
『アンジャッシュ ベストネタライブ』
(アニプレックス)
4月10日、アンジャッシュの渡部建が『ホメ渡部の「ホメる技術」7』(プレジデント社)を出版した。お笑い界随一のホメ上手として知られる彼が、仕事や恋愛に役立つ「ホメる技術」の極意をつづっている。
東京・東高円寺に事務所を構えるプロダクション人力舎は、実力派の若手コント芸人を多数輩出していることで知られている。『キングオブコント』チャンピオンに輝いた東京03、キングオブコメディ、そして同大会ファイナリストのラバーガール、鬼ヶ島。個性豊かで確かな技術を備えたコント芸人が何組も在籍しているのだ。そんな「人力舎=コント」というパブリックイメージの原点になっているのは、アンジャッシュの存在だろう。彼らは人力舎のお笑い養成所「スクールJCA」の1期生・2期生であり、緻密に計算されたネタ作りには定評があった。コントを武器にして『爆笑オンエアバトル』(NHK)、『エンタの神様』(日本テレビ系)などのネタ番組に出演して人気を獲得。2000年代のお笑いブームの中心で活躍を続けて、「コント芸人」の代名詞ともいえる存在となった。
彼らの得意ネタは、通称「勘違いコント」と呼ばれる。2人の人間が、それぞれの置かれた状況を勘違いしたままで噛み合わない会話を進めていく、というもの。例えば、バイトの面接に来た男性役の児嶋一哉が、店員役の渡部と対面する。ちょっとした行き違いから渡部は児嶋のことを万引き犯と思い込んでいて、厳しい態度を取る。渡部が「君は見るからに(万引きを)やりそうだな」と言うと、児嶋はほめられていると思い込んで「ありがとうございます!」と返す。すると渡部が「ほめてないよ!」と怒鳴って、噛み合わないやりとりが延々と続いていく。この種のスタイリッシュな「勘違いコント」が彼らの十八番だった。
「スタイリッシュなコント職人」というコンビでのイメージを生かして、渡部はソロ活動でさらなるステップアップを成し遂げた。恋愛心理学に精通した彼は、お笑い界には珍しいスマートなモテキャラとして知られるようになった。一方の児嶋は、最近になって芸人たちのイジられ役としてブレイクしてきている。彼は、バラエティで何もできずに挙動不審な様子を見せて、馴染みの芸人たちにさんざんイジられる。いわば、一種のスベリキャラとして注目される存在になったのだ。
児嶋のスベリキャラは、ほかの芸人とは種類が違う。例えば、ますだおかだの岡田圭右のように、自ら積極的にギャグを放ってスベりに行くタイプでもないし、狩野英孝のようにほかの人がイジらずにはいられない愛すべき天然ボケというタイプでもない。児嶋がイジられるときには、必ずといっていいほど場の空気が凍り付く。ザキヤマ(山崎弘也)やおぎやはぎが児嶋をイジり始めると、周りに不穏が空気が漂い始める。そのときの観客や視聴者は「こんなきちんとした人をイジるのはかわいそう」と心配しているわけでもなければ、「ここまでダメな人をイジって笑いになるのか?」と不安がっているわけでもない。ただ、児嶋本人がイジられることに対して異常なほど構えてしまうため、その素振りが自然に見る側の気持ちを圧迫するのである。
その後、児嶋はイジりを嫌がり、イジられるのを必死で拒否しようとした挙げ句、最後に「うぉい!」などと自暴自棄にキレてみせる。それでもやっぱりウケないものはウケない。相変わらず場は凍り付いたまま。ただ、そこまでしてウケないこと自体が、笑いに飢えた芸人やお笑いファンからすると面白くて仕方がないので、彼らはそこで初めてニヤリと笑う。児嶋はイジリとイジメの境界線上で危ういバランスを取りながら、新たな形のスベリキャラを演じているのだ。
世間では「渡部が売れたおかげで、児嶋も脚光を浴びるようになった」と思われがちだが、実はそうとも言い切れない。「きっちりしたコントをやるアンジャッシュ」という世間のイメージを覆したのは、むしろスベリキャラの児嶋のほうだ。児嶋があえて隙を見せて、イジられる方向に一気にアクセルを踏んだことが、アンジャッシュ再ブレイクのきっかけとなった。
