なぜ「ジャンプ」は変わったのか? フリー化された解釈に見る「ジャンプ」腐女子化の理由

【サイゾーpremium】より 12月無料購読キャンペーン開催! 「『ジャンプ』は腐女子に媚びだしてから終わった」──。マンガ好きなら、こうした論調を耳にする向きも多いだろう。だが、これは果たして正しいのだろうか? 消費社会論と腐女子の消費傾向から、「ジャンプ」作品の変遷を探ってみたい。 「『黒子のバスケ』イベントを中止せよ」  2012年10月、「週刊少年ジャンプ」(以下「ジャンプ」)で連載されている人気マンガ『黒子のバスケ』の作者と、作者の出身校含む関係各所へ脅迫状が送付される事件が発生した。この騒動の中で頻繁に登場するキーワードがある。それが”腐女子”だ。犯人は文書で「パロディ作品をやめろ」「腐女子ども覚えておけ」などと述べ、時期近くしてフジテレビが登場人物に想いを馳せる「仮想カレシに夢中な女子たち」という扇情的な報道をしたことも相まって、ネットで炎上した──。  そもそも近年、業界最大部数を誇る「ジャンプ」が腐女子に媚びてきたという批判を耳にする。”腐女子”という属性については、もはやここで説明するまでもないだろうが、なぜ「ジャンプ」がそうした謗りを受けることになったのだろうか? 本稿では、腐女子の消費傾向から、「ジャンプ」が腐女子に受け入れられるようになった経緯をひもといてみたい。まずは本題に入る前に、80年代以降の日本における消費社会論と腐女子の消費傾向を照らし合わせながら、彼女たちが「ジャンプ」を支持するに至る経緯を見ていこう。  日本では80年代、社会学者ボードリヤールが『消費社会の神話と構造』(原著1970年)で展開した消費社会論がもてはやされていた。これによれば「消費」とは、欲求のままモノを享受することではなく、何かを区別し意味付けする行為として社会構造に組み込まれたものとされる。同時期の日本ではバブルを享受し、高度消費社会に突入したのだが、人々は記号的な消費行動──例えばコム・デ・ギャルソンの服という”記号”を買う──を通じて、社会における自分の立場を確立した時代だったのだ。社会学者のP・ブルデューはこうした記号を用いた”人とは異なる”という区別を「卓越化」と呼んだが、それぞれの世代では記号的消費行動を通じた卓越化ゲームが営まれていた。例えばサブカルチャーの世界でも、83年に中森明夫が「おたく」と命名したのは、性愛の世界でのゲームを降りて、当時流行していたガンダムやマクロスなどのアニメの世界でうんちく競争という名の「卓越化」にいそしむ人々のことだった。  だが90年代以降になると、「このブランドを着ればカッコイイ」「このマンガを読むとオタク」といった記号消費をベタに信奉する振る舞い自体が陳腐化する。そもそも”人と違う”と区別するのが「卓越化」である。皆が記号消費を当たり前に行うようになれば、”あえて記号消費を拒む”ことで「卓越化」を図る振舞いが出てくるのは当然だ。それはバブル文化に対する反動ともいえるだろう。こうしてひとつの記号的価値をベタに頼る「卓越化」よりも、そこから距離を取って戯れるような「自分内的なモード切り替え」(=マイブーム)が散見されるようになった。  そんな90年代には、少女マンガでは『カードキャプターさくら』(講談社)、『ママレード・ボーイ』(集英社)が人気を博し、とりわけ『美少女戦士セーラームーン』の老若男女を巻き込んだ一大ブームを覚えている人も多いだろう。中でも、『セーラームーン』と『さくら』のヒットはすさまじく、いわゆる”大きなお友だち”と呼ばれる成人男性ファンをも獲得。そこでは、あくまで既存の女性読者のみならず、大人から子どもまでが〈マイブーム/非マイブーム〉という自分の基準にのっとり消費した格好だ。  こうして、80年代のロリコンブームなどの影響で”低俗”な文化の一端と見なされていた同人誌文化も、マイブーム的消費の対象になっていった。従来は「おたく」だけの娯楽だと思われていたコミックマーケットだが、「おたく」を自認しない女子も『スラムダンク』(集英社)がマイブームだから、といったノリでコミケに参加するようになったのだ。  コミケは今年で開催35年。