
『道重さゆみ SAYUMI』(ZETIMA)
西暦2003年。朝青龍がモンゴル人として初となる横綱昇進を果たし、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が公開され、新語・流行語大賞に「なんでだろう~」が選ばれたこの年の1月19日、道重さゆみがモーニング娘。に加入した。あれから11年と10カ月。モーニング娘。が国民的スターだった時代も、セールス的に伸び悩んだ時代も経験した道重さゆみは、リーダーとしてグループの再ブレークを実現させ、そして未来のモーニング娘。を築くために、14年11月26日の横浜アリーナ公演でモーニング娘。’14を卒業する。
彼女の偉業を書き始めればきりがないので、ここではテレビタレントとしての道重さゆみに注目しよう。それを語る上でまず欠かせないのが、09年1月3日に放送された日本テレビ系『おとなの学力検定スペシャル小学校教科書クイズ!』だ。司会はくりぃむしちゅーの上田晋也。この番組にパネラーとして出演した道重さゆみは、当時自身の方向性に悩んでいた時期ということもあり、ここで結果を残すと心に決めて珍回答を連発、一気にバラエティ界の中心へと足を踏み込むのだった。
バラエティ番組のソロ仕事が増えるにつれ、道重さゆみはある事実に気付く。それは、一般層において、モーニング娘。の知名度は非常に低いという残酷な現実だった。「モーニング娘。」という閉じられた世界ではコンサートでもお客は集まるため、思いもよらなかったその事実を目の前にして、彼女は一つの決断をする。自分が嫌われてもいいから、とにかく今のモーニング娘。に興味を持ってもらおうという、それは明らかに茨の道。その道を、道重さゆみは自ら選んだ。
そして道重さゆみは、「私はかわいい」というアイドルとしては禁忌とも言えるナルシストキャラを開発、さらにそれを毒舌キャラへと進化させる。テレビ朝日系『ロンドンハーツ』でも脚光を浴びて完全にブレーク。この年の秋の「週刊文春」(文藝春秋)の「女が嫌いな女ランキング」で第10位に選ばれるほど、多くの視聴者から嫌われながらも、バラエティから必要とされる存在になることで、今現在のモーニング娘。の認知度を上げていった。
そのイメージの鮮烈さゆえに、テレビタレントとしての道重さゆみに対して今でもそういった印象を持っている視聴者は多いのではないだろうか? 実際、11月16日に放送された『おしゃれイズム』を見れば、それは明らかだ。くしくも『小学校教科書クイズ!』の司会であった上田晋也から「なんで辞めようと思ったの?」と問われた道重さゆみは、後輩たちが頼もしくなってきたからという理由を挙げながらも「自分も25歳っていう年にもなったし、かわいいうちに卒業したいっていうのは(ある)」「かわいいは確かに継続していくと思うんですけど、ピークは今だなって思ったんです」と回答。ここでスタジオの観客からは笑いが起こっている。これはまさに、道重さゆみのナルシストキャラが印象に残っているからこそ起こる笑いだ。
しかし、それは道重さゆみの、ほんの一時代のほんの一面にすぎない。彼女は普段から、アイドルに必要なものは「かわいさ」だと公言しており、モーニング娘。のリーダーに就任した際も「かわいいモーニング娘。にしたい」とマニフェストを掲げている。自身のかわいさについての「ピークは今だなって」という発言は、笑いを取りに行った発言ではなく、本心から彼女はそう思っている。だからこそ、人生を捧げて愛したモーニング娘。を去らなければいけないのだ。
かわいさのピークを迎えた道重さゆみは、11月26日にモーニング娘。’14を卒業する。それでは、彼女が残したものは何もないのだろうか? というと、もちろんそんなことはない。彼女は2014年5月14日に放送されたある番組で、自らが学んだ極意を公のものにしている。それはアイドルにとっての極意でもあるが、人生の半分近くをモーニング娘。のメンバーとして過ごした道重さゆみにとっては、人生の極意でもあり、また仕事の極意でもある。決して他人事ではなく、万人に共有されるべき金言なのだ。
道重さゆみがその極意を語った番組とは、テレビ金沢で放送された『となりのテレ金ちゃん 金沢駅で逢いましょう』というローカル番組である。この番組にゲストとして出演した道重さゆみは、ご当地アイドルとして活動するJumpin’のメンバーから相談を受け、アドバイスを伝えている。大きく分けて以下の3つが、彼女が後世に遺したその極意である。
【1】頭を使って努力する
Jumpin’のメンバーから「目立っていくにはどうすればいい?」と尋ねられた道重さゆみはこう答える。「相づちやリアクションなど、常にカメラに映る意識をする」と。ほかのメンバーにスポットライトが当たっているときでも、後ろで大きな動作をするなどして注意を惹くようアドバイスをして実際に自分で実践して見せるのだが、確かにカメラが注目してしまうような表情と動作を、道重さゆみはこなしてみせる。
言われてみれば当たり前の話ではあるのだが、これを意識してやれているテレビタレントはそう多いわけではなく、逆にそれを意識してやれている者だけが生き残るのがテレビというジャンルだ。当然のように、スポットライトが集まるスターという人種はそう多いわけではない。そうであるならば、生まれもってのスターでない者は常に頭を使って努力し、呼ばれた場所で最大限の結果を残す必要がある。
実際、道重さゆみは番組出演にあたって、下準備と反省を欠かさないことで知られている。天才型ではないと自覚している彼女は、出演前には事前に過去の番組をできる限り確認し、共演者の下調べもして番組に臨んでいることで知られている。また出演後には、反省点を自らノートに記すのも彼女の日課であった。才能がないなら、そのぶん努力する。彼女は常にそれを意識し、行動に移したからこそ、テレビから必要とされたのだ。
「才能なんてあると思うな じゃないと努力しないだろ」というのは、モーニング娘。’14「君の代わりは居やしない」という曲の歌詞にもあるが、それを日々こなしたからこそ道重さゆみのテレビタレントとしての成功は成し遂げられたのだといえるだろう。
【2】自分自身を操作する
まだ若いJumpin’のメンバーから「かわいさを維持するには?」と問われた道重さゆみは、「顔には自分の気持ちが出るから、常に『私はかわいい!』と言い聞かせて自分を褒めてあげる」と答えている。これは言わば、自己暗示に近い。だが、実際に道重さゆみ自身が25歳になってもいまだにかわいさをキープしている。というか、むしろかわいくなり続けている以上、この言葉は聞くに値するだろう。
道重さゆみは毎日自分の顔を鏡に映して「よし! 今日もかわいい!」と言うよう心掛けている。人が普段思っている以上に言葉というものの力は強く、その言葉によって彼女はかわいさを維持している。もちろん精神的なものもあるには違いないが、自分はかわいいと決めた人間は、その意志の力によってかわいくなることができる。これはかわいさに限ったことではなく、すべてにおいて通じる話でもあるはずだ。
大抵の仕事ができる人間というのは、できないかもしれない、という発想を持たない。自分ならできて当たり前だ、と考える。それはその瞬間には根拠のない自信かもしれないが、自分でそう思い込むことによって、自らのポテンシャルの壁を越えることが可能となる。今の自分ができるかどうかではなく、理想の自分はできて当たり前だと自分自身に信じ込ませることによって、限界を超えることが初めて可能になるのだ。
「諦めちゃ負けを認めちゃう それだけは出来ないの」というのは、モーニング娘。’14「Help me!!」という曲の歌詞にもあるが、現状の自分自身の勝ち負けなどは一旦度外視して、理想の自分の勝利を信じられるよう自分自身を操作する。それはアイドルという職業以外にも通じる極意ではないだろうか。
【3】周囲の人々に感謝する
アイドルとしての後輩であるJumpin’たちに向かって、道重さゆみは最後にこう語りかける。少し長いが、そのまま引用したい。
「アイドルをしてたらかわいい衣装を着たりとかかわいくメイクしたりとか、歌って踊って、すごい楽しいことがいっぱいあると思います。でもその分、頑張っても頑張ってもうまくいかない日とかもあると思うんですけど、いつかその頑張りが自分の身に返ってくると思って、応援してくれている人がいることを忘れずに、支えてくれている人に感謝の気持ちと、そして信じる気持ちを常に持って、これからも頑張ってください」
これが、道重さゆみからのアドバイスである。
誰しも人は一人で生きられるわけではない。頼りになる同志がいて、支えてくれるスタッフがいて、そしてともに時間を過ごしてきたファンがいる。道重さゆみはそういった人たちへの感謝の気持ちを決して忘れることなく、折を見てその感謝の言葉を口にする。だからこそ、誰もが彼女の力になりたいと願うのだ。
加入当時、歌もダンスもまるっきりヘタだった道重さゆみは、常人が想像し得るよりもはるかに大変な苦悩を経験してきている。それでも彼女はモーニング娘。への愛を常に抱き続け、それを理解しているファンの存在がいつでも彼女のそばにあった。ピンクのTシャツをまとった愛すべき者たちは、いつだって彼女を笑顔にするために必死に生きてきた。それは彼女が「ありがとう」と思ってくれるからだ。その信頼関係は、何にも換えることのできない、あまりにも素敵すぎる経験である。
「歩いてる 一人じゃないから みんながいるから」というのは、モーニング娘。「歩いてる」という曲の歌詞にもある。道重さゆみにとっても大切なこの曲は、彼女と同じくらいに、ファンにとってもまた大切な曲だ。道重さゆみとともに歩いた12年近くのその道に残った足跡は、彼女が卒業したあとも、決して消えることはないだろう。
【検証結果】
テレビ金沢『となりのテレ金ちゃん 金沢駅で逢いましょう』で、道重さゆみはご当地アイドルのJumpin’に対して、最後にこんな言葉をかけている。「さゆみも頑張りますので、お互い頑張りましょう」と。モーニング娘。’14という日本のトップアイドルグループに所属しながら、若い後輩のご当地アイドルに対して、これほどまでに同じ目線で語りかけることのできる人間はそうはいないだろう。道重さゆみの業績はあまりにも大きいが、それは一人の人間が真摯な努力によって成し遂げた奇跡である。だから彼女は卒業後も、ファンの心の中で生き続けるはずだ。生きていく中でどんな大きな困難にぶち当たったときでも、心の中には道重さゆみがいる。それを人は、救い、と呼ぶのだ。
(文=相沢直)
●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa