ジャック・バウアーなしで大丈夫!? 人気海外ドラマのスピンオフ3選

 配信サービスの台頭もあり、ドラマシリーズの制作が急増しているアメリカ。クオリティも大幅にアップし、日本にもどんどん新作が上陸する。しかし、これだけドラマが増えると、何から見ていいのかわからなくなるのも正直なところ。そんな時のとっかかりとしてオススメなのが、人気シリーズの兄弟番組や復活版といった、なじみのあるシリーズの新作だ。中には本国放送とほぼ同時に見られるものもある、最新アメリカン・ドラマを3本ご紹介!
YouTube「FOX NETWORKS」より
●『24:レガシー』  日本で一番有名なテレビシリーズといっても過言ではない『24 -TWENTY FOUR-』。日本中を睡眠不足にした本作の5年ぶりの復活となった『24 -TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ』がきっかけとなり、全米ではリバイバル・ブームが巻き起こった。その復活版第2弾となるのが、この『24:レガシー』だ。今度の『24』は作品の代名詞でもあるキーファー・サザーランド演じるジャック・バウアーは登場しないという、かなりチャレンジングな1作。  ジャックのイメージが強烈すぎるため、ジャックなしの『24』で大丈夫なのか!? と思ってしまうが、実は『24』のフォーマットというのは、非常にスピンオフ向きだったりする。本作が成功すれば、“テロとの戦い”というテーマを軸に、今はやりのアンサンブル方式で新たな『24』を制作することも可能になる。  その試金石ともいえる本作で、ジャックに代わってテロと戦う主人公エリック・カーターを演じるのはコーリー・ホーキンズ。映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』で注目を集め、人気シリーズ『ウォーキング・デッド』にも出演していた期待の新星だ。彼が演じるエリックは、米軍のエリート部隊出身。半年前にイエメンでテロリストの首謀者を殺害したことがきっかけとなり、何者かから命を狙われる。そこからは、もう怒涛の『24』節が炸裂だ。目まぐるしく変わる危機的状況、息つく暇もないスピード感は、本家に負けず劣らず。もちろんスプリット・スクリーンや、あのカウントダウンも健在だ。『24』の人気キャラ、トニー・アルメイダの登場や、CTUとの関わりなど、『24』の世界ともしっかりとリンクしているので、『24』にハマった人なら、やはりこれは見逃せない。なんと本国放送から11時間後に日本で放送されるという最速上陸というのも肝。週1放送なら、睡眠不足の心配もない。
YouTube「FOX NETWORKS」より
●『レギオン』  現在のアメリカのエンタメ界では、映画とドラマの垣根を越えたアメコミ作品のユニバース化がどんどん加速している。それに伴い、アメコミ作品のドラマ化も相次いでいるが、そんな中、ついに登場したのが人気シリーズ『X-MEN』のドラマ版『レギオン』だ。特殊能力を持ったミュータントたちの活躍を描いた『X-MEN』は日本でも人気のシリーズだが、その原作コミックの世界観をベースに、新たな『X-MEN』物語が幕を開ける。  主人公は、X-MENたちを率いたプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビア教授の息子デヴィッド・ハラー。幼い頃から幻覚や幻聴に悩まされ、統合失調症の疑いで精神科病院に入院していた彼だが、その原因が、実は彼の中にある強大な力によるものだったことが明らかになっていく。地上最強のテレパスといわれる父の血を受け継いだ彼の能力“レギオン”とは、果たしてどんな力なのか? その謎をめぐるサスペンスを緻密に描き出していくのは、ドラマ『FARGO/ファーゴ』が高く評価されているノア・ホーリー。主人公デヴィッドを演じるのは、やはり人気シリーズ『ダウントン・アビー』のマシュー役で注目を集めたダン・スティーヴンス。そして映画版で第1作から最新シリーズまで手掛けている映画監督のブライアン・シンガーら強力なクリエイター陣が集結と、この布陣だけでもかなり期待値の高い作品だが、映画版と世界観を共有しながらもよりダークでミステリアスになったストーリーと、その映像表現にも注目。こちらも全米とほぼ同時放送という気合の入った1作だ。
YouTube「V Promo 360」より
●『クリミナル・マインド 国際捜査班』  アメリカでは、人気があれば数年どころか10年以上シリーズが続いていくが、そういった長寿シリーズはスピンオフが多いのも特徴だ。『CSI』(すでに全シリーズ終了)、『NCIS』、『シカゴ・ファイア』など、人気シリーズはいくつものスピンオフを生み出し、いわばドラマ版のユニバースを形成している。そんな長寿番組のひとつ『クリミナル・マインド』のスピンオフ第2弾となるのが『クリミナル・マインド 国際捜査班』だ。  上の2作ほどの最速上陸とはいかないが、こちらも昨年スタートしたばかりの最新作。本家はBAUというFBIの行動分析課のプロファイラー集団がシリアル・キラーを心理分析で追い詰めていく姿を描き、10年を超える人気シリーズとなった犯罪ドラマだが、『クリミナル・マインド 国際捜査班』でピックアップされるのは、海外で凶悪犯罪に巻き込まれたアメリカ人を救出するFBIの精鋭チームIRT(国際犯罪特別捜査班)だ。国境を越えた犯罪捜査は本家以上のスケール感。タイやインド、そして日本も舞台のひとつとして登場する。  その精鋭チームを率いるリーダー、ジャック・ギャレットを演じるのは『CSI:NY』でもおなじみの実力派俳優ゲーリー・シニーズ。脇を固めるのも『LAW & ORDER』(こちらもスピンオフが山盛り)のアラナ・デ・ラ・ガーザら実力派をそろえ、強固なチームワークを見せる。先ほど長寿シリーズはスピンオフが多いと書いたが、多くのシリーズは本家シリーズの人気が後押しとなりスピンオフも割と長寿化しやすいのだが、実は『クリミナル・マインド』だけは、なぜかそのスピンオフが短命に終わっている。それだけに背水の陣のような気合あふれる本作。その行く末を見守る意味でも、注目したい。 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