実際のところ、恋愛、グルメなどに精通し、端正な顔立ちでなんでも器用にこなす渡部は、見方によっては鼻持ちならない人物でもある。ただ、彼が世間にそう思われていないのは、それを紛らわすために児嶋が絶好の位置につけているからだ。児嶋は渡部の計算高さといやらしさを紛らわす、煙幕の役割を果たしている。渡部が児嶋を引き上げたというのも事実だが、児嶋が渡部を守っているというのもまた一面の真理なのだ。
コントの職人から、互いの個性を高め合う存在へ。「コント王国」としての人力舎の礎を築いたアンジャッシュの牙城は、まだまだ揺らぎそうにない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)
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【第20回】バカリズム 業界内も絶賛する「フォーマット」としての革新性
【第19回】劇団ひとり 結婚会見に垣間見た芸人の「フェイクとリアル」
【第18回】オードリー 挫折の末に磨き上げた「春日」その比類なき存在
【第17回】千原兄弟 東京進出13年目 「真のブレイク」とは
【第16回】狩野英孝 「レッドカーペットの申し子」の進化するスベリキャラ
【第15回】サンドウィッチマン 「ドラマとしてのM-1」を体現した前王者
【第14回】小島よしお 「キング・オブ・一発屋」のキャラクター戦略
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【第12回】江頭2:50 空気を読んで無茶をやる「笑いの求道者」
【第11回】バナナマン 実力派を変革に導いた「ブサイク顔面芸」の衝撃
【第10回】山本高広 「偶像は死んだ」ものまね芸人の破壊力
【第09回】東京03 三者三様のキャラクターが描き出す「日常のリアル」
【第08回】ジャルジャル 「コント冬の時代」に生れ落ちた寵児
【第07回】爆笑問題・太田光 誤解を恐れない「なんちゃってインテリ」
【第06回】世界のナベアツ 「アホを突き詰める」究極のオリジナリティ
【第05回】伊集院光 ラジオキングが磨き上げた「空気を形にする力」
【第04回】鳥居みゆき 強靭な妄想キャラを支える「比類なき覚悟」
【第03回】くりぃむしちゅー有田哲平 が見せる「引き芸の境地」
【第02回】オリエンタルラジオ 「華やかな挫折の先に」
【第01回】有吉弘行 が手にした「毒舌の免罪符」
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"じゃないほう"芸人3人が織りなした奇跡の番組『撮れ高次第』とは何だったのか

「この3人でホントに大丈夫!?」
そんな民衆の声に聞こえないフリをするかのように、昨年から放送された流浪のロケ番組『撮れ高次第』(TOKYO MX)。アンジャッシュ・児嶋一哉、ドランクドラゴン・鈴木拓、キングオブコメディ・高橋健一の3人がさまざまな企画に手探りで奮闘する勇姿は、見るほどにその生々しさがクセになるような、無二の笑いを生み出した。
一見、地味な印象のメンツだが、個々に寄ると、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「児嶋あそび」という回が放送されるほど、独特の行動と返しを周囲から面白がられている児嶋。日頃から毒舌で悪フザケが過ぎるゆえ「クラッシャー」の異名を持つ鈴木。"潮干狩り"を趣味に持ち、100枚ものペナントに囲まれた自室で生活するなど時折見せるエキセントリックな思考が「気持ち悪い」と評される高橋。『撮れ高次第』とは、そんな3人が集結した奇跡の番組なのだ。
放送は今年1月に終了してしまったが、25日にリリースされる番組DVDには、完全撮りおろしの特典映像もたっぷり収録されるという。早速、"見た目は普通、中身はアクだらけ"の3人を直撃した。
――ついに『撮れ高次第』のDVDが2巻同時リリースされますね。
児嶋 えーと、『ももクロ次第』でしたっけ?
高橋 いやいや、『撮れ高次第』でしょ。
鈴木 別に『ももクロ次第』でもいいんじゃない?
――取材前にももクロの話してたからって適当なこと言わないでください。それより、ここのビル(ソニー・ミュージックエンタテインメント本社ビル)のロビーに、番組のメインビジュアル(3人が鼻をほじっているイラスト)の超巨大パネルが設置されてますよね。メーカーのこのDVDに対する推しっぷりが伝わってきました。

高橋 あそこの巨大パネルをバラエティーが飾るのは初なんですって。うちらの前はJUJUさんや、2PMさんだったらしいです。
鈴木 すげえ!
高橋 ソニーの重役さんが、毎日我々が片っ鼻ほじってる姿を見てからデスクに向かうなんて......。
児嶋 でも、僕はあの鼻に指を入れてるイラストは、最初に見たときから「ちょっとイヤだな」って思ってたんです。
鈴木 何でですか? 得意のプライドですか?
児嶋 だってこういうキャラじゃ......得意のプライドって何だよっ!
高橋 確かにあのイラストのせいで、いろんな媒体の取材で「鼻に指入れてください」って言われるんですよ......。
――DVDのジャケットでは、2巻とも高橋さんがオチ要因っぽく描かれてますよね。1人だけ地面に埋まってたり。
児嶋 正直、このDVDを買ってくれる人のほとんどが高橋さんファンだと思うんですよ。人気も一番あるし。

鈴木 そうそう。『撮れ高次第』の一番の魅力は高橋さんですから。
高橋 とんでもないです。
鈴木 でも、高橋さんはここ一番ってときにパワーが出ないんですよ!
児嶋 高橋は、収録中とにかく肩に力が入ってたからね。
鈴木 でね、なんか分かんないんですけど、高橋さんのファンの人らに「高橋はもっとできるのに、あいつらがうまく引き出してくれない」って怒られちゃうんですよ。
児嶋 そうっ! 俺らのせいにされちゃうんだよな。
高橋 いやいや、もちろん僕が悪いんですよ。
鈴木 しかも俺なんか最近、高橋さんから一方的に嫌われちゃって。今まではよく一緒に釣り行ってたのに、もう誘っても来てくれないし。ひどいときは電話も出てくれないんですよ。
高橋 違いますよ! 僕、もう歳だから寝ないとダメなんですよ!

児嶋 いや、はたから見てても拓と高橋はギクシャクしてきたよ。それに高橋は俺にも苦手意識持ってるし。
高橋 苦手っていうか相性の問題ですよ! 児嶋さんと僕って真面目な性格が似てるから、2人でいても正直あんま盛り上がんないじゃないですか。
児嶋 高橋と似てると思いたくないね!
鈴木 あら!? ドンパチか? 怖え怖え! 取材の最中にやめて欲しいなあ(うれしそうに)。
児嶋 まとめると、高橋は俺が苦手。高橋と拓はギクシャクしてる。でも俺と拓はまったくギクシャクしてない。
高橋 ああ、やめてやるよ! 俺がいなくなればいいんだよ! この世からなっ!
鈴木 やだやだ~。つかまったときみたいになっちゃうから、突然いなくなるのやめてよ~。
高橋 事件(記事参照)をぶり返すな!
鈴木 だってあのとき、高橋さんと連絡取れないから(留置所にいたため)、俺、千葉の山奥まで探しにいったんだよ~。
――千葉の山奥ですか?
高橋 僕が普段、1人で夜中のダムで釣りしたりするから、落石事故とかにあったと思って、鈴木さんが車で夜中まで探してくれたんですよ。
児嶋 すげえ優しい~。俺はあのとき、まったく心配じゃなかった。

高橋 こらこら。さらに鈴木さんの奥さんも優しくて、僕が活動自粛中に、奥さんが鈴木さんに「高橋くんが復帰するまでお金を援助してあげたり、できる限りあなたが支えてあげなさい」って言ってくれて。
児嶋 うわ~、いい話。
高橋 でもそれ聞いて鈴木さん、奥さんと僕の間に体の関係があるんじゃないかって疑ったんですよ。あんな優しい奥さんを疑うなんて信じられない!