90年代には一般参加者が10万人を突破し、2000年以降は参加者40万人以上を突破、今年の「夏コミ」(コミケ82)では参加サークル3万5000、実に一般参加者は約56万人に激増した。また、08年の出展サークルは男性29%、女性71%、コミックマーケット準備会は「世の中の認識と異なり、女性参加者が多い」と発表。コミケで扱われる作品は二次創作が圧倒的に多く、この中で腐女子を中心とした女性参加者は75年頃から、男性同士の恋愛を描いた二次創作物である「やおい」作品を発表、消費していた。  さて、こうした流れの中、コミケ参加者の急増、そして同人誌市場が拡大した90年代末になると、『セーラームーン』の戦闘美少女モノの流れをくみつつも、新しい少女マンガの幕開けを告げる作品が登場した。それが種村有菜による『神風怪盗ジャンヌ』だ。『ジャンヌ』は98年から00年まで小中学生向けの少女マンガ誌「りぼん」で連載された作品である。
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少女マンガらしからぬBLシーンが描かれた『紳
士同盟†』の1コマ。
 その後も種村は『満月を探して』(集英社)、『紳士同盟†』などのヒット作を飛ばす。ジャンヌダルクの生まれ変わり、日下部まろんが怪盗ジャンヌとして活躍する『ジャンヌ』。延命する代わりに声を失わなければならないという選択を迫られた難病の少女、満月が歌手になる夢を叶える『満月』、元ヤン少女が初恋の相手である資産家の息子との恋を成就させていく『紳士同盟』。過剰なマニエリスム、異世界ファンタジー、学園生活のドタバタギャグとラブコメ、複雑な家庭事情、セックスを彷彿させる描写、性倒錯や同性愛など、種村作品は「恋愛もの」「バトルもの」「ファンタジー」だけにとどまらず、「エロ」「BL」「百合」など二次創作を誘発させる要素を多くちりばめていた。  例えば『ジャンヌ』ではヒロイン怪盗ジャンヌとヒーロー怪盗シンドバッドの「エロ」描写、またシンドバッドと彼にお供する黒天使アクセスのBL的関係や、ジャンヌとお供の準天使フィンの百合関係も同人化されることがあり、『紳士同盟』でその傾向は過激化する。御曹司の影武者、東宮高成と彼を愛するゲイの辻宮真栗の「公式BL」カップル、また真栗を好きな女装男子まおらと真栗の「BL」関係。さらにヒロインの乙宮灰音と彼女を愛する天宮潮の百合関係なども描かれている。  こうした要素の過剰さには、作者の種村自身が『セーラームーン』の同人誌や『ガンダムSEED』のBL同人誌を制作した経験があることも無関係ではないだろう。二次創作は原作の読み手の想像力を通じ、能動的に新しい解釈を生み出す営みだが、多様な解釈余地がある作品ほど同人カルチャーとの親和性が高い。「多様な解釈のうちのひとつを、物語として提示する」同人作家の一面を持つ種村作品が、解釈余地の広い作品となったこともうなずける。このように、種村作品は、「あなたは違うかもしれないが、私はこう読んでいる」と言える余地が大きいのが特徴だが、『ジャンヌ』が生まれた00年以降、こうした多様な解釈の余地を持つ作品は多く生まれた。その特性をここでは〈解釈コードフリー〉と定義したい。実は、腐女子に媚びているとされる現在の「ジャンプ」作品は、一様に〈解釈コードフリー〉を兼ね備えているのだ。 ■腐女子は「ジャンプ」になぜ興味を持つのか?  ではなぜ、「ジャンプ」作品は〈解釈コードフリー〉を兼ね備えたのだろうか? それは「ジャンプ」がアンケート至上主義に基づいていたため、前述した消費社会の動向と足並みを揃えた「時代と寝る少年マンガ誌」であったからだ。 「ジャンプ」作品がこの傾向を強めたことで、腐女子を含む女性読者を受け入れる土壌が醸成されたわけだが、ほかにも少女マンガ誌のピンポイントマーケティングに外れた女性読者の支持を得たことも女性読者獲得につながった。 「ジャンプ」に流れることとなる女性読者が生まれた背景には、00年以降「りぼん・ちゃお・なかよし」の三大雑誌の発行部数が激減したことで方向転換を余儀なくされた各誌が、その対象年齢を比較的幼年層向けに限定したことが挙げられる。 