ジャック・バウアーなしで大丈夫!? 人気海外ドラマのスピンオフ3選

 配信サービスの台頭もあり、ドラマシリーズの制作が急増しているアメリカ。クオリティも大幅にアップし、日本にもどんどん新作が上陸する。しかし、これだけドラマが増えると、何から見ていいのかわからなくなるのも正直なところ。そんな時のとっかかりとしてオススメなのが、人気シリーズの兄弟番組や復活版といった、なじみのあるシリーズの新作だ。中には本国放送とほぼ同時に見られるものもある、最新アメリカン・ドラマを3本ご紹介!
YouTube「FOX NETWORKS」より
●『24:レガシー』  日本で一番有名なテレビシリーズといっても過言ではない『24 -TWENTY FOUR-』。日本中を睡眠不足にした本作の5年ぶりの復活となった『24 -TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ』がきっかけとなり、全米ではリバイバル・ブームが巻き起こった。その復活版第2弾となるのが、この『24:レガシー』だ。今度の『24』は作品の代名詞でもあるキーファー・サザーランド演じるジャック・バウアーは登場しないという、かなりチャレンジングな1作。  ジャックのイメージが強烈すぎるため、ジャックなしの『24』で大丈夫なのか!? と思ってしまうが、実は『24』のフォーマットというのは、非常にスピンオフ向きだったりする。本作が成功すれば、“テロとの戦い”というテーマを軸に、今はやりのアンサンブル方式で新たな『24』を制作することも可能になる。  その試金石ともいえる本作で、ジャックに代わってテロと戦う主人公エリック・カーターを演じるのはコーリー・ホーキンズ。映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』で注目を集め、人気シリーズ『ウォーキング・デッド』にも出演していた期待の新星だ。彼が演じるエリックは、米軍のエリート部隊出身。半年前にイエメンでテロリストの首謀者を殺害したことがきっかけとなり、何者かから命を狙われる。そこからは、もう怒涛の『24』節が炸裂だ。目まぐるしく変わる危機的状況、息つく暇もないスピード感は、本家に負けず劣らず。もちろんスプリット・スクリーンや、あのカウントダウンも健在だ。『24』の人気キャラ、トニー・アルメイダの登場や、CTUとの関わりなど、『24』の世界ともしっかりとリンクしているので、『24』にハマった人なら、やはりこれは見逃せない。なんと本国放送から11時間後に日本で放送されるという最速上陸というのも肝。週1放送なら、睡眠不足の心配もない。
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●『レギオン』  現在のアメリカのエンタメ界では、映画とドラマの垣根を越えたアメコミ作品のユニバース化がどんどん加速している。それに伴い、アメコミ作品のドラマ化も相次いでいるが、そんな中、ついに登場したのが人気シリーズ『X-MEN』のドラマ版『レギオン』だ。特殊能力を持ったミュータントたちの活躍を描いた『X-MEN』は日本でも人気のシリーズだが、その原作コミックの世界観をベースに、新たな『X-MEN』物語が幕を開ける。  主人公は、X-MENたちを率いたプロフェッサーXことチャールズ・エグゼビア教授の息子デヴィッド・ハラー。幼い頃から幻覚や幻聴に悩まされ、統合失調症の疑いで精神科病院に入院していた彼だが、その原因が、実は彼の中にある強大な力によるものだったことが明らかになっていく。地上最強のテレパスといわれる父の血を受け継いだ彼の能力“レギオン”とは、果たしてどんな力なのか? その謎をめぐるサスペンスを緻密に描き出していくのは、ドラマ『FARGO/ファーゴ』が高く評価されているノア・ホーリー。主人公デヴィッドを演じるのは、やはり人気シリーズ『ダウントン・アビー』のマシュー役で注目を集めたダン・スティーヴンス。そして映画版で第1作から最新シリーズまで手掛けている映画監督のブライアン・シンガーら強力なクリエイター陣が集結と、この布陣だけでもかなり期待値の高い作品だが、映画版と世界観を共有しながらもよりダークでミステリアスになったストーリーと、その映像表現にも注目。こちらも全米とほぼ同時放送という気合の入った1作だ。
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●『クリミナル・マインド 国際捜査班』  アメリカでは、人気があれば数年どころか10年以上シリーズが続いていくが、そういった長寿シリーズはスピンオフが多いのも特徴だ。『CSI』(すでに全シリーズ終了)、『NCIS』、『シカゴ・ファイア』など、人気シリーズはいくつものスピンオフを生み出し、いわばドラマ版のユニバースを形成している。そんな長寿番組のひとつ『クリミナル・マインド』のスピンオフ第2弾となるのが『クリミナル・マインド 国際捜査班』だ。  上の2作ほどの最速上陸とはいかないが、こちらも昨年スタートしたばかりの最新作。本家はBAUというFBIの行動分析課のプロファイラー集団がシリアル・キラーを心理分析で追い詰めていく姿を描き、10年を超える人気シリーズとなった犯罪ドラマだが、『クリミナル・マインド 国際捜査班』でピックアップされるのは、海外で凶悪犯罪に巻き込まれたアメリカ人を救出するFBIの精鋭チームIRT(国際犯罪特別捜査班)だ。国境を越えた犯罪捜査は本家以上のスケール感。タイやインド、そして日本も舞台のひとつとして登場する。  その精鋭チームを率いるリーダー、ジャック・ギャレットを演じるのは『CSI:NY』でもおなじみの実力派俳優ゲーリー・シニーズ。脇を固めるのも『LAW & ORDER』(こちらもスピンオフが山盛り)のアラナ・デ・ラ・ガーザら実力派をそろえ、強固なチームワークを見せる。先ほど長寿シリーズはスピンオフが多いと書いたが、多くのシリーズは本家シリーズの人気が後押しとなりスピンオフも割と長寿化しやすいのだが、実は『クリミナル・マインド』だけは、なぜかそのスピンオフが短命に終わっている。それだけに背水の陣のような気合あふれる本作。その行く末を見守る意味でも、注目したい。 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

年末年始にイッキ見したい海外ドラマ5作!

