
撮影=尾藤能暢
今年auのテレビCM「三太郎」シリーズの“一寸法師”役でお茶の間でのブレークを果たした俳優、前野朋哉。『桐島、部活やめるってよ』(2012年)をはじめ、最近では人気ドラマ『重版出来!』(TBS系)にもレギュラー出演するなど、俳優としての評価はうなぎ上り。最新作『エミアビのはじまりとはじまり』では芸人役に挑み、なんとアマチュアとして出場した「M-1」の1回戦も突破! 唯一無二の存在感で“いま最もオファーしたい男”前野朋哉の魅力に迫る――。
――前野さんは、芸人さんの役は初めてですか?
前野朋哉(以下、前野) 正確には2回目ですね。大泉洋さん主演の『青天の霹靂』(原作/監督 劇団ひとり)という映画で、浅草の芸人さん役をやらせてもらったことがあります。
――そうでしたか。本作『エミアビのはじまりとはじまり』では、芸人さん以上に芸人さんっぽくて、びっくりしました。
前野 僕的には、もっとやれたんじゃないかと……試写で見たときには。
――俳優さんが芸人さんを演じると、上手なだけに、逆にリアリティが失われることもあると思うんですけど、前野さんの「海野」は、本当にこういう芸人さんライブにいるよな、と。
前野 ありがとうございます。ちょっと作り方が特殊だったんです。監督が「芸人さんに教えてもらわずに、イチから作ろう」と。だから何もわからない状態で、監督と森岡龍君(相方の実道)と3人で試行錯誤しながら作っていったんです。時間はかかりましたね。3人でずっと暗闇を歩いているような感じで。
――「ツッコミ」って、なんなんだろう……みたいな。
前野 そうです。「笑わせるって、なんなんだ?」とか。テレビでお笑いを見ているときは、ただ「面白いな~」で、そこにテクニックとか芸とか、人の心をつかむ何かとか、そこまで意識はしないじゃないですか。実際やってみて、いかにそれが難しいかがわかりました。最初、僕と森岡君は「2人ならできる」っていう、よくわからない自信があったんですよ。森岡君とは付き合いも長いので。ただやり始めると、思っている以上に難しい作業でした。
――何か参考にしたものはありますか?
前野 DVDを見たり、実際のお笑いライブにも足を運びました。でも、そこから引用するっていうのは、あまりしてないんです。結局、途中から「芸人としてのキャラクター」が必要になると監督が判断して、それをどう生かしていくかを考えたとき、やっと作り方が見えてきたんじゃないかなと思います。監督のイメージでは、僕の役が蛭子(能収)さんで、実道がGACKTさんだったらしく(笑)。その2人が漫才してたら、すごい面白いでしょうって。あぁそうか、そういうとこからも入っていけるんだと。そこからキャラクターを意識して、でもお互いが持っている性格も取り入れて、どこを面白く伸ばしていくかっていうことを、毎日考えてやっていました。
――漫才コンビ「エミアビ」の海野は、明確にツッコミでもないんですよね。
前野 そうなんですよ。基本的にはどっちもツッコむし、どっちもボケるっていうのが、「エミアビ」のスタイルです。

劇中、前野さんと森岡さんが演じる漫才コンビ「エミアビ」/(c)2016『エミアビのはじまりとはじまり』製作委員会
――ボケとツッコミの立ち位置がその都度変わるのは、難しくなかったですか?
前野 いや、僕は逆に助かりました。ツッコミがやっぱり難しくて、どちらかというと、ボケのほうが気が楽だった(笑)。拾ってもらえる安心感というか。芸人さんの「拾う」って、本当すごいですよね。拾って話を何倍にも膨らますっていう、あの技術。最近バラエティに出させてもらったりすると、目の当たりにするんです。自分が何をしゃべっても、面白くしてくれる。職人というか、本当に芸ですよね。特にツッコミの人は、技術ももちろん、愛が深くないといけないじゃないですか。人間ができてないと、なかなかツッコミはできないなと思いました。
――対象への愛がないと、ツッコミはできないと……。
前野 森岡君は、ツッコミがうまいんですよ(笑)。
――M-1の予選にも「エミアビ」として出場されたとか。
前野 1回戦通りました。ラッキーなことに。
――すごい……。
前野 緊張しました。しかも、なぜかその日のトリで。41組出ていて。その中でアマが3組、あとは全員プロ。ABCブロックに分かれていて、僕らはCブロックだったのでAブロックだけ見ることができたんです。それが、めちゃめちゃ面白かった。「あぁ、普通にお客さんで来たかった」って思いましたもん(笑)。
――あ、このあと自分もやるんだったと(笑)。
前野 このまま気持ちよく帰りてぇ~って。本番ではネタも飛びつつ、四苦八苦しながらやりました。
――撮影のときと、どちらが緊張しました?