『美少女戦士セーラームーン』『カードキャプターさくら』『ママレード・ボーイ』など、90年代の大ヒット作品の連載が終了。その頃から、合理的なターゲティング戦略として、三大雑誌の作品はより幼年向けへとシフトした。  かつては三大雑誌が”恋に恋するお年頃”といった年齢を問わないテーマ性でブームを巻き起こした「乙女ちっく」ものや、『ちびまる子ちゃん』に見られるような世代を問わず楽しめる「日常コメディ」など、中学生含む少女層全般をカバーしていた。しかし、63年に創刊された学園恋愛ものが中心の「別冊マーガレット」(集英社)は例外として、90年代後半以降、矢沢あいでおなじみの「cookie」(集英社/99年~)、エロ要素の強い「デザート」(講談社/96年~)や「ベツコミ」(小学館/06年~、ただし誌名変更しリニューアル)など、中高生向け、ハイティーン向け、成人向けと「次に読むべき雑誌」が出揃った。だが、三大雑誌を卒業した少女が皆ストレートに「次に読むべき雑誌」へ向かったわけではない。  その一因として、学園ラブコメやリアルな男女の恋愛模様に共感できない少女もいたことが挙げられる。ドジでフツウの女の子が”恋に恋する”という「乙女ちっく」モチーフならともかく、これらの雑誌は容姿端麗な女子がイケメンキャラと結ばれる様を描く。”こんな恋愛、今の自分とは無縁だ”と思う女子もいて当然だ。それに引き換え、リアルな私を介入させずにすむ「少年マンガ」のカップリングは無害なものとして受け入れられる。とりわけ「ジャンプ」作品では男女間の恋愛がそこまで描かれないために、好きなキャラクターに「疑似恋愛」もしやすい。「ジャンプ」に掲載されるラブコメ作品も、主人公の男子目線で描かれているので、生々しさがない。  前述の通り消費スタイルの変遷に適応することとなる「ジャンプ」だが、94年にマンガ誌過去最高発行部数の653万部を誇るも、『ドラゴンボール』が連載終了した95年、『スラムダンク』が連載終了した96年を経て、急速に発行部数を落とした。雑誌不況もあって、以降、03年頃から現在まで300万部弱で推移する。とはいえ「週刊少年マガジン」が143万部、「週刊少年サンデー」が52万部(※12年4~6月)であることをみれば、圧倒的部数であることには変わりない。  その半面、冒頭で指摘したように「腐女子に媚び出してから『ジャンプ』は終わった」と言う声を耳にすることも事実だ。例えば、女性受けの良い繊細なタッチでイケメンばかりが登場する『家庭教師ヒットマンREBORN!』や、イケメンでかつギャップのある「真選組」キャラが掛け合う『銀魂』(04年~)などが、そう指摘されがちだ。しかし、「無駄にイケメンキャラを登場させる」という理由だけでは腐女子人気は説明できないだろう。「女性ファン」ウケを狙っていたとしても、それが「腐女子に媚びている」ことに直結するわけではない。確かに『ONE PIECE』(97年~)、『HUNTER×HUNTER』(98年~)、『NARUTO』(99年~)など90年代末からの「ジャンプ」作品については、00年代に入ってすさまじい量のBL同人誌が作られた。中でも『テニスの王子様』(99年~)は同人誌界隈でも驚異的なブームを巻き起こし、その後も『BLEACH』(01年~)、『DEATH NOTE』、テニプリブームを彷彿させる『黒子のバスケ』(09年~)などは現在でも同人界隈で人気を博している。また、今年に入っても『ハイキュー!!』(12年~)は、スポ根マンガとして男性人気を獲得しつつ、同人ショップですでに専用コーナーが設けられるなど腐女子の注目度も高い。だが、こうした人気作品には多様な要素が盛り込まれており、「腐女子に媚びている」というよりは、多様な要素のひとつを「腐女子が勝手に読み替えている」というのが実情だろう。この特性こそが〈解釈コードフリー〉なのだ。  さまざまな層が自由に解釈できる〈解釈コードフリー〉の作品は、その解釈余地の広さ故に腐女子の想像力も掻き立てる。と同時に、間口の広さから男女や世代問わず多くのファンを獲得することができるのだ。近年の「ジャンプ」が〈解釈コードフリー〉な作品を求めたということは、『保健室の死神』の藍本松や『D・Gray-man』の星野桂といった同人経験作家を起用したことも、あながち無関係ではないだろう。 ■あらゆるコンテンツに見られる解釈の自由化
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コンサートでのコントから始まり、
映画化もされたエイトレンジャー。
「ジャンプ」以外にも、00年代以降に女性にヒットした作品は、マンガ消費の〈解釈コードフリー〉化を色濃く反映している。元々児童向けだったサッカーゲーム『イナズマイレブン』や『忍たま乱太郎』は、00年代後半から女性にブームとなった。『イナイレ』の場合は、骨太なストーリーとシナリオの完成度の高さから大人も楽しめる作品となっており、「サッカー」だけでなく「バトル」「学園もの」「パラレルワールドもの」など、好きなように解釈できる余地が広い。男性向けか女性向けかだけでなく、対象世代の垣根も超えた〈解釈コードフリー〉な消費傾向があるのだ。  解釈の余地が広い作品群は、原作で描かれていない背景を想像しやすい。そのことを意識して、原作側もその”余地”を積極的に利用する傾向が見られる。具体的には”公式二次創作”の数々だ。例えば『ジョジョの奇妙な冒険』の公式ノベライズは、乙一、西尾維新、舞城王太郎らライトノベル出身者を起用し『ジョジョ』の物語世界を拡張させることに成功した。  もちろん、こうした〈解釈コードフリー〉を兼ね備え、女性向け同人誌ジャンルで盛り上がりを見せるのはマンガだけではない。ジャニーズの人気ユニット関ジャニ∞も同様の消費傾向が散見できる。  今年公開された映画「エイトレンジャー」では、メンバーが戦隊モノを演じたことは記憶に新しいだろう。これは元をたどれば、05年からメンバー自身が始めたコンサート限定の挿入コントで、”公式二次創作”と言ってもいい。ほかにも、丸山と安田の漫才コンビ「山田」、大倉と錦戸の関ジャニ内ユニット曲「torn」などでは時に「BL」を想起させる演出もあり、二次創作を誘発しているとも取れるだろう。普段とは違う一面がほの見えるため、ファンが妄想、つまり能動的にかかわれる仕掛けだ。この傾向を持った女性アイドルには、メンバー同士のカップリングを楽しむAKB48が挙げられる。    ここまで見てきたように、「腐女子に媚びた」というだけで同人誌の人気ジャンルになるとは言い切れない。ジャンルが細分化し、ハイブリッド化した今、かつてのように作り手が「こう読むべし」と解釈コードを提示する作品スタイルはすでに廃れてしまった。そこでは、BL同人誌でいうところの「同性愛コード」、少女マンガ誌における「共感コード」、男性向けの「ラブコメコード」などに留まらず、自分が受け入れやすいように解釈コードを再構成するような読み手の能動性と想像力がマンガ消費を一層楽しくさせてくれるだろう。つまるところ、さまざまな人が好きなように解釈し、意味を与えることができる作品が受容されやすくなる。原作の世界観をズラし、新たな解釈を見つける能動的営みは、腐女子だけでなく今や誰もが多くの事象に対して行っていることだ。  腐女子のマンガ消費に見られる消費動向は、腐女子に限らず00年代以降の消費「全般」を語る上で極めて重要なものといえるのかもしれない。 大尾侑子(おおび・ゆうこ) 1989年生まれ。上智大学総合人間科学部社会学科卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程在籍。専攻は両大戦間期宗教論、現代社会意識論。 今なら無料で読める!サイゾーpremiumでは他にも少年ジャンプ関連記事が満載です。】『ワンピース』がついに落ち目に!? 書店員が明かす”ヒット作”の実情と出版社との関係『ワンピース』頼りで後がない!? 増刊を乱発する「ジャンプ」はもう、死んでいる!?増刊ラッシュでなんと10誌も!! マンガ界最強の「ジャンプ」ブランド辛口批評「ジャンプ」「マガジン」「サンデー」......エロは読み切り・短期集中連載!? ここがエロいよ、メジャー少年マンガ誌
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