「なんとか生き残った」アジアを制した“チンピラ上がり”渋谷莉孔が凱旋帰国!

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 元不良が、元WBOアジア太平洋王者を撃破!――チンピラ上がりで地下格闘技出身の渋谷莉孔(30=和術慧舟會HEARTS)が先月23日、アジア最大の総合格闘技イベント『ONE』の中国大会に出場し、ボクサー上がりのロイ・ドリゲス(34=フィリピン)に完勝した。これで海外2連勝。いよいよ次戦は、世界タイトルマッチに挑むことになりそうだという。凱旋帰国した渋谷に、完全アウェイだった中国遠征の苦労話と、今後の展望を聞いた。 * * * ――連勝、おめでとうございます。 渋谷 「なんとか生き残った」って感じですね。今回は試合前から大変なことだらけで、マジでツラかったっす。 ――遠征に同行したコーチの大沢ケンジさんも、試合前の渋谷選手の様子について「今まで見たことないぐらいピリピリしていた」とブログに書いていました。 渋谷 まず、行きの飛行機からひどかったんですよ。上海経由で長沙に向かったんですが、飛行機が遅延しまくりでなかなか乗り継ぎできず、本来なら8時間で着くところなのに15時間もかかって。上海で待たされてる間も空港が寒くて寝れないし。 ――減量中の死亡事故を受け、今回から計量の回数が増えて尿検査も導入されたため、それもキツかったのでは? 渋谷 地獄でした。オシッコの濃度が適正値かどうかを調べるために、現地入りした日から試合当日まで3日間、尿検査を何度もやるんですが、すぐに出せと言われて出るもんじゃないし、出たら出たで濃くてアウトだったりするし。水を飲んで薄くすれば今度は体重が増えちゃうから、いったいどうすりゃいいんだ? って感じで。オシッコを6時間くらい我慢させられる場面もありましたね。あと、試合当日はバスが会場を間違えるし、会場に着いたら着いたで公安が会場をチェックするってことで、車内に閉じ込められたまま3時間以上も待たされました。
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リハーサル中の場内。
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場内で整列する公安。
――公安は何人ほどいたんですか? 渋谷 100人ぐらいはいたかも。選手は会場入りする前に公安から持ち物検査を受けたんですけど、マイナス2度とか3度の外で、裸になんなきゃいけなかった。会場に入ってからもまた体重検査の時間が遅れたりしてイライラもピーク。自分がいた青コーナーの控え室は、なぜか暖房も使えませんでした。 ――ピリピリするのも無理はないですね。 渋谷 特に尿検査のことが終始気がかりで、髪の毛が抜けるくらいのストレスでした。オシッコが濃いかどうかなんて、自分じゃわからないじゃないですか。その不安で現地入りしてからほとんど寝れなかったし、食べたらオシッコが濃くなるかもしれないから食べられないし、どこにいても寒いし……。試合をやる前に風邪をひいちゃいました。 ――そんな状況下、試合に対するモチベーションをどのように保ったんですか? 渋谷 正直、何度も気持ちが折れましたね。試合当日も「今日は負けるんだろうな」と思ってましたから。 ――いつも強気な渋谷選手にしては珍しいですね。 渋谷 体調が最悪な上、相手に関する新情報を現地で聞いてさらに弱気になりました。これは中国に着いてから知ったんですが、対戦相手はなんと、元WBOスーパーフライ級のアジア太平洋王者だったんですよ。元プロボクサーで50戦くらいのキャリアがあるってことは出発前からわかってましたが、元チャンピオンってことはまったくの初耳で。そんなこと試合の2日前ぐらいに急に聞かされたら、焦るじゃないですか。「言うの遅すぎだろ! いっそのこと知らないほうがよかったよ!」って感じで(笑)。試合当日、控え室にいるときも相手がアップしてる様子がモニターに映るもんだから、「うわ、パンチ速ぇな」って、ますますナーバスになっちゃって……。 ――戦う前から凹んでいたんですか。 渋谷 おまけにもう一つ誤算があって。相手はフィリピン人だから寒い場所に弱いだろうと踏んでたんですけど、あいつ実は、北京にジムを持ってるらしいんですよ(笑)。だから寒いのに慣れてるってことも判明して。
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渋谷いわく「青コーナーの控え室はスネから下が麻痺するぐらいの寒さ」。選手たちはご覧の通り、アウターを着たままウォーミングアップを行った。
――そうしたマイナス要素を数多く抱えながらも、入場時は威勢がよかったですね。マットをバンバン激しく叩き、咆哮しながらケージ入り。デビュー当初、2008年頃の渋谷選手を見ているようでした。 渋谷 寒かったし、不安だったから、ああやって自分にカツを入れたんですよ。 ――中国では初めての試合でしたが、観客の反応はどうでしたか? 渋谷 僕はあんまり聞こえなかったけど、名前を呼ばれたとき、ブーイングがすごかったらしいです。相手選手のコールのときには歓声が上がってたし、試合中も僕が足を滑らしたりすると客席が沸いてましたから、完全にアウェイですね。試合後も、観客から握手とかを求められることは一切なかったです。 ――緊張は? 渋谷 緊張はないけど、ずっと「負けるかも」と思いながら戦ってました。 ――1ラウンドから主導権を完全に握っているように見えましたが。 渋谷 1ラウンドが終わっても「大丈夫かな?」と不安で。立った状態では一発もパンチをもらわなかったですけど、パンチ力があるのはわかった。「負けるかも」っていう不安は最後の最後までありましたね。 ――今回はテイクダウンした後、ヒジ打ちを多用しているのが印象的でした。クリーンヒットはありましたか? 渋谷 もうちょいでしたね。あんだけ守られると、ガツンと当てるのは難しい。でもハイキックは何発かクリーンヒットしましたし、タックルもうまく入れましたね。 ――結局、3ラウンドに渡って攻勢を維持し続けた渋谷選手が、判定勝ちを収めました。 渋谷 終わってみれば完勝でしたね。試合直後の心境は「生き残った」って感じ。ホント、負けが許されないんで。 ――負けたらタイトル戦が遠のきますからね。 渋谷 タイトル戦うんぬんの前に、スポンサーのために負けられないんですよ。スポンサーの人に「格闘技をやめろ」と言われたらやめるしかないし、「死ね」と言われたら死ななければならないので、負けは許されない。負けてその人に恥をかかすわけにはいかないんですよ。格闘技に復帰するキッカケを作ってくれた人で、俺の戦いはその人ありきなので。 ――渋谷選手の隠された一面を見たような気がします。さて、気になるのは今後の展開です。今回勝ったことで、ベルトの可能性が見えてきましたね。 渋谷 はい。早ければ今年の4月に、デェダムロン(・ソー・アミュアイシルチョーク)っていうONEの世界ストロー級チャンピオンとタイのバンコクで戦うかもしれないです。向こうが断ったら流れますけど、実現するなら、たぶんタイトルマッチになるでしょう。タイはデェダムロンのホームなので、判定だと厳しいっすね。KOか一本を取らないとヤバイです。 ――デェダムロンは、どんな選手なのでしょう? 渋谷 ルンピニーで3階級制覇してるムエタイ上がりの選手で、総合(格闘技)に転向後は6戦6勝。イボルブっていうビッグスポンサーがついてます。ちなみにイボルブの経営者は、アジアのトップ10に入る金持ちらしいっす。
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取材場所の喫茶店で先輩のA氏とバッタリ再会。
(ここで突然、たまたま同じ喫茶店にいた渋谷の先輩・A氏が、「おおっ! なんでおまえ、こんなところにいるんだよ!」と言って取材に割り込んできた。渋谷とは数年ぶりの再会だという。A氏は渋谷のことを熟知しており、格闘技にも造詣が深いので、そのまま同席してもらうことにした) ――Aさんは渋谷選手の活躍についてどう思いますか? A氏 プレッシャーのかかる海外でちゃんと結果を出し続けてるから、「すごい」の一言だよね。こいつは不良上がりでイロモノ的なところがあるから、悪く言われがちじゃないですか。ひがみじゃないけど、「練習ではたいしたことなかった」とかいう格闘家の声もよく聞くんですよ。でも世の中、結果がすべて。「名前売って、客呼んで、結果を出してるのは誰?」って話ですよ。日本の地下格闘技じゃほぼ無敵だった拳月でさえ、中国ではかなり苦戦してるらしい。海外はそれだけ厳しいんですよ。いくらでも強いやつがいるし、勝手も違うから。拳月も今ではおまえのことをリスペクトしてるってさ。 ――渋谷選手の長所は何だと思いますか? A氏 ビジネス的に見たら、クレバーで自己プロデュース能力があるところ。チケット売って人を楽しませる才能があるよね。格闘技はエンターテインメントだから、やっぱそれがないとね。技術的には、ステージが違うから俺なんかが言うのも気が引けるけど、とにかくディフェンスがうまいよね。並の選手のパンチじゃ、こいつに当たんないもん。 渋谷 僕は「神の目」を持ってますから(笑)。 A氏 今後苦戦するとしたら、渋谷に蹴り勝てるぐらいの技術があるやつと当たったときだよね。たとえばあいつ、なんだっけ、ONEかなんかですげえ強いやついるじゃん。ムエタイから来たやつ。 渋谷 デェダムロンですか? A氏 それそれ、そいつ。 渋谷 今度、そいつとやるかもしれないんですよ。 A氏 マジか? ヤバイヤバイヤバイ! あいつとやんの? あいつ、めちゃくちゃケンカ強いよ(笑)。総合に転向してから日が浅いけど、もうすっかりマッチして対応できちゃってるから。打撃勝負じゃキツイよね。ガードしても上からバンバン蹴ってくるし、ヒジ打ちも首相撲もハンパないし、スネもめちゃくちゃ硬いと思うよ。キックを受けた箇所、全部が弱点になる。痛いよ、あのスネ。あいつは本当に強い。俺、見ただけでわかるもん。「こいつ、ケンカじゃ負けたことないんだろうな」って。何が何じゃないのよ、結局。練習してるとかしてないとかブランクがどうとか、そういうのまったく関係なしに、どこまでいっても強いやつは強いから(笑)。
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――そんな強敵・デェダムロンを倒すには、どうすればよいでしょう? A氏 あのレベルだと、アドバイスもクソもねえよな。根性勝負だよ。一発だと倒れないじゃん? 腰も強いし。それでもテイクダウンのチャンスはきっとあると思うから、寝かせたら立たせないつもりで根性勝負だな。ケンカ勝負。ケンカが強いほうが勝つよ(笑)。極論、そういうことになるね。 * * *  不良時代はストリートファイトで無敗を誇った渋谷。そのケンカ根性は、果たしてデェダムロンに通用するのか? 世界ベルトを賭けた“タイマン”の実現に期待しよう。 (取材・文=岡林敬太/写真提供=大沢ケンジ)

「待たせたな──」最高の仕上がりで挑む、地下格闘技“希望の星”渋谷莉孔がいよいよ中国へ殴りこみ!

