
インドネシア発のアクションスターとなったイコ・ウワイスとヤクザ映画を愛する英国人ギャレス・エヴァンス監督。前作に続いて、またやってくれた!
世界中でよもやの大ヒットを記録した、インドネシア発のアクション映画『ザ・レイド』(11)。主演俳優イコ・ウワイスが操るインドネシアの伝統的格闘技シラットを駆使した超絶ファイトは、トニー・ジャーやドニー・イェンらのガチンコファイトを見慣れていたアクション映画マニアの目にも強烈なインパクトを残した。新作『ザ・レイド GOKUDO』は前作で麻薬密売組織との大流血戦に命からがら生き残った捜査官ラマが、さらにハードなミッションを背負わされる続編だ。愛する妻と生まれたばかりの赤ちゃんと過ごす幸せな時間も束の間、前作で裏社会に捜査情報を流していた汚職警官をあぶり出すため、マフィアの一員となって潜入捜査せよという極秘任務が下る。しかも、潜入先のマフィアは日本人ヤクザとの仁義を守ることで街の秩序を保とうとする父親ティオと、新興マフィアと手を組んで旧勢力の一掃を企む息子ウチョとの間に不穏な空気が流れつつあった……。名作『ゴッドファーザー』(72)をアクション満載にし、さらに潜入捜査もの『インファナル・アフェア』(01)を合体させたような壮大な裏社会サーガへと大進化を遂げているのだ。アクションのみならず、捜査官とマフィアという2つの顔を演じ分けることになったイコ・ウワイス、日本のヤクザ映画が大好きというギャレス・エヴァンス監督をクロスインタビュー。撮影中に本気のどつき合いになったという裏話や日本ロケが予定されている『ザ・レイド3』の構想まで語った。
──『ザ・レイド』だけで充分すぎるほど面白かったのに、『ザ・レイド GOKUDO』は“前作は序章にすぎなかった!”という衝撃的な展開。刑務所での乱闘シーンあり、ド派手なカーチェイスあり、さらに『ゴッドファーザー』ばりの重厚なドラマも盛り込まれている。高層マンションで延々と戦っていた『ザ・レイド』が、これほどスケールの大きなシリーズものになるとは思っていませんでした。
エヴァンス サンキューサンキュー! 日刊サイゾーのインタビューを2年ぶりに受けることができて、うれしいよ。製作の内情を話すと、実は『ザ・レイド GOKUDO』の脚本のほうが『ザ・レイド』よりも先に出来ていたんだ。でも、観てもらったようにスケールが異常にデカくて、充分な資金が集まらなかったんだ。1年半の間、資金集めに奔走したけど、ダメだった。そこで発想を切り替えて、低予算で済むワンシチュエーションものの『ザ・レイド』を先に作ったというわけさ。『ザ・レイド』が各国でヒットしたお陰で製作費も集まり、さらに『ザ・レイド』が序章となる壮大なサーガものに膨らんだんだよ。これって、すごくラッキーなことだよね(笑)。
──エヴァンス監督、相変わらずイギリス人と思えないほど陽気だなぁ。よほどインドネシアでの暮らしが合っているみたいですね。『ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳』(09)、『ザ・レイド』に続いて、エヴァンス監督とタッグを組んだイコさん、毎回のように超ハードなアクションに挑んでいるけど、怪我はしていない?
イコ 僕はまったく大丈夫! まぁ、スタントの仲間たちもそれほど深刻な怪我はしていないよ。
──日本とインドネシアでは怪我の基準が違うような気もしますが……。撮影は7カ月間も続いたそうですが、連日のように格闘シーンの撮影が続いて嫌になりません?
エヴァンス あっ、それはあるな。アクションシーンの準備を待っている間、ずっ~と椅子に座っているんだけど、座り続けているとケツが痛くなってくる。映画監督って、ケツが痛くなる職業だよ(笑)。
イコ 僕は楽しくて仕方なかった。だって、毎日のように相手を思いっきりブン殴ることができたからね。いやいや、これはジョーク(笑)。撮影期間中は、「自分はマシンだ」と思い込むようにしていたんだ。自動車のエンジンを温めておくのと同じで、身体を温めておくとスムーズに動くことができる。だから、アクションシーンはなるべくノンストップで撮影が続いているほうが、いいパフォーマンスを発揮できるんだ。一度撮影がストップした場合は、本番前に共演者に思いっきり蹴りを入れてもらうようにしているよ。そうすれば、自分の身体にまたアドレナリンが湧いてきて、「お~し、行くぞっ!」となるからね。
──なるほど、イコさんはアクション映画を作るための超精密機械なんですね。
イコ まぁ、そういうことだね(照笑)。格闘シーンをやる際は、相手に気を遣うよ。撮影前はなるべく親切に接するんだ。それで「本番中にパンチが入るかもしれない。でも、ほんのちょっぴり擦るだけだからね」って事前に伝えておく。それで本番では「ボンッ!」ってマジで決めちゃうわけだけどね(笑)。カメラアングルによっては、どうしてもフルコンタクトしなくちゃいけないときもあるんだ。決して、相手のことが憎くて殴っているんじゃない。もちろん、顔面を殴るときはとても注意するよ。怪我しやすいし、アザになると、撮り直しができなくなるからね。
エヴァンス 運転手役のキャストと撮影中に本気の殴り合いになったよね? あのときは僕が2人の間に入ったけど、真相はどうだったんだい?
イコ あれはね~、エヴァンス、君が原因なんだぞ。彼は温厚ですごくいいヤツだったんだ。それで一発でOKにしようと思って、ガチンコで当てにいったんだ。いいパンチをもらって、彼は「うっ」となったけど、そのときは我慢してくれた。そうしたら、エヴァンスが「よし! じゃあ、もう1テイク!」って言うじゃないか。それで彼はブチ切れて、2テイク目のときに殴り返してきたんだ(苦笑)。
──『ザ・レイド』シリーズの撮影現場は、アドレナリン大噴出で大変ですね。
エヴァンス なるべくなら、みんながアドレナリン沸騰状態のところを撮りたいよね。本気でやることでリアルなシーンが撮れるわけだけど、あまりやり過ぎて、限界値を越えてしまうと怪我人が出てしまう。どの時点でストップさせるかの見極めは、監督として重要だったよ。でも基本的に男性キャストはみんな格闘技経験者たち。多少ガチで当たっても平気な人たちなんだ。自分が弱っちいと思われたくないという心理が働くみたいで、大変なスタントをやった後も「アハハ! 全然平気だぜ~!!」ってみんな高笑いしてみせるんだ。それで僕は「本当に大丈夫?」ってひとりずつ確認して、「じゃあ、もう1テイク」って言うわけさ。
イコ エヴァンスは「大丈夫?」って気を遣うふりをするのが、すご~くうまい監督だよ(笑)。
アクション映画の撮影はオーケストラみたいなもの

前作を生き延びた若手捜査官ラマ(イコ・ウワイス)はマフィアと接触するために刑務所送りに。獄中をサバイバルするだけで至難の技だった。
──前作から一転して、多彩なシチュエーションでのアクションを取り入れていますが、いちばん大変だったのは?
