解散発表! 前代未聞の“一夫多妻制アイドル”清竜人25の「セルフボースティング」

 ラッパーブームといわれる昨今、アイドルがラップを、ラッパーがアイドルの楽曲を手掛けることは珍しくない。この連載では、アイドルファンで「社会人ラップ選手権」決勝進出経験を持つ、ラッパーのMC内郷丸が“ラッパー的観点”から毎月大量にリリースされるアイドルソングを定点観測。
「清 竜人25『My Girls♡』」(Youtubeより)
 今回の一曲は、先日解散を発表した「清竜人25」11月9日リリースの『My Girls♡』である。 「清竜人25(きよしりゅうじんトゥエンティーファイブ)」は、清竜人とその夫人たちによって構成される“一夫多妻制”アイドルグループである。もともとシンガー・ソングライターとして活動していた清竜人が、2014年唐突に自分がプロデューサー兼メンバーとなってつくったアイドルだ。連載初回から紹介するアイドルがキワモノである。  恋愛のスキャンダルがメンバーの人気に多大な影響を与える女性アイドルグループのなかで、男が1人いて、しかもその男がセンター兼プロデューサー。さらに他のメンバーは夫の妻(という設定)。他の女性アイドルグループとは「絵ヅラ」が違いすぎる。アイドルたちよりもあくまで清竜人が主役。男の陰の部分というか、男そのものがどでかく画面を支配するアイドル……これがなぜ人気なのだろうか?  もともとの清竜人のファンが見たり聞いたりしているという予想はつくが、他のアイドルに倣い、握手会やチェキ会なども行っているようだ。ライブでもアイドルファンが行う独特の掛け声「mix」が飛び交う。オタクの適応能力たるや恐るべし。  そんな清竜人のソロ時代の代表曲といえば、『痛いよ』だろうか。
「清 竜人『痛いよ』」(YouTubeより)
 ストリングスこそ大胆に使われているものの、ピアノの弾き語りからつくられたであろうシンプルなバラードに、愚直すぎる歌詞を乗せて歌うスタイル。決して声を張り上げるわけでもないが、いまにも爆発してしまいそうなエモーションがこもっている。率直にいえば、『My Girls♡』とは作風が違いすぎる。 『痛いよ』から清竜人25の結成まで、彼はスウィング・ジャズやファンク、電子音楽まで、さまざまな音楽に接近し、アルバムごとに大きく作風を変えてきた。実際、清竜人25になっても、スウィング・ジャズやデジタルサウンドを駆使したポップスもやっている。  今作『My Girls♡』は、このように数多くのジャンルからの影響を楽曲にそのまま取り入れてきた清竜人らしいシティ・ポップだ。ノリノリの清竜人と、ヘタウマがすぎる夫人たちのボーカルのクセがとても強く、彼らならではアイドルソングに仕上がっている。  たしかに楽曲内ではラップパートこそあるものの、シティ・ポップの域は抜け出ないし、ヒップホップらしさはないように思える。では、なぜこの楽曲を取り上げたか? その理由を解説しよう。  彼らのヒップホップらしさを紐解くために、一度MVを見てみよう。『My Girls♡』のMVでは、冒頭に紹介したような“男っぷりが露骨に浮き彫りになる女性アイドルグループ”というテイストがより前面に押し出されている。  庭付きの豪邸で一切の雑用をメイド服を着た夫人たちにやらせながら、彼女たちと戯れ、楽しみつつ、家を出る準備を済ませ出掛けていくという一連のストーリーが描かれる。ベッドから庭まで6人の夫人たちに体を運んでもらい、ワインを飲み、朝食らしき高級ステーキを頬張りながら音楽に合わせて歌い踊る夫人たちを眺める。  食事のあらゆるは、夫人たちによって口まで運ばれ、着替えはボタンのひとつひとつまで夫人たちにかけてもらう。好きな女たちに愛されながら生活の全てを任せるというハーレム生活。「両手に花」なんてレベルではない。露骨なまでに、アイドルたちが独占されている様子を見せつけられる。  普通なら「うーんキワモノだなあ……」という感想で終わるところなのだが、実は、ここにこそ、清竜人25のなかの“ヒップホップ“が見て取れるのである。  豪邸、両手に花、やたら高そうなものを着たり食べたり…。既視感がないだろうか。最近のヒップホップのミュージックビデオではこういったモチーフがよく使われている。たとえばこんな感じである。
「MACKLEMORE & RYAN LEWIS - THRIFT SHOP FEAT. WANZ (OFFICIAL VIDEO)」(YouTubeより)
 やたら高そうなコートを着て、両脇に女を連れているラッパー…。「パーティー」感がすごい。
「Flo Rida-My House」(YouTubeより)
 「Flo Rida(フロー・ライダー)」のこの曲は『My House』という曲だ。「とりあえずうちに来て騒ごう!」としか歌っていない。MVを見ればわかるように、豪邸。でかい椅子に座りこちらも両脇に女を立たせている。
「Afrojack - Gone ft. Ty Dolla $ign」(YouTubeより)
 つい最近の曲では、信じられない大きさの豪邸で女性と戯れる「Ty Dolla $ign」。彼自身と、冒頭のスマートフォンでのFaceTime通話で一瞬登場する男性を除き、あとはすべてが女性。女性と戯れるだけ戯れ、最後は出ていってしまう、というところは、『My Girls♡』とそっくりである。  何曲かサンプルに挙げてみたが、海外のヒップホップには、これに限らず、クラブや豪邸でのパーティー、派手な服、金ピカのネックレス、高級車といった“カネのかかるもの”というモチーフが多用される。  ヒップホップには「セルフボースト」という用語があり、これは自分がいかにすごいかを見せつけ存在感をアピールすることだが、ラッパーたちは、ラップで自己主張するだけでなく、ミュージックビデオで自分がどれだけ豪華な生活ができているのかをアピールしているのである。  清竜人25というグループは、自身をセンターに置き、まわりに妻であるアイドルたちを配置し一緒に歌って踊ることを「見せつける」、つまり清竜人自身のセルフボースティングなのかもしれない。一夫多妻「という設定」であるということも絶妙である。  かつて、黒人ラッパー「Akon」が実際に一夫多妻制を実践していると発言し、アメリカ国内で大きく批判を浴びたことがあったが、過激なセルフボーストは、現代では炎上をもたらしてしまうかもしれない。  清竜人25の今回の解散は、もしかしたらこの絶妙なバランス感覚を保つことの難しさに端を発していたのかもしれない。 (文=MC内郷丸) Twitterアカウントは@bfffffffragile MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru

解散発表! 前代未聞の“一夫多妻制アイドル”清竜人25の「セルフボースティング」

 ラッパーブームといわれる昨今、アイドルがラップを、ラッパーがアイドルの楽曲を手掛けることは珍しくない。この連載では、アイドルファンで「社会人ラップ選手権」決勝進出経験を持つ、ラッパーのMC内郷丸が“ラッパー的観点”から毎月大量にリリースされるアイドルソングを定点観測。
「清 竜人25『My Girls♡』」(Youtubeより)
 今回の一曲は、先日解散を発表した「清竜人25」11月9日リリースの『My Girls♡』である。 「清竜人25(きよしりゅうじんトゥエンティーファイブ)」は、清竜人とその夫人たちによって構成される“一夫多妻制”アイドルグループである。もともとシンガー・ソングライターとして活動していた清竜人が、2014年唐突に自分がプロデューサー兼メンバーとなってつくったアイドルだ。連載初回から紹介するアイドルがキワモノである。  恋愛のスキャンダルがメンバーの人気に多大な影響を与える女性アイドルグループのなかで、男が1人いて、しかもその男がセンター兼プロデューサー。さらに他のメンバーは夫の妻(という設定)。他の女性アイドルグループとは「絵ヅラ」が違いすぎる。アイドルたちよりもあくまで清竜人が主役。男の陰の部分というか、男そのものがどでかく画面を支配するアイドル……これがなぜ人気なのだろうか?  もともとの清竜人のファンが見たり聞いたりしているという予想はつくが、他のアイドルに倣い、握手会やチェキ会なども行っているようだ。ライブでもアイドルファンが行う独特の掛け声「mix」が飛び交う。オタクの適応能力たるや恐るべし。  そんな清竜人のソロ時代の代表曲といえば、『痛いよ』だろうか。
「清 竜人『痛いよ』」(YouTubeより)
