
O-train車内。こんなひとりクリスマス席は嫌だ
韓国の山奥にサンタ村が登場、といううわさを聞いて早速出かけてみた。しかしサンタって、北欧にいるんじゃなかったの? 北欧と韓国のコラボレーションとは、これいかに。
サンタ村のある「汾川(プンチョン)駅」は、朝鮮半島の東側、慶尚北道・奉花郡の山の中に存在し、ソウルから1日1往復出ている直行列車「O-train」を利用しても、片道4時間45分かかる。朝8時15分に出発するその列車に乗り込んだところ、乗務員のお姉さんがサンタの格好で乗客をお出迎え。飾り付けもBGMもクリスマス一色と、浮かれ気分の高い観光列車となっていた。

どーん
出発するなり、乗務員によるハンドベル演奏やクイズ大会が行われ、テンションの高さについていけない場面もややあったが、やがて車窓からの風景は穏やかな山村のものに。山と田んぼの間に民家が点在する、まさに韓国の田舎という素朴な景色が、どのように北欧っぽく変わっていくのかと思いきや、それは突然現れた。

いえーい
古い駅舎を強引にクリスマスっぽくデコレーションした、浮かれた建物が登場! これぞ、サンタ村の中心地・汾川駅である。表に回ってみると、サンタの実物大人形がこれでもかと配置され、サンタ村であることを主張する。下車した韓国人観光客たちは、写真撮影に大盛り上がりだ。

ぶおーん

プレゼントはどっちのつづら?
駅前の広場には他にも記念撮影スポット、雪ぞりコーナー、サンタ部屋(?)、願いごとを貼る掲示板、お土産屋などがあったが、えっ、サンタ村ってまさかこれだけ?
いや、さすがにそんなはずはない。駅前にはクリスマスツリーの並ぶ通りがあり、ここもサンタ村の一環らしい。

もしやここはフィンランド……なわけない
道沿いに並ぶ家々は平屋の韓国住宅であり、路上にてマッコリやおしるこやスルメ、特産品の山菜などが販売されている様子は、韓国の田舎の風景そのままだ。店頭にテラテラしたクリスマスデコレーションがどっさり施され、店のおばちゃんがサンタ帽をかぶっていても、北欧っぽさを演出するどころか逆に強烈な韓国っぽさを発揮している。

めっちゃ韓国

生サンタも登場! 白髭つけないのが潔い
そんな通りをほんの200メートルほど歩くと、ショベルカーがぐんぐん作業している広場が登場。ズッコズッコと大音量でポンチャックを流す特産品売り場の奥に、風車やサンタ像も見える。道はそこで終わりとなっており、角を曲がるとクリスマス気分は何もない素朴な山村が広がっていた。えっ、サンタ村ってまさかこれだけ?
駅舎に書かれていた説明によると、この小さな集落が「サンタ村」を名乗りだしたきっかけは2013年、マッターホルンの麓に位置するスイスのツェルマット駅と姉妹関係を結んだことにある。以降、14年から季節限定で「サンタ村」を運営、それまで1日10人も訪れなかった秘境駅に、年間15万人の観光客が訪れるように。

通りの奥には整備途中の広場が
提携先はスイスということで、フィンランドの元祖サンタ村とは直接関係なさそうだが(一応、ツェルマット駅近郊にはザンクト・ニクラウスという、ドイツ語でサンタクロースを意味する村がある)、フィンランドならずともサンタ村は世界中にあり、北海道や青森にもサンタランドなるスポットがあるわけで、韓国の山奥にサンタ村があったところでなんの問題もないはずだ。
ちなみに、今年度のサンタ村の開業期間は12月19日から2月14日まで。クリスマス直前にようやくオープン、しかも2月までやっているというのは非常に韓国っぽいなと思う(韓国では、1月末までクリスマスの飾りを出しっぱなしにするお店が少なくない)。
次の町へと向かう列車を待ちながら、いま来た通りを再度ぶらり。サンタはともかく、露店で干し椎茸や山菜を物色したり、もうもうと立ち上がる湯気に誘われ屋台に立ち寄り、ゴボウ茶をいただいたりと、田舎町ののんびりした雰囲気をたっぷり味わう。

ドングリをゼリー状にした料理「ムク」も、郷土の名物のひとつ。素朴すぎる味わいのゼリーを、ご飯と一緒に食べる。
また、屋台でアルミの器に入ったマッコリを立ち飲みしていると、恰幅のいい村の青年が私にぐっと近寄り、口元に手を添えながら「失礼ですが……」とささやいた。宗教の勧誘かとぎょっとした私に、彼は丁寧な口調でこう言った。
「チャックがお開きのようですよ」。
それを聞いた私は恥かしさを感じるよりも、温かな気持ちで胸がいっぱいになった。見ず知らずの人にチャックの開き具合をわざわざ教えるなんて、都会では出会うことのない人情味ではないか。それは私にとって、まさにサンタからの贈り物だった。
(取材・文=清水2000)