
『「SASUKE」30回記念DVD ~SASUKEヒストリー&2014スペシャルエディション~』(TCエンタテインメント)
今年もまた、『SASUKE』がやって来た。日本が誇る特大スポーツエンタテインメント番組であり、究極のサバイバルアタックであり、そしてある種の人間にとっては、人生を懸けた祭りである。1997年に初めて放送され、今回の放送で実に第31回大会。ただのスポーツバラエティではない。数々の伝説的なドラマを生んできた、ある種のドキュメンタリーだといっても過言ではないだろう。
そして『SASUKE』が生んだ最重要人物といえば、もちろん山田勝己である。『SASUKE』によって人生を変えられ、また『SASUKE』にも大きな影響を与えた、ただの素人。しかし「ミスターSASUKE」という異名はだてではない。自宅に『SASUKE』を模したセットを自ら作り、そのために職を失うほどだ。そんな彼はいま、山田軍団・黒虎というチームを結成し、後進の指導に当たっている。
数多くの出場者が軒を連ねる『SASUKE』ではあるが、やはり山田勝己という存在は特別だ。視聴者の心をつかんで離さない、独特の何かを山田勝己だけが持っている。番組でもそれをわかっているのだろう、山田勝己の発言テロップだけは筆文字で表記する、という特別な扱いを与えている。
ではなぜ、山田勝己は人の心をつかむのだろうか? その秘密を探るため、今回は番組における山田勝己の発言をすべて書き起してみる。山田軍団・黒虎からは3人の資格がエントリー。彼ら、弟子に対して山田勝己はどんな言葉を投げかけたのか? それを知ることで、山田勝己の神髄に触れてみたいと思う。
<倉庫管理 松原慎司へのコメント>
※1stステージ挑戦中&失敗後
「何も言うことなし」
「回らないよ OK もう一歩 回らない OK もう大丈夫 もう大丈夫 跳べ」
「(セットの裏側からは)見えない 見えない なんにも見えない」
「ゆっくりええぞ」
「もっと もっと もっと」
「よっしゃ! 行け!」
「松原早く 時間ない もうここは行くしかない 行くしかない」
「外せ 足上げとけ 足上げとけ」
「上がれ えい えいっ 上がれ 上がった 上がれ 登れ 登れ」
「あと10秒か」
「下りをトントンと降りてたら」
<建築現場指揮官 渡辺陽介へのコメント>
※1stステージ失敗後
「はい 終わり」
「キツいな これタイムキツいぞ これたぶん」
「これ全然やもん 全然間に合えへん」
「よう日置間に合ったな」
「サンキュー サンキュー」
<ゲームセンター従業員 山本浩茂へのコメント>
※1stステージ挑戦中
「楽勝 楽勝 はい 段 段」
「OK OK」
「(セットの裏側でも)見えるやん ここから」
「ここ軽く 軽く跳べよ 跳んだらつかめるから 行け GO!」
「行ける! 押せ! 靴が脱げてる」
「靴! 靴履け!」
「腕を振れ 腕を振れ 腕振らんと腿上がらんぞ」
「よっしゃー!」
「もう行け! もう行くしかない 行くしかない」
「根性 根性 根性」
「いける 10秒 10秒 楽勝 楽勝」
「よっしゃー! よっしゃー!」
「はぁ~」
<ゲームセンター従業員 山本浩茂へのコメント>
※1stステージ成功後
「よっしゃ やったやった OK OK ええで」
「ええぞ ええぞ またきた」
「キツい キツい しんどいよ、それは」
<ゲームセンター従業員 山本浩茂へのコメント>
※2ndステージ挑戦中&失敗後
「1st終わったら、すごい肩の荷がおりる 2ndから不思議と楽しくなる」
「OK 山本 楽しめ 得意や 得意! お前の得意なとこや 行け」
「下りも楽勝 楽勝 楽勝」
「そこは慎重に 降りるとこ重要」
「泳げ!」
「まだ時間ある 時間ある」
「うわぁ そのまま行っとったら 行けとんや」
「疲れてんねん 疲れた時に顔つけるのが怖いんや」
「一瞬顔つけた時に、恐怖感を感じたんやろ 溺れるという」
以上が、今回の『SASUKE』における山田勝己のすべてのコメントである。どうだろうか? 文字にしてみるとあらためてわかるが、具体的なアドバイスは、ほぼ何もしていない。「行け」「上がれ」「登れ」「泳げ」などは、そもそもそうしなければいけない場面なのだから、山田勝己に言われなくたってそうするだろう。山田勝己はほとんど何も言っていない。ただ夢中で、ただがむしゃらに、『SASUKE』に対する思いを、その熱量だけを叫んでいる。
だが、まさにそれこそが、山田勝己が人の心をつかむ理由なのだ。確かに、ツッコミどころは数多くある。何を言っているんだと笑うこともできるだろう。バカなんじゃないか、と。しかし、だからこそ、それゆえに、人は山田勝己に心をつかまれる。ゲストのNON STYLE井上裕介は「俺も黒虎に入りてえよ!」と叫んだ。山田勝己は、言葉は悪いが、確かにバカなのかもしれない。しかし、もっと大事なことがある。山田勝己は、バカであること、あるいはバカだと他人から思われることを、一切恐れていないのだ。
今回、山田軍団・黒虎として唯一1stステージをクリアした山本浩茂は、こう言った。「(山田軍団のことで)いろいろバカにされてますけど、山田さんあっての僕らなので」と。やっぱり、バカにされているのだった。そりゃあ、そうかもしれない。完全制覇したからといって、大金が手に入るわけではない。わかりやすい地位や名誉は、そこにはない。そんなことのために、日々、鍛えている。バカなんじゃないか。だけど、こうも言えるだろう。バカだって、いいじゃないか、と。
数字や結果が求められる世の中で、バカになれることが、一つぐらいあったっていい。本当は誰だって、そう思っているんじゃないか。そして山田勝己は、実際にそうやって生きている。だから人は、心のどこかで山田勝己に憧れる。バカであることを恐れないという生き方を、自ら選んだその人に。
そしてそれは、決して他人事なんかじゃない。人は誰だって、山田勝己になることが許されている。ツッコんだり、ツッコまれたりが蔓延する昨今だ。山田勝己という生き方は、そんな今だからこそ、必要とされているのではないだろうか?
【検証結果】
山田勝己がそうであるように、そもそも『SASUKE』自体が、バカであることを恐れない番組である。今回、4年ぶりの完全制覇を成し遂げた出場者の密着VTRが多く放送されていたが、これはたまたま彼が完全制覇を成し遂げたからであって、ほかの出演者に対しても程度の差はあれそういった映像素材は存在しているのだろう。その無駄を『SASUKE』は恐れない。そしてこの番組は、時間の都合でカットされたり、放送時間が短かった挑戦者に対して、わざわざその人のためだけに映像を編集してDVDを渡しているという。非合理で、非生産的で、言ってしまえば、バカである。だから『SASUKE』は素晴らしい。バカであることを恐れないと決めた者は、誰よりも強いのだった。
(文=相沢直)
●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa