球を通してどう更生していくのか、ワクワクするオープニングだ。やがてカメラは昼休みにひとりぼっちでお弁当を食べている少年を捉える。愛知県の野球強豪校に入ったが、自分だけ練習メニューを外されて球拾いばかりさせられたので1年で退部し、そのまま中退した。親の勧めでルーキーズに入ったものの、ここでもハブられている状態らしい。いじめられっ子が不良ぞろいのチームにどう溶け込むのか、ますます期待が高まる。だが、この少年はいきなり一塁からホームスチールを狙うかのような大暴走を見せる。試合に遅刻した少年は警察に伴われて現われた。沖縄の県立高校を甲子園にまで導いた実績を持つ池村英樹監督に、少年が遅刻したわけを説明する。その理由とは「昨晩、母親とケンカして刃物を持ち出し、自分で自分の手首を切ろうとしました」。そこまで聞いた池村監督は少年の頬を往復ビンタ。ビンタビンタの9連発。2013年に東海エリアでローカル放送された本作は、体罰シーンがあることからフジテレビは全国放送を見送ったが、劇場版ではそのままノーカットで流れる。
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高野連によると2009年の高校野球部入部者は6万1201人、途中退部者は9218人に上る。ルーキーズは高校中退者たちの受け皿となるのか。
 このドキュメンタリーは生半可ではないな。そう思い始めた矢先、カメラはNPO法人ルーキーズを設立した山田豪理事長をクローズアップしていく。グランド、寮、ユニフォーム、室内練習場、移動バスを備えたルーキーズの経営は赤字まみれだ。山田理事長は毎日金策のために走り回っている。チーム運営のためのミーティングに参加できないほど忙しい。夜、ようやく自宅のアパートに戻る理事長。晩ご飯はバナナだけという侘しい中年男のひとり暮らし。それにしても理事長は自宅に戻ってから灯りを点けようとしない。ん、もしかして? そう、ルーキーズの借金返済に追われ、自宅の電気・ガス・水道は停められてしまっているのだ。数日後、理事長はネットカフェで寝泊まりするようになる。家賃を滞納し、ついにネットカフェ難民に。ここまで観た人は誰もが思うだろう。子どもたちの世話を焼く前に、まず自分自身の生活をどうにかしろよッ!  ドキュメンタリーを作る上であまりにも美味しい素材を見つけてしまったのは東海テレビのひじ(「土」に「、」=以下「土」)方宏史ディレクター。本作が初めてのドキュメンタリー番組だ。ところが、美味しすぎる素材を追い掛けるうちに、土方ディレクターたちもただの傍観者でいられなくなってしまう。車の中で待機していた土方ディレクターらは山田理事長に呼び出されて、ぞろぞろと車外へ。そうです、あなたの予感は当たりました。借金返済の期限が迫った理事長は「筋違いかもしれませんが、助けてください」と頭を下げる。土下座までして、取材クルーにお金を無心する。1日だけでいいので20万円ほど貸してほしいと。いや、それはちょっと。「何が足りないのですか?」と泣きながら訴える理事長に対し、土方ディレクターは「被写体に関わることで状況を変えることはできません」とドキュメンタリー取材者としての正論を繰り返すことしかできない。こんな状況を記録できるはずがないと音声マンがマイクを片付けて撤収しようとするのを、カメラマンは片手で引き止める。頭を地面に擦り付け、ボロボロと涙をこぼすこの中年男から、目を逸らすことは許されない。それがドキュメンタリー取材者としての最低限の礼儀なのだ。土方ディレクターによると、このシーンの撮影でカメラマンは泣きながらカメラを回し続けたそうだ。  山田理事長の暴走はますます続く。借金返済に行き詰まった理事長の手には闇金融の借入申込書が握られている。さすがに見かねた取材クルーは「危ないんじゃないですか」と口を挟むが、このときの理事長は驚くほど毅然とした表情で言い放つ。「何が危ないんですか? ルーキーズがなくなって、子どもたちを守れなくなるほうが危ないんです」。もはや誰も理事長を止めることができない。自宅を失いながらも、ルーキーズ存続のために頭を下げて寄付金を募り続ける山田理事長。グランドで子どもたちを厳しく指導する池村監督も前任地・岡山の高校では体罰指導が問題視され、高校球界を去るはめになった過去が明らかになる。理事長にとっても監督にとっても、ルーキーズが唯一の心の拠り所なのだ。このドキュメンタリーは子どもたちが再生を目指す夢物語である以上に、人生の奈落へと追い詰められた大人たちが子どもたちと一緒に何とか再浮上しようと死にものぐるいで足掻き続けるズタボロの物語であることに気づかされる。
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かつて沖縄県下のトップ進学校・那覇高校を夏の甲子園に導いた実績を持つ池村英樹監督。子どもたちと厚い信頼関係を築いている。
 ネットカフェで暮らす山田理事長がパソコンを相手にオセロゲームに興じるシーンが印象的に挿入される。オセロゲームは4つある角を先に抑えることが勝利のセオリーであることは小学生でも知っているが、理事長はあえてこのセオリーの逆を行く。4つの角を奪われて圧倒的に不利な状況から逆転勝利することに喜びを見出す。ひと言でいえば、この理事長はおかしな人、ただの変人にすぎない。でも、そんな変人でなければ、落ちこぼれた球児たちが再生できる受け皿を作ろうなんて思わないし、行動に移さない。頭のいい人はもっと効率よく、お金儲けできるビジネスのほうへ行ってしまう。宮沢賢治の詩に登場するデクノボーそのものではないか。社会から脱落しかかった子どもたちを救おうとして、自分自身が社会の最底辺へと堕ちていく理事長。あまりにも支離滅裂で矛盾に満ちた男をカメラは追い続ける。  およそ4年間にわたってNPO法人ルーキーズを取材してきた土方ディレクターはこう語る。「ボクシングに例えるなら、山田理事長はすでに完全KOされているボクサー。不思議なことに、それでも理事長はリング上に立ち続けているんです。自分からは決して負けを認めようとしない。負けを認めないから、負けることがない。勝つことはないけど、絶対に負けない人。ルーキーズは赤字経営ですが、あの理事長がいる限り潰れることはないと思います」。  このドキュメンタリーはルーキーズの内情をあまりにも赤裸々に伝えており、ルーキーズのプロモーションには全然なりそうにない。だが、とてつもない人間賛歌のドラマに仕上がっている。こんなにデタラメで、無計画で、かっこ悪い人生を送っていても、ルーキーズの理事長は堂々と図太く全力で生きている。どんなに借金まみれになっても、高邁な志だけは掲げることをやめようとしない。……と、何とかいい話でまとめようとしたのだが、クライマックスで理事長は長年取材してきた土方ディレクターもルーキーズ関係者も観客も開いた口が塞がらないような奇ッ怪な行動に走る。生きるということは不可解さの連続である。理事長はそのことを体現化した、まさに生きた教科書だった。 (文=長野辰次) homeless_rijicho04.jpg 『ホームレス理事長−退学球児再生計画−』 プロデューサー/阿武野勝彦 音楽/村井秀清 音楽プロデューサー/岡田かずえ 撮影/中根芳樹 音声/栗栖睦巳 効果/久保田吉根 TK/河合舞 編集/高見順 監督/土方宏史 制作・配給/東海テレビ 配給協力/東風 2月15日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー  (c)東海テレビ放送 <http://www.homeless-rijicho.jp/>

SMマニアとSF愛好家との深くて親密なる関係性、壇蜜主演の特撮コメディ『地球防衛未亡人』

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SMの女王からSF界のニューヒロインへ華麗なる転身を遂げた壇蜜。地球の命運は地球防衛軍のエースパイロット・ダン隊員に託された。
 知性と痴性はよく似ている。まるで双子のようにそっくりだ。進学祝いに辞書を買い与えられた中学生は、接吻、手淫、淫売、肉欲といった熟語を夢中になって調べ始める。痴性を磨くことで知性がぐんぐん高まっていく。そんな知性と痴性との狭間にポンッと花開いた名花が今をときめく壇蜜である。壇蜜主演最新作『地球防衛未亡人』は知性と痴性が、狂気と狂喜が、SMとSFがせめぎあう快感ファンタジーワールドとなっている。  『私の奴隷になりなさい』(12)『甘い鞭』(13)とSM映画に主演することで現代のセクシーアイコンとなった壇蜜をSF映画のヒロインに起用したのは河崎実監督。筒井康隆原作『日本以外全部沈没』(06)やベネチア映画祭に公式出品された『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08)など特撮パロディを撮り続けているバカ映画界の巨匠だ。河崎監督の商業デビュー作『地球防衛少女イコちゃん』(87)はロリ系美少女とSF要素を融合させたもので、萌えカルチャーの先駆的作品として知られる。カリスマフードル・可愛手翔を主演にした学園コメディ『飛び出せ!全裸学園』(95)は記録的セールスとなり、そのオープンマインドな発想はSODの全裸シリーズへと受け継がれた。AKB48人気に便乗したガールズムービー『地球防衛ガールズP9』(11)は“ギミック映画の帝王”ウィリアム・キャッスルへのオマージュ作だった。その時代を象徴するアイドルを起用して、おかしな世界を作り上げ、壊してみせるのが河崎監督の流儀である。そして現代は熟女の時代。河崎ワールドに壇蜜が大人の女の色香を注入している。
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世の殿方を魅了する壇蜜の喪服姿。芸能デビュー前、葬儀関係の専門学校に通っていただけに、喪服の着こなしも決まっている。
 『地球防衛未亡人』は、ラクウェル・ウェルチ主演『女ガンマン 復讐のメロディ』(71)、ユマ・サーマン主演『キル・ビル』(03、04)と同じく、復讐に燃える女の物語だ。今回の壇蜜はボンテージファッションではなく、『ウルトラマン』の科学特捜隊を思わせるオレンジ色の隊員スーツをキリッと着こなす。地球防衛軍に中途採用されたダン隊員(壇蜜)にはかつて最愛の婚約者がいた。向島で芸者をしていたダンだが、婚約者とは結婚式までは清い関係でいようと約束を交わしていた。そんな矢先、宇宙怪獣ベムラスが東京に現われ、婚約者はあっけなく踏み潰されてしまう。私の初夜を返して! 処女のまま未亡人となったダンは復讐を誓い、地球防衛軍に入隊。血の滲むような努力の末にエースパイロットとなっていた。そしてヤツが再び現われた。ベムラスは日中間の領土問題で揺れる東シナ海の孤島に出現、さらに日本列島に上陸し、核廃棄物が山積みされた原発へと迫る。ついにダン隊員が搭乗する最新戦闘機に出撃命令が下る。未亡人と怪獣との戦いの火ぶたが切って落とされた。  的確なミサイル攻撃で怪獣を追い詰めるダン隊員だったが、そんなとき彼女の体に異変が起きる。怪獣を攻撃する度にダンの全身をかつてない快感が貫く。コクピット内でハァハァしてしまうダン。思わぬ醜態を晒してしまい、戦闘機はあえなく撃墜。一命は取り留めたダンだったが、こっそり受けた精神科医(モト冬樹)の分析結果にさらなるショックを受ける。「あなたは立派な変態です」。婚約者の仇を討つために地球防衛軍に入ったのに、そんな自分がただの変態だったなんて。精神科医の投げ掛けた言葉がダンの脳内にエコーする。「あなたは変態です」「あなたは変態です」「あなたは変態です」。  ダン隊員が精神分析を受けるこのシーンは、三島由紀夫の小説『音楽』が元ネタだと河崎監督は語る。増村保造監督によって映画化もされている『音楽』は、「音楽が聴こえない(音楽=エクスタシーの暗喩)」と訴えてきた美女を精神科医がカウンセリングを重ねることで「音楽が聴こえる」ようになるまでを描いた官能系ミステリー小説だ。社会風刺、未亡人、喪服、深層心理、三島文学……。壇蜜というセクシーアイコンを手に入れた河崎監督の痴性溢れる遊び心がまんべんなく施されている。
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精神科医(モト冬樹)のカウンセリングを受けていたダン隊員の様子がおかしなことに……。三島文学へのオマージュシーンです。
 振り返ってみれば、特撮の世界はフェチズムでいっぱいだ。『ウルトラマン』ではフジ隊員が巨人化(ジャイアンテス)し、子どもたちを妙な気分にさせた。『ウルトラセブン』の人気ヒロイン・アンヌ隊員はサイズの小さい隊員スーツを着せられ、いつもムチムチ感を漂わせていた。そんなアンヌ隊員の個室に忍び込んだペガッサ星人はアブない宇宙人だった。『仮面ライダー』に登場するショッカーの怪人・蜂女のおっぱいを見て、うずまきフェチに目覚めた男子も少なくない。『仮面ライダーストロンガー』のミニスカ姿で戦う電波人間タックルの弱々しさには背徳感が満ちていた。SMの世界とSFワールドは人間の深層心理の部分で深く太く繋がっていることが分かる。  精神分析の結果に落ち込み、呑んだくれていたダン隊員だったが、ある言葉に勇気づけられる。「変態だっていいじゃないか。だって人間だもの」。そう、生きている人間は誰もが何かしらの変態なのだ。ただ自分の変態性に気づいていないか、気づいていないふりをしているだけ。世間の常識とは多数派の変態たちの見解にすぎないことを『地球防衛未亡人』はやんわりと教えてくれる。変態であることを含めて自分のアイデンティティーを受け入れたダン隊員にとって、もはや怪獣は恐るべき存在ではなくなっていた。怪獣と、壇蜜と、そして三島由紀夫、みんなちがってみんないい。 (文=長野辰次) cbmiboujin04.jpg 『地球防衛未亡人』 プロデューサー・脚本・監督/河崎実 ユニフォームデザイン/藤原カムイ、怪獣デザイン/麻宮騎亜 特撮/特撮研究所 出演/壇蜜、大野未来、福田佑亮(超特急/ユースケ)、福本ヒデ(ザ・ニュースペーパー)、ノッチ(デンジャラス)、沖田駿一、モト冬樹、堀内正美、森次晃嗣 配給/トラヴィス 2月8日(土)より角川シネマ新宿ほか全国順次公開  (c)2014「地球防衛未亡人」製作委員会  <http://cbm-movie.com>

あなたも億万長者になれる方法、教えます! NY金融道『ウルフ・オブ・ウォールストリート』

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冗談みたいなジョーダン・ベルフォードの実話を映画化した『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。年収49億円のリッチライフがあなたのものに。
 「この映画さえ観れば、あなただって億万長者になれるんです」。ドヤ顔でこちらを見つめるレオナルド・ディカプリオの口から、そんな言葉が聞こえてきそうだ。ディカプリオ主演作『ウルフ・オブ・ウォールストリート』には自己啓発セミナー的な面白さがある。元手がなくても、学歴がなくても大丈夫。ほんのちょっとしたコツを覚えて、ポジティブ思考さえ身に付けさえすれば、たちまち大金が転がり込んできて、美女にモテモテのウハウハ人生を送ることができるようになるんですよ。ウソじゃありませんって。だって、これは実在した伝説の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの成功談なんですから。 1)すべてのピンチはチャンスと思え!  ディカプリオ演じるベルフォートは、いかにして20代で“ウォール街の狼”と呼ばれる男となりえたのか。ベルフォートが最初に勤めた職場、投資銀行の上司ハンナ(マシュー・マコノヒー)が成功への扉を開く鍵を握っていた。ハンナはチョー変人だ。ランチタイムにベルフォートを誘って高級レストランに行くが、食事は注文せずに昼間からテキーラを頼む。平気な顔して、鼻からコカインを吸引する。それも、とてもスマートに。コカインをキメることで頭がシャープになり、仕事の能率がアップするという。さらに1日2回は会社のトイレでオナニーするよう勧める。1日中株価を追い、セールスの電話ばかりしていると頭がバクハツしそうになるから。オナニーすることで血の巡りが良くなり、体がすっきりするというのが彼の持論。オナニーを怠ったばかりに自殺に追い込まれた部下がいたらしい。オナニーをバカにするな。はい、ここ大事です! 上司からブローカーとしての心得を教わり、目をランランと輝かせるベルフォート。ところが入社して半年、1987年10月19日、世に言うブラックマンデーが起きる。株価は暴落し、会社は倒産。上司ハンナともそれっきり。ベルフォートはプー太郎となるも、やる気マンマン! もぐりの株屋に再就職し、快進撃の始まり始まり。
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ディカプリオの相棒役を演じたジョナ・ヒルのアドリブ演技がサイコー! 『グッドフェローズ』のジョー・ペシを思わせる名優ぶりだ。
2)セールスの基本は笑顔と安心感。商品の中身は関係なし!  青木雄二の漫画に出てきそうな、詐欺まがいの株屋で再スタートを切ったベルフォート。ここでは“ペニー株”と呼ばれる安いけれどリターンの見込みのないうさん臭い株を扱っている。すでにウォール街でトーク術を学んだベルフォートは、巧みなセールストークでビンボー人にペニー株を売りつけまくる。ビンボー人は株についての知識がないから、ペニー株の実体を知らずにホイホイ買ってしまう。ゴミをゴミ回収車に手渡す感覚だ。ビンボー人からお金を巻き上げるのはチョー楽勝。とはいえ、いつまでもビンボー人を騙し続けるのはしんどい。そこでベルフォートは気の合うドニー(ジョナ・ヒル)らゴロツキ仲間たち6人で新たに証券会社を設立。警戒心の強いお金持ちを相手にするのはビンボー人相手より難しいが、財布さえ開かせてしまえば後は簡単。だってお金持ちはビンボー人よりも強欲だから。最初だけディズニー株など“ブルーチップ”と呼ばれる優良株を紹介し、安心させてから“ペニー株”を大量に売りつける。ベルフォートはこのとき26歳。会社は瞬く間に成長し、ベルフォートの年収は何と49億円に! 3)金髪美女を侍らせろ。仕事の意欲がぐんぐん湧くぞ!  ブローカーたるもの、常にイケイケドンドンでなくてはならない。ベルフォートにドニー、会社の幹部そろって仲良くドラッグをキメる。重役会議はみんなハイハイハイ! かつての上司ハンナは1日2回オナニーしろと言ったけど、忙しくて手が離せないので、アシスタントの女の子に抜いてもらう。男性社員は誰もがこの子のお世話になった。社員みんなでスキンシップ♪ さらに社員への福利厚生として、ストリッパーやコールガールたちを職場に呼び込む。オフィスはもはや乱交パーティー状態だ。でも、そのぐらいのハイテンションさをキープしていないと、ウォール街でのし上がっていくことはできない。金持ちからお金をむしり取るベルフォートのことをマスコミは「現代のロビンフッド」と評する。ゴージャスな美女ナオミ(マーゴット・ロビー)と再婚し、大豪邸への帰宅は深夜タクシーならぬ深夜ヘリコプター、豪華クルーザーを海に沈めても平気なベルフォート。腰が痛くても、ドラック依存症になっても、決して弱音は吐かない。ギンギンギラギラ、株を売って売って売りまくれ~!
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2番目の妻ナオミを演じたマーゴット・ロビーは豪州出身の23歳。ゴージャスなスーパーボディを惜しみなく披露してくれる。
 本作を撮ったのは、ディカプリオとは5度目のタッグとなるマーティン・スコセッシ監督。前作『ヒューゴの不思議な発明』(11)で好々爺化したかと思いきや、ベルフォートたちを金融界のギャングスターに見立てることで傑作『グッドフェローズ』(90)や『カジノ』(95)ばりのクレイジーさが復活! 男たちは金の亡者となり、女たちはすっぽんぽんで、み~んな欲望丸出しの世界。敬虔なカトリック信者であるスコセッシ監督が描く、現代のソドムの市ですよ。とことん下品だが、ベルフォートら登場人物はみんな自分の欲望に正直に生きているという清々しさがある。ディカプリオが資金を集め、スコセッシ監督が撮りたいように撮れる製作環境をセッティングしたとのこと。ディカプリオ自身も出世作『ギルバート・グレイプ』(93)以来と思われる好演技を見せている。世間の常識や社会的倫理観にさえ縛られなければ、人間にはとんでもない可能性がまだまだ隠されていることを本作は教えてくれるのだ。  結局、ベルフォートは株価の不正操作とマネーロンダリングの罪を問われて、36歳で金融界を去ることになる。裁判で有罪判決を受けるものの、監視のいちばんユルい収容施設で3年間おとなしく過ごすことで釈放された。今回、ディカプリオが役づくりするのにベルフォート本人が協力したそうだ。スピーチが得意だったベルフォードは全社員をフロアに集めて、こう言ったという。 「オレのやり方をクレイジーだと思うか? そう思うヤツは今すぐ、この会社から出ていけ。そしてマクドナルドでアルバイトでもしてろッ」。人に扱き使われる人生とクレイジーな人生、あなたならどっちを選ぶ? (文=長野辰次) wows04.jpg 『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 原作/ジョーダン・ベルフォート 製作/マーティン・スコセッシ、レオナルド・ディカプリオ 監督/マーティン・スコセッシ 出演/レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マシュー・マコノヒー、マーゴット・ロビー、ジャン・デュジャルダン、ロブ・ライナー、ジョン・ファブロー、カイル・チャンドラー 配給/パラマウント ピクチャーズ ジャパン R18+ 1月31日(金)より全国ロードショー  (c)2013 Paramount Pictures.All Rights Reserved <http://www.wolfofwallstreet.jp>

感染する“暴力”の恐怖『KILLERS/キラーズ』日本製殺人マシンとインドネシア産毒蛇の邂逅!

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暴力に取り憑かれた人間のおぞましさを描いた『KILLERS/キラーズ』。不快な効果音、揺れる映像が不気味さを増長している。
 日本とインドネシアとの初合作映画『KILLERS/キラーズ』は、誰にでも簡単に手に入る麻薬を題材にしている。その簡単に手に入る麻薬とは、“暴力”という名の非常に中毒性の強いドラッグのことだ。暴力によるサディスティックな悦びを一度覚えてしまうと、その快感を忘れることができなくなってしまう。暴力を振るううちに脳内物質が過剰分泌され、中毒症状に陥ってしまうのだ。まるでスナック菓子を食べ始めた手が止まらなくなるように、際限なく暴力を振るうようになっていく。しかも、この映画はその中毒性の強い暴力がネットを介して連鎖していくという、さらなる恐怖を描いている。  本作は合作映画らしく、東京パートとジャカルタパートとの2つのドラマが同時進行していく。東京パートの主人公はしゃれたスーツを着こなすダンディな男・野村(北村一輝)。洗練された外見とは裏腹に、野村は快楽殺人鬼というおぞましい素顔を持っていた。街角にひとりで佇む若い女性や街娼を自分の車に誘い込んでは、自宅の監禁部屋へと拉致する。獲物にじっくり恐怖を味わせた上で、様々な凶器を使って血祭りにする。さらに、その様子をネットで中継するという完全なる精神異常者だ。今日も獲物を求めて、野村は夜の街へと繰り出していく。
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サイコパスである野村(北村一輝)の監禁部屋には様々な凶器と拷問用具一式がそろっている。若くて美しい女性が野村のターゲットだ。
 ジャカルタパートの主人公はフリージャーナリストのバユ(オカ・アンタラ)。好景気に湧くインドネシアでは、お金を稼いだ人間が成功者として賞讃されている。金と権力にモノを言わせる街の有力者・ダルマの悪行をバユは暴こうとするも、逆に仕事を干されるはめに。激しいフラストレーションを抱えたバユは、ふとネット上で野村の殺人動画を見てしまう。常規を逸した映像にショックを受けるのと同時に、過激な映像を最後まで見たがっている自分がいることに気づいた。ある晩、深夜タクシーに乗ったバユはひと気のない場所に連れていかれ、強盗団から銃を突き付けられる。その瞬間、何かが弾けた。これは正当防衛だ。バユは奪い取った銃を強盗団に向けて発砲する快感に酔いしれる。チャットでコンタクトするようになる野村とバユ。野村は自分の仲間が見つかったとはしゃぐ。生まれながらのモンスターが潜在的なモンスターを目覚めさせてしまったのだ。  インドネシアの伝統的格闘技シラットが全編にわたって炸裂するアクション快作『ザ・レイド』(11)が世界的大ヒットとなったギャレス・エヴァンス監督が製作総指揮。続編『ザ・レイド GOKUDO』を製作中のギャレスが本作の監督に推したのは、インドネシアの新進クリエイターコンビであるモー・ブラザーズ。食人一家を主人公にした『マカブル 永遠の血族』(09)で長編デビューを果たしたティモ・ジャヤントとキモ・スタンボエルという若手2人組だ。ティモはギャレスとの共同監督名義で『V/H/S ネクストレベル』(1月24日公開)の中でカルト宗教団体の集団自死事件を題材にした凶烈エピソードを撮っている。相方のキモは中田秀夫監督の『リング』(98)をはじめとする日本映画に多大な影響を受けたと話す。日本とインドネシアとの初合作プロジェクトを進めたのは、日活の千葉善紀プロデューサー。園子温監督の大ブレイク作『冷たい熱帯魚』(11)や今年の映画賞レースを賑わす実録犯罪映画『凶悪』(13)などの問題作を次々と放っている要注意人物だ。野村とバユ同様に非常に危険な顔合わせとなっている。
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ペンの力では悪を倒せないことを思い知らされたフリージャーナリストのバユ(オカ・アンタラ)は、直接的な暴力で訴えるようになる。
 影響を受けた日本映画に『リング』を挙げるモー・ブラザーズだが、本作も貞子の呪いのビデオのように、野村がネット上にアップした殺人動画が感染源となって現実世界で暴力が広まっていく。呪いのビデオは超常現象だが、本作で扱われる“スナッフ映像”はかつては都市伝説だったものがネット文化の普及によって実際に見ることができるようになったものだ。情報だけでなく、暴力も手軽にダウンロードできる時代になってしまった。平和主義者を自認していたバユは、社会悪であるダルマを制裁するという大義名分を見つけたことで暴力に手を染めていく。口実さえあれば、誰もが簡単に暴力の虜になってしまうのだ。また、人間の中には根源的な暴力性が潜んでいることも否定できない。他の種を上回る暴力性・攻撃性があったからこそ、人類は地上に生き残ってきたのではないか。その反面、人類の歴史は自分たちの体の中に流れる暴力性をいかに抑制するかを試行錯誤してきた歴史でもあったはずだ。暴力とどう向き合うかは、いわば人類に架せられた永遠の命題なのだ。  クールな日本製殺人マシンである野村とインドネシア社会に巣食う宿痾を凝縮した毒蛇と化したバユは、やがて運命的な邂逅を果たす。そのとき、一体何が起きるのだろうか? インドネシアと日本との合作である『キラーズ』は、毒と毒を掛け合わせた開発中の新薬のような劇毒ムービーとなっている。暴力に取り憑かれた人間の狂気を疑似体験させてくれるが、観た人にどんな副作用をもたらすか分からない。勇気ある人は新薬実験の治験のように試してみてほしい。 (文=長野辰次) killers04.jpg 『KILLERS/キラーズ』 製作総指揮/ギャレス・エヴァンス 監督/モー・ブラザーズ 脚本/ティモ・ジャヤント、牛山拓二 出演/北村一輝、オカ・アンタラ、高梨臨、ルナ・マヤ、黒川芽以、でんでん、レイ・サヘタピー  製作・配給/日活 R18+ 2月1日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開  (c)2013 NIKKATSU/Guerilla Merah Films <http://www.killers-movie.com> 『V/H/S ネクストレベル』 監督/エドゥアルド・サンチェス、ギャレス・エヴァンス、ティモ・ジャヤント、ジェイソン・アイズナー、アダム・ウィンガード、サイモン・バレット、グレッグ・ヘイル 配給/クロックワークス R18+ 1月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開  <http://vhs-horrormovie.com>

コドクな青春が生み出した『ヌイグルマーZ』は大槻ケンヂ、中川翔子、井口昇の特撮愛の結晶!!

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『エヴァンゲリヲン』の鶴巻和哉&コヤマシゲトがコスチュームデザインしたヌイグルマー(武田梨奈)。腰のくびれがキュートです。
 ぬいぐるみを解剖すると中には綿しか詰まっていないわけだが、その綿は単なる白綿ではないことに気づいたのが大槻ケンヂだ。ぬいぐるみは多くの子どもたちにとって初めての友達。ぬいぐるみの綿には子どもたちが感じるコドク感や恐怖心、前世の記憶、未来への憧れと冒険心、そういった諸々の想いがヴァージンオイルのように染み付いている。ぬいぐるみは子どもにとってサイコーの仲間であると同時に、やがて子どもが成長していくと忘れ去られてしまう哀しい定めを持ち合わせている。まさに、悪を倒して人知れず去っていく正義のヒーローそのものではないか。大槻ケンヂが2006年に発表したSF小説『縫製人間ヌイグルマー』が、中川翔子主演&井口昇監督作『ヌイグルマーZ』として映画化された。  大槻ケンヂ、中川翔子、井口昇の3人に共通しているのは、学校の休み時間を水飲み場でひとりぼっちで過ごしていたという過去。今でこそ特異な才能を発揮しまくっている3人だが、思春期の頃の彼らは特異な才能を表現する手段を知らず、コドクさに悶々としていた。3人のそんな想いをピンク色の糸でしっかりと縫い合わせてみせたのが、若きアクション女優・武田梨奈だ。井口監督とはホラーコメディ『デッド寿司』(13)でタッグを組み、中川翔子と同じくジャッキー・チェンの大ファン、また空手の黒帯であることから“史上最弱の空手家”大槻ケンヂとは格闘技つながりがある。武田梨奈がピンク色のコスチュームをまとった快人ヌイグルマーに変身することで、3人のコドクな思春期の思い出はひとつに重なり、莫大なエネルギーが生じる。死にたくなるほど退屈だったかつての日常風景は、豊饒すぎるワンダーランドへと変わっていく。本来は裏方であるスーツアクターの武田梨奈がキラキラと輝く。そう、ヌイグルマーが活躍する世界はコドクな人たちこそがイマジネーションたっぷりなリッチマンとなり、イジメや不登校といった暗い過去を持つ人が過去の重石から解き放たれて空さえ飛ぶことができる痛快なパラレルワールドなのだ。
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宅配カレーで働くロリータ娘のダメ子(中川翔子)は、綿状生命体が宿るテディベアのブースケと合体することでヌイグルマーに変身する。
 原作のエッセンスをしっかり吸収した上で、中川翔子、武田梨奈ら女優陣の魅力が活きるように井口監督らしいオリジナル性が加えられた『ヌイグルマーZ』。天涯孤独で何をやっても失敗ばかりのダメ子(中川翔子)が唯一の肉親である姪の響子(市道真央)を守るために悪の組織と戦う物語となっている。両親のいない響子を見守っているのはダメ子だけではない。亡き母(平岩紙)から誕生日プレゼントとして渡されたテディベアのブースケ(声:阿部サダヲ)には宇宙から飛来してきた綿状生命体が宿っており、響子のことを“姫”として守ることを生き甲斐としていた。響子にゾンビの群れが迫る絶体絶命の瞬間、ダメ子とブースケは合体してショッキングピンクの快人ヌイグルマーへと変身するのだった。  ヌイグルマーと悪の組織が戦う舞台は“日本のインド”と呼ばれる杉並区高円寺。それゆえにインドで修業したターバン巻きの特撮ヒーロー『愛の戦士レインボーマン』の香りがどことなく漂う。ダメ子たちに襲い掛かる悪の組織は『レインボーマン』に登場した“死ね死ね団”によく似ている。悪の組織の幹部たちが実に魅力的なのだ。テレビ番組で一度だけインチキしたことからバッシングされた超能力少年キルビリー(武田梨奈2役)、井口監督の代表作『片腕マシンガール』(08)の姉貴分といえる片腕ロリータ(高木古都)、赤ちゃんなのにエッチ大好きな赤ちゃん人間(ジジ・ぶぅ)と味のあるキャラぞろい。死ね死ね団の女性幹部たちといい勝負できそうだ。
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悪の首領・タケシ(猫ひろし)と女性幹部たち。世界中を平等な不幸にしてしまうことが彼らの目的だ。まずは高円寺から。
 そして悪の首領には、ロンドン五輪出場の夢を叶えることができなかった猫ひろし。彼の五輪出場の是非はともかく、マラソントレーニングで流した汗の量はホンモノだったはずだ。猫ひろしの破れ去った夢のむなしさの分だけ、ヒール役としてのまがまがしさが際立つ。悪の首領・タケシの願いはただひとつ。世界中の人たちを平等に不幸にすること。みんな不幸になれば、もう社会格差で悩むこともなく、他人の幸せを妬むこともなくなる。某健康食品のセールスのように、彼らは善意から人々を不幸にしようする。それが彼らにとっての正義であり、親切心なのだ。歪んだ善意を押しつけようとするタケシとすべての哀しみに寄り添おうとするヌイグルマーは、必然的に引き寄せ合うことになる。  この世界には言葉にならなかった想いや叶えられなかった夢の残骸といった、世間からはガラクタ扱いされてしまったモノで溢れ返っている。そんな不要品の感情や記憶を、ヌイグルマーはecoエネルギーへと変換する。無尽蔵のエネルギーを秘めたヌイグルマーは無敵の存在だ。コドクに打ち震える人たちに温かい勇気を与え、かつてコドクだった人たちの暗い過去を否定することなく、優しくふんわりと受け止めてみせる。今までにないフェミニンなニューヒーローの誕生である。ヌイグルマーはいつでも、どこにでも現われる。この世にコドクな人がいる限り。黒いボタンの瞳で、あなたのことをじっと見守っている。 (文=長野辰次) nuiguruma04.jpg 『ヌイグルマーZ』 原作/大槻ケンヂ 脚本/井口昇、継田淳 ヌイグルマーデザイン/鶴巻和哉、コヤマシゲト 主題歌「ヌイグルマーZ」特撮×中川翔子 出演/中川翔子、武田梨奈、市道真央、猫ひろし、高木古都、北原帆夏、ジジ・ぶぅ、斎藤工、平岩紙 声の出演/阿部サダヲ、山寺宏一 配給/キングレコード、ティ・ジョイ 1月25日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー  (c)2013ヌイグルマーZ/フィルム・パートナーズ  <http://ngz-movie.com>

アイドル映画の常識決壊! BiS主演『アイドル・イズ・デッド ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』

