ドラマ復帰した井上真央が選んだのはイバラの道!! “毒親”という名の家庭の闇に迫る『明日の約束』

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フジテレビ系『明日の約束』番組サイトより
「わたしは母親が好きになれない。中学のとき、ブラジャーを買ってくれなかった。小学生のときは、むりやり交換日記をつけさせられた……」  さわやかな朝の始業シーンで、井上真央演じるスクールカウンセラー・日向(ひなた)先生が母親をディスするナレーションで幕を開けた『明日の約束』。井上真央の連ドラ主演は、視聴率の低さしか話題にならなかったNHK大河ドラマ『花燃ゆ』以来、民放では『トッカン 特別国税徴収官』(日本テレビ系)以来となる5年ぶり。嵐の松本潤との結婚間近と囁かれていた井上真央がドラマ復帰作として選んだのは、謎の自殺を遂げた高校生を追い詰めた真犯人を見つけ出すという超シリアスな社会派ミステリーです。実在の事件を題材にしているだけに、関西テレビがどこまで人間の心の闇をリアルに描いてみせるのか興味津々。あえてイバラの道を進もうという井上真央の女優魂もあっぱれです。  テレビ朝日が『ドクターX』『相棒』『科捜研の女』と盤石の人気シリーズをシフトした今秋のドラマレースの中で、スクールカウンセラーが子どもたちの心の闇、その闇を生み出す元凶となっている“毒親”と対峙することになる本作はダークホース的な存在でしょう。所属事務所を移籍し、今年30歳を迎えた井上真央が背水の陣で挑む主演ドラマとして注目されていますが、いちばんの見どころは最凶毒親・吉岡真紀子を演じる仲間由紀恵の不気味さ。夏休み明けから不登校状態が続いている高校1年生の息子・圭吾(遠藤健慎)の下駄箱にあるシューズが微妙にズレていることを見逃さず、「外出するときは、ママにちゃんと言ってね」とにっこり。また、圭吾がバスケット部の先輩にメールを送るときは、背後にぴったりと張り付いて文面をしっかり検閲。仲間由紀恵の映画初主演が『リング0 バースデイ』(00)の貞子役だったことを思い出し、背筋がブルッとします。  20分拡大となった初回スペシャルでは3人の毒親が登場。バスケット部のマネージャー・増田希美香(山口まゆ)は、遊び好きな母親・麗美(青山倫子)のネグレクト地獄の真っただ中。17歳の誕生日なのにプレゼントはおろか食事代さえもらえないことから、空腹に耐え切れずに希美香はスーパーで安そうなショートケーキを万引き。あっけなく、スーパーの店員・香澄(佐久間由依)に見つかる騒ぎに。それでも男のことしか考えていない麗美にブチ切れ、自分の母親を流血させてしまう。病院で塞ぎ込む希美香に、「わたしはアドバイスすることしかできない。でも、母親から自由になるという選択肢もあるってことを覚えておいて」と優しく伝える日向先生。保護者でもなく、教育者でもない、第三者であるスクールカウンセラーならではの冷静な判断です。  カウンセラーとしては有能な日向先生ですが、そんな彼女が手を焼いているのが実の母親である尚子(手塚理美)。交際中の本庄(工藤阿須加)と居酒屋デートして夜遅くに帰ってきた日向に、「一緒にケーキ食べよう」と無理強いする尚子。善意の仮面を被った毒親に、ずっと優等生で過ごしてきた娘は逆らうことができない。一発一発のパンチはささいでも、毎晩のように浴びるとこれはキツい。さらに輪を掛けて強烈なのが、仲間由紀恵演じる吉岡真紀子。息子の圭吾を自分の監視下に置いておきながら、圭吾が自宅から抜け出すと、日向が勤める高校に電話して、「取り返しのつかないことになったら、どうするんですか!!」と教員全員に息子探しを強要する。モンスターマザーは自分が動かずとも、他人を操るのが抜群にうまい。  プチ家出した圭吾を、いち早く見つけたのは日向先生。夜の体育館で圭吾の悩みに寄り添おうとした日向先生に、圭吾は「先生にお願いがあるんです。僕とつきあって」と告白。まぁ、これはカウンセラーとクライアントにありがちな事例でしょう。「それはできないわ」と大人の対応をする日向先生。ところが翌朝、自宅に戻った圭吾は部屋で首を吊ってしまうという衝撃の初回ラスト。次回からは真紀子が息子の自殺の原因は学校側にあると大攻勢を仕掛けてくることは必至。職場に行けば真紀子の過激な口撃にさらされ、自宅に戻れば母・尚子のネチネチした嫌味に耐えなくてはいけない。日向先生どーなる!?  放送上ではクレジットされていないものの、本作の原案的な存在となっているのがノンフィクション小説『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』(福田ますみ著、新潮社刊)。長野県のスポーツ名門校で実際に起きた高校生の自殺の原因をめぐり、保護者だった母親が高校の校長たちを殺人罪などで訴えた裁判の顛末を追ったもの。地元ではかねてから問題視されていた虚言癖のある母親の巧みな言葉に、ベテラン人権派弁護士や県会議員、有名ジャーナリストたちがすっかり丸め込まれたために騒ぎが大きくなり、裁判に巻き込まれた生徒や教員たちに深い心のキズを残す結果に。また、学校側が開いた記者会見の様子をセンセーショナルな演出で煽ったテレビ局をはじめとするマスメディアが、事件の真相を大きくミスリードさせてしまったのです。ひとりの高校生の心の闇が、現代社会の歪みとシンクロして広まっていった実に恐ろしい事件でした。  鎌倉を舞台にした『明日の約束』は、脚本家・古家和尚のオリジナルストーリーとなっていますが、そんな真っ暗な社会の闇に一条の光を差し込ませることができるのでしょうか。初回視聴率は8.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、シリアスなドラマとしてはまずまずの数字だと思います。重いテーマに、これからさらに数字を落としていくのか、それとも井上真央 vs 仲間由紀恵の闘いがエスカレートして数字をじわじわ上げていくのか。手塚理美と文鳥のピッピちゃんのやりとり&「明日の約束」と名付けられた交換日記の内容ともども目が離せそうにありません。 (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』最終話 祭りを終えたSHO-GUNG、これからどーする!?

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テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
 テレ東や ラッパーどもが 夢のあと。  地方都市で燻り続ける30男たちが、ダラダラした青春にケジメをつけるために東日本を縦断した深夜ドラマ『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』も今回が最終話。川崎クラブチッタでの初ステージというサイコーの祭りを終えた直後の高揚感と地味な日常へと帰っていく侘しさが入り交じった珠玉のエンディングとなった。  毎週流れたライムスターが歌う主題歌は、今回は特別バージョンの「SR Remix」。オープニングからスペシャル感が漂っている。前回から引き続き、「SHO-GUNG」のチッタでのライブが臨場感たっぷりに映し出される。1曲目の『SRサイタマノラッパー』のテーマ曲で観客の心をつかんだIKKU(駒木根隆介)、TOM(水澤紳吾)、MIGHTY(奥野瑛太)たち。DJの和夫(ロベルト吉野)はすでに汗だくになっている。 IKKU「誰も知らないと思うが、俺がレペゼンサイタマのMC IKKUだ。とうとう辿り着いたぜ、川崎クラブチッタ!」  IKKUのマイクアピールと共に、兄タケダ先輩(上鈴木伯周)がつくってくれた新曲『マイクの細道』の多幸感あふれる前奏がチッタに流れる。2曲目の立ち位置を失念していたのか、トーコ(山本舞香)がIKKUに促され、カブラギ(皆川猿時)の横に並ぶ様子がすごくリアルだ。 IKKU「チャンスとマイクは自分でつかむ♪」 TOM「俺たちサイコーのバカだな。やっぱり仲間は宝だからな♪」 MIGHTY「叫び続けるのが男の性。今度こそ咲かせてみせますブロの花♪」  カブラギ役の皆川猿時は「グループ魂」でライブ慣れしているが、今回は「SHO-GUNG」の盛り上げ役に徹している。トーコ役の山本舞香が「たくさん感謝です。ありがとう!」と叫ぶ台詞には実感がこもっている。会場にはアユム(山田真歩)とアユムの夫(川瀬陽太)もいる。アユムは「SHO-GUNG」の晴れ舞台に今にも泣き出しそうだ。「極悪鳥」の元リーダー・大河(橘輝)はいちばん後ろで見ている。自分たちが立てなかったチッタのステージに、あいつらはかっこ悪く這いつくばりながらも上がってみせた。 SHO-GUNG「ひとりで ふたりで 三人で、トラックと家出ガールと みんなで巡った細道♪ あいつとあいつとあいつと出逢った細道♪ マイクとマイクとマイクと旅した細道♪」  会場を埋め尽くしていた観客たちには、2曲目から演出部のGOサインが出たのだろう。セーブすることなく盛り上がり始める。フィクションと現実がシンクロする。ステージとオーディエンスが一体化した幸せな時間が過ぎていく。 SHO-GUNG「勝負、勝負! SHO-GUNG、SHO-GUNG! 俺たちなりの最終回、もう間もなく最終回♪」  かませ犬たちの宴は終わった。たった2曲きりだったけど、自分たちのすべてを出し切った至福の時間だった。息も絶え絶えにステージを降りたIKKUは、観客たちから握手を求められる。「ねぇねぇ、CDとか売ってないの?」と尋ねられ、初めてのスター気分を味わうサイタマのラッパー。でも、それも一瞬。次のステージがすぐに始まり、IKKUを取り巻いていた観客たちは走り去ってしまう。  ライブ翌日、カブラギが運転するカブラギ号に乗って、トーコは大間の実家、和夫さんは猪苗代のヒップホップ寺へとそれぞれの日常に戻っていく。IKKU、TOM、MIGHTYはそれまで見せたことのなかったサイコーにいい表情でカブラギ号を見送る。そして、IKKUたちも長い長い旅を終え、自分たちの青春に終止符を打つ時間が迫っていた。  埼玉県のフクヤ駅に戻ってきたIKKUたち。ラストシーンは劇場版『SR』三部作と同じように、ラップの長回しで締めくくられる。延々と続く6分間にわたるIKKU、TOM、MIGHTYの即興ラップ。このシーンが終われば、IKKU、TOM、MIGHTYだけではなく、10年間にわたって同じ役を演じてきた駒木根隆介、水澤紳吾、奥野瑛太の3人もそれぞれの役とお別れとなる。 MIGHTY「SHO-GUNG、これからどーする? SHO-GUNG、これからどーする?」  名残を惜しむように、別れ際に振り返ったMIGHTYがもう一度、IKKUとTOMへラップで問い掛ける。MIGHTYが放ったこのリリックは、IKKUとTOMだけでなく、生みの親である入江悠監督にも、そして『SRサイタマノラッパー』を見続けてきたファンに向かっても投げ掛けているかのようだ。  かくして「SHO-GUNG」の旅は終わった。深夜ドラマとして全11話でオンエアされた『マイクの細道』だったが、1話につき正味20分ほどしかないためノーカットの長回しで撮ったラップシーンを毎回のように入れていくと物語はなかなか進まなかった。自由度の高い自主映画として始まった『SRサイタマノラッパー』にとっては、尺の短い深夜ドラマは必ずしも最適のフォーマットではなかったように思う。でも、クラブチッタでのライブは、自主映画では到底できない華やかなステージだった。一長一短なところも、「SHO-GUNG」らしい。  東日本を旅したIKKUたちが被災地に直接向き合ったのは第6話の1シーンだけに終わったが、現在大ヒット中のワーナー映画『22年目の告白 私が犯人です』では阪神大震災を事件の重要なモチーフとして入江監督は描いている。藤原竜也演じる主人公・曾根崎は、「酒鬼薔薇事件」の加害者・元少年Aを連想させるトリックスターだ。震災をはじめとする社会状況が、その時代を生きる人間たちの心理にどんな影響を与えるのかに入江監督は強い関心を持っている。インディーズシーンを飛び出した入江監督は『22年目の告白』をヒットさせたことで、メジャーからのオファーがますます増えるだろう。入江監督が今後撮る作品の中には、復興が進まない被災地や東京オリンピックには無縁な地方都市を舞台にした企画も俎上に上がるに違いない。  入江監督に『22年目の告白』の公開前、『SRサイタマノラッパー』の今後について尋ねたところ、「IKKUのラップがうまくなりすぎて、続けていくのが難しい」と苦笑しながら、「自主映画として撮り始めたのが10年前。(クラブチッタでライブができて)すごくいい形で区切りをつけることができた」と語った。『SRサイタマノラッパー』がこれからどうなるかは現時点では入江監督も分からず、ファンの反響次第だという。  10年前、映画監督になったものの、思うような映画を撮ることができずにもがき苦しんでいた入江監督の分身として生まれた「SHO-GUNG」だが、すでに作者である入江監督の手元を離れ、独立した生きたキャラクターとなっていた。家族に依存しきっていたデブニートのIKKUが『マイクの細道』の旅を通して精神的な自立を果たしたように、入江監督も「SHO-GUNG」もお互いにうまく距離を保った関係になったのかもしれない。  ぼくのりりっくのぼうよみのエンディング曲が流れる。いつもは仲間と一緒だったIKKUが、最終回ではひとりサイタマの田舎道を歩いている。ひとりっきりだが、以前のようなコドク感は感じられない。満開の桜並木が美しい。桃栗3年、柿8年。IKKUは30数年を費やして、ようやくひと晩だけの花を咲かせた。周回遅れからの集大成を果たしてみせたIKKUに、最後の最後にごほうびが待っていた。  IKKUの歩く道の反対側から、『SRサイタマノラッパー』(09)のヒロインだった千夏(みひろ)がキャリーケースをゴロゴロと引っぱりながら現われる。高校時代のIKKUにとっては唯一の女友達だった千夏との久々の再会。男女の関係にはほど遠い2人だが、やはりどこか波長が合うらしい。IKKUと千夏が、『男はつらいよ』シリーズの寅さん(渥美清)とリリーさん(浅丘ルリ子)の関係にダブって映る。  IKKUの「頑張れよ」という言葉に、千夏は「お前が頑張れ、バーカ」と『SR1』のクライマックスと同じ台詞を返す。同じシチュエーションでも、千夏の言葉は『SR1』のときよりちょっとだけ優しい。そのニュアンスを味わう余韻もなく、瞬く間に夢のようなIKKUの青春が終わる。でも、それはIKKUにとって新しいステージへの旅の始まりでもあった。 IKKKU「終わらねぇ、いや終わらせねぇ。ここがスタート、俺がMC IKKU。セイホー、セイホー、セイSHO-GUNG、セイSHO-GUNG……」  IKKUは『マイクの細道』を観ていた視聴者の心の中へと消えていった。 (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第10話 レペゼンかませ犬、これが周回遅れからの集大成!

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テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
 青春の残像を追い求めて東北路を旅した「SHO-GUNG」たちも、ついに旅の終着点・川崎クラブチッタに到着した。ラス前となった『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第10話では、ライブステージが幕を開け、同時に彼らの青春のフィナーレのカウントダウンも始まる。  前回、極悪系ヒップホップグループ「極悪鳥」の赤羽アジトからひと晩がかりでようやく脱出することに成功したMIGHTY(奥野瑛太)。群馬から大森へと向かう元女子ラッパーのアユム(山田真歩)とミッツ(安藤サクラ)の乗る車に同乗し、川崎へと向かう──。ところが車が走り始めた途端に、アジトを棄てて逃亡をはかる「極悪鳥」の大河(橘輝)と海原(板橋駿谷)を見つけ、車を停めてしまうMIGHTY。自分を拉致した上に暴行を加えた大河たちに、わざわざクラブチッタに行くことをバカ正直に伝える。「なんで、すぐ逃げずに戻ってきた?」といぶかしむ大河。 MIGHTY「もう逃げるのやめようと思って。新しい人生やり直したいんで」  かつて草鞋を脱いでいた「極悪鳥」にMIGHTYはペコリと頭を下げ、血まみれながら爽やかな笑顔を見せる。逃げても逃げても自分が背負った業はどこまでも付いてくる。それなら、自分の背負った業にきちんと向かい合うしかない。それがMIGHTYが今回の旅で見つけた答えだった。  MIGHTYがなかなか現われないことを心配していたIKKU(駒木根隆介)とTOM(水澤紳吾)だが、川崎クラブチッタにはどんどん人が集まり始めた。福島の「タケダ寺」からは、タケダ住職(上鈴木伯周)の代わりを務めるDJとして和夫さん(ロベルト吉野)が到着。横浜中華街に出掛けていたカブラギ(皆川猿時)とトーコ(山本舞香)はステージ衣装姿で戻ってきた。「ラップなんてできない」と拒否していたトーコもやる気まんまん。そこへ、アユムの夫(川瀬陽太)が運転する車に乗ってきたMIGHTYも合流。アユムと「SHO-GUNG」の邂逅をご都合主義と笑うなかれ。地方都市で鬱屈した青春を過ごしてきたIKKUもTOMもMIGHTYも、そしてアユムも、ラップだけが生き甲斐だった。これは心理学者のユングがいうところの集団的無意識が呼び寄せたシンクロニシティってやつだ。  群馬を舞台にした『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)以来の再会となるアユムとIKKU、TOMだったが、のんびり旧交を温めている余裕は両者にはなかった。クラブチッタにKEN THE 390、Creepy Nutsと出演者が次々と会場入りしていく。ロビーで練習をしていたIKKUたちは挨拶代わりのフリースタイルをかませられるも、まるで相手にならない。プロの人気ラッパーと地方の素人ラッパーとの実力差をまざまざと見せつけられる。さらにライブイベントのトリを飾るライムスターも登場。「SHO-GUNG」とはオーラがまるで違う。トーコが「レベル、違ぇ~わ」と呟き、TOMの顔が青ざめるのも仕方なかった。  控え室でじっとしていられずに、関係者出入り口周辺をうろつくIKKU。入場客がどんどん会場に入っていく。そこへ屋台で買ってきたタコ焼きをほおばりながら、トーコが戻ってくる。 トーコ「ほんとにライブやるんだね。ずっと嘘だと思ってた。なんだかんだいって、ここまでみんな連れてきたよね。あのとき、あの変なラップを聞いてなかったら、家を出てなかったし、自分に嘘をついていたと思う。ありがとね」  いつになく素直なトーコ。ライブ直前にタコ焼きを食う度胸も頼もしい。「みんな、待ってるよ。早くおいで」と優しくIKKUにささやく。青森弁でTOMをカツアゲしたヤンキー娘のトーコが、今ではすっげーかわいく思えてくる。  夜7時30分。オープニングアクトを務める「SHO-GUNG」のクラブでの初ステージが始まる。ふとそのとき、ステージへ向かうIKKUを呼び止める声が。「SHO-GUNG」のオリジナルメンバーであり、IKKUとは中学校時代からの幼なじみであるTOMだった。 TOM「10年前、『ヒップホップ、熱いよ』って誘ってくれてありがとう。俺、自分に才能ないのわかっているから。ここが俺のゴール、ピークだってわかるんだよ。うまくいきすぎだよ」  TOMらしいネガティブ発言ながら、IKKUへ感謝の気持ちを伝える。これが戦争映画だったら、確実に死亡フラグが立つ台詞でしょう。ある意味、TOMはこのステージで、長くこじらせた自分の青春を葬り去るつもりでいる。MIGHTYの「かませ犬ども、調子はどうだい!」の掛け声を合図に、「SHO-GUNG」はステージへと飛び出していく。  ついに始まったクラブチッタのステージ。IKKU、TOM、MIGHTYに加え、DJの和夫、そしてカブラギ&トーコとの一夜限りのユニットだ。チッタの会場は観客でいっぱいだが、みんな初めて耳にする「SHO-GUNG」の名前に無反応状態(エキストラへの演出がうまい!)。IKKUもTOMもMIGHTYも、自分たちに恵まれた才能も音楽的キャリアもないことは承知している。観客の冷たい反応は怖いし、できればここから逃げ出したい。でも、今は埼玉や大間でコドクを抱えて、世間を呪っていた頃の彼らとは違う。旅を終えた彼らは、もうひとりぼっちではなく、「SHO-GUNG」として仲間と一緒にステージに立っている。そんなIKKUたちがオープニング曲に選んだのは、『SRサイタマノラッパー』のテーマ曲だ。 IKKU「周回遅れからの集大成♪ 仲間とマイクを繋げばヒッポホップ。誰だってできる、バカだってできる、俺だってできる。ただ、マイクをつなげ!」  夭折した伝説のタケダ先輩が遺してくれた軽快かつメロディアスなトラックに、IKKUたちが考えた新しいリリックが乗って、チッタの会場中に響き渡る。TOMが、MIGHTYが、そしてトーコ、カブラギへとマイクが回っていく。静観していた観客たちが「SHO-GUNG」の放つ熱気に少しずつ揺さぶられていく。  現実世界に「SHO-GUNG」は存在しない。フィクションの存在だということはわかっている。でも、8年前に劇場版『SRサイタマノラッパー』(09)に出会い、そして4月から始まった『マイクの細道』を毎週観ているうちに、「SHO-GUNG」はとても身近な存在になっていった。彼らのうまくはないけど、懸命に今の自分に正直なリリックを吐く姿は、もはや他人事とは思えない。 「エス・エッチ・オー、ジー・ユー・エヌ・ジ~。俺らSHO-GUNG。伸びるぜ、グンググーン♪」  いよいよ、次週は最終回。彼らの青春も残すところ1曲! (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第9話 ヘイヨー! ダメ兄に捧げる妹ラッパーのライム

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テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
 かっこ悪いということは、なんてかっこいいんだろう。最終回まで残り2話となった『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第9話だが、今週のIKKUとMIGHTYはいつも以上に超ダサい。周回遅れのドンジリもいいところだ。そんなメンタリティー&コンディションで、クラブチッタのステージに立つことができるのか?  これまで一度も東京に足を踏み入れたことがなかった埼玉在住のほぼニート男・IKKU(駒木根隆介)が、川崎へ行く手前の東京都北区赤羽で途中下車した前回。クラブチッタでのライブまで残り2日、兄タケダ先輩(上鈴木伯周)が「SHO-GUNG」のために作ってくれた新曲を手に入れて盛り上がっていたIKKUとTOM(水澤紳吾)だった。ところが、ひとりシミジミとタバコの煙をくゆらせていたMIGHTY(奥野瑛太)は、かつてパシリをさせられていた極悪系ヒップホップグループ「極悪鳥」の大河(橘輝)、海原(板橋駿谷)たちに見つかり、拉致されてしまう。  MIGHTYが忽然と姿を消したことを気に病む一行だったが、とりあえずカブラギ(皆川猿時)が運転するカブラギ号に乗って会場下見のために川崎クラブチッタへ。青森育ちのトーコ(山本舞香)はクラブチッタの立派さに、「ここでやんの? すっげー!」と素直に驚く。クラブチッタのエントランスに貼られたポスターには、ちっちゃ~くだが「SHO-GUNG」の名前も載っていた。埼玉ではみんなからバカにされまくったけれど、ようやく辿り着いた夢のステージだ。IKKUとTOMは選ばれし者の恍惚と不安に酔っていた。  一行がクラブチッタの前で騒いでいると、そこへくわえタバコで現われたのはクラブチッタのマネジャーである芽衣子(黒沢あすか)。芽衣子が美人であることから目がランランと輝くカブラギ。雪国育ちのおっとりした雪(中村静香)から、都会派の大人の女性・芽衣子まで、ストライクゾーンがやたらと広いカブラギだった。  カブラギの発した「なんで、こいつらを(オープニングアクトに)選んだんですか? 人気も華もないのに」という素朴な疑問に対し、芽衣子はサプライズな答えを用意していた。 芽衣子「たまたま見てたのよ、栃木での野外フェス。イベントとしては滅茶苦茶だったけど、個人的にグッときちゃって。男の友情に弱いのよね」  なんと、芽衣子は『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)の怪しい野外フェスに足を運んでいた。IKKUとTOMは栃木在住のラッパー「征夷大将軍」とコラボしたステージに臨み、これから盛り上がるというところでMIGHTYが「極悪鳥」と騒ぎを起こし、フェスそのものを台無しにしてしまった。でも、「SHO-GUNG」が『SR3』で精いっぱい吐いた思いの丈は、ちゃんと伝わる人には伝わっていたのだ。  真剣に願った夢は必ず叶う。ただし、願った本人の思惑とは違った形や意外なタイミングで訪れることになるが。「SHO-GUNG」にとって、芽衣子はまるで『小僧の神様』(by志賀直哉)のような存在だった。女神が埼玉在住のダサ~い男たちにほほえんでくれた。もう、このエピソードだけでお腹いっぱいな第9話です。  一方のMIGHTYはまだ赤羽。「極悪鳥」のアジトに連れ込まれ、血まみれ状態で監禁されていた。鎖で足を繋がれ、逃げようにも逃げられない。今まで叶わない夢からずっと逃げ続けてきたMIGHTYだけど、夢が叶いそうになった瞬間に身動きできない状態に陥ってしまうとは、なんと言う皮肉か。6月10日から藤原竜也&伊藤英明主演の犯罪ミステリー映画『22年目の告白 私が殺人犯です』が絶賛公開中の入江悠監督、MIGHTYパートは思いっきりサスペンスモードに振り切っていく。  かつては東京のクラブシーンでそこそこ知名度のあった「極悪鳥」だったが、栃木の野外フェスで警察沙汰を招き、空中分解してしまった。埼玉の片隅で夢を捨てきれずに追い続けた周回遅れの「SHO-GUNG」とは対称的に、ずっと先を走っていたはずの「極悪鳥」はダークサイドに堕ちていった。  裏ビジネスを2~3回手伝えば、解放してもいいという「極悪鳥」の元リーダー・大河。ここで大河の求めに応じれば、IKKUやTOM、それに埼玉でブロッコリー畑を営んでいる実家の家族をまた裏切ることになる。 MIGHTY「ヒップホップの仁義~。失礼ながらお控えなさって。今度こそ、今度こそ咲かせてみせます、ブロの花~♪」  裏社会への誘いを断り、ボコボコにされながらもゾンビのように立ち上がるMIGHTY。口から出てくるリリックは全然ラップになってないし、ブロッコリーの花が咲いたら食べられなくなっちゃうよ。でも、MIGHTYは再びダークサイドに堕ちないよう、必死で自分の中のもうひとりの自分と闘っていることだけは充分に伝わってくる。IKKUやTOMを川崎で待たせているMIGHTYは、『走れメロス』の主人公メロスのような心境だった。  そして舞台は再度、川崎のクラブチッタへ。MIGHTYが当日ちゃんとライブに現われることを信じるしかないIKKUたちだったが、もうひとつ懸案事項が。相棒のTOMがIKKUの心の中を見透かしたようにせっつく。明日はクラブチッタのライブだが、IKKUの妹・茉美(柳ゆり菜)の結婚式でもある。 TOM「電話しろって。まだ、ちゃんと謝ってないだろ。ずっと後悔するよ。そんな中途半端な気持ちで、明日ライブすんのかよ」  TOMのお節介で、京都のホテルで独身最後の夜を過ごす茉美にテレビ電話することになるIKKU。子どもの頃からIKKUよりしっかりしており、自分の人生を着実に歩む妹に、今さら愚兄として掛ける言葉が思いつかない。 IKKU「人もうらやむ器量よし~。その名も加賀谷茉美という~♪」  さっきのMIGHTYもそうだが、IKKUもまるでラップになってない。“バカな兄貴でゴメンな音頭”とでも呼びたい即興ソングを歌うものの、撮影も終盤に入って余裕がないせいか、そうとうにひどい出来。IKKUのかっこ悪さ、全開である。恐ろしくダサい。でも、いつもは口数の少ない兄・郁美が本心を明かしてくれたことが茉美にはうれしかった。スマホの小さな画面の中で、妹ひとりのために顔を真っ赤にして歌う兄はひどくかっこ悪く、そして超かっこよかった。  ごめんな、お兄ちゃんはまだヒップホップやめられない。幸せになれよ、と締めくくるIKKUに対する茉美の返しが実にクールだ。 茉美「ヘイヨー! ニートなブラザー。明日はかませ~、会場沸かせ~♪」  10年間、IKKUの隣りの部屋でラップを聴いてきた茉美にも、ヒップホップ魂がほんのりと移っていた。茉美は「TOMさんも明日のライブ、がんばって」と、兄妹仲を気遣ってくれたTOMへの感謝の言葉も忘れない。クラブチッタの芽衣子に加え、「SHO-GUNG」にとって、もう一人の女神がほほえんでくれたライブ前夜だった。  夜が明け、いよいよライブ当日。監禁されたままのMIGHTYはどうやって生還するのか。悪の孔雀「極悪鳥」は実にあっけなく、そのこずるい悪の歴史を終えることになる。警察のガサ入れが迫り、大河や海原はMIGHTYを残したままアジトから慌ただしく逃げ出していく。羽根の折れた「極悪鳥」の末路は無惨だった。近くにあったヤスリを使って、ようやく鎖を断ち切ったMIGHTYは、「極悪鳥」との因縁も断ち切ることに成功した。血だらけの顔のまま、MIGHTYは街へ飛び出し、走行中の車の前に立ち塞がる。  中年のオッサン(川瀬陽太)の運転する車の助手席に乗っていた「あーちゃん」と呼ばれる女が、MIGHTYが口にした「SHO-GUNG」「クラブチッタでライブ」という言葉に反応する。助手席の女は『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)に登場したコンニャク屋の娘・アユム(山田真歩)だった。「ミッツ、SHO-GUNGだって」というアユムの声に、後部シートで眠っていたミッツ(安藤サクラ)も目を覚ます。アユムとミッツが中心となって結成された群馬の女子ラッパー「B-hack」もまた、伝説のDJ・タケダ先輩にトラックを提供されたという縁がある。赤羽にひとり残されていたMIGHTYにも、女神たちがほほえんだ。これでトーコが「SHO-GUNG」のライブに参加すれば、女神たちのロイヤルストレートフラッシュの完成だ。  第9話にて、テレビシリーズ『マイクの細道』と劇場公開作『SRサイタマノラッパー』北関東三部作がひとつの輪に繋がった。『マイクの細道』のオープニング曲に登場するキャラクターもすべて回収。残すは、もうクラブチッタでのライブステージのみ。残り2週、グンググ~ンと盛り上がりたいッ。 (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第8話 待望の神曲が降臨! そして極悪鳥ふたたび……

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第8話 待望の神曲が降臨! そして極悪鳥ふたたび……の画像1
テレビ東京系『『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』』番組サイトより
 1話につき正味20分しかないため、なかなか青森から川崎まで辿り着くことができない『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』。だが、第8話はかつてなかった大展開。伝説のタケダ先輩が兄弟で並び立ち、ついにIKKUが東京都内に足を踏み入れるという、『SR』史上に残るメモリアルなエピソード回となった。  ここまでの流れを簡単に振り返ると、埼玉県にある福谷市で暮らすほぼニート男・IKKU(駒木根隆介)が川崎クラブチッタでのライブイベントのオープニングアクトに応募したところ、抽選に当たったことが旅の始まり。もうすぐ嫁との間に子どもが生まれる相棒・TOM(水澤紳吾)を強引に誘って、ヒップホップグループ「SHO-GUNG」を再結成。そして、かつて仲間だったMIGHTY(奥野瑛太)を連れ戻しに、青森県大間へと向かった。前科者であることから実家に戻ることを拒んでいたMIGHTYだったが、「人生をリセットする」ために最初で最後のステージに立つことを決意する。  ドスケベなトラック運転手カブラギ(皆川猿時)のデコトラに乗って、家出娘トーコ(山本舞香)と共に東北道を南下する「SHO-GUNG」。途中、福島にあるヒップホップ寺に立ち寄り、1週間の修業に耐えれば、タケダ住職(上鈴木伯周)から新曲を用意してもらえるという約束を交わす。修業を通して「言葉は友達♪」になった「SHO-GUNG」だったが、IKKUの妹・茉美(柳ゆり菜)の結婚式とライブが重なっていることが判明し、IKKUは激しく動揺……というのが前回まで。  クラブチッタのステージに「SHO-GUNG」として立つか、それとも妹のためにライブを蹴って、結婚式に出席するか。IKKUは悩んでいる。IKKUの苦悶はある意味、必然でもあった。外界から隔離されたお寺で修業に励んだことで、自分にとってのリリックとは何か、表現とは何かをIKKUはいろいろ考えた。表現を突き詰めていくと、自分自身の問題、そして家族の存在にぶつかる。『マイクの細道』の前クールに放映されていた『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)では映画プロデュースに初挑戦する山田孝之が“親殺し”をテーマに選んだように、IKKUにとっては父親の命令に逆らい、妹の結婚式を反故することは“親殺し”に等しい行為だった。家族という呪縛から、精神的にも経済的にもどう自立するかは、人間にとっての永遠のテーマだ。  TOMやMIGHTYと一緒にいると気まずいため、夜の本堂にひとり佇むIKKU。翌朝、タケダ住職に俳句を提出すれば、念願の新曲がもらえるはずだった。だが、なかなか筆が進まない。メタボ体型の体を小さく丸めていたIKKUに、「妹さんの結婚式、出なきゃダメだよ」と声を掛けるトーコ。好きでもない相手との結婚を嫌って、大間の実家を飛び出してきたトーコだが、実はみんなから祝福される結婚を願っていることが分かる。本音で語り合うことができるトーコは、すでに「SHO-GUNG」の旅の仲間だった。  そして朝。「SHO-GUNG」の3人はギクシャクしながらもタケダ住職の前に集まり、それぞれの心境を俳句に詠む。 TOM「草の芽を 歌ふるわせる 猪苗代」 MIGHTY「登っても いばらにいばら ラップ道」  ひと晩考えた割には、あまりパッとしない出来。そしてIKKUは……。 IKKU「福谷にも 待ちびとありや 兄妹の」  季語がないし、うまくもないけど、この一句はタケダ住職の胸に突き刺さった。タケダ住職の双子の弟、伝説のタケダ先輩は福谷市の実家で若くして病気で亡くなった。そのタケダ先輩が病床で作った最後のトラックを託されたのが「SHO-GUNG」だった。 IKKU「タケダ先輩の死に目には会えませんでした。でも、葬式のときは安らかな顔でした」  タケダ住職は修業に出てから一度も実家には戻っておらず、弟であるタケダ先輩の葬式にも出ていなかった。そんなタケダ住職は新曲の入った音源を渡しながら、「SHO-GUNG」に頼み事をする。 タケダ住職「用が済んだら、このトラックは弟の仏前に供えてほしい」  兄タケダ先輩はこの後、きっとひとりで泣くことだろう。 「SHO-GUNG」とトーコの新しい旅立ちだった。赤鬼(市オオミヤ)と「五福星」に別れを告げるTOMとMIGHTY。「最後に決めるのは自分自身」という赤鬼の言葉にうなずいてみせるIKKU。トーコは青鬼(野村周平)にコクろうとするが、すでに2人は以心伝心の仲だった。「何かに迷ったらいつでも来てください。美味しい料理をまた」と青鬼から先に言われてしまう。トーコの恋は実らなかった。でも、料理の道に進む決心がつき、心は晴れやかだった。そして、山門をくぐるIKKUの目には、タケダ住職&タケダ先輩(上鈴木伯周&上鈴木タカヒロ)が2人並んで自分たちのことを見送ってくれているように感じられた。  川崎に向かって爆走するカブラギ号に、兄タケダ先輩が作ってくれた新曲が流れる。生きるということは、死ぬまで悩み続けるということ。悩みながら、傷つきながらも、前へ進んでいこう。そんなポジティブな気分にさせてくれる明るいミディアムテンポの曲だった。新曲を聴きながら、クラブチッタで披露するリリックをそれぞれノートにしたためる「SHO-GUNG」。そして料理の勉強をしたいとカブラギに伝えるトーコ。音楽を聴いても、決してお腹は満たされない。でも音楽はコドクな人間の心を癒し、迷っている人間の背中を力強く押してくれる。『マイクの細道』のシリーズを通して、サイコーにハッピーな時間が流れていく。  このままハッピー気分で終わればいいのにと思うけど、そうはしないのが入江悠監督であり、『SRサイタマノラッパー』の世界。喜びと哀しみはいつも背中合わせの関係だ。待望の新曲は手に入ったが、まだIKKUの問題は解決されていない。ドライブインで昼食を兼ねた緊急会議が開かれ、「IKKUはライブを優先するべき」がMIGHTYとカブラギの2票、「IKKUは妹の結婚式に出るべき」はトーコとTOMという結果に。人と争うことが苦手だったはずのTOMがMIGHTYとケンカを始めてしまう。 TOM「家族のほうが俺らより歴史がなげぇだろ。生まれてから死ぬまでなんだからさ」  いつも当たり前のことしか言わない退屈な男・TOMだが、当たり前すぎてこの言葉にはハッとさせられる。このままでは自分の家族だけでなく、「SHO-GUNG」までバラバラになってしまう。IKKUは「俺、やっぱり行くよライブ」という言葉で、その場を収めるしかなかった。  栃木県日光を通過するカブラギ号に、危うく轢かれそうになる2人組の男。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)でIKKU、TOMとコラボした「征夷大将軍」だ。「征夷大将軍」はもう解散したけど、残ったメンバーで地元の名産ギョーザをネタにしたラップづくりに励んでいた。走行中の車には気をつけて、頑張ってほしい。  トーコがスマホで見つけた調理専門学校を見学するため、一行は『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)でおなじみ赤羽で途中下車することに。ここでIKKUのスマホに着信音が。妹の茉美からだ。「ライブがあるから、結婚式には出られない」とIKKUが告げると、「もういい。勝手にすればッ」と号泣する茉美。自分よりしっかりしていると思っていた妹だったが、子どもの頃のように自分のせいで泣き出してしまった。電話口で泣く女の声ほど、男の胸を切り裂くものはない。ライブまであと2日だが、まだIKKUは迷っている。    そして“魔境”赤羽に現われたのは、極悪ヒップホップグループの「極悪鳥」。『SR3』でMIGHTYが起こした傷害事件が原因で「極悪鳥」もまた解散に追い込まれ、中心メンバーだった大河(橘輝)や海原(板橋駿谷)は闇金系裏ビジネスに従事して生き延びていた。ひとりでタバコを吸っていたMIGHTYは、大河と海原に睨まれて、金縛り状態に。ボコられた上に拉致られてしまう。  全11話で、最終回は川崎クラブチッタでのライブ編になるだろうから、残り9話と10話で、MIGHTY奪回作戦とIKKUの家族問題を同時に解決しなくてはならない。牧歌的ムードの音楽ロードムービーから、急展開のサスペンスドラマへ変調していく『マイクの細道』。残りのエピソードから目が離せない! (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第8話 待望の神曲が降臨! そして極悪鳥ふたたび……

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第8話 待望の神曲が降臨! そして極悪鳥ふたたび……の画像1
テレビ東京系『『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』』番組サイトより
 1話につき正味20分しかないため、なかなか青森から川崎まで辿り着くことができない『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』。だが、第8話はかつてなかった大展開。伝説のタケダ先輩が兄弟で並び立ち、ついにIKKUが東京都内に足を踏み入れるという、『SR』史上に残るメモリアルなエピソード回となった。  ここまでの流れを簡単に振り返ると、埼玉県にある福谷市で暮らすほぼニート男・IKKU(駒木根隆介)が川崎クラブチッタでのライブイベントのオープニングアクトに応募したところ、抽選に当たったことが旅の始まり。もうすぐ嫁との間に子どもが生まれる相棒・TOM(水澤紳吾)を強引に誘って、ヒップホップグループ「SHO-GUNG」を再結成。そして、かつて仲間だったMIGHTY(奥野瑛太)を連れ戻しに、青森県大間へと向かった。前科者であることから実家に戻ることを拒んでいたMIGHTYだったが、「人生をリセットする」ために最初で最後のステージに立つことを決意する。  ドスケベなトラック運転手カブラギ(皆川猿時)のデコトラに乗って、家出娘トーコ(山本舞香)と共に東北道を南下する「SHO-GUNG」。途中、福島にあるヒップホップ寺に立ち寄り、1週間の修業に耐えれば、タケダ住職(上鈴木伯周)から新曲を用意してもらえるという約束を交わす。修業を通して「言葉は友達♪」になった「SHO-GUNG」だったが、IKKUの妹・茉美(柳ゆり菜)の結婚式とライブが重なっていることが判明し、IKKUは激しく動揺……というのが前回まで。  クラブチッタのステージに「SHO-GUNG」として立つか、それとも妹のためにライブを蹴って、結婚式に出席するか。IKKUは悩んでいる。IKKUの苦悶はある意味、必然でもあった。外界から隔離されたお寺で修業に励んだことで、自分にとってのリリックとは何か、表現とは何かをIKKUはいろいろ考えた。表現を突き詰めていくと、自分自身の問題、そして家族の存在にぶつかる。『マイクの細道』の前クールに放映されていた『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)では映画プロデュースに初挑戦する山田孝之が“親殺し”をテーマに選んだように、IKKUにとっては父親の命令に逆らい、妹の結婚式を反故することは“親殺し”に等しい行為だった。家族という呪縛から、精神的にも経済的にもどう自立するかは、人間にとっての永遠のテーマだ。  TOMやMIGHTYと一緒にいると気まずいため、夜の本堂にひとり佇むIKKU。翌朝、タケダ住職に俳句を提出すれば、念願の新曲がもらえるはずだった。だが、なかなか筆が進まない。メタボ体型の体を小さく丸めていたIKKUに、「妹さんの結婚式、出なきゃダメだよ」と声を掛けるトーコ。好きでもない相手との結婚を嫌って、大間の実家を飛び出してきたトーコだが、実はみんなから祝福される結婚を願っていることが分かる。本音で語り合うことができるトーコは、すでに「SHO-GUNG」の旅の仲間だった。  そして朝。「SHO-GUNG」の3人はギクシャクしながらもタケダ住職の前に集まり、それぞれの心境を俳句に詠む。 TOM「草の芽を 歌ふるわせる 猪苗代」 MIGHTY「登っても いばらにいばら ラップ道」  ひと晩考えた割には、あまりパッとしない出来。そしてIKKUは……。 IKKU「福谷にも 待ちびとありや 兄妹の」  季語がないし、うまくもないけど、この一句はタケダ住職の胸に突き刺さった。タケダ住職の双子の弟、伝説のタケダ先輩は福谷市の実家で若くして病気で亡くなった。そのタケダ先輩が病床で作った最後のトラックを託されたのが「SHO-GUNG」だった。 IKKU「タケダ先輩の死に目には会えませんでした。でも、葬式のときは安らかな顔でした」  タケダ住職は修業に出てから一度も実家には戻っておらず、弟であるタケダ先輩の葬式にも出ていなかった。そんなタケダ住職は新曲の入った音源を渡しながら、「SHO-GUNG」に頼み事をする。 タケダ住職「用が済んだら、このトラックは弟の仏前に供えてほしい」  兄タケダ先輩はこの後、きっとひとりで泣くことだろう。 「SHO-GUNG」とトーコの新しい旅立ちだった。赤鬼(市オオミヤ)と「五福星」に別れを告げるTOMとMIGHTY。「最後に決めるのは自分自身」という赤鬼の言葉にうなずいてみせるIKKU。トーコは青鬼(野村周平)にコクろうとするが、すでに2人は以心伝心の仲だった。「何かに迷ったらいつでも来てください。美味しい料理をまた」と青鬼から先に言われてしまう。トーコの恋は実らなかった。でも、料理の道に進む決心がつき、心は晴れやかだった。そして、山門をくぐるIKKUの目には、タケダ住職&タケダ先輩(上鈴木伯周&上鈴木タカヒロ)が2人並んで自分たちのことを見送ってくれているように感じられた。  川崎に向かって爆走するカブラギ号に、兄タケダ先輩が作ってくれた新曲が流れる。生きるということは、死ぬまで悩み続けるということ。悩みながら、傷つきながらも、前へ進んでいこう。そんなポジティブな気分にさせてくれる明るいミディアムテンポの曲だった。新曲を聴きながら、クラブチッタで披露するリリックをそれぞれノートにしたためる「SHO-GUNG」。そして料理の勉強をしたいとカブラギに伝えるトーコ。音楽を聴いても、決してお腹は満たされない。でも音楽はコドクな人間の心を癒し、迷っている人間の背中を力強く押してくれる。『マイクの細道』のシリーズを通して、サイコーにハッピーな時間が流れていく。  このままハッピー気分で終わればいいのにと思うけど、そうはしないのが入江悠監督であり、『SRサイタマノラッパー』の世界。喜びと哀しみはいつも背中合わせの関係だ。待望の新曲は手に入ったが、まだIKKUの問題は解決されていない。ドライブインで昼食を兼ねた緊急会議が開かれ、「IKKUはライブを優先するべき」がMIGHTYとカブラギの2票、「IKKUは妹の結婚式に出るべき」はトーコとTOMという結果に。人と争うことが苦手だったはずのTOMがMIGHTYとケンカを始めてしまう。 TOM「家族のほうが俺らより歴史がなげぇだろ。生まれてから死ぬまでなんだからさ」  いつも当たり前のことしか言わない退屈な男・TOMだが、当たり前すぎてこの言葉にはハッとさせられる。このままでは自分の家族だけでなく、「SHO-GUNG」までバラバラになってしまう。IKKUは「俺、やっぱり行くよライブ」という言葉で、その場を収めるしかなかった。  栃木県日光を通過するカブラギ号に、危うく轢かれそうになる2人組の男。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)でIKKU、TOMとコラボした「征夷大将軍」だ。「征夷大将軍」はもう解散したけど、残ったメンバーで地元の名産ギョーザをネタにしたラップづくりに励んでいた。走行中の車には気をつけて、頑張ってほしい。  トーコがスマホで見つけた調理専門学校を見学するため、一行は『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)でおなじみ赤羽で途中下車することに。ここでIKKUのスマホに着信音が。妹の茉美からだ。「ライブがあるから、結婚式には出られない」とIKKUが告げると、「もういい。勝手にすればッ」と号泣する茉美。自分よりしっかりしていると思っていた妹だったが、子どもの頃のように自分のせいで泣き出してしまった。電話口で泣く女の声ほど、男の胸を切り裂くものはない。ライブまであと2日だが、まだIKKUは迷っている。    そして“魔境”赤羽に現われたのは、極悪ヒップホップグループの「極悪鳥」。『SR3』でMIGHTYが起こした傷害事件が原因で「極悪鳥」もまた解散に追い込まれ、中心メンバーだった大河(橘輝)や海原(板橋駿谷)は闇金系裏ビジネスに従事して生き延びていた。ひとりでタバコを吸っていたMIGHTYは、大河と海原に睨まれて、金縛り状態に。ボコられた上に拉致られてしまう。  全11話で、最終回は川崎クラブチッタでのライブ編になるだろうから、残り9話と10話で、MIGHTY奪回作戦とIKKUの家族問題を同時に解決しなくてはならない。牧歌的ムードの音楽ロードムービーから、急展開のサスペンスドラマへ変調していく『マイクの細道』。残りのエピソードから目が離せない! (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第7話 セーフティーネット/家族の絆が断てないIKKU

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テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
 30歳をすぎた男たちが定職に就かずに、自分たちが唯一熱くなれたヒップホップ道を極めんと東北を旅する『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』。川崎クラブチッタでのライブステージまで、残り3日間というカウントダウン状態を迎え、第7話は「SHO-GUNG」の中心メンバーであるIKKU(駒木根隆介)が「おいおい、そりゃねぇだろ~!」と全視聴者がツッコミを入れたくなる迷いを見せ始めた。単にドラマの後半戦を盛り上げるためのハードルではなく、IKKUのアイデンティティーに関わる重要な問題らしい。  前回に続いて、福島県猪苗代湖近くにある世にも珍しいヒップホップ寺「竹田寺」で修業を始めたIKKU、TOM(水澤紳吾)、MIGHTY(奥野瑛太)の3人。これまでグウタラ生活を送ってきた3人にとっては、朝早い寺での規則正しい生活はかなりしんどい。『SRサイタマノラッパー』(09)では東京に向かって走るトラックをBB弾で撃つという、狂気をはらんでいたTOMだったが、修業僧から水鉄砲で起こされるとは感慨深い。  このシーンを見ながら、近年の戸塚ヨットスクールの内情を追った東海テレビ製作のドキュメンタリー映画『平成ジレンマ』(11)をふと思い出した。かつては体罰指導で不登校児を更生させたことで話題になった戸塚ヨットスクールだが、傷害致死事件が起きて戸塚校長が刑務所送りになって以降は、体罰のない緩やかな指導スタイルに変わった。今でも高齢になった親がニートの子どもの将来を心配して、安くないスクール料を払って預けにくるケースが絶えない。ところが、預けられた生徒(いい大人)は起床時間や消灯時間がきちんと決まった寮での集団生活に耐えられずに逃げ出してしまう。IKKUたちは大丈夫だろうか。  1週間の修業に耐えれば、「竹田寺」の住職である兄タケダ先輩(上鈴木伯周)が新曲を作ってくれることから、ここから逃げ出すわけにはいかない。いやいやながら小雨の降る中、草刈りを始めるIKKUたち。そんな3人に対して、見張っていた戸塚校長が、いや赤鬼(市オオミヤ)が「違うっ!!」と喝を入れる。赤鬼役の市オオミヤさん、入江悠監督が撮った『ネオ・ウルトラQ』(WOWOW)の第11話「アルゴス・デモクラシー」ではテロリスト役で出てましたね。 赤鬼「お前らのラップには詩心がない。働きながら、詩を詠め。詩の世界は広く深い。見えるもの、見えないもの、すべてが対象だ。感じたことを言葉にしてみろ」  いかつい顔して、赤鬼はポエマーだった。赤鬼の言葉を素直に受け入れ、草刈りを再開するMIGHTYたち。 「草を刈らないとさッ、草を刈らないとさッ、イヤ~♪」  舶来の音楽だったヒップホップが、日本語の労働歌として地に根を張ったものへと変わっていく。「SHO-GUNG」の3人は新しいステージへの入口をようやく見つけたようだ。  その頃、温泉に入って元気を取り戻したカブラギ(皆川猿時)はトーコ(山本舞香)を連れて「竹田寺」へ到着。なぜかスケボーを手にして立っていた青鬼(野村周平)に「カブラギは失恋を乗り越えて、ひと回り大きな男になりました。福島での仕事を片付けてから迎えにくると3人に伝えてください」と伝言を頼む。青鬼がイケメンだったことから、トーコはカブラギと別れ、「竹田寺」に残ることに。本当にいいのか、竹田寺? こんなピチピチの女の子を禁欲生活中の修業僧たちの群れに放り込んだら、阿鼻叫喚地獄になるのではないか? それもまた修業の一環なのか? スケボーは「スケベボーズ」の隠語なのか?   最初は寺での規則正しい生活に慣れなかった「SHO-GUNG」とトーコだが、リズムに乗って掃除、洗濯、炊事に取り組むようになっていく。体が自然に動くようになってくると、気持ちがいい。「言葉は友達♪」を合い言葉に、IKKUたちは軽やかなラップが口から溢れ出してくる。壁に貼られた張り紙がクラブチッタでのライブまで、残り3日になったことを知らせている。  と、ここでIKKUのスマホの着信音が鳴り、大問題が発覚! 電話を掛けてきたのはIKKUの妹・茉美(柳ゆり菜)からだった。 茉美「お兄ちゃん、どこにいるの? 今週の日曜は私の結婚式だからね。忘れてないよね?」  妹からの電話に思わず絶句するIKKU。今週の日曜といえば、クラブチッタとバッティングしている。しかも、電話を代わった父親(斎藤暁)によれば「先方は京都のホテルを予約しくれているんだぞ」とのこと。  えっ、妹の結婚式は埼玉でやるんじゃないの!? きっと埼玉の結婚式場で「SHO-GUNG」として一曲かましてから、カブラギ号に乗って川崎へ猛ダッシュで向かうことになるんだろうと予想していたのに。京都から川崎への移動はさすがに容易ではない。妹の結婚式のことを完全に失念していたIKKUは激しく動揺し、第7話はエンディングまで無気力化してしまう。シリーズ後半戦はコメディ展開でクラブチッタまでイッキに突っ走るのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。  座禅タイムは見逃せないシーンだった。第4話の雪(中村静香)、第6話のトーコの入浴シーンに続いて、今回はTOMの脳内妄想として、TOMの外人妻トリーシャ(コロウロレナ)が入浴姿を披露する。トリーシャは相変わらず、何語でしゃべっているのかよく分からない。MIGHTYは『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)で遺恨を残した「極悪鳥」のことがフラッシュバックする。MIGHTYが首都圏に戻るということは、「極悪鳥」とニアミスする危険度が高まるということでもある。「極悪鳥」もクライマックスに向かって「SHO-GUNG」の前に不気味に立ちはだかる存在になりそう。そしてIKKUは座禅しても精神統一できないどころか、映像化できないほど頭の中はカオス状態に陥っていた。  座禅タイムが終わり、兄タケダ先輩から「翌朝には新しい曲を用意する」と告げられ、大喜びするTOMとMIGHTY。だが、やはりIKKUだけは浮かないまま。ここでようやくMIGHTYたちは、IKKUの妹の結婚式とライブが重なっていることを打ち明けられる。 MIGHTY「なんで言わなかったんだよ? これが最後だろ? ふざけんなよ!」  IKKUは「忘れてた。ごめん……」と弱々しく答えるだけ。ここまで『SRサイタマノラッパー』シリーズを見続けてきたファンは「なんで?」と驚いてしまう。IKKUにとってはラップだけが生き甲斐で、「SHO-GUNG」の仲間がいちばん大切だったのではなかったのか? 埼玉での閉塞的な暮らしを憎んで、ラップにその想いを叩きつけてきたのではなかったのか? サングラスをしていないIKKUのその無防備で虚ろな表情は、「SHO-GUNG」としてクラブチッタのステージに立つことよりも妹の結婚式に出席することに心が傾いていることを伝えている。IKKUはもはや「SHO-GUNG」ではなく、加賀谷郁美に戻っていた。  家族想いと言えば、聞こえはいい。だが、すごく嫌な言い方をすれば、クラブチッタのステージに立つことは一夜限りの打ち上げ花火。父親の命令に従って妹の結婚式に出席して家族としての最低限の役割を果たせば、IKKUはその後もニートとして実家で暮らし続けることができる。親が生きている間はその稼ぎや年金で食べさせてもらえ、親が死んだら実家を長男である自分のものにできる。埼玉の実家はなんだかんだ言っても、IKKUにとってどうしようもなく切り離すことのできないセーフティーネットなのだ。  IKKUがのほほんとラッパーになることを夢想し続けられたのも、実家があったからこそ。中世の宮廷画家たちが絵を描き続けられたのも王族というパトロンがいたから。「SHO-GUNG」を語る上で、IKKUの家族の存在は無視できない。これは『SRサイタマノラッパー』を撮り続けて10年になる入江監督自身にも言えることだ。『SR1』のIKKUの実家は入江監督の実家がそのまま使われている。また、『SR1』が全国各地で口コミ的に人気が広まり、入江監督は地方の劇場へ舞台あいさつに回り、このときの各地のファンの熱い想いに触れたことで、『SR』をシリーズ化することを思い立った。だがその結果、舞台あいさつに回っている期間はバイトなどができず、入江監督は東京のアパートを引き払って、埼玉の実家に一時避難している。入江監督にとっても実家は大切なセーフティーネットだった。  表現者がいかに自由に作品をつくろうとも、家族の問題からは死ぬまで解放されることはない。いや、墓のことを考えると、死んだ後も続く問題である。エドガー・アラン・ポー、オスカー・ワイルド、種田山頭火のように、流浪の果てに野垂れ死ぬ覚悟を誰もが持てるわけではないのだ。  最後にもうひとつ。お寺での夕食シーンで、それまで黙々と調理に励んでいたトーコは青鬼の計らいで、みんなと一緒に食事をすることになる。青森からずっとミニスカにブーツ姿がトーコの定番ファッションだったが、お寺での地味なジャージ姿もなかなかキュートだ。IKKUに呼ばれて、お盆を持って立ち上がるトーコはとても小さい笑みを浮かべる。1シーン1カットの長回しを多用するため、『マイクの細道』は1話におけるドラマ展開が超スローなのだが、1シーンの中で見せる演者の心の微妙な動きが伝わりやすいのが大きな魅力となっている。  IKKUの葛藤は解決し、トーコの青鬼への恋心は成就するのか? 次週、第8話が見逃せない。 (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第6話 1シーンに凝縮されたIKKUらが東北を旅する意味

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テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
 東北道を縦断するロードムービー『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』。自分たちに直接関わること以外には関心のなかった「SHO-GUNG」のメンバーが、被災地にどう向き合うのか気になっていた視聴者も多かったはずだ。2011年4月、入江悠監督は『SRサイタマノラッパー』(09)、『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)に続く新作『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)の劇場公開を控えていた。大震災の直後であり、公開は延期すべきという声も上がるピリピリした緊張感の中で、『ロックンロールは鳴り止まないっ』は上映された。先行き不透明な社会状況に不安を感じている人たちへ、ほんの少しでも励ましになれればいい―そんな想いでの上映だったと思う。  その後、入江監督は『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)で震災後ますます経済格差が顕著になっていく下流社会を描いているが、メジャー系の作品では震災について直接的に触れる機会はなかった。震災から6年。入江監督、そして入江監督の分身でもある「SHO-GUNG」の3人はようやく被災地に立つことになった。  トラック運転手・カブラギを演じる皆川猿時は、岩手を舞台にしたNHK朝ドラ『あまちゃん』(13)では磯野先生役を好演した。そんな皆川をはじめとする『マイクの細道』のメインキャスト5人が「がんばろう!釜石」と大きな看板が立てられた被災地で黙って手を合わせる姿が遠景で映し出される。わずか数秒のシーンだったが、津波に遭った湾岸部はまだ更地のままで復興途上なことが伝わってくる。『マイクの細道』の後半戦の始まりとなる第6話は被災地から幕を開けた。  今回もシリーズ序盤の恒例となっていた夢はじまりはなし。IKKU(駒木根隆介)やTOM(水澤紳吾)たちはクラブチッタのステージに立つという現実的な夢の実現に向かって一直線なことが分かる。そして才能がなければ、努力する根性もないダメ人間の集まりでもある「SHO-GUNG」だが、唯一の長所といえるのは他人の痛みをきちんと感じることができるということ。表現者として、また人間としていちばん大切なことだろう。  前回の終わり、『SR1』で死んだはずの伝説のトラックメーカー、タケダ先輩は実は双子で、お兄ちゃんが福島にいることが判明。IKKUたちはカブラギ(皆川猿時)に頼んで福島に立ち寄ることに。周囲に憚ることなく、遠野のドブロク屋の看板娘・雪(中村静香)に猛烈にアプローチしていたカブラギは、前回見事に振られてしまった。泣きたいときは泣いたほうがいい。雪景色で美しい猪苗代湖で入水自殺を図ろうとするカブラギ。「古池や蛙飛び込む水の音」という名句を江戸時代の俳人・松尾芭蕉は残しているが、裸になって泣き叫びながら湖に飛び込もうとするカブラギはカエルというよりも、ゾウアザラシ。しかも盛りの付いた。ここまで見苦しさを全身で表現できる人間はそういない。  泣き叫ぶゾウアザラシを、懸命になだめるIKKUやトーコ(山本舞香)。ウマの合わなかった顔ぶれだったはずが、苦楽を共にして次第に旅の仲間となってきたようだ。気分転換に猪苗代湖の遊覧船に乗る一行。MIGHTY(奥野瑛太)たちが船内で兄タケダはどこにいるのか売店のおばちゃんに聞き込みをしていると、甲板ではまだ落ち込んだままのカブラギへトーコが思い切りシェイクしたコーラ缶を手渡している。ヤンキー娘なりの歪んだ励まし方である。船の室内と室外で2つの小さなドラマが1シーン1カットの長回しで同時に進行する。何げないけど、深夜ドラマならではのおかしみを感じさせる演出シーンだ。  いよいよ一行は兄タケダがいるらしい竹田寺へ。ここはなんと世界で唯一のヒップホップ寺であり、ラップ音楽で己を見つめ、世界と向き合うために若者たちが修業に励んでいた。もはやここは東北ではなく、日本でもない、『少林寺三十六房』(78)の世界。香港カンフー映画が大好きな入江監督らしい。IKKUが『西遊記』に出てくる猪八戒に見えてくる。まぁ、後はネズミ男と前科もののヤンキーだけど。孫悟空のいない『西遊記』だな。  ヒップホップ寺で修業中の「五福星」と呼ばれるスキンヘッドの小僧たちと火花を散らし、ラップバトルとなる「SHO-GUNG」。 TOM「欲しいのはおニューなトラックだけ。タケダ先輩に会いたいだけだ♪」  必死に韻を踏んで「五福星」と競り合う「SHO-GUNG」だったが、「五福星」のカルト教団ばりの頑強さに、大苦戦。IKKUは二の句も継げず、四苦八苦……!  ここで入江監督のメジャー進出第1作『日々ロック』(14)に主演した野村周平が登場。「五福星」たちの兄弟子になる青鬼(野村周平)のとりなしで、「SHO-GUNG」は竹田寺を開山した兄タケダ(上鈴木伯周)との面会を許される。病気で亡くなったヤング・タケダ先輩と同じように体が弱そうな兄タケダ。IKKUたちはライブ用に曲を作ってほしいと頭を下げるが、兄タケダの声は弟以上に小さくて返事がまるで聞き取れない。「お前らのラップ聞いた。ショボい。もう曲も作ってないし。お前ら帰れ。他の道、歩め」と物凄く小っちゃい声でディスられてしまう。 MIGHTY「俺らのラップがショボいのは分かってんだよ。でも1回、1回だけステージに立たねぇと終われねぇんだよ!」  目の前にようやく見えてきた夢を諦めることができないMIGHTYが悲痛な叫び声を上げる。クラブチッタのステージに立つという目標は、もうIKKU、TOM、MIGHTYたち3人だけの夢ではなくなっている。無限の才能を持ちながらヤング・タケダ先輩は、ショボい「SHO-GUNG」に新曲を残して、あの世へと旅立っていった。遠野でカッパの神様への奉納ライブを一緒にやった溝口(松尾論)はラップの道を断念して、地元で生きることを選択した。夢を叶えることができなかった様々な人たちの想いを「SHO-GUNG」は背負って、ここ福島まで辿り着いた。何をやっても中途半端だった3人は今、初めて熱く燃えている。  一方、トーコに誘われて、カブラギは近くの湯治場へ。一時は生きる希望を完全に喪失していたカブラギだったが、露天風呂に入ってリフレッシュし、トーコいる女湯を覗き見するまでに心も下半身も元気に回復する。ドスケベ、上等!  震災のあった東北を旅する『マイクの細道』だが、こんなエロい役が許されるのは福島出身の怪優・皆川猿時だからこそ。『あまちゃん』の磯野先生のみならず、『あまちゃん』のチーフディレクターを務めた井上剛監督が撮った『LIVE!LOVE!SING! 生きて愛して歌うこと 劇場版』(15)でもコメディリリーフとして活躍した。エロモードに入った彼の100kg近いメタボな体型が、生きる喜びに満ち溢れている。入浴姿を覗かれたトーコだが、自分が誰かの役に立っていることがちょっとうれしい。いつも苦虫を噛み潰したような表情をしていたトーコも、すっかり自然な笑顔を見せるようになった。  そして、埼玉のIKKUの実家では、妹・茉美(柳ゆり菜)がもうすぐ結婚するという話題でもちきり。音信不通な不肖の兄IKKUは、完全に『男はつらいよ』の寅さん状態。多分、妹の結婚式とクラブチッタのライブは日程が重なっているに違いない。竹田寺で1週間のお試し修業に挑戦することになったIKKUたちは、兄タケダに新曲を作ってもらうことができるのか。そしてダブルブッキングしているだろう妹の結婚式とクラブチッタのライブのスケージュルをうまく縫うことができるのか。クラブチッタという名のネクストステージへの道のりは、まだまだ遠い! (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第5話 カッパとパンチラとの異次元セッションの開幕!

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テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
“青春の墓場”を求めて、埼玉生まれのヒップホップグループ「SHO-GUNG」が東北道を旅する『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』。前回に続いて岩手県遠野を舞台にした第5話は、TVシリーズ前半戦のクライマックスとも言えるエロスと超常現象をラップでひとまとめにしたおかしなおかしな祭典となった。  トラック運転手のカブラギ(皆川猿時)に奪われていたスマホをようやく返してもらったIKKU(駒木根隆介)たちは、2週間後に川崎クラブチッタで行なわれるライブイベントの出演者の中に「SHO-GUNG」の名前を見つけ歓喜する。クラブでライブデビューすることが、彼らの夢だったので、第2話から第4話まで続いた“夢はじまり”は今回はなし。後はクラブチッタ出演が“夢オチ”にならないことを願うばかりだ。  ライブ出演が決まったからには、一刻も早く川崎に向かいたい。ところが独身生活の長いカブラギは雪(中村静香)のことをすっかり気に入り、どぶろく屋に婿入りしてもいいアピールを朝食の席で繰り返す。このままではいつまでも遠野で足止めをくらい、しかもMIGHTY(奥野瑛太)はカッパの神様の呪いでチンコ痛に悩まされたままだ。  いつもは長いものには巻かれろ気質のTOM(水澤紳吾)だが、このときのTOMは違った。カブラギの耳元で「昨晩、いいものを見ましたよね」と囁く。雪の入浴姿を窓から覗き見していたことをネタに、カブラギを脅すTOM。自分もしっかり見てたくせに。TOMもだてに性風俗店が乱立する北関東でおっぱいパブやガールズバーで働いていたわけではなかった。面倒くさいオッサンたちを懐柔するノウハウを身に付けていた。あの頼りなさが身の上だったTOMが、何だか少しだけ輝いてみえる。クラブチッタのステージに立つという明確な道が見えてきたことで、日和見主義のTOMも変わってきたことを感じさせるエピソードだ。  一行はMIGHTYがカッパの神様から呪いを掛けられた「めがね橋」へと再び出向き、カッパの神様の怒りを沈めようとする。ここで一行が思い出したのは、雪のおじいちゃん(樋浦勉)が口にしていた「歌は祝い、歌は呪い」という言葉。IKKUたちが魂を込めたリリックを放つには、やはりラップしかない。「カッパとラッパー、俺たち仲間です〜♪」とTOMがラップで呼び掛けるが川面は静かなまま。そこへ「遠野のカッパはエロカッパで有名だ。必要なのはエロコミュニケーションだ」と訳知り顔で現われたのは、自称「遠野出身で、いちばん有名なラッパー」の溝口(松尾諭)だった。  IKKU役の駒木根隆介、カブラギ役の皆川猿時、そして『シン・ゴジラ』(16年)の「君が落ち着け」の名台詞で一躍有名になった松尾論。小太り系の男優がやたら多い『マイクの細道』。重心が低い彼らが出ていることで、ドラマ自体も地に足が着いた印象を受ける。あんこ型の彼らは都会では暑苦しくても、雪国にはよく似合う。そういえば数年前、体重100kgある巨漢ばかり集まった男性ボーカルグループ「デブ・レパード」が存在したけど、彼らは今どうしているだろうか。  溝口にレクチャーされ、エロカッパを振り向かせるためには女の子の力も必要なこと知るIKKUたち。「SHO-GUNG」vs伝説の妖怪・河童! 『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』の世界が、白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!【人食い河童伝説】』とリミックスされていく。そんな溝口の話を聞きながらも、地元名物ほうとうに舌鼓を打つIKKU。これまでにも『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)では宇都宮ギョーザを、『マイクの細道』の第1話、第2話ではマグロ料理を黙々と平らげたIKKUだが、ここにきて「ほうとうが胃の中に入ると体が芯からポカポカする。これはハッピーのマグマだ」と彦摩呂ばりに言葉が口からこぼれ落ちてくる。どうやらIKKUもライブに向けて、トドのような体の中を様々なリリックが駆け巡っているようだ。  溝口の助言に従い、カッパにまるで興味のないトーコの機嫌をとろうと必死な「SHO-GUNG」。伝説のタケダ先輩(上鈴木伯周)に曲を作ってもらうために頭を下げたこと以外、まともに他人にお願いをしたことのないIKKUも低姿勢で年下のトーコに接する。夢を実現するためには、つまらないプライドは邪魔になるだけ。旅を続ける中で、MIGHTYもTOMもIKKUもそれぞれが少しずつ変化を遂げている。 「よく見たら、二階堂ふみに似ている」とトーコのことをヨイショするMIGHTY。ここでトーコを演じている山本舞香情報を。山本舞香は1997年生まれの鳥取県出身。宮沢りえ、蒼井優、夏帆らを輩出した「三井のリハウスガール」として2011年にCMデビュー。くっきりしたつぶらな瞳は、確かに二階堂ふみを彷彿させる。入江悠監督は『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)、『日々ロック』(14)と二階堂ふみをヒロインに起用しおり、この系統の女優が好みらしい。『マイクの細道』ではヤンキー役の山本舞香だが、初主演映画『桜ノ雨』(16)では奥手な女子高生役を繊細に演じており、女優としての将来性を感じさせる逸材なのだ。  そして、いよいよシリーズ前半戦の総決算となる「めがね橋」ライブの開幕。河原に祭壇とキュウリを用意し、「SHO-GUNG」に加え、雪の元彼であることが判明した溝口もMCとして参加。溝口はラッパーを目指して遠野から東京に出たものの、夢破れて帰ってきた。雪と寄りを戻し、どぶろく屋の借金を2人で返していくという。溝口にとっては、これがラップ納めだ。さらに溝口と復縁してご機嫌な雪、いやいやながらトーコもダンサーを務めることに。  IKKUたちが新しい自分たちの歌を見つける旅でもある『マイクの細道』。今回はロケ地が遠野ということもあり、民俗学的な視点から音楽や芸能というジャンルのルーツを探っていくことになる。溝口によれば、この奉納ライブは「天岩戸」伝説みたいなものだという。「天岩戸」は日本神話のひとつで、“太陽神”アマテラスオオミカミがご機嫌ななめ状態で岩戸の中に引き篭った際、困った他の神さまたちはアメノウズメを岩戸の前で歌い踊らせてアマテラスオオミカミを誘き出したという。「天岩戸」伝説は芸能・お祭りの事始めであり、アメノウズメは日本芸能界における芸能人第1号でもある。その「天岩戸」伝説を、遠野のエロカッパを相手に再現しようというのだ。  雪のおじいちゃんが言っていたように「歌は祈り」であり、「歌は呪い」でもある。歌は人々に刹那的に夢や希望を与え、ささくれた心を癒してくれる。だが、ドラッグの過剰摂取と同じで、歌の世界で描かれた夢や運命の恋人探しに取り憑かれてしまうと、下手すれば一生を台無しにしかねない。心に響く歌や言葉は薬にもなるが、使用方法を誤ると中毒症状に陥ってしまう。曲がりなりにもMC(マスター・オブ・セレモニー)を名乗るのなら、そのことは肝に銘じておきたい。MIGHTYのチンコに掛けられた呪いを解き、溝口の東京で破れた夢を供養するため、「SHO-GUNG」withミゾグチ&YUKI+TOKOの一度かぎりのセッションが始まる。 「歌え、祝え、祝え、呪え♪」と溝口が煽り、「SHO-GUNG」のメンバーがマイク代わりのキュウリを手にフリースタイルのラップを繋げていく。バックで踊っている雪の弾けっぷりがいい。さすが中村静香、初代ドロリッチガール! たわわなバストが右へ左へとウェーブを奏でる。ノリノリの雪に感化され、やる気のなかったトーコもグルーヴに身を委ね、体を揺らし始める。これまで一度も笑顔を見せたことのないトーコが、踊りと共に初めて明るい表情を見せた。「SHO-GUNG」と溝口だけでなく、実家からずっと離れることができずにいた雪もトーコも、胸の奥に仕舞い込んでいた感情が澱のように溜まっていた。そんな淀んだ感情が、セッションの盛り上がりと共に浄化されていく。 「プチョヘンザ~♪ カッパヘンザ~♪」  雪とトーコのダンスに引き寄せられ、カッパの神様がついに出現。カッパの神様は頭の上の皿を「キュキュッ」と鳴らし、「SHO-GUNG」たちのステージに応えてみせる。そして一陣の風と共に、めくれ上がる雪とトーコのスカート。トーコのパンティーはピンク、そして雪は名前の通り純白のパンティーだ。紅白そろって、縁起がいい。カッパの神様も大満足。かくしてMIGHTYのチンコの呪いは収まった。ドントハレ〜♪  雪山に残したトラックを修理していた間に、ふいに現われた溝口が雪のハートをがっちりゲットしたことを知って、どよ〜んと落ち込むカブラギ。そんなカブラギの背中をバンバン叩きながら「また、いい人に出逢えるから大丈夫だって」と励ますトーコ。ヤンキー娘トーコがすごくいい女に思えてくる。  遠野民話の終わりの決め文句「どんと晴れ(めでたし、めでたし)」のような大団円を迎えた第5話。だが、最後の最後に意外な事実が明らかになる。溝口も伝説のタケダ先輩を知っており、しかもまだ生きているという。タケダ先輩は実は双子の兄弟で、『SR1』で亡くなったタケダ先輩はヤングタケダであり、お兄ちゃんが福島で暮らしているとのこと。オープニング映像に登場していたタケダ先輩は幽霊ではなく、お兄ちゃんだったのだ。『仁義なき戦い』シリーズの松方弘樹、『男たちの挽歌』シリーズのチョウ・ユンファもびっくりな急展開。  クラブデビューという目標が定まり、旅の途中のトラブルで結束力を固めた「SHO-GUNG」。あと彼らに必要なのは、新しい彼らに相応しい新しい曲である。次回、新しい出逢いとさらなる試練が待ち受ける福島編への期待が高まる。 (文=長野辰次)

『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』第5話 カッパとパンチラとの異次元セッションの開幕!

『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』第5話 カッパとパンチラとの異次元セッションの開幕!の画像1
テレビ東京系『SRサイタマノラッパー~マイクの細道~』番組サイトより
“青春の墓場”を求めて、埼玉生まれのヒップホップグループ「SHO-GUNG」が東北道を旅する『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』。前回に続いて岩手県遠野を舞台にした第5話は、TVシリーズ前半戦のクライマックスとも言えるエロスと超常現象をラップでひとまとめにしたおかしなおかしな祭典となった。  トラック運転手のカブラギ(皆川猿時)に奪われていたスマホをようやく返してもらったIKKU(駒木根隆介)たちは、2週間後に川崎クラブチッタで行なわれるライブイベントの出演者の中に「SHO-GUNG」の名前を見つけ歓喜する。クラブでライブデビューすることが、彼らの夢だったので、第2話から第4話まで続いた“夢はじまり”は今回はなし。後はクラブチッタ出演が“夢オチ”にならないことを願うばかりだ。  ライブ出演が決まったからには、一刻も早く川崎に向かいたい。ところが独身生活の長いカブラギは雪(中村静香)のことをすっかり気に入り、どぶろく屋に婿入りしてもいいアピールを朝食の席で繰り返す。このままではいつまでも遠野で足止めをくらい、しかもMIGHTY(奥野瑛太)はカッパの神様の呪いでチンコ痛に悩まされたままだ。  いつもは長いものには巻かれろ気質のTOM(水澤紳吾)だが、このときのTOMは違った。カブラギの耳元で「昨晩、いいものを見ましたよね」と囁く。雪の入浴姿を窓から覗き見していたことをネタに、カブラギを脅すTOM。自分もしっかり見てたくせに。TOMもだてに性風俗店が乱立する北関東でおっぱいパブやガールズバーで働いていたわけではなかった。面倒くさいオッサンたちを懐柔するノウハウを身に付けていた。あの頼りなさが身の上だったTOMが、何だか少しだけ輝いてみえる。クラブチッタのステージに立つという明確な道が見えてきたことで、日和見主義のTOMも変わってきたことを感じさせるエピソードだ。  一行はMIGHTYがカッパの神様から呪いを掛けられた「めがね橋」へと再び出向き、カッパの神様の怒りを沈めようとする。ここで一行が思い出したのは、雪のおじいちゃん(樋浦勉)が口にしていた「歌は祝い、歌は呪い」という言葉。IKKUたちが魂を込めたリリックを放つには、やはりラップしかない。「カッパとラッパー、俺たち仲間です〜♪」とTOMがラップで呼び掛けるが川面は静かなまま。そこへ「遠野のカッパはエロカッパで有名だ。必要なのはエロコミュニケーションだ」と訳知り顔で現われたのは、自称「遠野出身で、いちばん有名なラッパー」の溝口(松尾諭)だった。  IKKU役の駒木根隆介、カブラギ役の皆川猿時、そして『シン・ゴジラ』(16年)の「君が落ち着け」の名台詞で一躍有名になった松尾論。小太り系の男優がやたら多い『マイクの細道』。重心が低い彼らが出ていることで、ドラマ自体も地に足が着いた印象を受ける。あんこ型の彼らは都会では暑苦しくても、雪国にはよく似合う。そういえば数年前、体重100kgある巨漢ばかり集まった男性ボーカルグループ「デブ・レパード」が存在したけど、彼らは今どうしているだろうか。  溝口にレクチャーされ、エロカッパを振り向かせるためには女の子の力も必要なこと知るIKKUたち。「SHO-GUNG」vs伝説の妖怪・河童! 『SR サイタマノラッパー~マイクの細道~』の世界が、白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!【人食い河童伝説】』とリミックスされていく。そんな溝口の話を聞きながらも、地元名物ほうとうに舌鼓を打つIKKU。これまでにも『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)では宇都宮ギョーザを、『マイクの細道』の第1話、第2話ではマグロ料理を黙々と平らげたIKKUだが、ここにきて「ほうとうが胃の中に入ると体が芯からポカポカする。これはハッピーのマグマだ」と彦摩呂ばりに言葉が口からこぼれ落ちてくる。どうやらIKKUもライブに向けて、トドのような体の中を様々なリリックが駆け巡っているようだ。  溝口の助言に従い、カッパにまるで興味のないトーコの機嫌をとろうと必死な「SHO-GUNG」。伝説のタケダ先輩(上鈴木伯周)に曲を作ってもらうために頭を下げたこと以外、まともに他人にお願いをしたことのないIKKUも低姿勢で年下のトーコに接する。夢を実現するためには、つまらないプライドは邪魔になるだけ。旅を続ける中で、MIGHTYもTOMもIKKUもそれぞれが少しずつ変化を遂げている。 「よく見たら、二階堂ふみに似ている」とトーコのことをヨイショするMIGHTY。ここでトーコを演じている山本舞香情報を。山本舞香は1997年生まれの鳥取県出身。宮沢りえ、蒼井優、夏帆らを輩出した「三井のリハウスガール」として2011年にCMデビュー。くっきりしたつぶらな瞳は、確かに二階堂ふみを彷彿させる。入江悠監督は『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(11)、『日々ロック』(14)と二階堂ふみをヒロインに起用しおり、この系統の女優が好みらしい。『マイクの細道』ではヤンキー役の山本舞香だが、初主演映画『桜ノ雨』(16)では奥手な女子高生役を繊細に演じており、女優としての将来性を感じさせる逸材なのだ。  そして、いよいよシリーズ前半戦の総決算となる「めがね橋」ライブの開幕。河原に祭壇とキュウリを用意し、「SHO-GUNG」に加え、雪の元彼であることが判明した溝口もMCとして参加。溝口はラッパーを目指して遠野から東京に出たものの、夢破れて帰ってきた。雪と寄りを戻し、どぶろく屋の借金を2人で返していくという。溝口にとっては、これがラップ納めだ。さらに溝口と復縁してご機嫌な雪、いやいやながらトーコもダンサーを務めることに。  IKKUたちが新しい自分たちの歌を見つける旅でもある『マイクの細道』。今回はロケ地が遠野ということもあり、民俗学的な視点から音楽や芸能というジャンルのルーツを探っていくことになる。溝口によれば、この奉納ライブは「天岩戸」伝説みたいなものだという。「天岩戸」は日本神話のひとつで、“太陽神”アマテラスオオミカミがご機嫌ななめ状態で岩戸の中に引き篭った際、困った他の神さまたちはアメノウズメを岩戸の前で歌い踊らせてアマテラスオオミカミを誘き出したという。「天岩戸」伝説は芸能・お祭りの事始めであり、アメノウズメは日本芸能界における芸能人第1号でもある。その「天岩戸」伝説を、遠野のエロカッパを相手に再現しようというのだ。  雪のおじいちゃんが言っていたように「歌は祈り」であり、「歌は呪い」でもある。歌は人々に刹那的に夢や希望を与え、ささくれた心を癒してくれる。だが、ドラッグの過剰摂取と同じで、歌の世界で描かれた夢や運命の恋人探しに取り憑かれてしまうと、下手すれば一生を台無しにしかねない。心に響く歌や言葉は薬にもなるが、使用方法を誤ると中毒症状に陥ってしまう。曲がりなりにもMC(マスター・オブ・セレモニー)を名乗るのなら、そのことは肝に銘じておきたい。MIGHTYのチンコに掛けられた呪いを解き、溝口の東京で破れた夢を供養するため、「SHO-GUNG」withミゾグチ&YUKI+TOKOの一度かぎりのセッションが始まる。 「歌え、祝え、祝え、呪え♪」と溝口が煽り、「SHO-GUNG」のメンバーがマイク代わりのキュウリを手にフリースタイルのラップを繋げていく。バックで踊っている雪の弾けっぷりがいい。さすが中村静香、初代ドロリッチガール! たわわなバストが右へ左へとウェーブを奏でる。ノリノリの雪に感化され、やる気のなかったトーコもグルーヴに身を委ね、体を揺らし始める。これまで一度も笑顔を見せたことのないトーコが、踊りと共に初めて明るい表情を見せた。「SHO-GUNG」と溝口だけでなく、実家からずっと離れることができずにいた雪もトーコも、胸の奥に仕舞い込んでいた感情が澱のように溜まっていた。そんな淀んだ感情が、セッションの盛り上がりと共に浄化されていく。 「プチョヘンザ~♪ カッパヘンザ~♪」  雪とトーコのダンスに引き寄せられ、カッパの神様がついに出現。カッパの神様は頭の上の皿を「キュキュッ」と鳴らし、「SHO-GUNG」たちのステージに応えてみせる。そして一陣の風と共に、めくれ上がる雪とトーコのスカート。トーコのパンティーはピンク、そして雪は名前の通り純白のパンティーだ。紅白そろって、縁起がいい。カッパの神様も大満足。かくしてMIGHTYのチンコの呪いは収まった。ドントハレ〜♪  雪山に残したトラックを修理していた間に、ふいに現われた溝口が雪のハートをがっちりゲットしたことを知って、どよ〜んと落ち込むカブラギ。そんなカブラギの背中をバンバン叩きながら「また、いい人に出逢えるから大丈夫だって」と励ますトーコ。ヤンキー娘トーコがすごくいい女に思えてくる。  遠野民話の終わりの決め文句「どんと晴れ(めでたし、めでたし)」のような大団円を迎えた第5話。だが、最後の最後に意外な事実が明らかになる。溝口も伝説のタケダ先輩を知っており、しかもまだ生きているという。タケダ先輩は実は双子の兄弟で、『SR1』で亡くなったタケダ先輩はヤングタケダであり、お兄ちゃんが福島で暮らしているとのこと。オープニング映像に登場していたタケダ先輩は幽霊ではなく、お兄ちゃんだったのだ。『仁義なき戦い』シリーズの松方弘樹、『男たちの挽歌』シリーズのチョウ・ユンファもびっくりな急展開。  クラブデビューという目標が定まり、旅の途中のトラブルで結束力を固めた「SHO-GUNG」。あと彼らに必要なのは、新しい彼らに相応しい新しい曲である。次回、新しい出逢いとさらなる試練が待ち受ける福島編への期待が高まる。 (文=長野辰次)