炎上リスクを超えて……綾野剛『コウノドリ』に「よくぞ言ってくれた」の声が集まるワケ

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TBS系『コウノドリ』番組サイトより
『コウノドリ』(TBS系)は、周産期医療センター(産科と新生児科が組み合わされ、一貫した体制が取れる医療施設/周産期=出産の前後の期間)を舞台に、生命の誕生となる出産の素晴らしさや難しさ、妊婦やその家族だけでなく、医師や助産師たちの喜びや苦悩を、現代の出産事情を踏まえつつ丁寧に描き、女性を中心に評判の高かった医療ヒューマンドラマだ。  原作は「モーニング」(講談社)で連載中の鈴ノ木ユウによる同名コミックで、2年前の2015年10月期に初めてドラマ化され、続編となる今回のシリーズも、その2年後を描く。第1話目が13日に放送され、視聴率も12.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好発進。その内容を振り返ってみたい。 ■Dr.コトー??  前作から2年、頼りない研修医だった下屋加江(松岡茉優)と白川領(坂口健太郎)も正式な医師となり、ペルソナ総合医療センターの周産期医療を支える立派な戦力として働いている。  一方、主人公である産科医師・鴻鳥サクラ(綾野剛)は、ある離島(島根県隠岐島)にいた。輸血設備のない離島の病院で緊急の帝王切開手術を行い、無事成功させる。相変わらず、まっすぐ患者と向き合っているようだ。  もしや、シーズン2は離島がメイン舞台なのか? 鴻鳥は古巣の病院から巣立ってしまったのか? かつての仲間とはもう会わないのか? と勝手にそわそわしていたら、いつもの職場(ペルソナ)にお土産を持った鴻鳥が突然登場、あっさりと復帰。  どうやら離島には先輩医師(佐々木蔵之介)のサポートとして、ほんの一時的に訪れていただけのようで、ドラマ初回ならではの「つかみ」にやられる。  後輩の下屋や先輩の助産師・小松(吉田羊)らと冗談を言い合う場面を見ていると、この2年で主要キャラの関係性に大きな変化はないようだ。  離島で、たった一人で奮闘する先輩医師の活動に触れ、想うところがありそうな鴻鳥に、「産科医一人でできることなど限られてる」と冷たい意見をぶつけつつも、「背負いすぎるな、サクラ」と、まっすぐすぎる鴻鳥を気遣うなど、ライバル的な立ち位置の産科医師・四宮春樹(星野源)のツンデレ具合も相変わらずだ。2人の距離感は、前作よりも縮まっているようにもみえる。よその病院の院長の息子で、今回新人研修医として赴任して来た赤西吾郎(宮沢氷魚)を、四宮が「ジュニア」と呼んできつく当たるのにも、何か理由がありそうだ。ちなみに宮沢氷魚はTHE BOOM・宮沢和史の本当の「ジュニア」だ。 ■ライバルのツンデレ  このドラマの大きな見どころの一つが、ライバルであり(おそらく)親友でもある2人の同期医師の関係性だ。  親を知らずに生まれ、養護施設で育った過去を胸にしまい、誰にでも物腰やわらかく、まるで往年の西田敏行や林家こん平のような笑顔で接する主人公・鴻鳥と、かつて自身の甘さゆえに患者を亡くしてしまった自分を責めるあまり、感情を捨て、(出産を舐めた)患者にとことん冷たく接する医師・四宮との、噛み合わないようで噛み合っているぎこちない信頼関係が、前作で好評だった。外に出す態度やアプローチは違うが、内に秘めた想いは同じという意味では、桜木花道に対する流川楓だったり、ルーク・スカイウォーカーに対するハン・ソロだったり、かなり広くいえばブラック・ジャックに対するDr.キリコなど、青年誌連載原作だけあって、男子が好む正当なライバルものの一面もあると言えるだろう。  序盤、設備の整った環境で、成長した後輩らと手術をする四宮と、離島の乏しい設備で急遽輸血を募りながら手術をする鴻鳥とを交互に見せるシーンは、『ロッキー4/炎の友情』(1985)で、コンピューターを駆使した近代設備で専門トレーナーに囲まれ淡々とトレーニングするドルフ・ラングレンと、何もない雪山で、ただ丸太を切ったり、ただ丸太を持ち上げたり、ただ丸太を運んだりする原始的なトレーニングをひたすら繰り返すシルヴェスター・スタローンとの対比シーンのようだったと言ったら絶対に言い過ぎだが、多少そう感じた。 ■育児を「手伝う」は地雷  今回、登場する妊婦は心室中隔欠損(新生児の心臓の心室に穴が空いてしまっている)の子どもを身ごもっていることが発覚した佐野彩加(高橋メアリージュン)。  生まれてくる子どもの疾患もあるが、キャリアウーマンゆえに産休前の仕事の引き継ぎや復帰の時期の見えなさで、かなり焦っているようで、その態度に「仕事より赤ちゃん優先してあげたらいいのに」と、思わず裏で愚痴る下屋に、先輩医師・今橋(大森南朋)は「今まで一生懸命頑張ってきた彼女に、それをいうのは酷じゃないかな? 病気の重さと患者さんが抱える心の重さは、必ずしも一致しないから」と、職を抱えつつ出産する女性への理解を口にする。  このドラマの評判がいいのは、こういうところではないだろうか? とにかく妊婦や育児をする女性の側に立った言葉を出演者がズバリと言ってくださる。  他にも、疾患のある子どもの育児を不安がる佐野に対し、幾度となく「俺も手伝うから」と励ます夫に、四宮がぶち切れて言ったこの一言。 「『手伝う』じゃないだろ? あんたの子どもだよ」  おそらく夫は悪気なく言っているのだろうが、苛立つ人も多いこの「他人事」発言を、ズバリ斬ってくださった。しかも今をときめく星野源様にだ。デリケートな題材なだけに、ともすると女性視聴者から「出産のこと何もわかっていない」と言われ、炎上などのリスクも多々あるはずだが、リスクどころか「ほんとそう!」「よくぞ言ってくれた!」との声がネットに溢れていたのは、このような、原作以上に女性の側に寄り添う姿勢を強調した作りが大きいのではないだろうか。  しかし、時間の都合もあるのだろうが、この夫の他人事感が「手伝う」発言以外さほどしっかり描かれていないため、「よくぞ言ってくれた」を頂戴したいためだけに、夫に地雷を踏ませ、咬ませ犬に仕立てた感じを若干受けてしまった。  ちなみに、嫁の前であんた呼ばわりされ、真っ二つに叩き斬られ、言い返すこともできなかったこの不憫な夫を演じていたのは、まさかのナオト・インティライミ。髪型が違うせいか、一瞬、キングカズがドラマに!? と目を疑ったのだが、同じサッカー馬鹿でもナオトの方でした。夫が出てくるたびに「こんな顔だったか……」と気になってしまい、やや集中できなかったのは、おそらく見慣れぬ真顔がずっと続くことの違和感だと思います。 ■14才で「出産」してる志田未来  そして今回もう一組出産する夫妻は、早見マナ(志田未来)と早見健治(泉澤祐希)のろうあ者同士の夫妻。  マナは、その曲が胎教にいいと話題になりつつある謎の人気ピアニストBABYのことが気にかかっている様子だが、実はこのBABYは産科医・鴻鳥サクラのもう一つの顔で、それは一部の人間以外には秘密である。前シーズンでは、ちょくちょくバレそうになったり、なんなら2度ほどバレたりもしている。BABYのライブシーンでは、毎回変装のためにヅラをかぶっているのだが、前シーズンでは金髪ロン毛だったのに、今回はなぜか黒のややロン毛。おそらく前回のヅラがあまり評判よくなかったためだと思われるが、今回は似合ってかっこいい分、あまり顔に変化がなく、さすがにバレないのか心配だ。  志田未来は10年ほど前に『14才の母』(日本テレビ系)で妊娠、出産を経験しているからか、今回も見事な産みっぷり。話せない役柄ながら、障害が子どもに遺伝していないかという母親の不安や、出産の苦しさうれしさを表情だけで見事に演じ切っていた。  ちなみに泉澤祐希は、先日終わったばかりのNHK朝ドラ『ひよっこ』の米屋のみつお。佐々木蔵之介(シェフ)といい、最後の最後に一瞬登場した松本穂香(澄子)といい、やけにメンバーが揃っていたのは偶然だろうか。 ■塩顔天国  揃っていたといえば、今回男性陣はとにかく塩顔が揃いまくり。主演の綾野剛、星野源、そして後輩の坂口健太郎に、とどめの佐々木蔵之介(今回だけかもだが)と、とにかくアクを抑えた薄い顔の配役。男性俳優のラインナップには、かなりのこだわりを感じます。  ちなみに原作コミックでは、主役の鴻鳥サクラは当初アクの強い骨ばった造形だったのだが、2年前の初ドラマ化あたりから明らかに主人公の顔が綾野剛に寄りだし、最新の連載付近では、もはや綾野剛そのもののような美しい顔になった。ドラえもんでジャイアンが「綺麗なジャイアン」になってしたった回を思い出すほどの美的進化。連載とともに絵柄が進化するのは新人漫画家にはよくあることだが、ここまで元の絵柄がドラマの役者に寄って行くのも珍しいと思う。ぜひコミックを手に確認していただきたい。 ■原作との違い  今回の序盤の離島パートは、原作では鴻鳥ではなく後輩医師(赤西)が研修として訪れる設定となっており、それを収録した17巻は、まるまる赤西が主人公のスピンオフ作品に近い内容で、全作品の中でも異色の巻となっている。ドラマよりも、離島の生活や、そこで暮らす医師の現実、さらには赤西の恋の芽生えなどを描いており、じっくり描けばこれだけで映画化できそうなほどの内容の濃さだ。  まだ医師になりたてで漠然とした日々を過ごす赤西が、自分の立ち位置ややりがいを見つけ、将来への展望をつかむ意味のある原作の話に比べると、今回ドラマで鴻鳥が離島に行った脚本上の意味は正直あまりなかったように感じた。  新人の赤西なら、活躍できずとも、それにより打ちのめされたりして見せ場になるのだが、鴻鳥は医師としては特に欠点のみられないキャラだけに、さほど心情の揺れもなければ、かといって特に彼でなければという見せ場があったとも思えない。  おそらく時間拡大枠での初回の「つかみ」ということで画的に島という舞台が欲しかったのだろうが、中途半端な印象は拭えなかった。  しかし、全体に丁寧に描かれている良質なドラマなので、次回以降も楽しみ。途中から見てももちろんわかる作りだが、前回の終盤で登場したナオト君親子がさりげなく登場していたり、意外な発見もありそう。個人的には、前シリーズで根を詰めるあまり挫折してしまった山口紗弥加演じる新井医師が出てくるのかが気になるところだ。 (文=柿田太郎)