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『マッドマックス2』(81)を思わせるディストピアな世界で、アイドルグループBiSのサバイバルストーリーが繰り広げられる。
 女性アイドルの多くが純真さ、可憐さを売りにしているのに対し、2012年にエイベックスからメジャーデビューを果たしたアイドルグループ・BiS(新生アイドル研究会)の魅力は過激さにある。メンバー全員が全裸で樹海を駆け回る「MY l×××」のPVはユーチューブ再生回数が180万回を越え、世界的なノイズバンド・非常階段との合体ユニット「BiS階段」としてライブを行うなど予測不能なパフォーマンスで注目を浴びている。アイドルグループというよりもパンクバンドを思わせる破天荒さだ。ライブではスクール水着姿で客席にダイブし、また握手会ならぬハグ会で研究員(BiSファン)と交流するなど、既成のアイドルイメージを徹底的に破壊しまくる彼女たちは、主演映画でも“アイドル映画”の概念をズタボロに打ち砕いてしまう。BiS主演作『アイドル・イズ・デッド ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』は、かつてないアナーキーさに満ちた新生アイドル映画となっている。  『──ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』の前日談となっているのが1月8日(水)にDVDリリースされるBiS初主演作『アイドル・イズ・デッド』(12)。インディーズ映画シーンで活躍する加藤行宏監督が撮った60分の中編映画『アイドル・イズ・デッド』からしてすでに異形のアイドル映画だった。路上で難癖付けてきた先輩アイドルたちを殺害し、アリバイ工作のために成り済ましアイドグループとして結成された“BiS”。追跡の手が迫り、またメンバー間で内紛が起きる中、BiSがステージデビューを果たすまでの舞台裏を描いた血まみれのアイドル成功譚だった。AKB、ももクロ、モー娘。、地下アイドルにローカルアイドルと戦国時代と化したアイドルシーンをブラックコメディ化してみせた。  前作で殺人を犯してまでステージに立つことに固執したBiSだが、さらに本作では暴力まみれ、汚物まみれ、原発再稼働問題といったアイドル映画としてのタブー要素がてんこ盛りとなっている。BiSの中心メンバーであるルイ(プー・ルイ)、そして殺人事件の巻き添えをくらったユフ(テラシマユフ)は留置所に拘束中。BiSは初ステージ1回きりで活動中止に追い込まれた幻のアイドルとして伝説となっていた。そんな中、実刑をまぬがれた唯一のメンバー・ノンちゃん(ヒラノノゾミ)はアイドル志望の若い子たちを集め、新生BiSを目指してトレーニングに明け暮れる。学生時代は引きこもりだったノンちゃんは、BiSとしてスポットライトを浴びたことがきっかけでポジティブキャラへと変貌を遂げていた。
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獄中にいたルイ(プー・ルイ)は危険な洗脳実験の被験者になることを志願。すべてはシャバに出て、アイドルになるため。
 だが、BiS不在の間に3人組アイドル“エレクトニック・キス”が圧倒的な人気を博するようになる。エレキスは放射能漏れ事故で問題視されているハピネス電力が原発のイメージアップのためにプロデュースしているアイドルユニットだ。巧みなプロパガンダ展開によって、今やエレキスは国民的アイドルに。さらにノンちゃんが驚愕する事態を迎える。エレキスに新メンバーとして加入したのは、何と獄中にいるはずのルイ! 無期懲役が確実だったルイは洗脳実験の被験者となることで釈放されたものの、洗脳されてBiSとしての記憶を失っていた。しかも、エレキスはアイドルとは異なる、恐ろしい裏の顔を持っていた。ハピネス電力の陰謀に気づいたノンちゃんは、獄中から脱走したユフ、そして新メンバー候補のミッチェル(ミチバヤシリオ)と共にエレキスが出演するアイドルフェスへ殴り込みを決行する。  売れるために原発推進のプロパガンダにあえて利用されるエレキス、殺人&脱獄してまでステージに上がるBiS。どちらが正しいとか悪いといった勧善懲悪のストーリーではなく、どっちがアイドルとしててっぺんに立てるかという女同士の情念剥き出しの対バン勝負が見どころ。早見あかり在籍時のももクロが出演した『NINIFUNI』(12)や宮藤官九郎脚本&仲里依紗出演の『ゼブラーマン ゼブラシティの逆襲』(10)も異色のアイドル映画だったが、原発問題を扱った映画に現役アイドルグループが嬉々として主演を張っていることには驚きを覚える。アイドルは政治問題には関わらないものというこちらの思い込みまで、BiSは木っ端みじんに砕いしてしまう。BiS、こいつらかなりヤバいよ!  BiSよりルックス、歌唱力、ダンスパフォーマンスで上回るアイドルたちは数多くいるだろうし、演技力が突出しているわけでもない。しかし、アイドルの魅力は未完成さにあり、その未完成さを補完しようとファンは過剰に感情移入してしまう。それこそがアイドル映画の醍醐味なのだ。まず『──ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』のオープニングでヤンキー女子高生たちを相手にしたルイの男気溢れる暴れっぷりに観客は魅了され、さらにはアイドルらしからぬノンちゃんがアイドルであることにこだわり続けることで次第にアイドル然として映ってくるからアラ不思議。ファンならずともBiSがどんなステージを見せてくれるのか気になって仕方なくなる。
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350人の研究員(BiSファン)が埼玉と群馬の県境まで駆け付けたBiSのステージシーン。BiSライブの熱狂ぶりが伝わってくる。
「私たち新生アイドル研究会、BiSです♪」と彼女たちが微笑めば、獄中だろうが原発が煙を上げるディストピアだろうが、そこがBiSのステージとなる。そして、ついにBiSの復活ステージが始まる。いつしか非研究員である自分もエキストラの一員となって、BiSを取り囲んでぐるぐるとライブ会場を走り出していることに気づく。ただかわいいだけの女の子なら誰でもアイドルになれるわけではない。ファンを陶酔させ、その陶酔の渦の中に身を投じて、ファンと一体化してみせる存在こそが真性アイドルである。偶像であるアイドルはファンと一体化することで初めてアイドルとして完成するのだ。  あまりに過激路線を突っ走ってきたことからBiSはメンバーチェンジも激しく、『──ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』の撮影終了後にユフとミッチェルは脱退。新メンバーを加え現在6人編成となったBiSだが、2014年はいよいよブレイクが確実視されている。はたしてブレイク後も過激路線のまま突っ走れるのか。そのことはプー・ルイたちも自覚しており、夏に予定されている武道館ライブをゴールにBiSは解散することが決定事項となっている。過激さがなくなったらBiSじゃない。過激なまま、突っ走れるところまで突っ走ってやれ! この潔い過激さもまた心地よい。  公開初日となる1月11日(土)には、BiSがまたまた何かブチ上げるに違いない。新生アイドルから真性アイドル、そして神聖アイドルへ。BiS伝説のクライマックスが幕を開けようとしている。 (文=長野辰次) idleisdead04.jpg 『アイドル・イズ・デッド ノンちゃんのプロパガンダ大戦争』 監督・脚本/加藤行宏 BiS(プー・ルイ、ヒラノノゾミ、テラシマユフ、ミチバヤシリオ)、三浦透子、柳英里紗、金子沙織、水澤紳吾、國武綾、大島葉子、三輪ひとみ 配給/SPOTTED PRODUCTION 1月11日(土)よりテアトル新宿にてレイトショー(以後、全国順次公開) (c)2014『IID2』製作委員会 <http://www.idolisdead.com>

人生観さえ一変させる遅効性のドンデン返し!! 贋作に残した愛の証『鑑定士と顔のない依頼人』

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名作『ニュー・シネマ・パラダイス』の進化形ともいえる『鑑定士と顔のない依頼人』。時間の経過に伴って印象が変わる奇妙な作品だ。
 『鑑定士と顔のない依頼人』をラストシーンまで見届けた直後は、誰しも「とんでもない悲劇だ!」と打ちのめされるだろう。だが、この映画の奇妙な面白さは、鑑賞を終えてから家路へと向かう途中で、じわじわと別の感慨が湧いてくるところにある。口の中に残っていた後味が、時間が経過するに従って、まるで違った複雑な味わいへと変化し始めるのだ。本作を撮り上げたのはイタリア映画界の名匠ジェゼッペ・トルナトーレ監督。『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)の鮮やかなラストシーンで映画ファンを号泣させたトルナトーレ監督だが、本作で仕掛けたラストシーンはより苦く、より深い哀しみに満ちている。大人向けの極上深煎りブレンド風味なのだ。この一杯の極上ブレンドを飲み干すことで、これまで観てきたすべての映画の印象や人生の価値観までも一変するかもしれない。そのくらい強烈なインパクトのある結末が待ち構えている。  主人公のヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は鋭い審美眼を持った美術品の鑑定士。両親の愛情を知らずに育ち、鑑定士およびオークショニア(競売人)として成功を収めたものの、誰も信用することなく優雅な独身生活を送っていた。高級ホテルのような豪邸で暮らす潔癖性の彼には裏の顔があり、元画家のビリー(ドナルド・サザーランド)と組んで名画を格安で落札しては、こっそり自分のものにしていた。ヴァージルしか入れない秘密部屋の内装が圧巻だ。ルノワール、モディリアーニ、ゴヤ……といった人気画家たちが描いてきた古今東西の美女たちの名画300点が壁中に飾られ、ヴァージルのことをじっと見つめている。いつまでも年をとらない二次元の美女たちに囲まれて、ヴァージルはうっとりする。コドクな初老の男にとっての至福極まりない空間だった。  寡黙な美女たちと共に一生を終えるつもりだったヴァージルの人生が、1本の電話によって大きく変わることになる。電話の声は若い女性で「両親が屋敷に残した遺品類を鑑定してほしい」と頼んできた。ヴァージルが屋敷に出向くと確かに彼好みの年代物の家具や美術品が多く、オークションに出品すれば相当の額になりそうだった。だが、鑑定を依頼してきた女依頼人は電話を掛けてくるだけで、一向に姿を見せようとしない。それまで生身の女性に興味を持つことがなかったヴァージルだが、声しか分からない女依頼人の正体が気になって仕方なくなる。やがて依頼人であるクレアは15歳のときにプラハである事故に遭遇し、それ以来“広場恐怖症”を患っていること、そして10年間以上も屋敷の奥にある隠し部屋に引きこもっていることが分かる。人間嫌いの鑑定士と引きこもりの女依頼人。2人は壁を挟んで次第に惹かれ合っていく。
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オークション会場を支配するオークショニアのヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)。美術品に対して絶対的な審美眼を誇っていたが……。
 本作の重要なキーワードとなっているのは、ベテラン鑑定士であるヴァージルが語る「贋作者は必ず痕跡を残す」という台詞だ。凄腕の贋作師の手にかかれば、名画と贋作の区別は一般人にはまるで分からない。贋作には贋作師によって、オリジナルの名画に匹敵するほどの狂おしい情熱が込められている。だが、それゆえに贋作師は贋作の中に誰も気がつかないような小さなサインをつい残してしまう。「すべての偽りには本物が隠されている」とヴァージルは説くが、そこが贋作の哀しさ。どんなに観る人の心を打つ作品だろうが、贋作は世間から評価されることがない。ヴァージルは贋作師が残した小さなサインを見つけ出しては、名画と贋作の違いを見極め、売れっ子鑑定士としての名声と富を得ていた。  生身の女性・クレアと知り合ったことで、ヴァージルのそれまでのモノクロのような生活が次第に色彩を帯びていく。隠し部屋にこもったままのクレアの姿をどうしてもその目で確かめたいヴァージルは、顔馴染みの修理工ロバート(ジム・スタージェス)にアドバイスを乞い、ようやくクレアとの初対面を果たす。10年以上も屋敷内にこもって暮らしていたクレア(シルヴィア・ホークス)は純真無垢なる美女だった。これまで女性と縁がなかったのはクレアと出会うためだったのだとヴァージルは浮かれ、自分のコドクだった過去にさえ感謝するようになる。クレアの広場恐怖症は時間をかけて気長に少しずつ治していこう。ずっと自己チューで高慢ちきだったヴァージルの態度が、クレアとの愛を育み始めてから日に日に柔らかくなっていく。恋はあらゆる人間を変えてしまう。
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ヴァージルに恋愛指南する修理工のロバート(ジム・スタージェス)。屋敷に残されていた部品から“からくり人形”を再現してみせる。
 ミステリー好きな人なら、本作のクライマックスに用意された大ドンデン返しは、ある程度予測できたに違いない。だが、本作の魅力はネタバレによって損なわれるものではないし、劇場では2回目以降は1000円で鑑賞できるリピーター割引キャンペーンを行なっている。絵画と同じで、観た人によって、また観る度に本作の印象はまるで違ったものに感じられる。さらに言えば、これまでバッドエンドムービーだと思い込んでいた作品も実は違った一面を持っていたのではないか、ハッピーエンドだと受け止めていた作品もそんな安直なラストではなかったのではないかという想いがもたげてくる。これまで自分が観てきたあらゆる映画の印象さえも、まるでオセロゲームのように一気に塗り変わってしまいかねない。それほど深い余韻をもたらす、二重のドンデン返しとなっている。一度目は劇中で、そして二度目は観た者の脳内で起きるドンデン返しだ。  ラストシーンの意味を咀嚼し、自分の体内での消化が進むにつれ、本作のドンデン返しは映画の解釈だけに留まらないことにも気づかされる。自分の心の中に古傷として残っている苦い恋愛体験さえも、愛おしく感じられるようになるのではないだろうか。サイアクな別れ方をしてしまった封印したい記憶だとしても、それは自分が生きてきた証でもあるのだと。「すべての偽りには本物が隠されている」という劇中の台詞がずっと口の中で溶けずに転がり続ける。映画という虚構の中でしか描けない真実が、だまし絵のようにこの映画には潜んでいる。 (文=長野辰次) kanteishito04.jpg 『鑑定士と顔のない依頼人』 監督・脚本/ジュゼッペ・トルナトーレ 音楽/エンニオ・モリコーネ 出演/ジェフリー・ラッシュ、ジム・スタージェス、シルヴィア・ホークス、ドナルド・サザーランドほか 配給/ギャガ 12月13日よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開中 PG12 (c)2012 Paco Cinematografica srl. http://kanteishi.gaga.ne.jp

“食べることと、ただ殺すことはまるで違う!”レース未勝利馬の数奇な運命を追う『祭の馬』

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福島で被災した馬たちの行方を追った『祭の馬』。ドバイ国際映画祭のアジア・アフリカ・ドキュメンタリー部門でグランプリを受賞した。
 勝つことが義務づけられた競走馬として生まれながら、負け続けることで生き残った不思議な元競走馬がいる。2007年青森県生まれの牡馬ミラーズクエストは、10年に中山競馬場でデビューするも16頭中16位に終わった。その後も負け続け、競走馬としての成績は4戦0勝、獲得賞金0円という結果だった。11年1月には地方競走馬登録を抹消され、肥育馬として福島県南相馬市の馬主のもとへと引き取られる。肥育馬とは食肉用に育てられる馬のことだ。性格的に難のあるもの、怪我をしたもの、勝ち運から見放されたもの、競走馬の多くは遅かれ早かれミラーズクエストと同じ道をたどる。同年3月、東日本大震災が起き、ミラーズクエストたちのいる厩舎も津波に呑まれた。震災を奇跡的に生き延びることができたミラーズクエストだが、今度は“被災馬”というレッテルを張られることになる。一頭の元競走馬の足取りを追ったドキュメンタリー映画『祭の馬』は、カート・ヴォネガットのSF小説『スローターハウス5』を思わせるブラックな笑いと社会風刺に満ちた内容となっている。  震災直後から南相馬市に通い続けたのは『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』(12)を撮った松林要樹監督。「テレビのニュースから省かれたものこそ、ドキュメンタリー映画にしたい」というのが松林監督の信条だ。『相馬看花』では福島第一原発から20km圏内にある自宅に一時帰宅を許された夫婦が持ち出す品物をめぐってケンカを始める様子をユーモラスに映し出していたが、今回もテレビのニュース番組では使われることがないショットがスクリーンに大写しとなる。主人公である牡馬ミラーズクエストのおちんちんが真っ赤に腫れ上がり、ずっとぶらぶらしたままなのだ。
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震災を生き延びたミラーズクエスト。ほかの被災馬たちと共に、避難所となった馬事公苑でひっそりと暮らすことに。
 笑いごとではない。ミラーズクエストは大津波をサバイブし、仲間の馬たちが次々と餓死していく悲惨な状況を何とか耐え凌いだものの、傷を負ったペニスが細菌感染によって肥大化してしまったのだ。神経が麻痺して、どうやら元には戻らないらしい。「同じ男として他人事とは思えなかった」と松林監督は厩舎の清掃を手伝う傍ら、ミラーズクエストをカメラで追うようになる。松林監督はミラーズクエストの大きくなった男性器を見て、福島第一原発3号機が爆発したときのキノコ雲を連想したという。スクリーン上に並ぶ、腫れ上がった馬のペニスと不気味なキノコ雲。原発事故が人間だけでなく自然界全体の生態系に大きな影響を及ぼすことを訴えた、あまりにも痛々しくブラックすぎるモンタージュを松林監督は盛り込む。  震災を生き延びたミラーズクエストたちだったが、原発から20km圏内の経済動物は殺処分するようにと県からの要請が届く。しかし、ここで馬主の田中伸一郎さんは頑なに拒否する。肥育馬として体が大きくなったら屠殺される運命にあったミラーズクエストだが、被災馬となったことから食肉にすることができなくなった。内情を知らない部外者は、食用として屠殺するのと殺処分するのにどう違いがあるのかと思ってしまうが、“馬喰”と呼ばれる職業に就く田中さんからしてみれば、それはまるで違うことなのだ。肥育馬は食べられるために生きているのであって、ただ殺されるために生きているのではない。そこには大きな違いがある。「生きているものをただ殺すわけにはいかない」という田中さんの言葉がずしんと響く。食肉産業に従事する馬主の葛藤と矜持を伝える重要なシーンとなっている。  被災馬となったことで皮肉にも生きながらえることになったミラーズクエストだが、収入の当てを絶たれた馬主の生活は苦しい。南相馬市は地元の祭「相馬野馬追」に参加する伝統行事馬として扱う特例を認めてくれた。市内の馬事公苑で、ひっそりと避難生活を送るミラーズクエストら被災馬たち。しかし、ここも彼らにとっては決して楽園ではなかった。放射性物質が含まれた草を食べないよう放牧が禁止され、狭い馬房での生活を強いられる。ストレスからか、病気で亡くなる馬が相次ぐ。そんな不健全な状況を見かねて救いの手を差し伸べてくれたのは、馬の産地として有名な北海道日高市だった。フェリーに乗ったミラーズクエストたちは北の大地へと降り立つ。草原へ放牧され、野を駆け巡る馬たちが美しい。生命力に溢れた馬たちの躍動感がスクリーンいっぱいにみなぎる。馬房の中で哀しげな表情を浮かべていた姿はそこにはなかった。北海道での伸び伸びとした生活によって、ミラーズクエストのあの腫れ上がったままだったペニスは元のサイズに戻っているではないか。馬は環境に左右される、とてもナイーブな生き物であることが分かる。
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平将門の時代から続く伝統行事「相馬野馬追」。騎馬武者スタイルとなった地元の人たちによって戦国絵巻が再現される。
 松林監督は、タイとビルマの国境近くで暮らす日本人未帰還兵たちを3年がかりで取材した労作『花と兵隊』(09)でデビューを果たした気骨あるドキュメンタリー作家だ。異国で亡くなった同胞たちのために未帰還兵が建てた慰霊塔の清掃を松林監督は手伝いながら、インパール作戦の撤退時に日本兵同士でのカニバリズムが行なわれた事実を本人の口から聞き出している。本作でもまた、松林監督は人間が生きるということ、自分たちが生きるために他のものを喰らうという命題に向き合うことになる。人間社会は原発や家畜も含め、様々な犠牲の上で成り立っているという事実が浮かび上がる。肥育馬が屠殺され、食肉となっている実情については、本作の公開に合わせて松林監督が執筆したノンフィクション本『馬喰』(河出書房新社)が詳しい。映画『祭の馬』に加え『馬喰』を併読することで、人間と馬との長く深いかかわり合いがより立体的に見えてくるはずだ。  北海道で元気を取り戻したミラーズクエストたちだが、やがて福島へ帰る日が訪れる。1000年にわたって続く神事「相馬野馬追」に参加するためだ。祭の馬として、彼らは生きることを許されていた。かつては野生馬を捕らえ、神に捧げていた「相馬野馬追」は、南相馬市を代表する伝統行事だ。震災の起きた2011年も規模こそ縮小したが、例年通り7月に行なわれた。地元の人たちにとっては心躍るハレの場だが、祭が終わると共に祭の馬たちはその役割を無事に果たしたことになる。例年通りなら、祭を終えた馬たちは屠殺業者の手に渡ることになる。ここまで生き延びてきたミラーズクエストは一体どうなるのか……。  人間の都合によって、二転三転するミラーズクエストの運命。彼の大きな瞳には、果たして何が映っているのだろうか? (文=長野辰次) umanomatsuri04.jpg 『祭の馬』 監督・撮影・編集/松林要樹 プロデューサー/橋本佳子 製作/3JoMa Film、ドキュメンタリージャパン、東風  配給/東風 12月14日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中  (c)2013記録映画『祭の馬』製作委員会  <http://matsurinouma.com> ■松林要樹監督の新著『馬喰(ばくろう)』が河出書房新社より発売中。ドキュメンタリー映画『祭の馬』のメイキングエピソードに留まらず、さらに福岡の屠場を取材するなど知られざる馬肉産業の実情を掘り下げている。また、『相馬看花 第一部 奪われた土地の記憶』では被災地に救援物資を届けることで被災所で暮らす人たちと友好関係を結んだ松林監督だが、震災から一定の時間が経過し、復興過程中にある被災地の人間関係に戸惑う様子も盛り込まれている。本著を読んでから『祭の馬』を観ると、草原を駆ける馬たちの躍動感がより目に染みるはずだ。1680円。

ティーンエイジ窃盗団のいつかキラキラする日!? ソフィア・コッポラ監督作『ブリングリング』

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2008年から09年にかけてハリウッドセレブ宅を荒し回った5人の少年少女たち。マスコミは彼らのことをブリングリング(キラキラしたやつら)と呼んだ。
 芸能人みたいに自分もキラキラと輝きたい、学校で舐めた態度をとったヤツらを見返してやりたい、マスコミに取り上げられてみんなから憧れられたい。10代の頃、誰しも少なからずそんなことを思い描いただろう。『ブリングリング』の主人公たちは自分らの抱く欲望を深く考えることもなく、そのまま速攻で行動に移す。しかも、なるべく手軽に、汗を流さず、サクッと叶えようとする。ハリウッドセレブの豪邸に次々と侵入し、ブランド品やジュエリーなどの戦利品(盗品)をFacebook上で自慢げにアップした“キラキラ窃盗団”のあまりに大胆かつおバカすぎる罪状をソフィア・コッポラ監督は最新作『ブリングリング』の中で再現していく。  ヴァニティフェア誌に掲載されたルポルタージュ記事「容疑者たちはルブタンを履いていた」が原作となった本作。学校でハブられている少年少女たちがナイトクラブで知り合って結成された“キラキラ窃盗団”が本作の主人公だ。彼らが最初のターゲットにしたのは“おバカセレブ”として有名なパリス・ヒルトンの邸宅。パリス宅周辺を地図検索サービスで事前に調べ、ブログやツイッターでその日は留守かどうか確かめておく。ドアノブをこじ開ける必要はなかった。玄関マットの下に鍵が置いてあったから。いとも簡単に主人のいない豪邸は彼らを迎え入れてくれた。さすがおバカセレブとして人気を得ているだけのことはある。
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キラキラ窃盗団の中心メンバーを演じたのはエマ・ワトソン。『ウォールフラワー』のサブカル少女からビッチ女へと堕ちてしまった。
 豪邸内は高価なファッションブランドで埋め尽くされている。ルブタン、シャネル、ヴィトン……。ミニシャトーと呼ばれる犬小屋に、ポールダンスができちゃうミニクラブまである。広々としたクローゼットで着せ替えごっこをし、キャッキャッと記念写真を撮り合って喜ぶ少年少女たち。最初は留守宅に忍び込んで遊んでいるだけだったが、こんなにもブランド品が溢れているのなら、ちょっぴりお土産代わりに失敬しても気づかれないだろう。だって、持ち主はおバカセレブのパリス・ヒルトンなんだから。案の定、パリス・ヒルトンは自分の家から持ち出されたブランド品をまとった彼らにナイトクラブで遭遇したものの、まったく気がつかなかったそうだ。  調子に乗ったキラキラ窃盗団はパリス宅に何度もお邪魔しただけでなく、同じくLAの高級住宅地にあるミーガン・フォックス、オーランド・ブルーム、リンジー・ローハンらの留守宅への侵入&窃盗も繰り返すようになる。どう? 私たちキラキラ輝いているでしょう!? 盗んだブランド品やジュエリー類で着飾った彼らは防犯用カメラにその姿を残しただけでは飽き足らず、Facebookで「いいね!」欲しさに戦利品の画像を並べ、あっさりと警察にパクられることになる。裁判所送りとなり、さすがに自分たちのバカさ加減を猛省するかと思いきや、群がるカメラマンたちのフラッシュライトを浴びて、いっそうキラキラした笑顔を振りまく始末だ。中心メンバーのニッキー(エマ・ワトソン)は言う、「この国のリーダーになるのが将来の夢。今回の経験はそのためのいい学びの場になったわ!」。
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セレブ宅から盗み出したブランド品を白昼堂々と売り出す、怖いもの知らずのキラキラ窃盗団。被害総額は300万ドルにも及んだ。
 デビュー作『ヴァージン・スーサイズ』(99)から、東京を舞台にした『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、ガーリーな視点で描いた歴史もの『マリー・アントワネット』(06)、自伝的要素の強い『SOMEWHERE』(10)と一貫して鳥籠の中でしか生きられないカナリアの憂いを描いてきたソフィア・コッポラ監督。父親であるフランシス・フォード・コッポラ監督は油絵でどっしりした人物描写する感があるが、セレブ育ちのソフィア・コッポラ監督はパステル画タッチの繊細な小品が得意。だが、ワイドショーを賑わした事件を題材にした今回はちょっと趣きが異なる。英国女優エマ・ワトソン以外は無名の若手俳優をキャスティングしている本作は、淡いパステル画というよりはガチャガチャしたグラフィックアートを思わせる。キラキラ窃盗団があまりにもペラペラすぎるからだろう。感情移入する余地がない。主人公のモデルとなった彼らが即物的なら、本作もまた非常に表層的で即物的な作品に仕上がっている。  本作には実録犯罪ドラマの必須要素である犯罪者のドロドロとした情念はどこにもなく、被害者側の肉体的および精神的な苦痛が描かれることもない。犯罪者に罪の意識はほとんどなく、また被害にあったパリス・ヒルトンに至っては犯行現場となった自宅をロケ場所として提供している。犯行に及んだ主人公たちが自分たちなりのケリをつけるカタルシスも本作には存在しない。この空虚さ、空っぽさ加減は一体なんだろうか? ソフィア・コッポラ監督が本作で描きたかったことは、多分この空っぽさそのものなんだろう。  キラキラと輝いて見えるけど、その中身はまるで空っぽ。それが『ブリングリング』で描かれる世界の正体だ。本作の公開をいちばん喜んでいるのは、キラキラ窃盗団のメンバーとパリス・ヒルトンら事件の当事者たちに違いない。 (文=長野辰次) blingring_04.jpg 『ブリングリング』 原作/ナンシー・ジョー・セールズ 脚本・監督/ソフィア・コッポラ 撮影/ハリス・サヴィデス、クリストファー・ブローヴェルト 出演/エマ・ワトソン、ケイティ・チャン、クレア・ジュリアン、イズラエル・ブルサール、タイッサ・ファーミガ、レスリー・マン 配給/アークエンタテインメント、東北新社 +R15 12月14日(土)より渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー (c)2013 Somewhere Else, LLC. All Rights Reserved  <http://blingring.jp>