前野 M-1ですね。でも、得たものも多かった。映画のことも何も知らないお客さんの前で漫才をするのが、初めてだったんです。やっぱりそれをしないとダメだなっていうのは、すごく感じました。客前での緊張とかプレッシャーも込みで、そこの空気をつかんだ人が勝っていくじゃないですか。僕らは、ただラッキーだっただけですけど。
――2回戦も楽しみです。
前野 はい、今度は10月にあるので、それまでにもうちょっと人前でやれる機会を作って漫才しようと話はしてます。
――ガチですね!
前野 どうせ恥かくんで(笑)。でも、なんかね……観客に「この程度かよ」みたいに思われたら、僕ら一応映画背負ってるんで(笑)。僕らの漫才があまりにも面白くないと、映画見に来てくれなくなっちゃう可能性があるので。それはちょっとまずいです!
――前野さんといえば、「いま最もスケジュールが取れない俳優さん」といわれていますが、ご自身の中で転機となったのは、どんな作品でしたか?
前野 そうなんですか? 初耳です(照)。俳優としてしっかりと意識して、見られているなと感じたのは『桐島、部活やめるってよ』です。『桐島』の後に、少しずつ声をかけてもらうことが増えました。『桐島』に出ていた役者さんを、その後、いろいろな作品で見るようになったのも、やっぱり刺激的でしたし、「また現場で会いたいな」って思うようになりました。あとやっていて「俳優って面白いな」と思ったのは『日々ロック』かなぁ。結構ガッツリやれたんです。こっちはバンドの話だったんですけど、何カ月間か本当に楽器も練習しましたし。

――前野さんは俳優業とともに監督もされていますが、実家のご家族には「俳優をやっている」と言い出せなかったそうですね。
前野 一応、大学生のときに「監督としてやっていく」と宣言していたので(笑)、「なんでお前、役者やってるんだ?」ってなるじゃないですか。しかも「監督」というより「俳優」として東京行くことになったので、両親的には「アンタ、それちょっと違うんじゃないの」と。「俳優をやることで現場にも関われるし、監督としての勉強にもなるから」と半ば強引に東京出てきちゃったんですよ。だから、難しかったですね。結婚するときも。
――結婚のときですか?
前野 最初(親から)言われていたんですよ。「監督としても俳優としてもそんなに稼いでいるわけじゃないのに、どうやって家族を養っていくんだ?」と。痛いくらい正論ですよね。確かに……と思って、いったんは引いて(笑)。『空飛ぶ広報室』(TBS系)というドラマで初めてレギュラーをもらって、そのドラマをたまたま両親が見ていたらしくて。それで「東京でも、ちゃんとやってるようだ」と納得してくれたみたいです。
――いつも見ているドラマに突然、息子が出てきたらビックリですよね(笑)。
前野 想定外だったようです。さすがに、今は何も言われなくなりました。思えば、両親はまったく映画を見ないのに、昔、僕が「映画を見たい」と言ったときには、すんなり行かせてくれたので、その辺の理解はあったのかもしれません……。
――素晴らしいご両親じゃないですか!
前野 でも……そうだ。僕小学生の頃、剣道やってたんだけど、すごく嫌だったんです。しんどいし、すぐ手の皮むけるし。剣道の良さが、当時の僕には全然わからなかった。でも、母親は「息子が生まれたら、剣道をさせたかった」みたいなことを以前言っていたんです。そんなの聞いたら、子どもは頑張るしかないじゃないですか。そうやって無理も強いてる分、僕の好きなことも少しはさせてあげなきゃ……って思っていた節もある。だって、映画行くときの僕、すげぇ笑顔だったと思うんですよ(笑)。
――映画が好きだと思ったのは、いつ頃なんですか?
前野 中学生くらいかなぁ。映画を見るのが大人っぽいというか、ほぼ一日、映画のことばかり考えていました。どうやって部活サボって、映画に行くか(笑)。だって『スター・ウォーズ』公開日に、部活と『スター・ウォーズ』どっちを取るかっていったら、『スター・ウォーズ』取るじゃないですか(笑)。
――その頃、好きだったジャンルと今好きなジャンルは、あまり変わらないですか?
前野 変わらないですね。結局、話題作は見たい。今なら『シン・ゴジラ』絶対見たいと思いましたもん。僕ミーハーなんですよ。この間、たまたま時間が空いて、よし、ゴジラ行こうと。それで普通に行くんじゃなくて、ちょっと苦労したいなと。すんなり映画館行ってすんなりゴジラ見てすんなり帰るのもイヤだなと思って、映画館まで歩いていったんです。
――どのくらいの距離を?
前野 9km弱(笑)。
――ええ??
前野 暑い中、歩きましたよ。途中、中華料理店に入って休憩して、そこでリオ五輪の情報をチェックしたりしながら。映画館に着いたら、入り口にポスターがバーンとあって「ゴジラが出迎えてくれてる……」って感動しました。ゴジラ待ってくれてた~って。

――絶対に忘れられない作品になりますね。
前野 映画って、見るシチュエーションが、すごく大事だと思うんです。地方に行ったときに、初めて行く映画館は、すごくワクワクするし。今回みたいに「無理して見る」のも好きですし、時間が空いたときに何も決めずフラッと映画館に行って、インスピレーションで決めるのもいい。
――たとえば『エミアビのはじまりとはじまり』だったら、どんなシチュエーションで見たいですか?
前野 う~ん。そうですね。僕だったら『シン・ゴジラ』を見て、一度そちらの世界にトリップしながら、この『エミアビのはじまりとはじまり』を見ると、なかなかのテーマ感の振れ幅に『エミアビのはじまりとはじまり』のインパクトがより強くなるんじゃないかなと思います。
――『シン・ゴジラ』と『エミアビのはじまりとはじまり』の2本立て(笑)。
前野 どちらも熱くなる映画ですし(笑)。あと、お酒飲んで見るのもいいかもしれない。僕よくやるんですけど、お酒飲んで映画見ると、自分の中のリミッターが解除されるとこあるじゃないですか。「ドーピング」って呼んでるんですけど(笑)。
――今は情報があふれすぎて、あまり自由な状態で映画を見られないのかもしれませんね。
前野 みんな、前情報仕入れて見に行きますもんね。でも、それってめちゃめちゃ選択肢を狭めてると思う。もったいないですよね。もっと楽しめるはずなのに。
――休憩の中華屋を挟みつつ、汗だくで歩いてたどり着いたゴジラは、普通のゴジラより絶対楽しいと思います。
前野 しかも、そんなことでもないと絶対に入らない、住宅街の中にポツンとある中華屋ですから!
――いま本当にたくさんの作品に出演されていらっしゃいますが、前野さんの中で「この人と共演したい!」という夢はありますか?
前野 デンゼル・ワシントンと共演したい。
――おおお!!
前野 昨年公開された『イコライザー』っていう映画がめちゃくちゃ面白くて。映画館で見られなくて、ブルーレイで見たんですけど「久々キタこの! この! デンゼルのこの!!」って。最高でした……。本当に、デンゼル、カッコイイ……。
――ちなみに、どんな役柄で共演したいですか?
前野 どんな役柄でもいいです。なんなら一発で殺されたい。
――殺されたい(笑)。
前野 元CIAのすごい殺し屋の役なんですよ、デンゼルが。瞬時にその場の状況を判断して、いかに速いスピードで何人殺すか。そのシーンがカッコイイ。あのシーンの一員になれたら、めちゃくちゃうれしいですよね。
――前野さんの「殺し屋」役も、ちょっと見てみたいですけど。
前野 いやぁ、でも僕が殺し屋だったら、あんなにスマートに殺せないし、やっぱりそういう役は佐藤浩市さんとか織田裕二さんで見たいし……中井貴一さんもいいだろうな、カッコイイよな……。“昼はサラメシ、夜は殺し屋”みたいな……。
(取材・文=西澤千央)
●『エミアビのはじまりとはじまり』
監督・脚本/渡辺謙作、キャスト/森岡龍、前野朋哉、黒木華、新井浩文、山地まりほか
上映時間/1時間27分 製作/『エミアビのはじまりとはじまり』製作委員会
企画/ブレス 制作プロダクション・配給/ビターズ・エンド
9/3(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー!
(C) 2016『エミアビのはじまりとはじまり』製作委員会
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