エヴァンス 技術的な面で大変だったのは、後半のカーチェイスシーン。香港からカースタントの第一人者であるブルース・ローが自分のスタントチームを引き連れて参加してくれたんだ。インドネシアでここまで本格的なカーチェイスの撮影は初めて。ジャカルタ市街地の公道を完全封鎖して撮影したんで、通行止めをくらった車や通行人たちからの罵声がスゴかった。お陰でカーチェイスシーンの撮影が終わった後は、インドネシア語でどんなに罵られてもすっかり平気になっていたよ(笑)。刑務所の中庭での雨中の乱闘シーンも大変だったな。脚本を書いたときは「これは超かっこいいシーンになるぞ」と小躍りしたんだ。オランダ植民地時代の軍の古い宿舎を見つけて撮影したんだけど、雨降らしをしながらの撮影はキャスト全員が泥だらけで誰が誰だか分からないし、足を滑らせて倒れるキャストやスタッフが続出するし、せっかく撮れたと思ったら、カメラのレンズに泥がはねてしまい、もうお手上げ状態さ(笑)。1シーンの撮影のために準備に1週間、撮影に1週間も掛かったよ。
イコ 僕はこれまでシラットの大会に数多く出場してきたけど、映画の撮影はまったくの別物だね。いろんなシチュエーションのスタントに挑戦することを楽しむようにしているんだ。僕にはジャッキー・チェンみたいな専属のスタントチームがあるわけじゃないけど、エヴァンスが立ち上げた「メランタウ・フィルムズ」には前作でマッドドッグ役を、そして今回も別の殺し屋役で出演しているヤヤン・ルヒアンといったシラット経験者が多いので、普段からどうすればアクションがカメラにより映えるかアイデアを出し合ったり、練習したりしているんだ。

アクションシーンの殺陣も担当するイコ。「カメラアングルによってはガチで当てることもあるよ。顔面は怪我しやすいから気を遣うけどね」と話す。
エヴァンス 僕らは、いわばオーケストラの楽団みたいなもの。スタッフとキャストがぴったり息を合わせることで、最高のシーンが撮れるんだ。例えば銃撃戦のシーンで、着弾の場面があるとする。1つや2つは撃たれる役のキャストが倒れながらコンドームに詰め込んだ血糊が飛び出すように自分で紐を引っ張るわけなんだけど、3つ以上になると手が足りない。そんなときは特殊メイクの担当者が現場に付いて、ワンツースリーのタイミングで血糊の紐を引っ張るんだ。昔からあるアナログなやり方だけど、1カットや1シーンを撮るために、キャストだけでなく、カメラマンも他のスタッフも全員が集中して臨むことがとても大事なんだ。アクション映画を撮る上でいちばん大切なことは、キャスト同士、そしてキャストとスタッフが信頼し合うことだね。
イコ それは同感だな。本気で殴り合っているように見えるかもしれないけど、シラットの試合のときとはかなり違う。実戦の場合は相手に対して最短距離でコンタクトするけど、撮影の場合は大きく振りかぶって間を少し置いてパンチを繰り出すんだ。そうすることでガチンコで当てなくても、観る人に痛みの伝わるファイトシーンに映るからね。ちょっと、やってみようか? こうやって、大きくテイクバックして、バチーンッとね(エヴァンス監督のボディにパンチを浴びせる)。
エヴァンス おいおい、充分に痛いよッ。
イコ アハハ、彼みたいにやられる側のリアクションがうまいと、よりいい格闘シーンになるってわけさ(笑)。
エヴァンス監督の頭の中で『ザ・レイド3』は着々と進行中!

前作のマッドドッグ役で憤死したはずのヤヤン・ルヒアンがしれっと再登場。『仁義なき戦い』シリーズの松方弘樹や梅宮辰夫へのオマージュか?
──後半はハンマーガール、ベースボール・バットマンといったユニークな殺し屋たちが登場。三池崇史監督の『殺し屋1』(01)やタランティーノ監督の『キル・ビル』(03)を彷彿させますが、元ネタがあるんですか?
エヴァンス ハンマーガールは今回どうしても登場させたいキャラクターだった。出番はそう多くないけど、インパクトあるよね? ウォン・カーウェイ監督の『恋する惑星』(94)のポスタービジュアルが元ネタなんだ。サングラスをした女性がすごくクールで印象に残っていたんで、彼女をモデルにして考えたんだ。もちろん、『殺し屋1』も僕は大好き。ハンマーガールがスマホの画面でターゲットを確認する場面は、殺し屋1がテレビモニターを見てからヤクザたちを襲撃するシーンを意識したものだよ。
イコ ハンマーガール役のジュリー・エステルはオーディションを受けて、今回の役を掴んだんだ。彼女は格闘技の経験はなかったけど、6カ月間のトレーニングを経て、ハンマーガール役を自分のものにしたんだよ。僕はアクションシーンの振り付けも担当していたんだけど、トレーニング中の彼女のやる気はスゴかった。セットに入ったら、もう完璧に振り付け通りに動いてみせたからね。
エヴァンス イコの言う通り、彼女の動きは完璧だった。1テイクで済むことが多かった。イコは何テイクか撮ることで良くなっていくタイプだけど、ジュリーは1テイクで完璧に仕上げる。ある意味、イコ以上に才能があるよ(笑)。

GOGO夕張に匹敵するインパクトを放つハンマーガール。『マカブル 永遠の血族』(09)のジュリー・エステルが6カ月に及ぶ特訓の成果を発揮。
──イコさんやヤヤン・ルヒアンは前作同様に壮絶なファイトシーンを披露していますが、逆にエヴァンス監督が予定している『ザ・レイド3』でイコさんたちと互角に渡り合えるアクション俳優が果たして日本にいるのか心配です。千葉真一や倉田保昭らが活躍していた時代と違って、今の日本にはガチなファイトシーンをやれる俳優は少ないように思います。
エヴァンス 僕はね、その心配は全然していないよ! 今回は松田龍平さん、遠藤憲一さん、北村一輝さんに日本人ヤクザ役で出演してもらったわけだけど、これは決して話題づくりのためのカメオ出演じゃないんだ。『ザ・レイド』が『ザ・レイド GOKUDO』の序章になったように、『ザ・レイド GOKUDO』は『ザ・レイド3』の序章でもあるんだ。『ザ・レイド3』はますますスケールの大きな物語になるはず。日本でも大々的にロケをしたいと考えているし、日本には下村勇二という優れたアクション監督がいるって聞いている。彼は倉田保昭さんの直弟子なんだろ? それに坂口拓、武田梨奈といった素晴しいファイターたちが日本にはいるじゃないか。きっと、まだまだスゴいヤツらがいるんじゃないかな。『ザ・レイド3』は必ず作るから、楽しみにして欲しいな。腕自慢の日本人ファイターたちが『ザ・レイド3』の撮影に集まってくれることを期待しているよ。
イコ 日本で大暴れできる日が楽しみだな。『ザ・レイド3』を盛り上げるためにも、日本のみなさん、『ザ・レイド GOKUDO』をぜひ楽しんでください。
(取材・構成=長野辰次)

『ザ・レイド GOKUDO』
監督/ギャレス・
エヴァンス 出演/イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン、アリフィン・プトラ、オカ・アンタラ、ティオ・パクサデウォ、ジュリー・エステル、松田龍平、遠藤憲一、北村一輝 R15+ 配給/KADOKAWA 11月22日(土)より新宿ミラノ、丸の内TOEI、渋谷TOEIほか全国ロードショー
※11月21日(金)は「さよなら新宿ミラノ『ザ・レイド』祭」を新宿ミラノ2で開催。トークゲストとして女優の武田梨奈、松江哲明監督が来場し、『ザ・レイド GOKUDO』のR18+ディレクターズカット版を特別上映。
(c)2013 PT Merantau Films
http://theraid-gokudo.jp
●イコ・ウワイス
1983年ジャカルタ生まれ。5歳からプンチャック・シラットを習い、2005年にはプンチャック・シラット・フェスティバルで最優秀独演賞を受賞。ギャレス・エヴァンス監督作『ザ・タイガーキッド 旅立ちの鉄拳』(09)で主演と振り付けを担当。続く『ザ・レイド』(11)が全米など各国で大ヒットし、国際的アクションスターとなった。
●ギャレス・エヴァンス
イギリス・ウェールズ出身。グラモーガン大学院在籍中に、処刑を待つ侍を主人公にした日本語による短編映画『Samuai Monogatari』(03)を監督。2007年にインドネシアの伝統的格闘技プンチャック・シラットをテーマにしたドキュメンタリー番組『The Mystic Arts of Indonesia:Pencak Silat』を監督。その取材中に、イコ・ウワイスやヤヤン・ルヒアンらと出会う。2008年に「メランタウ・フィルムズ」を設立し、インドネシアを拠点に『ザ・レイド』をはじめとするアクション快作を次々と手掛けている。