
イメージ画像(足成より)
メダル獲得数41と過去最多の記録を残したリオ五輪が閉幕し、大型台風が秋の気配を運んできました。虫の声も、秋を伝えるメンツに替わりつつあります。
「ペットの殺処分数をゼロにしよう!!」
こんなスローガンを掲げて、さまざまな動物の保護団体や地方行政が動きを強めています。先日行われた東京都知事選では「(東京の)ペット殺処分をゼロに」を公約として掲げた小池百合子氏が当選し、とあるイベントで「2020年東京五輪・パラリンピックをひとつの期限とした上で、東京都でいい例を示せるようにしたい」と発言、聴衆の喝采を浴びていました。
また、飼い主のいない犬猫を収容・管理するための自治体施設、いわゆる保健所(動物愛護センター・管理センター)を殺処分の場所ではなく、保護・管理するための施設として運営・新設する動きも広がっています。
そもそも、犬猫の殺処分は、なぜ行われるのでしょうか?
まず、犬に関しては「狂犬病予防法」に基づき、その処分方法が規定されています。飼い犬には狂犬病の予防接種が義務付けられていますが、飼い主のいない犬(野良犬)は狂犬病の蔓延を防ぐため、自治体職員によって捕獲・処分されることになります。野良以外には、飼い主の飼育放棄により施設へ持ち込まれる犬や、路上でケガをし、保護される犬などもいます。こちらは「動物愛護法」の規定に基づき、対処されます。
猫に関しては動物愛護法と各自治体で制定する条例が根拠法となり、処分されています。「狂犬病予防法」には猫に対する規定はなく、自治体職員による野良猫の捕獲・処分は基本ないのですが、そのほとんどは飼い主や飼い主以外の第三者による持ち込みと、飼い主以外からの要請による保護(捕獲と同義)・処分です。
犬も猫も、人間の健康や生活環境を守るための法によって、殺処分されているということです。もちろん、法律は人間の権利を守るために作られるのですから、当然といえば当然です。しかし、その処分されている命の大半は、人為的に作られた命であることを考えると、ある種の違和感を覚えます。特に飼い主が持ち込んだ犬猫に対しては「飼い主側の一方的な都合によって殺さなければならない」ため、獣医師含め、処分に携わる職員の精神的苦痛は非常に大きいようです。
■動物保護団体の善意の影で……
動物愛護法では、殺処分の原因となるペット動物の不当な扱い(遺棄・虐待)を犯罪として規定しているため、このような行為を見つけた場合、本来であれば行政と警察が介入し、立件・処罰(殺傷:2年以下の懲役または200万円以下の罰金、虐待・遺棄:100万円以下の罰金)、動物の保護となるのが正当な流れですが、なかなかスムーズには行われておりません。そこで登場するのが、動物保護団体です。ネグレクト(飼育放棄)や虐待が行われている現場を訪問し、飼い主と話し合いをし、そのペットたちを1頭ずつ保護していきます。保護団体の多くは個人の善意で運営されていることが多く、自らの仕事の合間に、愛情に縁の薄いペットのために身を粉にして活動してくださっています。人として、本当に頭が下がる思いです。心ない飼い主(個人・業者)の“ツケ”を、善意の個人が払っている状況といえます。
また、行政の「殺処分をゼロに」というスローガンの下、行政の保護施設に入ってくるペットたちを地域の保護団体に引き渡すという流れができています。例えば広島県では、行政に持ち込まれたすべての犬と猫を特定の保護団体が引き取る流れとなっており、事実上、行政での殺処分数は短期的にゼロになっています。しかし、保護団体で新しい飼い主を待っている犬猫の数は、どんどん増えていきます。保護動物を扱うキャパシティは、施設の広さや管理する人員の数によって決まりますが、今はそのキャパを超えた数の保護動物を収容した団体が増えており、中には管理しきれなくなり崩壊し、行き場のないペットを増やしてしまう結果となっています。
動物先進国であるドイツなどでは、行政の施設や保護団体のシェルターで保護された犬や猫は、性格・健康状態を詳しくチェックし、譲渡するべき個体を選別します。どうしても譲渡に向かないと判断された場合、残念ながら処分(麻酔薬を使った本当の意味での安楽死)となる個体も少なくないようです。もちろん、ノーキルシェルターといわれる施設もあり、すべての保護動物を最後まで管理するというところもありますが、このあたりは運営者の方針です。どちらが良いかという議論は、それぞれの国や地域の状況・制度によって判断する必要があります。
今の日本の風潮では、「殺処分をゼロに」という言葉が先行し、善意の個人にその“ツケ”を回しすぎているのではないかと思います。前述の通り、保護団体の多くは個人の善意で活動していることが多いため、その活動は社会的な“義務”ではないはずです。保護団体だから当たり前だろと言って、キャパを超えた数を管理させる権利など、誰にもないのではと思います。
もちろん、自ら望んで引き受けている団体がほとんどだとは思いますが、なんにせよ、いまだ保護を必要とするペットが多い状況は改善されません。
「殺処分をゼロに」は、理想的なスローガンです。今の日本でこれを達成するためには、あふれ続ける命を善意で受け続けるのではなく、そもそもあふれさせないこと、蛇口を閉めることが必要があるのです。
いま何をするべきなのか――? ペットを育てるすべての人たちに、あらためて考えてほしい問題です。
(文=成田司)
●なりた・つかさ
ペットビジネスライター。動物福祉の発想に基づく日本版ティアハイム設立を目指す「Giraf Project」を主宰。共著に『ペット市場の現状と展望2013-2014』(JPR)がある。