 年内最後の本コラムでは、年末年始にイッキ見できる海外ドラマをジャンル別にピックアップ。王道ドラマから、珍品、名品などなど、多ジャンルをチョイスしているので、気軽にトライしてみてほしい。
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『ブラックリスト SEASON 1 COMPLETE BOX』(ソニー・ピクチャーズエンタテインメント)
●犯罪ドラマ『ブラックリスト』  配信サービスが本格的にドラマ制作に乗り出し、日本で見られるアメリカのドラマの数はうなぎ上り。だが、制作数が増えた分、作品テイストはどんどんニッチ化し、どれを見たらいいかわからないという人も多いのでは? そんな時は、ネットワーク系のドラマの中から、自分の好みを探ってみるのがオススメだ。ネットワークは、日本でいうところの地上波のテレビ局。それだけに、比較的万人にアピールする方向性でドラマを制作する。そういう意味で、王道的なネットワーク・ドラマでありながら、しっかりとした個性を持った犯罪ドラマが『ブラックリスト』だ。  世界中の犯罪者と取引をし、「犯罪コンシェルジュ」と呼ばれるFBIの最重要指名手配者レイモンド・レディントンが、なぜか新米FBI捜査官エリザベス・キーンを指名し、20年かけて集めた世界中の犯罪者の情報“ブラックリスト”を合衆国に提供すると申し出るという本作は、毎回多彩な悪人たちが登場する1話完結的なドラマであると同時に、レイモンド とエリザベスの知られざる関係性と、そこに絡む悪の組織との対決という連続的なストーリーが同時進行していく。ジェームズ・スペイダー演じるレイモンド のミステリアスな人物像がドラマの謎に拍車をかけ、1話完結の気軽さを楽しんでいるうちに、気がつけば連続性のあるストーリーにハマっていけるパターンは、ライトな視聴スタイルにもマッチするだろう。
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Netflixより
●ミステリー『THE OA』  7年間、失踪していた盲目のヒロインをめぐるミステリー。ある日、自殺未遂で病院に運ばれた女性は、7年間失踪していた人物だった。7年ぶりに家族の前に現れたその女性、プレーリーは、失踪中の記憶を失っていた。さらに驚くべきことに、生来盲目だった彼女が、戻ってきた時には視力を取り戻していた。世間が奇跡の生還と盛り上がる中、プレーリーは少しずつ失われた記憶を取り戻し、ある目的を果たすために動きだす。  映画『ザ・イースト』の監督・主演コンビが贈るNetflixのオリジナル・シリーズとなる本作は、同社のオリジナル・シリーズ『センス8』的な独特の世界観を持つ。失踪した女性をめぐるサスペンスかと思いきや、次のエピソードではファンタジー、さらに進むとミステリーと、週1ペースの配信なら散漫になるところも、一挙配信のドラマだからこそ見る者を翻弄しつつ引き込んでいく。ヴァイラル狙いの前衛バレエ風のある“動作”といい、率直に言って珍品だが、その奇妙さはクセになる。エンディングに感動するか、ポカーンとするかは人によって大きく分かれるかと思うが、いずれにしても見終わった後に誰かと話したくなること必至だ。
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Amazonプライムより
●SFサスペンス『高い城の男』  フィリップ・K・ディックの同名小説をドラマ化した、Amazonのオリジナル・シリーズ。第2次世界大戦でドイツと日本(+イタリア)側が勝利していたら……という歴史改変SFを、リドリー・スコット製作総指揮で描いている。アメリカはドイツと日本で分割統治され、その世界は現実の世界とはかけ離れたものに。ナチス思想と軍国主義に支配された世界は、並みのホラーより恐ろしい。そんな世界の中で、レジスタンスの活動に巻き込まれるジュリアナと、ドイツ側のスパイとしてレジスタンスの活動を探るジョーを中心に、“高い城の男”が撮ったあるフィルムをめぐって、ドイツ、日本、そしてレジスタンスの思惑が入り乱れたサスペンスが展開される。  アメリカドラマの中には、しばしばヘンテコ・ニッポン描写が登場するが、歴史改変のあくまで“if”の話のため、すんなりと作品世界になじんでいる。今の日本とはおよそかけ離れた世界という点ではしっかりとSFだが、その緻密に構築された世界観は、恐ろしいほどのリアリティで迫ってくる。サスペンスとしても一級品で、早くもシーズン2が待ち遠しくなる作品だ。
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Amazonプライムより
●ホラー『ストレイン』  映画『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ監督が放つ、デル・トロ節炸裂のホラー・サスペンス。冒頭、ベルリンからJFK空港に着陸した航空機内で起こった乗客乗員206名が死亡するという謎の事件では、ウィルスによるパンデミックなストーリーかと思いきや、やがてそれは未知の生物との死闘に発展。ドラマはゾンビ・アポカリプス的な様相を呈し、その生物と人類の隠された戦いの歴史が明かになっていく。サスペンスから、ホラー、SF、アクション、ミステリーと、徹底的なジャンルのごった煮も、デル・トロ風味という味付けによってきっちりとひとつにまとめ上げられ、一気にその作品世界に引き込まれていく。  ストーリーが進むにつれ存在感を増していく、モンスター描写の本気度もスゴイ。「人間は飲み物だ」と言い切るあたりは、いっそすがすがしいほどだ。全般的に陰湿な恐怖よりも、あっけらかんとしたモンスター描写に徹しているので、ホラーが苦手な人でも入りやすいのもポイント。しかしながら、グロ描写が苦手な人は要注意。その物語の終着点がどこに向かうのか、まったく予測がつかないが、ワクワクさせられることは間違いない。
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huluより
●コメディ『VEEP』   今年はアメリカ大統領選挙があったため、アメリカの政治に大きな注目が集まったが、2017年はトランプ政権が本格始動するだけに、まだまだ目が離せない。アメリカにはいろいろな政治ドラマがあるが、正月らしく笑って過ごしたい人にオススメなのが、政治コメディ『VEEP』だ。アメリカで2番目の権力の座にありながら、その実態は世界一の閑職(?)な、女性副大統領を主人公にした本作は、副大統領とそのスタッフのドタバタぶり、そして毒が効いたユーモアで、アメリカの政治世界を笑顔でぶった切る。といっても、あくまで主題は閑職ポジションの悲哀。  主人公のセリーナ・マイヤーを演じるジュリア・ルイス=ドレイファスは全米で絶大な人気を博した『となりのサインフェルド』でブレイクした名コメディエンヌだが、本作でもその実力を遺憾なく発揮し、平時にはロクな仕事を与えられない副大統領というポジションの哀れな日常を、絶妙な笑いに転じている。アクの強い個性派キャラぞろいのキャストのアンサンブルも見事で、初笑いにうってつけの作品だ。 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

「歴史を背負って生きる」ということの重さがガツンと響く! エリザベス女王の半生を描く『ザ・クラウン』

YouTube「Netflix Japan」より
 アメリカ大統領選挙が終わって、はや1カ月。相も変わらずトランプ氏は世論をにぎわせ、一体アメリカはどうなっちゃうんだ!? と、世界中がハラハラしながら見守っている。個人的には、トランプ氏といえば、リアリティ番組で「お前はクビだ!」と言っていた時代の印象が強いせいで、いまだに次期大統領というのがピンとこないが、彼が歴史にどのような形で名を残すのか、悪名か、それとも意外にも名声を得るのか興味深いところではある。いずれにしても、間違いなくドラマ化なり、映画化なりされるでしょう。オバマさんも、もう映画が作られてるしね。それも歴史に名を残すひとつの形だ。  今回、なぜ歴史、歴史と繰り返しているかといえば、Netflixで配信中の『ザ・クラウン』にガツンとやられたからだ。歴史ドラマの題材として、今も昔も愛されているのが英国王室。長い歴史の中で英国王室にはエンタメにうってつけの逸材がゴロゴロ存在し、ドラマにおいても映画においても、秀逸な作品が多い。とはいえ、舞台は現在の自分たちとはかけ離れた時代のものであり、生活も文化もファッションも別物。だからこそ、歴史ドラマには一種のファンタジー性があり、どこかで一定の距離を保ったまま、その世界を見ることができる。しかし『ザ・クラウン』の主人公は、いまだ現役バリバリ、現在世界第1位の長期在位君主であるエリザベス女王なのだ。実在していても、感覚的には架空の人物と変わらない従来の歴史ドラマとは違い、今もその歴史を生きている人物が主人公になるだけで、これまでとは違った深みが生まれてくるのだ。もちろん、現在の英国王室について描かれた映画は過去に何作も製作されているが、ドラマという1シーズンで少なくとも10話は費やすものと比べると、インパクトはまるきり違う。  物語が始まるのは彼女が女王になる前の1947年からなので、時代物といっても近代史となるわけだが、シーズン1では25歳の若さで女王となった彼女が、その重責と人間らしさの狭間で葛藤し、苦悩しながらも女王としての道を歩み始める姿が描かれる。今でこそ堂々たる女王ぶりで、開かれた王室を築き上げた彼女だが、25歳の新米女王であるエリザベスは、今のイメージとはまったく違う。内閣の重鎮たちに翻弄され、自分の考えを貫くこともできない。開かれた王室への道はまだまだ険しく、家族と内閣の板挟みとなる彼女の姿は、中間管理職の悲哀にも通じて妙に親近感が湧いてくる。それはほかの人物にもいえることで、例えば彼女の夫フィリップ殿下は、トランプ氏もビックリな、なかなかの失言王ぶりで知られるのだが、そうした発言の背景にはこういった感情があったのかも……と思わされるくらい、登場人物の人間くさい描写がリアルなのだ。  そしてこの頃、英国王室にとってエドワード8世がどれほど大きな禍根を残したのかというのも想像以上だった。エドワード8世ことウィンザー侯爵といえば、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの恋路を貫くために、玉座を捨てた人物。世に言う「王冠を懸けた恋」で知られる人物だ。しかし、『ザ・クラウン』での彼は、完全にヒール・ポジション。今でこそ皇太子が離婚した挙げ句、不倫相手と再婚していたり、その昔は別の女と結婚したいがために宗教を変えた王もいたわけだが、ともかく当時、離婚はご法度。彼が玉座を捨てなければ、弟のジョージ6世が即位することもなく、ひいてはエリザベスの即位もまずなかったわけで、エドワード8世は多くの人の人生を狂わせたことになる。「王冠を賭けた恋」といえばロマンティックだが、周囲がどれほど犠牲を払ったのか、その影響が想像以上に絶大だったことがドラマを見ているとよくわかる。そんな彼が本作において悪役的ポジションになるのは至って自然だが、それにしてもこのエドワード8世がまた微妙に性格の悪さをにじませる人物で、やはり本作のキャラクター構築の絶妙さにうならされるのだ。  何より、このキャラクター構築を見事に体現した俳優陣たちの演技が秀逸すぎる。エリザベス女王を演じるクレア・フォイは、若かりし頃の女王が苦悩し葛藤しながら選んだ道が、今の英国王室の在り方につながっていくのだという説得力を持った演技を見せている。フィリップ殿下を演じるマット・スミスは、女王の添え物的な扱いをされる彼の屈折した人間性を体現。エリザベス女王の妹であるマーガレット王女を演じるヴァネッサ・カービーは、姉へのライバル心、そして奔放な性格で知られた彼女のもろさを繊細に演じている。英国王室の問題児エドワード8世を演じるアレックス・ジェニングスは、王族育ちのボンボン思考を持ちながら、半面、今ある立場がどうであれ、それでも王だと言い切るエドワード8世を演じきった。そして、シーズン1で重要な存在となるチャーチルを演じるジョン・リスゴーの存在感。彼の鬼気迫る熱演は、まさに鳥肌もの。本作の大きな見どころのひとつだ。  こうした俳優陣の熱演が、今もその歴史を生きているエリザベス女王やフィリップ殿下だけでなく、すでに世を去り、歴史の一部となった人物に生々しいほどの肉付けをしているからこそ、本作はこれまでになく「歴史を背負って生きるということ」の重さが胸にガツンと響いてくるのだ。  余談だが、クレア・フォイは、先に述べた離婚したいがために宗教を変えた(正確には分離した)王ヘンリー8世のチューダー朝が舞台の歴史ドラマ『ウルフ・ホール』では、王を狂わせた悪女アン・ブーリンを演じているので、見比べてみるのも一興だ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『THE TUDORS~背徳の王冠~』 『ウルフ・ホール』 『ダウントン・アビー』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

「歴史を背負って生きる」ということの重さがガツンと響く! エリザベス女王の半生を描く『ザ・クラウン』

YouTube「Netflix Japan」より
 アメリカ大統領選挙が終わって、はや1カ月。相も変わらずトランプ氏は世論をにぎわせ、一体アメリカはどうなっちゃうんだ!? と、世界中がハラハラしながら見守っている。個人的には、トランプ氏といえば、リアリティ番組で「お前はクビだ!」と言っていた時代の印象が強いせいで、いまだに次期大統領というのがピンとこないが、彼が歴史にどのような形で名を残すのか、悪名か、それとも意外にも名声を得るのか興味深いところではある。いずれにしても、間違いなくドラマ化なり、映画化なりされるでしょう。オバマさんも、もう映画が作られてるしね。それも歴史に名を残すひとつの形だ。  今回、なぜ歴史、歴史と繰り返しているかといえば、Netflixで配信中の『ザ・クラウン』にガツンとやられたからだ。歴史ドラマの題材として、今も昔も愛されているのが英国王室。長い歴史の中で英国王室にはエンタメにうってつけの逸材がゴロゴロ存在し、ドラマにおいても映画においても、秀逸な作品が多い。とはいえ、舞台は現在の自分たちとはかけ離れた時代のものであり、生活も文化もファッションも別物。だからこそ、歴史ドラマには一種のファンタジー性があり、どこかで一定の距離を保ったまま、その世界を見ることができる。しかし『ザ・クラウン』の主人公は、いまだ現役バリバリ、現在世界第1位の長期在位君主であるエリザベス女王なのだ。実在していても、感覚的には架空の人物と変わらない従来の歴史ドラマとは違い、今もその歴史を生きている人物が主人公になるだけで、これまでとは違った深みが生まれてくるのだ。もちろん、現在の英国王室について描かれた映画は過去に何作も製作されているが、ドラマという1シーズンで少なくとも10話は費やすものと比べると、インパクトはまるきり違う。  物語が始まるのは彼女が女王になる前の1947年からなので、時代物といっても近代史となるわけだが、シーズン1では25歳の若さで女王となった彼女が、その重責と人間らしさの狭間で葛藤し、苦悩しながらも女王としての道を歩み始める姿が描かれる。今でこそ堂々たる女王ぶりで、開かれた王室を築き上げた彼女だが、25歳の新米女王であるエリザベスは、今のイメージとはまったく違う。内閣の重鎮たちに翻弄され、自分の考えを貫くこともできない。開かれた王室への道はまだまだ険しく、家族と内閣の板挟みとなる彼女の姿は、中間管理職の悲哀にも通じて妙に親近感が湧いてくる。それはほかの人物にもいえることで、例えば彼女の夫フィリップ殿下は、トランプ氏もビックリな、なかなかの失言王ぶりで知られるのだが、そうした発言の背景にはこういった感情があったのかも……と思わされるくらい、登場人物の人間くさい描写がリアルなのだ。  そしてこの頃、英国王室にとってエドワード8世がどれほど大きな禍根を残したのかというのも想像以上だった。エドワード8世ことウィンザー侯爵といえば、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンとの恋路を貫くために、玉座を捨てた人物。世に言う「王冠を懸けた恋」で知られる人物だ。しかし、『ザ・クラウン』での彼は、完全にヒール・ポジション。今でこそ皇太子が離婚した挙げ句、不倫相手と再婚していたり、その昔は別の女と結婚したいがために宗教を変えた王もいたわけだが、ともかく当時、離婚はご法度。彼が玉座を捨てなければ、弟のジョージ6世が即位することもなく、ひいてはエリザベスの即位もまずなかったわけで、エドワード8世は多くの人の人生を狂わせたことになる。「王冠を賭けた恋」といえばロマンティックだが、周囲がどれほど犠牲を払ったのか、その影響が想像以上に絶大だったことがドラマを見ているとよくわかる。そんな彼が本作において悪役的ポジションになるのは至って自然だが、それにしてもこのエドワード8世がまた微妙に性格の悪さをにじませる人物で、やはり本作のキャラクター構築の絶妙さにうならされるのだ。  何より、このキャラクター構築を見事に体現した俳優陣たちの演技が秀逸すぎる。エリザベス女王を演じるクレア・フォイは、若かりし頃の女王が苦悩し葛藤しながら選んだ道が、今の英国王室の在り方につながっていくのだという説得力を持った演技を見せている。フィリップ殿下を演じるマット・スミスは、女王の添え物的な扱いをされる彼の屈折した人間性を体現。エリザベス女王の妹であるマーガレット王女を演じるヴァネッサ・カービーは、姉へのライバル心、そして奔放な性格で知られた彼女のもろさを繊細に演じている。英国王室の問題児エドワード8世を演じるアレックス・ジェニングスは、王族育ちのボンボン思考を持ちながら、半面、今ある立場がどうであれ、それでも王だと言い切るエドワード8世を演じきった。そして、シーズン1で重要な存在となるチャーチルを演じるジョン・リスゴーの存在感。彼の鬼気迫る熱演は、まさに鳥肌もの。本作の大きな見どころのひとつだ。  こうした俳優陣の熱演が、今もその歴史を生きているエリザベス女王やフィリップ殿下だけでなく、すでに世を去り、歴史の一部となった人物に生々しいほどの肉付けをしているからこそ、本作はこれまでになく「歴史を背負って生きるということ」の重さが胸にガツンと響いてくるのだ。  余談だが、クレア・フォイは、先に述べた離婚したいがために宗教を変えた(正確には分離した)王ヘンリー8世のチューダー朝が舞台の歴史ドラマ『ウルフ・ホール』では、王を狂わせた悪女アン・ブーリンを演じているので、見比べてみるのも一興だ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『THE TUDORS~背徳の王冠~』 『ウルフ・ホール』 『ダウントン・アビー』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

“暴言王”トランプ氏もやっかいになること必至! 実在の政界フィクサーをモデルにした『スキャンダル』

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『スキャンダル シーズン1 コンパクト BOX』(ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)
 次期大統領が決定して1週間が過ぎても、いまだ騒がしいアメリカ。トランプ氏もクリントン氏も、選挙中に女性蔑視発言やら私用メール問題やらのスキャンダルが飛び出していたが、そんなトラブルの火消しを担うのが政界フィクサー。全米で根強い人気を誇る『スキャンダル』は、そのフィクサーを主人公にした政界内幕ドラマだ。  このドラマのヒロイン、オリビア・ポープは、元ブッシュ大統領(パパの方)の補佐官で、本作の制作にも名を連ねているジュディ・スミスという実在の政界フィクサーがモデルになっている。父ブッシュ政権時代は危機管理を担当し、その手腕からブッシュ大統領の任期終了後は、民間の危機管理会社を設立。大物クライアントを数多く抱え、全米どころか世界中で報道されてしまうような大スキャンダルをバリバリ処理してきた彼女がモデルとなっているだけに、オリビアの会社にも次々と大スキャンダルが舞い込んでくる。そのスキャンダルもまた、実際に起こった出来事をモチーフにしているので、どこかで聞いたことがあるような事件もしばしば。しかしそれだけなら、単にリアルな政界ドラマで終わってしまうところ。このドラマの醍醐味は、リアルな出来事をベースにしながら、リアルを超えた想像のナナメ上を行くトンデモ展開にある。  そもそもこのドラマのクリエイター、ションダ・ライムズは医療ドラマのはずの『グレイズ・アナトミー』で、患者より医師のほうが死んでるんじゃないかというくらい、たびたびディザスターをもたらしては延々とシリーズを続けているという、ジェットコースター・ドラマが超お得意の人物。この『スキャンダル』においては、扱うのがメディアをにぎわすような醜聞ばかりとあって、シーズンを重ねるほど現実以上にえげつない展開がエスカレートしていく始末。でも、それが非常にクセになる。まんまとションダの手中にハマっているのはわかっちゃいるが、どうにもやめられないのだ。  そんなドラマの登場人物は、誰も彼もがクセ者ばかり。主人公のオリビアはホワイトハウスの元広報官で現在は超やり手の政界フィクサーだが、実は大統領と元不倫関係という間柄。その元不倫相手であるフィッツジェラルド(フィッツ)大統領は、オリビアに未練タラタラ。オリビアのほうも、なぜかいつも困った顔をしながらフィッツと離れてはまたヨリを戻し、そのたびにフィッツはデレデレになったり、冷たくあしらったり、挙げ句(超大がかりな)ストーキングをしたりと、実に始末が悪い。アメリカ大統領という立場も忘れ、一体どこまで色恋にのめり込むのか、フィッツのボンクラ色ボケっぷりがシーズンを重ねるほどに際立っていく。先の大統領選挙戦中、オバマ大統領は「トランプ氏に核のボタンは渡せない」といったスピーチをしていたが、フィッツの色ボケぶりはそんな危機感すら覚えるほど。ドラマはとことんえげつなく、ドラマ的に下世話な展開を繰り広げるが、それを見れば見るほど絶大な権力を持つことになる人は慎重に選ぼうと、図らずも意識することに。 そして、この2人がメロドラマを繰り広げるたびに、周囲の人間は多大な迷惑を被るわけだが、彼らを取り囲む人たちも2人に負けず劣らずの濃いキャラぞろい。フィッツの嫁であるメリーは、夫とオリビアの関係に散々振り回された結果、夫そっちのけで自身の野心にまい進するように。もともとは、優秀な弁護士だったが、そのキャリアをあきらめ、フィッツを大統領にするために尽くしてきただけに、夫に対しては恨みつらみの塊と化していく。オリビアの恩師でもあり、大統領首席補佐官のサイラスは、ドラマ随一の腹黒キング。とにかく、フィッツジェラルド政権を守るためならあらゆる手段を講じる彼の闇は、想像以上に深い。  そして、オリビアの会社で働く面々(「スーツを着た剣闘士」を合言葉に、オリビアへの忠誠心で団結)も、元CIAのスパイだの、経歴に問題アリの弁護士だの、一見平凡そうに見えてとんでもない秘密を抱えていたりと、まっとうな人間はほとんど出てこない。オリビア自身もフィッツという弱点はあるものの、それ以外では確かにやり手。挙げ句、彼女の両親がまたかなりのトンデモ人物であり、ここにもスキャンダルの特大火種がくすぶっている。そんな腹黒すぎるキャラクターたちが、ホワイトハウスという伏魔殿で繰り広げるドラマの数々は、いつまでもダラダラと続くオリビアとフィッツの不倫話など、正直どうでもよくなるほど刺激的だ。  と思っていたが、何年もしつこく続けてきたこの不倫話が、最新シーズンではいよいよ生きてきた。政治よりも私情を優先しすぎなボンクラ大統領であるフィッツを、政界随一のやり手フィクサーであるオリビアが本気でコントロールしたらどうなるのか、その未来を的確に予測する腹黒サイラスがそこにどんな横ヤリを入れるのか、どこまでトンデモ展開がエスカレートしていくのか楽しみだ。  もっとも最初に書いたように、このドラマは現実に起こった政治事件やスキャンダルをモチーフにしている。選挙中から暴言王だったドナルド・トランプが大統領になった次シーズン、どんなエピソードが取り入れられるのかにも注目したい。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『ハウス・オブ・カード』 『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』 『殺人を無罪にする方法』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

“暴言王”トランプ氏もやっかいになること必至! 実在の政界フィクサーをモデルにした『スキャンダル』

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『スキャンダル シーズン1 コンパクト BOX』(ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)
 次期大統領が決定して1週間が過ぎても、いまだ騒がしいアメリカ。トランプ氏もクリントン氏も、選挙中に女性蔑視発言やら私用メール問題やらのスキャンダルが飛び出していたが、そんなトラブルの火消しを担うのが政界フィクサー。全米で根強い人気を誇る『スキャンダル』は、そのフィクサーを主人公にした政界内幕ドラマだ。  このドラマのヒロイン、オリビア・ポープは、元ブッシュ大統領(パパの方)の補佐官で、本作の制作にも名を連ねているジュディ・スミスという実在の政界フィクサーがモデルになっている。父ブッシュ政権時代は危機管理を担当し、その手腕からブッシュ大統領の任期終了後は、民間の危機管理会社を設立。大物クライアントを数多く抱え、全米どころか世界中で報道されてしまうような大スキャンダルをバリバリ処理してきた彼女がモデルとなっているだけに、オリビアの会社にも次々と大スキャンダルが舞い込んでくる。そのスキャンダルもまた、実際に起こった出来事をモチーフにしているので、どこかで聞いたことがあるような事件もしばしば。しかしそれだけなら、単にリアルな政界ドラマで終わってしまうところ。このドラマの醍醐味は、リアルな出来事をベースにしながら、リアルを超えた想像のナナメ上を行くトンデモ展開にある。  そもそもこのドラマのクリエイター、ションダ・ライムズは医療ドラマのはずの『グレイズ・アナトミー』で、患者より医師のほうが死んでるんじゃないかというくらい、たびたびディザスターをもたらしては延々とシリーズを続けているという、ジェットコースター・ドラマが超お得意の人物。この『スキャンダル』においては、扱うのがメディアをにぎわすような醜聞ばかりとあって、シーズンを重ねるほど現実以上にえげつない展開がエスカレートしていく始末。でも、それが非常にクセになる。まんまとションダの手中にハマっているのはわかっちゃいるが、どうにもやめられないのだ。  そんなドラマの登場人物は、誰も彼もがクセ者ばかり。主人公のオリビアはホワイトハウスの元広報官で現在は超やり手の政界フィクサーだが、実は大統領と元不倫関係という間柄。その元不倫相手であるフィッツジェラルド(フィッツ)大統領は、オリビアに未練タラタラ。オリビアのほうも、なぜかいつも困った顔をしながらフィッツと離れてはまたヨリを戻し、そのたびにフィッツはデレデレになったり、冷たくあしらったり、挙げ句(超大がかりな)ストーキングをしたりと、実に始末が悪い。アメリカ大統領という立場も忘れ、一体どこまで色恋にのめり込むのか、フィッツのボンクラ色ボケっぷりがシーズンを重ねるほどに際立っていく。先の大統領選挙戦中、オバマ大統領は「トランプ氏に核のボタンは渡せない」といったスピーチをしていたが、フィッツの色ボケぶりはそんな危機感すら覚えるほど。ドラマはとことんえげつなく、ドラマ的に下世話な展開を繰り広げるが、それを見れば見るほど絶大な権力を持つことになる人は慎重に選ぼうと、図らずも意識することに。 そして、この2人がメロドラマを繰り広げるたびに、周囲の人間は多大な迷惑を被るわけだが、彼らを取り囲む人たちも2人に負けず劣らずの濃いキャラぞろい。フィッツの嫁であるメリーは、夫とオリビアの関係に散々振り回された結果、夫そっちのけで自身の野心にまい進するように。もともとは、優秀な弁護士だったが、そのキャリアをあきらめ、フィッツを大統領にするために尽くしてきただけに、夫に対しては恨みつらみの塊と化していく。オリビアの恩師でもあり、大統領首席補佐官のサイラスは、ドラマ随一の腹黒キング。とにかく、フィッツジェラルド政権を守るためならあらゆる手段を講じる彼の闇は、想像以上に深い。  そして、オリビアの会社で働く面々(「スーツを着た剣闘士」を合言葉に、オリビアへの忠誠心で団結)も、元CIAのスパイだの、経歴に問題アリの弁護士だの、一見平凡そうに見えてとんでもない秘密を抱えていたりと、まっとうな人間はほとんど出てこない。オリビア自身もフィッツという弱点はあるものの、それ以外では確かにやり手。挙げ句、彼女の両親がまたかなりのトンデモ人物であり、ここにもスキャンダルの特大火種がくすぶっている。そんな腹黒すぎるキャラクターたちが、ホワイトハウスという伏魔殿で繰り広げるドラマの数々は、いつまでもダラダラと続くオリビアとフィッツの不倫話など、正直どうでもよくなるほど刺激的だ。  と思っていたが、何年もしつこく続けてきたこの不倫話が、最新シーズンではいよいよ生きてきた。政治よりも私情を優先しすぎなボンクラ大統領であるフィッツを、政界随一のやり手フィクサーであるオリビアが本気でコントロールしたらどうなるのか、その未来を的確に予測する腹黒サイラスがそこにどんな横ヤリを入れるのか、どこまでトンデモ展開がエスカレートしていくのか楽しみだ。  もっとも最初に書いたように、このドラマは現実に起こった政治事件やスキャンダルをモチーフにしている。選挙中から暴言王だったドナルド・トランプが大統領になった次シーズン、どんなエピソードが取り入れられるのかにも注目したい。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『ハウス・オブ・カード』 『レイ・ドノヴァン ザ・フィクサー』 『殺人を無罪にする方法』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

ディープ・サウスだから成立!? カオスすぎるヴァンパイアドラマ『トゥルーブラッド』

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『トゥルーブラッド』(ワーナー・ホーム・ビデオ)
 現在、アメリカで大人向けのファンタジー・ドラマが人気になっていることは、以前『ゲーム・オブ・スローンズ』を紹介した際にも触れたが(参照記事)、『ゲーム・オブ・スローンズ』と並んで激押ししたいファンタジー・ドラマが『トゥルーブラッド』だ。ファンタジーというジャンルではド定番ともいえるヴァンパイアドラマである本作。だが、その内容は、まったくもって一筋縄ではいかないクセものだ。  舞台は、日本人が開発した人工血液によって、ヴァンパイアが人間と共存できるようになった世界。闇に隠れていたヴァンパイアたちは、いまや堂々と人間たちの前に姿を見せるようになっている(といっても、太陽の光には弱いので、活動時間は相変わらず夜だが)。もっとも、人間にとってはヴァンパイアが命を脅かす存在であることは変わらず、彼らの存在を疎ましく、そして恐怖に感じる人も数多い。一方で、ヴァンパイアの血液が強力な幻覚作用を持つことから、「Vドラッグ」と名付けられた血液目当てにヴァンパイアにすり寄る者、もしくは狩る者たちもいる。  そんな奇妙な緊張をはらんだ世界だが、ルイジアナ州の小さな町にあるバー、マーロッテでウエイトレスをしているスーキーは、一人のヴァンパイアに興味を示す。人の心を読むことができるという能力を持つスーキーは、そのせいで苦労が絶えなかったが、ある夜やってきた男、ビルだけは心を読むことができなかった。彼がヴァンパイアだと知っても、その想いは抑えることはできず、2人は急速に惹かれ合っていく。  ストーリーの最初こそ、ヴァンパイアと人間のロマンスという、典型的なゴシック・ロマンの要素を強く打ち出している本作だが、ドラマはストーリーが進むに連れ、予測のつかない展開の連続で混沌を極めていく。小さな田舎町で起こる連続殺人事件、そこから生まれるヴァンパイアと人間の軋轢、恐怖からヴァンパイアを迫害する人間たちと、人(?)権運動を繰り広げるヴァンパイアたちのせめぎ合いが起こったかと思えば、ヴァンパイアの間でも内部抗争が勃発し、こうした混沌がさらなる混沌を呼び込んでいく。  スーパーナチュラルな存在もヴァンパイアだけにとどまらず、シェイプシフターや狼人間、シャーマンに妖精、挙げ句に古の神まで現れ、ちっぽけな田舎町にどれだけの超常現象が起こるのか、思わず首をかしげたくなるものの、それを妙に説得力のあるものにしているのが、ディープ・サウスと呼ばれるルイジアナ州を舞台にしたことだ。 ディープ・サウスといえば、南北戦争のその昔から人種差別問題を抱え、ドラマのタイトル・シークエンスにもチラッと登場するが、かつてはKKKが幅を利かせていたりした土地柄。そのルイジアナ州の中でも都会のニューオーリンズではなく、さらに田舎の、小さな町を舞台にしたことで、何やら怪しげなことが起こっていても不思議ではない空気を演出しているのだ。  ドラマはファンタジーでありながら、一貫して差別問題などの現代アメリカの社会問題を人間とヴァンパイア(と、その他の異生物)に置き換え、鋭く切り込んでいる。人間たちの露骨なヴァンパイア差別も当たり前のように描かれているが、これがロサンゼルスやニューヨークのようなリベラルな都会だったら、そうはいかない。都会であればあるほど、レイシストと呼ばれることを嫌悪し、たとえそういう気持ちがあっても、表向きは隠そうとする。狭い世界で完結してしまうような小さな田舎町でなければ、この物語は成立しないのだ。その狭い世界で、想像も及ばないようなディープな世界が繰り広げられているのが、このドラマの妙だといえる。  もっとも、ドラマとしてはあくまでエンタテイメント。差別問題や宗教問題も出てくるが、「社会問題を考える」という小難しさはない。そして、ヴァンパイアドラマといえば、美男美女ぞろいなのがお約束。おまけに、このドラマは大人向けということで、毎回ふんだんにエロシーンが盛り込まれているのもポイント。特に基本、スーキーがフラフラしている(相手はいつも人間じゃないが)上、その兄・ジェイソンはヤルことばかり考えているボンクラ、ヴァンパイアはその魔性でもって人を魅了するので、エロありグロありの濃密ドラマが展開される。 その濃密ドラマを繰り広げる脇役キャラクターも、これまたこってり濃厚。フェロモンダダ漏れのもう一人のヴァンパイア、エリック、常に怒りを抱えながら、どこか乙女なスーキーの親友タラ、タラの従兄弟でゲイのラファイエット、登場人物の中では一番平凡でまっとうそうに見えて、とんでもない秘密を持っていたマーロッテのオーナー、サムといったレギュラーだけでなく、シリーズ途中から登場する狼男のアルシード、さらに町の保安官アンディやスーキーのウエイトレス仲間アーリーン、新興宗教の教祖スティーブと、主要キャラからサブキャラまで、とにかく誰も彼もがひとクセもふたクセもある濃ゆいキャラ。そんなキャラクターが織り成す人間(?)ドラマが面白くないわけなく、彼らの行く末がどうなるのか、難しいことなどなーんにも考えなくてもどっぷりハマれること必至だ。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『ヴァンパイア・ダイアリーズ』 『オリジナルズ』 『Being Human/ビーイング・ヒューマン』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

昼ドラ並みの泥沼愛憎劇『Empire 成功の代償』をヒットに導いた、“ダイバーシティ問題”とは?

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『Empire/エンパイア 成功の代償 DVDコレクターズBOX』(20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン)
 アメリカン・ドラマは、総じてクオリティが高い。特に近年はネットワーク局、ケーブル局、さらに配信サービスの台頭で、映画並みのスケール感を持った作品もザラにある。一昔前まで映画俳優がテレビシリーズに出演するのは都落ちと捉えられていたが、今では映画スターのドラマ出演もまったく珍しくなくなった。世界配給は当たり前となり、たくさんのドラマが日本でも気軽に見られるようになっている。それに加えてここ数年、ハリウッドではダイバーシティ(多様性)についての意見が飛び交い、主要キャストに、非白人俳優を起用する動きが目立っている。これについては、映画界よりもドラマ界のほうが一歩先を行くようで、今ではブラック、ラテン、アジアンと、さまざまな人種の俳優たちが、主演や主要キャラクターとしてキャスティングされている。こうした波に乗って、2015年の3月にスタートして以来、12週連続で視聴率をアップさせたという驚異的なヒットを記録したのが『Empire 成功の代償』だ。  音楽業界を舞台に、スラム出身のヒップホップ・アーティストから巨大音楽レーベルのCEOにまで上り詰めたルシウス・ライオンとその家族の愛憎劇を描いた本作は、映画『チョコレート』や『プレシャス』『大統領の執事の涙』等を手掛けた映画監督リー・ダニエルズと、ジュリアン・ムーア主演のテレビ映画『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』でエミー賞作品賞・脚本賞を受賞し、俳優としても活躍するダニー・ストロングがタッグを組み、さらにマドンナなどの楽曲をプロデュースした名プロデューサー、ティンバランドが音楽総監督を務めるという、まさに今のアメリカテレビ界を象徴するような豪華スタッフが贈るドラマだ。当然、音楽はかなりハイクオリティで、番組のサウンドトラックはグラミー賞にもノミネートされた。 『Empire』はブラック・カルチャーを真正面から描き、その主要キャラクターの多くがアフリカ系アメリカ人という、従来のドラマのパターンとは真逆のキャスティングも大きな成功を収めた理由のひとつ。これまでも、ウィル・スミスの出世作となった『ザ・フレッシュ・プリンス・オブ・ベルエア』など、ファミリー・コメディのジャンルでは黒人俳優メインの作品はあったが、ドラマシリーズで本格的にブラック・カルチャーをフィーチャーしたこと、黒人社会から高く支持され、それが爆発的なヒットにつながっている。これもまた、ダイバーシティを絶妙に具現化した結果といえるだろう。 そもそも、音楽にはかなり力を入れている本作だけに、ゲストもかなり豪華。グラディス・ナイトやパティ・ラベルといった重鎮、メアリー・J・ブライジやスヌープ・ドッグといったヒップホップ界のスター、エステルやリタ・オラといった若手スター、さらにナオミ・キャンベルやジェニファー・ハドソン、コートニー・ラブも出演。シーズン2ではアリシア・キーズやNe-Yo、ベッキーGなど、シーズン3では歌姫マライア・キャリーも登場し、大きな話題を呼んでいる。 とはいえ、日本人的にはラップもヒップホップもブラック・カルチャーもいまいちなじみが薄いという人は多いだろう。だが、華やかな音楽業界の舞台裏を刺激的に描いたストーリーはかなり興味深く、見応えもある。音楽やカルチャーに詳しくなくても、十分に魅了されるだけのクオリティがあるのだ。だが、何よりこのドラマの肝となるのが、家族の愛憎劇だ。 9歳で麻薬の運び屋となり、スラム街を生き抜いてきた主人公ルシウスが、そもそも清廉潔白とは無縁の人物。自身の音楽的才能と、犯罪スレスレどころか、まさしく犯罪に手を染めて音楽業界に巨大帝国を築き上げた彼が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で余命宣告を受けたところからドラマは始まる。彼は3人の息子のうち一人を後継者にしようとするが、長男アンドレはビジネス面では有能だが、音楽的才能がないため評価が低く、次男のジャマルは音楽的才能豊かだが、ゲイであることが許せず、三男ハキームは天才的なラップの才能を持つが、まだ若く未熟な問題児と、どれも決め手に欠ける状態。  そこに登場するのが、かつてルシウスの罪をかぶって長期服役していた、元妻クッキーだ。彼女によって、ルシウスが築き上げた巨大帝国は、大きな嵐に巻き込まれる。このクッキーがとにかくパンチのある人物で、あっという間にドラマの主導権を握っていく。ド派手ファッションに身を包み、歯に衣着せぬ物言いとしたたかさで、ルシウスの前に立ちはだかる彼女の存在が、ドロ沼愛憎劇を加速させていく。ルシウスとクッキーのラブ/ヘイトな関係に、ルシウスの現恋人アニカも巻き込まれ、壮絶な女のバトルが繰り広げられる。次から次へと事件が起こり、ジェットコースターのように波乱が続く家族のドラマは、まさに昼メロ。  そう、このドラマは、いわゆるプライムタイム・ソープ(夜版昼メロ)といわれる作品なのだ。どれほどアメリカン・ドラマのクオリティが上がったとしても、中毒性の高い昼メロは、やっぱり根強い人気。ソープ・ドラマはいかに(メロ)ドラマを引き起こすかが重要なので、強引な展開で無理やりドラマを生み出していく。それゆえ、ツッコミどころが多々あるのが面白さだ。ハイクオリティのサウンドを楽しむもよし、クッキーのド派手ファッションと名語録を楽しむもよし、ムチャクチャな愛憎劇にツッコミを入れるもよし、人種的問題だけでなく、楽しみ方においてもダイバーシティ化しているのがこのドラマの魅力なのだ。 ちなみに、クッキーを演じるタラジ・P・ヘンソンは、昨年ジャマル役のジャシー・スモレット、ハキーム役のブリシャー・グレイと共に来日したが、まんまクッキーそのものでかなりパワフルな人物。彼女は『Empire』に出演する前まで、犯罪ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』に出演していたが、こちらも見てみると、そのギャップに驚かされるだろう。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『DALLAS/スキャンダル・シティ』 『glee/グリー』 『リベンジ』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin

昼ドラ並みの泥沼愛憎劇『Empire 成功の代償』をヒットに導いた、“ダイバーシティ問題”とは?

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『Empire/エンパイア 成功の代償 DVDコレクターズBOX』(20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン)
 アメリカン・ドラマは、総じてクオリティが高い。特に近年はネットワーク局、ケーブル局、さらに配信サービスの台頭で、映画並みのスケール感を持った作品もザラにある。一昔前まで映画俳優がテレビシリーズに出演するのは都落ちと捉えられていたが、今では映画スターのドラマ出演もまったく珍しくなくなった。世界配給は当たり前となり、たくさんのドラマが日本でも気軽に見られるようになっている。それに加えてここ数年、ハリウッドではダイバーシティ(多様性)についての意見が飛び交い、主要キャストに、非白人俳優を起用する動きが目立っている。これについては、映画界よりもドラマ界のほうが一歩先を行くようで、今ではブラック、ラテン、アジアンと、さまざまな人種の俳優たちが、主演や主要キャラクターとしてキャスティングされている。こうした波に乗って、2015年の3月にスタートして以来、12週連続で視聴率をアップさせたという驚異的なヒットを記録したのが『Empire 成功の代償』だ。  音楽業界を舞台に、スラム出身のヒップホップ・アーティストから巨大音楽レーベルのCEOにまで上り詰めたルシウス・ライオンとその家族の愛憎劇を描いた本作は、映画『チョコレート』や『プレシャス』『大統領の執事の涙』等を手掛けた映画監督リー・ダニエルズと、ジュリアン・ムーア主演のテレビ映画『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』でエミー賞作品賞・脚本賞を受賞し、俳優としても活躍するダニー・ストロングがタッグを組み、さらにマドンナなどの楽曲をプロデュースした名プロデューサー、ティンバランドが音楽総監督を務めるという、まさに今のアメリカテレビ界を象徴するような豪華スタッフが贈るドラマだ。当然、音楽はかなりハイクオリティで、番組のサウンドトラックはグラミー賞にもノミネートされた。 『Empire』はブラック・カルチャーを真正面から描き、その主要キャラクターの多くがアフリカ系アメリカ人という、従来のドラマのパターンとは真逆のキャスティングも大きな成功を収めた理由のひとつ。これまでも、ウィル・スミスの出世作となった『ザ・フレッシュ・プリンス・オブ・ベルエア』など、ファミリー・コメディのジャンルでは黒人俳優メインの作品はあったが、ドラマシリーズで本格的にブラック・カルチャーをフィーチャーしたこと、黒人社会から高く支持され、それが爆発的なヒットにつながっている。これもまた、ダイバーシティを絶妙に具現化した結果といえるだろう。 そもそも、音楽にはかなり力を入れている本作だけに、ゲストもかなり豪華。グラディス・ナイトやパティ・ラベルといった重鎮、メアリー・J・ブライジやスヌープ・ドッグといったヒップホップ界のスター、エステルやリタ・オラといった若手スター、さらにナオミ・キャンベルやジェニファー・ハドソン、コートニー・ラブも出演。シーズン2ではアリシア・キーズやNe-Yo、ベッキーGなど、シーズン3では歌姫マライア・キャリーも登場し、大きな話題を呼んでいる。 とはいえ、日本人的にはラップもヒップホップもブラック・カルチャーもいまいちなじみが薄いという人は多いだろう。だが、華やかな音楽業界の舞台裏を刺激的に描いたストーリーはかなり興味深く、見応えもある。音楽やカルチャーに詳しくなくても、十分に魅了されるだけのクオリティがあるのだ。だが、何よりこのドラマの肝となるのが、家族の愛憎劇だ。 9歳で麻薬の運び屋となり、スラム街を生き抜いてきた主人公ルシウスが、そもそも清廉潔白とは無縁の人物。自身の音楽的才能と、犯罪スレスレどころか、まさしく犯罪に手を染めて音楽業界に巨大帝国を築き上げた彼が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で余命宣告を受けたところからドラマは始まる。彼は3人の息子のうち一人を後継者にしようとするが、長男アンドレはビジネス面では有能だが、音楽的才能がないため評価が低く、次男のジャマルは音楽的才能豊かだが、ゲイであることが許せず、三男ハキームは天才的なラップの才能を持つが、まだ若く未熟な問題児と、どれも決め手に欠ける状態。  そこに登場するのが、かつてルシウスの罪をかぶって長期服役していた、元妻クッキーだ。彼女によって、ルシウスが築き上げた巨大帝国は、大きな嵐に巻き込まれる。このクッキーがとにかくパンチのある人物で、あっという間にドラマの主導権を握っていく。ド派手ファッションに身を包み、歯に衣着せぬ物言いとしたたかさで、ルシウスの前に立ちはだかる彼女の存在が、ドロ沼愛憎劇を加速させていく。ルシウスとクッキーのラブ/ヘイトな関係に、ルシウスの現恋人アニカも巻き込まれ、壮絶な女のバトルが繰り広げられる。次から次へと事件が起こり、ジェットコースターのように波乱が続く家族のドラマは、まさに昼メロ。  そう、このドラマは、いわゆるプライムタイム・ソープ(夜版昼メロ)といわれる作品なのだ。どれほどアメリカン・ドラマのクオリティが上がったとしても、中毒性の高い昼メロは、やっぱり根強い人気。ソープ・ドラマはいかに(メロ)ドラマを引き起こすかが重要なので、強引な展開で無理やりドラマを生み出していく。それゆえ、ツッコミどころが多々あるのが面白さだ。ハイクオリティのサウンドを楽しむもよし、クッキーのド派手ファッションと名語録を楽しむもよし、ムチャクチャな愛憎劇にツッコミを入れるもよし、人種的問題だけでなく、楽しみ方においてもダイバーシティ化しているのがこのドラマの魅力なのだ。 ちなみに、クッキーを演じるタラジ・P・ヘンソンは、昨年ジャマル役のジャシー・スモレット、ハキーム役のブリシャー・グレイと共に来日したが、まんまクッキーそのものでかなりパワフルな人物。彼女は『Empire』に出演する前まで、犯罪ドラマ『パーソン・オブ・インタレスト』に出演していたが、こちらも見てみると、そのギャップに驚かされるだろう。 ★このドラマにハマった人におすすめ! 『DALLAS/スキャンダル・シティ』 『glee/グリー』 『リベンジ』 ●まくた・ちひろ 映画・海外ドラマライター。『日経エンタテインメント!海外ドラマSpecial』『ゲーム・オブ・スローンズ パーフェクト・ガイド』(日経BP社)、『海外ドラマTVガイド WATCH』(東京ニュース通信社)、『映画秘宝EXドラマ秘宝vol.2~マニアのための特濃ドラマガイド』(洋泉社)等に寄稿。Twitterアカウントは@charumin