
“障害者の性”というタブー視されている題材を真っ正面から描いた映画『暗闇から手をのばせ』は2013年に劇場公開され、全国各地でロングラン上映となった話題作だ。とりわけ障害者専門のデリヘル嬢を演じた小泉麻耶の体当たりの演技は、観客の視線とハートをがっちりとつかんでみせた。『暗闇から手をのばせ』は関西に実在する障害者専門の派遣型風俗店をモデルにしたドキュメンタリータッチの人間ドラマ。「障害者が相手なら楽そうで安全」と軽い気持ちから障害者専門のデリヘル店「ハニーリップ」に勤めだした沙織(小泉麻耶)が筋ジストロフィー患者をはじめとするさまざまな客と裸で接することで、生と性について見つめ直すというストーリーになっている。DVDリリースに当たり、難役に挑んだ小泉が「友達の風俗嬢を取材した」という役づくりについて、またグラビアアイドルから女優へと転身する難しさについて赤裸々に語った。
──『暗闇から手をのばせ』は渋谷ユーロスペースでのレイトショー公開後に作品内容が徐々に広まり、上映館数が増えていったそうですね。
小泉 ほんとうれしいです。『暗闇から手をのばせ』という作品に参加できた上に、観客のみなさんに作品を評価していただけたみたいで。昨年はずっとどこかで上映が続いていましたね。スケジュールが合う限り、私もできるだけ舞台あいさつなどに参加するようにしました。
──本作がデビュー作となる戸田幸宏監督からは、小泉さんのブログ宛てに出演のオファーがあったとのこと。「怪しい」とは思わなかった?
小泉 そうなんです(笑)。私のブログのメッセージ欄に戸田監督の書き込みがあったんです。「障害者の方たちの生と性についての真面目な話です」と内容が書いてあったんですが、文面に真面目さがすごく感じられたので、これは決して怪しい仕事じゃないなと。戸田監督は普段はNHKで番組ディレクターをしていて、最初はドキュメンタリー番組としてオンエアしたかったそうです。まず事務所に相談し、戸田監督に会ってもらいました。それで、「戸田監督はきちんとした人だし、やってみたらどうだ」と言われたんです。私自身ぜひやりたいと思っていたので、受けることにしました。

『暗闇から手をのばせ』で障害者専門の風俗嬢を演じた小泉麻耶。屈託のない表情で、撮影の舞台裏について打ち明けてくれた。
──障害者の性がテーマで、しかも風俗嬢という役。躊躇はなかった?
小泉 この作品に出てから、共演したホーキング青山さんに仲良くしてもらったり、劇場に来られた障害を持つ方と接する機会ができたんですが、それまでは障害のある方が身近にいたわけではなかったですね。でも風俗嬢という仕事に関しては、私にとってそう遠い存在ではなかったんです。風俗経験のある友達がいたので、その子にはいろいろ聞きましたね(笑)。友達と新宿や渋谷に遊びに出掛けても、「あっ、あの子は風俗の仕事してるな」とか分かる同世代の女の子が多いですし。風俗の仕事してる子が特別な世界にいるようには感じられないんです。どんな女の子でも、ふとしたことで風俗の世界に足を踏み入れることもあるだろうし、誰しも「風俗ってどんな仕事なんだろう?」と興味あると思うんです。戸田監督が言っていたことなんですが、「この作品は障害者を支援したいとか、風俗嬢を肯定するものではなく、こんな人たちがいるんだってことを定義したいんだ」って。私もやりがいを感じてというよりは、「面白そうだな」という好奇心が強かった(笑)。風俗の仕事を選ぶのには、やっぱり何か理由があったからでしょうし、そういうのを探りながら役づくりするのは面白いだろうなって。
──マスコミ試写の際に戸田監督からコメントをもらっていたところ、小泉さんがこちらに歩み寄って「脚本を読んで、この役は私だと思った」「女の子は誰しも心に闇を持っているんです」と話し掛けてきたのが印象に残っています。
小泉 私、言いましたか? 恥ずかしいなぁ(笑)。ごめんなさい、まだまだ日々成長中なもので、そういう恥ずかしい言葉をつい口にしてしまったようです。う~ん、当時の私は闇を抱えていたのかなぁ……。
■量産してやっていく仕事のしんどさ
──風俗嬢として漠然と生きている劇中の沙織と、グラビアアイドルから女優への転身中で模索状態だった小泉さんの姿が、そのときは重なって感じられました。
小泉 うん、それはすごくあるように思います。グラビアの仕事を否定する気はないんですが、私にとってはグラビアの仕事は表現が限られ、対象者は男性に限定され、一時期かなり息苦しかったんです。もっと広い世界を見たいし、いろんなことに挑戦してみたかったんです。その部分は沙織が感じていた生きることへの息苦しさとリンクしてたみたいですね。沙織が障害者専門の風俗嬢になったのも、何か自分から新しいアクションを起こしたいという気持ちがどこかにあったんでしょうね。
──小泉さんはグラビアアイドルとして人気を極めたわけですが、女優への転身は簡単ではなかった?
小泉 グラビアを極めたとは全然思っていません。グラビアでもアートっぽい自由度の高い仕事は面白いけど、量産してやっていかないといけない仕事がすごく多いんです。グラビアアイドルの王道ってよく言われるのが、雑誌をひと通り網羅したら、次はテレビのバラエティー番組に出て顔と名前を覚えてもらって、それでそのままタレントになるか、それとも女優になりたいなら違う道を目指しましょう、みたいなステップがありますよね。それで「日テレジェニック2009」に選ばれて、1年近く「日テレジェニック」の番組に出演していたんですが、その頃がいちばんキツかったんです。

グラビア界を制したグラマラスボディはキープ。「サイゾーって攻めてる感じ。月刊サイゾーの表紙を飾れたときはうれしかったですよ♪」
──そのキツさって具体的には……。
小泉 グラビアアイドルとして求められていることと自分のやりたいことと食い違うことがありました。グラビアの仕事をしていると「じゃあ、自己紹介お願いします」「得意なポーズやって」「スリーサイズは?」「何か一発芸か物まねやって」みたいなことを言われるんですが、そういうのが本当に苦手で……。もちろん、グラビアの仕事が好きな人もいると思うし、才能のある人ならもっとスムーズに女優に転身できると思いますし、これは個人の問題でしょうね。自分の中でどのようなイメージで勝負していくべきなのか考え中なんです。その点、『暗闇から』の沙織はすごく演じがいがありました。どこまでも役に入っていけるし、役を演じることで自分自身とも向き合えたんです。もちろん役に入っていく作業は大変だし、何が正解かも分からないし、演じた後で「もっと、こうできたんじゃないか」と後悔することが多いんです。だから「じゃあ、次はもっとこうしよう」とトライし続けるしかない。今回の沙織役を熱意なく演じていたら、こんなに思い入れも湧かなかったでしょうね。
■ぶっちゃけて聞いた風俗のお仕事
──『暗闇から』の沙織役は、衣装や持ち道具も自分で用意したと聞いています。
小泉 持ち道具に関しては、バッグや財布まで自分で全部用意するべきだったなと反省しています。脚本では、お客さんの家に沙織が忘れ物するのは腕時計だったんですが、「腕時計はどこででも外すものだから、ネックレスとかのほうがいいんじゃないですか」と私から提案したりしましたね。衣装に関しても、私なりに風俗嬢の着ている衣服を研究していたので、自分で買いに行ったり、自分のものを提供したりしました。下着も自分で買ってきたんですが、透けていたので、自分で裏地を張って縫いました。
──DIY精神あふれる女優!
小泉 はい(笑)、やっぱり自分の役ですし、自分が身に着けるものですから。作品によると思います。戸田監督は私のアイデアに耳を傾けてくれたので、そこはすごく感謝しています。
──友達の風俗嬢からいろいろ聞いたとのことですが、印象に残ったことは?
小泉 沙織と同じような答えが返ってきたんです。「ねぇねぇ、ぶっちゃけ風俗の仕事って、どーゆー感じなの?」と訊くじゃないですか。そうすると「え~、やることはフツーに同じだよ」って。「えっ、フツーって?」と尋ねると「だって、みんなするじゃん」って。
──みんなするじゃん(笑)。
小泉 ガールズトークだし、私が聞いた友達は、あけすけなんです(笑)。「風俗の仕事も、恋人にしてあげるのと同じだよ」って。「障害者の場合は動かないから楽かな。でも、自分が全部動かなくちゃいけないから、大変なのかなぁ」ってリアルな声が聞けましたね。なるほど、なるほどと。そういう言葉は、自分の中に染み込んできましたね。

介護経験のないまま障害者専門のデリヘル嬢となった沙織。最初の客は寝たきり状態の筋ジストロフィー患者(管勇毅)だった。
■変わらないと思っていた日常風景が変わった
──撮影現場はどうでしたか?