性の悩みは“セックスサロゲート”が解消する!? 映倫も迷ったR18指定の感動作『セッションズ』

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セックスセラピーとはいかなるものかを真正面から描いた『セッションズ』。アメリカ本国ではR指定(17歳以下は保護者の同伴が必要)となった。
 セックスサロゲート、代理セックスをテーマにした実録ドラマ『セッションズ』。セックスサロゲートとは、性に関する悩みを抱える人を対象にセックスセラピーの一環として実地指導を行う専門スタッフのこと。売春の隠れ蓑に使われる、セラピー料金が高額すぎるなど批判する声も少なくないが、米国ではカリフォルニア州などで正規の職業として認可されている。セックスサロゲートとのボディセッションを通して、主人公がセックスの素晴らしさ、生きる喜びを噛み締める姿が『セッションズ』では感動的に描かれている。  本作の主人公マーク(ジョン・ホークス)は詩人にしてジャーナリスト。だが38歳にしてまだ童貞だった。というのも6歳のときに罹ったポリオが原因で首から下が動かず、ずっとベッドで横になったままの生活を余儀なくされていたからだ。しかも、重度の呼吸困難でカプセル型の呼吸器から長時間離れることができない。そんなマークだが、性格はいたって明るく、超ポジティブ思考の持ち主。新しくやってきた女子大生ヘルパーのアマンダ(アニカ・マークス)に恋をしてしまう。若くて美しいアマンダの体に触れてみたい。意を決したマークはアマンダに愛の告白をするも、とても残念な結果に……。そんな折、マークは出版社から身障者たちのセックスについての原稿を依頼される。後任ヘルパーのヴェラ(ムーン・ブラッドグッド)に付き添われて取材に出たマークは、多くの身障者たちが体位など創意工夫してセックスライフを大いに楽しんでいることを知る。取材しながらマークは思う。「セックスってそんなにいいものなんだ。自分もセックスしてみたい!」と。
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重度の障害を持つマーク(ジョン・ホークス)だが、好奇心は人一倍旺盛。いよいよ童貞とおさらばする日がやってきた。
 セックスセラピストに問い合わせたマークは、セックスサロゲートを紹介される。ドキドキ緊張するマークの前に現われたのは、落ち着いた魅力をたたえるシェリル(ヘレン・ハント)。美人でセクシーなだけでなく、大人の女性としての知性と包容力を感じさせる。シェリルは「セックスサロゲートはお金をもらうけど、売春婦ではない」「セッションは6回までしか受けることができない」と説明する。ベッドの上での尊いセッションが始まった。セッションの1回目、2回目はマークがあまりに敏感すぎるため、シェリルに触られたただけですぐに暴発してしまう。なかなか脱童貞を果たすことができないマークだが、それでも裸になって体を触れ合うことが純粋にうれしい。女性の体の柔らかさ、温かさを思い出し、マークはつい涙目になってしまう。  1999年に49歳の生涯を終えたマーク・オブライエンが文学誌「サン」に発表した記事「On Seeing a Sex Surrogate」をベースにドラマ化した本作。自身がポリオの障害を持つベン・リューイン監督のもとに集まったキャスト陣のアンサンブルが実に見事だ。障害を持ちながらも生きることにとことん貪欲な主人公マークを演じた個性派俳優ジョン・ホークス、成熟したボディをあますことなく見せてくれるオスカー女優ヘレン・ハントの演技は世界各国で高く評価されている。マークに求愛され、怖くなって逃げ出してしまう新米ヘルパー役のアニカ・マークス、後任ヘルパーとして淡々とマークの背中を支えるムーン・ブラッドグッドもそれぞれ好演。「恋人ではない女性とセックスしてもいいのか?」というマークからの質問に対し、聖職者としてではなく1人の友人として回答するブレダン神父役のウィリアム・H・メイシーの存在は、セックスを題材にした本作に笑いと厳粛さの両面をもたらしている。様々な人たちとの出会いに励まされ、マークは38歳にしてセックスという未知の領域に果敢に踏み込む。
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一糸まとわぬヘレン・ハントの演技は高く評価され、米国のアカデミー賞で助演女優賞に堂々ノミネート。まさに女優の鑑です。
 セックスサロゲートとしてのプロ意識の高いシェリルは、自宅に戻れば気のいい夫と年ごろの息子がいる主婦であり母親でもある。だが、マークとのセッションを重ねていくうちに、どうしようもなくマークに自分の心が揺り動かされていることに気づく。有料セラピーの一環であることをシェリルは自覚しているものの、ひたむきな愛情を全力で注いでくるマークに今まで感じたことのない愛おしさを抱くようになってしまう。お金や倫理観だけでは割り切れないのが、セックスであり愛情というものだろう。キャリア豊富なシェリルだったが、彼女も裸になって心を開けば生身の1人の女性。疑似恋愛のはずが、マークもシェリルもいつの間にか本気になっていた。2人はセックスの素晴らしさを痛感すると共に、肉体と心の結びつきの深遠さを知り、戸惑いを覚えることになる。  欧州ではゆるいレイティングとなっているが(スウェーデン、デンマーク、ノルウェーでは年齢制限なし)、日本ではR18指定となった『セッションズ』。性描写に厳格な日本の映倫らしいレイティングだ。映倫の審査は2名1組の審査員が試写をチェックした直後にレイティングを配給側に伝えるのが通例だが、本作では2名の審査員の意見が一致せず、映倫全体で再度会議に掛けてからレイティングを慎重に決めたという経緯があった。日本での配給を手掛ける20世紀フォックス映画も重要なセッションシーンをカットしたり、ぼかしを入れるよりは……とR18指定を呑んだとのことだ。R18という年齢制限が適切かどうかは、観る人が自己判断で決めてほしい。  射精は一瞬の快感だが、その後には心だけでなく体全体に人を愛するという温かい感情が満ちていくことになる。この尊いセッションは、チェリーボーイならずともぜひ体験してみたい。 (文=長野辰次) sessions_04.jpg 『セッションズ』 原作/マーク・オブライエン 監督・脚本/ベン・リューイン 出演/ジョン・ホークス、ヘレン・ハント、ウィリアム・H・メイシー、ムーン・ブラッドグッド、アニカ・マークス、ロビン・ウェイガート R18+ 配給/20世紀フォックス映画 12月6日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー  (c)2012 Twentieth Century Fox Corporation. All Rights Reserved.  <https://www.facebook.com/FoxSearchlightJP>