 ストリングスこそ大胆に使われているものの、ピアノの弾き語りからつくられたであろうシンプルなバラードに、愚直すぎる歌詞を乗せて歌うスタイル。決して声を張り上げるわけでもないが、いまにも爆発してしまいそうなエモーションがこもっている。率直にいえば、『My Girls♡』とは作風が違いすぎる。 『痛いよ』から清竜人25の結成まで、彼はスウィング・ジャズやファンク、電子音楽まで、さまざまな音楽に接近し、アルバムごとに大きく作風を変えてきた。実際、清竜人25になっても、スウィング・ジャズやデジタルサウンドを駆使したポップスもやっている。  今作『My Girls♡』は、このように数多くのジャンルからの影響を楽曲にそのまま取り入れてきた清竜人らしいシティ・ポップだ。ノリノリの清竜人と、ヘタウマがすぎる夫人たちのボーカルのクセがとても強く、彼らならではアイドルソングに仕上がっている。  たしかに楽曲内ではラップパートこそあるものの、シティ・ポップの域は抜け出ないし、ヒップホップらしさはないように思える。では、なぜこの楽曲を取り上げたか? その理由を解説しよう。  彼らのヒップホップらしさを紐解くために、一度MVを見てみよう。『My Girls♡』のMVでは、冒頭に紹介したような“男っぷりが露骨に浮き彫りになる女性アイドルグループ”というテイストがより前面に押し出されている。  庭付きの豪邸で一切の雑用をメイド服を着た夫人たちにやらせながら、彼女たちと戯れ、楽しみつつ、家を出る準備を済ませ出掛けていくという一連のストーリーが描かれる。ベッドから庭まで6人の夫人たちに体を運んでもらい、ワインを飲み、朝食らしき高級ステーキを頬張りながら音楽に合わせて歌い踊る夫人たちを眺める。  食事のあらゆるは、夫人たちによって口まで運ばれ、着替えはボタンのひとつひとつまで夫人たちにかけてもらう。好きな女たちに愛されながら生活の全てを任せるというハーレム生活。「両手に花」なんてレベルではない。露骨なまでに、アイドルたちが独占されている様子を見せつけられる。  普通なら「うーんキワモノだなあ……」という感想で終わるところなのだが、実は、ここにこそ、清竜人25のなかの“ヒップホップ“が見て取れるのである。  豪邸、両手に花、やたら高そうなものを着たり食べたり…。既視感がないだろうか。最近のヒップホップのミュージックビデオではこういったモチーフがよく使われている。たとえばこんな感じである。
「MACKLEMORE & RYAN LEWIS - THRIFT SHOP FEAT. WANZ (OFFICIAL VIDEO)」(YouTubeより)
 やたら高そうなコートを着て、両脇に女を連れているラッパー…。「パーティー」感がすごい。
「Flo Rida-My House」(YouTubeより)
 「Flo Rida(フロー・ライダー)」のこの曲は『My House』という曲だ。「とりあえずうちに来て騒ごう!」としか歌っていない。MVを見ればわかるように、豪邸。でかい椅子に座りこちらも両脇に女を立たせている。
「Afrojack - Gone ft. Ty Dolla $ign」(YouTubeより)
 つい最近の曲では、信じられない大きさの豪邸で女性と戯れる「Ty Dolla $ign」。彼自身と、冒頭のスマートフォンでのFaceTime通話で一瞬登場する男性を除き、あとはすべてが女性。女性と戯れるだけ戯れ、最後は出ていってしまう、というところは、『My Girls♡』とそっくりである。  何曲かサンプルに挙げてみたが、海外のヒップホップには、これに限らず、クラブや豪邸でのパーティー、派手な服、金ピカのネックレス、高級車といった“カネのかかるもの”というモチーフが多用される。  ヒップホップには「セルフボースト」という用語があり、これは自分がいかにすごいかを見せつけ存在感をアピールすることだが、ラッパーたちは、ラップで自己主張するだけでなく、ミュージックビデオで自分がどれだけ豪華な生活ができているのかをアピールしているのである。  清竜人25というグループは、自身をセンターに置き、まわりに妻であるアイドルたちを配置し一緒に歌って踊ることを「見せつける」、つまり清竜人自身のセルフボースティングなのかもしれない。一夫多妻「という設定」であるということも絶妙である。  かつて、黒人ラッパー「Akon」が実際に一夫多妻制を実践していると発言し、アメリカ国内で大きく批判を浴びたことがあったが、過激なセルフボーストは、現代では炎上をもたらしてしまうかもしれない。  清竜人25の今回の解散は、もしかしたらこの絶妙なバランス感覚を保つことの難しさに端を発していたのかもしれない。 (文=MC内郷丸) Twitterアカウントは@bfffffffragile MC内郷丸の「ほんと何もできません」https://synapse.am/contents/monthly/uchigomaru