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中国へ出発する前日、所属ジムの「和術彗舟會HEARTS」にてフィジカルメンテナンスを入念に行う。
 シブリク、いよいよ中国へ出陣!――地下格闘技出身で世界を舞台に活躍中の渋谷莉孔(30)が、今月23日(土)、中国・湖南省長沙市のSWCスタジアムで行われるアジア最大の格闘技イベント『ONE WUJIE〜DYNASTY OF CHAMPIONS』に参戦する。昨年12月にマレーシアで行われる予定だった試合は自身のケガにより流れてしまったが、その悔しさをバネに年末年始、特別強化トレーニングを重ねてきたという渋谷。「以前とは比べものにならないほど強くなった」と自画自賛する最高の仕上がりで海外3戦目に臨む。 * * *  渡航直前の渋谷に、インタビューを行った。 ――今回の対戦相手は、フィリピン人のロイ・ドリゲス。いったいどんな選手でしょう? 渋谷 ボクシングベースの選手ですね。ボクシングで50戦ぐらいしてから、総合(格闘技)に転向したらしいです。彼は前の試合でストロー級のタイトルマッチに挑んで敗れてるんですが、その動画を見る限り、「いいところが消えてしまってるかな」という印象ですね。ボクシング中心で勝負すりゃいいのにタックルを盛んに取り入れたりして、長所が消えちゃってる。まぁそれから1年近く経ってるんで、修正してる可能性もありますけど。 ――相手の身長は163㎝。渋谷選手より7㎝低いです。 渋谷 相手のほうがちっちゃいんで、こっちからタックル行くのは面倒だなってのはあるけど、打撃は基本、上背に勝るこっちのほうが有利でしょうね。そのへんの読みが大きく狂わなければ大丈夫。軽量級なんでスピードがあるのは当然として、あとはどれくらい力があるか。こればっかりはやってみないとわからないです。 ――急な試合決定でしたが、体重調整は大丈夫ですか? 渋谷 最近のONEの大会で、無理な減量をした選手が脱水症状で亡くなる事故が起きまして。その影響で今回からいろいろ厳しい減量制限が加わったんですよ。現地のホテルに着いた瞬間から試合当日の入場前まで何度か計量があって、100グラム200グラムも増やせないし落とせない、みたいなシステム。尿検査もプラスされて、尿が薄まったり濃くなったり量が減ったりしたらアウトという難しい条件で、このシステムのほうが死ぬんじゃないか、っていう(笑)。どうなることやらって感じですけど、やるしかないですね。 ――試合は何分何ラウンドですか? 渋谷 5分3ラウンドです。5ラウンドよりも、3ラウンドのほうが好きですね。そっちのほうが時給が高いんで(笑)。 ――昨年11月に骨折したアバラは大丈夫ですか? 渋谷 完治しました。それまで全然使ってなかった肋骨周りの筋肉も鍛え始めたんで、今後は打たれてもケガには繋がりにくいと思います。
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――昨年末から、新しいトレーニング方法を取り入れたそうですね。 渋谷 パッキャオやデラホーヤにフィジカル指導した経験もある池田充宏先生のもとで強化トレーニングを始めました。それによって、ものの考え方から、体の使い方、練習方法、食生活まで、ガラッと変わりましたね。 ――主にグレードアップした点は? 渋谷 全部ですね。すべてにおいて、以前とは比べものにならないほど強くなりました。車にたとえると、モデルチェンジなんてもんじゃない。車から電車に生まれ変わったような感じです。 ――それは見ものですね。平直行さんとの対談(記事参照)で課題とされた「相手をやっつける戦い方」「観客を楽しませる戦い方」もクリアできそうですか? 渋谷 つまりは自分が強くなって、相手との力の差が大きくなれば、派手にKOできて、結果的に面白い試合になる。今回、体の鍛え方を変えることによって爆発力も増したから、期待してもらって大丈夫です。練習でもホント、相手を吹っ飛ばせるようになりましから。平さんから教わった「必殺のヒジ打ち」も要所要所で使うつもりです。 ――中国で戦うことについては? 渋谷 日本と一緒でこの時期は寒いので、そこはプラスかも。相手はフィリピン人なので、寒いとこでは動きが鈍くなるはず。ブラジル人のアドリアーノ・モラエスが北京でカザフスタン人とやったときは最初、体が動かず、体重も落ちなかったらしいです。暑い国の人が中国で試合をするのは不利でしょう。 ――中国は反日感情があるため、ブーイングを浴びるかも。 渋谷 対戦相手が中国人だったらすごそうだけど、今回はフィリピン人だから、どうなんでしょうね。まぁ、あったとしても気にしないです。むしろ最初はブーイングがあるぐらいのほうがいいかも。それをひっくり返すのが楽しいから。
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戦闘態勢完了!
――最後に、ファンへメッセージをお願いします。 渋谷 「待たせたな」「今回俺の試合を見れるおまえらはホントに幸せもんだな」って言いたいです。逆に、もし今回の試合で実力を出せなかったら俺はホントに運が悪い、って思いますね。 ――どういう意味ですか? 渋谷 それぐらい今の自分は強くて調子がいい、ってことです。生まれ変わった今の自分をみんなに見せたくてしょうがない。お披露目パーティーみたいなもんですね。早くベールを脱ぎたいです。だから試合前の事故や風邪には十分気をつけます(笑)。 ――非常に楽しみです。今日はありがとうございました。  当日の試合は下記URLからライブストリーム(9.99ドル)で観戦可能。日本からも大きな声援を送ろう!  http://onefc.com/livestream (取材・文=岡林敬太) 大会……ONE WUJIE〜DYNASTY OF CHAMPIONS(CHANGSHA) 会場……SWCスタジアム(中国・湖南省長沙市) 会期……2016年1月23日(土)18:30(現地時間)※日本との時差は1時間

刃牙から刃牙へ──! 渋谷莉孔×平直行、緊急対談で継承された“ヤバすぎる”必殺技とは!?

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 刃牙から刃牙へ、必殺技を伝授!――漫画『グラップラー刃牙』の主人公・範馬刃牙のモデルになった平直行(51)と、地下格闘技から世界へ進出した“リアル刃牙”こと渋谷莉孔(30)の対談がついに実現した。平から渋谷へ、最強かつ最凶の格闘家になるための奥義が今、継承される! * * *  現在、アジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship』で活躍する渋谷莉孔。格闘家としてデビューしたのは今から7年前で、その舞台は不良系格闘技イベント『THE OUTSIDER(アウトサイダー)』の第3回大会だった。主催者側から“リアル刃牙”という異名を付けられた渋谷は、対戦相手を罵倒しながら殴打する凶悪なファイトで圧勝し、デビュー戦で観客の心を鷲掴みにしたのである。  その試合でレフェリーを務めていたのが、奇しくも平直行だった。  平といえば、空手、修斗、ブラジリアン柔術、シュートボクシングなどを習得する格闘技の達人だ。明るいキャラクターとトリッキーなファイトスタイルで人気を集め、前述したように漫画『グラップラー刃牙』のモデルにもなった。現在は指導者やレフェリーとして活躍中である。  浅からぬ縁を持つ二人の「刃牙」が、このたび、久々の再会を果たした。格闘家としてさらなる高みを目指す渋谷が「今、最も対談したい人」として、平の名前を挙げたのだ。
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渋谷 ご無沙汰です。今日はよろしくお願いします。  久しぶりだね。アウトサイダーで僕がレフェリーをしたとき以来かな? 渋谷 かもしれませんね。  あのときは確か、KOかなんかで勝ったんだよね? 試合中に叫んだりしてたから、「変な面白いヤツが出てきたな」と(笑)。その後の活躍ぶりは、Facebookでたまたま出てきたときとかに、見てますよ。僕は長年ピンからキリまでいろんな選手を見てるから、海外に行ったくらいでは驚かないけど、頑張ってるなって思って見てます。 ――今回の対談に先立ちまして、渋谷選手の最近の試合動画を平さんにチェックしていただきましたが、率直な感想をお聞かせください。まずは今年3月の海外デビュー戦、アドリアーノ・モラエス戦から。  なんやかんやで練習をちゃんとしてるんだろうな、ってことは伝わってきました。あ、意外とマジメなんだな、みたいな(笑)。技術的にはまぁ普通って言ったらあれだけど、いわゆる総合(格闘技)の技術をしっかりマスターしてるなってことはわかりますよね。 ――10月に行われた海外2戦目、ユージーン・トケーロ戦についてはどうでしょう?  試合的には手堅くてよかったけど、プロ的にはなんかしようよ、って感じかな。ガハハハハ! ――なんかしようよ、とは?  やっぱ、相手をやっつけないといけない。相手もそんな弱くないから、難しいのはわかるけど、最初から最後までずっと手堅く寝技で戦って、観客がずっと応援して見てくれるかというと難しいよね。
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――渋谷選手から平さんへ、質問がありましたら遠慮なくどうぞ。 渋谷 平さんのスパー映像を見ると「プレッシャーが強い」と感じるんですが、いつもプレッシャーはどう作ってますか?  僕、プレッシャー強い? 渋谷 映像を見ると、けっこうガンガン行ってるなぁと。  僕、こう見えて緊張しながら試合をするんで、相手が来るのがイヤなんですよ。だから相手が地味に来ると、派手な技を返して追っ払っちゃう。だから僕、試合でローキックを食らったことがほとんどないんですよ。あとで相手に聞くと、「おっかないなぁ、おまえ。入ったらいきなり来るから」って言われることが多いんです。 渋谷 カウンターが早いんですかね?  そう。相手がローを打ってきたら、すかさずハイを返す。と、相手はおっかなくなって、そのあと意外と行けないんだって。僕は性格的に、大きい技を好む。でもたまに疲れると小さな技もやる。それはそれで相手からしたら、なんかイヤみたいで。そんなこんなで端から見たら、僕が全体的に試合を支配してるように見えるのかも。 渋谷 プレッシャーをかけてる意識は薄いんですか?  うん。大事なのは距離感かな。こっちがバーッて行くと相手も打ち返してくるからイヤだ。でも最初に自分の距離にして、相手に詰めさせるのもイヤ。じゃあ、どうするか? 僕が考えた戦い方は、相手が来たらブロックするんじゃなくて、スッとかわして、後出しジャンケンみたいに攻めるやり方ですね。 渋谷 相手の「打ち終わり」を狙うんですか?  「打たせて、打ち返す」みたいな感じかな。相手が来ないと面倒くさいし、逆にウワーッと来過ぎるのも面倒くさい。ウワーッと来られたら大技を放つと、もう一回相手が離れてくれる。 渋谷 大技とは?  飛んでみたりとか(笑)。当たんなくてもいいんです。お客さんが満足してくれるから。たまに当たったりもするし。 渋谷 そういう技、自分も欲しいんですよね。判定勝負になりそうなときのための、終盤に出せる派手な技。  総合だと、どうなんだろうねぇ……。 渋谷 あと、打撃のフェイントも覚えたいです。総合の世界だと、打撃のフェイントが得意な選手ってほとんどいないですよね?  いない、いない。僕は打撃だけの世界でずっと生きてきたから、総合で打撃が来てもたいして怖くない。フェイントはねぇ、いい練習パートナーを見つけて、決まった形をいくつも作っていくしかないかな。ずっとフルラウンドで、バランスを崩さずできるよう、何度もそれらを反復練習する。「片側に目線を引きつけておいて、見えない逆側からパンチを打つ」というパターンをいくつもいくつも考えて、無意識でも動けるように延々と反復練習あるのみですね。 渋谷 わかりました。
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 あとは「意識の入れ替えのフェイント」も覚えたほうがいいかな。チャンバラで例えると、大人の剣豪と、刀を持った子供が向き合ったとする。普通に考えたら子供に勝ち目なんかないわけだ。実際、腕もなく駆け引きもできない子供は、刀を頭上に振りかざしたまんま、「うわぁぁぁぁ」と叫びながらまっすぐ相手に向かって突っ込んで行くんだけど、次の瞬間、子供は小石に蹴つまずいてしまう。と、大人の剣豪は一瞬ハッとなり、その隙に、前のめりに倒れた子供の刀でバッサリ斬られてしまう……という話。今のは不測の事態によって斬られてしまった! って話だけど、これを戦いのいろんな場面で自覚的にやれたら強いですよ。意識を抜いて、すぐ入れると当たるんです。 渋谷 もっと詳しく教えてください。  1…わざと力を入れる、2…スッと力を抜く、3…再び力を入れる。この2と3の間隔を意識的に素早く行うわけ。相手をつかむとき、相手を投げるとき、相手を殴るとき、相手から逃げるとき……全部に使えますよ。「ON、OFF、ON」の入れ替えの速度を鍛えるんです。「行くぞーーーーーーーーーーーーやめた…やっぱ行くっ!」って感じ。 渋谷 そういえば、寝技をブリッジで返すときに、自分もそれに近いことをやってますね。「行って、やめて、また行く」と、みんな引っかかる。「パワーあるね」って褒められるけど、そうじゃなく、実は相手が引っかかってるだけなんですよ。「力を入れて、抜いて、また入れる」と、ひっくり返せるんです。  一流の格闘家はみんなその呼吸を体得してるけど、無意識にやってる人も多い。意識的に2と3の入れ替えを素早く行えば、もっと強烈な武器になりますよ。 渋谷 でも同じ相手に何度もやると、通じなくなりませんか?  通じる、通じる。ちょっと立ち位置を変えたりするだけで、目の前の映像が変わるから、相手はついてこれなくなりますよ。ちなみに「押して、やめて、また押す」ってのは、恋愛にも使えるテクニックです(笑)。 ――ありがとうございます(笑)。ではそろそろ、次の質問にいきましょうか。 渋谷 僕はレスリングのときの手の力が弱く、すぐにクラッチを切られたり伸ばされたりします。何がいけないんでしょう?  腕の力に頼りすぎるからいけないんじゃないかな。「骨格レベル」で体を動かすことを意識するといいです。腕だったら、ここ(肩甲骨と胸)から動かすイメージ。腕の力だけに頼ると、疲れる割に、強くないんですよ。 渋谷 なるほど。あと、寝技のエスケープを自分は得意とするほうなんですが、体の大きなパーツではなく、手足の先などを押さえられたときだけは、なかなか逃げられません。何か解決策はありますかね?  それも答えはたぶん一緒で、腕の力で逃げようとするとダメ。日頃のトレーニング方法からして間違ってる可能性があります。ちょっと見てごらん(と言ってiPadで骨格解剖図を見せながら解説)。みんなは筋肉で考えるけど、柔(やわら)は骨で考える。骨がちゃんと動けば筋肉が動く。みんなは腕を1本と思って鍛えがちだけど、中はこうなっている。ここには2本の骨があるんですよ。その2本とも使うイメージで体を動かす。手首や指も、中の骨を全部動かします(と言って自ら実演)。
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渋谷 おおおっ! めっちゃ細かく動いてますね。  これが「柔の手」なんです。簡単にはできないけど、これができるようになれば、すごいパワーが出ますよ。 渋谷 手首には筋肉はないんですか?  ないんだよ。だから、指立て伏せも指を意識すると効果が薄くなる。指の力は、前腕の筋肉から繋がる腱の力で成り立ってます。木登りをすると、そういう体の使い方を強化できるんだけどね。猿ってトレーニングをしなくても、すごい力があるでしょう? 渋谷 猿って、とんでもない握力があるって聞きますね。  しかも猿って骨が動くから、押さえ込んでも押さえ切れない。捕まえられないんですよ。人間も一緒。筋肉ではなく、骨を動かすイメージで動くと強くなれます。そういう体にしようと思ったのが、昔の人。明治維新前、ちょんまげの時代の人間だから、できたことなんですけどね。3歳や5歳になったら農家の子供は裸足で凸凹道を歩きながら川に水を汲みに行き、武家の子供は殺人の練習を始める。15歳で戦場に行かなくちゃならなかったわけですから。当時の体づかいをマスターすれば、僕の技ができるようになる。こういうのができる若い日本人が今、海外に行ったら人気出るよ。僕は年寄りだから行かないけど(笑)。 ――さきほどおっしゃった「骨格レベルで体を動かす」という動作を、もう少しわかりやすく解説してもらえますか。  じゃあ、いくつか実演しますね。まずこうやって立って、両脇を絞ります。脇を絞ったら、今度は肩甲骨を寄せます。そうすると肩が上がるでしょう? それを落とす。これだけでOK。空手の構えですよね。ここから突く運動をするといい。脇が締まってるからケガもしづらいし、骨格が奥から動くので骨の周りの筋肉も動いて、威力が増すんですよ。 渋谷 (黙ったまま凝視)
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 次に、片足を上げてみて、体のバランスを取りながら、その上げた足と両腕を自由自在に動かしてみる。野球だってそうだけど、両足が地面に着いたまんまだと遠くへボールが飛んでいかないでしょう。でもこうやって1本が安定して、その他の3つがバランス良く動けば、人間のパフォーマンスは最大限に出せるんです。 渋谷 たまに僕、片足立ちでパンチを打つ練習をして笑われるんですけど、あれって理にかなってたんですね。  うん、その練習は非常に有効。片足だと骨盤が動くから、強いパンチを打てる。筋トレするよりずっといいよ。
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渋谷 まだ世間には知られていない危険な「必殺技」みたいなのはありますか?  フフフフフ。特別にちょっとだけ教えてあげようかぁ?(ニヤリ) 渋谷 お願いします(笑)。  今の団体は、ヒジ打ちOKだよね? 渋谷 はい。  じゃあ今度の試合で、こういうヒジ打ちをやってごらんよ。脇を締めて……(以下、企業秘密のため割愛)。 渋谷 おおおおおお! 危ない感じっすね。  すごいでしょ? たぶんこれ、将来的には使用禁止になるかもしれない。危なすぎるから。でも今んとこは大丈夫。使い方が普通と違うだけで、ヒジ打ちであることに違いはないから、ダメって言いようがないでしょ。まだ実戦で使ってる選手はいないだろうから、名前を付けて使ってごらんよ。話題になるよ。そのうちルールが変わって、禁止になるかもしれないけどね。だって、下手すりゃ人が死んじゃう技だから。
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渋谷 寝技のときも使えますかね?  もちろん。こないだの試合、寝技で膠着したときにヒジで攻撃してたけど、あのやり方じゃ効かないよ。 渋谷 ヒジを畳むまでが大変で、相手に力が伝わらなかったですね。  肩が稼動しないからでしょ? でもさっき僕が教えたやり方だと、寝てやっても体重が乗るから、何倍も痛いよ。しかも自分がケガをするリスクも少ないんだわ、これ。 渋谷 ついでに寝技のときのヒザの使い方も教えてください。こないだの試合では、サイドポジションでヒザ頭を使って相手の頭を蹴ってみたんですけど、イマイチうまくいかなかったんですよ。  あれ、意外と効かないでしょ? 自分のヒザが痛いだけでしょ? 僕だったら、ヒザで蹴るんじゃなく、ヒザを落とすかな。相手の首、もしくは鎖骨を狙って。たぶんそれも禁止になるよ。ヤバイもん。死んじゃうから。 ――技術面ではなく、精神面に関する質問はありますか? 渋谷 海外へ試合に行くとき、飛行機で寝れないんですよ。  僕、すっげえ寝れるよ(笑)。 渋谷 コツは?  ない(笑)。よくよく思い出してみたら、僕もデビュー当初は寝れなかったけど、人間ってのはちゃんと必要量寝ていれば、何日か寝なくても、横になってるだけでも疲れは取れるらしい。それを知ってからは寝れるようになった。 渋谷 何時までに必ず寝るとか、普段から規則正しい生活を心がけたこともあるんですけどね。  それがよくないんじゃないかな。人間、寝ないと死ぬけど、寝れないなら寝れないでいいやと思えばそのうち寝れる。「寝れないってことはなんかひらめきがくるんだろうな」とでも思っときゃいいんですよ。案外そういう考え方が、プロにとって大事だよ。ケガをしても、「これはさらなる飛躍のためだ。新たな伝説の始まりだ」って前向きに考えればいいんです。そういう人を見たいんだよ、お客さんって。自分より悩みの大きい人を、わざわざお金払ってまで見たくないでしょ?(笑)「なんであの人あんなにすごいの!」ってのを見たい。演技でもやってればそうなっていきます。自分を演じてそのまんまいけば、やがてそっちが日常になってくるもんです。
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渋谷 日常の食生活で、心がけてることってありますか?  あります。健康に気を使わない! 渋谷 えっ!?  健康に気を使った瞬間に「魔」が忍び寄ってくる。だから健康食品は決して食べない! 体にいいことはしない! よくものを噛まない! 野菜を食べない! ライオンって生肉を噛まずに食って、腹が減るまで寝てるだけですよね。でも牛は野菜ばっかずっと食い続けて、しかも最後は食われちゃう。どっちになりたいかっていったら、僕はライオンになりたいですからね(笑)。 渋谷 そのほか、プロとして身につけておいたほうがいいことってありますか?  主戦場は海外だよね。僕だったら英語を学ぶかな。ジョークの一つや二つを言って、「あの日本人、面白いな」って思われたほうがいいんじゃない? やっぱ人気商売だから。 渋谷 言葉は重要っすよね。  僕が現役時代は、勝ち負けはあんまり意識せず、「何をやったらお客さんが喜ぶかな?」ってことだけをいつも強く意識してました。シュートの時代は、確実に勝とうと思ってやってなかった。行くだけ行ってダメだったら寝ちゃう(笑)。それでも許されるキャラを自分で作り上げたんですよ。で、そんな僕がたまに勝つと「おおおお!」と観客が盛り上がるわけです。格闘技って「強いだけでも物足りない。強くなくても物足りない」っていう世界だから、なんらかの強烈な個性や武器が絶対必要。さっきのヒジ打ちなんかをモノにすれば、きっと世界でもウケると思うよ。 渋谷 ウケるっすよね。  うん、メシが食える。ただ、あれを今の打撃にうまいことミックスしないといけない。流れの中で「ここぞ」ってときに出せば効果的だけど、単発で使ったって当たらないよ。あとは自分で研究してくれ(笑)。 渋谷 頑張ります。今日はありがとうございました。 * * *
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 12月5日に予定されていた次戦は、渋谷のケガ(肋骨骨折)により流れてしまったが、近い将来、平から受け継いだ「必殺技」をお披露目する機会が訪れるはず。今後の渋谷に注目である。 (取材・文=岡林敬太) 【取材協力】 平 & STRAPPLE道場 http://strapple-taira.com/index.html  STRAPPLE(ストライプル)は、平直行直轄の柔術道場。「仕事や学校で疲れた身体を、武術の知恵で元気に戻す」という趣旨のもと、東京都は大塚と南砂町、千葉県は幕張と行徳のゴールドジムの格闘技スタジオで開催されている。護身術や、総合格闘技の範疇に収まらない柔術の技術を学べる。「格闘技を楽しみながら体を動かす」という方針。無理のない範囲で、寝技、立ち技のスパーリングも行う。週に1日、身体のケアを兼ねながらストレス解消もできるとあって、仕事帰りのOL風の道場生もチラホラ。所在地、時間割、レッスンの案内、入会案内などの詳細は上記公式サイトまで。 【渋谷莉孔セミナー告知】  12月12日(土曜日)に都内で渋谷莉孔のセミナーが開催される。「試合もケンカもやることは一緒」という考えのもと、強いパンチの打ち方や、負けないメンタルの作り方、女性にもできる簡単護身術、減量やダイエットのコツなどを、渋谷本人がオリジナリティ溢れるロジックでわかりやすく指導。質疑応答コーナーや、記念撮影コーナーもあり。希望者は渋谷のパンチやキックを体感できるかも!? 日時/2015年12月12日(土曜日)19時00分~20時30分 会場/和術慧舟會HEARTS http://www.hearts-mma.com/    東京都渋谷区代々木2-20-12呉羽小野木ビル1FA号    TEL:03-6383-4057 定員/先着20名。年齢・性別不問。格闘技未経験者も歓迎。    参加者はトレーニングウェアをご持参ください。 料金/前売り……4500円(振込先はメールにてご案内します)    当日券……5000円(前売りで定員に達した場合、当日券の販売は行いませんのでご注意ください) 応募/E-mail:contact@hearts-mma.com    メールの件名に「渋谷莉孔セミナー参加希望」と明記し、    本文欄に、氏名・年齢・住所・電話番号をご記入の上、    上記アドレスまでメールをお送りください。    折り返しのメールにて、振込先等をお伝えします。

ついに一本拳が世界に炸裂──! 地下格闘技出身・渋谷莉孔の才能が完全開花した!!

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(c)2015 ONE Championship
 必殺技の“一本拳”が、ついに炸裂した!――地下格闘技出身の渋谷莉孔(30)が10月9日、マレーシア・クアラルンプールで行われたアジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship』に二度目の参戦。フィリピン人ストライカー、ユージーン・トケーロ(34)を圧倒し、念願の海外初勝利を掴んだ。日刊サイゾーでは、無傷で凱旋した渋谷を直撃取材するとともに、コーチの大沢ケンジ(38=和術彗舟會HEARTS代表)もゲストに招き、当日の戦いぶりや勝因を分析してもらった。前回の善戦と今回の勝利で国内外のトップファイターたちから一目置かれるようになり、ファン層も広がった渋谷。さらなるステップアップを目指すべく、年内に次戦を行い、ファン交流イベントも開催するという。地下から世界に殴り込みをかけた元アウトサイダーは、果たしてどこまで成り上がるのか? * * *  完勝だった。5分3ラウンド、ほぼすべての時間帯を寝技で支配し続けた渋谷が、3–0の判定でトケーロを下し、海外初勝利を挙げた。  帰国した渋谷を都内の飲食店に招き、インタビューを行った。減量の反動で食欲が増しているのか、はたまた元から大食いなのか、彼が迷わずオーダーしたのは「厚さ7センチ、重さ720グラム」のマグナム・ステーキ! これをひとりでたいらげながら、淡々とした口調で自身の試合を振り返る。そこに客観的な戦評も加えるべく、所属ジムの大沢代表にも同席してもらった。
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――海外初勝利、おめでとうございます。スタンドのヒジ打ちを得意とするトケーロを警戒して、もっと様子見をするかと思いきや、しょっぱなから積極的に距離を詰めて行きましたね。 渋谷 もっと全体的に競ると思ったんですけど、1ラウンドの開始早々、相手からローキックを何発か入れられたときに、「コイツ、たいしたことねえな。行けるな」と思いました。蹴られてカッとなったわけじゃないけど、「ぶっ殺してやる」って感じで、絶対に打撃を当てる自信を持って前に出たら、案の定コンビネーションがヒットした。そのあとタックルしてからは、勝手に体が動いてくれました。 ――タックルした直後、頭部にヒジ打ちを何発か食らっていましたが。 渋谷 反則覚悟で後頭部を打って来るというのは想定済みだったから、別になんとも思わなかったです。痛くもなかったし。 ――大沢さんは、序盤の戦いをどう見ていましたか? 大沢 イメージ通りだな、と。そんなに寝技ができそうな相手じゃないから、打撃で勝負しながら組めたら組んで、寝技で仕留めようという作戦だった。最初に打撃をバチンバチンって当てたとき、相手が圧力で負けたというか、ひるんだ感じがあったから、「あ、行けるな」と。ひるんだところでタックルに行って寝技に持ち込む。ここまではもう、イメージ通り。ただ、そんなに上手く行くわけないとも思った。上手く行くわけない、行くわけない……と思っているうちに、試合が終わっちゃったんですけどね(笑)。
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(c)2015 ONE Championship
――相手にほとんど何もさせなかったですね。 大沢 寝技って実力差があると、相手は何もできないんですよ。何もさせないだけの差があったんだな、と。 渋谷 相手が弱かったというより、自分のレベルが予想以上に上がっていた感じっすね。やりながら「あぁ俺、強くなってんなぁ」って思いました。 大沢 課題はフィニッシュだな。KOするか、キメるかしないと、勝っても観客の印象に残らない。 渋谷 そこが心残りですね。年に何回かしか出られない大舞台で、せっかく絵を描いたのに、最後、額に入れられなかった、みたいな。僕は試合をアートとしてとらえているんですよ。もっとヒザとかを真上から落としたほうが作品の完成度が上がって、もっと客席も沸いたのかな、という悔いはあります。 ――客席を沸かせるために、スタンドで打撃戦をすることは考えなかったですか? 渋谷 2ラウンドは打撃でやっちゃおうかと思っていたんですけど、意外なことに、相手のほうからタックルを仕掛けてきて、僕が倒されちゃった。それでムキになって、2ラウンドも3ラウンドも寝技で攻めたんですけど、仕留め切れなかったですね。 ――大沢さんにお聞きしますが、今回みたいな相手を完全に仕留めようと思ったら、どう戦えばよいのでしょう? 大沢 マット・ヒューズ・ポジション(横四方固めの体勢から自分の足と腕を使って相手の両腕を固定して)から、もっと激しくヒジやパウンドを落とし続ければ、TKOを取れたはず。 ――サイドポジションからヒジを顔面にグリグリ押しつけつつ、ヒザで側頭部を蹴る場面が続き、けっこう効いているようにも見えましたが。 渋谷 あれで終わるかな、と思ったんですが……。練習でヒザを使うと相手に大ケガをさせちゃうから、ヒザの使い方に関してはあまりシミュレーションできていなかったですね。 ――2ラウンドの終了間際にパウンドを数発、思い切り振り下ろす場面がありました。あそこは見ていて興奮しました。 渋谷 さぁこれから! ってときに、ちょうどゴングが鳴っちゃいましたけどね。 大沢 でも、判定とはいえ勝ったのはデカイよ。勝つと負けるとはでは大違いだから。どんなに善戦しても負けたら評価されないのが格闘技の世界だから。 渋谷 ですね。あと今回は、一本拳(別項参照)をきれいに決められたのがうれしかったです。最初に左フックを当ててトケーロを流血させましたけど、あれ、一本拳なんです。2戦目にして、ようやく必殺技が炸裂しました。 大沢 ようやく決まったな(笑)。
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一本拳とは、中指もしくは人差し指だけを突き出して、そこにパワーを一点集中させる殴り方。自分がケガをするリスクもあるが、当たれば相手に与えるダメージも大きい。渋谷は今年3月の海外初進出のときから、この一本拳を必殺技として使うと予告していた。もちろんルール上、反則ではない。
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(c)2015 ONE Championship
――クアラルンプールで戦うのは二度目でしたが、客席の反応はいかがでしたか? 渋谷 入場のときからヤバかったっす。ハンパじゃなかったっす。特に現地の中学生くらいの少年ファンがたくさんいて、ものすごい声援を送ってくれました。 ――前回のアドリアーノ・モラエス戦を見て、渋谷選手のファンになった少年が多いのかもしれませんね。ちなみに前回はメインイベントでしたが、今回は12試合中7試合目でした。現地での人気を考えると、もっと終盤の試合順でもよかったような気もしますけど。 大沢 格闘技の場合、人気だけじゃなく、結果も見られちゃうんですよ。前回は確かにいい試合だったけど、負けは負け。今回は勝ったけど、この1勝だけでは、そんなに扱いは変わらないんじゃないかな。次も勝って、本当にファンを引きつけたら、扱いも変わってくるはずです。 ――次戦の予定は? 渋谷 今年の12月にやることだけは決まりましたが、詳細はまだ言えません。 大沢 渋谷にはいずれ『ONE Championship』でベルトを取ってほしいですね。そうすればますます面白くなる。今年から大晦日の格闘技興業(RIZIN)も復活するし、日本の総合格闘技は再び盛り上がりつつあります。そんな中、正規の路線じゃないところから這い上がってきた渋谷みたいな存在は面白いし、テレビ的にも使いやすいし、活躍できる力もある。アウトサイダー(前田日明主催の不良の格闘技大会)出身で、地下格闘技の世界でも戦っていた渋谷は、最初こそ色眼鏡で見られがちだったけど、いまや国内外のトップファイターたちからも、うるさ型の格闘マスコミからも、その力量を認められつつありますからね。 ――大沢さんから見て、「格闘家・渋谷莉孔」の最も優れている点はどこでしょうか? 大沢 「気持ち」でしょうね。正直、日本じゃたいした戦績を挙げていないし、トップファイターと試合をやった経験もほとんどないんですよ。なのに、ああいう海外の大舞台で、ビビらず前に向かって行ける。こないだの対戦相手のトケーロは、打撃も強いし圧力もすごいという評判を関係者から聞いていたから、僕は試合前、「打撃勝負はキツイだろうから、組み技中心で考えたほうがいいんじゃないか?」と提案したんですけど、渋谷は「打撃でもしっかり勝負できるようにしておきたい」と言ったんです。で、実際、開始直後に打撃のコンビネーションで相手を飲み込んじゃった。その前のアドリアーノ・モラエスとのタイトル戦のときも、相手は格上なのに、打撃の真っ向勝負でひるませていたから、やっぱ、気持ちがつえーんだな、と。
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(c)2015 ONE Championship
――気持ちの強さは、どこから来ていると思いますか? 大沢 不良魂じゃないですか? 格闘技って、ケンカが強い奴じゃないと最後の最後に勝ち切れないんですよ。ケンカって、諦めない奴が最終的に勝ちますから。……お前、ケンカ強かっただろ? 渋谷 (ステーキを口に運ぶ手を止めて)……あ、強かったです。でもぶっちゃけ言うと、アウトサイダーのときも地下格のときも、そんなに本番に強かったわけじゃないんですよ。どうやったら本気を出せるのか? ということを、1年半ぐらい前にいろいろ考え直した結果、本番に強くなったんです。 ――どうやったら本気を出せるんですか? 渋谷 これは悪口じゃないんですけど、いろんな人の試合を見ていて、「みんな練習では強いのに本番では弱いな」と思うことが多くて。バックステージではけっこう弱気っていうか、空元気な選手がすごく多いんですよね。9割ぐらいの選手がそう。 ――空元気とは? 渋谷 めっちゃノッてる風に見せているけど、たぶんノッてないんだろうな、みたいな。 大沢 ハッハッハ(笑)。弱気を隠すために強がったり、緊張を怒りに見せかけたりな。 渋谷 昔は自分も空元気野郎だったんですけど、最近は、特にこないだの試合なんかは、楽しい感情しかなくて。バックステージにいるときから、本当に楽しくて、ただのパーティー野郎だったんですよ。入場のときも観客の顔が全員見えて、コイツらの前でどう格好つけてやろうか、とか、そんなことしか考えていなかったんですよ。格好つければ結果的にいいポジション取りができるし、いいフォームでパンチやキックも打てるし、パフォーマンス全体がアップする。倒すとか倒されるとかを考えるよりは、格好つけることを第一に考えたほうがいいということに、あるとき気付いたんですよね。 ――かつて渋谷選手のセコンドを務め、先日「ROAD TO UFC JAPAN」を勝ち上がった石原夜叉坊選手に、考え方が近いですね。 渋谷 夜叉坊は「女子にモテるため」に全精力を注いで、結果を出していますよね。でも、客席が全員男だったらどうすんねん? と夜叉坊には問いたい(笑)。格闘技は男のファンも多いんで、自分の場合は「老若男女全員にどんだけ格好つけるか」ってことを考えます。そうすると蹴りとかパンチとかも、練習以上のものが出せるんです。練習したことを100パー出すっていうよりは、自分を1000パー、2000パー出す、っていう感覚。そんぐらい出るもんだと思っているんで。本番では。 大沢 その出し方を細かく教えるセミナーでも開くか(笑)。
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――ところで、720グラムのステーキを完食しましたね。次戦は12月なのに、そんなに食べて大丈夫ですか? 渋谷 まだ軽い減量段階だから、大丈夫。それに、肉はタンパク質と水分だから、食べてもそんなに太らないんですよ。 ――渋谷選手はいつも、「試合前の数カ月間で約30キロ落とす」と言っていますが、そういう大幅かつ急激な減量って、格闘技の世界では当たり前なんですか? 大沢 渋谷の場合、やり方が普通じゃない。元がデブだから(笑)。 渋谷 もともと超デブで、中学で90キロあったんで。けっこう太りやすい体質なんです。 大沢 太りやすいんじゃなくて、食生活が悪いんだろ? 渋谷 悪いですね。詰められるだけ詰めちゃうし、食いながら寝るのも好きだし。 ――そういう人は、30キロ落とすのもラクなんですか? 渋谷 ラクではないです。でも、何度もやってコツを学んだし、慣れましたね。 大沢 そのへんのノウハウも、興味ある人が多そうだな。ファン交流イベント的なセミナーを開いたら、マジで面白いかもね。
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 というわけで、以下のイベントを開催することが正式に決まったらしいので、最後に告知しておこう。 ★渋谷莉孔セミナー開催決定! 「不良のパンチは当たるんです。組みつく奴からの逃げ方を教えます!」 「試合もケンカもやることは一緒」という考えのもと、強いパンチの打ち方や、負けないメンタルの作り方、女性にもできる簡単護身術、減量やダイエットのコツなどを、渋谷莉孔がオリジナリティ溢れるロジックでわかりやすく指導。質疑応答コーナーや、記念撮影コーナーもあり。希望者は渋谷のパンチやキックを体感できるかも!? 日時/2015年12月12日(土曜日)19時00分〜20時30分 会場/和術慧舟會HEARTS http://www.hearts-mma.com/    東京都渋谷区代々木2-20-12呉羽小野木ビル1FA号    TEL:03-6383-4057 定員/先着20名。年齢・性別不問。格闘技未経験者も歓迎。    参加者はトレーニングウェアをご持参ください。 料金/前売り……4500円(振込先はメールにてご案内します)    当日券……5000円(前売りで定員に達した場合、当日券の販売は行いませんのでご注意ください) 応募/E-mail:contact@hearts-mma.com    メールの件名に「渋谷莉孔セミナー参加希望」と明記し、    本文欄に、氏名・年齢・住所・電話番号をご記入の上、    上記アドレスまでメールをお送りください。    折り返しのメールにて、振込先等をお伝えします。 (取材・文)岡林敬太

地下格闘技出身の「希望の星」渋谷莉孔の“ケンカ道”にアウトロー界からエール続々!

 “地下格の星”にエール続々!――地下格闘技から世界進出を果たした渋谷莉孔(30)が10月9日、マレーシア・クアラルンプールのスタジアム・プトラで開催されるアジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship』に再び参戦する。今年3月に同地で行われた海外デビュー戦では、敗れはしたもののチャンピオン相手に堂々たる戦いぶりを見せ、マレーシアの観衆から“出待ち”“おっかけ”をされるほど鮮烈な印象を残した渋谷。今回の対戦相手は、ストリートファイト経験が豊富なムエタイベースのフィリピン人だという。国境を越えたケンカ屋対決は、果たしてどんな展開になるのか? 決戦を目前に控えた渋谷にインタビューを行うとともに、地下格時代の仲間たちが寄せてくれた「渋谷への応援コメント」を紹介しよう。
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――海外2戦目が、ついに決まりましたね。今回はフライ級のノンタイトルマッチで、対戦相手はユージーン・トケーロという名のフィリピン人。通算成績は7勝1敗とのデータがあります。 渋谷 動画でトケーロの過去の試合をチェックしましたが、ムエタイ系のフィリピン人ですね。サウスポーで、体が柔らかくて、バネがあるタイプ。寝かされてもすぐ反発して起き上がってくる。パワー系じゃなくて、身体能力系ですね。格上ではないけど、安パイでもない。 ――渋谷選手自身も、サウスポーで体の柔らかい選手。また、トケーロ選手の紹介記事を読むと「ストリートファイトの経験が豊富」とあり、渋谷選手との共通点が何かと多いですね。 渋谷 いろんな意味で、似たタイプかも。 ――サウスポーとの試合経験は? 渋谷 ないっすね。いや、アマのとき、1回だけやったかな? とにかく、ほとんど経験がない。 ――やりづらさを感じますか? 渋谷 どこまでハングリーか、によりますね。あのへんの国のヤツらの怖いところって、ハングリーさじゃないですか。あとは、ヒジに要注意っすね。過去の動画を見ると、けっこうヒジ一発でKOしてる。ホント、ヒジの使い方が上手い。 ――渋谷選手自身は、ヒジ打ちは得意ですか? 渋谷 組んでからヒジを使うのは今のMMA(総合格闘技)では当たり前なんですけど、組んでない状態でヒジを当てる、ってのは不慣れ。それができるのはタイ人かフィリピン人だけ。ムエタイで育ってる選手のほうが断然上手いっすね。 ――それらこれらを踏まえて、今回はどのような戦い方を心がけますか? 渋谷 真っ向勝負をしつつも、上からスカすような、相手を小馬鹿にするようなテクニックを織り交ぜることになると思います。 ――前回のようにノーガード戦法を取り入れる可能性も? 渋谷 そればっかりはリングに立ってみないとわからない。当日の気分で決めますね。
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――減量は順調でしょうか? 渋谷 前回の試合後にいったん85kgまで増えたけど、今は67 kgだから、残り1カ月弱であと10 kg落とせばOK(規定体重は57.1 kg)。全然、余裕っすね。 ――3月のアドリアーノ・モラエス戦から半年ほど経ちましたが、その間、技術的な上積みは? 渋谷 レスリングも、打撃も、体力も、かなり上がったっすね。“たられば”の話になりますけど、3月に今のコンディションだったら、アドリーノに勝てたっすね。半年前の自分の試合動画を見て、ああ弱いな、って思う。半年前の自分とやったら楽勝だと思います。 ――コーチの大沢ケンジさんからの評価は? 渋谷 レスリングが特に伸びたと言ってくれます。これは前回の試合の反省点なんですけど、金網に押し込まれてる時間と寝かされてる時間が長かったから、判定で不利になった。今回はその時間を減らすため、休んでから返すんじゃなく、休む間もなく返せるぐらいの瞬発力、爆発力を発揮できるよう鍛えてます。 ――最近はどのような練習を? 渋谷 オリンピックチームとかと合同練習する機会が増えたんで、心肺機能も上がりましたね。もともとスタミナはあるほうですけど、もっと爆発力を高めたいってことで、ちょっと体を変えたんですよ。 ――試合まで残り1カ月を切りましたが、ここからの過ごし方は? 渋谷 ムエタイ対策をするか、体を作るかで迷ってます。たぶんもうすぐ、アジアのどこかに数週間行って、最終調整に入ると思います。 ――会場が前回と同じというのは、心理的にラクなのでは? 渋谷 味方も多いから気分的にラクだし、体重を落としやすいという利点もありますね。前回行ったときに落とす場所とか見つけてあるんで、アタフタする要素がないです。 ――今の気分は? 渋谷 初出場で0のものを1にするのは、空想の中での戦いも多くて暗中模索って感じだった。それに比べて、1から2とか3に展開するのはある程度内容がわかってるものに挑むんで、ラクっちゃラクなんですけど、そのぶん怖さもわかってるので緊張感はありますね。でも自分は緊張感があってもいい結果を残せるタイプなんで、問題ないです。 ――前回の試合に善戦したことで、周囲の反応は変わりましたか? 渋谷 だいぶ変わったっすね。スポンサーが集まりやすくなったし、選手としては「本番に強いんだな」っていう評価がさらにワンランク上がった感じ。逆にアドリアーノの評価は下がりまくったんじゃないですか。自分とやったヤツって、みんな評価が下がるんですよ。力を出せないから。 ――地下格時代はハイペースで試合をこなしていましたが、今は年間約2試合ペースで、試合日程や対戦相手も急に決まることが多いようですね。その度に大幅な減量をしながらコンディションを整えていく作業は、つらくないですか? 渋谷 つらくはないですね。試合が趣味ならバンバン出たいでしょうけど、趣味じゃなく、稼ぐためにやってるんで。練習でさんざん人をブッ飛ばしてるから、ストレスもないっすね(笑)。  本番でも相手をブッ飛ばし、今度こそ海外初勝利を掴んでほしいものである。
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アマチュア時代より一回り太くなった腕を組みながら、落ち着いた口調でインタビューに応じた渋谷。すっかりプロ格闘家の風格が漂っていた。
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■“元アウトローのカリスマ”瓜田純士(35)  よぅ、莉孔。今回の相手はフィリピン人か? だったらゴングが鳴る直前、相手と向き合ったときにマウスピースを外して、「今日はバロット食って来たか?」って英語で聞いてやれ。バロットってのは、ふ化直前のアヒルのタマゴを茹でたフィリピンの屋台料理。「庶民のバイアグラ」とも呼ばれ、フィリピン人なら誰もが知ってる精力剤だ。つまりさっきの言葉は、「ちゃんと角砂糖を舐めてきたか? 山登りはキツいぞ」「俺とやるんだったらしっかり精をつけておかないと、試合後に腰を振れなくなるぞ」みたいなニュアンスの、相手を貧弱扱いした挑発文句になる。この言葉を試合前にかまして、相手がカッカしてる間に打撃を入れて、ブッ倒してやれ。    勝ち負けにこだわらず全力を出し切って頑張って来い!……というエールはゴマンとあるだろうが、勝負は勝たなきゃ意味がないぜ。ルール上の勝ちなのか、自分の中での勝ちなのか、それはどっちでもいいから、とにかく勝って来い! 瓜田流に言うなら、試合に負けても名前を残せば勝ちだからな。相手や観客に対して見せ場という爪痕を残せば、それは勝ち。リングの上だから殺してもいいし、逃げてもいいし、相手の不戦勝にしてもいい。「相手に花を持たせてやった」っていう一言が勝ちになるかもしれないしな。まぁいろんな勝負のつけ方があるけど、とにかく勝って来い! 俺はお前の数段先を行ってるぞ。もっと死ぬ気で頑張って、しっかり俺について来い!  あと、その日を人生最後の日と思って戦えよ。お前は前回の試合に負けたあと、リングの上で「王者をここまで追い詰めたのは世界で俺だけ。俺はいつでもどこでもケンカできるから、また呼んでくれ!」みたいなことをマイクで叫んでたが、じゃあなんで目の前にまだ相手がいるのにハイキックを入れなかったんだ? なぜ試合後に相手に噛み付かなかったんだ? 「次に繋がる」とか言ってるうちは、まだまだひよっこだぜ。次は無いと思ったほうがいい。戦場にいる兵士は次のことなんて考えないだろ。次を考えてるうちは、次を考えてない相手に負けるぞ。  もし結果的に生きて日本に帰って来られたら、お前はラッキーだな。なんでかと言うと、10月30日に俺の新刊『國殺』が竹書房から発売されるからだ。死ぬのはそれを読んでからでも遅くない。わかったか莉孔? まぁいろいろ偉そうに言ったけど、俺はお前のことが好きだぜ!
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■“リアルプリズンブレイク”江田雄一(35)  何? シブリクがまた試合すんの? どこで? マレーシア? 遠いな(笑)。見に行けないよ。まぁでも一緒に練習して来た仲だから、「元アウトサイダーの意地を見せろ!」って応援しちゃうよね。俺? 相変わらずフラフラしてるよ。格闘技はまた気が向いたらやるかもな。

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■“闘える放送作家”大井洋一(38)  渋谷選手は僕よりだいぶ年下ですけど、アウトサイダーでは僕の先輩にあたります。最近ではいつも練習に誘っていただいて、技術的な指導もしてもらっています。間近で見ていて思いますが、渋谷選手は「センスの塊」ですね。吸収力が高く、気持ちが強く、進化のスピードがとにかく早い。次の試合は、あっさり勝ってほしいですね。ここで苦戦するレベルの人じゃないと思っています。僕も12月のアウトサイダーに出る予定。渋谷選手に負けじと頑張りたいと思います。
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2009年の対戦時。右が大山で、左が渋谷。
■“Asiato代表”大山勇樹(39)  自分は今から6年前にアウトサイダーで渋谷と試合をしたことがあって、そのときは判定で負けたんですが、正直彼の何が強いのか、いまだによくわからない(笑)。力があるわけでもないし、見た目もああいう感じじゃないですか。でもいざ試合をすると、不思議と結果を出せるヤツなんだよなぁ。今では渋谷のことを、一ファンとして応援していますよ。地下格ファイターの代表のつもりで、思い切り暴れてきてほしいですね。 ちなみに自分は今、『Asiato』というボランティア活動団体の代表をやっています。10月4日には新木場1stRINGでチャリティーファイトを行い、収益金を恵まれない子供たちのために寄付します。よかったらみなさん、見に来てください。
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■“池袋 弐双龍の龍帝”SHIN(32)  相手、ヒジ打ちが得意なの? じゃあヒジ折っちゃえばいいじゃん。そんで、噛み付いちゃえよ。噛み付きはダメなの? あっそう。でも余裕じゃない? 絶対勝つよね。グッチャグチャにしてほしいよね。日本ナメんなよ、って感じだよね。渋谷は昔、俺のことをブログで挑発してきたことがあって、「誰だお前? 殺すぞ!」って本気で思ってた時期もあったよ。でもいつの間にか親しくなって、今じゃ焼肉を一緒に食いに行く仲。こないだなんか、隣に並んで焼肉食って、一緒にかき氷食って、そのあと一緒にマッサージしに行ったもんね。端から見たら完全にゲイカップルだよね(笑)。ヤバいよね。最近は俺、東京を拠点に札幌でもビジネスを始めて忙しい。ストレスけっこうたまってきたから、そろそろ俺も格闘技再開すっかな。
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■“人刺し裕”内藤裕(38)  おい渋谷、自分の信念を曲げるんじゃねえぞ。俺からは以上だ!

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■“アウトサイダー俳優”中澤達也(36)  渋谷がまさかここまで強くなるとは、思ってもいなかったですよ。だって自分と試合をした6年前、アイツはそこまで強くなかったし、おまけに変なキャラしていたじゃないですか(笑)。当時は「ガキだなぁ」と思って見ていたけど、それが今じゃ世界を舞台に戦っている。普段は可愛い弟みたいな存在だけど、格闘家として見た場合は自分らの星。「地下格闘家の鑑」だと思っています。思い切りブチかまして、今度こそ勝ってほしいですね。自分は今、俳優業を続けながら、格闘技興業を主催しています。9月14日にはホストの格闘技大会『宴–Utage』を満員御礼で成功させたばかりで、11月8日にはBumB東京スポーツ文化館で新格闘技連盟の大会『益荒男WARU』を開催します。タイトルマッチも行われるので、是非見に来てください。
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■“Mr.フルボッコ”ヒロ三河(35)  「ずっちーな」って感じっすね(笑)。だって、世界を舞台に戦えるなんて、俺ら地下格闘家からしたら、最高にうらやましい話じゃないですか。「シンデレラボーイ、頑張って!」って感じっすよ。まぁ俺も今、MONDO TVで『ヒロ三河の世界をフルボッコ!』って番組をやらせてもらって、世界を舞台に戦ってはいるんだけどね(笑)。あと俺、10月4日には新木場1stRINGで、大山勇樹さん主催のチャリティーファイト『Asiato』にも出るから、時間あるヤツらは見に来てくれよ。
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■“漢塾代表 千葉の不動明王”前田島純(34)  渋谷とは、いろんな地下格の会場で何度か顔を合わすうちに意気投合した感じだね。「ブッ飛んだヤツだなぁ」というのが第一印象だけど、格闘技に対しては真面目なヤツ。近くに住んでた時期もあって、当時はよく一緒に練習したな。渋谷には俺らの代表として世界で頑張ってもらって、日本の格闘界全体を引っ張って行ってほしいよ。  渋谷が世界で戦ってる間、日本は俺に任せとけ! って感じだね。俺、今も地下格でバリバリ戦ってるから。ワケあって10カ月ほどいなかった時期もあるけど(笑)、戻ってからも5〜6試合やって、全部勝ってる。10月11日には福岡で『戦~IKUSA 』って大会に出るので、応援よろしく!
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■“アウトサイダー60-65kg級元王者”幕大輔(31)  渋谷君とはアウトサイダー時代にベルトを争った仲で、決勝で当たると思ってたんだけど、彼がケガして準決勝を欠場。結局、彼と公式の試合をする機会は一度もなかった。  渋谷君はもともと強いわけじゃない。ぶっちゃけ何が強いのか、いまだに謎(笑)。でも、いきなりものすごい上の世界に行っちゃった。当然、僕らの知らないところで、彼なりに血のにじむような努力をしていたんだと思います。  実は今だから言える話なんですけど、さっき言った“幻の決勝戦”の件がお互い心残りだったので、ある日、某所で渋谷君と、非公式の試合をしたことがあるんですよ。「5分1ラウンド、決着はKOか一本のみ」っていうルールで、戦ってみた。結果はドロー。そういういきさつがあるだけに、僕は彼に対してものすごく思い入れがある。ちょっと名前は出せないけど、共通の尊敬してる人のためにも、10月のマレーシアの試合には絶対に勝ってほしい。めちゃくちゃ応援してるからな! (取材・文=岡林敬太) 『ONE Championship〜TIGERS OF ASIA』 会場……スタジアム・プトラ(マレーシア・クアラルンプール) 日時……2015年10月9日(金)午後7時開始 ※現地時間 http://www.onefc.com/

“シブヤコール”がマレーシアを揺らした!! 世界メジャーが「格闘家・渋谷莉孔」を発見した夜

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(c)2015 ONE Championship
 異国の地で「シブヤコール」が巻き起こった――。3月13日、マレーシアの首都クアラルンプールで開催されたアジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship(旧称ONE FC)』に日本の地下格闘技出身の渋谷莉孔(29)が初参戦し、フライ級王者アドリアーノ・モラエス(26=ブラジル)とタイトルマッチを行った。「渋谷に勝ち目なし」と予想された試合だが、蓋を開けてみれば、フルラウンド(5分5ラウンド)までもつれる接戦に。結果は判定で敗れたが、アグレッシブかつトリッキーな戦いで王者を追い詰めた渋谷には、マレーシアの観衆も大興奮。試合後には早くも「出待ち・追っかけ」をする現地ファンが現れるなど、渋谷は一夜にしてONEのスターダムにのし上がった。  当日の模様をレポートする前に、渋谷莉孔の経歴を簡潔に振り返っておきたい。  街のチンピラとしてケンカに明け暮れていた渋谷は2008年、不良の格闘技イベント「THE OUTSIDER(アウトサイダー)」で格闘家デビュー。対戦相手を罵倒しながら血祭りに上げる猟奇的ファイトで話題を呼ぶ。その後、問題を起こしアウトサイダーを追放されてから、地下格闘技の世界で連戦連勝を重ねてきた渋谷が、地下から地上へ顔を覗かせたのは、昨年9月のことだった。「TTF CHALLENGE02」でメジャープロ団体・パンクラスのトップランカーを撃破。その衝撃冷めやらぬうちに、アジア最大の格闘技イベント『ONE Championship』からスカウトされ、このほど初参戦で世界タイトルマッチに挑むことになったのである。  まさに飛び級と呼ぶにふさわしい大出世だが、見ている側からすれば期待と不安が入り交じる。今回の対戦相手であるアドリアーノ・モラエスは、修斗南米王者からONEの世界フライ級王者となった格闘エリートで、MMA(総合格闘技)12勝1敗という戦績を誇る強豪中の強豪である。  渋谷贔屓であるはずの日本の格闘ファンからも「今回ばかりは相手が強過ぎる」「渋谷に勝ち目はない」との声が多く聞かれ、渋谷自身も戦前のインタビュー(記事参照)で、「俺は噛ませ犬」と自嘲するほどキャリアの差は歴然。ワンサイドゲームになる危険性を大いにはらんだマッチメイクだったのだ。    渋谷にオファーがあったのは今年の1月。それからわずか2カ月という急ピッチの準備期間を経て、決戦の3月13日を迎えた。
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 開場時刻の午後6時を過ぎると、クアラルンプールにある1万6,000人収容の「スタジアム・プトラ」には、マレー系、中華系、インド系のマレーシア人や、白人の観客らが続々と吸い込まれて行く。「マレーシアではMMAの人気が急上昇中。飲食店のテレビなどでも普通に放映されており、家族や友人と共に観戦する人も多い」(マレーシア人の観客の一人)とのことだ。  会場入りする人々を眺めていたら、今回渋谷を抜擢した張本人であるONE Championshipのビクター・クイ代表が通りがかったので、インタビューしてみた。
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ビクター・クイ代表
――あなたはなぜ今回、渋谷莉孔を抜擢したのか? クイ代表 今回は世界タイトルマッチということで、われわれはアジア中を回って、ファンが最も喜んでくれそうな挑戦者を探したところ、渋谷が一番ふさわしいという結論に至ったんだ。渋谷は本当にダイナミックでエキサイティングなファイター。ここマレーシアの観客を熱狂させることができるエンターテイナーであると私は確信したんだ。 ――今日のタイトルマッチは、どんな戦いになると予想するか? クイ代表 私は今夜の試合が、渋谷の人生にとって最も大きな戦いになると思っている。タイトルマッチだし、彼にとっては海外での初戦だ。これまで渋谷は四角いリングで、短いラウンドの戦いが中心だったと思うが、今回は円形のケージ(金網)リングだし、5分5ラウンドという長丁場。そういった形態やルールの違いがある上、彼には準備期間がわずかしかなかった点も大変だとは思う。だが、彼には失うものがないし、もし勝てばすべてを手に入れることができる。渋谷にとって今日の試合は人生最大のチャンスになるだろう。  クイ代表の期待の大きさを物語るように、会場内のロビーにはご覧のような巨大な看板が飾られるなど、初参戦なのに渋谷は破格の扱い。
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渋谷とモラエスが向き合う大看板
 そのロビーの一角に人垣ができていたので何事かと覗き込むと、「ミットめがけて10秒間に何回キックをできるか」というチャレンジコーナーが設けられていた。通りがかった人たちが入れ替わり立ち替わりこれに挑み、ギャラリーから拍手や歓声が上がる。マレーシアの人々はおしなべて、シラフでも陽気でフランクだ。果たして彼らは、遠い日本から来た渋谷のことを歓迎してくれるのだろうか……?  まずは大会開始直後の、全選手紹介の場面でその様子を探ってみる。ド派出なライトアップや打ち上げ花火などの演出の中、ステージの両脇から出場選手が続々と登場。「リクー、シブヤッ!」というアナウンスに合わせて渋谷も颯爽と現れるが、客席はまったくの無反応。「誰だコイツ?」といった感じだろうか。  その後、客席が八分方埋まった中、前座の試合が次から次へと消化されていく。地元マレーシアの選手が勝つたびに大歓声が上がり、客席が徐々に温まってきた。  そんな中、場内の大型ビジョンに本日のメインイベンターである王者モラエスの紹介VTRが流れると、大きな拍手と声援が。マレーシアの観衆にも大いに知られた存在なのだろう。  続いて、その対戦相手である渋谷の紹介VTRが流れる。「ジャパニーズ・バッドボーイ」というキャッチフレーズの後、渋谷が日本語でインタビューに応じている様子が字幕付きで流れ、ユニークなトレーニングに取り組む光景なども大画面に映し出されるが、客席はまたしても無反応。「初めて見るので好きも嫌いもなく、応援もブーイングもしようがない」といったところだろうが、それにしても寂し過ぎる反応だ。  その後もテンポよく試合が消化され、いよいよ本日のメインイベント、渋谷の出番となった。入場曲とともに、けたたましい英語の煽り文句が会場にこだまする。日本にいるときは、入場時に花道で雄叫びを上げたり、入場曲が流れてもなかなか入場しなかったりという“ツカミ”を得意とした渋谷だが、今回は、叫ぶでも焦らすでもなく、仏頂面で淡々と花道を進むのみ。
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 入場時も客席の反応は薄かったが、ケージに入った後、名前がコールされ、渋谷がテレビカメラに向かってグローブを突き出すと、ここでようやくブーイングが起きた。一方のモラエスには大歓声。この会場が渋谷にとって、完全にアウェイであることを改めて思い知らされる。
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 そうした客席の反応以上に心配になったのが、渋谷の表情である。大型ビジョンで見る限り、先月見たときとは、まるで別人だったのだ。2カ月で約20キロの減量をしたため、精悍になったというより、やつれた印象で、目元も眠そう。その顔でけだるそうにケージ内をウロつきながら、口角をヒクヒク痙攣させて、マウスピースを露出する仕草を連発。飢えた野良犬のような不気味さこそ漂うが、「急激な減量の反動でナーバスになっている」との前日情報もあったため、コンディションが心配になってくる。  しかし、それはまったくの杞憂に終わった。

【1ラウンド】


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 ゴングが鳴ると、渋谷は背筋を伸ばした独特のサウスポースタイルでジリジリと間合いを詰め、まずは思い切りのいい左フックを打ち込む。その後も渋谷が前進を続けて、打撃の応酬に。モラエスの連打を何発か食らうが、渋谷は両ガードを下げたまま前進。モラエスはバックステップで距離を置く。  しばらくお見合い状態が続くが、渋谷は左腕をクルクル回す仕草を見せ、体を左右に揺さぶってから、モラエスのヒザに左ロー。負けじとモラエス、右ハイを渋谷の顔面に蹴り込み、続けざまに下半身に組み付いてテイクダウン。渋谷はモラエスの首を抱え必死にディフェンスするも、すぐさまバックを取られ、首にモラエスの腕が絡み付く。「あぁ、これで終わりか」というニュアンスの歓声と溜め息が交錯するが、渋谷はケージ際で踏ん張り、ブレイクが入る。
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 再開後モラエスがフライングニー。効いていないとばかりに両腕を回しながら渋谷が再び距離を詰めると、客席から笑いが起きる。その後、渋谷がモラエスめがけて特攻するも、逆にバックを取られ、反転して逃れようとしたところマウントポジションを取られかけるが、これもブリッジで抜け出し、スタンドポジションに。客席から拍手が起きる。  残り1分。渋谷がワンツー、ミドルを繰り出すも空振り。逆にモラエスのミドルを食らう。それでもノーガードでズイズイ前進する渋谷に対し、客席から「なんだコイツは」といった感じの笑いとどよめきが起きる。  どうやら渋谷、コンディションはよさそうである。

【2ラウンド】

 開始早々ガード下げ気味で、ゼンマイ仕掛けのオモチャのようにジリジリと間合いを詰める渋谷に対し、笑いが起きる。常時後退しながら距離を取るモラエスが、タイミングを見計らって右ストレート。これがクリーンヒットするも、渋谷はなおもガードを下げたまま前進し、客席が大きくザワつく。  渋谷、モラエスのタックルを食らい、倒された上、バックを取られる。モラエスの腕が首に絡み付くも、踏ん張って立ち上がる渋谷。立ったまま打撃の応酬。手数は多い渋谷だが、なかなかクリーンヒットしない。
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 大振りは駄目と悟ったか、渋谷はショートストレートを狙い澄ましたように放つも、モラエスはこれもスリッピングで避ける。モラエスが右ハイキックを放った瞬間、その背中に渋谷のミドルがヒットし、モラエス転倒。渋谷、モラエスの首を押さえて寝技に入りかけるが、モラエスはすぐに起き上がる。  立ったまま打撃の応酬。パンチが相打ち。モラエスは一瞬グラつくも、ワンツーをヒットさせながら前進。ケージ際に渋谷を追い込むが、渋谷はヒザ蹴りでこれを追い払い、スタンドで向き合う。  3分経過。モラエスの右ミドルがヒットするも、渋谷は髪をかき上げながらノーガードでまたしても距離を詰め、客席ザワザワ。渋谷のパンチが2発ほどクリーンヒットし、モラエスはたまらず渋谷の下半身に潜り込む。立ち上がりざまに渋谷の右ハイがモラエスにヒット。後退するモラエスに、追い打ちをかけるようにワンツースリー。  両者絡み付き、渋谷が再びケージを背負ったところで残り1分。渋谷、立ったままモラエスの左腕を取りキメにかかるがブレイク。その後、客席の反応を楽しむかのように、ガードを上げ下げしながらモラエスを挑発。モラエスの右ハイをかわしたのを機に、渋谷は一気に距離を詰める。焦ったモラエスが苦し紛れに放ったパンチ3発をすべて見切った渋谷、ノーガードのままニヤリと笑ってモラエスにじり寄ったところで、ゴング。客席がドッと沸く。

【3ラウンド】

 渋谷が距離を詰め、モラエスが後退する毎度の展開。小康状態が続き、レフェリーから「アクション」の声。モラエスが下がって両足が揃った隙に、渋谷はボディーに蹴りを打ち込むが、腰を押さえられ投げを食らい、バックを取られる。が、渋谷はクルリとすぐさま起き上がり、モラエスの左腕をキメにかかる。  下半身に絡み付いたモラエスが、渋谷を倒し、サイドポジションを取りかけたところで、渋谷がローブローをアピールし試合中断。  再開後、ブリッジで寝技から脱出した渋谷。通勤中のサラリーマンのような無防備な歩き方でモラエスとの距離を詰めると、客席から大声援が起きる。勢いづく渋谷がワンツースリー。続けざまに左ストレートをクリーンヒットさせるが、渋谷も右ストレートを食らう。  モラエス、渋谷のパンチをかわしながら下半身に抱きつき、倒すも、渋谷はもがいて立ち上がる。なおもしつこく後ろから絡み付くモラエス。ウザがる渋谷の表情が大画面に映ると、客席から笑いが起きる。  モラエス、バックポジションに入りかけるが、渋谷はまたしても反転。その応酬を何度か繰り返した末、チョークスリーパーを取られかけた渋谷がクルリと反転して上になると、この日一番の大歓声。
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 渋谷はこれまでの鬱憤晴らしをするかのように、小刻みなパンチを20発あまり、モラエスの側頭部に打ち込み、客席が大きく沸く。そして左手でモラエスの頭を横向きに固定すると、右手でハンマーパンチの雨アラレ。体勢を整えてから、大振りのパンチも振り下ろす。  さらに寝技からの立ち上がりざまに、左ハイをモラエスの頭部に蹴り込む。その後、打撃の応酬が始まりかけたところでゴング。

【4ラウンド】

 伸びやかな打撃を繰り出しながら渋谷が前進。反撃しつつもバックステップで距離を取ろうとするモラエス。それを渋谷がノーガードで追いかける。モラエスのグローブがズレたため、試合中断。レフェリーに促されて自陣に戻る渋谷が、両手を上げて客席を煽ると、大声援が起きる。  試合再開後、ついに「シブヤコール」が起きるが、渋谷はモラエスに背後を取られ、ケージに押し込まれる。どうやら渋谷、会場の大型ビジョンを見て背後の様子を確かめているらしく、その表情がビジョンに映り、場内から笑いが起きる。「彼は楽しませてくれるねぇ」と英語実況。  膠着を逃れるべく、渋谷がヒザ蹴り。これを嫌ってモラエスが距離を置こうとすると、渋谷は笑みを浮かべながら追いかける。「シブヤコール」が再び起き、セコンドからも「打撃をまとめろ」の指示。  渋谷は重そうなパンチを一発ヒットさせるが、後が続かない。  逆にモラエス、飛び蹴りを渋谷の顔面にクリーンヒットさせる。そしてタックルして渋谷を持ち上げ、背中から思い切りマットに叩き付けるが、渋谷もフロントヘッドロックを外さなかったため、プロレス技のDDTのようになって会場騒然。
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 モラエス、ヘッドロックから逃れてバックを取る。渋谷、モラエスの腕を押さえ込んで必死のブロック。そして反転して渋谷が上になったところで、ドクターチェック。渋谷の左目の上からおびただしい出血が。  ドクターチェックを受ける間、渋谷は両手を振って「大丈夫」とアピール。セイムポジションで再開するなり、渋谷は左右のパンチを大量連打しゴング。自陣へ戻る際、渋谷は駆け回りながら何度もガッツポーズ。まだ試合が終わったわけでもないのに、勝ちを確信したかのように喜び、観衆も大いに盛り上がる。  最初は完全アウェイだった空気を、渋谷はわずか20分ほどのパフォーマンスで、ホーム同然に変えてしまった。

【5ラウンド】

 開始前、左目の出血を気にする素振りを見せる渋谷。いよいよファイナルラウンドのゴングが鳴るが、ほぼお見合い状態で1分経過。モラエスに押し込まれた渋谷、ケージを背負った状態で4~5発ヒザ蹴りを見舞うと、モラエスが悲鳴を上げて「ローブロー」をアピール。しばしブレイク。  再開後、互いに手数は減りつつも打撃の応酬。
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 残り2分40秒。渋谷はタックルを食らい、座った状態でバックを取られ、背後からモラエスの腕が首に伸びるピンチ。
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 ここで客席から大きな「シブヤコール」が巻き起こり、声援に後押しされた渋谷は巧みに体勢を入れ替えて上になると、モラエスの側頭部に小刻みなパンチを20発ほど打ち込む。そして寝たままモラエスの顔にヒジをグリグリ押しつけ、逃れようとするモラエスの頭部に、ヒザ蹴りやエルボースマッシュを荒々しく連打。  モラエス、右目の上を切ったようだ。  その後、両者立ち上がるも様子見が続く。残り30秒を切っても、互いにカウンター狙いなのか慎重な構え。ラスト10秒の声。モラエスがカポエイラキックを繰り出すもジャストミートせず、試合終了。  渋谷はセコンドの肩車で走り回りながら、何度もガッツポースして優勢をアピール。そして腕立て伏せをして余力もアピール。モラエスも負けじとバク宙を披露し、場内が沸く。
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【判定】

 レフェリーの両脇に立つ両選手。渋谷は勝ちを確信しているのか、ガッツポーズのスタンバイをしながら、笑顔で判定を待つ。一方のモラエスはソワソワと落ち着きがない様子。  しかし、3-0でモラエスの判定勝ち。渋谷は顔しかめて肩を落とした。
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 モラエスの勝利者インタビューに続き、リング上でインタビューに応じた渋 谷は、「勝ったと思った」と悔しさをにじませながらも、「世界最強のアドリアーノをこんだけ追い詰めたのは世界で俺一人」と胸を張った。さらに「どんな大会でもどんな場所でも俺はケンカできる。もっと出してくれ。アイ・カムバック!」と叫び、大歓声を浴びながらリングを下りた。
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試合後のロビーでは、渋谷の看板の前で撮影をする人が続出
 試合翌朝――。選手が宿泊するホテルのレストランで、渋谷にインタビューを行った。左目の上を昨晩、2針縫ったという。インタビューには渋谷のセコンドを務めた大沢ケンジ(和術慧舟會HEARTS)代表にも同席してもらった。
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――おつかれさまでした。大健闘の試合内容についてはのちほどじっくりお聞きするとして、まずは入場シーンから振り返ります。渋谷選手にしてはおとなしい入場に思えましたが、その心は? 渋谷 完全に入っていました。まわりも「渋谷莉孔、完全に入った」「ここまで鳥肌の立つ入場は初めてだ」と言っていましたね。 ――なるほど、あれは集中状態に「入った」表情だったわけですね。緊張はしましたか? 渋谷 まったく。なんでかというと、心が強くなったからでしょう。 ――試合中、客席の反応は聞こえましたか? 渋谷 最初は笑われていましたよね。「なんだコイツ」って感じで。あぁ、笑われているな、と思っていたけど、3、4ラウンドでどんどんひっくり返って、「コイツ本物じゃん」みたいな感じの声援に変わっていった。俺が手を下げたり、ニヤッと笑ったりするたび、客席がワーッと沸いてすごかったですね。 ――左目はいつケガしたのでしょう? 渋谷 4ラウンドのハイキックです。俺、「相手は寝技が強い」と言っていたじゃないですか。ところが寝技はまったく強くなくて、力も全然ないし、パンチもたいしたことなかったけど、蹴りだけが予想外というか、「足の甲一個分」長かった。だから、完全に避け切ったはずなのにレバーに刺さったり、完全にスウェーしたはずなのに親指の爪が当たったり。ダメージはないけど届くのかよ、と。敗因はそれだけですね。 ――「モラエスの寝技は強くない」というのは意外です。 渋谷 俺には関節技は効かないんですよ(笑)。相当、軟体なんで。ヒジもそうだし、首もそう。ついでに言うと、俺には打撃も効きません。練習でも一度も効いたことがない。体が柔らかくてショックが分散されるから、脳が揺れないんですよね。 ――試合中、相手に怖さは感じましたか? 渋谷 まったく怖くなかったです。逆に相手が俺のことをめっちゃ怖がって、試合中ずっと下がっていましたよね。試合後にも病院で会ったんですけど、相手は俺のヒジ攻撃で目の上をケガしていたし、俺に蹴られたところが痛かったらしく、ずっと足を引きずっていて、俺のことを「デストロイヤー」と呼んでいましたよ(笑)。そんなわけで、全然「怖さ」は感じなかったですけど、「上手さ」は感じましたね。 ――具体的に何が上手かったですか? 渋谷 パンチを打つとき、顔を斜めにズラしながら打って来るんですよ。それに気付いたのは3ラウンド目でした。なんか(自分のパンチが)当たりづらいな、と思ったんですけど、相手は俺のパンチに合わせて、斜め下に頭をちょっとズラしながら打っていた。それをちゃんと試合中にもできているのは、さすがチャンピオンレベルって感じです。 ――戦っている当事者の率直な実感として、試合中、主導権はどちらが握っていましたか? 渋谷 2ラウンド目あたりからずっと、こっちが上回っているな、という感触がありました。相手の寝技も打撃も俺には効かなかったけど、相手が受けたダメージは、ハンパなかったと思う。ボディーなんか、完全に効いていましたから。5ラウンドでも、金的だって逃げていましたけど、あれ、ボディーに入っていましたから。俺がボディーにヒザ蹴りするたびに「ウッ」「ウッ」っていう苦しそうな声がすんごい漏れていた。だから俺はずっと、相手の腹を見て笑っていたら、相手はどんどん下がっていった。よっぽど痛かったんでしょうね(笑)。 ――渋谷選手が相手を終始飲み込んでいた、と。 渋谷 間違いないです。あと、先月のインタビューでも予告した通り「一本拳」で攻め続けて、相手が倒れかかった場面もありました。ガンガン行き過ぎて、ここが切れちゃいましたけど(笑)。
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「一本拳」のやり過ぎで、人差し指に裂傷が!
――しかし、最終ラウンドに限って言えば、余力はありそうなのに手数が少なかったのが、もったいなく思えました。 渋谷 相手の蹴りの長さに惑わされました。考え過ぎ。これはホント、大失敗。最後、もっと手数が多ければ、勝っていたかもしれませんね。 ――セコンドの大沢さんにお聞きします。モラエスの寝技は効かないかも、と気付いたのはいつですか? 大沢 僕らのほうが渋谷よりも先に、そう思ったんじゃないかな。戦前は、やられるとしたら寝技だろうな、と思っていたけど、1ラウンドも2ラウンドもバックポジョンを取られても逃げ切ったので、「これ、いけるじゃん!」と。ただ、寝技から逃げられると思ったことが、実は敗因でもあるんです。本当はタックルを切って打撃で勝負してほしかったけど、切るよりはバックを取らせて逃げちゃえばいいや、という感じになって、グラウンドの展開が長引いちゃって、判定に影響した部分もありますからね。 ――それにしても、渋谷選手はなぜあんなにも寝技をひっくり返すのが上手いのでしょうか? ブリッジの強さを指摘する声もありますが、大沢さんはどう思いますか? 技術的な解説をお願いします。
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大沢代表と渋谷
大沢 それがわかったら、みんながやれるわけで。それは本人に聞いてもらったほうがいいかも。まあ、ブリッジが強いのは確かだけど……。 渋谷 僕は前世が人間じゃなく、「橋」なのかもしれません。 大沢 うん、橋かもな(笑)。
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格闘界の智将マット・ヒュームも渋谷を激励。渋谷のファイトスタイルを気に入った様子だ
――言動のユニークさもまた渋谷選手の魅力ですが、試合中、ガードを下げながら進んで行くあのスタイルは、我流ですか? 渋谷 他では見たことがないですね。打って来てほしいんで、「来いよ」って感じで下げてみただけ。それで相手がやりづらいのかも。俺ってホント、“初見殺し”なんですよ。いつも一緒に練習している人はそうでもないだろうけど、初めての人にとっては、変化球過ぎてやりづらいみたいですね。 ――あの“ノーガード戦法”は、マレーシアの観客の心を確実につかんでいましたよ。 渋谷 日本と全然違いますね。日本だと、あそこまでのコールは起こらない。俺、外国向けの選手なのかな、って思いましたね。日本人はみんながいいって言わないと乗らないようなところがあるけど、外国人はいいものはいいって感じで、まっすぐに盛り上がってくれる。昨晩も、出待ちとか、すごかったですよ。大会終わって深夜2時ぐらいなのに、病院にまで車で追いかけて来ている人たちも大勢いて、病院出るときの声援がハンパじゃなかった。俺はアイドルか? と思いましたよ(笑)。 大沢 試合中も、誰も渋谷のことを知らない敵地の会場で、数千人が「シブヤコール」ですからね。これは本当にすごいことです。ただし、悔しさのほうが大きい。いい試合をしても負けちゃうと、すぐに忘れられちゃうんですよ。会場に来た人の印象には残るかもしれないけど、そうじゃない人たちは戦績しか見てくれないから、「結局負けたんでしょ?」で片付けられちゃうのが悔しい。 渋谷 いやでもまだこれ、序章なんで。ドラマでいうとまだ1、2話なのに、ゴールしちゃったらつまんないでしょう? 一度は落ちないと。1、2話で打ち切られる奴もいるけど、俺の場合、昨日のファイトで主催者にも観客にも気に入られたはずだから、打ち切りはない。いっぺん負けて落ちてからの展開があったほうがいいでしょう。本当に面白くなるのはこれからなので、まあ、見ていてくださいよ。  チンピラ上がりの格闘家、腕と度胸のタイマン行脚。そのサクセスストーリーはまだまだ続く――。 (取材・文=岡林敬太)

地下格闘技からアジア最強舞台へ──「俺は噛ませ犬」渋谷莉孔の“異例すぎる”挑戦に迫る!!

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 地下から世界へ、驚異のスピード出世である。昨年9月にパンクラスのトップランカーを破る番狂わせを演じた地下格闘技出身の渋谷莉孔(29)がなんと、今年の3月13日にマレーシアのクアラルンプールで行われるアジア最大の総合格闘技イベント『ONE Championship(旧称ONE FC)』のメインカードでタイトルマッチに挑むことが決まった。プロでの実績がほとんどない“地下格上がり”の選手がONE Championshipに出場するだけでも驚きだが、いきなりメイン、しかもタイトルマッチというのは異例の大抜擢だ。ただならぬ強運ぶりを発揮し続ける渋谷だが、今回の相手は、運だけではどうにもならない最強王者のアドリアーノ・モラエス。果たして勝機はあるのか、ないのか? 「俺は噛ませ犬」と自嘲しつつ、静かに牙を研ぐ渋谷に話を聞いた。 ――日本のトップファイター・青木真也らが主戦場とするONE Championshipに、渋谷莉孔が参戦。しかもフライ級王者のアドリアーノ・モラエスといきなりタイトルマッチを行うとの第一報を聞いたときは、失礼ながら、アゴが外れるほど驚きました。 渋谷 自分もビックリしましたよ(笑)。ウソでしょ? こんなことあるの? って。 ――昨年9月にTTF CHALLENGE02でパンクラス・スーパーフライ級1位の古賀靖隆を破ったこともビッグサプライズでしたが(記事参照)、その興奮冷めやらぬうちに、飛び級で世界デビューです。いったいどのような経緯で、ONE Championshipへの出場が決まったのでしょうか? 渋谷 スカウトですね。去年の夏、ONE Championshipの代表(ビクター・クイ)がUFCの日本大会を見るために来日し、ついでに東京や大阪のジム回りをしたらしいんですが、そのときたまたま自分の存在が目に留まったみたいです。アドリアーノが強すぎて、対戦相手がなかなか見つからなくて困っていたときに、「あ、ちょうどいい奴がいた!」みたいな(笑)。 ――ビクター・クイ代表が視察に来ていた場面を覚えていますか? 渋谷 いや、まったく。なにしろこのジム(渋谷が所属する和術彗舟會HEARTS)、見学者もジム生も外国人がめちゃくちゃ多いですから、今日も誰かしら外国人が来ているなーって感じで、それが誰なのかまではいちいち把握していませんからね。その日にオファーがあったなら記憶に残ったでしょうけど、オファーがあったのはだいぶあとだし。 ――いつオファーがあったんですか? 渋谷 最初に契約の打診が来たのは、今年の1月10日ごろです。大沢ケンジさん(和術彗舟會HEARTS代表)のところに連絡があって、大沢さんから「ONE Championshipから選手契約の話が来ているけど、どうする?」と聞かれたんで、「やります!」と即答しました。前から外国に行きたいと思っていましたから。で、そのときはまだ対戦相手が決まっていなかったんですけど、契約書にサインして渡したら、後日、日本のエージェントから「とんでもないことになりました! アドリアーノ・モラエスとメインでタイトルマッチです!」っていう電話がかかってきたんですよ。
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――そのときの心境は? 渋谷 これはヤバイことになったな……と、大沢さんと2人で5秒ぐらい固まりました。実はONE Championshipの選手の中で、コイツとだけはやりたくないなと思っていたのが、アドリアーノだったんですよ。勝てるわけがないから、さすがにこれは断ろう……と最初は思ったんですけど、これを断ると次がないんじゃないか? という話になり、「じゃあ、受けるか」と。受けた俺もすごいなと自分で思いますよ(笑)。 ――TTFのときといい、今回といい、キャリアを考えたらあり得ない大抜擢が続いています。渋谷選手は、不思議な何かを持っていますね。 渋谷 そうですね、そういう運みたいなのは昔からけっこう強いんで。人生上1枚だけ買った宝くじで10万円を当てましたし、20年間、毎年買っているおみくじも大吉しか引いたことがありません。自分でもちょっと怖いな、って思います。 ――ONE Championshipのことは、以前からよくご存知でしたか? 渋谷 よく知っていました。たぶん自分が行ける最高峰はONE Championshipで、行けるとしたら5年後くらいかな、と思っていたんですが、その時期が大幅に早まりましたね。 ――アドリアーノ・モラエスのことも以前からご存知で? 渋谷 はい、YouTubeでよく見ていました。漆谷(康宏)選手やランボー(宏輔)選手という日本の強い選手が、いずれもアドリアーノに完敗しているから、「UFC以外で、こんなに強い奴がいるんだ」と思って見ていました。 ――アドリアーノ・モラエスは、どんなファイターですか? 渋谷 動画で見る分には、打撃は遅くて大振りだなーって感じだけど、それでもよく当たるんですよね。あとは、寝技で押さえ込む際のコントロールがものすごく上手い。ガッチリ組むんじゃなく、相手を泳がせながら遊ぶように絞め上げていく。あと、ハートも強そう。打たれてもすぐに打ち返して来るし、普通なら一呼吸置きたいところなのに、そこで攻めて来るんだ? っていう場面も多い。コイツはけっこう気持ちが強いな、という印象ですね。穴も少ないです。 ――そんな強豪に渋谷選手をぶつけた、主催者の意図をどう読みますか? 渋谷 誰がどう見ても、俺は噛ませ犬でしょうね(笑)。まあでも、牙だけはしっかり作っておかないと。噛ませ犬でも、牙さえあれば、なんかあるかもしれないじゃないですか。牙がない噛ませ犬だと、ただのショーになっちゃうけど、牙や爪があれば、そのへんの子犬がライオンに勝つことだって考えられる。だから今、牙を作っているところですね。 ――戦術や練習方法についてはのちほど伺うとして、その前に、ONE Championshipと結んだ契約の内容について教えてください。 渋谷 3年契約で、6試合です。勝ったらどんどん試合数が10試合とかに増えていくみたいです。
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――ファイトマネーはどうですか? 渋谷 日本のメジャー団体の現役チャンピオンよりも多いですね。日本の中堅プロ選手のX倍ぐらいの金額からスタートして、勝つごとに倍々ゲームでファイトマネーが増えていきます。さらにONEウォリアーボーナスというのもあって、その日一番会場を盛り上げた選手に500万円のボーナスが出るらしいので、ベルトと同時にそっちも狙っていきますよ。 ――なんという厚待遇! 他の格闘家たちが、うらやましがっているんじゃないですか? 渋谷 「こんなビッグチャンスがあるんだね」「ツイてるね」「運良く、いいところに入ったね」などの声をよく聞きます。 ――運も実力のうち、と言いますけどね。 渋谷 どんなに強くても、めぐって来ない人にはチャンスはめぐって来ませんからね。 ――ビッグマネーをつかむため、是が非でも初戦をモノにしたいところでしょうが、「渋谷に勝ち目はない」との予想が多く、渋谷選手のコーチである大沢さんも「逃げるのが上手い渋谷だけど、今回ばかりは寝たら逃げられそうにない」と語っています。 渋谷 レスリングと寝技については、以前よりもディフェンス力がついたと思います。ただ、今回はさらにその上を行く相手なので、レスリングや寝技を使う場面はおそらくないと思います。もう打撃で勝負するしかない。グーで殴ってもしょうがないから、今回は「一本拳」で行こうと思っています。 ――一本拳とは? 渋谷 こうやって中指だけを突き出して、そこにパワーを一点集中させる殴り方です。自分がケガをするリスクもあるけど、当たれば相手に与えるダメージも大きい。自分の指が折れてもいいから、一本拳で行こうかなと。蹴りも普通、スネとか足の甲で蹴るけど、今回は親指だけで蹴ってやろうかなと思っています。
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一撃KOの可能性を秘めた「一本拳」。ルール上、反則ではない。
――渋谷選手はギブアップ負けの経験はありますか? 渋谷 一度もないです。 ――もし今回、絞め技で落とされそうになったり、関節技で骨を折られそうになったりしたら、どうします? 渋谷 経験がないのでわからないですけど、腕の1本や2本、惜しくはないですね。 ――今回の会場はマレーシアの首都クアラルンプールにある、プトラ・スタジアムです。慣れない外国で試合をすることへの戸惑いは? 渋谷 そういう不安を排除するために、先日、隣国のシンガポールに行って、しっかり土台を作って来ましたよ。シンガポールとマレーシアは気候や食文化が近いので、どうやってトレーニングして、どう体重を落としたらいいか、などをいろいろ調べつつ、向こうの日本人ともけっこうパイプを作ってきました。結果、自分は近々、シンガポールに移住することになると思います。シンガポールはONE Championshipの本拠地だし、3年契約だから、何度も行ったり来たりするよりも、移住しちゃったほうがいいんじゃないかと。シンガポールは法人税も安いんで、格闘技をやりながら向こうで商売を始めてもいいし。 ――アドリアーノ・モラエスはブラジル人ですが、渋谷選手はこれまで外国人と戦った経験は? 渋谷 試合では一度もないです。なので先日、シンガポールのジムでブラジル人とたくさん練習してきました。 ――本番まで1カ月を切りましたが、減量は順調ですか? 渋谷 規定の125ポンド(56.7キロ)まで、あと10キロです。ちょっと今回、減量が厳しいですね。初めて筋トレをして体を大きくしたので、体重を落とすのに苦労しています。でも筋トレしたおかげで、それまでほとんどできなかった懸垂や腕立てを、半永久的に続けられるようになりましたけどね。 ――これまで筋トレをしたことがなかったんですか? 渋谷 負けたらやろう、と思っていたんですけど、5年以上負けなかったんで、やる機会がなかったんですよ。でも今回はさすがにやらないと負けが見えているから、自主的に始めました。 ――ジムでは筋トレ以外に、どんなトレーニングを行っていますか? 渋谷 1カ月を切ったので、普通のトータルスパーリングはもうやめて、劣勢な状態からのスパーリングを中心にやっています。あえてパンチをもらったりとか、あえてバックを取られたりとか、あえて倒されてみたりとか、そういう劣勢の状態からスタートするようにしています。
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破竹の勢いの渋谷には、成長企業も注目。相手が見た瞬間にチャットや動画・写真が消えるアプリ「BUZZ POP」で知られるWEBサービス企業のGanapati社が今回、渋谷のコスチュームを一社提供することになった。渋谷は「BUZZ POP」のアフターエフェクトとしても登場。アプリ内で自分の撮った動画と渋谷を合成することもできる。渋谷にボコボコにされたい人は必見である。http://www.ganapatiplc.com
――渋谷選手は「作戦を立てて戦うタイプ」ですが、短時間での勝負と長時間の勝負、どっちをイメージしていますか? 渋谷 そのへんは決めていません。早く終わらそうとして長引いたりすると、気分的に落ちると思うんですよ。長・短両方考えつつ、ありとあらゆる劣勢から、どうひっくり返すか、というトレーニングを重ねています。 ――現在の心理状態を教えてください。 渋谷 相手のことはよく考えたら別に、そんなに怖くないかなーって感じですね。ぶっちゃけ、どこでぶっ飛ばされても同じなんで。路上のケンカでぶっ飛ばされようが、後楽園ホールでぶっ飛ばされようが、海外のでっかい舞台のメインでぶっ飛ばされようが、痛みは一緒。2~3人の前でぶっ飛ばされようが、1万人の前でぶっ飛ばされようが、恥をかくレベルもそんなに変わらないと思うんですよ。いい意味で開き直っているから、そんなに緊張はしていません。 ――もちろん、ぶっ飛ばされるのではなく、一本拳でぶっ飛ばす展開を期待していますよ。 渋谷 実は俺、引き運だけじゃなく、当て運も強いんですよ。ヘタクソなパンチがこれまでけっこう当たっているから、もしかしてもしかするかもしれませんよ。 ――楽しみにしています!  日刊サイゾーでは、当日の試合の模様を現地から速報する予定である。 (取材・文)岡林敬太 【大会告知】 イベント名/ONE Championship 大会名/Age of Champions 会期/3月13日(金)19時~(現地時間) 会場/プトラ・スタジアム(マレーシア・クアラルンプール) http://www.onefc.com/