小泉 マネージャー役の津田寛治さんと一緒のシーンから撮影が始まったんです。私はまだ芝居の経験が浅くて、自分が分かってないことすら分かってない状況だったんですが、津田さんはいつもニュートラルでいてくれて、すごく親切だし、素敵な役者さんだなって感じましたね。本当に頼りがいのあるマネージャーみたいでした。お客さんの順番は劇中の順番通りでした。筋ジストロフィーの患者さんを演じた管勇毅さんは撮影前に戸田監督と一緒に実際に筋ジストロフィーの患者さんの家を訪ねて、1日過ごして役づくりしたそうです。それで撮影現場には筋ジストロフィーの患者の方と女性パートナーの方も監修として来られて、狭い現場の割には人数が多かったんです。そんな中で私は脱ぐ場面だったんですが、管さんは「僕は見ないようにするね」って自分の手で目隠ししてくれた(笑)。緊張気味の私を和らげようと気遣ってくれた、とてもジェントリーな役者さんでした。その次がホーキング青山さん。
──身障者芸人・ホーキング青山のアドリブ演技に、思わず吹き出してしまったと。
小泉 前半は表情を抑えた演技で通すつもりだったのに、ホーキングさんのアドリブのせいで、すっかり私の思い描いていた演技プランは崩壊しましたね(苦笑)。後で、戸田監督に「ごめんなさい。あのシーンはもっとちゃんとするつもりでした」と謝りのメールをしたんです。でも戸田監督は「どんな人間でも、ドン底に堕ちても、くだらないことで笑うことってあるよ。それが人間だよ」って言ってくださって。完成した作品を観たらドキュメンタリーっぽい感じに仕上がっていて、良かったです。

デリヘルの常連客を演じたホーキング青山のエッチなアドリブトークに小泉は思わず表情を崩してしまう。小泉の素顔が覗いた心和むシーンだ。
──3番目のお客を演じた俳優には、胸をガン見されちゃったそうですね。
小泉 森山晶之くんは若い役者さんなんですが、戸田監督から「お前、勃つなよ」と言われて、現場は大変でした(笑)。下半身不随の役だったので、パンツを2枚はいた上に前貼りまでさせられていたんですが、そのせいで(股間が)膨らんでるように映ってしまって。それで、またパンツを脱がせて、前貼りを剥がして……と(笑)。撮影中は大変でしたけど、今考えると笑っちゃいますね。このシーン、目を手で覆ってくれた管さんと違って、森山くんには、しっかり見られてしまいました(笑)。
──小泉さんの胸が、それだけ魅力的だったと。
小泉 はい、そういうふうに解釈します(笑)。最終日は森山くんと海に飛び込むシーンの撮影だったんですが、3月の撮影で海に飛び込むのは寒すぎるので、海のシーンだけ1カ月後の4月に撮影したんです。4月でも全然寒くて、森山くんは死にそうになってましたね(笑)。彼を助けるために沙織も海に飛び込んだからといって、体の障害が良くなるわけでもないし、沙織の人生が変わるわけでもないんです。日常が変わるわけではないけれど、でも沙織が心を開いて人と向き合うことで今までと違った風景が広がっていく。すっごく気に入っているラストシーンです。今回の沙織役は私を必要としてくれた役だったし、小泉麻耶としての存在意義を感じさせてくれた愛着のある作品になりましたね。
──映画を観たくても、自宅からなかなか出ることのできない人たちにとって、今回のDVD化はうれしいニュースでしょうね。
小泉 そうですね。「この映画は、どうしても観たかった」と車椅子で劇場まで来ていただいた方もいましたが、劇場に来ることが難しかった方でもDVDなら手軽に観てもらえますよね。松本の映画館で上映された際にトークショーに参加させていただいたんですが、福祉関係の方がトークの様子を熱心にメモしていたのも印象に残っています。福祉のお仕事に興味がある方にもおススメしたいですね。幅広く、いろんな方が楽しめる作品になっていると思うので、ぜひ一度手に取ってみてほしいです。
──最後に、今後の活動予定を教えてください。
小泉 まだ作品名を公表できないんですが、『暗闇から』を観てくださったある人気監督から出演オファーをいただきました。もうすぐ発表されるので、そちらも楽しみにしてください!
(取材・文=長野辰次)
●こいずみ・まや
1988年東京都生まれ。『エレクトロニックガール』(09)、『特命女子アナ 並野容子』(09)、『Re:Play-Girls』(10)、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(12)などに出演。主演作『暗闇から手をのばせ』(13)は「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013」のオフシアター部門でグランプリ&シネガーアワードの2冠を受賞した。