浮気された妻が大変貌! ヒラリー・クリントンをモデルにした法廷ドラマ『グッド・ワイフ』

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『グッド・ワイフ 彼女の評決 シーズン1 DVD-BOX』(パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン)
 ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプがついに直接対決した初の討論会も実施され、ますますヒートアップしている次期アメリカ大統領選挙。アメリカン・ドラマには多くの政治ドラマがあるが、ここでぜひとも押さえてほしい作品が『グッド・ワイフ』だ。もっとも、映画監督のリドリー・スコットと故トニー・スコットが製作総指揮を務める本作は、正統派の政治ドラマとは少々趣が異なり、ベースは法廷ドラマだ。  主人公となるアリシアは、ロースクールを首席で卒業し、シカゴの大手弁護士事務所に2年間勤めた後、検事である夫ピーターとの結婚を機に家庭に専念していた。良き妻、良き母として家庭を守ってきた彼女だが、夫のセックス・スキャンダルと汚職事件によって人生が急転。懲役10年の実刑となったピーターの莫大な控訴裁判費用と2人の子どもたちとの生活費を稼ぐため、学生時代の友人ウィルがパートナーとなっている弁護士事務所で、13年ぶりに社会復帰する。しかし、世間の目は厳しい。職場ではロースクールを出たばかりの新米弁護士ケイリーと、ひとつしかないジュニア・アソシエイトの座をめぐり熾烈な競争を繰り広げ、事務所の共同経営者でキャリア一筋のダイアンからは冷たくあしらわれる。夫のスキャンダルのせいでどこに行っても好奇の目にさらされる中、弁護士としての実績を上げなくてはならない。だが、そんな過酷な状況の中で、アリシアはどんどん輝きを増していく。  アリシアを演じるジュリアナ・マルグリーズは、傑作医療ドラマ『ER 緊急救命室』のキャロル役で高く評価され、海外ドラマファンにも、おなじみの実力派女優。シリーズが始まった頃はどこか自信なさげだったアリシアが、意図せぬキャリア復帰によって次第に毅然とした女性へと変化していく様を見事に体現していく。一見上品で控えめながら、その心の内にはしっかりと野心もあり、したたかさも持ち合わせた彼女の美熟女っぷりにも大いに注目だ。  人生の危機に直面し、その苦難をしなやかに乗り越えていくヒロインをはじめ、共同経営者ダイアンや、調査員のカリンダなど、多彩なキャラクターのリアルな女性像が多くの女性から支持されている本作だが、これはあくまでもドラマの魅力のひとつ。女性視点は本作の主題ではあるが、ひとたび法廷に出れば、女性も男性もない。アリシアが所属する事務所は、さまざまなスペシャリストを擁する大手事務所だけに、扱う案件もいかにクライアントに有利な結果を勝ち取るか、相手弁護士と目まぐるしく駆け引きを繰り広げる民事のみにとどまらず、刑事事件となれば、検察相手にスリリングなバトルを展開する。事務所内では熾烈なポジション争いにさらされ、さらなるキャリア・アップを目指しての独立画策、さらに事務所自体が解体の危機に直面するなど、毎シーズン息つく暇もない。  そんな生き馬の目を抜くシビアな世界で、時に自分の信念に相反する主張をしなければならないこともあるのが弁護士のツラいところ。法律そのものが理不尽な時もある。そうした不条理とどう折り合いをつけていくのか、法に携わる人間たちのそれぞれの立場での主張や信念、そして葛藤が丹念に描かれ、まさに法廷ドラマの醍醐味がぎゅっと凝縮されているのだ。 とはいえ、あまりに争いばかりでは疲れるとの配慮なのか、基本的にはシリアス路線ながら、なぜか面白キャラが集中しているのもこのドラマにおける法曹界。マイケル・J・フォックスが演じる、自身の病気をしたたかに利用し、露骨な同情戦法を得意とする食わせ者弁護士ケニングや、とっぴな行動が多く、常人には理解不能な変わり者だが、弁護士としては超一流なエルズベス(ちなみに、同じく弁護士である元夫も相当の変わり者)などは、ゲスト・キャラクターながらレギュラー・キャラクターに負けず劣らずの人気を集め、法廷では絶対的な存在である判事にも、ちょいちょいとクセ者・変わり者キャラが登場する。そんな彼らをどうあしらっていくのかも、このドラマの楽しみのひとつだ。 そして、シーズンを重ねるほどに色濃くなっていくのが、政治ドラマとしての側面だ。夫のセックス・スキャンダルを乗り越えた人物といえば、第一に名前が挙がるのがヒラリー・クリントンだが、アリシアのキャラクターは彼女を含めた実在する複数の人物がモデルとなっている。シーズンが進むにつれ、アリシアの生活は、政治の世界に巻き込まれていくが、もはや夫婦生活は破綻していながらも、アリシアは夫のキャリアのために離婚はせず、表向きは夫を支える良き妻を演じながら、友人だったウィルとの関係に揺れ動く。そんな危険なスキャンダルをはらみながら、政治の世界の舞台裏がリアルに描かれ、夫のキャリアが地方検事からどんどんスケールアップしていくに従って、一筋縄ではいかない政治ドラマが展開される。  この政治ドラマの中で肝となるのが、夫・ピーターの選挙参謀であるイーライ・ゴールド。表に立つのはピーターであり、妻アリシアであっても、その絵図を描いていくのは裏方であるイーライだ。いかに対立候補を出し抜き、ピーターとアリシアのイメージアップを図り、スキャンダルをもみ消すか。法廷ドラマだけでなく、政治の世界ならではの頭脳戦の面白さにも注目だ。時代性も積極的に取り込んでいる本作は、ファイナル・シーズンでは現在進行形のアメリカ大統領選挙の予備選がクローズアップされている。この点においても、まさに今こそ見ておきたいドラマだ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『スキャンダル』 『ハウス・オブ・カード』 『殺人を無罪にする方法』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

派手さはなくても、味がある! クセ者オヤジたちが魅せる刑事ドラマ『MAJOR CRIMES~重大犯罪課』

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『MAJOR CRIMES~重大犯罪課~<ファースト・シーズン>』
 アメリカン・ドラマにおいて、犯罪ドラマの人気は絶大。毎年、数多くの犯罪ドラマが世に送り出されるが、鉄板ジャンルだけに、あの手この手で工夫をこらしても生き残るのは至難の業。そんな熾烈な犯罪ドラマバトルの中で、派手な演出でもなく、イケメン祭りでもなく、実直なアプローチとおっちゃんたちの力で安定した人気を獲得しているのが『MAJOR CRIMES~重大犯罪課』だ。  舞台は、ロス市警にある重大犯罪課。苦しい台所事情もあり、司法取引で犯人逮捕の効率化を図ることになったロス市警の中でも、特に凶悪事件を扱う重大犯罪課には、その使命が重くのしかかってくる。その重責を担うために抜擢されたのが、シャロン・レイダー警部だ。しかし、元内務調査官だった彼女に、部下となるベテラン刑事たちは猛反発。警察内部の問題を調査する内務調査官は、同僚を疑うという立場的に、署内では嫌われ者。その上、レイダー警部は規則を重視する堅物とあって、たたき上げのベテラン刑事たちとの相性は最悪ともいえる。だが、そんなクセ者ぞろいの部下たちを巧みに操り、次第に確かな信頼関係を築いていくのが、レイダー警部の腕。その手腕は、事件解決にも大きく貢献していく。  犯罪ドラマにちょくちょく登場する司法取引。だが、それをテーマに本格的にクローズアップしている点が、このドラマのひとつの売りになっている。いかに条件のいい取引をまとめるか。それは、事件の早期解決を望む警察側にとっても、もう後がない状況で、その後の人生が左右される犯罪者側にとっても最重要命題となる。いくら事件の早期解決を望むにしても、お気楽にポンポンと取引していては警察の威信に関わるわけで、取調室ではスリリングな駆け引きが展開される。そして、そのスリリングさを派手に演出するのではなく、時に犯した罪には見合わない量刑で涙をのむしかないことがあるシビアな現実もしっかりと描き出し、被害者の関係者や捜査を担当する刑事たちの無念さ、そこからにじむ刑事としてのプライドも実直に描いていく誠実さが、このドラマの魅力になっている。  もっとも、ただひたすら実直にシビアな現実を突きつけられるだけでは、いくらいいドラマでも見続けるのはしんどくなってくるもの。そこでがぜん生きてくるのが、重大犯罪課のおっちゃんたちだ。番組のテーマである司法取引を“ひとつの売り”としたのも、この重大犯罪課のおっちゃんたちの存在感がこのドラマの最大の魅力といっても過言ではないからだ。  いかにも華々しいイケメンなどひとりもいない重大犯罪課。チームの中心人物である古参のプロペンザは、オーバー60にしてバリバリ現役の勤続40年以上になる超ベテラン。“捜査は足で稼ぐもの”というポリシーを貫く頑固者だが、ベテランならではの手の抜き方も熟知する、抜け目のなさを持ち合わせている。バリバリ現役なのは仕事のみならず、私生活では4度の離婚を経験し、40歳以上の女性とは付き合ったことがないというツワモノだ。そんな彼と、いつも楽しそうに嫌み合戦を繰り広げつつ、事件の捜査では共に足で稼ぐ派のフリン。ハイテク関係に詳しく、穏やかながら実は意外とミーハーなところがあるタオ。ギャング関係にも詳しいコワモテだが、実は繊細なところがあるサンチェス。いつも控えめながら、テクノロジーに弱いプロペンザを嬉々としてからかい、サラリと毒を吐く、撮影記録担当の技術者バズ。一癖も二癖もあるその個性豊かなキャラクターがそろい、彼らの日常的なやりとりが絶妙なおかしみを生み出し、シリアスな場面でもクスっとさせられることもしばしば。ここでも露骨にコミカルに寄るわけでもなく、刑事である彼らのチームとしての日常の中で生まれる人間ドラマを、あくまでさり気なく描く実直さが反映されている。だからこそ、彼らの人間臭いキャラクターが、ストレートに伝わってくるのだ。  それは、主人公であるレイダー警部も同様だ。クールであまり感情の起伏を見せない彼女だが、ある事件がきっかけで引き取ったホームレス少年ラスティとの関係が、彼女の人間らしい一面を大きく引き出している。ラスティとの関係が深まるほどに彼女の人間味は増し、それがチームとしてのまとまりにもつながっていく。仕事の面においても、難しい事件で巧みに司法取引をまとめる彼女は、かなりのキレ者。だが、反発する部下に対して頭ごなしに押さえつけるでもなく、キレ者らしく有無を言わせぬ存在感で圧倒するでもなく、ベテラン刑事を納得させるだけの実力を見せつつも、実にしなやかに、そしてスマートにチームをまとめ上げていく。その交渉術の巧みさは、ビジネスの現場でも大いに参考になるのではなかろうか。特筆すべきは、彼女の“声”。演じるメアリー・マクドネルは実力派女優として知られるが、その演技力以上に今作において、淡々としているが声を荒らげても決して耳障りにならない彼女の声の不思議な魅力は際立っている。  おっちゃんたちのクセのある人間力と、“司法取引”というテーマにその声の魅力が間違いなく一役買っているレイダー警部。そんな彼らが繰り広げるキャラクターワークから感じ取れるのは、心地良さだ。どんな場所でも人間関係の難しさは存在するが、対立的な関係からひとつのチームへとまとまっていく中で、いくつになっても人間として成長していく姿にはすがすがしささえ感じる。扱っているのはシビアな犯罪ばかりでありながら、見ていて心地良いと感じさせるその作品個性は、犯罪ドラマにおいて非常に稀有なものだろう。  ちなみに本作は 7シーズン続いた大人気ドラマ『クローザー』のスピンオフ。こちらは巧みなテクニックで容疑者を自白に追い込み、事件をクローズする事にスポットを当てたもの。レイダー警部も多くの重大犯罪課の面々も、『クローザー』から続投しているので、本作との違いを見比べてみるのも面白い。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『クローザー』 『ホミサイド 殺人捜査課』 『リゾーリ&アイルズ』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

イラク戦争の“英雄”は裏切り者だった? CIAとテロとの戦いを描く『HOMELAND』

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『HOMELAND/ホームランド ブルーレイBOX』(20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン)
 日本でも一大ブームを巻き起こした海外ドラマ『24-TWENTY FOUR-』。そのクリエイターであるアレックス・ガンサとハワード・ゴードンがイスラエルのドラマをアメリカ版にローカライズし、高いクオリティで賞レースを席巻したサスペンス・ドラマが『HOMELAND』だ。『24』で海外ドラマにハマった人は多いと思うが、その後、何を見たらいいのかわからないという人は、同じクリエイターの作品を見てみると、作風の共通項が理解しやすい。 『HOMELAND』はCIAの女性エージェントのテロとの戦いを、毎シーズン、スリリングに描いている。24時間の出来事を1時間=1話で描いてきた『24』は、そのフォーマットゆえの工夫やスピード感が中毒性につながっていたが、『HOMELAND』はそれと比べるとじっくりペースだ。とはいえ、あくまで比較対象が『24』だからであって、いざ見始めると、やはり先の読めない二転三転するドラマに、見れば見るほどハマってしまう仕掛けが張りめぐらされている。このあたりの巧みさは、さすが。むしろ『24』よりじっくりペースだからこそ、より骨太で人間ドラマの見応えが増しているのだ。  物語は、イラク赴任中に行方不明になり、死亡したと思われていた海兵隊員ニコラス・ブロディが、アルカイダの基地から奇跡的に救出されたところから始まる。8年ぶりに祖国の地を踏んだ英雄の帰還にアメリカ中が沸く中、ひとり疑惑の目を向けていた人物がいた。それがこのドラマのヒロイン、CIAのエージェントであるキャリー・マティソンだ。彼女はイラク赴任中に情報提供者から、米国人捕虜がアルカイダに転向したという情報を得ていたのだ。それがブロディだとキャリーは確信するも、アメリカの英雄となった彼の本性を暴くのは並大抵のことではない。キャリーは独自に捜査を開始し、真実を暴き出そうとするが、それは苦難の道だった。  追う者と追われる者の攻防を描くドラマは多々あるが、『HOMELAND』の肝は、果たして本当に裏切り者なのか、見ている側が翻弄される点にある。そうさせているのが、キャリーが患っている双極性障害だ。薬を飲んでいれば症状は抑えられるものの、彼女は頭がうまく働かなくなると言って、捜査にのめり込むほど薬を飲まなくなる。薬を拒否したキャリーの行動は常軌を逸し始め、執拗にブロディを追い続けるのは彼女の妄執なのか、それとも真実なのか、わからなくなるのだ。キャリーがエージェントとして非常に優秀な人物であるのも、この混迷に拍車をかける。一方、ブロディのほうも、かなりうさんくさい気配が漂っている。しかし、彼は8年間も捕虜としてアルカイダに捕えられていた人物だ。どれほど屈強な人物であっても、帰還後の生活には当然そのトラウマが影響していく。彼の怪しい行動はトラウマのせいなのか、それとも本当にテロリストに転向したのか、限りなく転向したように思えても、やはり見る者は翻弄される。 ストーリーそのものは、テロと戦うCIAの女性エージェントと、テロリストの疑惑をかけられた英雄の攻防というシンプルな構造でありながら、こうしたキャラクター造形によって深い奥行きを生んでいくところが、見れば見るほどハマる仕掛けのひとつであり、このドラマの巧みさだ。そして同様に、キャストの腕の見せどころでもある。キャリーを演じるクレア・デインズは、かつて映画『ロミオ+ジュリエット』のジュリエット役でアイドル的人気を集めたが、実は若い頃から演技派として高く評価されていた女優。本作でも、双極性障害を患いながら真実を執拗に追い求めるヒロインを体当たりで演じ、その迫真の表情は、いまや“顔芸”といわれるほど。  対するブロディを演じるのは、以前紹介した『Billions』(参照記事)でも主演しているダミアン・ルイス。怪しさ満点で、その真意がつかみにくいキャラクターを実にリアルに演じているが、彼は闇を体現するのが非常にうまく、自身の演じるキャラクターだけでなく、ブロディに関わる人物の闇をも引き出している。この2人の演技バトルだけでも見応え十分だが、それに加えて、キャリーの唯一の理解者であるソールや、死んだと思っていた夫の突然の帰還に戸惑う妻ジェシカやその家族をめぐるドラマの部分においても、決して手を抜いていない。シーズンが進むにつれ、米国本土はもちろん、アフガニスタンやドイツと、その舞台のスケールは広がっていくが、基本となる人間ドラマがしっかりと確立されているのも、このドラマが高く評価されているポイントだ。 正義というものの曖昧さ、ある一面では白であるものが、別の視点から見れば黒でしかない、決して単純には割り切れないテロとの戦いの難しさを一貫して描いているのが、リアルな国際情勢を反映させながら、きちんとエンタテインメントとして成立させているのも、このドラマの秀逸さ。最新のシーズン6では、現在大統領選を戦っている真っ最中のヒラリー・クリントンとドナルド・トランプをモデルとしたキャラクターも登場するとのことなので、今のうちにぜひともチェックしてほしい。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『24-TWENTY FOUR-』 『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』 『クワンティコ/FBIアカデミーの真実』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

都市伝説やオカルトがてんこ盛り! ガガも登場の斬新ドラマシリーズ『アメリカン・ホラー・ストーリー』

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日本の夏の風物詩といえば怪談話。連日酷暑が続く中、怖い話でも聞いて少しでもヒヤッとした気分を味わいたいもの。そんな夏にぴったりな海外ドラマが『アメリカン・ホラー・ストーリー』だ。  全米では今、ホラーやダーク・ファンタジーといったジャンルが大人気。『ウォーキング・デッド』を筆頭としたゾンビものから、『死霊のはらわた』や『スクリーム』など、大ヒット映画のドラマ版も続々制作されている。『アメリカン・ホラー・ストーリー』は、アメリカの都市伝説やオカルトをモチーフにしたアンソロジー・シリーズだ。  シーズン1『呪いの館』の舞台は幽霊屋敷。シリーズの中で最も正統派ホラーに近いのがこのシーズン1だ。名作ホラー映画へのリスペクトを感じさせる描写を随所に盛り込んだスタイリッシュな映像は、独特の空気感を生み出している。ある人物の目には老メイドがセクシー・メイドに見えるなど、エロティックでミステリアスな世界は一見の価値があり。ホラーの定石を打ち破る“触れる幽霊”や、謎の全身ラバースーツの男といった、トリッキーなキャラクターにも注目だ。  シーズン2『精神科病棟』の舞台はその名の通り、1964年の精神科病院。精神異常と判断された犯罪者たちを専門に収容するこの病院を舞台に繰り広げられるドラマは、次第にミュータントやエイリアンまで登場するトンデモ展開に。その想像の斜め上を行くオカルティックなストーリーには賛否もあるが、好きな人はドハマりすること、必至だ。 シーズン3『魔女団』ではセイラムの魔女裁判をモチーフに、その迫害を逃れた魔女たちが、ひそかにその力を伝承させる魔女学校を運営しているという設定。奴隷虐待の貴婦人マダム・ラローリーやブードゥー教の女王マリー・ラヴォーなど実在の人物も取り入れ、虚実入り乱れたドラマが展開される。 シーズン4『怪奇劇場』のテーマはフリークス。『精神科病棟』でも取り上げていたフリークスたちのドラマをさらにブラッシュアップさせたこのシーズンでは、1950年代に見世物小屋を舞台に、妖しく、幻想的なドラマが描かれる。 そしてシーズン5『ホテル』では、80年代を舞台に“人食いホテル”に暮らす女伯爵が夜な夜な繰り広げる妖艶な日々と惨劇を、濃密に描き出していく。 青春ミュージカル・コメディ『glee/グリー』のクリエイター、ライアン・マーフィーとブラッド・ファルチャックが生み出したこのドラマの特徴は、毎シーズン、同じ役者がまったく違うストーリーで、まったく違うキャラクターを演じるところ。海外ドラマの難しさに、人気があると何年でも続いてしまうがゆえ、長寿ドラマほど途中から見るのが大変という点がある。シーズン5、6くらいならまだしも、シーズン10、さらにはシーズン15ともなると、時間を作るだけでも一苦労、と躊躇してしまいがちだ。だが、アンソロジー・シリーズなら、1シーズンでストーリーは完結。別のシーズンが合わなければそのシーズンはパスして、また新シーズンでチェックしてみる、さらに言えば、どのシーズンから見てもいいという、フレキシブルな対応ができるのだ。 これは今の時代にも非常にマッチした形であるだけでなく、制作側にも役者を確保しやすい、毎シーズン鮮度を保つことができるというメリットもあり、『アメリカン・ホラー・ストーリー』以降、『FARGO/ファーゴ』や『TRUE DETECTIVE』など、次々とアンソロジー・シリーズが制作されている。ただ、これらの作品はキャストも毎回一新されるので、同じキャストが出演する本作は独自のポジションを築いているといえるだろう。同じシリーズの中でまったく違うキャラクターを演じるというのは、俳優の力量にも左右される。そういう意味でも『アメリカン・ホラー・ストーリー』は見応えのあるシリーズだ。オスカー女優ジェシカ・ラングを筆頭に、若手からベテランまで実力派が揃うばかりか、シーズンが進むに連れ、そのキャストはどんどん豪華になっていく。シーズン3『魔女団』にはジェシカに加え、キャシー・ベイツとアンジェラ・バセットが参加し、圧倒的な存在感を見せている。シーズン5『ホテル』では、主役にレディー・ガガを抜擢し、彼女の個性を生かしたストーリーが展開される。  タイトルこそ“ホラー・ストーリー”だが、正統派ホラーやオカルト、ミステリーとシーズンごとにテーマもジャンルも変わるので、自分のホラー耐性に合わせて見たいシーズンだけチョイスするという見方ができる本作は、1シーズン全12話というコンパクトさもあり、アメリカン・ドラマの入門編としても最適だ。だが、できることならシリーズ全話通して見ると、毎シーズン俳優たちがどんなキャラクターを演じるのか、その変貌ぶりを楽しむことができる。中には相当トリッキーな変貌を遂げている俳優もいるので、ぜひともその目でチェックしてほしい。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』 『FARGO/ファーゴ』 『TRUE DETECTIVE』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

ニッチなSFがなぜ……? 海外ドラマの金字塔『X-ファイル』がヒットしたワケ

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『The X Files -Complete Season 1-9』
 ここ数年、アメリカで大人気なのが、ヒット・シリーズのリバイバル。日本でも大ブームを巻き起こした『24-TWENTY FOUR-』のリバイバル『24:リブ・アナザー・デイ』に始まり、『HEROES:REBONE』『フラーハウス』『プリズン・ブレイク』『ツイン・ピークス』『ギルモア・ガールズ』などの人気ドラマが次々と復活、もしくはこれから復活が予定されている。そんな中でも注目を集めたのが、90年代に大ヒットしたSFミステリー『X-ファイル』の復活作となる『X-ファイル 2016』だ。  FBIで不可解な事件を専門に捜査するX-ファイル課に所属するフォックス・モルダーとダナ・スカリーを主人公に、ありとあらゆる怪事件を描き、ありとあらゆる奇人・変人が登場する『X-ファイル』。リバイバル作品はサスペンスにアクション、ミステリーにコメディとジャンルにかかわらず制作されているが、復活へのファンの熱量でいえば、恐らく『24-TWENTY FOUR-』以上の盛り上がりを見せたのではないだろうか。『X-ファイル 2016』は、旧シリーズを知らない世代にもわかりやすいように、第1話と第6話の冒頭でモルダーとスカリーによるモノローグでこれまでの経緯が語られ、全6話の中に『X-ファイル』の肝であるエイリアンと政府の陰謀をめぐるミソロジー(神話)を含む、バラエティ豊かなエピソードが詰まった作品に仕上がっている。全6話であれば、これまで『X-ファイル』を見たことのない人でも気軽にトライできる。  しかし、配慮されているとはいっても、やはり『X-ファイル 2016』を見るなら、その前に旧シリーズをぜひ見てほしい。人気キャラクターのポジショニングや、随所にちりばめられた目配せなどを楽しめるのは、旧シリーズを知っているからこそであり、伝説的な海外ドラマといわれる『X-ファイル』の神髄を楽しめる。  今も昔も、映画界では大作映画のメインストリームとなるSFだが、『X-ファイル』がスタートした90年代のテレビ界におけるSFの立ち位置は、ニッチでカルトな弱小ジャンルにすぎなかった。当時のテレビシリーズというのはあくまでドメスティックなものであり、現在のように世界配給が当たり前で映画並みの予算を組めるわけでもなく、莫大な予算がかかる割にマイナーなSFをドラマにするのはリスクが高かった。そんな状況の中、『X-ファイル』は異星人やUFOなど、ある種B級テイストなテーマを、アメリカ人が大好きな“FBI捜査官の犯罪ドラマ”に落とし込むことで裾野を広げ、カルトなジャンルを一躍メジャーシーンに押し上げた。クリエイターのクリス・カーターはこの作品で名を上げ、主演のデヴィッド・ドゥカブニーとジリアン・アンダーソンも一躍スターダムに躍り出た。しかし、主演もクリエイターも無名だった作品が、これほどのヒット作になるとは、誰も予想していなかっただろう。 『X-ファイル』の成功には、当時の放送局の事情も大きく影響している。まだケーブル局のオリジナル・シリーズも、動画配信サービスもない90年代初期のテレビ界でドラマといえばネットワークが制作するもの。『X-ファイル』の放送局FOXは当時3大ネットワークを追う立場にあり、だからこそ、他局ではリスクが高くて手を出さないSF作品にもチャレンジできた。こうした背景もあるせいか、『X-ファイル』では実験的要素も多い。異星人による誘拐とそれをめぐる政府の陰謀というミソロジーが『X-ファイル』の根幹をなす最大のミステリーだが、基本は1話完結で怪事件を追っていくだけに、毎回取り上げるエピソードはかなりバラエティ豊か。正統派ミステリーもあれば、オカルトあり、ホラーあり、かと思えばキッチュなコメディやスイートでメロウなエピソードもあり、シーズンを重ねるほどに壮大さが増していくミソロジーと相まって、まったく飽きることがない。  異形すぎる怪物たちも、かなりのインパクトだ。実際20年以上前にスタートした作品でありながら、いま見直しても、その面白さはまったく色あせていない。当時のファッションやガジェットの違いという点での古さはどうしようもないが、むしろその世界観は、今の時代にこそフィットしているといえる。これはまさに実験的作品だった『X-ファイル』が、いまやテレビシリーズのある種のスタンダードになっているという証しだ。 ジャンル・ミックスの先駆け的存在となった『X-ファイル』は、現在に至るまでそのフォロワーといえるドラマが連綿と制作され、モルダーとスカリーは男女コンビもののひな形となり、いまだアメリカのドラマに絶大な影響を与えている。しかし、その絶妙な緩急の付け方、時代を先取りしたような鋭さ、そして個性の強い名物キャラクターは、『X-ファイル』のワン・アンド・オンリーなもの。あり得ない! と言いたくなるようなツッコミどころや、良くも悪くも風呂敷を広げすぎなところまで、すべてをひっくるめて愛さずにはいられないのだ。 ちなみに、今年のアメリカ大統領選で民主党の大統領候補となっているヒラリー・クリントンは、大統領になったあかつきには「X-ファイル」をオープンにするという公約をしている。大統領候補が選挙公約に掲げるほど、現実世界に影響を及ぼしているところも、『X-ファイル』が伝説のドラマといわれるゆえんだろう。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『X-ファイル 2016』 『FRINGE/フリンジ』 『SURPERNATURAL/スーパーナチュラル』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