鈴木 あのときは、「高橋さんと兄弟になったか」と思いましたよ。あははは。
児嶋 酷いな。拓は『撮れ高次第』でもそうだけど、いい意味でも悪い意味でも不真面目過ぎ。
高橋 特に児嶋さんと一緒にいる時の鈴木さんは、どんどん不真面目なスイッチが入りますもんね。
児嶋 拓と俺は真逆だよね。拓は番組を面白がって壊そうとするけど、俺は根が真面目だから「これじゃまずい」と思って引き戻そうとしちゃう。
鈴木 そう! 児嶋さんはとにかく真面目! 物事を斜めから切るとか、裏側から見るってことはしないですから。正面からド~ンと!
児嶋 ダセェな、俺。センスがねぇんだよ。
鈴木 いやいや、児嶋さんは人間味があって、その延長線上に「本気で怒る」っていうのがありますから。今のバラエティーは本音でぶつからないとオベンチャラで終わるんで、児嶋さんの「本気で怒る」っていうプロあるまじき行為は素晴らしいなと思いますね。あ~見習いたい!
児嶋 お前、俺をちょいちょい小馬鹿にしてるのが出ちゃってるんだよ。
高橋 僕から見たら児嶋さんと鈴木さんは最高の相性ですよ。お互いがバネを引き合って永久に動くんですから。コンビ組めばいいのに。
――では最後に、そんな仲良しの3人からDVDのみどころを教えてください!
高橋 普段、下にいる人間がもっと弱い者を見つけた時の、踏みつけて上に上がろうとする滑稽さを観て頂ければと。残酷さと面白さは紙一重ですから。
鈴木 この番組を見ると、「イジメってなくなんねえな」って思いますよ。
児嶋 人間社会の縮図だよね。
――なんかあんまり見たくないんですけど......。
鈴木 いや、すごく面白いですから! 普通のテレビでは隠すような"企画の打ち合わせ"や"収録後の反省会"まで全部見せちゃう画期的な番組ですよ!
児嶋 僕は、とにかく特典映像が面白いと思いますね。正直、本編より面白いんじゃないかなあ。
高橋 DVDが売れれば"シーズン2"の放送の可能性もあるので、是非買ってください!
(取材・文=林タモツ)
●児嶋一哉(こじま・かずや)
1972年、東京都生まれ。スクールJCA1期生。渡部建とのお笑いコンビ・アンジャッシュとして活動中。『爆笑オンエアバトル』(NHK)『エンタの神様』(日本テレビ)などでブレークし、各局ネタ番組を席巻。"勘違いコント"のジャンルを確立した。2008年にはソロライブ『タンピン』(俳優座劇場)開催。04年より千葉テレビにて看板レギュラー『白黒アンジャッシュ』放送中。
●鈴木拓(すずき・たく)
1975年、神奈川県生まれ。スクールJCA5期生。塚地武雅とのお笑いコンビ・ドランクドラゴンとして活動中。2001年に『はねるのトびら』(フジテレビ)レギュラーに抜擢され全国区に。ツッコミでありながら凄まじいまでの天然ぶりで特異のキャラクターを発揮。相方・塚地が主演した『間宮兄弟』『ハンサム★スーツ』などで映画出演も果たしている。
●高橋健一(たかはし・けんいち)
1971年、東京都生まれ。スクールJCA6期生。今野浩喜とのお笑いコンビ・キングオブコメディとして活動中。2010年に3,009組が出場した『キングオブコント2010』(TBS)で優勝。サイゾーテレビ『ニコニコキングオブコメディ』(http://ch.nicovideo.jp/channel/ch3120)隔週木曜日更新中。

