LD(学習障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断された幼少期のこと、看護師から風俗嬢への華麗なる転身、整形にどっぷりハマった日々……自らに起こった面白くも壮絶な日常を明るく楽しく描き、人気を博している漫画家、沖田×華(おきた・ばっか)。望まれない妊娠、児童虐待、中絶の現実……最新作『透明なゆりかご』(KC kiss)では、高校2年生の時の産婦人科アルバイトで経験したさまざまな「命」の在り様を、10代女性の視点で描いている。今後、テレビコメンテーターなどとしての活躍も期待されている彼女が、世のさまざまなセイ―性、生、整(形)をsayする! ――沖田さんの経歴を拝見すると、一体どんな方なんだろうと……ネットでも「沖田×華とは何者なのか?」というまとめがあるくらいなんですよ。 沖田×華(以下、沖田) こんなんですよ、本当に(笑)。 ――元看護師で、元風俗嬢で、整形マニア。経歴がにぎやかすぎます。 沖田 おかしいですよね。 ――風俗のお仕事は、石川にあった伝説のおっぱいパブが最初だと。 沖田 そう、「山乳証券」です(笑)。そこから名古屋のマットですね。風俗で働くということに関してはあんまり抵抗なくて、看護師の仕事をしてたから、ちょっとやそっとの人体の不思議には驚かない。ただキャバクラとか、疑似色恋みたいなのでお金をもらうのはたぶんヘタクソです。「俺のこと好きなんだろ」って言われても「好きなわけないじゃん! 何言ってんだこのハゲ」って言っちゃう。そんなんだったら、体でおとなしくさせたほうがいいやと思ってまして(笑)。「私すごい頭悪いけど、23歳でどれだけ稼げるか実験したい」と思い、山乳のナンバーワン嬢に「(風俗で)一番キツいところ教えてくれ」とお願いしました。 ――己に課しますね~(笑)。 沖田 男の人に攻められるのは嫌いなので、マットヘルスにしたんですよ。マットだったら自分が好きなようにできて、90分コースがあるところならお金もいっぱい入るだろうと。そこでは2年くらい働いて。おかげで、いわゆる“マット筋”、上腕二頭筋と背中がすごく鍛えられました。 ――当時の話は『×華のやらかし日記』(ぶんか社)にたくさん出てきますよね。ちんこ話は本当に面白い(笑)。 沖田 私ね、名前覚えられないんです。お客さんたちはだいたい偽名ですし、“吉田ひろし”か“田中たけし”か。「も~、どの吉田だよ!」って思いながらお客さんのところに行って脱がせてちんこ見ると「あ、先月来た人や」って、やっとわかる。そこからは次から次へと想い出話に花が咲くんですけど、お客さんに「どうしていつも、最初の時間はおとなしいの?」って、怪訝そうな顔されますね。 ――まさか、顔見ても思い出せないとは言えませんもんね。 沖田 だから、さっさと脱がせる。 ――風俗嬢っていうと「不幸な生い立ち」とか「貧困」とか「情緒が不安定」とかベタなイメージで語られがちですが、沖田さんの本を読むと全然違うんですよね。 沖田 昔、待機所に風俗嬢のことを書いた本が置いてありまして、それを読んでは、みんなでバカにしてました。なんだこれ? 風俗嬢のこと書いてるけど、この人、風俗のこと何にもわかってなくね? って。風俗嬢のことを書く男性エッセイストを、くそみそにけなしてました。 ――どんなところに引っかかりました? 沖田 変にストーリー作りすぎ! ナンバーワン性感エステ嬢が「男の人とプレイすると、すごく気持ちが入っちゃう。だから終わった後に1時間かけて、そのお客さんのことを忘れて次のお客さんの相手をする」とか。ちょっと待て、これおかしくないか? だとすると、このナンバーワンは客と客の間に1時間のロスタイムがあるってことだよね? だったら、1日に3~4人しか客取れねぇじゃん! 今までナンバーワンの子、腐るほど見てきましたけど、そんなまどろっこしいことしてる子に会ったことないですよ。 ――男の願望なのかもしれないですね(笑)。 沖田 「風俗嬢=理由アリ」という。「なんでこんな仕事やってんの?」って聞くから「私エッチ大好きだから」って答えてるのに、「そんなはずはない。何か抜き差しならない理由があるはず」って、ねぇわ!(笑) それが必ず、プレイが終わったあとなんですよ。 ――本当にいるんですね。風俗嬢に説教する人。 沖田 いますいます。またモテないやつなんですよ。でも「前の仕事はなんだよ?」「正看(護師)ですけど」って言ったら、たいてい黙りますけどね。 ――考えてみたら、看護師さんという職業も妄想されがちな仕事でした。 沖田 合コンで「俺が倒れたら……」「俺の親が倒れたら……」(面倒見て)とか本当に言ってくる人がいて、なんで無給でそんなことしなきゃならんのだと唖然としたことあります。 ――介護要員!? 沖田 彼らは信じて疑わないんですよ。仕事と関係なく、病気の人を助けるのが私の生きがいなんだと。はぁぁぁ? ですよ。 ――整形にハマったのは、何かきっかけがあったんですか? 沖田 最初は胸でした。美容外科に勤めていたこともあり「このおっぱいが大きかったら、人生は無敵になるはず」と思いきってやってみたら、十数年悩んでいたことがたった1時間で解消されました。整形すれば、コンプレックス全部解決じゃん! と目からウロコだったんですよ。それからは自ら進んで、脂肪吸引、二重、脱毛……etc。 ――すごい。 沖田 ただ「人から言われて」整形すると、依存症になる危険が高いかも。自分で望んだわけじゃないから、やっぱり仕上がりがイメージと違う、それを繰り返すというパターン。あと10代だとまだ脂肪も硬いので、脂肪吸引は痛いです。顔もハリがあるから、まぶたを縛って二重にしても弾力でパンって戻ったりする。もう少し全体的にたるみ気味になってからやったほうがいいです。ちなみに私は22歳の時に脂肪吸引しましたけど、こんな痛いことあるかなっていう痛みでした。足はむくむし、内出血はハンパないし。放っておくと固まっちゃうので、「痛い痛い痛い」と叫びながら毎日10kmくらい自転車で走らなきゃいけない。 ――風俗や整形などの経験を描いた今までの著書と比べると、この『透明なゆりかご』は少しテイストが違いますよね。高2でここまで産婦人科の現実を経験するって、すごいことではないでしょうか? 沖田 まだ処女でしたしね(笑)。バイトの初日に「中絶」に立ち会ったんですよ。カーテン開けたら、女の人がパカーッて足広げていまして。そんなの見るのも初めてだったのに、ましてや中絶手術なんて……マスクの下で、あわあわエア絶叫してました。術後に先生から「これを片づけといて」って塊のようなものを渡されて、それを決められたケースに入れて、シールを貼るんですけど、そこに性別欄があったのを見て初めて「あぁこれは……」と気が付いた。不思議なことに、ちっとも気持ち悪くなかったです。 ――本にもありますが、「日本人の死因の第1位は人工妊娠中絶」(1997年当時)というのも、あまり知られてはいないことですよね。 沖田 病気じゃないんでね。(中絶は)防ごうと思ったら防げるような気がしないでもないじゃないですか。でも、こんなに産めない事情の人がいるんだ、10代の女の子がデキちゃって、彼氏は逃げちゃって、親にも言えないどうしようっていうシチュエーションはとても多い。知識がないこともあるけど、男に言いくるめられちゃう子がほとんどじゃないかな。「大丈夫、外に出すから」とかね。それじゃ遅いんだよ! 「避妊して」って言って嫌われたらどうしようって思っちゃうんですよね、好きだから。 ――かといって、この漫画はそういう男性への怒りが燃料になっているわけではないので、かえって胸に迫るというか、答えのない迷路にはまったような気持ちにもなりました。 沖田 半分くらいは「仕方ない」って考えているのかもしれません。男と女のズレは、どうしようもないなと思っちゃいますね。たぶん、男に対して期待してないんだと思う。こうしてほしいとかああしてほしいとか思うから不満も出てくると思うんですけど、私はそういう感情が薄いんですよ。男のキャラを描けない理由もそれ。男のキャラクターは描いても動かないので、すぐ殺しちゃう(笑)。 ――『透明なゆりかご』で印象的だったのは、高校当時の沖田さんが「母性とは何か」考えあぐねているくだりでした。もしかしたら、この本のテーマそのものなのかもしれませんが。 沖田 そうですね。母性は、たぶん私自身にはないものなんです。看護学校時代も「母性とは脳みその中にシステム的に組み込まれていて、それが出産と同時に出てくる」って教わったんですけど、赤ちゃんを見ても自分の中にまったく感知できなくて。あれほど出産を心待ちにしていた人が、実際に生まれてきた赤ちゃんを見て「違う!」って否定する現場も目の当たりにしてきました。あまりにも個人差が大きすぎて、一言で「母性とはこういうもの」なんて言えないと思います。言えたとしても、それはあくまでも自分が思っている範囲のことであって、結論は出ないものじゃないですか。でも母性がなくても子どもを育てている人はいる。そういう人に「それでも子どもは育てられるものなの?」って聞いたら「義務だ」って。産んだこの子をいっぱしに育てるという義務。だからといって、嫌々やっているわけじゃないんですよ。自分に与えられた仕事として、ちゃんと子育てをする。そういう人もいるから「母性を語る」って相当難しいことだと思います。ただ女が唯一子どもを産める性だから、出てこざるを得ない問題なんだろうなとは思います。 ――児童虐待などは、必ず「母性」とセットで語られますよね。 沖田 それはちょっと違いますよね。「母性」はもっと移ろうもののような気がします。どんなに泣いてもかわいいと思える日もあれば、何をしてもかわいいと思えない日だってあるでしょう。グラフがこう、上と下を行ったり来たり繰り返すような状態じゃないですか? 親は子どもと一緒にいることで“耐性”を高めていくというか、勉強しながら育っていくんだと思う。そして何事にも動じなくなった時に、そのグラフはゆるやかに一定するんじゃないでしょうか。 ――高校生の時のあのバイトが、今の沖田さんに影響を与えているのはどんなところですか? 沖田 「私は妊娠できない」という確信かな(笑)。とりあえず10代は絶対に妊娠しちゃダメだと。避妊に関しては, ものすごく厳しくなりました。当時相手はいなかったですけど(笑)。夏休み前に友達集めて「私、今こういうところでバイトしてて、若い子の中絶すごい多いからさ、中絶ってああしてこうしてこうやってやるんだよ」って話をするんです。だいたいみんな「やめて~!!」と言います。それで「わかった? ちゃんとゴム買うんだよ」って促して解散(笑)。 ――「経験者は語る」いや、「目撃者は語る」ですね。 沖田 中絶は、痛いし、ツラい。私のように実物を見ることはないけど、やっぱり心の傷になる。一方で男は、な~んにもダメージない。「今はダメだけど、今度結婚するときに作ろうよ」くらいの軽いノリ。そのズレ。中絶したカップルは、すぐ別れます。男は普通のテンションなんだけど、女はそのうち去っていく。そりゃそうですよね。「私はあなたのこと信じて子ども作って体も傷つけたのに、どうしてそんなに軽いの?」って。でも、それは男の人にはわからないんです。おそらく、一生埋まらないズレなんでしょう。 ――今までの体験談を漫画にしたことで、何か変わったことはありますか? 沖田 そうだなぁ……。自分より周りの目、かな。ある程度口では言ってましたけど、実際に本になるとね。『やらかし日記』なんか、こんなに明るく風俗嬢の日常を描いてるのに、まだ「悲劇のヒロイン」的観点でレビューを書く人がいるんですよ。「きっと親に愛されなかった子なんだろうな」とか。だからここまで描いても「元風俗嬢」というのは世間的にはものすごくマイナスなんだとわかったし、自分がまったく感じてないことや思っていないことを勝手に結論づけて語られるんだなとも。私、別にツラくないですよ(笑)。 ――沖田さんはこれからテレビのコメンテーターなどで、ひっぱりだこになる予感がします……。 沖田 いや、無理です。絶対に言ってはいけないことを言ってしまう(笑)。私はたぶん好きなんですよ、人の体を触るのが。いやらしい意味ではなくね(笑)。昔タイに行った時に怪しげな店で「きんたまマッサージ」を教えてもらったことがあるんです、60くらいのおばちゃんに。あれはすごい技術らしい。「きんたまマッサージは、ちんこじゃなくて脳みそが元気になる」って、そのおばちゃんが言ってました。今の彼氏に毎日やってるんですけど、特に反応なくて(笑)。次はきんたまマッサージ師っていう仕事もいいなと、ちょっぴり考えている今日この頃です。 (取材・文=西澤千央) ●おきた・ばっか 富山県出身。1979年2月2日生まれ。小学4年生の時に、医師よりLD(学習障害)とADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受ける。看護師、風俗嬢を経て、2008年『こんなアホでも幸せになりたい』(マガシン・マガジン)で漫画家デビュー。著書に『×華やらかし日記』(ぶんか社)、『ガキのためいき』(講談社)ほか。