ニッチなSFがなぜ……? 海外ドラマの金字塔『X-ファイル』がヒットしたワケ

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『The X Files -Complete Season 1-9』
 ここ数年、アメリカで大人気なのが、ヒット・シリーズのリバイバル。日本でも大ブームを巻き起こした『24-TWENTY FOUR-』のリバイバル『24:リブ・アナザー・デイ』に始まり、『HEROES:REBONE』『フラーハウス』『プリズン・ブレイク』『ツイン・ピークス』『ギルモア・ガールズ』などの人気ドラマが次々と復活、もしくはこれから復活が予定されている。そんな中でも注目を集めたのが、90年代に大ヒットしたSFミステリー『X-ファイル』の復活作となる『X-ファイル 2016』だ。  FBIで不可解な事件を専門に捜査するX-ファイル課に所属するフォックス・モルダーとダナ・スカリーを主人公に、ありとあらゆる怪事件を描き、ありとあらゆる奇人・変人が登場する『X-ファイル』。リバイバル作品はサスペンスにアクション、ミステリーにコメディとジャンルにかかわらず制作されているが、復活へのファンの熱量でいえば、恐らく『24-TWENTY FOUR-』以上の盛り上がりを見せたのではないだろうか。『X-ファイル 2016』は、旧シリーズを知らない世代にもわかりやすいように、第1話と第6話の冒頭でモルダーとスカリーによるモノローグでこれまでの経緯が語られ、全6話の中に『X-ファイル』の肝であるエイリアンと政府の陰謀をめぐるミソロジー(神話)を含む、バラエティ豊かなエピソードが詰まった作品に仕上がっている。全6話であれば、これまで『X-ファイル』を見たことのない人でも気軽にトライできる。  しかし、配慮されているとはいっても、やはり『X-ファイル 2016』を見るなら、その前に旧シリーズをぜひ見てほしい。人気キャラクターのポジショニングや、随所にちりばめられた目配せなどを楽しめるのは、旧シリーズを知っているからこそであり、伝説的な海外ドラマといわれる『X-ファイル』の神髄を楽しめる。  今も昔も、映画界では大作映画のメインストリームとなるSFだが、『X-ファイル』がスタートした90年代のテレビ界におけるSFの立ち位置は、ニッチでカルトな弱小ジャンルにすぎなかった。当時のテレビシリーズというのはあくまでドメスティックなものであり、現在のように世界配給が当たり前で映画並みの予算を組めるわけでもなく、莫大な予算がかかる割にマイナーなSFをドラマにするのはリスクが高かった。そんな状況の中、『X-ファイル』は異星人やUFOなど、ある種B級テイストなテーマを、アメリカ人が大好きな“FBI捜査官の犯罪ドラマ”に落とし込むことで裾野を広げ、カルトなジャンルを一躍メジャーシーンに押し上げた。クリエイターのクリス・カーターはこの作品で名を上げ、主演のデヴィッド・ドゥカブニーとジリアン・アンダーソンも一躍スターダムに躍り出た。しかし、主演もクリエイターも無名だった作品が、これほどのヒット作になるとは、誰も予想していなかっただろう。 『X-ファイル』の成功には、当時の放送局の事情も大きく影響している。まだケーブル局のオリジナル・シリーズも、動画配信サービスもない90年代初期のテレビ界でドラマといえばネットワークが制作するもの。『X-ファイル』の放送局FOXは当時3大ネットワークを追う立場にあり、だからこそ、他局ではリスクが高くて手を出さないSF作品にもチャレンジできた。こうした背景もあるせいか、『X-ファイル』では実験的要素も多い。異星人による誘拐とそれをめぐる政府の陰謀というミソロジーが『X-ファイル』の根幹をなす最大のミステリーだが、基本は1話完結で怪事件を追っていくだけに、毎回取り上げるエピソードはかなりバラエティ豊か。正統派ミステリーもあれば、オカルトあり、ホラーあり、かと思えばキッチュなコメディやスイートでメロウなエピソードもあり、シーズンを重ねるほどに壮大さが増していくミソロジーと相まって、まったく飽きることがない。  異形すぎる怪物たちも、かなりのインパクトだ。実際20年以上前にスタートした作品でありながら、いま見直しても、その面白さはまったく色あせていない。当時のファッションやガジェットの違いという点での古さはどうしようもないが、むしろその世界観は、今の時代にこそフィットしているといえる。これはまさに実験的作品だった『X-ファイル』が、いまやテレビシリーズのある種のスタンダードになっているという証しだ。 ジャンル・ミックスの先駆け的存在となった『X-ファイル』は、現在に至るまでそのフォロワーといえるドラマが連綿と制作され、モルダーとスカリーは男女コンビもののひな形となり、いまだアメリカのドラマに絶大な影響を与えている。しかし、その絶妙な緩急の付け方、時代を先取りしたような鋭さ、そして個性の強い名物キャラクターは、『X-ファイル』のワン・アンド・オンリーなもの。あり得ない! と言いたくなるようなツッコミどころや、良くも悪くも風呂敷を広げすぎなところまで、すべてをひっくるめて愛さずにはいられないのだ。 ちなみに、今年のアメリカ大統領選で民主党の大統領候補となっているヒラリー・クリントンは、大統領になったあかつきには「X-ファイル」をオープンにするという公約をしている。大統領候補が選挙公約に掲げるほど、現実世界に影響を及ぼしているところも、『X-ファイル』が伝説のドラマといわれるゆえんだろう。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『X-ファイル 2016』 『FRINGE/フリンジ』 『SURPERNATURAL/スーパーナチュラル』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

