
「爆買い仕掛け人」の異名を取る、鄭世彬氏。
昨年「ユーキャン新語・流行語大賞」も受賞するなど、日本人にとってすっかり耳慣れた言葉となった「爆買い」だが、そもそもどうして起きたのか? その背景をひもとく一冊の本が上梓された。『爆買いの正体』(飛鳥新社)だ。
著者は台湾人作家で、「爆買い仕掛け人」と称される鄭世彬(チェン・スウビン)氏だ。今年も春節の連休シーズンが到来し、中国人観光客の動向に注目が集まる中、鄭氏に爆買いや日本のインバウンドの今後について聞いた。
――昨今の中国人の日本での爆買いぶりを見て、どう思われますか?
鄭 台湾人は、中国人よりも10年早く日本で爆買いをしていたんです。台湾の人口は中国の約60分の1なので、それほど目立たなかっただけなのですが。ですので、私は中国人の訪日ビザの取得要件さえ緩和されれば、いつかは今のような爆買いが巻き起こるだろうと予想していました。
もともと中華圏の消費者には、まとめ買いの習慣があるので、台湾人や中国人が、次いつ来られるかわからない日本で、ここでしか買えないもの、ここで買ったほうが安いものをできるだけたくさん買って帰ろうとするのは、自然なことだと思います。メディアでは、中国経済の停滞により、中国人の日本での爆買いもやがて鳴りを潜めるという見方もあります。しかし、中国人より先に日本で爆買いをしていた台湾人を例にするなら、その心配はないでしょう。台湾もここ十数年間、不況を経験し、人々の実質賃金が低下しましたが、日本での爆買いは減るどころか増えていますから。高級ブランド品などを買う人は減っても、家電製品や日用品、消耗品の爆買いは続くでしょう。
――今後、中華圏からの旅行者の新たな爆買い対象となりそうな、日本製品やサービスは何かありますか?
鄭 これまで、台湾人や香港人に人気となった日本製品やお店などが、次に中国人に人気になるということが何度も起きている。例えば昨年には、高級炊飯器が中国人の爆買い対象となりましたが、台湾人や香港人の間では10年ほど前に人気でした。つまり、台湾人や香港人の日本での消費行動を見れば、中国人に次に売れる商品がわかるといってもいいでしょう。ちなみに今、台湾人に人気の日本製品といえば、美容家電。特に、パナソニックの高性能ドライヤーですね。今年の春節では、中国人にも大いに売れるかもしれません。
中華圏の消費者が、日本で買いたいのは、日本人に支持されている商品やサービスです。中国人の爆買いぶりが注目される中、日本の企業は中国人向けに特化した製品やサービスを売り出していますが、一部の日本初心者を除いて、広く支持されるとは思わない。想像してみてください。例えばヨーロッパにでも旅行に出かけて、日本語のメニュー表が外に張り出されていて、店員がペラペラの日本語で客引きしているようなレストランに、進んで入りたいでしょうか? 実際、日本を訪れる台湾人の中には、中国語が聞こえてこない店をあえて選んで買い物や食事をするという人も増えています。中国人があふれ返る銀座にも、台湾人はあまり行かないですね。

上梓された鄭氏の著書のひとつ。注目の日本製の医薬品や化粧品が紹介されている。
――中華圏からの旅行者に爆買いしてもらうためには、どうすればいいでしょうか?
鄭 そのあたりは本著に詳しく書いてあるのでご覧いただきたいのですが(笑)、ひとつ紹介するとしたら、パッケージデザインの工夫があると思います。例えば、日本の薬局で売られている医薬品には、中華圏で“神薬”などと呼ばれ、爆買い対象となっているものがあります。人気の理由としては、その品質や信頼性などが一番ですが、パッケージザインにも要因がある。中華圏の薬のパッケージは、いかにも薬品然としたかわいげのないデザインですが、日本の薬のパッケージは、まるでお菓子のような、ポップなものが多いですよね。日本語が読めない外国人は、そうしたかわいらしいデザインに思わず、パッケージ買いしてしまう人も多いんです。特に中華圏の人は、金や銀のキラキラしたデザインに弱いですね。
――日本のインバウンドの可能性、課題などについて、思うところがあれば教えてください。
鄭 インバウンドは、確かに外国人が相手ですが、外国人仕様になってしまってはいけないと思います。ここ数年、毎月日本に来ているんですが、東京はだんだん日本らしさが失われている気がします。小売店では中国語のポップが多すぎですし、飲食店も過度に外国語対応が進んでいる。日本のインバウンドは、ここで一度、日本の本質に戻ってほしいと思います。一方、地方に行くと、まだまだありのままの日本が残っている。台湾人の間でも、観光地としてはメジャーではない日本の地方を訪れることが密かなブームとなりつつあります。今後は地方の魅力を伝えることが、日本のインバウンドの鍵となってくるのではないでしょうか。
●チェン・スウビン
1980年、台湾台南市生まれ。日本製の医薬品や化粧品の情報発信を続ける日本薬粧研究家として、台湾・中国で11冊の本を上梓。「爆買い仕掛け人」と称される。