
春の七草を多摩川の河原で探してみました。
1月7日に、1年の無病息災を願って食べる七草粥。春の七草を摘んで、お粥に入れて食べるというこの風習は、平安時代から行われていたほど古く、『御伽草子』にも説話が語られているそうだ。
春の七草といえば、最近はスーパーなどでもセットになって売られているが、やっぱり自分で探してこその縁起物だろう。そこで、野草に詳しい友人が1月3日に多摩川の河原で七草集めをするというので、それに参加させてもらうことにした。

10名ほどが集まった春の七草摘みの会。この7種類を探します。
当日はその友人に教わることで、苦労することなく七草をゲットするはずだったのだが、なんと主催者がインフルエンザで欠席。急遽、引率者なしの遠足に。無病息災を願うための七草粥だが、その七草を集めるためには健康でなければならないのだなと、新年早々に人生の摂理を学んだ気分である。
とりあえず、集合場所に集まった人達と河原へと移動し、七草を探す冒険がスタート。7つの草を探すなんて、なんだかドラゴンボール集めみたいだ。

探そうぜ、七草。
ここで春の七草について説明すると、小学生の頃に誰もが覚えたあの7種の名前は、現在は正式名称ではないものもある。
芹:セリ=これはそのままセリ。野菜としても販売されている。
薺:ナズナ=これもそのままナズナ。通称ペンペン草。
御形:ゴギョウ(オギョウ)=ハハコグサのこと。咳や喉の痛みに良いとされ、草餅に使われることもあったとか。
繁縷:ハコベラ=ハコベのこと。ウシハコベ、コハコベなどの種類があり、七草はコハコベとされている。
仏座:ホトケノザ=タビラコ(コオニタビラコ)のことで、ホトケノザという名前の植物もあるが、これは別種となる。
菘:スズナ=カブのこと。野生のカブって生えているんですかね。
蘿蔔:スズシロ=ダイコンのこと。これも野草じゃなくて野菜だよね。
どこでも生えている野草から、どこでも売っている野菜までさまざまだが、さて何種類が多摩川の河原で見つかるのだろうか?

まずは、河原の石がゴロゴロしている場所を探してみます。
一番簡単に見つかったのは、ペンペン草ことナズナ。小さくて白い花と、特徴的なペンペンしたくなる種が付いていたので、これは楽勝で見つかった。
観賞用ではなく食べるためなので、できれば花の咲いてない若葉がいいのだが、葉っぱだけだとなんの草なのかよくわからないのが七草集めの難しいところ。特にこの時期は「ロゼット状」といって、地面にビタっと葉っぱが広がっているだけで、植物の種類を同定するための情報が圧倒的に足りないのだ。

花と種があればわかりやすいナズナ。

ロゼット状の葉っぱだけだと、ナズナなんだかタンポポなんだか判断がつかない。
続いて見つけたのは、ハコベラことハコベ。きっとコハコベ。小学生の頃に生き物係(バンドではない)としてニワトリやウサギのために集めていた草だが、今日は私のご飯となるのだ。

ハコベラの「ラ」は、歴史上どのタイミングでなくなったのだろう?
続いては、なかなか見つからないのでは、との前評判だったゴギョウことハハコグサ。黄色いポンポンみたいな花が咲いていれば探しやすいのだが、この時期にはそれがないのだ。
同定のポイントは、猫の舌のような形と、猫の耳のような産毛だニャー。這いつくばって探したところ、似たような草がたくさんあるなかで、きっとこれだろうというものを発見。素人による同定なので確実ではないが(これを「素人同定」と呼ぶ)、これがゴギョウということでいいだろう。

中央のモサモサしているのがゴギョウのはず。家で育てて答え合わせをするというのも楽しいかもしれない。このモサモサが気持ち良いね。
続いてはスズナ、スズシロ。カブとダイコンである。これは野草ではなく野菜なので、河原よりも八百屋で探すべき植物だろう。誰だよ、これを七草に入れたのは。
だが、スズナは大丈夫。野生のダイコンなんて生えてないよーと思ってしまいがちだが、ここ多摩川の河原でいえば、これが結構生えているんだな。

河原に生えるダイコン。
栽培されているものの種が飛んで、海辺で野生化したものがハマダイコン。となると、これはカワラダイコンと呼ぶべきだろうか。

引っこ抜いてみれば、ほらダイコンだ。
立派な根っこ。土の柔らかい場所なら、もっと大きなダイコンも生えている。
このようにダイコンならいくらでも生えているのだが、野生のカブは見たことがないと参加者全員が口をそろえる。どうせ生えていないからと、自宅の畑からカブを持参してきた人も。
ダイコンの葉っぱはギザギザしているが、カブの葉っぱは丸っこいのか。

葉っぱまで美味しそうなカブ。
こういう葉っぱが生えてないかなーと探してみると、さっきのダイコンよりも明らかにカブ寄りの葉っぱを発見。
もしかして、これは幻の野生カブなのでは!

葉っぱの形がカブっぽい!
ドキドキしながら抜いてみると……これは……ダイコン!
葉っぱが丸いので期待したけれど、ダイコンとコマツナあたりの交雑種だったかな。でもまあ細長いカブの品種もあるので、カブということにしておこうか。「イワシの頭も信心から」というが、「細めのスズナも信心から」だ。

スリムなカブだと信じよう。
続いて探すのはセリ。これは休耕田のような湿地に生える食草なので、水の溜まった場所の回りを探してみるものの、これがなかなか見つからない。このあたりはセリの好む土壌とはちょっと違うかな。
セリの代わりにやたらと生えているのが、外来種のオランダガラシ。いわゆるクレソンである。
春の七草が選出された時代から何百年もたっているんだから、もうクレソンに世代交代してもいいような気がする。いや、でもやっぱりセリを見つけたい。多摩川のセリ、タマガワのセリ!
さんざん探してようやく見つけたー! と思ったけどちょっと違うか。

うーん、似ているけれど違うかな。
ダメだ、セリっぽい草なら生えているけれど、これぞセリというやつが見つからない。セリはドクゼリというその名の通り毒草があるので素人同定が危険なターゲット。あせりは禁物である。……セリだけに。
川沿いにだいぶ歩き回り、こりゃもうダメかなーとあきらめかけたその時、草むらの中で探していたアイツを発見!
八百屋で売っているセリとはちょっと違うが、これこそが野生のセリの姿。葉っぱをちぎって嗅いでみれば、まさにセリの香り。念のため根っこを確認して芋状になっていないことを確認(芋状ならドクゼリ)。
どうにかセリを狩って、新年早々競り勝ったということで、こりゃ縁起がいいわい。

そっと一株だけいただきました。
これで、残すはホトケノザだけである。野草の図鑑に載っているホトケノザならいくらでも見つかるのだが、春の七草でいうホトケノザはタビラコ(コオニタビラコ)というタンポポに似た草のこと。これが全然見つからない。
黄色い小さな花が咲いていれば見つけることもできるだろうが、図鑑の写真のように都合よく咲いていないのが野草というもの。田んぼの畔などに生える草らしいので、探している場所が悪いのだが。

探しているのはこのホトケノザではない。
参加者の話だと、なんでもタビラコは全国的に数が減っているそうで、場当たり的に探すのは難しいらしい。今日のところは仏様に適当な草に座っていただき、それをホトケノザとしておこう。

これはカラシナかな。いやナズナなのか。仏様、これでお許しください。
そんなこんなで、見つけられた七草は以下の通り。
○芹:セリ
○薺:ナズナ
○御形:ゴギョウ(オギョウ)
○繁縷:ハコベラ
×仏座:ホトケノザ
△菘:スズナ
○蘿蔔
あのカブっぽい葉っぱのダイコンをスズナと呼んでいいのか微妙だが、その辺りは自己満足の世界なので良しとすれば、7種類中6種なのでなかなかの好成績ではなかろうか。まあ7種類そろえても願いをかなえてくれる龍が出てくるわけでもないしね。
七草以外で見つけた食草は、ヨモギ、クレソン、タネツケバナ、ノビル、タンポポ、カラシナなど多数。正調の七草にこだわらなければ、その辺の公園でも7種類の食べられる野草は見つけられると思うので、「世界に一組だけの七草」を探すくらいの気持ちで楽しむのがいいんじゃないですかね。八宝菜や五目そばだって、何が入っていてもいいわけだし、そもそも地域によって生えている草なんて違う訳だし。でもまあ、やっぱりホトケノザも見つけたかったなー。
とにもかくにも天気の良い日に野草を探すのは、とても気持ちよかった。年末年始の休みでなまった体を動かし、暴飲暴食をした胃を休ませるのには最適の風習だなと実感した次第である。

多摩川で集めた七草の粥。ありがたや。

個人的に好きな野草はカラシナです。

自家製アンチョビとカラシナのパスタ。大変おいしゅうございました。
(取材・文=玉置豊)