えげつないまでに欲望むき出し! テレビ界初のウォール街ドラマ『Billions』

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Netflixより
 エンタテインメント大国のアメリカは、どんな職業も見事にエンタメ化してしまうお国柄。以前紹介した『ハウス・オブ・カード』しかり、その昔『CSI:科学捜査班』が大ヒットした頃は、それまで地味な職業扱いだった鑑識志望者が急増するなど、現実世界への影響力も大きい。そんなアメリカのテレビ界で、意外にもこれまであまり描かれてこなかったのが金融業界だ。しかし、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の大ヒットによって、いまや金融ドラマの企画が急増している。中でも大注目なのが、“テレビ界初のウォール街ドラマ”と評される『Billions』だ。  主人公の一人、ニューヨーク州検事局の検事チャック・ローズは金融事件裁判で81件無敗を誇る人物。そんな彼の元に証券取引委員会のスピロスから、ヘッジファンドの大物ボビー・アクセルロッドの不正に関する情報がもたらされる。しかし相手は全盛期のマイク・タイソン級の大物であり、ニューヨークでは庶民の味方と思われている大富豪だけに、生半可な証拠では体よく逃げられるだけ。起訴するに足る完璧な証拠を手に入れるため、ローズは一計を案じる。一方アクセルロッドのほうも、ウォール街でのし上がってきたしたたか者だけに大胆不敵な人物。ローズの策略に気づきながら、あえてその思惑に乗り、彼を挑発する。 こうしてエリート検事と金融界の大物による熾烈なバトルの幕が開くわけだが、この2人の主人公がどちらも一筋縄ではいかないクセ者であり、それがドラマの重要な魅力になっている。アイビーリーグ出身のエリートぞろいの金融業界で、ホフストラ大学出身というアクセルロッドは、まさにたたき上げの人物。まるでシャーロック・ホームズか!? と思わんばかりのキレッキレの洞察力は、部下からも一目置かれている。9.11をきっかけにその勢力を伸ばした彼だが、犠牲になった遺族の子どもに奨学金を設けたり、消防組合に莫大な寄付をしたりするため、ニューヨークではヒーロー的存在だ。しかしこうした善行の裏には彼なりの思惑があり、冷徹な素顔をのぞかせる。  一方のローズは、まさにエリート中のエリート。父親が金融界にも顔が利く有力者だが、その父とは確執があり、金融犯罪には決して容赦しない。チェスのように先の先まで読んで執拗に標的を追い込み、その実績から末はニューヨーク市長か州知事かといわれる彼は、一見非の打ちどころのないエリートだが、実はドMで、ストレスがたまるとSMクラブに駆け込みたくなる衝動と戦うという、なんとも微妙な裏の顔を持っている。  追う側と追われる側に明確に立場が分かれる2人だが、単純に善と悪で割り切れるものではないのがこのドラマの妙。熾烈な頭脳バトルの中で、互いにスパイを送り込み、相手の弱みを探し出し、他人を巧みに利用し、時に巻き込んだ人物を破滅に追いやるその手腕は、どちらも決してクリーンとはいえないのだ。そんな2人の関係をより複雑にするのがローズの妻ウェンディだ。彼女はローズが検事になる前からアクセルロッドの会社、アックス・キャピタルで働く精神科医で、社員のメンタルケアを担う彼女は会社の秘密を握っている。ローズにしてみれば彼女の存在は捜査に支障を来すものであり、アクセルロッドにしてみればいつ裏切ってもおかしくない存在。彼女が間にいることで、2人の戦いはよりスリリングで、微妙なバランスの下で繰り広げられることになる。  その見応えのある人間模様をよりパワフルなものにしているのが、主演2人の白熱の演技バトルだ。アクセルロッドを演じるダミアン・ルイスはドラマ『HOMELAND/ホームランド』でテロリストに寝返った元海兵隊員ブロディ役が絶賛された、英国出身の演技派俳優。そしてローズを演じるポール・ジアマッティは映画『サイドウェイ』や『シンデレラマン』などで高く評価されている、名バイ・プレイヤー。どんな役も多彩にこなす実力派の2人が演じるクセ者キャラクターの生々しい人間臭さに、第1話から急速に引き込まれていくこと必至だ。  もうひとつ興味深いのが、金融業界の舞台裏。庶民には想像がつかないような大金を動かすトレーダーたちの思考回路は、それだけで非常に面白い。それを的確に分析するウェンディのアプローチが、視聴者との絶妙な懸け橋にもなっている。アックス・キャピタルの社員は、シビアな結果主義にさらされながらも、金という絆でつながった奇妙な結束力があるが、その様子はもはや一種の宗教であり、アクセルロッドはいわば教祖。スピーチでの芝居がかった話しぶりも、教祖感を加速させている。その教祖の下で大金を稼ぐプレッシャーで弱っていく者あり、教祖のためにその身を犠牲にする者あり、中には本当にうさん臭い宗教に逃げる者もいる。『Billions』はそんな金と欲に翻弄された者たちを描き出すドラマでもあり、そのえげつないまでのむき出しの欲望からは、決して目をそらせないのだ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『HOMELAND/ホームランド』 『グッド・ワイフ』 『ダメージ』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

予定調和一切なし! 子どもだましで終わらない、ファンタジー超大作『ゲーム・オブ・スローンズ』

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『ゲーム・オブ・スローンズ 第一章:七王国戦記 全話セット』(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)
 ファンタジーと聞いて思い浮かべるのは、夢あふれるディズニー・アニメ? それとも、魔法と冒険に満ちたハリー・ポッター? いや、今ならなんといっても『ゲーム・オブ・スローンズ』を推したい。かつてはファンタジーといえば、子どもかティーン向けといったアメリカテレビ界だったが、そんな状況も5年ほど前から大きく変わってきた。いまやテレビ番組のラインナップには、大人向けのファンタジー作品が当たり前に並んでいる。そのきっかけとなったのが、ファンタジー巨編『ゲーム・オブ・スローンズ』なのだ。  今年で6シーズン目に突入した本作は、ジョージ・R・R・マーティンの大河ファンタジー、『氷と炎の歌』シリーズを完全映像化した作品。架空の大陸ウェスタロスにある七王国を舞台に、熾烈な玉座争いを描いていく。かつてはそれぞれ別の王国だったものを、300年前にターガリエン家が統一して以来、ひとつの王国となった七王国。だが、物語の17年前にバラシオン家が反乱を起こし、玉座にはロバート・バラシオンが君臨することとなった。そのロバート王が家族と共に、王国最北端にあるウィンターフェルの領主、エダード(ネッド)・スタークのもとを訪ねてくるところからドラマは動き出す。 とにかく、ここですべてを説明しきれないほど、主要な登場人物が多い本作だが、押さえておきたいのは3つのポイントだ。まずは、王都を中心に展開される玉座をめぐる熾烈な駆け引き。ターガリエン家から玉座を奪ったロバート王だが、周囲には野心を秘めた者たちが蠢いている。その最たる者が、ロバート王の妻サーセイだ。西部を統治するラニスター家出身の王妃は、ロバートと結婚する前から双子の弟ジェイミーと姦通しており、3人の子どもはいずれもロバート王とは似ても似つかないラニスター家の特徴を有している。そんな彼らの血統をめぐる秘密が火種となり、ロバート王の後継者争いが勃発する。ひとたび玉座が揺らげば、その争いには名家が続々と参戦。七王国の政治の中心となる王の小評議会にも、自身の野心のために暗躍するピーター・ベイリッシュや、その本心がつかめない密告者の長ヴァリスなどのクセ者たちが顔をそろえ、争いは熾烈を極めていく。  第2のポイントは、ウィンターフェルのさらに北にある巨大な氷の壁とその向こうの凍えた土地を舞台にした、異形の怪物ホワイト・ウォーカーとの戦いだ。氷の壁では、ナイツ・ウォッチと呼ばれる者たちが、野人と呼ばれる外敵から七王国を守るために警備をしている。かつては勇猛な戦士たちがそろい、名誉職といわれていたナイツ・ウォッチも現在では減少の一途をたどり、元犯罪者が刑罰の代わりに送られるようなありさまだ。そんな中で自身の居場所を見いだそうとするのが、スターク家の私生児ジョン・スノウ。彼がナイツ・ウォッチに志願した頃、壁の向こうでは死者が蘇るという異変が起こり始めていた。それは空想の産物と思われていたホワイト・ウォーカーによるものであり、その脅威をいち早く察知した野人たちは壁を越え南へ逃げようと計画している。ホワイト・ウォーカーはシーズンを重ねるほどに少しずつ、だが着実に七王国に忍び寄り、ナイツ・ウォッチは野人との戦いからさらなる脅威であるホワイト・ウォーカーとの戦いに直面。玉座争いとはまた違った恐るべきバトルが繰り広げられる。  第3のポイントは、ウェスタロスの東にある大陸エッソスで繰り広げられるターガリエン家の玉座奪還の道だ。ロバート王の反乱戦争で一族のほとんどが命を落としたターガリエン家の数少ない生き残りであるデナーリスは、兄ヴィセーリスの玉座奪還の野望のため、ドスラクの騎馬民族の長、カール・ドロゴと政略結婚させられる。当初は無垢な少女だったデナーリスだが、ドロゴとの暮らしの中で女王としての意識に目覚め、やがて3匹のドラゴンと共に東の地を制覇し、自らが女王として海を渡り七王国の玉座を奪還するべく動き出す。このもうひとつの玉座争いのドラマが七王国の玉座争いと絡み合った時、果たして最後に玉座に座るのは誰なのか、こちらも見逃せない展開だ。  異形の者やドラゴン、そして魔法といったファンタジー要素がありながら、本作が決して子ども向けにならないのは、そこに甘さが一切ないからだ。壮大なスケールで描かれるバトル・シーンは見ていて素直に盛り上がるし、のめり込みもする。当たり前に出てくるエロス・シーンも、大人向けだ。だが、この作品が高く評価されるのは、あくまで人間ドラマとして優れた作品であるからだ。どの戦いでも、描くのは、あくまで人間のドラマ。悪は単なる悪ではなく、善もまた単なる善ではない人間の複雑さをドラマの随所で描き出し、戦国の世で生きる厳しさと非情さを、一切の躊躇もなく描き切る。だから、女子どもであろうと容赦のない運命が待ち受け、主要キャラクターが予想もしなかったところで簡単に命を落としたりもする。  その予定調和とは無縁な予測不能なドラマは、見る者を作品の世界観に強烈に引き込んでいく。たとえドラゴンが舞う世界であろうと、そこで生きていく者たちのドラマには、現在に生きる自分たちに通じるリアルな人間の本質があり、あらゆる感情を揺さぶるのだ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』 『ウルフ・ホール』 『ヴァイキング』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

過熱するアメリカ大統領選より目が離せない、野望の嵐!『ハウス・オブ・カード』

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『ハウス・オブ・カード 野望の階段 SEASON1 ブルーレイ コンプリートパック』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
 2大政党の大統領候補も決まり、いよいよ盛り上がりを増していくアメリカ大統領選挙。共和党はまさかのドナルド・トランプが、そして民主党は元ファースト・レディにして全米初の女性大統領候補となったヒラリー・クリントンが指名を獲得し、これから熾烈な大統領選を戦うことになる。知名度でいえば、どちらもメジャー級。しかし、不人気ぶりでも似たり寄ったりなこの2人。良くも悪くも話題性は十分な今年の大統領選挙だが、そんな中、「次期アメリカ大統領にふさわしい資質を持った人物は?」というアンケートで2位にランクインしたのがフランシス(フランク)・アンダーウッドだ。 もっとも、彼は実在する政治家ではない。アメリカの政界を舞台にしたドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の主人公だ。しかし、主人公といっても彼はこれまでアメリカの映画やドラマで描かれてきたような、正義感あふれるザ・アメリカン・ヒーロー的な理想を体現する人物ではない。裏切り者への復讐心をたぎらせ、己の野心のために利用できる者は利用し、不都合があれば容赦なく切り捨てる冷酷非道な政治家だ。  およそ理想の大統領とは対極にあるように思える架空のキャラクターの彼が「次期大統領にふさわしい人物」に挙げられてしまうアメリカ社会は大丈夫なのか思わず心配してしまうところだが、それほどアメリカの政治の世界をリアルに描いていると評判なのが本作だ。『ソーシャル・ネットワーク』のデヴィッド・フィンチャー監督が製作総指揮を手掛け、『ユージュアル・サスペクツ』のケヴィン・スペイシーが主演、さらにロビン・ライトやケイト・マーラら実力派俳優が顔をそろえる本作は映画ファンなら必見のドラマ・シリーズだが、映画に興味がない人も、大統領選で盛り上がる今こそ見ておいて損はない。  ドラマの始まりは2013年。ベテラン下院議員であるフランクは、大統領候補ウォーカーを支持する代わりに、当選したら国務長官の座を約束されていた。しかし、当選したウォーカーは彼を裏切り、別の人物を国務長官に任命。約束をほごにされたフランクは、その屈辱を胸に刻み、復讐に乗り出していく。ワシントン・ヘラルド社の若手記者ゾーイ・バーンズの野心につけ込み、自分に都合のよいスクープを提供し、着実に国務長官を追い詰めていくフランク。だが、彼の野望はとどまることを知らない。国務長官を追い落とす頃には、すでに新たな野望が芽生えていた。アルコールの問題を抱える下院議員ピーター・ルッソに恩を売り、自身の手駒として利用し始めた彼は、静かに、そして着実に敵を追い詰め、ひとつ、またひとつと野望の階段を上っていく。  オバマ大統領も安倍首相もスピーチで話題にするほど、多くの政治関係者がチェックしている『ハウス・オブ・カード』。クリントン元大統領などは「このドラマで描かれていることは、すべてリアル」と大絶賛していたが、野心を実現するためなら、他者を利用することなど屁とも思わず、また自ら手を汚すのも厭わないフランクが歩む道は、シーズンを重ねるほどに死屍累々の様相を呈していく。これがリアルならマジでヤバいと思えるほどだが、きっちりエンタテインメントでありながら、「もしかしたら……」と思わせてしまうのが、このドラマのスゴいところ。フランクの非道さはまさにヴィラン(悪役)としか言いようのないえげつなさだが、その一方で彼が有能な人物であることも、紛れもない事実。少なくとも、野望のためにまい進する彼の行動にはブレがない。フランクがたとえどれほど冷酷非道でも、その有能さと野心に対する行動力はまっすぐで、いやが上にも引き込まれてしまう。フランクは時折視聴者に語りかけ、本音を見せていくが、そのおかげで見る者にとって彼は裏がない人物となる。政治家の二枚舌にうんざりしている国民には、裏表がない彼は、ある意味で理想的な政治家なのだ。  もう一人、強烈な存在感を放つのが、フランクの妻のクレアだ。NPO法人の代表を務める彼女も、フランクに負けず劣らずの野心を持ったキャリア志向の人物。そんな彼女だからこそ、ただおとなしく夫についていくはずもなく、自身のキャリアのために夫の立場を利用するくらいのことは余裕でかますしたたかさを持ち合わせている。フランクが政敵とのバトルで形勢不利になってヘコんでも、生半可な励ましなどせず、より一層フランクの野心に火をつけるように燃料を投下していく。もちろん彼女自身の野心も、シーズンが進むにつれどんどん肥大化し、フランクと共に野望の道を驀進していく。  そう、このドラマは政治ドラマであると同時に、フランクとクレアの夫婦愛を描いたドラマでもある。とはいえ、その夫婦愛は、お涙ちょうだいの感動巨編で描かれるようなものとは完全に一線を画している。2人は野望の道を共に歩む戦友であり、共犯者だ。野心にくるまれたその強烈なパートナーシップは完璧な夫婦でありながら、理想の夫婦とは程遠い。完璧と理想の違いをまざまざと体現する2人の関係は、だからこそ人間くさく、それがまたドラマの魅力へと通じている。 ★このドラマにハマった人におすすめ! ・『ザ・ホワイトハウス』 ・『スキャンダル』 ・『タイラント 独裁国家』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

過熱するアメリカ大統領選より目が離せない、野望の嵐!『ハウス・オブ・カード』

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『ハウス・オブ・カード 野望の階段 SEASON1 ブルーレイ コンプリートパック』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
 2大政党の大統領候補も決まり、いよいよ盛り上がりを増していくアメリカ大統領選挙。共和党はまさかのドナルド・トランプが、そして民主党は元ファースト・レディにして全米初の女性大統領候補となったヒラリー・クリントンが指名を獲得し、これから熾烈な大統領選を戦うことになる。知名度でいえば、どちらもメジャー級。しかし、不人気ぶりでも似たり寄ったりなこの2人。良くも悪くも話題性は十分な今年の大統領選挙だが、そんな中、「次期アメリカ大統領にふさわしい資質を持った人物は?」というアンケートで2位にランクインしたのがフランシス(フランク)・アンダーウッドだ。 もっとも、彼は実在する政治家ではない。アメリカの政界を舞台にしたドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の主人公だ。しかし、主人公といっても彼はこれまでアメリカの映画やドラマで描かれてきたような、正義感あふれるザ・アメリカン・ヒーロー的な理想を体現する人物ではない。裏切り者への復讐心をたぎらせ、己の野心のために利用できる者は利用し、不都合があれば容赦なく切り捨てる冷酷非道な政治家だ。  およそ理想の大統領とは対極にあるように思える架空のキャラクターの彼が「次期大統領にふさわしい人物」に挙げられてしまうアメリカ社会は大丈夫なのか思わず心配してしまうところだが、それほどアメリカの政治の世界をリアルに描いていると評判なのが本作だ。『ソーシャル・ネットワーク』のデヴィッド・フィンチャー監督が製作総指揮を手掛け、『ユージュアル・サスペクツ』のケヴィン・スペイシーが主演、さらにロビン・ライトやケイト・マーラら実力派俳優が顔をそろえる本作は映画ファンなら必見のドラマ・シリーズだが、映画に興味がない人も、大統領選で盛り上がる今こそ見ておいて損はない。  ドラマの始まりは2013年。ベテラン下院議員であるフランクは、大統領候補ウォーカーを支持する代わりに、当選したら国務長官の座を約束されていた。しかし、当選したウォーカーは彼を裏切り、別の人物を国務長官に任命。約束をほごにされたフランクは、その屈辱を胸に刻み、復讐に乗り出していく。ワシントン・ヘラルド社の若手記者ゾーイ・バーンズの野心につけ込み、自分に都合のよいスクープを提供し、着実に国務長官を追い詰めていくフランク。だが、彼の野望はとどまることを知らない。国務長官を追い落とす頃には、すでに新たな野望が芽生えていた。アルコールの問題を抱える下院議員ピーター・ルッソに恩を売り、自身の手駒として利用し始めた彼は、静かに、そして着実に敵を追い詰め、ひとつ、またひとつと野望の階段を上っていく。  オバマ大統領も安倍首相もスピーチで話題にするほど、多くの政治関係者がチェックしている『ハウス・オブ・カード』。クリントン元大統領などは「このドラマで描かれていることは、すべてリアル」と大絶賛していたが、野心を実現するためなら、他者を利用することなど屁とも思わず、また自ら手を汚すのも厭わないフランクが歩む道は、シーズンを重ねるほどに死屍累々の様相を呈していく。これがリアルならマジでヤバいと思えるほどだが、きっちりエンタテインメントでありながら、「もしかしたら……」と思わせてしまうのが、このドラマのスゴいところ。フランクの非道さはまさにヴィラン(悪役)としか言いようのないえげつなさだが、その一方で彼が有能な人物であることも、紛れもない事実。少なくとも、野望のためにまい進する彼の行動にはブレがない。フランクがたとえどれほど冷酷非道でも、その有能さと野心に対する行動力はまっすぐで、いやが上にも引き込まれてしまう。フランクは時折視聴者に語りかけ、本音を見せていくが、そのおかげで見る者にとって彼は裏がない人物となる。政治家の二枚舌にうんざりしている国民には、裏表がない彼は、ある意味で理想的な政治家なのだ。  もう一人、強烈な存在感を放つのが、フランクの妻のクレアだ。NPO法人の代表を務める彼女も、フランクに負けず劣らずの野心を持ったキャリア志向の人物。そんな彼女だからこそ、ただおとなしく夫についていくはずもなく、自身のキャリアのために夫の立場を利用するくらいのことは余裕でかますしたたかさを持ち合わせている。フランクが政敵とのバトルで形勢不利になってヘコんでも、生半可な励ましなどせず、より一層フランクの野心に火をつけるように燃料を投下していく。もちろん彼女自身の野心も、シーズンが進むにつれどんどん肥大化し、フランクと共に野望の道を驀進していく。  そう、このドラマは政治ドラマであると同時に、フランクとクレアの夫婦愛を描いたドラマでもある。とはいえ、その夫婦愛は、お涙ちょうだいの感動巨編で描かれるようなものとは完全に一線を画している。2人は野望の道を共に歩む戦友であり、共犯者だ。野心にくるまれたその強烈なパートナーシップは完璧な夫婦でありながら、理想の夫婦とは程遠い。完璧と理想の違いをまざまざと体現する2人の関係は、だからこそ人間くさく、それがまたドラマの魅力へと通じている。 ★このドラマにハマった人におすすめ! ・『ザ・ホワイトハウス』 ・『スキャンダル』 ・『タイラント 独裁国家』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin