えげつないまでに欲望むき出し! テレビ界初のウォール街ドラマ『Billions』

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Netflixより
 エンタテインメント大国のアメリカは、どんな職業も見事にエンタメ化してしまうお国柄。以前紹介した『ハウス・オブ・カード』しかり、その昔『CSI:科学捜査班』が大ヒットした頃は、それまで地味な職業扱いだった鑑識志望者が急増するなど、現実世界への影響力も大きい。そんなアメリカのテレビ界で、意外にもこれまであまり描かれてこなかったのが金融業界だ。しかし、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の大ヒットによって、いまや金融ドラマの企画が急増している。中でも大注目なのが、“テレビ界初のウォール街ドラマ”と評される『Billions』だ。  主人公の一人、ニューヨーク州検事局の検事チャック・ローズは金融事件裁判で81件無敗を誇る人物。そんな彼の元に証券取引委員会のスピロスから、ヘッジファンドの大物ボビー・アクセルロッドの不正に関する情報がもたらされる。しかし相手は全盛期のマイク・タイソン級の大物であり、ニューヨークでは庶民の味方と思われている大富豪だけに、生半可な証拠では体よく逃げられるだけ。起訴するに足る完璧な証拠を手に入れるため、ローズは一計を案じる。一方アクセルロッドのほうも、ウォール街でのし上がってきたしたたか者だけに大胆不敵な人物。ローズの策略に気づきながら、あえてその思惑に乗り、彼を挑発する。 こうしてエリート検事と金融界の大物による熾烈なバトルの幕が開くわけだが、この2人の主人公がどちらも一筋縄ではいかないクセ者であり、それがドラマの重要な魅力になっている。アイビーリーグ出身のエリートぞろいの金融業界で、ホフストラ大学出身というアクセルロッドは、まさにたたき上げの人物。まるでシャーロック・ホームズか!? と思わんばかりのキレッキレの洞察力は、部下からも一目置かれている。9.11をきっかけにその勢力を伸ばした彼だが、犠牲になった遺族の子どもに奨学金を設けたり、消防組合に莫大な寄付をしたりするため、ニューヨークではヒーロー的存在だ。しかしこうした善行の裏には彼なりの思惑があり、冷徹な素顔をのぞかせる。  一方のローズは、まさにエリート中のエリート。父親が金融界にも顔が利く有力者だが、その父とは確執があり、金融犯罪には決して容赦しない。チェスのように先の先まで読んで執拗に標的を追い込み、その実績から末はニューヨーク市長か州知事かといわれる彼は、一見非の打ちどころのないエリートだが、実はドMで、ストレスがたまるとSMクラブに駆け込みたくなる衝動と戦うという、なんとも微妙な裏の顔を持っている。  追う側と追われる側に明確に立場が分かれる2人だが、単純に善と悪で割り切れるものではないのがこのドラマの妙。熾烈な頭脳バトルの中で、互いにスパイを送り込み、相手の弱みを探し出し、他人を巧みに利用し、時に巻き込んだ人物を破滅に追いやるその手腕は、どちらも決してクリーンとはいえないのだ。そんな2人の関係をより複雑にするのがローズの妻ウェンディだ。彼女はローズが検事になる前からアクセルロッドの会社、アックス・キャピタルで働く精神科医で、社員のメンタルケアを担う彼女は会社の秘密を握っている。ローズにしてみれば彼女の存在は捜査に支障を来すものであり、アクセルロッドにしてみればいつ裏切ってもおかしくない存在。彼女が間にいることで、2人の戦いはよりスリリングで、微妙なバランスの下で繰り広げられることになる。  その見応えのある人間模様をよりパワフルなものにしているのが、主演2人の白熱の演技バトルだ。アクセルロッドを演じるダミアン・ルイスはドラマ『HOMELAND/ホームランド』でテロリストに寝返った元海兵隊員ブロディ役が絶賛された、英国出身の演技派俳優。そしてローズを演じるポール・ジアマッティは映画『サイドウェイ』や『シンデレラマン』などで高く評価されている、名バイ・プレイヤー。どんな役も多彩にこなす実力派の2人が演じるクセ者キャラクターの生々しい人間臭さに、第1話から急速に引き込まれていくこと必至だ。  もうひとつ興味深いのが、金融業界の舞台裏。庶民には想像がつかないような大金を動かすトレーダーたちの思考回路は、それだけで非常に面白い。それを的確に分析するウェンディのアプローチが、視聴者との絶妙な懸け橋にもなっている。アックス・キャピタルの社員は、シビアな結果主義にさらされながらも、金という絆でつながった奇妙な結束力があるが、その様子はもはや一種の宗教であり、アクセルロッドはいわば教祖。スピーチでの芝居がかった話しぶりも、教祖感を加速させている。その教祖の下で大金を稼ぐプレッシャーで弱っていく者あり、教祖のためにその身を犠牲にする者あり、中には本当にうさん臭い宗教に逃げる者もいる。『Billions』はそんな金と欲に翻弄された者たちを描き出すドラマでもあり、そのえげつないまでのむき出しの欲望からは、決して目をそらせないのだ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『HOMELAND/ホームランド』 『グッド・ワイフ』 『ダメージ』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

予定調和一切なし! 子どもだましで終わらない、ファンタジー超大作『ゲーム・オブ・スローンズ』

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『ゲーム・オブ・スローンズ 第一章:七王国戦記 全話セット』(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)
 ファンタジーと聞いて思い浮かべるのは、夢あふれるディズニー・アニメ? それとも、魔法と冒険に満ちたハリー・ポッター? いや、今ならなんといっても『ゲーム・オブ・スローンズ』を推したい。かつてはファンタジーといえば、子どもかティーン向けといったアメリカテレビ界だったが、そんな状況も5年ほど前から大きく変わってきた。いまやテレビ番組のラインナップには、大人向けのファンタジー作品が当たり前に並んでいる。そのきっかけとなったのが、ファンタジー巨編『ゲーム・オブ・スローンズ』なのだ。  今年で6シーズン目に突入した本作は、ジョージ・R・R・マーティンの大河ファンタジー、『氷と炎の歌』シリーズを完全映像化した作品。架空の大陸ウェスタロスにある七王国を舞台に、熾烈な玉座争いを描いていく。かつてはそれぞれ別の王国だったものを、300年前にターガリエン家が統一して以来、ひとつの王国となった七王国。だが、物語の17年前にバラシオン家が反乱を起こし、玉座にはロバート・バラシオンが君臨することとなった。そのロバート王が家族と共に、王国最北端にあるウィンターフェルの領主、エダード(ネッド)・スタークのもとを訪ねてくるところからドラマは動き出す。 とにかく、ここですべてを説明しきれないほど、主要な登場人物が多い本作だが、押さえておきたいのは3つのポイントだ。まずは、王都を中心に展開される玉座をめぐる熾烈な駆け引き。ターガリエン家から玉座を奪ったロバート王だが、周囲には野心を秘めた者たちが蠢いている。その最たる者が、ロバート王の妻サーセイだ。西部を統治するラニスター家出身の王妃は、ロバートと結婚する前から双子の弟ジェイミーと姦通しており、3人の子どもはいずれもロバート王とは似ても似つかないラニスター家の特徴を有している。そんな彼らの血統をめぐる秘密が火種となり、ロバート王の後継者争いが勃発する。ひとたび玉座が揺らげば、その争いには名家が続々と参戦。七王国の政治の中心となる王の小評議会にも、自身の野心のために暗躍するピーター・ベイリッシュや、その本心がつかめない密告者の長ヴァリスなどのクセ者たちが顔をそろえ、争いは熾烈を極めていく。  第2のポイントは、ウィンターフェルのさらに北にある巨大な氷の壁とその向こうの凍えた土地を舞台にした、異形の怪物ホワイト・ウォーカーとの戦いだ。氷の壁では、ナイツ・ウォッチと呼ばれる者たちが、野人と呼ばれる外敵から七王国を守るために警備をしている。かつては勇猛な戦士たちがそろい、名誉職といわれていたナイツ・ウォッチも現在では減少の一途をたどり、元犯罪者が刑罰の代わりに送られるようなありさまだ。そんな中で自身の居場所を見いだそうとするのが、スターク家の私生児ジョン・スノウ。彼がナイツ・ウォッチに志願した頃、壁の向こうでは死者が蘇るという異変が起こり始めていた。それは空想の産物と思われていたホワイト・ウォーカーによるものであり、その脅威をいち早く察知した野人たちは壁を越え南へ逃げようと計画している。ホワイト・ウォーカーはシーズンを重ねるほどに少しずつ、だが着実に七王国に忍び寄り、ナイツ・ウォッチは野人との戦いからさらなる脅威であるホワイト・ウォーカーとの戦いに直面。玉座争いとはまた違った恐るべきバトルが繰り広げられる。  第3のポイントは、ウェスタロスの東にある大陸エッソスで繰り広げられるターガリエン家の玉座奪還の道だ。ロバート王の反乱戦争で一族のほとんどが命を落としたターガリエン家の数少ない生き残りであるデナーリスは、兄ヴィセーリスの玉座奪還の野望のため、ドスラクの騎馬民族の長、カール・ドロゴと政略結婚させられる。当初は無垢な少女だったデナーリスだが、ドロゴとの暮らしの中で女王としての意識に目覚め、やがて3匹のドラゴンと共に東の地を制覇し、自らが女王として海を渡り七王国の玉座を奪還するべく動き出す。このもうひとつの玉座争いのドラマが七王国の玉座争いと絡み合った時、果たして最後に玉座に座るのは誰なのか、こちらも見逃せない展開だ。  異形の者やドラゴン、そして魔法といったファンタジー要素がありながら、本作が決して子ども向けにならないのは、そこに甘さが一切ないからだ。壮大なスケールで描かれるバトル・シーンは見ていて素直に盛り上がるし、のめり込みもする。当たり前に出てくるエロス・シーンも、大人向けだ。だが、この作品が高く評価されるのは、あくまで人間ドラマとして優れた作品であるからだ。どの戦いでも、描くのは、あくまで人間のドラマ。悪は単なる悪ではなく、善もまた単なる善ではない人間の複雑さをドラマの随所で描き出し、戦国の世で生きる厳しさと非情さを、一切の躊躇もなく描き切る。だから、女子どもであろうと容赦のない運命が待ち受け、主要キャラクターが予想もしなかったところで簡単に命を落としたりもする。  その予定調和とは無縁な予測不能なドラマは、見る者を作品の世界観に強烈に引き込んでいく。たとえドラゴンが舞う世界であろうと、そこで生きていく者たちのドラマには、現在に生きる自分たちに通じるリアルな人間の本質があり、あらゆる感情を揺さぶるのだ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』 『ウルフ・ホール』 『ヴァイキング』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin