『聲の形』はいじめっ子を美化する作品? 公開めぐり、中国政府と観客に温度差が生じたワケ

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『聲の形Blu-ray 通常版』(ポニーキャニオン)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。  9月8日、京都アニメーション製作のアニメ映画『聲の形』が中国で公開されました。  本作は大今良時氏の同名漫画が原作で、聴覚障害を持つヒロインの少女・西宮硝子と、彼女をいじめたことがきっかけで孤立してゆく主人公の少年・石田将也の触れ合いを描いたもの。日本では昨年9月に公開され、全国120館規模ながら興行収入23億円を記録する大ヒットとなりました。 ■作中には、現実問題が的確に描かれている  僕は『聲の形』には、日本社会が抱える現実的な問題が内包されていると思います。作品序盤で聴覚障害者の硝子がいじめられた際、担任教師とクラスメイト全員が、まるで傍観者のように彼女を嘲笑します。その後、硝子の母親が壊された補聴器の請求のために学校に抗議したことにより事態は一転し、硝子を率先していじめていた将也は、自身がいじめられるハメになります。障害者を露骨に差別するクラスメイトの植野直花は「硝子がろう学校や特別支援学級ではなく、一般学級に通学するがゆえにクラスメイト全員に迷惑がかかる」と説くのですが、確かにハンデを背負った人物が原因で多くの人に負担がかかるという例は珍しくありません。  その一方、障害者を助けることにより「意識の高い自分」を演じて周囲からの評価を上げようとする八方美人的な川井みき、真剣に硝子を助けたいという思いから手話を学んだ挙げ句、植野に第二のいじめの標的にされるという哀れな境遇の佐原みよこなど、さまざまなキャラの心理描写や心境の変化が作中で描かれています。  物語のクライマックス、クラスメイトたちは殴り合った末に、互いを理解しようとします。結局、誰の意見が正しいのか、明確な答えは描かれません。僕は『聲の形』を見た後、いろいろと複雑な心境になりました。  中国版の『聲の形』は、「教育上不適切な表現」という名目で、中共政府が、将也が硝子をいじめる場面、将也の母親が土下座する場面、クラスメイトが暴力を振るう場面など、数十カ所、計20分程度がカットされました。当然、ストーリーの重要な場面が端折られた状態となり、観客からは「ストーリーが唐突でよくわからない」などと苦情が殺到しました。  さらに、中共政府の機関紙「環球時報」は、「『聲の形』は、いじめっ子を美化する内容だ。作中のいじめ場面は、昔いじめられていた人に不安感を与え、エンディングでいじめを行った者が救済される点が不愉快な印象を与える。このような作品が作られたのは、日本の学校にいじめがはびこっているからだ」と酷評しました。これは、日本を批判するためのプロパガンダ的な報道です。  中国人の観客の大半は、日本人と求める要素が違います。中国では過去に悪いことを行った人を死んでもなお鞭で叩き続けるという、徹底的にやり込める痛快感を求めます。中国のことわざ「悪い犬が川に落ちても叩き続ける」(痛打落水狗)には、その国民性がよく反映されています。 ■日本をいじめ体質だと批判する、いじめ国家・中国  このような世論がまかり通っていますが、チベット民族・香港に対する迫害、富裕層の貧困層に対する搾取、公権力による一般人いじめ、共産党内部の内ゲバ、在中外国企業に対する嫌がらせ、自国周辺の小国に対する攻撃など、実際の中国社会には、いじめ気質がまん延しています。ある中国人アニメファンは環球時報の社説を受けて、「いじめられっ子に『いじめられることを反省しろ』というのが、典型的な中国の教師だ」という反論をネット上に寄せました。この意見には僕も思い当たる節があり、小学校の頃、僕は成績が悪いことが原因でクラスメイトからいじめられていたのですが、担任教師はその様子を見ていじめっ子をしかりつけるのではなく、「お前の成績が悪いから、いじめられるんだ。反省しろ」と僕に言いました。強い者がはびこる一方、弱い者は徹底的に虐げられるのが中国社会です。  僕は、映画公開前から漫画を全巻読破するほどの『聲の形』ファンです。日本での公開時、同時期に同じくアニメ映画の『君の名は。』が空前の大ヒットを記録しましたが、僕自身は『聲の形』のほうに共感します。『聲の形』は障害者やいじめがテーマという理由から、いったん雑誌掲載が見送られたという経緯を持ちます。このような風潮は、リベラル層が、日本の言論、マスコミ界の上層部に多く存在しているためだと思います。彼らの過剰な配慮により、名作が封印される可能性があったのです。 『聲の形』は、障害者、いじめ問題を世間に問いかける内容であり、差別を助長するものではありません。しかも、登場人物は全員架空であるため、個人を中傷する内容ではないのです。行きすぎた表現規制は、漫画家、小説家、映画監督など、多くのクリエイターの可能性を奪う行為だと思います。
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)、『日本人に帰化したい!!』(青林堂)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

『東京喰種』は、中国政府とウイグル人の対立を暗示する反体制的作品?

