「こっちに住んでる日本人が“広州の軍艦島”と呼ぶ、巨大な廃墟があるんです。行ってみますか?」 広州在住の日本人にそう教えられ、さっそく現地へと向かった。場所は市内中心部で、繁華街にも近く、立地のいいエリアにある。典型的な中国の社区(集合住宅が密集してひとつのコミュニティーを形成している、日本でいうマンモス団地に似た共同体)で、入り口には「セン村(センはニスイに「先」)」と書いてある。奥に入っていくと、徐々に解体途中で放棄された建物が見えてきた。しかし、人々が行き交い、営業中の商店もある……。いったい、どういうことなのか?
この社区は1999年に建設された。ワンブロックがまるごと社区になっており、総面積は4.07平方キロメートルもあり、最盛期には4万人の人が生活していたという。しかし経済成長で再開発が進む中、この社区を含む一帯は金融・ビジネスの中心である「広州CBD」エリアに指定された。そこで広州市は2010年のアジア大会開催決定に際し、住民を強制立ち退きさせ、再開発することを決定。しかし、住民たちの反対運動が巻き起こり、計画が難航した。当局は警察と軍隊まで動員して排除を行ったが、住民はなおも抵抗。とくに10年8月の大規模な衝突では、死者も出たほどだ。15年現在もいまだに解決せず、社区は半ば解体されつつも、まだ1万人ほどが住み続けているという。廃墟の後ろには高層ビルが立ち並ぶ
解体途中のまま、放置された集合住宅
社区をくまなく歩いてみるが、解体途中の集合住宅がいくつもあり、ホコリ臭く、いつコンクリ片が落ちてきてもおかしくない状況で、危険極まりない。足元には鉄くずやガラス片などが散乱し、上下左右を常に警戒しないと歩けない。住民たちは慣れたもので、素知らぬ顔で廃墟の中を歩いている。水道や電気などライフラインが止まっているエリアもあり、昼間なのに真っ暗な道もある。軍艦島というより、かつて香港に存在した、あの有名な九龍城の雰囲気に似ているかもしれない。 この巨大な廃墟の中で、野菜や鶏を売る市場があったり、営業を続ける理髪店があったりして、カオス状態だ。上を見上げると、バルコニーには干し肉や洗濯物があり、まだ住居として使用している人がいることがうかがえる。社区の中はに今にも崩れ落ちそうな建物があり、大変危険だ
露店商や住民が行き交う様子
廃墟の中に営業中の野菜市場も
一眼レフカメラを首から下げた、若い中国人女性や欧米人の姿もチラホラ。巨大な廃墟は、ちょっとした観光スポットと化しているようだった。しかし、迷路のように入り組んだ中心部の路地には、平日昼間だというのに目つきの悪い男たちが目的もなくにウロウロ歩いており、かなり不気味だ。光を遮る路地は真っ暗で、人の目だけが白く光り、筆者のようなよそ者を鋭くにらみつける。この瓦礫の山を登ると、別エリアに抜けられる。瓦礫が新たな道となる
汚れきったため池。生活用水として利用していたのだろうか
案内してくれた広州在住の日本人は言う。 「市が強引に再開発を決めてから、すでに5年以上がたちますが、立ち退きが完了する気配はありません。ここはもともと、800年以上の歴史のある古い村だったので、代々住んできた住民も多く、立ち退きは難しいでしょう。また再開発計画に際し、社区のトップの収賄など、お決まりの汚職事件も報じられた。毎年、経済成長率10%以上を叩き出していた、イケイケドンドンの中国経済を象徴する“亡霊”みたいなものです」閉鎖された学校。子どもたちはどこへ行ったのか
一部では、「観光資源」として、この巨大な廃墟を保存しようという動きもあるという。経済成長の負の面を象徴する「セン村」は、今後どうなってしまうのだろうか――。 (取材・文・写真=金地名津)入り組んだ路地は、昼間だというのに真っ暗だ






























