
テレビ朝日系『M-1グランプリ2015』公式サイトより
2015年12月6日、東京・テレビ朝日で『M-1グランプリ2015』の決勝戦が行われた。総勢3,472組が参加したこの大会で見事に優勝を果たしたのは、トレンディエンジェル。前年末の『THE MANZAI 2014』でも準優勝していた彼らが、今大会では敗者復活戦を勝ち抜いて逆転優勝を成し遂げた。
5年ぶりに復活した今回の『M-1』では、従来の形を継承しながらも、さまざまな部分でマイナーチェンジが行われていた。その中で最も注目を集めたのは審査員の顔ぶれが変わったことだ。これまでは、松本人志、島田紳助など、押しも押されもしないお笑い界のレジェンド芸人たちが審査員を務めていた。一方、今年は中川家・礼二、笑い飯・哲夫など、過去の『M-1』で優勝した芸人9人が審査員として名を連ねることになった。
審査員が変わったことで、審査の基準や結果にどういう影響があったのか? 結論から言えば、それほど大きく何かが変わったわけではない。ただ、審査される側の芸人とそれほど大きく芸歴に差があるわけでもなく、似たような立場にある今回の審査員は、これまでの審査員よりも客観性や公平性を強く意識していたように見える。
例えば、番組を盛り上げるために、特に面白いと思った1組の芸人に極端に高い点数を付ける、といったスタンドプレーのようなことをする人はいなかった。それぞれが自分なりの基準で真剣にネタを見て、真面目に評価を下していた。その結果、それぞれが付けた点数の偏りが少なく、僅差で勝負が決まる接戦となっていた。
決勝ファーストステージを勝ち抜いたのは、ジャルジャル、トレンディエンジェル、銀シャリ。この3組が最終決戦に挑むことになった。いずれも、自分たちの漫才の形がはっきりしていて、それを堂々と演じられる技術とセンスを兼ね備えたコンビだ。
ただ、ファーストステージと最終決戦で2本のネタを披露したことで、3組の明暗が分かれた。ジャルジャルと銀シャリは、どこにも隙がないスマートなネタ作りを得意としている。ネタはきっちりした完成品として客の前に提示される。ただ、そのせいで、似たようなテイストのネタを立て続けに2本演じると、「2本目より1本目の方が良かった」などと、それぞれのネタの質の良し悪しに目が行ってしまいがちだ。
一方、トレンディエンジェルはそういうタイプではない。彼らの漫才には圧倒的な軽さと速さがある。自らの頭髪の薄さをネタにした軽いボケを矢継ぎ早に連発して、観客を強引に自分たちの世界に巻き込んでしまう。
そして、よくよく観察してみると、笑いの取り方の種類が豊富だ。若者ウケするキャッチーなボケから、お笑いマニアにウケそうなちょっとひねったボケまで、いろいろなテイストの笑いを1本の漫才に詰め込んでいる。緩急自在のボケを操り、見る者を翻弄しているのだ。実は相当な戦略家なのだが、「Wハゲ」という見た目の強烈さが隠れみのになっているため、こざかしい戦略を感じさせないのも強みだ。
また、決勝に出ていた9組の中で、時事ネタを積極的に取り入れていたのも彼らだけだった。賞レースに向けて何年もかけてネタを作り込むのが当たり前になっている昨今、すぐに古くなって賞味期限切れになりやすい時事ネタを取り入れる若手漫才師はあまり多くはない。トレンディエンジェルは「五郎丸」「トリプルスリー」「爆買い」「ライザップ」など、最近の流行りのキーワードをこれでもかというくらい詰め込んで、現代を生きる観客の心に刺さる漫才を仕上げていた。
最終決戦の審査では、審査員9人中6人がトレンディエンジェルに投票していた。彼らの漫才は観客だけではなく、審査員の気持ちもしっかりとつかんでいた。ジャルジャルや銀シャリの漫才は、いつどこで見ても安定して面白い、磨き抜かれた1つの「作品」だった。ただ、トレンディエンジェルの漫才は、良くも悪くも今この場所でしか楽しめない刹那的なパフォーマンスとなっていた。そこに独自の価値が出ていた。
トレンディエンジェルは、「トレンディ」という芸名の通り、ひたすら今という時代にこだわり、そこに特化したネタを地道に作り続けることで、ついに『M-1』というビッグタイトルを手にした。日本中の視聴者が彼らの漫才には脱毛、いや、脱帽したに違いない。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)