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『東京喰種 1』(集英社)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。  先日、実写映画版『東京喰種トーキョーグール』を見てきました。この作品は中国でも人気がありますが、その理由は、残虐描写がふんだんにあるところです。中国のエンタテインメント業界は、エロや暴力、登場人物による反体制的な発言が禁止されるなど、規制が非常に厳しいのが特徴です。本作のアニメ版も2015年、『寄生獣』や『進撃の巨人』などとともに配信停止となりました。  そして最近、中国では全人代(全国人民代表大会)を控え、政府がナーバスになり、さらにエンタテインメント規制が厳しくなっています。先月、百度百科(中国版ウィキペディア)に記載されていた『東京喰種』の項目や、その作品にまつわるBBSが全て削除される措置が施されました。  ですが、抑えつけられれば抑えつけられるほど見たくなるのが国民の心情です。電子書籍版の漫画サイトでは、アニメや紙の出版物よりもゆるい規制で配信されています。また、あまたの海賊版サイトも存在しており、こうしたサイトでは、中国国内の規制などお構いなしに、エロ漫画をはじめ、多くの日本の過激な人気作が配信されています。そんなグレーゾーンの刺激的な作品として、『東京喰種』が人気を博しているわけです。規制だらけの窮屈な社会にあって、少しでも過激なモノを見たいという国民感情の表れでしょう。  とはいえ、残虐描写だけが人気の理由ではありません。日本のホラーの中には、土着的な風習をモチーフとしたものや、『呪怨』などのように、ジワジワと心理的に迫ってくるような、いわゆる「J(ジャパニーズ)ホラー」と呼ばれる作品があります。中国ではどちらかというと、ゾンビなどのようにわかりやすい、アメリカンホラー的な作品のほうがウケます。人間を食べるグール(喰種)というクリーチャーは、ゾンビと同様、万国共通の怖さを持ち合わせています。ですので、中国人読者も自然に作品に入り込むことができたのです。  そしてもうひとつ、本作が中国人読者の心をつかんだ最大の理由を挙げるとすれば、善悪では割り切れない、深みのあるストーリーにあるといえるでしょう。これまで残虐描写が好きな中国人が見てきたのは抗日ドラマでした。ドラマは、漫画と同様に規制の厳しいジャンルですが、抗日ドラマだけは例外です。「抗日」を免罪符にした上で、カンフーの達人が日本兵を八つ裂きにするといったホラー映画並みの残虐描写が、子どもも見ることのできるドラマに盛り込まれていたのです。こうしたドラマはおおむね、脚本も何もあったものではありません。子どもだましの稚拙な作りで、まともな大人が見て鑑賞に堪え得る代物ではありませんでした。  一方、『東京喰種』は深いテーマを抱え、脚本も練り込まれており、非常に完成度の高い作品になっています。 ■ウイグル人とうり二つの、グールの生活  僕は、漫画版は未読で、今回の実写映画版で初めてこの作品と触れました。見終えた後、これは中国の現状を暗喩した作品だと思いました。そして、政府が全人代を前にBBSを削除したのも納得です。 『東京喰種』には、人間を食べるグール(喰種)という種族が存在しています。主人公の大学生・カネキは大けがを負った際、グールの臓器を移植され、グールに変貌します。そして人間社会で生活を営むことが困難となり、グールの社会へ混じります。すると、人喰いの生物だと思われていたグールの中には、実は、普通の人間よりも心優しい者たちもいることがわかったのです。むしろ、彼らは普段、生活をする上で肩身が狭くて、迫害されている側でした。彼らは生まれたときからグールですし、それ以外の選択肢がありません。    中国人である僕は、この映画を見てウイグルを連想しました。彼らは生まれたときからウイグル人ですし、イスラム教を信仰しています。しかし、中国は名目上「信仰の自由」をうたっているものの、イスラム教を弾圧。イスラム教徒の身なりをしているだけで、今夏からは「テロ対策」として、所持するパソコンやUSBメモリなどの記憶装置の中身が政府に検閲されています。今、ウイグル人たちはこうした中国の締め付けに反発してテロを起こしていますが、それはちょうど、『東京喰種』において仲間を殺された者たちが喰種対策局(CCG)に対して襲撃を企てる姿と重なります。  中国政府は自分たちが正義だと信じて疑っておらず、そんな姿も、本作におけCCGとうり二つです。ですがひとたび、ウイグル人であったり、グールの側からその世界を見てみると、正常には見えません。  中国政府も、この作品に込められているメッセージが反体制的なものであり、危険なものだと感じたのでしょう。そこで今、中国のネット上からこの作品の情報がことごとく削除されているのかもしれません。 ■清水富美加のためにあるような作品  さて、本作では、「幸福の科学」に出家した清水富美加さんが、ヒロインであるトーカ役を務めています。清水さんは芸能界を引退する際、「人肉を食べる人種役に葛藤」と、良心にそぐわない仕事が増えたことを理由のひとつとして挙げていました。ですが、本作は、前述のように、たとえ世間では「悪」だと迫害されている側であっても、見方を変えると違う面が見えてくるという、世界の多様性を訴えたものだと思います。こうした点から、清水さんが表面的なところだけを捉えて本作を批判的に語ったことは、非常に残念に感じます。  清水さんが芸能界を引退して宗教家としての道を選択したことは、当時、多くの国民にとって理解の範疇外でした。ですが、本作を見れば、多くの人は自分の物差しだけでは世の中を見てはいけないことがわかりますし、これはまさに清水さんの選択を肯定する映画としても見ることができます。単なるゾンビ映画などとは一線を画しています。  清水さんは本作で、非常にキレのある演技を見せています。清水さんにはぜひ、作品に込められている真意をつかんでいただき、仮に続編が製作される際には、もう一度、トーカ役として出演していただきたいです。その折には、きっと彼女が属する団体も、多額の出資をしてくれるのではないでしょうか?
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>
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『進撃の巨人』に見る、諌山創氏の愛国心と中国の“におい”

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『進撃の巨人 悔いなき選択 フルカラー完全版(1) 』(講談社)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。今回は大人気漫画を通じて、日本が置かれている状況を解説します。  諌山創氏の『進撃の巨人』は、人をむさぼり食う巨人とそれに立ち向かう人類の戦いを描いた大ヒット漫画で、テレビアニメ、実写映画などメディアミックス展開が行われています。以前、僕はこの作品に対する見解をコラムに寄せたことがあります(「週プレNEWS」2013年10月27日掲載)。当時は、人類が高い壁に囲まれた地域の中で生活しているという作中設定が、現在の中国を反映していると分析したのですが、今回は、同時に日本の現状も描かれている、という点に触れてみたいと思います。  作中設定によると、人類が住む壁に囲まれた地域の総面積は、日本の総面積にほぼ匹敵します。この話は以前より中国のネット掲示板で話題になっていますが、つまり『進撃の巨人』の舞台は日本をモデルにしている可能性があります。2013年には、諌山氏の公式ブログがハングル語で荒らされるという事態が発生しましたが、これは登場キャラの「ミカサ」の名前が旧日本軍の戦艦から取られていたこと、「ピクシス司令」のモデルが明治期の日本軍人・秋山好古であることが原因だったようです。  また、『進撃の巨人』の登場人物の大半は西洋系のイメージで描かれていますが、ヒロイン格のミカサは黒髪の東洋系の人物として描かれています。作中では東洋人は減少しているという設定ですが、その名前といい、僕はミカサには、今後少子化による人口減少が予想される日本人のイメージが投影されていると思います。  諌山氏は、Twitter上で日本の朝鮮統治を支持するような発言を行ったこともあり、こうしたところから推測するに、愛国・保守的な人物なのかもしれません。おそらく、日本という国を重ねて描いているのでしょう。 ■作中で暗示される日本と中国の現状  本作からは日本のみならず、中国の“におい”も感じ取ることができます。  巨人から人類を守る壁は三層存在するのですが、最も外側にある地域は「シガンシナ区」と名付けられています。「シナ」、すなわち「支那」は現代では差別語とされる中国を表す言葉であり、それが最も外にあるという点においても、中国と日本の位置関係を表しているかのようです。  また、人類を統治する政府は、「巨人から人類を守る」という大義を振りかざして腐敗政治を行っているのですが、これは外国を仮装敵国として独裁政治を行う中国政府を連想させます。作中では「壁の外の世界は美しい」と記された書籍が禁書扱いされ、所持したり人に広めようとする人物は捕らえられてしまうのですが、これは中国政府による思想弾圧のようです。  そして、人類を取り囲み襲撃する巨人たちは、日本を取り囲む中国、アメリカ、ロシア、といった大国をイメージしているのかもしれません。日本はこれらの国々と比べると国土、軍事力ともにあまりに脆弱です。しかし、日清戦争や日露戦争時、当時の日本人は努力の末、自国より国土や人口がはるかに勝る相手に打ち勝ちました。日本人は巨大な敵にも果敢に立ち向かう勇気と力を持っており、本作においても、こうしたかつての戦前の日本を重ねているところもあるのかもしれません。  以上のことから『進撃の巨人』が人気作品となった要因は、現在の社会事情が作品の至るところに反映され、その要素が作品の世界観に迫真性をもたらしたからだと、僕は推測しています。 
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

「拳法の達人」なんていない!? 中国人も憧れる『らんま1/2』の世界観

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『らんま1/2』(小学館)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。今回は日本の漫画作品を通して、日本人が想像する中国と現実の中国の違いを紹介します。 ■題名、キャラの名前が変更されていた、台湾版『らんま1/2』  1987年から96年まで「週刊少年サンデー」(小学館)に連載されていた『らんま1/2』(高橋留美子)は、拳法の達人で、水をかぶると少女になるという呪いがかかった少年・早乙女乱馬を主人公とした漫画です。少年漫画ながら作者が女性ということもあり、少女漫画テイストも含まれているため、僕が小学校のころは男女問わず大人気でした。『らんま』はギャグありバトルありと、さまざまな要素が詰まった作品で、中国で発売されていた台湾の海賊版には、「発狂する」という意味の「七笑」をもじった『七笑拳』という題名がつけられていました。おそらく「ギャグで大笑い」「ドタバタ」といったニュアンスでしょうが、同じく乱馬の名字は「乙女」と意味が近いからか「姫」に、ヒロインの天道あかねは「銭小茜」と中華風の名前に変えられていました。主要キャラほぼ全員の名前が変更されていたため、中国人ファンはがっかりしたものです。当時、僕は原作に忠実なキャラ名が使用された香港版のコミックスを所有していたため、クラスで好意を持っていた女子に貸して、『らんま』について2人で語り合った思い出があります。 『らんま』の世界で描かれた中国は現実の中国とは似ても似つかないもので、中国人の僕にとって両世界のギャップは興味深いものです。まず、主人公の乱馬はカンフー映画に出てくるような道着を着ていますが、このような格好をしている中国人はいません。また、「拳法の達人が存在する」「人民服を着ている」「美少女が多い」「おいしい料理がたくさんある」という作中設定も、現実の中国とは異なります。道端で不思議グッズを販売する行商人や、肉まんのような頭をした中国人キャラも非常にユニークでした。  おそらく『らんま』の中国は、華やかな文化が咲き誇った古代中国をイメージしたものでしょう。日本人は『らんま』を読んで中国に「幻想」を抱いたかもしれませんが、実際に訪れた際は「幻滅」すると思います。例えば『らんま』の作中では「中国4000年の歴史」という言葉が頻出しますが、現実の中国では「5000年」と水増しされ、「超能力者」と名乗る行商人たちは不思議グッズではなく、インチキ商品を売りつけます。 ■何気ないネーミングにセンスを感じる  また、『らんま』の用語センスは、とても秀逸です。作中の中国人が語尾につける「~アル」とは、中国人のおかしな日本語を揶揄する際に日本の漫画ではよく使われる言葉だと知人から聞きました。また「シャンプー」「ムース」といった作中キャラの名称は、中国語の発音に非常に似ていますが、実際は整髪料の名称をもじったものであることを訪日後に知りました。  数年前、とある在米中国人評論家が「外国人作家が描く中国のイメージは、実際の中国よりも海外のチャイナタウンに近い」という内容のコラムを書いていましたが、おそらく、作品を手がける時に観光地化されたチャイナタウンや古代中華文明を継承する台湾や香港をイメージしていること、中国が現実の国内情勢を伝えないため、作家たちは想像を膨らませて「理想の中国」を作り上げていることが要因でしょう。僕は中国が民主化して、『らんま』の中国のようなユニークな世界になることを願っています。  日本で作られる中華料理のように、『らんま1/2』は日本人がアレンジした「和製中華」といえる作品です。『きまぐれオレンジ☆ロード』の鮎川まどかと同じく、天道あかねは少年時代の僕にとって憧れのヒロインでした。『らんま』以外にも日本の漫画やアニメには数々の魅力を持ったキャラが登場し、それらが日本のイメージアップにつながります。現在、漫画家として活動する僕は、かつて自身が憧れたような魅力的な女性キャラを生み出すべく、日々精進を重ねています。
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

ラブコメの元祖『きまぐれオレンジ☆ロード』で憧れた、ロングヘアーとセーラー服と

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『きまぐれオレンジ☆ロード The O.V.A. DVD-BOX』(東宝)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。  昨年末、「高須クリニック」の高須克弥先生が主催する飲み会に参加しました。高須先生とはその日が初対面だったのですが、同席した漫画家の西原理恵子氏が、「孫さんが描く女の子はかわいいですよ」と紹介してくださいました。 ■僕が女の子を描くきっかけになった作品  僕の漫画には、ファンから「女の子がかわいい」という意見が多く寄せられます。その通り、少女キャラには特に力を入れているのですが、実は、昔は女性がまったく描けませんでした。少年時代、僕は『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』といったバトル系少年漫画に熱中しており、必然的に男性キャラばかり模写していました。しかし、1994年ごろ、香港のテレビを経由して『きまぐれオレンジ☆ロード』というアニメを見てから、女性を描くようになったのです。『きまぐれ~』は、1984~87年「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された、超能力を持った少年が2人の美少女と三角関係に陥るというラブコメ漫画で、当時、一世を風靡しました。それまでバトル系漫画、もしくは『トランスフォーマー』のようなロボットアニメ一辺倒だった僕は、『きまぐれ~』がきっかけで『猫でごめん!』『めぞん一刻』『ハイスクール!奇面組』といった、ほかのラブコメ作品にハマりだしたのです。  中国の学校には、基本「18歳以下は恋愛禁止」という校則が存在します。学生服が体育着のようなジャージであるのは、女子生徒のボディラインを隠すという意味もあります。日本人の知人は中高生時代、第二次性徴により女子生徒の体つきが変化する様子が楽しみだったと語っていましたが、中国の中高生は、そのような体験を味わうことができません。中国政府によるエロサイト遮断と同じく「性体験」を完全に封印するという行為は、共産主義教育の弊害です。  僕が『きまぐれ~』のヒロイン・鮎川まどかに一目惚れした理由は、髪形にあります。まどかの髪形はロングのストレートヘアー。現在は指定が緩和されていますが、僕が通学していたころ、中国の学校では、「勉学に専念できない」という理由で、前髪を垂らすことが禁止されていました。そのため、女子卓球選手のような、額を露出したポニーテールが一般的でした。これではせっかくの美貌が台無しです。そのため、まどかのストレートヘアーが非常に魅力的に映りました。さらに、野暮ったいジャージである中国の制服に比べ、『きまぐれ~』に出てくる女子生徒の制服は、かわいらしいセーラー服です。日本のセーラー服が海軍服を改良したものであることは後で知りましたが、「外国のものを『魔改造』して、さらに良いものに仕上げる」という日本文化を体現していると思います。    中高生の恋愛が禁止されている中国では、もちろん中高生が主人公の恋愛作品は存在しません。しかも『きまぐれ~』の恋愛描写は過剰なエロがない、いわゆる「ほのぼの系」で、そこも僕が好感を持った理由です。例えば『電影少女』は、『きまぐれ~』と同じく「ジャンプ」に連載された恋愛漫画ですが、強姦シーンなど過激な性描写が頻出するため、僕は若干敬遠しています。さらに『きまぐれ~』の主人公・春日恭介に対し、まどかは普段突き放すような態度を取っているのですが、もう一人のヒロイン・檜山ひかるは恋愛に積極的で、所構わず恭介に抱きつくほどです。また、恭介には2人のかわいい妹たちもおり、『きまぐれ~』は、昨今のアニメの「ツンデレ」「妹系」といったキャラ分類の元祖になった作品だと思います。  日本では、一人の男性主人公の前にさまざまなヒロインが登場する作品を「ハーレム系」と呼びますが、中国では一昔前までは「モーニング娘。系」、現在では「AKB48系」と呼んでいます。作品のヒロインがアイドルグループのように複数存在すれば、読者は好みのキャラを選択することが可能で、その分、作品のファンも増えるという寸法です。このように『きまぐれ~』は、あらゆる意味で、昨今のラブコメ漫画の元祖になった作品といえるでしょう。
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

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『きまぐれオレンジ☆ロード The O.V.A. DVD-BOX』(東宝)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。  昨年末、「高須クリニック」の高須克弥先生が主催する飲み会に参加しました。高須先生とはその日が初対面だったのですが、同席した漫画家の西原理恵子氏が、「孫さんが描く女の子はかわいいですよ」と紹介してくださいました。 ■僕が女の子を描くきっかけになった作品  僕の漫画には、ファンから「女の子がかわいい」という意見が多く寄せられます。その通り、少女キャラには特に力を入れているのですが、実は、昔は女性がまったく描けませんでした。少年時代、僕は『ドラゴンボール』や『聖闘士星矢』といったバトル系少年漫画に熱中しており、必然的に男性キャラばかり模写していました。しかし、1994年ごろ、香港のテレビを経由して『きまぐれオレンジ☆ロード』というアニメを見てから、女性を描くようになったのです。『きまぐれ~』は、1984~87年「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された、超能力を持った少年が2人の美少女と三角関係に陥るというラブコメ漫画で、当時、一世を風靡しました。それまでバトル系漫画、もしくは『トランスフォーマー』のようなロボットアニメ一辺倒だった僕は、『きまぐれ~』がきっかけで『猫でごめん!』『めぞん一刻』『ハイスクール!奇面組』といった、ほかのラブコメ作品にハマりだしたのです。  中国の学校には、基本「18歳以下は恋愛禁止」という校則が存在します。学生服が体育着のようなジャージであるのは、女子生徒のボディラインを隠すという意味もあります。日本人の知人は中高生時代、第二次性徴により女子生徒の体つきが変化する様子が楽しみだったと語っていましたが、中国の中高生は、そのような体験を味わうことができません。中国政府によるエロサイト遮断と同じく「性体験」を完全に封印するという行為は、共産主義教育の弊害です。  僕が『きまぐれ~』のヒロイン・鮎川まどかに一目惚れした理由は、髪形にあります。まどかの髪形はロングのストレートヘアー。現在は指定が緩和されていますが、僕が通学していたころ、中国の学校では、「勉学に専念できない」という理由で、前髪を垂らすことが禁止されていました。そのため、女子卓球選手のような、額を露出したポニーテールが一般的でした。これではせっかくの美貌が台無しです。そのため、まどかのストレートヘアーが非常に魅力的に映りました。さらに、野暮ったいジャージである中国の制服に比べ、『きまぐれ~』に出てくる女子生徒の制服は、かわいらしいセーラー服です。日本のセーラー服が海軍服を改良したものであることは後で知りましたが、「外国のものを『魔改造』して、さらに良いものに仕上げる」という日本文化を体現していると思います。    中高生の恋愛が禁止されている中国では、もちろん中高生が主人公の恋愛作品は存在しません。しかも『きまぐれ~』の恋愛描写は過剰なエロがない、いわゆる「ほのぼの系」で、そこも僕が好感を持った理由です。例えば『電影少女』は、『きまぐれ~』と同じく「ジャンプ」に連載された恋愛漫画ですが、強姦シーンなど過激な性描写が頻出するため、僕は若干敬遠しています。さらに『きまぐれ~』の主人公・春日恭介に対し、まどかは普段突き放すような態度を取っているのですが、もう一人のヒロイン・檜山ひかるは恋愛に積極的で、所構わず恭介に抱きつくほどです。また、恭介には2人のかわいい妹たちもおり、『きまぐれ~』は、昨今のアニメの「ツンデレ」「妹系」といったキャラ分類の元祖になった作品だと思います。  日本では、一人の男性主人公の前にさまざまなヒロインが登場する作品を「ハーレム系」と呼びますが、中国では一昔前までは「モーニング娘。系」、現在では「AKB48系」と呼んでいます。作品のヒロインがアイドルグループのように複数存在すれば、読者は好みのキャラを選択することが可能で、その分、作品のファンも増えるという寸法です。このように『きまぐれ~』は、あらゆる意味で、昨今のラブコメ漫画の元祖になった作品といえるでしょう。
ラブコメの元祖『きまぐれオレンジ☆ロード』で憧れた、ロングヘアーとセーラー服との画像2
●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

中国人ならソッコー裏切る!? 『聖闘士星矢』が描く「絆」の本質とは?

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『聖闘士星矢 冥王 ハーデス十二宮編 よみがえりし黄金聖闘士たちの神話 前編』(バンダイビジュアル)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。僕が親日家になったきっかけは、幼少時に日本のアニメに興味を持ったことです。現在、日本のアニメは世界中で評判を呼んでいます。こうしたアニメから垣間見える日本文化の神髄を、中国人目線で分析していきたいと思います。 ■中国でも大人気だった『聖闘士星矢』  車田正美原作の『聖闘士星矢』(集英社)は、「聖衣」(クロス)と呼ばれる甲冑をまとった少年たちが闘いを繰り広げる漫画です。日本では1986年からテレビアニメ版が放送されましたが、中国では放送権の問題や政府の検閲などが重なり、6年後の92年から放送開始しました。当時、中国のとあるテレビ局は毎週18時半に「630アニメ」という放送枠を設けており、その枠で放送されたアニメはたいてい国民的人気を博していました。そして『聖闘士星矢』もご多分に漏れず、中国中の子どもたちが夢中になったのです。  当時小学生だった僕もその中の一人で、食事時に夢中でテレビを見ていたので、母親にたびたび叱られました。クラスの男子で『聖闘士星矢』を見ていない者はみんなの輪に入れないほどで、さらに本来は男子向けの内容であるにもかかわらず、女子のファンも多くいました。僕が幼稚園児の頃はアメリカのディズニーアニメのファンだったのですが、『聖闘士星矢』のほうが、はるかに完成度が高かったこと、同じ東洋の国の作品であるためか、共感できる面が多く、一気に気持ちがなびきました。『聖闘士星矢』の影響から、僕と同世代の中国人は親日感情が強い傾向があります。 『聖闘士星矢』には、日本独自の文化や思想が感じられます。まず、ヒロインの城戸沙織は女神・アテナの化身という設定ですが、「神が現世に現れる」というアイデアは、「神の子孫」とされる天皇が存在する日本の作品だからこそ生まれたものだと、訪日後に気づきました。  作中では「小宇宙」(コスモ)と呼ばれる潜在的エネルギーが存在し、登場人物はこの力を使用して超人的な能力を発揮します。これは共産主義による無神論がはびこり、科学で説明できないものは認めない現在の中国出身の作家には思いつかない設定です。ただ、荒唐無稽なものかというとそんなことはなく、現実の人間は危機が訪れた際、限界以上の能力を発揮することがあります。この描写は『聖闘士星矢』と同じ「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された『キン肉マン』でも「火事場のクソ力」と呼ばれて表現されています。  また、『聖闘士星矢』における一部登場人物は「第七感」(セブンセンシズ)と呼ばれる能力を持ち、あらかじめ危機を察知することが可能です。これも仮に中国の漫画編集部でこうした設定を提案したら、非現実的だとして却下されるでしょうが、「第六感」「女の勘」などと呼ばれる不安察知能力は現実に存在します。アニメ『ガンダム』シリーズにも「ニュータイプ能力」という第七感と類似した設定がありますね。 ■天皇が結ぶ日本の絆 『聖闘士星矢』の物語は複数の章に分かれているのですが、僕が一番好きなのは「黄金聖闘士十二宮編」です。この章では家族、仲間との「絆」がテーマになっていますが、個人主義的な考えが強い中国では、絆という概念は希薄です。そのため、中国人が組織を結成すると、たいてい裏切り者や二重スパイが発生します。民主化活動が中国全土に広まっていかないのは、そのためです。  しかし、日本の漫画やアニメ、ドラマや映画には、家族や仲間のために命を投げ出すシーンが頻繁に登場します。大半の中国人には理解できない傾向ですが、日本人が絆を大切にするのは、やはり天皇の存在が大きいと思います。拙著『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)にも記したのですが、当初、僕は、日本社会は天皇を頂点とするピラミッド型社会だと思っていました。しかし、実際の日本社会は球体のような構造で、中心に天皇が存在し、「引力」を発生させています。それにより、人々は見えない「糸」のようなもので結ばれているのです。日本社会が強い共同意識を持ち、犯罪発生率が低いのは、天皇がおられるためです。  来日後、『聖闘士星矢』日本語版の名シーンを鑑賞しましたが、日本の声優陣の演技力の高さに感心すると同時に、中国の声優の演技レベルが低かったことがわかり、思わず失笑してしまいました。中国では子ども向けと揶揄されるアニメですが、日本産アニメには、大人の鑑賞に堪える高度な作品が多く存在します。  こうした感じで、次回も日本産アニメを通して僕なりに日本文化を読み解いてみたいと思います。
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●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>

中国人ならソッコー裏切る!? 『聖闘士星矢』が描く「絆」の本質とは?

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『聖闘士星矢 冥王 ハーデス十二宮編 よみがえりし黄金聖闘士たちの神話 前編』(バンダイビジュアル)
 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。僕が親日家になったきっかけは、幼少時に日本のアニメに興味を持ったことです。現在、日本のアニメは世界中で評判を呼んでいます。こうしたアニメから垣間見える日本文化の神髄を、中国人目線で分析していきたいと思います。 ■中国でも大人気だった『聖闘士星矢』  車田正美原作の『聖闘士星矢』(集英社)は、「聖衣」(クロス)と呼ばれる甲冑をまとった少年たちが闘いを繰り広げる漫画です。日本では1986年からテレビアニメ版が放送されましたが、中国では放送権の問題や政府の検閲などが重なり、6年後の92年から放送開始しました。当時、中国のとあるテレビ局は毎週18時半に「630アニメ」という放送枠を設けており、その枠で放送されたアニメはたいてい国民的人気を博していました。そして『聖闘士星矢』もご多分に漏れず、中国中の子どもたちが夢中になったのです。  当時小学生だった僕もその中の一人で、食事時に夢中でテレビを見ていたので、母親にたびたび叱られました。クラスの男子で『聖闘士星矢』を見ていない者はみんなの輪に入れないほどで、さらに本来は男子向けの内容であるにもかかわらず、女子のファンも多くいました。僕が幼稚園児の頃はアメリカのディズニーアニメのファンだったのですが、『聖闘士星矢』のほうが、はるかに完成度が高かったこと、同じ東洋の国の作品であるためか、共感できる面が多く、一気に気持ちがなびきました。『聖闘士星矢』の影響から、僕と同世代の中国人は親日感情が強い傾向があります。 『聖闘士星矢』には、日本独自の文化や思想が感じられます。まず、ヒロインの城戸沙織は女神・アテナの化身という設定ですが、「神が現世に現れる」というアイデアは、「神の子孫」とされる天皇が存在する日本の作品だからこそ生まれたものだと、訪日後に気づきました。  作中では「小宇宙」(コスモ)と呼ばれる潜在的エネルギーが存在し、登場人物はこの力を使用して超人的な能力を発揮します。これは共産主義による無神論がはびこり、科学で説明できないものは認めない現在の中国出身の作家には思いつかない設定です。ただ、荒唐無稽なものかというとそんなことはなく、現実の人間は危機が訪れた際、限界以上の能力を発揮することがあります。この描写は『聖闘士星矢』と同じ「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載された『キン肉マン』でも「火事場のクソ力」と呼ばれて表現されています。  また、『聖闘士星矢』における一部登場人物は「第七感」(セブンセンシズ)と呼ばれる能力を持ち、あらかじめ危機を察知することが可能です。これも仮に中国の漫画編集部でこうした設定を提案したら、非現実的だとして却下されるでしょうが、「第六感」「女の勘」などと呼ばれる不安察知能力は現実に存在します。アニメ『ガンダム』シリーズにも「ニュータイプ能力」という第七感と類似した設定がありますね。 ■天皇が結ぶ日本の絆 『聖闘士星矢』の物語は複数の章に分かれているのですが、僕が一番好きなのは「黄金聖闘士十二宮編」です。この章では家族、仲間との「絆」がテーマになっていますが、個人主義的な考えが強い中国では、絆という概念は希薄です。そのため、中国人が組織を結成すると、たいてい裏切り者や二重スパイが発生します。民主化活動が中国全土に広まっていかないのは、そのためです。  しかし、日本の漫画やアニメ、ドラマや映画には、家族や仲間のために命を投げ出すシーンが頻繁に登場します。大半の中国人には理解できない傾向ですが、日本人が絆を大切にするのは、やはり天皇の存在が大きいと思います。拙著『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)にも記したのですが、当初、僕は、日本社会は天皇を頂点とするピラミッド型社会だと思っていました。しかし、実際の日本社会は球体のような構造で、中心に天皇が存在し、「引力」を発生させています。それにより、人々は見えない「糸」のようなもので結ばれているのです。日本社会が強い共同意識を持ち、犯罪発生率が低いのは、天皇がおられるためです。  来日後、『聖闘士星矢』日本語版の名シーンを鑑賞しましたが、日本の声優陣の演技力の高さに感心すると同時に、中国の声優の演技レベルが低かったことがわかり、思わず失笑してしまいました。中国では子ども向けと揶揄されるアニメですが、日本産アニメには、大人の鑑賞に堪える高度な作品が多く存在します。  こうした感じで、次回も日本産アニメを通して僕なりに日本文化を読み解いてみたいと思います。
中国人ならソッコー裏切る!? 『聖闘士星矢』が描く「絆」の本質とは?の画像2
●そん・こうぶん 中華人民共和国浙江省杭州市出身の31歳。中国の表現規制に反発するために執筆活動を続けるプロ漫画家。著書に、『中国のヤバい正体』『中国のもっとヤバい正体』(大洋図書)、『中国人による反中共論』(青林堂)、『中国が絶対に日本に勝てない理由』(扶桑社)がある。 <https://twitter.com/sun_koubun>